示談金・和解金・解決金・損害賠償金を受け取ることになったとき、「この金額に税金がかかるのか」「確定申告が必要なのか」と気になるところです。結論から申し上げると、被害者本人が受け取る治療費・慰謝料・休業損害・逸失利益には、原則として所得税はかからず、その金額を申告する必要もありません。もっとも、事業に関する損害を補てんする部分、法人が受け取る場合、遅延損害金、死亡事故で相続が関係する場合は、扱いが変わります。この記事では、どの部分が課税され、どの部分が課税されないのかを、法令・通達・国税庁の公表資料に沿って整理します。結論は個別の事情により変わりますので、実際の申告にあたっては資料の確認が必要です。
この記事で分かること
- 受け取った賠償金に所得税がかかるか、確定申告が必要かの考え方
- 本人の負傷による休業損害と、店舗の損壊などによる営業補償との違い
- 事業用資産・棚卸資産・必要経費の補てんで扱いが分かれる理由
- 法人の益金に算入する事業年度と、消費税で「課税の対象外」となる意味
- 死亡事故で遺族が受け取る金銭の区別と、医療費控除との調整
- 示談書に費目の内訳がない場合に残しておくべき資料
示談書案や損害計算書をもとに、受け取る金銭がどの損害に対応するものかを整理しておくと、その後の税務上の確認がしやすくなります。初回のご相談は無料です(事前のご予約をお願いしています。対象となる分野には条件があります)。
結論|原則として所得税はかからず、申告も不要です
心身に加えられた損害、または不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して受け取る損害賠償金は、原則として所得税が非課税とされています(所得税法第9条第1項第18号、所得税法施行令第30条)。交通事故の治療費、慰謝料、休業損害、後遺障害や死亡に関する損害賠償金は、これに当たります。非課税とされる賠償金は、その金額を所得として確定申告する必要もありません。受け取った金額が高額であることだけを理由に課税されるわけではありません(申告が必要になる別の事情については後述します)。
所得税について例外として課税される可能性があるのは、次の三つです。いずれも事業に関係します。
- 棚卸資産(商品)の損害に対する賠償金など、事業の収入金額に代わる性質をもつもの
- 事業の休止・転換・廃止などによる収益の補償として受け取る営業補償金
- 使用人の給料や店舗の賃料など、必要経費に算入される金額を補てんする部分
このほか、消費税では、資産の譲渡等の対価としての実質をもつものが課税の対象になります(後述します)。
| 受け取る金銭 | 前提となる事情 | 所得税の原則的な取扱い | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 治療費・入院費・通院交通費 | 本人の負傷に対するもの | かかりません | 医療費控除では、その給付の目的となった医療費から差し引きます |
| 傷害慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料 | 心身の損害を補てんするもの | かかりません | 高額であることだけを理由に課税されることはありません |
| 休業損害 | 本人の負傷による収益の補償。給与所得者か個人事業者かを問いません | かかりません | 必要経費を補てんする部分は別に検討します |
| 逸失利益 | 後遺障害・死亡による将来の減収 | かかりません | 死亡事故では相続税の扱いを別に確認します |
| 事業用でない資産の修理費・買替差額 | 自家用車など、突発的な事故による損害 | かかりません | 同じ車両でも事業用資産なら確認する点が増えます |
| 事業用の固定資産の損害 | 事業用の車両・店舗・設備の損害 | かかりません | 資産損失の計算で補てん額を差し引きます。修理費の補てん部分は別に確認します |
| 棚卸資産(商品)の損害 | 収入金額に代わる性質をもつもの | 事業所得の収入金額になります | 非課税にはなりません |
| 営業補償・収益補償 | 事業の休止・転換・廃止などによるもの | 事業所得の収入金額になります | 本人の負傷による休業損害とは区別します |
| 必要経費を補てんする部分 | 仮店舗の賃料、休業中の使用人の給料など | 事業所得の収入金額になります | 支払った賃料等は支払った年の必要経費になります |
