交通事故で腹部に強い衝撃を受け、緊急手術のあとに人工肛門(ストーマ)を造設された。あるいは、小腸や大腸を切除したあと、下痢、体重の減少、腸のつまりやすさ、便失禁が続いている。入院中や退院直後は治療のことで精一杯で、賠償まで考えられないというのが実際のところだと思います。
しかし、症状固定や後遺障害の申請、示談の場面では、次のようなことが現実に起こります。手術記録に残った腸の長さが書かれていない。ストーマが永久的なものかどうかが診断書から読み取れない。示談案に将来のパウチ代が一円も計上されていない。身体障害者手帳が4級だったので、自賠責も同じ程度だろうと考えていた。
この記事では、交通事故により人工肛門が造設された方、腸管切除後の機能障害が残った方とそのご家族に向けて、次の点を整理します。
- 人工肛門・腸管切除で後遺障害等級を検討する枠組みと、認定基準が定める具体的な要件
- 等級の検討で確認される医学資料と、早い段階で確保しておきたい記録
- 将来のストーマ装具・ケア用品費を損害として検討する際の要件と、計算の組み立て方
- 身体障害者手帳や神戸市のストーマ装具給付と、自賠責の後遺障害等級との違い
- 後遺障害診断書の作成前と示談書への署名前に確認しておきたい事項
先に結論の方向性をお伝えします。人工肛門があるという一事だけで等級が決まることはありません。等級が認定されたからといって、将来のパウチ代が当然に全額認められるわけでもありません。いずれも、医療記録と購入の記録に支えられて初めて主張できるものです。
症状固定や後遺障害の申請が近い段階、保険会社から示談案が届いた段階のいずれでも、資料がそろっているうちに一度整理しておくことで、あとの検討がしやすくなります。
先に押さえておきたい六つのこと
- 認定基準は、腸の状態を六つの類型に分けています。人工肛門、切除、腸管皮膚瘻、狭窄、便秘、便失禁です。どの類型で検討するかによって、必要な資料が変わります。
- 小腸の切除は、切除した長さではなく「残っている長さ」が基準です。手術記録に切除した長さしか書かれていないことは珍しくありません。
- 切除によって人工肛門を造設した場合は、人工肛門の項目で認定されます。切除の等級と人工肛門の等級を足し合わせる整理ではありません。
- 狭窄と便秘には、画像所見を含む具体的な要件が定められています。症状の訴えだけでは足りません。
- 将来のストーマ装具費は、慰謝料や逸失利益とは別の損害項目です。示談案に立っているかをご確認ください。
- 自賠責の等級、身体障害者手帳の等級、障害年金の等級は別の制度です。同じ数字でも意味が異なります。
この記事は、後遺障害と損害賠償に関する一般的な整理です。実際の結論は、事故の態様、受傷内容、治療経過、症状固定時に残った障害、就労状況、そろえられた資料によって異なります。診断、治療方針、ストーマ閉鎖の可否その他の医学的な判断は、主治医にご確認ください。
人工肛門と腸管切除の基礎知識
ストーマ(人工肛門)とは
ストーマは、手術によって腹部に造られた排泄物の出口をいいます。国立がん研究センター中央病院の解説では、ストーマの原意はギリシャ語で「口」であり、医学的には手術で身体に造った腸管や尿管の開口部を指すとされています。このうち便の出口として造られたものが人工肛門(消化管ストーマ)で、尿の出口として造られたもの(尿路ストーマ、いわゆる人工膀胱)とは区別されます。一般向けには「人工肛門」、医療や福祉の制度では「ストーマ」「ストマ」の語が使われますが、内容は同じです。
人工肛門には括約筋がないため、排便を我慢する調節ができません。そのため腹部に装具(面板とパウチ)を貼り付けて便を受け止め、定期的に処理と交換を行います。同院の解説は、ストーマ周囲の皮膚は常に刺激にさらされているためトラブルを起こしやすいとしています。この皮膚の状態は、後述のとおり等級の検討に直接かかわります。
結腸ストーマと回腸ストーマの違い
消化管ストーマは、造設する腸の部位によって性質が異なります。公益社団法人日本オストミー協会の解説によれば、結腸ストーマ(コロストミー)は腹部の左側に造られ、便は形のあるものになります。回腸ストーマ(イレオストミー)は腹部の右側に造られ、便は水様から泥状で、1日5回から8回はパウチから出すことになるとされています。同協会は、回腸ストーマでは消化酵素が皮膚に付着するとただれの原因になるため、装具による保護が重要であると説明しています。
この違いが賠償の場面で意味を持つ理由 便の性状と量は、装具の交換頻度、必要なケア用品の種類、皮膚トラブルの起こりやすさに直結します。将来の装具費を検討するときも、皮膚のびらんによる装具装着の可否を検討するときも、造設された部位が出発点になります。診断書や手術記録の記載をご確認ください。
永久的なストーマと一時的なストーマ
ストーマには、閉鎖が予定されていない永久的なものと、腸の縫合部が落ち着いた段階で閉鎖して肛門からの排便に戻すことが予定されている一時的なものがあります。日本オストミー協会の解説も、肛門を残す場合には一時的ストーマを造設し、数か月後に閉鎖術を受けることがあると説明しています。この区別は、後遺障害の検討でも福祉制度の利用でも出発点になります。身体障害認定基準にも「障害認定の対象となるストマは、排尿・排便のための機能をもち、永久的に造設されるものに限る。」と明記されています。
ストーマを閉鎖できるかどうか、いつ閉鎖するか、再建手術を行うかどうかは、腸の状態、全身状態、合併症の危険性などを踏まえて主治医が医学的に判断する事項です。後遺障害の認定を有利にするために閉鎖手術を遅らせる、医学的に可能な再建手術を受けないといった判断は、健康上の不利益をもたらすおそれがあり、適切ではありません。弁護士が整理できるのは、主治医の判断を前提として、それが法的にどのような意味を持ち、どの資料が必要になるのかという点にとどまります。
