相続した自社株の準共有を解消する方法|遺産分割・株価評価・代償金 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

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相続した自社株の準共有を解消する方法|遺産分割・株価評価・代償金

「父が持っていた会社の株式を、後継者である自分にまとめたい」「会社の経営に関わっていないので、株式ではなく現金を受け取りたい」「代表者の死亡後に権利行使者だけは決めたが、株式が誰のものになったのかよく分からない」——非上場会社の株式(いわゆる自社株)が遺産に含まれる相続では、こうした状態が長く続くことが少なくありません。
 共同相続された株式は、遺産分割が終わるまで相続人全員の準共有(共有)になります。この状態を解消するには、①いまどの状態にあるのかを判別し、②株価をどの目的でいつの時点を基準に評価するのかをそろえ、③代償金の金額と支払条件を一体で決める、という順序で検討する必要があります。株価の計算式だけを先に議論しても、支払える金額と会社の資金繰りが合わなければ、合意に至りにくくなります。
 この記事では、解消手続の選び方、評価の前提のそろえ方、決算書の読み方、会社への貸付金の切り分け方、代償金の支払条件、未分割のまま申告期限が来る場合と発行会社へ売却する場合の税務上の注意点を、条文と公的資料に沿って整理します。個別の事情により結論は異なりますので、資料を確認したうえで判断する必要があります。

この記事で分かること

  • 権利行使者を決めること準共有を解消することは別の問題であること
  • 遺産共有・通常の共有・株数ごとの単独取得という三つの状態と、それぞれで使う手続
  • 代償分割・現物分割・換価分割の比較と、会社による買取りの位置づけ
  • 評価の目的・基準時・資料の違いと、ある場面の評価額を他の場面にそのまま使えない理由
  • 決算書のどの科目が株価と支払能力のどちらに効くか
  • 会社への貸付金(役員借入金)の切り分け方と、二重計上として点検すべき場面
  • 代償金の金額と支払条件(分割払・利息・担保・履行の順序)を一体で決める方法
  • 未分割での相続税申告と、発行会社への売却で確認すべき税務上の要件

 株式の帰属、評価の前提、代償金の支払条件は、いずれも後から変えにくい事項です。遺産分割協議書に署名する前、名義書換を求める前、代償金を支払う前に、遺言書、定款、株主名簿、決算書、会社から届いた通知など、お手元にある資料を整理しておくと、検討できる選択肢が見えやすくなります。

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結論|準共有の解消は「状態の確認・評価の前提・支払条件」の順で決まります

 自社株の準共有を解消する場面では、次の順序で検討します。株価の計算から入ると、前提を共有しないまま数字だけが対立し、協議が長期化しやすくなります。

準共有を解消するために最初に確認すること
確認すること なぜ必要か 主に見る資料
遺言があるか、その内容は何か 特定の株式を特定の相続人に承継させる遺言があると、遺産分割を待たずに帰属が決まっている場合があります。前提そのものが変わります。 遺言書(自筆証書は家庭裁判所の検認の有無も確認)、遺言書保管制度の証明書
株式がどの状態にあるか 遺産共有か、通常の共有か、株数ごとに単独取得済みかで、使う手続と相手方が変わります。 遺産分割協議書、調停調書・審判書、株主名簿、被相続人の確定申告書・別表二
会社の定款にどのような定めがあるか 譲渡制限の有無、相続人等に対する売渡請求の定めの有無、株券発行会社かどうかで、その後に取り得る手続が変わります。 定款、登記事項証明書、株券
株式以外に何が遺産にあるか 代償金は株価だけでは決まりません。不動産、預貯金、会社への貸付金を含めた全体で調整します。 財産目録、残高証明書、会社の勘定科目内訳明細書
いつまでに何をする必要があるか 相続税の申告期限は遺産が未分割でも延びません。手続の順序を決める必要があります。 被相続人の死亡日が分かる戸籍、相続税の試算資料

 とくに誤解が生じやすいのが、権利行使者を定めて会社に通知したことと、株式が誰のものになったかが決まったこととは別であるという点です。逆に、遺産分割が終わっているのに「まだ準共有が残っている」と考えて手続を止めてしまう例もあります。まずは状態の判別から始めます。

相続した株式の準共有と、権利行使者の指定は別の問題です

共同相続によって株式は相続人全員の準共有になります

 相続人が数人あるときは、相続財産は相続人の共有に属し(民法第898条第1項)、共有に関する規定を適用するときは、民法第900条から第902条までの規定により算定した相続分(法定相続分又は遺言による指定相続分)をもって各相続人の共有持分とされます(同法第898条第2項)。所有権以外の財産権を数人で有する場合には共有の規定が準用されますので(民法第264条本文)、株式についてはこれを準共有と呼びます。

 ここで重要なのは、相続が開始しただけでは、各相続人が法定相続分に相当する株数を当然に単独で取得するわけではないという点です。たとえば1,000株を子二人が相続した場合、相続開始によって当然に各500株の単独株主になるのではなく、1,000株の全部について各二分の一の持分を持つ状態になります。誰がどの株式を取得するかは、遺産分割によって決まります。

