「父が持っていた会社の株式を兄弟と一緒に相続しました。私は何株の株主になったのでしょうか」。非上場会社の株式を共同で相続した場面で、最初につまずくのがこの点です。承継先が決まっていない株式は、株数ごとに自動的に分かれるのではなく、一株ごとに相続人全員で持ち合う「準共有」という状態になります。この記事では、準共有の意味、権利行使者の指定と会社への通知、議決権・配当・資料の開示・売却でそれぞれ異なる注意点、遺産分割等による解消方法を、確認すべき資料とあわせて整理します。定款の定めや遺言の有無により、個別事情により結論は異なります。
この記事で分かること
- 相続した株式が、当然に相続分どおりの株数へ分かれるわけではない理由
- 権利行使者を「持分の価格の過半数」で定め、会社へ通知するまでの流れ
- 議決権・配当・資料の開示・売却で、確認すべき条件が異なること
- 現物分割・代償分割・換価分割という解消方法と、それぞれの注意点
- 招集通知や売渡しの求めが届いたときに、先に確認しておく資料
だれが何株の株主なのか、いま議決権を行使できるのかは、遺言書と定款と株主名簿を並べて確認するところから整理できます。初回相談は無料です(事前予約制)。
結論|相続した株式は、株数で自動的に分かれるわけではありません
相続人が数人あるときは、相続財産は相続人の共有に属します(民法第898条第1項)。所有権以外の財産権を数人で有する場合にも共有の規定が準用され、これを準共有といいます(民法第264条本文)。株式もその対象です。もっとも、同条ただし書は、法令に特別の定めがあるときは準用しないとしており、株式については会社法第106条がその特別の定めに当たります。
したがって、対象株式を特定の相続人に承継させる有効な遺言がなく、遺産分割も終わっていない場面では、100株を二人で相続しても、当然に50株ずつの独立した株主になるわけではありません。100株のそれぞれについて、二人が持分を有している状態です。これは「株主ではない」という意味ではありません。権利が相続人に帰属していることと、会社に対してその権利をどう行使するかは、別の問題として整理します。
| 確認する項目 | 遺産分割前(準共有) | 遺産分割後(各人が単独で保有) |
|---|---|---|
| 株式の持ち方 | 一株ごとに相続人全員が持分を有する | 各相続人が特定の株式を単独で保有する |
| 会社に対する権利行使 | 権利行使者一人を定めて会社へ通知することが原則として必要(会社法第106条本文) | 各株主が自分の株式について単独で行使できる |
| 共有者の間の意思決定 | 管理に関する事項は持分の価格に従いその過半数で決する(民法第252条第1項前段) | 自分の株式については自分で決められる |
| 株主名簿の記載 | 相続によって当然には書き換わらず、記載の変更が別途必要 | 取得した相続人の氏名と株式数が記載される(会社法第121条) |
株式の準共有とは何か
相続人が承継するのは、被相続人の財産に属した権利義務です(民法第896条本文)。被相続人が有していたのは会社の株式ですので、会社名義の預金、不動産、機械や在庫は会社に帰属したままで、相続人が直接共有するわけではありません。株式を承継しても、被相続人が就いていた取締役や代表取締役の地位を当然に引き継ぐわけでもありません。役員は株主総会の決議によって選任されるもので(会社法第329条第1項)、株式の承継とは別の手続です。代表者が不在になった場合の対応は、代表取締役が死亡した場合の後任選任と登記の進め方を確認するとあわせてご覧ください。
株主名簿は、相続によって当然に書き換わるものではありません。名簿が被相続人の名義のままであっても、それは権利を承継していないことを意味しません。なお、譲渡制限株式であっても、相続その他の一般承継で取得した場合には株主名簿の記載を請求できます(会社法第134条第4号)。相続そのものについて会社の譲渡承認が必要になるわけではなく、承認の手続が必要になるのは譲渡制限株式を「譲渡」する場合です(会社法第136条、第137条第1項)。
まず遺言を確認します
準共有を前提にした説明は、対象株式の承継先が決まっていない場面のものです。特定の株式を特定の相続人に承継させる有効な遺言(民法第1014条第2項にいう特定財産承継遺言)があれば、前提そのものが変わります。一方、相続分の割合だけを定めた遺言(民法第902条第1項)は、だれがどの財産を取得するかまでは定めていませんので、株式の帰属を確定させるにはなお遺産分割が必要です。二つを混同しないでください。