小腸切除と大腸切除で残り得る障害
小腸(十二指腸・空腸・回腸)は主に栄養と水分の吸収を担い、大腸(結腸・直腸)は主に水分の吸収と便の形成を担います。小腸を大きく切除すると、下痢、体重の減少、栄養状態の低下といった消化吸収障害が問題になることがあります。大腸を大きく切除すると、便がゆるくなる、排便の回数が増えるといった変化が生じることがあります。このほか、腸の内容物が腹壁の瘻孔から漏れ出る腸管皮膚瘻、腸の一部が狭くなって通過が悪くなる狭窄、排便反射を支配する神経の損傷などによる便秘や便失禁が、それぞれ別の類型として検討されます。
なお、医学上の「症状固定」と、保険会社が治療費の対応を打ち切る時期は別のものです。治療費の支払終了を告げられたことが、そのまま医学的な症状固定を意味するわけではありません。この点は症状固定と言われたときに確認したいことを見るで整理しています。
人工肛門・腸管切除の後遺障害等級
等級表と認定基準の関係を先に整理する
この分野は、三つの資料の関係を押さえておくと分かりやすくなります。第一に、自動車損害賠償保障法施行令の別表第一・別表第二(後遺障害等級表)です。政令として等級・号数と障害の内容を定めた法令上の表であり、人工肛門や腸管切除は「胸腹部臓器」に関する号に位置づけられます。第二に、自賠責保険の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号、最終改正 令和元年告示第3号)です。同基準は「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う。」と定めています。第三に、その参照先である労災保険の障害等級認定基準で、腹部臓器については厚生労働省の「胸腹部臓器の障害に関する障害等級認定基準について」(平成18年1月25日基発第0125002号)が、残った腸の長さや漏出量といった具体的な要件を定めています。
法令上の等級表は自賠法施行令にあり、当てはめの物差しとして労災の認定基準が参照される、という関係です。両者は別の制度であり、労災の基準が当然に直接適用されるわけではありませんが、実務上はこれを前提に検討が進みます。
注意していただきたいのは、労災保険と自賠責保険とでは号数の付け方が異なる点です。労災の認定基準にいう「第9級の7の3」は自賠法施行令別表第二の「第9級第11号」に、労災の「第1級の4」は別表第一の「第1級第2号」にあたります。条文の文言は同じでも号数は一致しません。インターネット上の解説には、労災側の号数をそのまま自賠責の号数として掲載しているものが見受けられます。書面を作成する際は、どちらの制度の話なのかを必ず確認してください。
| 等級・号数 | 法令上の文言 |
|---|---|
| 別表第一 第1級第2号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
| 別表第一 第2級第2号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
| 別表第二 第3級第4号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
| 別表第二 第5級第3号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
| 別表第二 第7級第5号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
| 別表第二 第9級第11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
| 別表第二 第11級第10号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
| 別表第二 第13級第11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの |
認定基準は、腹部臓器の障害について「以下の臓器ごとに、その機能の低下の程度等により、各々認定すること。」としたうえで、腸については人工肛門、切除、腸管皮膚瘻、狭窄、便秘、便失禁の類型ごとに要件を定めています。
永久的な人工肛門を造設した場合
認定基準は、人工肛門を造設したものについて二つの場合を分けています。小腸・大腸のいずれについても同じ構造です。第一に、腸内容が漏出することによりストーマ周辺に著しい皮膚のびらんを生じ、パウチ等の装着ができないもの。これは自賠法施行令別表第二の第5級第3号に対応します。第二に、これに該当しないもの。こちらは第7級第5号に対応します。
つまり、まず第7級に相当する内容にあたるかを検討し、そのうえで皮膚のびらんによって装具の装着ができない状態といえるかを検討する順序になります。実際の判断は、医療記録の記載内容、事故との因果関係、症状固定時の状態によって変わります。
パウチ等の装着ができない場合
上位の等級が問題になるのは、「ストーマ周辺に著しい皮膚のびらんを生じ、パウチ等の装着ができない」といえる場合です。一時的に皮膚が荒れた程度では足りず、継続的な状態として記録に残っていることが前提です。皮膚トラブルが続いている場合、次の記録が重要になります。
- ストーマ外来や皮膚・排泄ケア認定看護師(WOC看護師)による処置・指導の記録
- 皮膚のびらんに対する治療の経過が分かる診療録と処方内容
- 装具の交換頻度が通常より著しく多くなっていることが分かる購入履歴
- 装具の種類や貼付方法を変更・試行した経過が分かる記録