前提が変わる場合があります。被相続人が遺言で特定の株式を特定の相続人に承継させていた場合(民法第1014条第2項の特定財産承継遺言)や、包括遺贈・相続分の指定がある場合は、ここまでの説明の前提が変わります。また、生前に株式の帰属について合意や名義の移転があったと主張されることもあります。遺言書と株主名簿、過去の申告書を確認したうえで判断する必要があります。

権利行使者の指定・通知は、会社に対して権利を行使するための仕組みです

 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、その株式について権利を行使する者一人を定めて会社に氏名等を通知しなければ、その株式についての権利を行使することができません(会社法第106条本文)。ただし、会社が権利の行使に同意した場合はこの限りでないとされています(同条ただし書)。

 この点について、最高裁判所第一小法廷平成27年2月19日判決(平成25年(受)第650号・民集第69巻1号25頁)は、指定・通知を欠いたまま権利が行使された場合において、その権利行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、会社が同条ただし書の同意をしても適法とはならないと判断しました。同判決は、あわせて、共有株式についての議決権の行使は、直ちに株式を処分し又は株式の内容を変更することになるなどの特段の事情のない限り、株式の管理に関する行為として、民法第252条本文により、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられるとしています(同条は令和3年法律第24号による改正後は第1項前段に相当します)。

 したがって、権利行使者に指定されたことを理由として、その者が単独で、全株式を売却したり、他の相続人の持分を取得したり、代償金の額を決めたりすることはできません。準共有という状態の全体像(議決権のほか、配当、資料の開示、売却で条件がどう違うか)と、権利行使者の決め方そのものは、次の記事で扱っています。

「準共有の解消」と「議決権の集中」は分けて考えます

 準共有の解消とは、一つ一つの株式について複数人が持分を持ち合っている状態をなくすことです。これに対して、後継者の議決権割合を高めることは別の目的です。相続人三人が株数を三分割してそれぞれ単独株主になれば準共有は解消しますが、議決権は分散したままです。逆に、後継者が全株式を取得すれば議決権も集中しますが、そのためには代償金が必要になります。目的をどちらに置くかで、選ぶべき分割方法が変わります。

遺産分割前か分割後かで、使う手続が変わります

 準共有を解消する手続は、株式がいまどの状態にあるかによって異なります。次の三つを区別してください。

株式の状態と、解消のために使う手続
株式の状態 解消のために使う手続 主な根拠 注意点
遺産分割が未了で、株式が遺産共有の状態にある 相続人全員による遺産分割協議。まとまらないときは家庭裁判所の遺産分割調停・審判 民法第898条、第906条、第907条 相続人全員が当事者になります。一部の相続人を除いた協議は効力を持ちません。
遺産分割等により、株式を共有持分で取得する関係が確定している 共有者間の合意による整理。整わないときは民事の共有物分割手続の検討 民法第256条、第258条、第264条 遺産分割とは手続も管轄も異なります。対象財産・当事者・請求内容は個別に確認が必要です。
遺産分割により、各相続人が特定の株数をそれぞれ単独で取得している 準共有は解消済みです。以降は株主間の問題として、売買や会社の手続を検討します 民法第909条 株主が複数いることと準共有が残っていることは別です。混同しないでください。

未分割の遺産は、遺産分割の手続で解消します

 共同相続人は、いつでもその協議で遺産の全部又は一部の分割をすることができ、協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、各共同相続人が家庭裁判所に分割を請求することができます(民法第907条第1項・第2項)。遺産分割の審判事件は相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属し(家事事件手続法第191条第1項)、調停事件は相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所に申し立てます(同法第245条第1項、裁判所「遺産分割調停」)。調停の申立てに必要な費用は、裁判所の案内によれば被相続人一人につき収入印紙1,200円分と連絡用の郵便料で、郵便料は裁判所ごとに異なります。

 この点について、最高裁判所大法廷平成28年12月19日決定(平成27年(許)第11号・民集第70巻8号2121頁)は、相続財産の共有関係を「協議によらずに解消するには、通常の共有物分割訴訟ではなく、遺産全体の価値を総合的に把握し、各共同相続人の事情を考慮して行うべく特別に設けられた裁判手続である遺産分割審判(〔民法〕906条、907条2項)によるべきものとされて」いると述べています(引用中の「同法」は民法を指します)。未分割の株式について、いきなり共有物分割訴訟を起こすという進め方は、原則として想定されていません。

共有持分の関係になっている場合は、手続が変わります

 遺産分割などによって株式を共有持分で取得する関係が確定している場合は、遺産分割ではなく通常の共有の問題になります。各共有者はいつでも分割を請求することができ(民法第256条第1項本文)、協議が調わないとき又は協議をすることができないときは裁判所に分割を請求することができます(同法第258条第1項)。裁判所が命ずることのできる分割の方法は、現物分割と、共有者に債務を負担させて他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法であり、これらによることができないときなどは競売を命ずることができるとされています(同条第2項・第3項)。もっとも、株式についてこの手続をとる場合、どの裁判所に、誰を相手方として、どのような分割を求めるのかは、株主構成と持分の状況によって変わります。準共有が残っている株式では会社法第106条の仕組みとの関係も生じますので、手続を選ぶ前に確認してください。