遺言があれば当然に単独で議決権を行使できる、遺留分の問題があれば株式が当然に準共有へ戻る、といった理解も正確ではありません。遺言の文言、有効性、対象株式の範囲、相続人の範囲、相続分を超える部分についての対抗要件(民法第899条の2第1項)や名義書換の状況を、順に確認します。
600株の設例|三つの判断を分けて考えます
説明のために次の前提を置きます。これは仕組みを説明するための設例であり、当事務所が取り扱った事例ではありません。
設例 父が保有していた600株を、母と子二人が共同相続した。対象株式を特定の相続人に取得させる遺言も、異なる相続分を定める遺言もなく、遺産分割も未了である。持分は、母が2分の1、子二人が各4分の1とする。
- 母だけでは2分の1であり、「過半数」には達しません。
- 母と子一人の持分を合わせると4分の3となり、過半数に達します。
- 子二人を合わせても2分の1にとどまります。人数が多いことだけでは過半数になりません。
- 600株が当然に母300株、子各150株へ分かれたわけではありません。
そのうえで、次の三つを分けて検討します。混ざりやすいのは二番目と三番目です。
| 検討場面 | 判断する対象 | 確認事項 |
|---|---|---|
| だれを権利行使者に指定するか | 準共有者の間の意思決定 | 相続人の範囲、民法第900条から第902条までにより算定した相続分、遺言の有無、協議の経過 |
| 対象株式の議決権をどう行使するか | 準共有者の間の意思決定と、会社に対する行使方法 | 権利行使者の指定・通知の有無、議案の内容、持分の割合、共有者間の取決め |
| 会社全体の総会決議が成立するか | 株主総会における決議の成否 | 発行済株式総数と総議決権数、他の株主の議決権、議案ごとの定足数と可決要件、定款の別段の定め |
母と子一人が合意しても、会社全体の議決権の4分の3を得たことにはなりません。4分の3は、あくまで600株についての準共有持分の割合です。600株が発行済株式の全部なのか一部なのかは、定款、株主名簿、登記事項で確かめる必要があります。同じように、450株だけを取り出して独立に行使できるわけでもありません。議案が特別決議の対象だからといって、準共有者全員の同意が必要になるという関係にもありません。会社側の決議要件(会社法第309条)と、準共有者の間の意思決定の方法は、別の次元の問題です。
権利行使者の指定と会社への通知
指定は「持分の価格の過半数」で決めます
株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、その株式についての権利を行使する者一人を定め、会社に対してその者の氏名又は名称を通知しなければ、その株式についての権利を行使することができません(会社法第106条本文)。この一人を権利行使者といいます。
だれを権利行使者とするかは、持分の価格に従いその過半数をもって決することができるとされています(最高裁判所第三小法廷平成9年1月28日判決。平成5年(オ)第1939号・裁判集民事181号83頁)。全員一致でなければ指定できないとすると、一人でも反対すれば全員の権利行使ができなくなり、会社の運営にも支障を来すおそれがある、というのがその理由です。同判決は旧有限会社法のもとでの有限会社の持分に関する事案ですが、旧商法のもとで、株式についても同じ考え方が示されています(最高裁判所第三小法廷平成11年12月14日判決。平成10年(オ)第866号・裁判集民事195号715頁)。会社法第106条について判断したのは、後に述べる平成27年の判決です。
ここでいう持分は、共有に関する規定を適用する場面のものです。相続財産について共有に関する規定を適用するときは、民法第900条から第902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とされます(民法第898条第2項)。特別受益や寄与分を反映した具体的相続分とは算定の場面が異なりますので、特別受益があるから指定の多数決の割合が当然に変わる、という説明は正確ではありません。
会社への通知までを一つの手続として進めます
指定をしても、会社へ通知をしなければ権利は行使できません。次の順序で進めます。
- 遺言の有無、相続人の範囲、対象株式の内容、持分の割合を資料で確認する。
- 他の相続人に協議を申し入れ、指定について賛否を確認する。
- だれを権利行使者とするかを決め、その経過と根拠を書面に残す。
- 会社に対し、権利行使者の氏名又は名称を通知する。
- 通知が到達したこと、会社側でどう記録されたかを確認する。
