賠償金や示談金を受け取ったとき、「この金額に税金はかかるのか」「確定申告は必要なのか」と不安に感じる方は少なくありません。インターネット上では「賠償金は非課税」と説明されることもありますが、実際には、受け取った金員の名目だけで課税・非課税が決まるわけではありません。
重要なのは、何の損害を補てんするために支払われたお金なのか、そして誰が受け取るのか(個人・個人事業者・法人・遺族)です。これらによって、所得税・相続税・消費税・法人税の扱いは変わります。この記事では、賠償金・示談金の課税関係を、損害賠償の費目(損害項目)に着目して、根拠となる法令・通達とあわせて整理します。
受け取る金額の損害項目がはっきりしないと、後の税務・会計処理で確認が難しくなることがあります。示談前・合意前・受領前に、損害項目や資料を整理し、法的な見通しを確認しておくことができます。
Contents
結論:名目ではなく「何の損害を補てんするか」で変わる
先に結論の方向性を整理します。
- 慰謝料、治療費、通院交通費、休業損害、後遺障害や死亡に関する損害賠償金など、心身に加えられた損害を補てんするものは、原則として所得税が非課税と整理される場面があります(所得税法第9条第1項第18号、所得税法施行令第30条)。
- 一方で、事業の収益(収入金額)に代わるもの、必要経費を補てんするもの、棚卸資産の損害に関するもの、資産の譲渡等の対価としての実質を持つものは、課税関係に注意が必要です。
- 受け取るのが個人か、個人事業者か、法人か、遺族かによって、適用される税目と考え方が異なります。
- 示談書や和解書で損害項目ごとの内訳が不明確だと、後の税務・会計処理で確認が難しくなることがあります。
| 区分 | 主な例 | 考え方の方向性 |
|---|---|---|
| 原則として非課税と整理されやすいもの | 慰謝料、治療費、通院交通費、休業損害、後遺障害・死亡の損害賠償金、社会通念上相当な見舞金、自家用車など事業用でない資産の修理費・物損 | 心身の損害・突発的事故による資産損害を補てんするもの(所法第9条第1項第18号、所令第30条)。ただし収入金額に代わるもの・役務の対価となるものは除く。 |
| 課税関係に注意が必要なもの | 事業の営業補償・収益補償、必要経費の補てん(仮店舗賃借料等)、棚卸資産の損害、無体財産権侵害、事務所明渡し遅延の損害金 | 収入金額に代わる・必要経費を補てんする・対価性があるものは課税対象になり得る(所法第9条第1項第18号かっこ書、所令第30条・第94条/消法第4条、消基通5-2-5)。 |
| 個別の確認が必要なもの | 「解決金」「和解金」など内訳不明の一括金、遅延損害金、契約上の違約金・キャンセル料 | 名目ではなく実質で判断。費目の内訳や支払の原因を確認しないと判断できない。 |
上の整理はあくまで一般的な考え方です。実際の課税関係は、受け取った金員の実質、受領者の属性、損害項目の内訳によって異なります。具体的な申告の要否や税額については、税務署や税理士等への確認が必要となる場合があります。
基礎知識:賠償金・示談金・和解金・解決金の違い
名称の整理
- 損害賠償金:不法行為や債務不履行によって生じた損害をてん補するために支払われる金銭。
- 示談金:当事者間の示談(裁判外の合意)に基づいて支払われる金銭の総称。慰謝料・治療費・休業損害など複数の費目を含むことが多い。
- 和解金・解決金:訴訟上の和解や交渉上の合意で用いられる名称。内訳が示されないことも多い。
- 見舞金:損害や災難に対して支払われる金銭。社会通念上相当な範囲かどうかが問題になる。
- 違約金・キャンセル料:契約上の不履行等に対して支払われる金銭。
- 遅延損害金:支払が遅れたことに対する損害金(利息に相当する性質)。
同じ「解決金」でも、その中身が慰謝料なのか、営業補償なのか、未払代金なのかによって税務上の扱いは変わります。名称ではなく、何に対するお金かを確認することが出発点です。
「損害項目」と「税務上の区分」は一致するとは限らない
損害賠償実務では、慰謝料・治療費・休業損害・逸失利益・物損・営業損害などの費目に分けて損害を算定します。もっとも、これらの費目区分が、そのまま税務上の課税・非課税の区分と一致するわけではありません。たとえば同じ「休業損害」でも、給与所得者が受け取る場合と、個人事業者が事業の収益補償として受け取る場合とでは、税務上の評価が異なり得ます。損害算定の段階で費目を整理しておくことが、後の税務確認の前提になります。
判断の流れ:課税・非課税をどう見分けるか
まず確認する4つの視点
- 誰が受け取るのか(個人/個人事業者/法人/遺族)。