| 見舞金 | 心身または資産の損害に対するもの | 社会通念上相当な範囲であればかかりません | 役務の対価としての性質をもつものは除かれます |
| 遅延損害金 | 元本の支払が遅れたことによるもの | 元本の性質と補てんの対象により個別に確認します | 元本と分けて計算書等を確認します |
判断の出発点は「名称」ではなく「何の損害を補てんするか」です
示談金・和解金・解決金は、支払の場面を表す呼び名にすぎず、同じ「解決金」でも、中身が慰謝料か、営業補償か、未払いの売上代金かによって扱いは変わります。所得税法施行令第30条は、第一号で「心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金」、第二号で「不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金」、第三号で「心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金」を挙げ、同条本文のかっこ書が、これらのうちに「必要経費に算入される金額を補塡するための金額」が含まれる場合には、その金額を控除した部分が非課税になると定めています。見舞金について「役務の対価たる性質を有するもの」を除く限定が置かれているのは第三号であり、慰謝料一般にこの限定がそのまま当てはまるわけではありません。
よくある誤解 「示談書に慰謝料と書いておけば非課税になる」という説明も、「賠償金はすべて非課税だから確認は不要」という説明も、正確ではありません。判断の対象は、合意書の名称ではなく、その金銭が実際にどの損害を補てんするものかです。
本人の負傷による休業損害は、個人事業者でも非課税です
「給与所得者か個人事業者か」で決まるわけではありません
「給与所得者の休業損害は非課税だが、個人事業者が受け取る収益の補償は課税される」という対比は正確ではありません。所得税法施行令第30条第一号は、心身に加えられた損害に対する賠償金に、「その損害に基因して勤務又は業務に従事することができなかつたことによる給与又は収益の補償として受けるものを含む。」とかっこ書で定めています。「業務に従事することができなかつたことによる収益の補償」が条文に明記されている以上、個人事業者が自らの負傷により働けなかったことについて受け取る収益の補償も、原則として非課税です。
区別すべきなのは、受け取る人の属性ではなく補てんの対象です。本人の心身の損害によって働けなくなったことによる収益の補償か、本人は負傷していないが店舗や設備の損壊により事業が止まったことによる収益の補償か、という区別になります。後者は所得税法施行令第94条第1項第二号の「当該業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金」に当たり、事業所得の収入金額になります。
| 場面 | 補てんの対象 | 所得税の原則的な取扱い | 確認する資料 |
|---|---|---|---|
| 飲食店を営む個人事業主が交通事故で負傷し、2か月休業した | 本人が負傷して業務に従事できなかったことによる収益の補償 | 非課税です(所得税法施行令第30条第一号のかっこ書) | 診断書、休業期間の分かる資料、前年の確定申告書・青色申告決算書 |
| 同じ事業主が、負傷はしていないが店舗に車両が突入して2か月休業した | 店舗の損壊という事業上の事由による収益の補償 | 事業所得の収入金額になります(所得税法施行令第94条第1項第二号) | 損害計算書、休業期間中の売上・経費の資料 |
| いずれの場合も、使用人の給料・店舗の賃料を補てんする部分 | 必要経費に算入される金額の補てん | 事業所得の収入金額になります(所得税法施行令第30条本文のかっこ書) | 賃金台帳、賃貸借契約書、支払の記録 |
この表の三つの場面は、いずれも休業による減収を補てんする点では共通しますが、条文上の位置付けが異なります。
必要経費を補てんする部分は、非課税から外れます
所得税基本通達9-19は、所得税法施行令第30条本文のかっこ書にいう「必要経費に算入される金額を補塡するための金額」を、「例えば、心身又は資産の損害に基因して休業する場合にその休業期間中における使用人の給料、店舗の賃借料その他通常の維持管理に要する費用を補塡するものとして計算された金額のようなものをいい」と説明しています。国税庁は、店舗の補修期間中に仮店舗を賃借するときの賃借料の補償を、その例として挙げています。