ストーマ周囲の写真は、医療機関で医療上の必要から撮影・記録されているものがあれば、それが最も客観性の高い資料になります。ご自身で撮影する場合も、医療者にご相談のうえ必要な範囲にとどめてください。
小腸を大量に切除した場合
小腸の切除について、認定基準は、切除した長さではなく残存する空腸及び回腸の長さを基準としています。誤解が生じやすいところです。
| 障害の類型 | 等級を検討する際の主な状態 | 確認が必要な医学資料・所見 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 小腸の大量切除 | 残存する空腸及び回腸の長さが100センチメートル以下となったもの。別表第二第9級第11号に対応します。 | 手術記録、退院時要約、残存腸管長の記載、切除範囲の図示 | 「以下」であり「未満」ではありません。切除した長さではなく残った長さが基準です。 |
| 小腸の大量切除(消化吸収障害を伴うもの) | 残存する空腸及び回腸の長さが100センチメートルを超え300センチメートル未満であって、かつ消化吸収障害が認められるもの。別表第二第11級第10号に対応します。 | 体重の推移、BMI、血液検査(栄養状態)、外来での経過記録 | 長さの要件に加え、消化吸収障害の立証が別に必要です。 |
ここでいう消化吸収障害について、認定基準は「低体重等が認められるもの」とし、低体重等とはBMIが20以下であるものをいうと定めています。ただし、受傷前からBMIが20以下であった方については、受傷前よりも体重が10パーセント以上減少したものをいうとされています。事故前の体重が分かる資料(健康診断の結果、以前の診療録など)が意味を持つことがあります。
切除によって人工肛門を造設した場合 認定基準は、小腸を切除したことにより人工肛門を造設したものについて、人工肛門の項目により認定することと定めています。大腸についても同じ定めが置かれています。切除の基準と人工肛門の基準を足し合わせるという整理ではありません。
大腸を大量に切除した場合
大腸については、結腸のすべてを切除するなど大腸のほとんどを切除したものが、別表第二第11級第10号に対応します。小腸と異なり、残った長さを数値で区切る基準は設けられていません。
注意が必要なのは、大腸の一部を切除しただけで当然に等級が認められる整理にはならない点です。認定基準の腸の項目には、切除のみを理由とする第13級の区分は置かれていません。部分切除という事実だけから等級を導くことはできず、残った機能障害、客観的な所見、労務への支障を個別に検討する必要があります。
腸管皮膚瘻・狭窄・便秘・便失禁が残った場合
人工肛門や切除以外にも四つの類型が定められています。狭窄と便秘については、症状の訴えだけでは足りず、画像所見を含む具体的な要件が置かれている点が重要です。
| 障害の類型 | 等級を検討する際の主な状態 | 確認が必要な医学資料・所見 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 腸管皮膚瘻 | 腸内容の全部又は大部分が漏出するもののうち、著しい皮膚のびらんによりパウチ等による維持管理が困難なものは第5級第3号、それ以外は第7級第5号。漏出量がおおむね1日100ミリリットル以上のものは、維持管理が困難なものが第7級第5号、それ以外が第9級第11号。少量ではあるが明らかに漏出する程度のものは第11級第10号に対応します。 | 漏出量の記録、装具装着の状況、皮膚所見、処置の記録 | 漏出量と維持管理の可否の二つの軸で判断されます。 |
| 腸管の狭窄 | 小腸・大腸のいずれについても第11級第10号に対応します。小腸の狭窄は、1か月に1回程度の腹痛・腹部膨満感・嘔気・嘔吐等の症状と、単純エックス線像におけるケルクリングひだ像のいずれにも該当することが要件とされています。大腸の狭窄は、1か月に1回程度の腹痛・腹部膨満感等の症状と、単純エックス線像において貯留した大量のガスにより結腸膨起像が相当区間認められることのいずれにも該当することが要件とされています。 | 単純エックス線像とその読影所見、症状の頻度が分かる診療録 | 症状だけでも画像だけでも要件を満たしません。 |
| 便秘 | 用手摘便を要すると認められるものは第9級第11号、それ以外は第11級第10号に対応します。ここでいう便秘は、排便反射を支配する神経の損傷がMRI、CT等により確認できることと、排便回数が週2回以下の頻度であって恒常的に硬便であると認められることのいずれにも該当するものとされています。 | MRI・CTと読影所見、排便回数と便の性状の記録、用手摘便の要否に関する医師の所見 | 神経損傷が画像で確認できることが要件に含まれます。便秘を原因とする頭痛・悪心・嘔吐・腹痛等の症状は、この評価に含まれるとされています。 |
| 便失禁 | 完全便失禁を残すものは第7級第5号、常時おむつの装着が必要なもの(第7級第5号に該当するものを除く。)は第9級第11号、常時のおむつ装着は必要ないものの明らかに便失禁があると認められるものは第11級第10号に対応します。 | 神経損傷の所見、肛門括約筋の機能に関する検査結果、おむつの使用状況、医師の所見 | おむつの常時装着が必要かどうかが分岐点になります。 |
腹壁瘢痕ヘルニアや傍ストーマヘルニア(ストーマの周囲が膨らむ状態)は、腸内容の漏出、ストーマ脱出、パウチが装着できない状態とは別の問題です。これらを同じものとして扱うと、認定基準の当てはめを誤ります。それぞれの状態について、画像所見と診療録で個別に確認する必要があります。
複数の障害が残った場合の評価
