腓骨神経麻痺(下垂足)の後遺障害|等級・装具・就労への影響 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

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腓骨神経麻痺(下垂足)の後遺障害|等級・装具・就労への影響

交通事故のあと、足首とつま先が持ち上がらず、歩くときにつま先が引っかかる、階段でつまずく、そんな症状が続いていませんか。医師から「腓骨神経麻痺」「下垂足」と説明され、短下肢装具(AFO)を使っている方も少なくありません。装具を着ければ歩けるけれど、後遺障害として評価されるのか、いまの仕事を続けられるのか、示談の前に何を確認すればよいのか。判断材料が見えないまま、症状固定や示談の話が進んでしまうことがあります。

この記事では、症状と検査の意味、自賠責保険での後遺障害の評価経路、短下肢装具(AFO)の位置づけ、歩行や仕事への影響、逸失利益と装具費に必要な資料を、法令と公的な認定基準に基づいて整理します。結論を先にお伝えすると、下垂足という診断名だけで等級が決まることはありません。どの神経がどの程度障害され、足関節と足指の動きがどれだけ残っているかを、資料で示していく作業が必要になります。

症状固定の打診を受けたとき、後遺障害の申請前、示談に応じる前は、診療記録、検査結果、装具の書類、勤務先の資料を一度整理しておくと、確認すべき点が具体的になります。資料を確認したうえで、法的な見通しを検討することができます。

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結論|腓骨神経麻痺で最初に確認すること

腓骨神経麻痺による下垂足が残った場合、後遺障害の検討は次の順序で進めるのが実務的です。診断名から等級を逆算するのではなく、障害された神経と、残っている機能を確認していく順序になります。

確認の順序 確認する内容 主な資料
1 医学的な診断 障害された神経と損傷部位、事故との時間的な連続性 初診時からの診療録、紹介状、画像と読影報告書、手術記録
2 運動障害の程度 足関節の自動運動と他動運動の差、足指の動き、筋力、筋萎縮 関節可動域(ROM)の測定記録、徒手筋力検査(MMT)、下腿周径
3 神経学的な裏づけ 感覚障害の範囲、電気生理学的検査の結果 神経伝導検査(NCS)、筋電図検査(EMG)の報告書
4 評価経路の整理 足関節の機能障害、足指の機能障害、神経症状のいずれ(又は複数)として検討するか 後遺障害診断書、上記1から3の資料
5 装具の位置づけ 装具の要否、処方の内容、実際の使用状況、費用 装具の処方に関する書類、適合の記録、見積書、領収書
6 就労への影響 作業ごとの具体的な支障、勤務先の配慮、収入の変化 雇用契約書、職務記述書、勤怠記録、給与資料、産業医の意見

先に押さえておきたい三点

  • 下垂足は症状の名前であり、それ自体が特定の等級に結びつくものではありません。
  • 末梢神経の麻痺は、原則として、その神経が支配する器官(ここでは足関節と足指)の機能障害として評価されます。
  • 関節可動域は原則として他動運動で測定されますが、他動運動の測定値を用いることが適切でない場合には、自動運動の測定値を参考とする取扱いがあります。

腓骨神経麻痺と下垂足は同じ意味ではありません

どこがどう障害されるのか

日本整形外科学会の解説によれば、腓骨神経は膝の外側にある腓骨頭の後方を走行し、神経の移動性が乏しく、骨と皮膚・皮下組織の間に位置するため、外部からの圧迫によって麻痺が生じやすいとされています。麻痺が生じると、下腿の外側から足の甲、第5趾を除いた足指の背側にかけて感覚が障害され、足首と足指を持ち上げられない下垂足やしびれ感が現れるとされています。原因としては膝の外側の圧迫が最も多く、寝ているときの持続的な圧迫やギプス固定時の腓骨頭の圧迫のほか、腫瘍、損傷、骨折なども挙げられ、診断ではティネル徴候、筋電図検査、X線検査、MRI検査、超音波検査が用いられて、腰椎椎間板ヘルニアとの鑑別が必要とされています。

下垂足は症状であって病名ではありません

下垂足は「足首とつま先が上がらない」という状態を指す言葉です。同じ下垂足でも、総腓骨神経の障害か、その分枝である深腓骨神経の障害か、坐骨神経や腰仙骨神経叢、第5腰椎神経根の障害かによって、感覚障害の範囲も、足関節の底屈や内がえし・外がえしがどこまで残っているかも異なります。