書面化、署名、添付資料、到達を示す記録の保存は、後日の争いに備えるうえで有用です。もっとも、法令が一律に特定の様式、全員の押印、印鑑登録証明書の添付を求めているわけではありませんし、適法な指定と通知がされた場合に会社の承認が別途必要になるわけでもありません。なお、会社から株主に対する通知や催告を受ける者の指定(会社法第126条第3項)は、権利行使者の指定とは別の制度です。書類の受領窓口を決めることと、権利を行使する者を決めることを同じものとして扱わないでください。
権利行使者は、会社に対して権利を行使する窓口となる者です。指定されても、その株式の単独の所有者になるわけではなく、遺産分割について他の相続人を代理する立場にも、遺言執行者や代表取締役の地位にも結び付きません。指定によって準共有の状態そのものが解消することもありません。
会社が同意した場合と、指定済みの場合は別に考えます
会社法第106条にはただし書があり、会社が権利行使に同意した場合には本文の適用がないとされています。もっとも最高裁判所は、指定と通知を欠いたまま権利が行使された場合に、その行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、会社が同意をしても適法となるものではないとし、共有株式の議決権の行使は、その行使によって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなどの特段の事情がない限り、株式の管理に関する行為として持分の価格に従いその過半数で決せられるとしています(最高裁判所第一小法廷平成27年2月19日判決。平成25年(受)第650号・民集69巻1号25頁)。この事件では持分2分の1の相続人が単独で行使しており、会社が同意していても適法とはされませんでした。
他方、適法に選定され会社へ届け出られた者については、共有者の間で個々の決議事項について逐一合意を要するとの取決めがあり意見の相違があっても、自己の判断に基づいて議決権を行使しうるとした判断があります(最高裁判所第二小法廷昭和53年4月14日判決。昭和52年(オ)第833号・民集32巻3号601頁)。旧有限会社法のもとでの事案であり、現行法での当てはめは、定款や議案の内容によって変わり得ます。権利行使者であれば共有者の利益や内部の取決めを無視して何でもできる、という理解も正確ではありません。
次の整理は一般的な考え方を示したもので、当事務所の取扱事例や結果を示すものではありません。
| 場面 | 出発点となる考え方 | 見落とされやすい点 |
|---|---|---|
| 指定も通知もないまま一人が議決権を行使した | 民法の共有に関する規定に従っていなければ、会社が同意しても適法とはならない | 会社の同意は本文の適用を外すだけで、共有者の間の決め方を不要にするものではない |
| 適法に指定・通知された者が内部の取決めと異なる行使をした | 対外的な権限と、共有者の間の取決めの違反は切り分けて検討する | 議案ごとの多数決がないという理由だけで当然に無効とはいえない |
| 指定・通知がないまま訴えを提起した | 特段の事情がない限り、原告適格が認められないことがある | 例外を認めた判断もあるが、事案の前提が限定されている |
最後の点について最高裁判所は、指定と通知を欠く共同相続人は特段の事情がない限り株主総会決議不存在確認の訴えの原告適格を有しないとしつつ、その株式が会社の発行済株式の全部に相当し、かつ、共同相続人の一人を取締役に選任する旨の決議がされたとして登記されている事案では、原告適格を認めています(最高裁判所第三小法廷平成2年12月4日判決。平成元年(オ)第573号・民集44巻9号1165頁。旧商法のもとでの株主総会決議不存在確認の訴えの事案)。二つの事情がそろった事案についての判断です。指定や変更そのものが争われている場合は、手続前に一度確認することをおすすめします。
議決権・配当・資料の開示・売却は、同じ条件では扱えません
「準共有だから何もできない」と考えるのも、「権利行使者になれば何でもできる」と考えるのも正確ではありません。行いたいことごとに、確認すべき条件が違います。
| 行いたいこと | まず確認する資料・条件 | 誤解しやすい点 |
|---|---|---|
| 株主総会で議決権を行使する | 権利行使者の指定・通知の有無、議案の内容、持分の割合、発行済株式総数と他の株主の議決権、定款 | 権利行使者が未指定でも、会社が総会を開けなくなるとは限らない |
| 配当を受け取る | 配当の決議日と効力発生日、基準日の定めの有無、死亡日、支払日、遺産分割の成立時期と内容 | 会社に対する請求と、相続人の間の最終的な取り分は別の問題 |
| 会社の資料を見る | 見たい資料の種類ごとの請求権者と要件、請求の理由、拒絶事由 | 資料の種類によって要件が違い、どの資料にも同じ基準が使えるわけではない |