腹部の重い外傷では、人工肛門と消化吸収障害、狭窄と便失禁といったように、複数の障害が同時に残ることがあります。この場合、それぞれの等級を単純に足し合わせる処理にはなりません。認定基準は二つの定めを置いています。一つは、胸腹部臓器の障害と系列を異にする障害が通常派生する関係にある場合には、併合することなく、いずれか上位の等級により認定するというものです。もう一つは、胸腹部臓器に認定基準に該当する障害が二以上ある場合には、併合の方法を用いて準用等級を定めるというものです。同一の機能障害を重ねて評価することもできません。
この整理を誤ると、認定された等級が本来より低くなることも、根拠のない高い等級を前提とした主張になることもあります。併合・加重・準用の一般的な考え方は後遺障害の併合・加重・準用の考え方を確認するで、脾臓の摘出など腹部の他の臓器の損傷も併存している場合の整理は内臓損傷の後遺障害等級の考え方を読むで扱っています。
等級認定で確認される医学資料
後遺障害の等級は、認定基準の文言に症状を当てはめて主張するだけでは足りず、その状態が資料から読み取れることが必要です。
| 資料 | その資料で確認したい事項 |
|---|---|
| 救急搬送記録、初診時の診断書 | 事故直後の受傷部位と状態。事故と腹部外傷との結び付き。 |
| CT等の画像と読影報告書 | 腸管損傷、腹腔内出血、穿孔などの客観的所見。狭窄がある場合はその所見。 |
| 手術記録、麻酔記録 | 開腹所見、切除した部位と範囲、ストーマの造設部位と種類、残った腸の長さの記載の有無。 |
| 退院時要約、診療情報提供書、主治医の意見書 | 治療経過、合併症、再手術の有無、ストーマの永続性、閉鎖予定の有無とその理由、予後の見通し。 |
| 体重の推移、BMI、血液検査 | 消化吸収障害と栄養状態。受傷前の体重が分かる資料があるとより明確になります。 |
| ストーマ外来・WOC看護師の記録 | 装具の装着状況、皮膚の状態、漏れの有無と頻度、装具変更の経過。 |
| 後遺障害診断書 | 症状固定時の状態、他覚的所見、残った機能障害。 |
手術記録に残った腸の長さの記載がないことは実際によくあります。その場合、切除範囲の記載や図示から検討する方法、主治医に補足の意見書の作成をご相談する方法が考えられます。なお、医師に特定の診断名や等級の要件を書いてもらうよう求めるのではなく、実際の診察結果と医学的判断が正確に記載されているかを確認するという姿勢が基本になります。診断書の作成前に確認しておきたい事項は後遺障害診断書の作成前に確認したい資料と画像検査の注意点を見るで、資料の集め方は後遺障害の証拠の集め方を確認するで整理しています。
事故との因果関係と症状固定
等級表の要件を満たしているように見えても、それだけでは足りません。交通事故の外傷と腸管損傷・手術・ストーマ造設・残った障害とが結び付いていること、治療経過に説明のつかない中断がないこと、症状固定時の状態と将来の見通しが医学的に示されていることが、あわせて確認されます。既往の腸疾患がある場合や事故以外の原因が考えられる場合には、その寄与の評価が争点になることがあり、この点は既往症・素因減額を主張されたときの整理のポイントもあわせてご覧ください。
人工肛門・腸管切除で検討する損害
後遺障害に関する損害は、大きく三つに分けて考えると整理しやすくなります。それぞれ別の要件で判断されるものであり、等級が認定されればすべてが機械的に決まるわけではありません。
| 損害項目 | 内容と検討のポイント |
|---|---|
| 後遺障害慰謝料 | 後遺障害が残ったこと自体による精神的損害です。算定にあたって参照される基準には、自賠責保険の支払基準のほか、裁判実務上参照される基準があり、金額の水準が異なります。 |
| 後遺障害逸失利益 | 後遺障害によって将来の収入が減少することによる損害です。等級ごとの労働能力喪失率を当てはめるだけでは足りず、実際の就労状況の検討が必要です。 |
| 将来のストーマ装具・ケア用品費 | この類型に特有の損害項目です。次の章で詳しく扱います。 |
このほか、症状固定前の治療費、入院雑費、付添費、通院交通費、休業損害、傷害慰謝料が別に問題になります。傷害慰謝料は入通院の経過に対応するもので、後遺障害慰謝料とは別の損害項目です。示談案の内訳をご確認ください。
逸失利益で実際に争点になること
この類型では、装具の交換や排泄物の処理のために勤務中に時間と場所を確保する必要があること、重量物を扱う作業や腹部に力を入れる作業への影響、長時間の会議・接客・運転・出張など席を離れにくい業務への影響、漏れや臭いへの不安から配置転換を余儀なくされた場合の減収などが、具体的な争点になります。
現に減収が生じていない場合でも、それだけで逸失利益が否定されるとは限りません。本人の努力や勤務先の配慮によって収入が維持されている事情や、将来の昇進・転職における不利益が問題とされることがあります。他方で、等級が認定されたからといって、等級に対応する労働能力喪失率のとおりに認められるとも限りません。計算の枠組みは後遺障害逸失利益の計算方法と喪失率・喪失期間を確認するで整理しています。
将来のストーマ装具・ケア用品費
賠償の場面で見落とされやすいのが、将来にわたって必要となる装具とケア用品の費用です。保険会社の損害計算書に、この項目がそもそも立っていないことは珍しくありません。
どの費用が対象になり得るか
候補となるのは、パウチ(採便袋)、面板、皮膚保護剤、皮膚保護パウダー、剥離剤、固定用ベルト、テープ、ガーゼ、不織布、洗浄用品、消臭剤などです。ただし、これらがすべて当然に認められるわけではありません。個々の品目について、医学的・生活上の必要性があるか、使用量や交換頻度が相当といえるか、公費給付の対象に含まれているかは、事案によって異なります。
必要性・数量・交換頻度をどう立証するか
| 検討される要素 | 対応する資料 |