この違いは、後遺障害の評価経路に直結します。総腓骨神経の麻痺であっても、下腿三頭筋が働けば足関節の底屈は保たれることがあり、その場合、足関節の可動域が全体として失われているわけではありません。「背屈できない=足関節の用を廃した」と一律に扱うことはできない、ということです。

事故との因果関係は別に検討します

腓骨神経麻痺は、事故による神経の直接損傷のほか、骨折や脱臼、牽引、ギプスや体位による圧迫など、さまざまな経緯で生じ得ます。糖尿病性の神経障害、著しい体重減少、習慣的な圧迫といった事故以外の原因が問題になることもあります。これらは患者の落ち度を問うためのものではなく、診療記録と検査で鑑別していく事項です。治療の過程で生じた可能性がある場合には、交通事故との因果関係と責任の所在について別途の検討が必要になります。経過の資料を確認したうえで判断する必要があります。

急に足が上がらなくなった、転倒が増えた、強い痛みや腫れ、足先の冷感や色調の変化があるといった場合は、法律上の評価より先に、医療機関にご相談ください。この記事は法律上の整理を目的とするもので、診断や治療方針を示すものではありません。

神経麻痺による運動障害をどう確認するか

認定基準は、可動域制限の「原因」を問題にします

厚生労働省の「脊柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(平成16年6月4日基発第0604003号)は、関節可動域の測定について、測定を行う前にその障害の原因を明らかにしておく必要があるとし、関節角度の制限の原因を、器質的変化によるものと機能的変化によるものに大別しています。骨折や靱帯損傷、関節の拘縮による可動域制限は器質的変化です。これに対し、腓骨神経麻痺による下垂足は、足関節そのものが壊れているのではなく、動かすための神経が働かないことによる機能的変化です。「なぜ動かないのか」を診療記録と検査で説明できているかが、出発点になります。

自動運動と他動運動の違いが重要になる理由

関節の動きには、自分の筋力で動かす自動運動と、他人が外から動かす他動運動があります。器質的変化による可動域制限では、他動運動でも動かせなくなります。これに対し、神経麻痺による下垂足では、他人が足首を持ち上げれば動くのに、自分では持ち上げられない、という状態が生じます。

前記の認定基準は、関節可動域について、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」に従い、原則として他動運動による測定値によることとしつつ、他動運動による測定値を採用することが適切でないものについては、自動運動による測定値を参考として障害の認定を行う必要がある、としています。

この取扱いは、末梢神経麻痺の事案では特に重要です。他動運動の数値だけが後遺障害診断書に記載されていると、実際の障害が数値に表れないことがあり得ます。自動運動と他動運動の両方が測定され、記録されているかを確認してください。

主な検査・記録と、それぞれで分かること

どの検査も、すべての事案で必須というわけではなく、単独で結論を決めるものでもありません。検査の必要性と実施時期は、医師が医学的所見に基づいて判断します。

資料・検査 主に分かること 留意点
関節可動域(ROM) 足関節の背屈・底屈の範囲、自動運動と他動運動の差 原則は他動運動。他動値の採用が適切でない場合に自動値を参考とする取扱いがあります
徒手筋力検査(MMT) 前脛骨筋、長母趾伸筋、長趾伸筋などの筋力 検者の判断が入るため、経過を通じた記録と他の所見との整合が問われます
足指の運動 足指の背屈・屈曲の可否と程度 「用を廃した」といえるかは後述の定義によります
感覚障害の範囲 障害されている神経の推定 感覚の範囲だけで運動障害の程度は決まりません
ティネル徴候 神経が刺激されている部位の手がかり これだけで損傷部位や因果関係が確定するものではありません
筋萎縮・下腿周径 麻痺が持続していることの客観的な手がかり 測定の条件によって差が生じます
神経伝導検査(NCS)・筋電図検査(EMG) 神経と筋の電気生理学的な異常 受傷直後は変化が現れないことがあり、実施時期は医師が判断します
X線、CT、MRI、超音波 骨折、圧迫、腫瘤などの有無 画像に異常がないことで神経麻痺が否定されるわけではありません
手術・看護・リハビリ記録 経過、歩容、装具の使用、転倒の有無 事故直後からの症状の連続性を示す資料になります

画像に写らない障害をどう示すかという問題は、腓骨神経麻痺に限りません。画像所見と神経学的検査の役割の違いについては、画像所見と神経学的検査の役割の違いを確認するもあわせてご覧ください。骨折による器質的な可動域制限が問題になる事案は、足関節骨折による機能障害との違いを確認するで扱っています。