| 株式を売る | 売る対象(株式そのものか自分の持分か)、必要な同意、定款の譲渡制限、名義書換の状況 | 権利行使者の指定だけでは、株式そのものを単独で売る権限は生じない |
議決権
会社法第106条は権利の行使方法を定めた規定であり、その株式の議決権そのものを失わせるものではありません。準共有株式があるというだけで会社が株主総会を一切開けなくなるわけではなく、議決権を有しないものとして扱われるのは自己株式であって(会社法第308条第1項、第2項)、準共有株式を当然に定足数の計算から外してよいことにもなりません。議案の内容、定款の定め、他の株主の議決権の状況を踏まえた個別の確認が必要です。招集通知が届いた段階での確認事項は、中小企業の株主総会の招集通知と議事録の実務を確認するとあわせて整理できます。
配当
剰余金の配当は、その都度、株主総会の決議で、配当財産の種類と帳簿価額の総額、割当てに関する事項、効力を生ずる日を定めて行われ(会社法第454条第1項)、配当財産は株主名簿に記載された株主の住所等において交付されます(会社法第457条第1項)。剰余金の配当を受ける権利は株式についての権利ですので(会社法第105条第1項第1号)、会社に対する請求は、準共有株式については権利行使者を通じて行うのが原則です(会社法第106条本文)。これに対し、受け取った配当が相続人の間で最終的にだれの取り分になるかは別の問題で、配当の効力が生じた時点の株式の帰属や遺産分割の内容によって決まります。各相続人が当然に相続分に応じて単独で会社へ請求できる、権利行使者が配当を独り占めできる、株式を取得した相続人が過去分も当然に全額取得する、といった説明はいずれも正確ではありません。死亡日、基準日、決議日、効力発生日、支払日、遺産分割の成立日を時系列で並べて確認してください。
資料の開示
資料ごとに、請求できる人も要件も異なります。株主名簿は株主及び債権者が請求できますが、請求の理由を明らかにする必要があり、拒絶事由も定められています(会社法第125条第2項、第3項)。株主総会議事録と計算書類等も、株主及び債権者が請求できます(会社法第318条第4項、第442条第3項)。これに対し会計帳簿又はこれに関する資料には、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主等という保有要件があり、競争関係を含む拒絶事由も定められています(会社法第433条第1項、第2項)。
相続人であればすべての資料を当然に請求できるわけではなく、逆にどの資料にも100分の3の要件があるわけでもありません。会計帳簿については、会計帳簿閲覧謄写請求の要件と請求理由の書き方を確認することをおすすめします。
売却
準共有株式そのものを売ることと、自分の準共有持分を処分することは別です。共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除きます)を加えるには他の共有者の同意が必要とされており(民法第251条第1項)、共有物全体の処分について、持分の価格の過半数があれば自由にできるという関係にはありません。株式そのものを売る場合には、対象の特定、必要な同意や授権、定款の譲渡制限の有無、譲渡承認の手続、名義書換までを確認します。
なお、遺産全体についての相続分を遺産分割前に第三者へ譲り渡した場合には、他の共同相続人が価額及び費用を償還してその相続分を譲り受けることができ、この権利は一箇月以内に行使しなければならないとされています(民法第905条第1項、第2項)。これは遺産全体に対する包括的な持分についての制度で、株式という個別の財産の持分を処分する場面とは別の規律です。会社から買取りを求められている場合の扱いは、この記事の後半で扱います。
準共有を解消する方法
準共有は、遺産分割等によって株式の帰属を確定させることで解消します。主な方法は次の三つです。株式以外の遺産を含めた全体の調整によって、結果的に株式の帰属を整えることもあります。
| 方法 | 仕組み | 適する場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 現物分割 | 株式を株数で分け、各相続人が特定の株式を単独で取得する | 相続人の間に大きな対立がなく、議決権が分散しても運営に支障がない場合 | 準共有は解消しても議決権は分散し、経営上の対立が残り得る |
| 代償分割 | 後継者等が株式を取得し、他の相続人に代償金を支払う債務を負う | 議決権を後継者に集約したい場合 | 評価だけでなく、支払の原資、支払時期、分割払や担保の要否まで検討する |
| 換価分割 | 株式を売却し、代金を分ける | だれも株式の保有を望まない場合 | 譲渡制限、買手の有無、必要な合意と手続を先に確認する |