なお、加害者に対する賠償請求とは別に、損害保険契約に基づく所得補償保険金を受け取ることがあります。被保険者の傷害又は疾病により勤務又は業務に従事することができなかった期間の給与又は収益の補償として支払を受ける保険金は、所得税法施行令第30条第一号の「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」に該当するとされており(所得税基本通達9-22)、こちらも非課税です。制度は異なりますが、結論はいずれも非課税です。休業損害そのものの算定と資料については、給与所得者の休業損害の確認点を解説したコラムと退職・減収と逸失利益の立証を解説したコラムもあわせてご覧ください。
物の損害・棚卸資産・営業補償は、条文の根拠が分かれます
事故により事業用の車両を廃車とした場合、その車両の損害に対する損害賠償金は非課税です。ただし、資産損失の金額を計算する場合には、損失額から損害賠償金などによって補てんされる部分の金額を差し引きます(所得税法第51条第1項)。国税庁は、この場合について「損害賠償金などの金額がその損失額を超えたとしても、全額が非課税となります」と説明しています。所得税基本通達9-19も、同法第51条により損失の計算上控除される保険金・損害賠償金等は「必要経費に算入される金額を補塡するための金額」に含まれないとしています。資産損失の計算で差し引くことと、収入金額に算入することは別の処理です。他方、資産を修理してその修繕費を必要経費に算入する場合は、資産損失の計算の問題ではありません。修繕費など必要経費に算入される費用を補てんする部分が含まれていないかを、別に確認することになります。
よくある誤解 「事業用資産の賠償金は課税される」という一括した説明は正確ではありません。事業用の車両を廃車とするなど、資産損失として計算する場面では、賠償金は非課税で、資産損失の計算で補てん額を差し引きます。他方、棚卸資産の損害に対する賠償金や、修理費のように必要経費に算入される費用を補てんする部分は、非課税にはなりません。
| 受け取る金銭 | 主な根拠 | 所得税の取扱い | あわせて確認すること |
|---|---|---|---|
| 事業用の固定資産(車両・店舗・設備)の損害 | 所得税法第9条第1項第18号、所得税法施行令第30条第二号 | 非課税です | 所得税法第51条による資産損失の計算で補てん額を差し引きます。修理費など必要経費に算入される費用を補てんする部分は別に確認します |
| 棚卸資産(商品)の損害 | 所得税法施行令第94条第1項第一号 | 事業所得の収入金額になります | 損害を受けた商品を加害者に引き渡す場合は消費税の扱いも確認します |
| 営業補償・収益補償 | 所得税法施行令第94条第1項第二号 | その業務に係る所得の収入金額になります | 本人の負傷による収益の補償と区別します |
| 必要経費を補てんする部分 | 所得税法施行令第30条本文のかっこ書、所得税基本通達9-19 | 事業所得の収入金額になります | 仮店舗の賃借料は支払った年の必要経費になります(費用の種類により計上する年は異なります) |
なお、所得税法施行令第94条第1項は、不動産所得・事業所得・山林所得・雑所得を生ずべき業務を行う居住者が受けるもので、その業務の遂行により生ずべきこれらの所得に係る収入金額に代わる性質を有するものを対象としています。事業所得に限られるわけではありません。営業損害そのものの計算や請求の進め方は、事業者の営業損害の計算と請求を解説したコラムで整理しています。
和解金・解決金と遅延損害金は、中身を分けて確認します
一括の「解決金」に何が含まれているか
費目を分けずに「解決金」として一括の金額を定めることがありますが、課税関係はその金銭が実際に何を補てんするものかで判断されます。労働事件の和解金には、未払賃金に相当する部分、退職に伴って支払われる部分、ハラスメントによる心身の損害に対する慰謝料などが混在することがあります。未払賃金に相当する部分は給与所得(所得税法第28条第1項)、退職により一時に受ける給与の性質をもつ部分は退職所得(同法第30条第1項)として扱われる余地がありますが、退職に伴って支払われる金銭がすべて退職所得になるとは限りません。源泉徴収の要否も、名称ではなく所得区分と支払の関係によって決まります。