- 何の損害を補てんするものか(心身の損害/資産の損害/事業上の損害)。
- 収入金額に代わるもの・必要経費を補てんするものに当たらないか。
- 資産の譲渡等の対価としての実質がないか(消費税の観点)。
所得税の基本的な考え方(個人が受け取る場合)
所得税法では、心身に加えられた損害、または不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得する損害賠償金等は、原則として非課税とされています(所得税法第9条第1項第18号、所得税法施行令第30条)。具体的には、交通事故による負傷の治療費や慰謝料、負傷して働けないことによる収益の補償(休業損害)などが、非課税となる損害賠償金等として整理されます。
ただし、これらの損害賠償金のうちに、各種所得の金額の計算上「必要経費に算入される金額」を補てんする部分が含まれている場合、その部分は各種所得の収入金額とされます(所得税法施行令第30条かっこ書、同第94条、所得税基本通達9-19)。
受け取る金員に事業の収益補償や必要経費の補てんが含まれているかどうかは、損害項目の内訳を確認しないと判断が難しい場合があります。資料を確認したうえで、法律上の見通しを整理することができます。
治療費と医療費控除の関係
治療費として受け取った金額は、医療費を補てんする金額に当たります。そのため、医療費控除(所得税法第73条)を受ける場合には、支払った医療費の金額から、補てんされた金額を差し引いて計算します。なお、補てん額がその医療費を上回っても、上回った部分を他の医療費から差し引く必要はないとされています。
事業用資産が損害を受けた場合の注意点
個人であっても、損害を受けた資産が事業用資産である場合には、扱いが変わることがあります。国税庁の整理では、次のようなケースで注意が必要とされています。
- 配送中の事故で使いものにならなくなった商品(棚卸資産)について受け取る損害賠償金は、収入金額に代わる性質を持つため非課税とはならず、事業所得の収入金額となります。
- 店舗の補修期間中の仮店舗賃借料の補償として受け取る損害賠償金は、必要経費を補てんするものであり、非課税とはならず、事業所得の収入金額となります(国税庁タックスアンサーNo.2201、所得税法第9条第1項第18号、所得税法施行令第30条かっこ書・第94条)。
- 事故により事業用車両を廃車とする場合、その車両の損害に対する損害賠償金は非課税となります。ただし、資産損失の金額を計算する際は、損失額から損害賠償金等で補てんされる部分を差し引いて計算します(所得税法第51条)。なお、賠償金額が損失額を超えても、全額が非課税となるとされています。
消費税の考え方
消費税では、心身または資産に加えられた損害に伴って受ける損害賠償金は、通常は「資産の譲渡等の対価」に当たらないため、課税の対象外です。もっとも、損害賠償金が資産の譲渡等の対価に当たるかどうかは、その名称ではなく実質で判定するものとされています(消費税法第4条、消費税基本通達5-2-5)。実質からみて課税の対象となり得る例として、国税庁は次を挙げています。
- 損害を受けた棚卸資産等が加害者に引き渡される場合で、その資産がそのまま、または軽微な修理で使用できるときに所有者が受け取る損害賠償金。
- 特許権や商標権などの無体財産権の侵害を受けた場合に権利者が受け取る損害賠償金。
- 事務所の明渡しが遅れた場合に賃貸人が受け取る損害賠償金。
法人が受け取る場合の考え方
法人が受け取る損害賠償金は、原則として益金に算入されます。問題になりやすいのは「いつの事業年度の益金に入れるか」という益金算入時期です。法人税基本通達では、他の者から支払を受ける損害賠償金(遅延損害金を含む)の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金に算入するのが原則とされ、法人が実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金に算入している場合にはこれを認めるとされています(法人税基本通達2-1-43)。
また、収入金額や経費の補てんに充てるための営業補償金・経費補償金等についても、その支払を受けるべきことが確定した事業年度の益金に算入するのが原則です(法人税基本通達2-1-40)。これに対応して、損害賠償請求の基因となった損害に係る損失の額は、保険金等で補てんされる部分を除き、その損害が発生した事業年度の損金に算入することができるとされています。
よく問題になるケース
交通事故:治療費・慰謝料・休業損害・逸失利益