遺産分割は、持分の過半数では決められません
共同相続人は、被相続人が遺言で分割を禁じた場合や、分割をしない旨の契約をした場合(民法第908条第1項、第2項)を除き、いつでも、その協議で遺産の全部又は一部の分割をすることができます(民法第907条第1項)。この協議には、原則として共同相続人全員の合意が必要です。権利行使者を指定できる持分の過半数があるからといって、遺産分割まで決められるわけではありません。
協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所に分割を請求することができます(民法第907条第2項)。裁判所の案内によれば、遺産分割調停は相続人のうちの一人又は何人かが他の相続人全員を相手方として申し立てるもので、申立先は相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所、費用は被相続人一人につき収入印紙1,200円分と郵便料(郵便料は裁判所ごとに異なります)とされています。調停が不成立になった場合には、自動的に審判手続が開始されます。
これを通常の共有物分割訴訟と同じものと考えないでください。共有物の全部又はその持分が相続財産に属し、共同相続人の間で遺産分割をすべきときは、その共有物又は持分について共有物分割の裁判をすることができないとされています(民法第258条の2第1項)。相続以外の原因で生じた準共有では、手続の選択が異なることがあります。
価格は、場面ごとに別のものです
相続税の課税価格を計算するための評価額、遺産分割で合意する価格、実際に売買する価格、裁判所が定める価格は、それぞれ別のものです。相続税の場面での取引相場のない株式の評価方法は国税庁が示していますが、これをそのまま遺産分割の合意価格や売買価格として用いてよいことにはなりません。評価方式や分け方の詳細は、相続した自社株の評価と分け方の選択肢を確認するで扱っています。会社への貸付金(役員借入金)がある場合、それは株式とは別の相続財産です。会社側では負債として株価の算定に影響し、相続人側では債権として相続財産に計上されるという、別々の扱いになります。決算書と勘定科目内訳明細書で残高を確認したうえで、税務上の取扱いは税理士又は所轄の税務署にご確認ください。代償分割を選ぶ場合の相続税の課税価格の計算方法も、国税庁が示しています。
なお、相続財産が分割されていない場合であっても、相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内という期限までに行う必要があります。国税庁は「分割されていないということで相続税の申告期限が延びることはありません」と明示しています。具体的な当てはめは、税理士又は所轄の税務署にご確認ください。
急いで確認すべき場面と、手続前のチェックリスト
株主総会の招集通知が届いた、権利行使者の指定をめぐって意見が対立している、会社から株式の売渡しを求められた、合意書や譲渡証書への署名を求められた、といった場面では、受領した日と関係書類を保存し、署名や回答をする前に確認することをおすすめします。
株主総会の決議に問題があると考える場合、決議の取消しの訴えは、決議の日から三箇月以内に提起する必要があります(会社法第831条第1項)。原告となり得る者も「株主等」と条文で定められており、相続人であればだれでも単独で提訴できるわけではありません。先に述べた平成2年の判決は決議の不存在確認の訴えについてのもので、取消しの訴えとは出訴期間の有無も含めて別の類型です。どの訴えを選ぶかと期間の管理は、あわせて確認する必要があります。
また、定款に定めがある場合、会社は、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、その株式の売渡しを請求できます(会社法第174条)。請求のつど、対象となる株式の数と相手方を株主総会の決議で定める必要があり(会社法第175条第1項、第309条第2項第3号)、相手方とされた者は、原則としてその株主総会で議決権を行使することができません(会社法第175条第2項)。この点は、相続人の側が自分の議決権で決議を止められると誤解しやすいところです。会社が一般承継を知った日から一年を経過したときは請求できず(会社法第176条第1項ただし書)、価格は協議で定めるほか、請求があった日から20日以内に裁判所へ価格決定の申立てをすることができます。この期間内に協議も申立てもないときは、売渡しの請求は効力を失います(会社法第177条第1項、第2項、第5項)。会社からの任意の買取りの申入れと、この法定の売渡請求とは区別してください。詳しくは相続人に対する株式売渡請求の要件と期限を確認するをご覧ください。