想定される後遺障害の評価経路

末梢神経麻痺は「支配する器官の機能障害」として評価するのが原則

厚生労働省の「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」(平成15年8月8日基発第0808002号)は、末梢神経麻痺に係る等級の認定について、原則として、損傷を受けた神経の支配する身体各部の器官における機能障害に係る等級により認定することとしています。

腓骨神経麻痺による下垂足の場合、支配される器官は足関節と足指です。したがって、下垂足そのものに固有の等級があるのではなく、足関節の機能障害、足指の機能障害、又は神経症状として、それぞれの基準に当てはめて検討していくことになります。

足関節の機能障害として検討する場合

自賠責保険の後遺障害等級は、自動車損害賠償保障法施行令の別表第二に定められています。足関節に関係する等級は次の三つです。

等級・号 別表第二の文言 認定基準上の目安
第8級第7号 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの 強直したもの、完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの、人工関節等を挿入置換して可動域が健側の2分の1以下となったもの、のいずれか
第10級第11号 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの 可動域が健側の2分の1以下
第12級第7号 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの 可動域が健側の4分の3以下

基発第0604003号は、「関節の用を廃したもの」を、関節が強直したもの、関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの、人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち可動域が健側の2分の1以下に制限されているもののいずれかとしています。このうち完全弛緩性麻痺の「これに近い状態」とは、他動では可動するものの、自動運動では関節の可動域が健側の可動域角度の10パーセント程度以下となったものをいい、「10パーセント程度」は、健側の可動域角度の10パーセントに相当する角度を5度単位で切り上げた角度とされています。人工関節を挿入置換した場合の取扱いについては、人工関節と後遺障害等級の考え方を確認するをご覧ください。

比較の方法にも定めがあります。認定基準は、「関節の機能障害の認定に際しては、障害を残す関節の可動域を測定し、原則として健側の可動域角度と比較することにより、関節可動域の制限の程度を評価するものであること。ただし、せき柱や健側となるべき関節にも障害を残す場合等にあっては、測定要領に定める参考可動域角度との比較により関節可動域の制限の程度を評価すること。」としています。反対側の足にも障害がある場合や両側性の障害がある場合には、単純な左右比較ができないということです。足関節の参考可動域角度は、屈曲(底屈)45度、伸展(背屈)20度とされています。また、足関節の主要運動は屈曲・伸展であり、足関節には参考運動の定めがありません。股関節のように参考運動で補って評価することはできません。

背屈だけができない場合に生じる評価上の問題

ここが、下垂足の事案でもっとも誤解が生じやすい部分です。足関節の可動域は屈曲(底屈)と伸展(背屈)で評価されますが、腓骨神経麻痺では背屈ができなくなる一方、底屈は保たれていることがあります。この場合、足関節の可動域は底屈が残る分だけ確保されるため、可動域の比率だけを見ると、上位の等級の要件を満たしにくいことがあります。「まったく足首が上がらないのに、可動域では等級に届かない」という結果が起こり得るのは、このためです。さらに、腓骨神経の障害では外がえしの力が落ちることがありますが、内がえし・外がえしは足関節の主要運動にも参考運動にも含まれないため、可動域の評価には反映されません。

そのため、下垂足の事案では、可動域だけでなく、足指の機能障害としての評価、神経症状としての評価、そして自動運動による測定値の取扱いが、実際上の争点になりやすい面があります。どの経路で評価されるかは実際の測定値と所見によりますので、資料を確認したうえで判断する必要があります。

足指の機能障害として検討する場合

等級・号 別表第二の文言
第9級第15号 一足の足指の全部の用を廃したもの
第11級第9号 一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの
第12級第12号 一足の第一の足指又は他の四の足指の用を廃したもの
第13級第10号 一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの
第14級第8号 一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの

「足指の用を廃したもの」の意味は、別表第二の備考五が定めています。第一の足指は末節骨の半分以上、その他の足指は遠位指節間関節以上を失ったもの、又は中足指節関節若しくは近位指節間関節(第一の足指にあっては指節間関節)に著しい運動障害を残すものです。そして認定基準は、この「著しい運動障害」を、可動域が健側の2分の1以下に制限されるものとしています。

足指を伸ばしにくいというだけで、直ちに「用を廃した」と評価されるわけではありません。屈曲を含めた可動域が、健側と比べてどの程度制限されているかが問われます。足指の動きが、指ごとに、屈曲と伸展を分けて記録されているかを確認してください。