|---|---|
| 事故及び後遺障害との相当因果関係 | 手術記録、ストーマ造設の経緯が分かる診療録、主治医の意見書 |
| 将来も継続して必要となる蓋然性 | ストーマの永続性に関する主治医の記載、閉鎖予定の有無 |
| 品目・数量・交換頻度・単価の必要性と相当性 | ストーマ外来の指導記録、購入履歴、納品書、カタログ、見積書 |
| 実際の購入実績と自己負担額 | 領収書、購入明細、自治体の支給決定通知、支給券 |
| 過去分と将来分の区分 | 症状固定日以降の購入記録。既に支払った分と将来分が重複していないかの確認 |
実務上とくに重要なのは、購入の記録を継続的に残しておくことです。直近数か月から1年程度の実績があると年間の費用を示しやすくなり、記録が断片的だと必要な費用の水準そのものが争いになります。もっとも、賠償のために必要以上の用品を購入することは、当然ながら相当性を欠きます。
将来分の計算方法
将来にわたって毎年発生する費用を一時金として請求する場合、中間利息を控除して現在の価値に引き直す必要があります。基本的な組み立ては「年間の相当な自己負担額(又は認定の対象となる額)× 算定期間に対応する係数」ですが、これを唯一の計算式として扱うことはできません。次の各点は、いずれも事案ごとの検討を要します。
- 年間額をどう出すか 購入実績から算出するのが基本ですが、実績の期間が短い場合や装具を変更した経過がある場合には、どの時期の実績を用いるかが問題になります。
- 総費用か自己負担額か 公費給付を受けている場合、購入に要した総額と実際の自己負担額とは異なります。どちらを基礎とするかは次の項目の整理によります。
- 算定期間 平均余命、就労可能期間、医学的に必要と見込まれる期間のいずれによるかは、費目の性質によって考え方が分かれます。平均余命を用いる場合、参照する生命表は算定の基準時に対応する最新のもの(厚生労働省の完全生命表又は簡易生命表)を確認します。
- 中間利息の控除 将来の費用については、民法第417条の2第2項が「将来において負担すべき費用についての損害賠償の額を定める場合において、その費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも、前項と同様とする。」と定めており、同法第722条第1項により不法行為による損害賠償にも準用されます。用いる法定利率は、損害賠償請求権が生じた時点の法定利率です。
- 物価や製品価格の将来変動 将来の値上がりをどこまで織り込めるかは、実務上争いのある論点です。
適用される法定利率は事故日によって異なります。法定利率は民法第404条により年3パーセントとされ、三年を一期として見直される仕組みになっています。法務省の公表によれば、令和8年4月1日から令和11年3月31日までの法定利率も年3パーセントです。もっとも、これは令和2年4月1日施行の改正民法によるものであり、それ以前に生じた請求権については年5パーセントとされていた期間があります。改正前の裁判例に登場する年間額、平均余命、係数、認定総額を、そのまま現在の事案に当てはめることはできません。
公費給付を受けている場合の考え方
市町村の日常生活用具費支給制度を利用している場合、賠償として請求できる範囲をどう考えるかが問題になります。「公費給付があるから装具費は一切請求できない」という理解も、「公費給付を受けても総費用の全額を当然に請求できる」という理解も、いずれも正確ではありません。
制度によって、損害賠償との調整の仕組みは異なります。たとえば労災保険については、労働者災害補償保険法第12条の4が、政府が保険給付をしたときに受給権者の損害賠償請求権を取得すること、受給権者が同一の事由について損害賠償を受けたときに保険給付をしないことができることを定めています。これに対し、日常生活用具給付等事業は、障害者総合支援法第77条第1項第6号に基づき市町村が行う地域生活支援事業として位置づけられており、同法第7条は他の法令による給付等との調整を定めるものであって、損害賠償との関係を直接定めた規定ではありません。
将来装具費として請求できる範囲は、制度の内容、実際の自己負担、給付の継続可能性、他の給付との関係により異なります。支給決定通知、購入明細、自己負担額が分かる資料を確認したうえで検討する必要があります。
用語の混同にも注意が必要です。市町村が行うストーマ用装具の支給は、障害者総合支援法に基づく日常生活用具給付等事業における排泄管理支援用具として位置づけられるもので、同法の補装具費支給制度や、労災保険の義肢等補装具費支給制度とは別の制度です。制度上の用語と、民事の損害賠償における費目名とを区別してください。装具の将来費用という点で共通する論点は、義肢・車いす・住宅改造費の請求と将来交換費用の考え方もご参照ください。
将来の装具費は、購入の記録が手元にあるうちに整理しておくと、あとの交渉で説明がしやすくなります。購入実績と支給決定の資料をご用意いただければ、請求として組み立てられる範囲と、追加で必要な資料を確認できます。
身体障害者手帳と神戸市のストーマ装具給付
自賠責保険の後遺障害等級と身体障害者手帳の障害程度等級は、まったく別の制度です。同じ「等級」という語が使われるため混同されやすいのですが、根拠法令も、認定する主体も、判断の枠組みも、認定できる時期も異なります。
| 比較項目 | 自賠責保険の後遺障害等級 | 身体障害者手帳の障害程度等級 |
|---|---|---|
| 根拠 | 自動車損害賠償保障法施行令別表第一・別表第二 | 身体障害者福祉法施行規則別表第五号 |
| 当てはめの基準 | 自賠責保険の支払基準により、原則として労災保険の障害等級認定基準に準じる | 身体障害認定基準(平成15年1月10日障発第0110001号) |