交通事故の休業損害と労働基準法上の給付との混同にもご注意ください。国税庁は、使用者の責めに帰すべき事由による休業に支給される労働基準法第26条の休業手当は給与所得となり、同法第8章(災害補償)の規定により受ける療養のための給付等は非課税所得となる、と説明しています。同じ「休業」でも、根拠となる制度が異なれば結論も異なります。なお、離婚に伴う金銭は、心身の損害に対する慰謝料と、夫婦の財産関係の清算としての財産分与とで適用される規定が異なります。財産分与は別の論点ですので、この記事では扱いません。
遅延損害金は、元本と分けて確認します
「利息に似ているので利子所得になる」「元本が非課税なら遅延損害金も非課税になる」「遅延損害金はすべて雑所得になる」といった一律の説明は、いずれも正確ではありません。公表されている判断例も、対象となった金銭の性質によって結論が分かれています。
| 判断の主体と年月日 | 対象となった金銭 | 遅延損害金の取扱い | 出典 |
|---|---|---|---|
| 国税不服審判所 平成22年4月22日裁決 | 賃金の格差に係る損害賠償金(実質は労務の提供に対する対価として支給されるべきものとされた)の遅延損害金 | 雑所得に当たるとされました | 裁決事例集No.79 |
| 同じ事案の別の費目 | 弁護士費用の賠償金(支出を余儀なくされた財産的損害の補てんとされた)の遅延損害金 | 非課税所得に当たるとされました | 裁決事例集No.79 |
| 東京地方裁判所 令和5年11月30日判決 | 預金の返還請求権に係る遅延損害金を含む和解金から分配を受けた金銭 | 雑所得の収入金額に当たるとされました | 国税庁が公表する訟務資料 |
このうち東京地方裁判所の判決は第一審の判断であり、公表資料上は控訴がされています。いずれも、交通事故などの人身損害に対する賠償金を直接扱ったものではなく、確認できた公表資料の中に、人身損害の賠償金に付された遅延損害金を正面から扱ったものは見当たりませんでした。実務上は、判決主文、和解条項、保険会社や相手方の計算書で、元本と遅延損害金の別、計算期間と利率を確認することが出発点になります。なお、所得税の所得区分の問題と、消費税で対価性がないために課税の対象外となるかどうかの問題は、別の判断です。
法人が受け取る場合は、益金に算入する事業年度を確認します
法人が受け取る損害賠償金は、個人の所得税の非課税規定とは関係がなく、原則として益金に算入されます(法人税法第22条第2項)。実務で問題になるのは、どの事業年度の益金に算入するかです。
| 場面 | 根拠となる通達 | 益金に算入する事業年度 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含みます) | 法人税基本通達2-1-43 | 支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度が原則です。実際に支払を受けた日の属する事業年度に算入している場合には、これが認められます | 通達に、継続して適用することを要件とする文言は置かれていません |
| 営業補償金・経費補償金等の名目で支払を受ける金額 | 法人税基本通達2-1-40 | その支払を受けた日の属する事業年度です | 将来の逸失利益や将来生ずる費用・損失の補てんを目的とするものでも、将来の事業年度に配分することはできません |
| 損害賠償請求の基因となった損害に係る損失 | 法人税基本通達2-1-43の(注) | 保険金又は共済金により補塡される部分の金額を除き、その損害の発生した日の属する事業年度の損金に算入することができます | 保険金・共済金による補てんと、第三者に対する賠償請求権とは区別します |
この二つの通達は対象とする金銭が異なります。「営業補償金も確定した事業年度に算入するのが原則である」という説明や、「継続して適用することを条件に支払日を基準とすることが認められる」という説明は、通達の文言に対応していません。また、会計上いつ収益として認識するか、税務上いつ益金に算入するか、損失をいつ損金に算入するかは、それぞれ別に整理します。具体的な仕訳や申告調整は、確定の時期、入金の時期、消費税の経理方法などの前提により変わりますので、顧問税理士にご確認ください。
消費税は「非課税」ではなく「課税の対象外」です