神経症状として検討する場合

等級・号 別表第二の文言
第7級第4号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
第9級第10号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
第12級第13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
第14級第9号 局部に神経症状を残すもの

痛みやしびれについて、基発第0808002号は、通常の労務に服することはできるが時には強度の疼痛のためある程度差し支えがあるものを第12級に、通常の労務に服することはできるが受傷部位にほとんど常時疼痛を残すものを第14級に位置づけています。また、疼痛以外の異常感覚(しびれなど)については、その範囲が広いものに限り第14級に認定するものとしています。足の甲のしびれがあるというだけで当然に等級が認められるわけではない、ということです。

ここで注意が必要なのは、労災保険の障害等級表と自賠責保険の別表第二は、等級の区分がおおむね対応している一方で、号数が一致しない項目があるという点です。疼痛等の神経症状について、労災の認定基準は第12級の12、第14級の9と表記していますが、自賠責の別表第二では第12級第13号、第14級第9号です。古い資料や労災の号数をそのまま自賠責の号数として引用しないよう、確認が必要です。労災保険と自賠責保険の関係そのものは、労災と自賠責の給付調整と第三者行為災害届を確認するで扱っています。

なお、痛みやしびれといった神経症状と、可動域の制限という機能障害は、別々の評価軸です。この区別の考え方は、神経症状と可動域制限を分けて考える整理を確認するもご参照ください。

複数の障害が残っている場合、既に障害があった場合

足関節の機能障害、足指の機能障害、感覚障害やしびれが同時に問題になることがあります。複数の後遺障害が残った場合の保険金額は、自動車損害賠償保障法施行令第二条第一項第三号が定めており、実務でいう「併合」はこの規定に対応します。

残った後遺障害 保険金額の基礎となる等級(施行令第二条第一項第三号)
第5級以上が二以上 重い後遺障害の等級の三級上位の等級
第8級以上が二以上 重い後遺障害の等級の二級上位の等級
第13級以上が二以上 重い後遺障害の等級の一級上位の等級(それぞれの等級の金額を合算した額を超えるときは、その合算額)
上記以外で二以上 重い後遺障害の等級のまま

この四つの区分は、上から順に、前の区分に当たらない場合に次を適用する形で定められています。もっとも、同じ神経の損傷から生じた複数の症状を、それぞれ独立した後遺障害として数えられるとは限りません。障害の系列や派生関係によって取扱いが変わるためです。また、別表第二の備考六は、各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であって各等級の後遺障害に相当するものは当該等級の後遺障害とすると定めており、実務でいう「準用」はこの規定によります。詳しくは併合・加重・準用の違いと確認手順を見るをご覧ください。

事故の前から同じ部位に障害があった方については、別の規定があります。施行令第二条第二項は、既に後遺障害のある者が傷害を受けたことによって同一部位について後遺障害の程度を加重した場合、加重後の等級に応ずる金額から、既にあった後遺障害の等級に応ずる金額を控除するとしています。既往の障害がある場合は、その内容と程度を示す資料も必要になります。

装具と等級の混同に注意してください。認定基準には、下肢の動揺関節について、常に硬性補装具を必要とするものは第8級に準ずる関節の機能障害として、時々硬性補装具を必要とするものは第10級に準ずるものとして、重激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としないものは第12級に準ずるものとして取り扱う、という定めがあります。これは、膝関節などの動揺(不安定性)を固定するための硬性補装具に関する取扱いです。下垂足に対して用いられる短下肢装具(AFO)は、関節の不安定性を固定するためのものではなく、この取扱いの対象とは目的も評価の枠組みも異なります。装具を常用しているという事実だけで、足関節の用廃や著しい機能障害に当たると評価されるものではありません。

診療記録、可動域と筋力の測定値、神経伝導検査や筋電図検査の報告書、装具の書類、勤務先の資料は、時間が経つと集め直すことが難しくなる場合があります。手元にある資料を整理したうえで、どの評価経路が問題になるのか、何が不足しているのかを検討することができます。