持分が2分の1ずつで明確に対立している場合と、他の相続人が所在不明である場合、催告しても賛否を明らかにしない場合とでは、取り得る手段が異なります。所在等が分からない共有者や、催告しても賛否を明らかにしない共有者がいる場合の裁判(民法第252条第2項)は、共有物の管理に関する事項を決めるための制度です。役員に欠員が生じた場合の一時役員の選任(会社法第346条第2項)も、役員の不在に対応する制度です。いずれも、権利行使者をめぐる対立を当然に解消する手段ではありません。どの制度が使えるかは、資料を確認したうえで判断する必要があります。
- 承継先の確認 遺言書(自筆証書・公正証書)、検認や遺言書情報証明書の有無
- 相続関係の確認 被相続人の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本、相続人全員の戸籍・住民票
- 分割の状況 遺産分割協議書、調停調書・審判書の写し、一部分割の有無
- 会社の基本情報 定款、登記事項証明書、株主名簿、発行済株式総数が分かる資料
- 権利行使の記録 権利行使者の指定書、会社宛ての通知書、送付・到達を示す記録
- 総会関係 招集通知、議案、参考書類、議事録の写し、受領日が分かるもの
- 配当関係 配当の通知、入金記録、基準日や効力発生日が分かる資料
- 評価・資金 直近の決算書、勘定科目内訳明細書、貸付金や保証の有無が分かる資料
次の相続に向けた予防
準共有が生じること自体を避けるには、株式の承継先を明確にする遺言を用意しておくことが基本になります。あわせて、代償金や遺留分侵害額の支払に備えた資金の手当て(生命保険や会社との取引条件の見直しを含みます)と、定款と株主名簿の整備が実務上の要点です。名義株や過去の譲渡の記録が整理されていないと、承継の場面で株主が誰かという確認から始めることになります。
弁護士に相談するタイミング
すべての資料がそろってからでなければ相談できない、ということはありません。最初の段階では、ご相談者の立場(後継者、経営に関与していない相続人、会社の役員のいずれか)、会社名と関係者、遺言の有無、総会の予定日や通知を受け取った日、何にお困りかが分かれば、方針の整理を始められます。署名や回答の期限がある場合、総会の日が迫っている場合、決議から三箇月の期間が進行している場合は、早い段階でご相談ください。資料を確認したうえで、取り得る選択肢と手続の順序を整理し、法律上の見通しを検討できます。
この分野では、会社と相続人、相続人同士で利害が対立することがあります。当事務所では、どなたを依頼者とするかを確認し、利益相反の有無を確認したうえで受任の可否を判断します。同じ紛争で対立する複数の当事者を同時に支援することはできませんので、関係者全員を同時に代理できるという前提では進められません。
資料を確認して、次に取るべき手続を整理します
遺言書、戸籍、定款、株主名簿、権利行使者の指定・通知書、招集通知、決算書を確認すると、だれがどの権利を行使できるのか、遺産分割をどの順序で進めるかを整理できます。初回相談は無料です(事前予約制)。
利益相反の確認が済むまでは、契約書、決算書、会計帳簿、株主名簿などの機密資料はお送りにならないでください。最初のご連絡では、会社名、ご相談者のお名前、相手方の名称、ご相談の概要、期限の有無をお知らせください。
お問い合わせやご予約、利益相反確認の通過は、いずれも受任(委任契約の成立)ではありません。また、ご相談やお問い合わせによって、出訴期間や法律上の期限が停止・延長されることはありません。期限が迫っている場合は、最初のご連絡でお伝えください。
よくある質問
父の600株を母と子二人で相続しました。私は150株の株主になったのでしょうか。
承継先を定めた遺言がなく遺産分割も終わっていなければ、600株が株数で分かれたわけではありません。600株のそれぞれについて相続人が持分を有する準共有の状態です(民法第898条第1項、第264条本文)。株主としての地位を失っているのではなく、会社に対する行使方法が定められているということです。
持分が2分の1なら、過半数として権利行使者を指定できますか。
できません。2分の1は過半数ではなく、人数の多さも理由になりません。指定は持分の価格に従った過半数で決するとされています(最高裁判所第三小法廷平成9年1月28日判決。有限会社の持分の事案。株式についても同旨=同第三小法廷平成11年12月14日判決)。持分は民法第900条から第902条までにより算定した相続分によります(民法第898条第2項)。
権利行使者に選ばれた人は、その株式の所有者になり、会社の社長になるのですか。