消費税は、国内において事業者が行った資産の譲渡等に課されます(消費税法第4条第1項)。心身または資産に加えられた損害の発生に伴って受ける損害賠償金は、通常、資産の譲渡等の対価に当たらないため、課税の対象になりません。これは消費税法が列挙する非課税取引に当たるという意味ではなく、そもそも課税の対象の外にあるという意味です。所得税の「非課税」、消費税の「課税の対象外」、消費税法上の「非課税取引」、免税事業者の納税義務の免除は、それぞれ別の概念です。
もっとも、消費税法基本通達5-2-5は、実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものとして、次の三つを挙げています。
- 損害を受けた棚卸資産等が加害者に引き渡される場合で、その棚卸資産等がそのまま又は軽微な修理を加えることにより使用できるときに、当該加害者から当該棚卸資産等を所有する者が収受する損害賠償金
- 無体財産権の侵害を受けた場合に、加害者からその権利者が収受する損害賠償金
- 不動産等の明渡しの遅滞により、加害者から賃貸人が収受する損害賠償金
一つ目は、損害を受けた資産が加害者に引き渡され、かつ、そのまま又は軽微な修理で使用できる場合に限られます。三つ目について国税庁のタックスアンサーは「事務所の明渡しが遅れた場合」を例示していますが、通達の文言は「不動産等の明渡しの遅滞」です。いずれも、その場面を離れて一般化できるものではありません。他方で、この三つは例示であり、これ以外にも実質が資産の譲渡等の対価と認められるものは課税の対象になります。判定は名称ではなく実質によります。
キャンセル料について国税庁は、解約手続などの事務を行う役務の提供の対価に相当する部分は課税の対象となり、逸失利益を補てんする損害賠償金に相当する部分は課税の対象とならないとしたうえで、両者が区分されていない場合にはその全額を不課税として取り扱うこととされている、と説明しています。この取扱いはキャンセル料についてのものであり、和解金を一括の金額として表示すれば全額が課税の対象外になるという一般原則ではありません。
所得税や法人税では収入金額・益金になるものが、消費税では課税の対象外になることがあります。営業補償金は、事業所得の収入金額または法人の益金になりますが、資産の譲渡等の対価ではないため消費税の課税の対象にはなりません。受け取った賠償金の課税判定と、修理業者に支払った修理代金の消費税の処理も別に検討します。
死亡事故では、受け取る金銭を四つに分けて考えます
「遺族が受け取る金銭はすべて非課税」という説明は正確ではありません。少なくとも次の四つを区別します。
| 受け取る金銭 | 位置付け | 税目と原則的な取扱い | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 被害者の死亡に対して支払われる損害賠償金 | 遺族が受け取るもの | 相続税の対象とはならず、所得税も原則としてかかりません | 遺族間の配分は、各請求権が誰に帰属するかによります |
| 生前に受け取ることが確定していたが、受け取らないうちに死亡した損害賠償金 | 被相続人が有していた債権 | 相続財産として相続税の対象になります | 「生前に確定していなければ相続税の対象外」と一般化することはできません |
| 生前に受け取り、相続開始時に残っている預貯金等 | 被相続人の財産 | 相続財産として相続税の対象になります | 賠償金が原資であっても、相続開始時の財産であることに変わりはありません |
| 生命保険契約に基づく死亡保険金 | 保険契約に基づく給付 | 被保険者・保険料の負担者・保険金受取人の関係により、相続税・所得税(一時所得)・贈与税のいずれかの対象になります | 損害賠償金とは別の制度です。契約内容の確認が必要です |
国税庁は、被害者の死亡に対して支払われる損害賠償金について、相続税の対象とはならず、所得税も原則としてかからないとしています。他方で、事業用資産の損害に対する損害賠償金などは、その支払われる原因により、被害者のその年の死亡の時点までの所得金額の計算に含める必要があるものもあるとしています。被害者が個人事業者であった場合は、この点の確認が必要です。