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申請前に整理したい医学資料

後遺障害の申請では、後遺障害診断書だけでなく、そこに至る経過の資料が重要になります。次の資料が手元にあるか、確認してみてください。

  • 交通事故証明書、事故状況が分かる資料
  • 初診時を含む診療録、紹介状、画像と読影報告書
  • 神経伝導検査(NCS)・筋電図検査(EMG)の報告書と、入手できる場合は原データ
  • 関節可動域(ROM)の測定記録(自動運動と他動運動の双方)
  • 徒手筋力検査(MMT)の記録(足関節背屈、足指の伸展など、筋ごとの記載)
  • 足指の可動域の記録(指ごとに、屈曲と伸展を分けたもの)
  • 感覚障害の範囲、筋萎縮、下腿周径の記録
  • 歩容、歩行距離、転倒の有無に関するリハビリ記録
  • 手術記録、ギプス・シーネ・体位に関する記録、看護記録
  • 装具の処方に関する書類、仕様、適合の記録、後遺障害診断書

後遺障害診断書には、病名だけでなく、損傷した神経と部位、原因、自動運動と他動運動の可動域、筋ごとの筋力、感覚障害の範囲、筋萎縮、歩容、装具の使用状況、検査結果、予後の見込みなどが、事案に応じて問題になります。医師に特定の結論を書いてもらうよう求めるのではなく、症状、経過、検査結果、装具の使用、生活と就労上の支障を正確に伝え、診療記録との整合を確認する、という進め方が適切です。診断書全般の確認事項は後遺障害診断書の作成前に確認したい資料を見るにまとめています。

症状固定の時期も、受傷から6か月が経過すれば自動的に症状固定になるというものではありません。日本整形外科学会は、腓骨神経麻痺について、3か月経過を観察しても回復がみられない場合や症状が進行する場合には手術が検討されるとしています。手術が検討されている段階で症状固定として扱ってよいかは、慎重な判断が必要です。神経の回復の推移、検査の結果、リハビリの経過、予定されている手術の有無を踏まえ、医師と確認してください。症状固定を打診されたときの確認事項を見るもあわせてご覧ください。

短下肢装具(AFO)と将来の装具費

装具は等級を直接決めるものではありません

国立障害者リハビリテーションセンターの解説では、装具は、四肢・体幹の機能障害の軽減を目的として体表に装着し、機能を補助する器具とされ、患部の保護、回復の補助、変形の防止、運動の補助などを目的として使用されるとされています。下垂足では、主治医の判断により短下肢装具(AFO)が処方されることがあります。装具の要否、種類、処方及び適合は医師が医学的に判断する事項であり、この記事は特定の装具を推奨するものではありません。

装具の使用状況は、症状の程度、歩行能力、転倒のリスク、生活と就労上の支障を示す資料の一つにはなります。しかし、装具を着けて歩けることは、装具を外したときの神経機能の障害が消えたことを意味しません。逆に、常用しているという事実だけで上位の等級に該当すると評価されるものでもありません。

治療用装具と、症状固定後の装具は分けて考えます

治療の過程で作製する治療用装具については、厚生労働省保険局医療課の事務連絡「治療用装具に係る療養費の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について」(令和5年3月17日)が、保険医が疾病又は負傷の治療上必要であると認めて患者に治療用装具を装着させた場合の取扱いを示しています。同資料では、保険医の指示により製作され、義肢装具士が采型・采寸及び適合調整を行い、保険医が装着確認を行うこと、医師が治療用装具製作指示装着証明書に傷病名及び症状等を記載すること、領収書に料金明細、オーダーメイド又は既製品の別、取り扱った義肢装具士の氏名が記載されることなどが挙げられています。これらの書類は、後から装具の必要性と実費を示す資料になりますので、保管しておいてください。

これに対し、症状固定後に日常生活や就労のために使用する装具は、障害者総合支援法に基づく補装具費支給制度など、別の枠組みが関係することがあります。健康保険の療養費、労災保険、福祉制度の給付と、民事上の損害賠償として請求する装具費は、それぞれ制度が異なります。公的給付を受けた場合の損益相殺の可否も一律には決まっておらず、給付の法的性質と対象となる損害の範囲を確認する必要があります。

将来の装具費を検討するときに確認する事項

  • 装具の必要性についての医師の見解
  • 装具の処方に関する書類、仕様、適合の記録
  • 見積書、領収書、実際に負担した金額
  • 現実の使用頻度と使用場面(通勤、勤務中、屋外歩行など)
  • 交換・修理の履歴と、その事案に固有の消耗の事情
  • 将来の使用見込みと、見込まれる使用期間
  • 公的給付、健康保険、労災保険、福祉制度との関係
  • 将来の費用を現在価値に引き直す場合の中間利息の取扱い