交通事故の被害者が受け取る治療費、慰謝料、休業損害、後遺障害や死亡に関する損害賠償金は、心身に加えられた損害を補てんするものとして、原則として所得税が非課税と整理される場面があります(所得税法第9条第1項第18号、所得税法施行令第30条)。給与所得者の休業損害も、収益の補償として同様に整理されます。一方、個人事業者が事業の収益補償として受け取る部分は、課税関係に注意が必要です。
物損・車両損害・修理費・買替差額
自家用車など事業用でない資産の修理費・物損は、突発的事故による資産損害として原則非課税と整理される場面があります。事業用車両の場合は、前記のとおり資産損失の計算で補てん額を差し引く点に注意が必要です。
個人事業者:店舗損害・営業補償・仮店舗費用・棚卸資産
個人事業者が受け取る営業補償・収益補償、必要経費の補てん(仮店舗賃借料等)、棚卸資産の損害賠償金は、収入金額に代わる、または必要経費を補てんするものとして、事業所得の収入金額となり得ます(所得税法第9条第1項第18号かっこ書、所得税法施行令第30条・第94条、所得税基本通達9-19)。
法人:営業補償金・経費補償金
法人が受け取る損害賠償金・営業補償金・経費補償金は、原則として益金に算入されます。確定日基準が原則ですが、継続適用を前提に実際の支払日基準が認められる場合もあり、益金算入時期に注意が必要です(法人税基本通達2-1-40、2-1-43)。
契約トラブル:和解金・解決金・違約金・キャンセル料・遅延損害金
契約トラブルで支払われる和解金・解決金・違約金・キャンセル料・遅延損害金は、名称ではなく実質で判断します。たとえば、未払いの売上代金に相当する部分や、賃貸借に関する一定の損害金などは、消費税の対価性が問題になることがあります。遅延損害金は損害金としての性質を持ち、所得税・法人税・消費税のいずれでも実質に応じた判断が必要です。
死亡事故:遺族が受け取る損害賠償金
交通事故などで被害者が死亡したことに対して支払われる損害賠償金を遺族が受け取った場合、その損害賠償金は相続税の対象とはなりません(相続税法第2条)。また、遺族の所得にはなりますが、所得税法上の非課税規定により、原則として所得税もかかりません(所得税法第9条第1項第18号、所得税法施行令第30条、国税庁タックスアンサーNo.1705・No.4111)。
ただし、被相続人が損害賠償金を受け取ることが生存中に決まっていたものの、受け取らないうちに死亡した場合は、その損害賠償金を受け取る権利(債権)が相続財産となり、相続税の対象となります。
示談書で金額の内訳が分からない場合
「解決金」「和解金」として一括で金額が定められ、損害項目ごとの内訳が示されていない場合、後から「どの部分が非課税で、どの部分が課税対象か」を説明する資料が不足しがちです。示談・和解の段階で、慰謝料・治療費・休業損害・逸失利益・物損・営業損害・必要経費補てん・遅延損害金などの区分を意識しておくことが、後の税務・会計処理を円滑にします。
ここで挙げたケースは一般的な整理であり、結論は個別事情により異なります。実際の処理にあたっては、示談書・和解書・損害計算書等の資料を確認したうえで判断する必要があります。
手続前チェックリスト
示談前・合意前・署名前・受領前・確定申告前・法人決算前・相続手続前に、次のような点を確認しておくと、後の税務・会計処理での確認がしやすくなります。
- 受け取る金員が、何の損害を補てんするものか(費目)を確認したか。
- 損害項目ごとの内訳が、示談書・和解書・損害計算書に記載されているか。
- 「解決金」「和解金」など一括表示の場合、実質を説明できる資料があるか。
- 受領者が個人・個人事業者・法人・遺族のいずれか。
- 事業上の収益補償・必要経費補てん・棚卸資産の損害が含まれていないか。
- 消費税の対価性が問題になり得る費目(棚卸資産の引渡し、無体財産権侵害、明渡し遅延等)がないか。
- 入金時期・支払者・受領者・源泉徴収の有無・消費税の扱いに関する記載があるか。
- 医療費控除を受ける場合、治療費を補てんする金額を確認したか。
- 確定申告・法人決算・相続手続の前に、税務署や税理士等に確認すべき点が残っていないか。
確認しておきたい資料の例として、示談書案、和解契約書案、損害計算書、保険会社の提示書面、診断書、診療報酬明細書、通院交通費の資料、休業損害証明書、源泉徴収票、確定申告書、帳簿、売上資料、請求書、領収書、修理見積書、写真、交通事故証明書、関係するメール・契約書・入金明細などがあります。
弁護士に相談するタイミング
損害賠償金・示談金の課税関係は、損害項目の内訳や受領者の属性によって変わります。弁護士に相談することで結果が保証されるわけではありませんが、損害項目の整理や、確認すべき資料・手続の見通しを立てやすくなります。特に次のような場面では、示談前・合意前・受領前の段階で一度確認しておくことをおすすめします。