| 手続の流れ | 提出書類は自賠責損害調査事務所が調査し、その報告を受けて損害保険会社等が支払額を決定します。 | 指定医の診断書・意見書を添えて申請し、都道府県知事、指定都市市長等が交付します。 |
| 認定の時期 | 症状固定後 | 腸管のストマは造設直後から。装具の装着が困難な状態による上位等級は、造設後6か月を経過した日以降。 |
| 主な目的 | 損害賠償額の算定 | 福祉サービスの利用 |
| 永久的ストーマ単独の場合 | 認定基準上、第7級第5号に対応する内容が出発点となります。 | 認定基準上、4級(腸管又は尿路変向のストマをもつもの)が原則です。 |
「身体障害者手帳が4級だから自賠責も同じ程度だろう」「手帳が交付されたのだから後遺障害も当然に認定されるだろう」という理解は、いずれも成り立ちません。障害年金についても、根拠法令、認定主体、支給要件が別であり、自賠責の等級と連動するものではありません。
手帳の等級で押さえておきたい点
ぼうこう又は直腸の機能障害については、身体障害認定基準が、腸管又は尿路変向のストマをもつものを4級とし、これに加えて「ストマにおける排便処理が著しく困難な状態」や「高度の排尿機能障害」がある場合などに上位の等級を検討する構造をとっています。ここでいう「ストマにおける排尿・排便処理が著しく困難な状態」とは、治療によって軽快の見込みのないストマ周辺の皮膚の著しいびらん、ストマの変形、又は不適切なストマの造設個所のため、長期にわたるストマ用装具の装着が困難な状態をいうとされています。
また、小腸を大きく切除した場合には、小腸機能障害としての認定が別に問題になります。こちらは残った空腸・回腸の長さと中心静脈栄養法等の必要性を組み合わせた基準であり、自賠責側で用いられる100センチメートル・300センチメートルという数値とは別の基準です。同じ「残存腸管長」でも制度によって基準となる数値が異なる点にご注意ください。
神戸市の日常生活用具費支給制度
神戸市では、ストーマ造設者に対して日常生活用具費支給事業によりストーマ用装具の費用が支給されます。2026年9月時点で確認できる主な内容は次のとおりです。制度は変更されることがありますので、申請の際はお住まいの区の窓口で最新の取扱いをご確認ください。
| 確認項目 | 神戸市の取扱い |
|---|---|
| 対象 | ぼうこう又は直腸機能障害でストーマ造設者 |
| 基準額 | 蓄便袋は月額1万1,000円、蓄尿袋は月額1万3,000円。令和8年4月分以降にかかる申請について適用されます。実施要綱の別表では、ストーマ造設箇所1か所当たりの月額であり、皮膚の保護、排泄物の漏れ防止、皮膚への装具密着などのために使用する用品を含むとされています。 |
| 自己負担 | 基準額の1割。所得に応じて1か月あたりの負担上限額が定められています。 |
| 基準額を超える部分 | 購入費用が基準額を超える場合、その差額部分も自己負担となる旨が案内されています。 |
| 所得による制限 | 18歳以上は市民税所得割額が46万円以上のとき制度の対象外とされています。18歳未満は、2024年4月1日より所得制限が撤廃されています。 |
| 申請の時期 | 神戸市の案内に「契約済、購入済、支払済のものは支給できません。」と明記されています。 |
| 申請の方法 | 初回の申請とストーマ用装具・紙おむつ以外の用具の申請は、お住まいの区役所・支所の窓口。ストーマ用装具・紙おむつの継続給付は、2025年8月からオンライン(e-KOBE)でも申請できるとされています。 |
この基準額は神戸市の制度上の支給基準額であり、市場での実勢価格、保険会社が賠償として認める額、ご本人が実際に負担している額のいずれとも一致しません。三つを混同しないでください。また、神戸市以外にお住まいの場合、対象品目、基準額、申請方法、必要書類は自治体ごとに異なります。
なお、賠償金を受け取った場合の課税関係については、所得税法第9条第1項第18号及び同法施行令第30条が、心身に加えられた損害に基因して支払を受ける損害賠償金等を非課税とする旨を定めています。損害項目ごとの考え方は賠償金・示談金の課税関係と損害項目ごとの考え方を確認するで整理しています。
仕事・日常生活への影響をどう記録するか
逸失利益や慰謝料の検討でも、将来装具費の必要性の検討でも、「生活が不便になった」という抽象的な記載では資料としての力を持ちません。次の場面を日付とともに記録しておくことをおすすめします。
- 装具の交換の頻度、1回あたりに要する時間、交換する時間帯
- 漏れが生じた日時、状況(就寝中、通勤中、勤務中など)とその後の対応
- 皮膚のトラブルが生じた時期、症状、受診の有無と処置の内容
- 外出時にトイレや交換場所を確保するために生じた制約、睡眠中の管理、入浴、旅行、災害時の備蓄に関する変化
- 主治医から食事、水分摂取について指示がある場合の、その内容と生活への影響
- 通勤、長時間の会議、接客、出張、運転、重量物を扱う作業への影響と、交換や処理のために必要となった休憩、勤務先での配慮、配置転換の経緯
記録はご本人が書きやすい形式で構いません。日付と事実が分かることが重要です。勤務先の対応については、勤務時間の記録、配置転換の通知、給与明細といった客観的な資料もあわせて保存しておくと、主張の裏付けになります。
装具の選び方、交換の方法、食事や水分の摂り方、皮膚トラブルへの対処、受診の要否は、いずれも医療上の判断が必要な事項です。ストーマ外来、主治医、皮膚・排泄ケア認定看護師(WOC看護師)にご相談ください。この記事は法的な整理を目的とするものであり、医療上の助言を行うものではありません。
申請・示談前のチェックリスト