なお、福祉制度上の基準額や耐用年数は、その制度の枠内で定められたものです。これを民事上の賠償における単価、交換の周期、認容される期間としてそのまま用いることはできません。裏づけのない一般的な金額や年数を前提に交渉を進めると、あとから修正が難しくなることがあります。将来の交換費用の考え方は、義肢・装具の将来交換費用の考え方を確認するもご参照ください。

歩行・生活・就労への影響は「作業単位」で整理します

職種名ではなく、具体的な作業で示します

「立ち仕事だから支障が大きい」「デスクワークだから支障がない」という整理では、実際の不利益が伝わりません。どの作業のどの局面で、どのような支障が生じているのかを、資料とともに示すことが必要です。

場面 生じやすい支障 記録・資料の例
長時間の立位・歩行 疲労、痛み、歩行速度の低下、休憩の必要 シフト表、業務日報、産業医の意見
階段、段差、不整地 つまずき、バランスの崩れ、転倒 作業手順書、安全管理上の記録
はしご、足場、高所 就業制限、担当業務からの除外 就業規則、安全衛生上の指示
荷物運搬、介助 荷重時のバランス低下、動作の制限 職務記述書、作業内容の資料
急な方向転換、巡回、緊急対応 動作の遅れ、対応できる業務の減少 業務分担の変更記録、補助の記録
通勤、出張、現場訪問 移動手段や経路の変更、所要時間の増加 通勤経路変更の届出、交通費の精算
車両の乗降、ペダル操作 個別に医学的な確認を要する 主治医の意見、勤務先の安全管理

運転については個別の確認が必要です

運転への影響は、障害が左右どちらの足か、車種、オートマチックかマニュアルか、どの操作が必要か、装具を装着した状態か、医師の指示があるかなどによって異なります。この記事は、個別の運転の可否や安全性を判定するものではありません。「下垂足なら運転できない」とも「問題なく運転できる」とも言えません。主治医の医学的な意見、勤務先の安全管理、免許や保険契約の条件を、それぞれ確認する必要があります。

証拠を作るために、装具を外して歩いてみる、階段や不整地を試す、転倒しやすい状況を再現する、公道で運転して確かめるといった行為は、けがや事故につながるおそれがあります。装具装着時と非装着時の状態は、診療やリハビリの過程で安全に取得された既存の記録の範囲で確認してください。動画などを記録する場合も、医療上の安全、勤務先の規則、第三者のプライバシー、撮影場所の許可に配慮してください。

休業損害・逸失利益で確認する資料

自賠責保険の支払基準(自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準。平成13年金融庁・国土交通省告示第1号、令和元年金融庁・国土交通省告示第3号による改正)では、後遺障害による逸失利益を、収入額に等級ごとの労働能力喪失率と就労可能年数に対応する係数を乗じて算定するものとされています。もっとも、自賠責保険の等級と労働能力喪失率は、民事上の損害賠償における労働能力の喪失の程度や喪失期間を自動的に決めるものではありません。示談交渉や訴訟では、実際の職務内容と支障の程度に即して検討されます。計算の仕組みそのものは後遺障害逸失利益の計算方法を確認するに譲り、ここでは下垂足による具体的な職務上の支障を示すための資料の整理に絞ります。

立場 整理する資料
給与所得者 雇用契約書、職務記述書、就業規則、安全基準、作業手順が分かる資料、出勤簿、シフト、欠勤・遅刻の記録、残業時間、給与明細、賞与、昇給・昇進の推移
勤務先の対応 配置転換、担当業務の削減、時短勤務、在宅勤務、同僚による補助などの配慮の記録、産業医の意見、就業制限の指示
自営業者・会社役員 確定申告書、帳簿、契約書、請求書、売上と粗利益の推移、外注費、代替人員の費用、受注できなかった案件の資料
共通 事故前後の具体的な作業の比較、通勤方法や所要時間の変化、装具の使用に伴う追加の負担

仕事を続けていて現時点で減収がない場合でも、それだけで逸失利益が否定されるわけではありません。勤務先の配慮、本人の追加的な努力、配置転換の内容、将来生じ得る不利益を、資料に基づいて検討することになります。逆に、抽象的な昇進や転職の可能性だけで損害が認められるものでもありません。

退職や減収と事故との因果関係については退職・減収と逸失利益の立証資料を確認するを、自営業者や会社役員の収入の立証については自営業・会社役員の休業損害と逸失利益の立証を見るをご覧ください。