なりません。会社に対して権利を行使する者として定められた一人にすぎず、遺産分割について他の相続人を代理する立場にも、代表取締役の地位にも結び付きません。指定によって準共有の状態が解消することもありません。
遺産分割が終わっていない間は、株主総会を開けないのですか。
準共有株式があるというだけで開けなくなるわけではありません。開催の可否や決議の成否は、他の株主の議決権、議案の内容、定款の定めを確認したうえでの個別の判断になります。招集通知を受け取ったら、日付と同封書類を保存してご相談ください。
会社が認めてくれれば、指定と通知がなくても議決権を行使できますか。
会社の同意があっても、その行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは適法とはならない、というのが最高裁判所の判断です(最高裁判所第一小法廷平成27年2月19日判決)。会社が認めたという一事で、ほかの相続人の意思を無視した処理が適法になるわけではありません。
相続人なので、決算書や会計帳簿をすべて見せてもらえますか。
資料ごとに要件が異なります。株主名簿、株主総会議事録、計算書類等は株主及び債権者が請求できますが、会計帳簿等には総株主の議決権の100分の3以上という保有要件と拒絶事由があります(会社法第433条第1項、第2項)。どの資料を、どの理由で求めるのかを先に整理してください。
配当は、相続分に応じてそれぞれが会社へ請求できますか。
会社への請求は権利行使者を通じて行うのが原則です。受け取った配当が相続人の間で最終的にだれの取り分になるかは別の問題で、事案によって結論が変わります。死亡日、基準日、決議日、効力発生日、支払日、分割の成立日を時系列で確認したうえで検討してください。
持分の過半数で合意すれば、株式を売って現金で分けられますか。
株式そのものの処分は、持分の価格の過半数があれば自由にできるという関係にはありません(民法第251条第1項)。譲渡制限の有無、必要な同意や授権、名義書換の確認も要ります。換価分割を選ぶ場合も、遺産分割の協議自体には原則として相続人全員の合意が必要です(民法第907条第1項)。
まとめ
- 承継先が決まっていない株式は、株数で自動的に分かれず、一株ごとの準共有になります(民法第898条第1項、第264条)。
- 会社に対する権利行使には、権利行使者一人を定めて会社へ通知することが原則として必要です(会社法第106条本文)。
- 指定は頭数ではなく持分の価格の過半数で決し、その持分は民法第900条から第902条までにより算定した相続分によります(民法第898条第2項)。2分の1は過半数ではありません。
- 会社の同意があっても、民法の共有に関する規定に従わない行使は適法とはなりません。
- 議決権、配当、資料の開示、売却は、それぞれ確認すべき条件が異なります。
- 解消は遺産分割等によります。協議には原則として相続人全員の合意が必要で、調わないときは家庭裁判所の調停・審判によります(民法第907条)。
遺産分割と会社の手続を、同じ資料の上で整理します
準共有の解消は、遺産分割の進行と、株主総会や名義書換といった会社側の手続の両方に関わります。決算書や株価に関する資料の見方も含めて、取り得る選択肢と順序を整理できます。初回相談は無料です(事前予約制)。
ご相談の前に初回相談の対象と条件を確認することができます。費用の目安は弁護士費用のページを確認するほか、遺言・相続の取扱業務を見る、企業法務の取扱業務を見るからもご覧いただけます。
弁護士紹介
代表弁護士・公認会計士 藤井 貴之(兵庫県弁護士会所属・日本公認会計士協会兵庫会所属)
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
遺言・相続、企業法務(会社法・株主をめぐる問題)を取り扱っています。株式の準共有では、相続人の範囲や持分の確認といった相続の検討と、株主総会や株主名簿といった会社法上の手続の確認が同時に必要になります。決算書や株価に関する資料の読み方を含めて、資料を確認したうえで方針を整理します。
兵庫県神戸市須磨区中落合2丁目2−5 名谷センタービル7階(神戸市営地下鉄西神・山手線 名谷駅 徒歩1分)
参考資料
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。会社の機関構成、定款の定め、遺言の有無、資料の内容によって結論は変わります。記載の内容は令和8年9月時点の情報に基づきます。税務上の取扱いについては、税理士又は所轄の税務署にご確認ください。

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