- 手術記録に、切除した部位と範囲、残った腸の長さが記載されているかを確認したか
- ストーマが結腸と回腸のどちらに造設されたか、永久的なものか閉鎖の予定があるかについて、主治医の記載を確認したか
- 皮膚のトラブルや漏れがある場合、その経過が診療録に残っているかを確認したか
- 消化吸収障害を主張する場合、受傷前の体重が分かる資料を探したか
- 狭窄や便秘を主張する場合、認定基準が求める画像所見の有無を確認したか
- 後遺障害診断書の記載内容が、実際の症状と資料に整合しているかを確認したか
- 装具・ケア用品の購入実績(品目、単価、購入頻度)が分かる資料を保存しているか
- 身体障害者手帳の申請、日常生活用具費の支給決定に関する資料を保管しているか
- 勤務内容の変更、休憩、配置転換、減収に関する勤務先の資料を確保したか
- 示談案の内訳に、傷害慰謝料と区別された後遺障害慰謝料、逸失利益、将来装具費がそれぞれ立っているかを確認したか
- 示談書・免責証書の清算条項の文言と、その効果を確認したか
- 自賠責保険への被害者請求と、加害者に対する損害賠償請求のそれぞれについて、期間制限の起算点と残りの期間を確認したか
期間制限について
期間の制限は、請求の相手方と法律構成によって規律が異なります。まとめて「事故から何年」と覚えると判断を誤ります。
自賠責保険に対する被害者請求については、自動車損害賠償保障法第19条が、同法第16条第1項等による請求権は被害者又はその法定代理人が損害及び保有者を知った時から三年を経過したときに時効によって消滅すると定めています。国土交通省の案内では、後遺障害についての請求は症状固定日の翌日から3年以内、平成22年3月31日以前に発生した事故については2年以内とされています。
他方、加害者に対する民事上の損害賠償請求は民法の規定によります。生命・身体の侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権については、民法第724条及び第724条の2により、損害及び加害者を知った時から五年、不法行為の時から二十年とされています。ただし、後遺障害による損害についての起算点をいつと見るか、改正法の経過措置がどう適用されるかは、事故日と症状の経過によって結論が変わり得ます。
弁護士に相談するタイミング
ご相談によって等級が保証されるものではありませんが、資料を確認することで次を整理できます。
- 手術後、治療方針が見えてきた段階 今後必要になる資料の把握と、装具の購入記録の残し方を確認できます。
- 症状固定前、後遺障害診断書の作成前 認定基準に照らして、どの所見が診断書に記載されている必要があるかを整理できます。
- 申請の方法を選ぶ前 相手方保険会社を通じて進めるか被害者請求によるかを、資料の準備状況を踏まえて検討できます。
- 等級認定の結果を受け取った後 認定の理由と提出された資料の内容を確認し、異議申立ての要否を検討できます。
- 損害計算書・示談案を受け取ったとき 損害項目の漏れ、将来装具費の計上の有無、逸失利益の算定内容を確認できます。
弁護士に相談したからといって等級が上がるわけではありません。できるのは、医療記録と認定基準を照らし合わせて資料として何が足りないのかを明らかにすること、損害項目の漏れを確認すること、将来装具費の計算の組み立てと公費給付との関係を整理すること、手続の選び方と示談条項の意味を確認することです。等級が非該当となった場合の考え方は後遺障害が非該当となった場合の異議申立ての判断材料を確認するで扱っています。
よくあるご質問
人工肛門があれば後遺障害は何級になりますか。
一律に決まるものではありません。認定基準は、腸内容の漏出によりストーマ周辺に著しい皮膚のびらんを生じてパウチ等の装着ができないものと、それ以外のものとを分けており、それぞれ自賠法施行令別表第二の第5級第3号、第7級第5号に対応します。実際にどう判断されるかは、ストーマの永続性、皮膚と装具の状況、事故との因果関係が医療記録からどう読み取れるかによって変わります。
一時的な人工肛門でも後遺障害になりますか。
閉鎖が予定されている一時的なストーマは、永久的なものとは扱いが異なります。もっとも、閉鎖後に便失禁、狭窄、癒着による症状などが残る場合には、それらの障害について別途検討する余地があります。閉鎖の時期や可否は主治医の医学的判断によりますので、まず主治医の見通しを確認したうえで法的な整理を行うことになります。
パウチが装着できないほど皮膚がただれる場合、等級は変わりますか。
認定基準上、ストーマ周辺の著しい皮膚のびらんによりパウチ等の装着ができないものは、より上位の等級に対応します。ただし、一時的に皮膚が荒れた程度では足りず、治療の経過と装具の装着状況が継続的な記録として残っていることが前提です。ストーマ外来や皮膚・排泄ケア認定看護師の記録、処方の内容、装具の購入履歴が資料になります。
腸を切除しても人工肛門がなければ後遺障害になりませんか。
人工肛門がない場合でも、小腸の大量切除による消化吸収障害、大腸のほとんどの切除、腸管皮膚瘻、狭窄、便秘、便失禁について、それぞれ等級を検討する枠組みが定められています。ただし、腸の一部を切除したという事実だけから等級が導かれるわけではありません。認定基準の腸の項目には、切除のみを理由とする第13級の区分は置かれていませんので、残った機能障害と客観的な所見を個別に確認する必要があります。
小腸を何センチメートル切除したか分からない場合、何を確認すればよいですか。
認定基準が基準としているのは切除した長さではなく、残った空腸及び回腸の長さです。手術記録、麻酔記録、退院時要約に残存長の記載がないか確認してください。記載がない場合には、切除範囲の記載や図示から検討する方法、主治医に補足の意見書の作成をご相談する方法が考えられます。体重の推移や血液検査の結果も、消化吸収障害の検討において意味を持つことがあります。