申請・示談前のチェックリスト

  • 自動運動と他動運動の可動域が、いずれも測定・記録されているか
  • 徒手筋力検査(MMT)が、足関節背屈や足指の伸展など筋ごとに記録されているか
  • 足指の可動域が、指ごとに屈曲と伸展を分けて記録されているか
  • 可動域制限の原因(神経の障害によるものか、骨や関節の変化によるものか)が診療記録から説明できるか
  • 事故直後からの症状の出現時期と連続性が、診療録から確認できるか
  • 後遺障害診断書の記載内容が、診療録や検査結果と整合しているか
  • 装具の書類(処方、適合、見積書、領収書、修理・交換の記録)がそろっているか
  • 歩行距離、階段、不整地、転倒に関する記録がリハビリ記録などに残っているか
  • 勤務内容の変化、勤務先の配慮、収入の推移を示す資料がそろっているか
  • 認定結果を受け取った場合、等級とその理由が記載された書面を確認したか
  • 示談の提示を受けた場合、内訳(治療費、休業損害、慰謝料、逸失利益、装具費など)を確認したか
  • ご自身やご家族の保険契約に、弁護士費用特約が付いていないか確認したか

認定の理由は、必ず確認してください。自動車損害賠償保障法第16条の4は、保険会社が保険金等を支払ったときに、支払った金額、後遺障害の該当する等級、当該等級に該当すると判断した理由その他の重要な事項を記載した書面を交付しなければならないと定めています。認定に納得できない場合、この理由の記載が、次に何を補うべきかを判断する出発点になります。認定結果への対応については後遺障害が非該当だった場合の判断材料を確認するもご覧ください。

期限にも注意が必要です。保険会社に対する損害賠償額の請求権(同法第16条第1項)は、同法第19条により、被害者又はその法定代理人が損害及び保有者を知った時から3年を経過したときは時効によって消滅するとされています。他方、加害者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権は、民法第724条第1号により損害及び加害者を知った時から3年、同条第2号により不法行為の時から20年とされ、人の生命又は身体を害する不法行為については、民法第724条の2により第1号の期間が5年とされています。制度が異なり、起算点の考え方も事案によって変わりますので、具体的な期限は個別に確認する必要があります。

弁護士に相談を検討したいタイミング

弁護士は医師の医学的判断を代わりに行うものではありませんし、認定の結果を保証できるものでもありません。もっとも、次の場面では、資料の整理、法的な論点の確認、手続の選択肢の検討がしやすくなります。

  • 下垂足が現れた早い段階 受診状況、検査記録の残り方、勤務先への説明
  • 症状固定を打診されたとき 回復経過、予定されている治療や手術の有無
  • 後遺障害診断書の作成前 診療録との整合、記載が漏れやすい所見、伝えるべき生活・就労上の支障
  • 等級の申請前 申請方法の選択(事前認定と被害者請求の違いを確認する)、添付資料の過不足
  • 認定結果を受け取った後 認定理由の読み方、追加資料の要否、異議申立ての検討
  • 示談に応じる前 提示内容の内訳、逸失利益と装具費の考え方、合意の効果

なお、自賠責保険の損害調査は損害保険料率算出機構が行い、保険金等の支払は保険会社が支払基準に従って行う仕組みです。調査を行う主体と支払を判断する主体が異なる点は、認定結果への対応を考えるうえで前提になります。

よくある質問

腓骨神経麻痺による下垂足は何級になりますか。

診断名だけでは決まりません。末梢神経麻痺は、原則として、損傷を受けた神経が支配する器官の機能障害として評価されます。下垂足の場合、足関節の機能障害、足指の機能障害、神経症状のいずれ(又は複数)として検討するかを、可動域、筋力、感覚、検査結果から判断していくことになります。個別事情により結論は異なります。

足首がまったく上がらないのに、可動域では等級に届かないと言われました。なぜですか。

足関節の可動域は屈曲(底屈)と伸展(背屈)で評価されるため、背屈ができなくても底屈が保たれていれば、可動域の比率は上位等級の要件に届かないことがあります。もっとも、認定基準は、他動運動による測定値を採用することが適切でない場合には自動運動による測定値を参考とするとしており、末梢神経麻痺の事案では自動運動と他動運動の双方が記録されているかが重要です。あわせて、足指の機能障害や神経症状としての評価も検討する必要があります。

装具を使えば歩ける場合も、後遺障害の対象になりますか。

装具を使えば歩けることは、装具を外したときの神経機能の障害が消えたことを意味しません。他方で、装具を常用しているという事実だけで特定の等級に該当すると評価されるものでもありません。装具の使用状況は、症状や生活・就労上の支障を示す資料の一つとして位置づけられます。