相続税の課税対象となることと、実際に申告・納税が必要になることも別です。基礎控除額などを踏まえ、相続財産全体を確認したうえで判断します。また、民法上の請求権の帰属・承継と相続税上の取扱いは同じとは限りません。賠償金が遺族の代表者名義の口座に振り込まれたというだけで、その全額がその方の固有の財産になるわけでもありませんので、遺族の間で配分するときは、各請求権の帰属と配分の根拠となる資料を確認してください。名目上の配分を決めれば税務上の問題がすべて解消するわけではありません。遺産分割の手続と資料は、遺産分割協議書に署名する前のチェックリストで整理しています。
確定申告の要否と、医療費控除との調整
非課税の賠償金は、申告の対象になりません
非課税とされる損害賠償金については、原則として、その金額を所得税の課税所得として申告する必要はありません。そのうえで、その年に確定申告が必要かどうかは、給与以外の所得の有無や各種控除の適用を受けるかどうかなど、賠償金とは別の事情によって判断します。
課税される部分がある場合に確認する三点
棚卸資産の損害に対する賠償金、営業補償、必要経費を補てんする部分など、課税される部分がある場合は、①どの所得(事業所得、雑所得など)に区分されるか、②どの年分・どの事業年度に計上するか、③支払の際に源泉徴収がされているか、の三点を確認します。源泉徴収の有無は金銭の名称ではなく所得区分と支払の関係によって決まりますので、支払調書や振込の明細で確認してください。
医療費控除では、その医療費から差し引きます
医療費控除を受ける場合、治療費として受け取った金額は医療費を補てんする金額に当たりますので、支払った医療費から差し引いて計算します(所得税法第73条)。国税庁は、「保険金などで補てんされる金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きますので、引ききれない金額が生じた場合であっても他の医療費からは差し引きません」と説明しています。慰謝料や休業損害まで含めた受領額の全額を医療費から差し引く、という説明は正確ではありません。
医療費を補てんする保険金等の額が申告の時点で確定していない場合について、国税庁は、受け取る額を見積もってその見積額を支払った医療費から控除し、後日その確定額が見積額と異なることとなったときは、遡ってその年分の医療費控除額を訂正する、としています(所得税基本通達73-10)。訂正を修正申告と更正の請求のいずれによるかは、税額が増えるか減るかによって異なりますので、確定額が判明した段階で税務署又は税理士にご確認ください。
示談前に確認しておきたいこと
示談書や和解条項に費目の内訳を書いておくことは、その金銭がどの損害を補てんするものかを説明するうえで有用です。もっとも、当事者が合意した名称や内訳だけで課税関係が確定するわけではなく、税務上の判断を拘束するものでもありません。実際の損害と異なる費目に振り替えたり、後から内訳を作り直したり、税負担の軽減だけを目的として不自然な配分をしたりすることは適切ではありません。税務上の整理のために、本来請求できる損害の一部を放棄したり、事実と異なる内容を認めたりする必要もありません。交渉上、費目を分けずに一括で解決することが適切な場合もありますので、その場合は、金銭の実質を後から合理的に説明できる資料を残しておくことが現実的な対応です。
- 受け取る金銭が、どの損害を補てんするものかを確認したか
- 心身の損害に対する部分と、事業に関する部分が混在していないか
- 使用人の給料・店舗の賃料など、必要経費を補てんする部分が含まれていないか
- 棚卸資産の損害や、損害を受けた資産を相手方に引き渡す約定が含まれていないか
- 遅延損害金が含まれている場合、元本と区別して計算されているか
- 支払を受けるべきことが確定した日と、実際の入金予定日を確認したか
- すでに必要経費や損失として計上した費用に対応する補てんがないか
- 治療費を補てんする金額が、医療費控除の対象となる医療費と対応しているか
- 源泉徴収の有無について、支払者に確認できているか
- 死亡事故の場合、各請求権が誰に帰属するのかを確認したか
ご相談の際は、示談書案・和解条項案・判決書、損害計算書、保険会社の提示書面、入金の明細をお持ちください。事業に関する損害があれば帳簿・確定申告書・経費の資料を、医療費控除が問題になる場合は医療費の領収書と補てん額の分かる資料を追加でご用意ください。最初からすべての資料をそろえていただく必要はありません。示談案そのものの確認点は交通事故の示談案で確認すべき項目を解説したコラム、示談成立前に受け取る金銭の扱いは内払いと自賠責の仮渡金請求を解説したコラムで整理しています。