腹痛が続いているのに、狭窄として認められませんでした。なぜですか。
認定基準は狭窄について、1か月に1回程度の腹痛・腹部膨満感等の症状に加えて、単純エックス線像における特定の所見(小腸ではケルクリングひだ像、大腸では貯留した大量のガスによる結腸膨起像)が認められることを要件としており、そのいずれにも該当することを求めています。症状の訴えだけでは要件を満たしません。撮影された画像と読影所見を確認することが出発点になります。
将来のパウチ代・ストーマ用品代は請求できますか。
損害項目として請求を検討できますが、自動的に全額が認められるものではありません。事故及び後遺障害との相当因果関係、将来も継続して必要となる蓋然性、品目・数量・交換頻度・単価の必要性と相当性、実際の自己負担額を資料で示す必要があります。購入の記録は時間が経つほど再現が難しくなりますので、領収書や購入明細の継続的な保管をおすすめします。
神戸市からストーマ装具の給付を受けると、保険会社へ請求できませんか。
「給付を受けているから一切請求できない」とも、「給付を受けても総費用の全額を請求できる」とも言えません。制度によって損害賠償との調整の仕組みは異なり、日常生活用具給付等事業については、労災保険法第12条の4のような損害賠償との調整を直接定めた規定は見当たりません。請求できる範囲は、制度の内容、実際の自己負担、給付の継続可能性、他の給付との関係により異なりますので、支給決定通知と購入明細を確認したうえで検討する必要があります。
まとめ
- 人工肛門があるという一事だけでは等級は決まりません。永続性、装具の維持管理の状況、切除の部位と範囲、残った機能が資料から読み取れることが必要です。
- 小腸の切除では、切除した長さではなく残った空腸・回腸の長さが基準とされます。切除により人工肛門を造設した場合は、人工肛門の項目で認定されます。
- 狭窄と便秘には、画像所見を含む具体的な要件が定められています。症状の訴えだけでは足りません。
- 将来のストーマ装具・ケア用品費は、慰謝料や逸失利益とは別の損害項目です。公費給付を受けている場合の請求できる範囲は、制度の内容と実際の自己負担を確認して個別に検討します。
- 自賠責の後遺障害等級、身体障害者手帳の障害程度等級、障害年金の等級は、それぞれ別の制度です。同じ数字でも意味は異なります。
次に取っていただきたい行動は三つです。第一に、手術記録と退院時要約を取り寄せ、切除範囲、残った腸の長さ、ストーマの部位と永続性に関する記載を確認すること。第二に、装具・ケア用品の購入記録と自治体の支給決定に関する書類をまとめて保管すること。第三に、症状固定、後遺障害診断書の作成、示談書への署名のいずれかが近づいている場合には、その前に資料の過不足を確認することです。
人工肛門・腸管切除の事案は、確認すべき医学資料の種類が多く、将来費用の組み立てにも検討を要します。手術記録、画像、ストーマ外来の記録、装具の購入資料、保険会社からの書面をご用意いただければ、等級の検討にあたって不足している資料、損害項目の抜け、今後の手続の進め方を整理することができます。当事務所では、交通事故について初回のご相談を無料で承っています(事前のご予約が必要です。法テラスの扶助相談をご利用の場合や弁護士費用特約をご利用の場合は、取扱いが異なります。)。後遺障害診断書の作成前、申請前、示談書への署名前に、一度ご確認いただくことをおすすめします。
本記事は、交通事故における後遺障害と損害賠償に関する一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別の事件についての法的助言ではありません。また、診断、治療方針、ストーマ閉鎖の可否、装具の選択について医師の判断を代替するものでもありません。記載した等級、認定基準、制度の内容は、2026年9月時点で確認した法令及び公的機関の公表情報に基づいています。結論は、残った障害の内容、検査結果、事故態様、事故日その他の個別事情により異なります。
監修者
藤井 貴之(ふじい たかゆき)
弁護士・公認会計士/兵庫県弁護士会所属・日本公認会計士協会兵庫会所属
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士
交通事故の被害者側の対応として、後遺障害の申請準備、損害額の検討、示談交渉に対応しています。
参考資料(いずれも2026年9月10日確認)
- 自動車損害賠償保障法施行令(e-Gov法令検索)
- 自動車損害賠償保障法(e-Gov法令検索)
- 民法(e-Gov法令検索)
- 労働者災害補償保険法(e-Gov法令検索)
- 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(国土交通省)
- 胸腹部臓器の障害に関する障害等級認定基準について(厚生労働省)
- 支払までの流れと請求方法(国土交通省)
- 自賠責保険(共済)損害調査のしくみ(損害保険料率算出機構)
- 令和8年4月1日以降の法定利率について(法務省)
- 身体障害認定基準(厚生労働省)
- 身体障害者手帳(厚生労働省)
- 日常生活用具給付等事業(厚生労働省)
- 令和7年簡易生命表の概況(厚生労働省)
- 日常生活用具費の支給(神戸市)
- 日常生活用具・補装具の利用者負担(神戸市)
- 日常生活用具(ストーマ用装具・紙おむつ)継続給付の電子申請の開始(神戸市)
- ストーマを設けた人のセルフケア(国立がん研究センター中央病院)
- ストーマ種類別の特徴(公益社団法人日本オストミー協会)

24時間365日受付