神経伝導検査や筋電図検査は必ず必要ですか。

すべての事案で必須というわけではなく、実施の要否と時期は医師が判断します。また、受傷直後の検査で異常が出なかったことをもって神経の損傷が否定されるとも限りません。結果が出ている場合は、報告書と、入手できるときは原データを保管しておいてください。

足指を伸ばせないのですが、足指の後遺障害になりますか。

「足指の用を廃したもの」は、一定の部位から先を失ったもののほか、中足指節関節又は近位指節間関節に著しい運動障害を残すものとされ、認定基準はこの著しい運動障害を可動域が健側の2分の1以下に制限されるものとしています。伸ばしにくいというだけでは足りず、屈曲を含めた可動域が問われますので、指ごとに屈曲と伸展を分けて記録されているかを確認してください。

仕事を続けていて減収がない場合でも、逸失利益を検討できますか。

現時点で減収がないことだけを理由に、当然に否定されるわけではありません。勤務先の配慮、本人の追加的な努力、配置転換の内容、将来生じ得る不利益を、資料に基づいて検討することになります。もっとも、抽象的な可能性のみで損害が認められるものでもありません。

将来の装具の買替え費用を請求できますか。

請求できる可能性はありますが、金額や期間が一律に決まるものではありません。医師の必要性に関する見解、処方の内容、実際の使用状況、交換や修理の履歴、見積書と領収書、公的給付との関係、中間利息の取扱いなどを確認したうえで判断する必要があります。福祉制度上の基準額や耐用年数をそのまま用いることはできません。

示談前のどの段階で相談するとよいですか。

症状固定を打診されたとき、後遺障害診断書の作成前、等級の申請前、認定結果を受け取った後、示談に応じる前が、それぞれ確認の機会になります。示談が成立すると原則としてやり直しができないため、合意の前に一度、内訳と資料を確認することをおすすめします。

まとめ

  • 下垂足は症状であり、診断名だけで後遺障害の等級が決まることはありません。末梢神経麻痺は、原則として、その神経が支配する器官の機能障害として評価されます。
  • 認定基準は可動域制限の原因を問題にします。神経の障害による機能的変化であることを、診療記録と検査で説明できるようにしておきます。
  • 背屈ができなくても底屈が残っていれば、可動域だけでは等級の要件を満たしにくいことがあります。自動運動の測定値の取扱いと、足指・神経症状としての評価が重要になります。
  • 短下肢装具(AFO)は、動揺関節に用いる硬性補装具とは評価の枠組みが異なり、常用の事実だけで等級が決まるものではありません。治療用装具、症状固定後の装具、賠償として請求する装具費も制度が異なります。
  • 就労への影響は、職種名ではなく、階段、不整地、荷物運搬、通勤といった作業単位で、資料とともに示します。危険な動作を試して証拠を作る必要はありません。
  • 自賠責保険への請求と加害者に対する請求では、期限の制度が異なります。認定結果を受け取ったら、等級と判断理由が記載された書面を必ず確認してください。

神戸市須磨区・垂水区・西区・北区周辺で、腓骨神経麻痺による下垂足の後遺障害にお悩みの方へ。診療記録、検査結果、装具の書類、勤務先の資料をどう組み立てるかによって、検討できる範囲が変わります。神戸みらい法律会計事務所では、交通事故について初回相談無料でご相談を受け付けています(受付時間 9:00〜20:00)。事案により結論は異なりますので、後遺障害診断書、検査結果、装具の見積書や領収書、勤務先の資料などをお持ちのうえ、ご相談をご検討ください。

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監修者・執筆者

弁護士・公認会計士 藤井貴之

兵庫県弁護士会所属、日本公認会計士協会兵庫会所属。神戸みらい法律会計事務所の代表弁護士・公認会計士として、交通事故、相続、企業法務、労働問題、損害賠償など、個人・法人双方の法律相談に対応しています。

詳細は、弁護士紹介ページをご確認ください。

本記事は、腓骨神経麻痺による下垂足の後遺障害に関する一般的な解説であり、医学的事項について医師の監修を受けたものではありません。診断、検査、治療及び装具に関する判断は、主治医にご確認ください。実際の等級認定や請求の可否は、受傷内容、治療経過、検査結果、就労状況、証拠関係などにより異なります。具体的な事案については、資料を確認したうえで弁護士にご相談ください。

参考資料

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