弁護士に相談すること、税理士・税務署に確認すること
弁護士にご相談いただくのは、どのような請求権があるか、損害項目をどう立てるか、示談条件をどう定めるか、どの証拠を確保するか、という法律上の検討です。示談書案や損害計算書を確認し、内訳の書き方や、後日の説明に備えて残すべき資料を整理することができます。他方、具体的な所得区分、税額の計算、確定申告や法人の申告の代理、消費税の経理処理は、税務署又は税理士にご確認ください。この記事も一般的な情報提供であり、個別の申告内容についての助言ではありません。
示談書に署名する前、和解条項を確定させる前、金銭を受領する前の段階でご相談いただくと、確認できることが多くなります。すでに受領された後でも、資料を確認して論点を整理することはできます。
示談書に署名する前に、損害項目を確認しておきたい方へ
示談書案・和解条項案と損害計算書をお持ちいただければ、費目の立て方、遅延損害金の扱い、事業に関する補償の有無など、署名前に確認しておきたい点を整理します。ご予約の際に、受け取る予定の金額と相手方(保険会社の場合は担当者名)をお知らせいただくと、確認が早く進みます。
よくある質問
交通事故の示談金を受け取りました。確定申告は必要ですか。
治療費・慰謝料・休業損害・逸失利益など、心身に加えられた損害を補てんする部分は非課税ですので、申告の対象にはなりません。ただし、事業に関する補償が含まれる場合や、賠償金とは別に申告が必要な所得・控除がある場合は、申告が必要になることがあります。
個人事業主です。負傷して働けなかった期間の休業損害にも税金がかかりますか。
原則としてかかりません。所得税法施行令第30条第一号は、心身に加えられた損害に対する賠償金に、その損害によって業務に従事することができなかったことによる収益の補償を含むと定めています。ただし、休業期間中の使用人の給料や店舗の賃料を補てんする部分は、事業所得の収入金額になります。
店舗に車が突っ込み、休業期間の営業補償を受け取りました。扱いは同じですか。
同じではありません。本人が負傷したのではなく、事業上の事由により休業したことによる収益の補償は、所得税法施行令第94条第1項第二号により事業所得の収入金額になります。同じ「休業に対する補償」でも、本人の負傷によるものかどうかで結論が分かれます。
遅延損害金にも税金がかかりますか。
一律には決まりません。公表されている判断例では、労務の対価としての性質をもつ損害賠償金の遅延損害金が雑所得とされた一方、弁護士費用の賠償金の遅延損害金は非課税所得とされています。人身損害の賠償金の遅延損害金を正面から扱った公表資料は確認できませんでした。元本と区別して計算内容を確認することが出発点になります。
法人が損害賠償金を受け取りました。いつの事業年度の益金になりますか。
損害賠償金は、支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度に算入するのが原則で、実際に支払を受けた日の属する事業年度に算入している場合にはこれが認められます(法人税基本通達2-1-43)。他方、営業補償金・経費補償金等の名目で支払を受けた金額は、支払を受けた日の属する事業年度の益金になります(同2-1-40)。
受け取った損害賠償金に消費税はかかりますか。
通常は資産の譲渡等の対価に当たらないため、課税の対象になりません。これは「非課税取引」ではなく「課税の対象外」です。ただし、損害を受けた棚卸資産等を加害者に引き渡し、その資産がそのまま又は軽微な修理で使用できる場合、無体財産権の侵害、不動産等の明渡しの遅滞については、対価に当たるとされています。
死亡事故で受け取った賠償金に相続税はかかりますか。
被害者の死亡に対して支払われる損害賠償金を遺族が受け取った場合、相続税の対象にはならず、所得税も原則としてかかりません。ただし、被相続人が生前に受け取ることが確定していた損害賠償金を受け取らないうちに死亡した場合は、その債権が相続財産となり相続税の対象になります。死亡保険金はこれらとは別の制度です。
示談書に「解決金」としか書かれていません。どうすればよいですか。