- 示談書・和解書に署名する前で、損害項目の内訳が固まっていないとき。
- 「解決金」「和解金」の内訳が不明で、後の処理が気になるとき。
- 事業損害や営業補償が含まれるとき。
- 個人事業者や法人が受け取るとき。
- 死亡事故で相続が絡むとき。
- 医療費控除や確定申告の前で、賠償金の扱いに迷うとき。
- 相手方や保険会社から提示された金額の損害項目が分からないとき。
なお、具体的な申告の要否や税額計算、税務申告の代理については、税務署や税理士等に確認が必要となる場合があります。
よくある質問(FAQ)
示談金には税金がかかりますか。
示談金という名称だけで課税・非課税は決まりません。慰謝料や治療費など心身の損害を補てんする部分は原則非課税と整理される場面がある一方、事業の収益補償や必要経費の補てんに当たる部分は課税関係に注意が必要です。費目の内訳により結論が変わります。
慰謝料は非課税ですか。
心身に加えられた損害に対する慰謝料は、原則として所得税が非課税と整理される場面があります(所得税法第9条第1項第18号等)。ただし、実質的に収入金額に代わるものや役務の対価となるものは除かれます。個別事情により異なる場合があります。
交通事故の休業損害や逸失利益は課税されますか。
給与所得者などが受け取る休業損害は、収益の補償として原則非課税と整理される場面があります。一方、個人事業者が事業の収益補償として受け取る部分は課税関係に注意が必要です。受領者の属性により扱いが異なります。
個人事業主が営業補償を受け取った場合は課税されますか。
営業補償や必要経費の補てんは、収入金額に代わる、または必要経費を補てんするものとして、事業所得の収入金額になり得ます。棚卸資産の損害賠償金も同様です。具体的な処理は資料を確認のうえ判断する必要があります。
法人が損害賠償金を受け取った場合は益金になりますか。
法人が受け取る損害賠償金は、原則として益金に算入されます。その支払を受けるべきことが確定した事業年度に算入するのが原則ですが、実際の支払日基準が認められる場合もあります(法人税基本通達2-1-43等)。
損害賠償金に消費税はかかりますか。
損害賠償金は通常、資産の譲渡等の対価に当たらず消費税の課税対象外です。ただし、棚卸資産の引渡し、無体財産権の侵害、事務所明渡し遅延など、実質的に対価に当たる場合は課税対象になり得ます(消費税基本通達5-2-5)。
死亡事故で遺族が受け取った賠償金に相続税はかかりますか。
被害者の死亡に対して支払われる損害賠償金を遺族が受け取った場合、相続税の対象とはなりません。所得税も原則かかりません。ただし、生存中に受取が確定していた損害賠償請求権は相続財産となり、相続税の対象となる場合があります。
示談書に内訳がない場合はどうすればよいですか。
「解決金」などの一括表示でも、その実質を説明できる資料があるかが重要です。示談・和解の段階で、慰謝料・休業損害・物損・営業損害などの費目を整理しておくと、後の税務・会計処理での確認がしやすくなります。
まとめ
- 賠償金・示談金は、名称ではなく「何の損害を補てんするものか」で課税関係が変わります。
- 心身の損害を補てんするもの(慰謝料・治療費・休業損害等)は、原則として非課税と整理される場面があります(所得税法第9条第1項第18号、所得税法施行令第30条)。
- 事業の収益補償・必要経費補てん・棚卸資産の損害・対価性のあるものは、課税関係に注意が必要です。
- 個人・個人事業者・法人・遺族で、適用される税目と考え方が異なります。
- 示談書・和解書では、損害項目ごとの内訳を整理しておくことが、後の税務・会計処理の前提になります。
- 具体的な申告の要否や税額、税務申告の代理については、税務署や税理士等への確認が必要となる場合があります。
- 示談前・合意前・受領前に、損害項目と資料を整理し、法的な見通しを確認しておくことをおすすめします。
賠償金・示談金の課税関係は、損害項目の内訳と受領者の属性によって変わります。示談前・合意前・受領前に損害項目を整理しておくことで、法的な見通しの検討や、税務署・税理士等へ確認すべき点の整理がしやすくなります。
監修・執筆
この記事は、神戸みらい法律会計事務所(弁護士法人ひょうご支所)が監修しています。当事務所では、弁護士による法的な検討に加え、会計・税務の視点をふまえた損害項目の整理にも対応しています。担当弁護士の経歴・取扱業務は、弁護士紹介ページをご覧ください。
参考資料

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