名称だけで課税関係が決まるわけではありませんので、金銭の実質を説明できる資料を残してください。請求書、損害計算書、保険会社の提示書面、交渉の経過が分かる記録、判決や和解調書などが考えられます。実際の損害と異なる内訳を後から作成することは適切ではありません。
まとめ
- 被害者本人が受け取る治療費・慰謝料・休業損害・逸失利益は、原則として所得税がかからず、申告の対象にもなりません。
- 本人の負傷による収益の補償は、給与所得者でも個人事業者でも非課税です。区別すべきは受け取る人の属性ではなく、補てんの対象です。
- 事業用の固定資産の損害に対する賠償金は非課税で、資産損失の計算で補てん額を差し引きます。棚卸資産の損害、営業補償、必要経費の補てんは事業所得の収入金額になります。
- 法人が受け取る場合は益金に算入され、損害賠償金と営業補償金等とで、益金に算入する事業年度の考え方が分かれます。
- 消費税では通常「課税の対象外」です。所得税の非課税、消費税の非課税取引、免税事業者の納税義務の免除は、それぞれ別の概念です。死亡事故では、死亡に対する賠償金、生前に確定していた債権、受領済みの預貯金、死亡保険金を区別します。
- 示談書の名称や内訳だけで課税関係が確定するわけではありません。金銭の実質を説明できる資料を残し、税額の計算や申告の代理は税務署又は税理士にご確認ください。
示談前に、受け取る金銭の内訳を整理しませんか
示談書案・損害計算書・保険会社の提示書面をお持ちいただければ、受け取る金銭がどの損害に対応するものか、どの部分について税務上の確認が必要かを整理してご説明します。事業に関する損害が含まれる場合は、帳簿や確定申告書もあわせてご確認ください。初回のご相談は無料です(事前のご予約をお願いしています)。ご予約をいただければ、営業時間外・土日祝のご相談にも対応しています。
この記事の監修者
代表弁護士・公認会計士 藤井 貴之
兵庫県弁護士会所属/日本公認会計士協会兵庫会所属
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
遺産相続、交通事故、労働、債務整理、企業法務、M&A等に対応しています。損害賠償の場面では、損害項目の整理と資料の確認を行います。
〒654-0154 神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階
参考資料
- 国税庁タックスアンサー No.1700 加害者から治療費、慰謝料及び損害賠償金などを受け取ったとき
- 国税庁タックスアンサー No.2201 個人事業者が事業所得の必要経費を補てんするための損害賠償金を受け取ったとき
- 国税庁タックスアンサー No.1705 遺族の方が損害賠償金を受け取ったとき
- 国税庁タックスアンサー No.4111 交通事故の損害賠償金
- 国税庁タックスアンサー No.1750 死亡保険金を受け取ったとき
- 国税庁タックスアンサー No.1905 労働基準法の休業手当等の課税関係
- 国税庁タックスアンサー No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
- 国税庁質疑応答事例 医療費を補填する保険金等が未確定の場合
- 国税庁タックスアンサー No.6257 損害賠償金(消費税)
- 国税庁タックスアンサー No.6253 キャンセル料
- 国税庁 所得税基本通達(第9条関係) 9-19・9-22の掲載ページ
- 国税庁 法人税基本通達 第7款 その他の収益等(2-1-40・2-1-43)
- 国税庁 消費税法基本通達 第2節 資産の譲渡の範囲(5-2-5 損害賠償金)
- 国税不服審判所 平成22年4月22日裁決(裁決事例集No.79)
- 国税庁 訟務資料 東京地方裁判所令和5年11月30日判決
- e-Gov法令検索 所得税法
- e-Gov法令検索 所得税法施行令
この記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案についての法律上・税務上の助言ではありません。結論は、受け取る金銭の内容、資料の有無、事業の有無などの個別事情により異なります。記載の内容は、令和8年(2026年)9月18日に確認した法令・通達・国税庁の公表資料に基づいています。法令や取扱いは改正されることがありますので、実際の申告にあたっては税務署又は税理士にご確認ください。

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