「相続から10年たてば、どの未分割遺産でも共有物分割請求ができる」という説明は正確ではありません。民法第258条の2第1項は、共有物の全部又はその持分が相続財産に属し、共同相続人間で遺産分割をすべきときは、第258条による分割をすることができないと定めています。同条第2項が10年経過後の共有物分割を認めるのは「共有物の持分が相続財産に属する場合」、すなわち被相続人以外にも共有者がいて通常の共有と遺産共有が併存している場面です。しかも、その持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が共有物分割によることに異議の申出(同条第3項により、裁判所から通知を受けた日から二箇月以内)をしたときは、この分割はできません。相続人だけで株式の全部を共有している場面には、そのまま当てはまりません。
 また、民法第904条の3の10年は、特別受益・寄与分を考慮した具体的相続分による分割が原則としてできなくなるという意味であり、手続が遺産分割から共有物分割に切り替わるという意味ではありません。遺産分割の請求、具体的相続分、相続税の申告期限、会社法上の期間は、同じ「10年」「3年」でも起算点と根拠が異なります。

所在の分からない共有者がいる場合の制度は、株式には準用されていません。民法第262条の2(所在等不明共有者の持分の取得)及び第262条の3(同持分の譲渡)は、不動産等を対象とする制度で、民法第264条の準用の対象から明文で除かれています。連絡の取れない相続人がいる場合の対応は、不在者財産管理人の選任など別の方法を検討することになります。

株数ごとに単独取得していれば、準共有ではありません

 遺産分割によって、たとえば甲が600株、乙が200株、丙が200株というように、各相続人が特定の株数をそれぞれ単独で取得した場合、その株式はもはや準共有ではありません。株主が三人いるというだけであって、権利行使者を定める必要もなくなります。遺産分割が終わったのに「まだ準共有が続いている」と説明されている場合は、分割協議書や審判書の記載が株数の単独取得なのか持分の取得なのかを確認してください。この区別は、その後に名義書換を請求できるか、議決権を単独で行使できるかに直結します。

分け方の比較──代償分割・現物分割・換価分割

 自社株の分け方には、後継者に集中させて他の相続人に金銭を支払う代償分割、株数を分ける現物分割、売却して代金を分ける換価分割があります。どれが適切かは、後継者の有無、会社を続けられるか、他の相続人の意向、評価の合理性、支払能力によって変わります。株式の集中が常に最適とは限りません。

分け方の比較① 準共有がどう解消するか/経営権への影響
分け方 準共有がどう解消するか 経営権への影響
代償分割(後継者が株式を取得し、他の相続人に金銭を支払う) 株式の全部を一人が単独取得するため、準共有は解消します。 議決権が集中し、機関決定を行いやすくなります。取得割合によって、普通決議・特別決議のどちらを単独で成立させられるかが変わります。
現物分割(株数を分けて、それぞれが単独取得する) 各人が特定の株数を単独取得するため、準共有は解消します。 議決権が分散したまま残ります。株主間の対立が続けば、決議ができない場面が生じ得ます。
換価分割(売却して代金を分ける) 株式が第三者等に移転すれば、相続人間の準共有は解消します。 買い手が誰かによって、経営権の所在が大きく変わります。譲渡制限がある場合は会社の承認手続が関わります。
分け方の比較② 必要資金/主な障害/確認すべき資料
分け方 必要資金 主な障害 確認すべき資料
代償分割 後継者が代償金を用意する必要があります。相続税の納税資金も別に必要です。 株価の評価で合意できないこと。代償金を準備できないこと。分割払の履行が確保できないこと。 決算書、勘定科目内訳明細書、株式評価明細書、後継者の資力を示す資料、金融機関の融資条件
現物分割 原則として資金は不要です。 準共有は解消しても、株主間の対立が残ることがあります。少数株主となる側は、配当がなければ経済的利益を得にくい状態になります。 定款、株主名簿、議事録、配当の実績
換価分割 原則として資金は不要ですが、売却に要する費用と課税を見込む必要があります。 買い手が見つかるとは限りません。譲渡制限株式では会社の承認が必要となり、承認が得られない場合の手続も生じます。 定款、株券の有無、買い手候補の資料、過去の売買事例

 相続人全員の合意による代償分割と、家庭裁判所が審判で定める代償分割は、成立の条件が異なります。家事事件手続法第195条は、家庭裁判所は遺産分割の審判をする場合において「特別の事情があると認めるとき」に、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて現物の分割に代えることができると定めています。希望すれば当然に後継者が全株式を取得できるわけではなく、資金の裏づけがなくても裁判所が当然に長期の分割払を認めるわけでもありません。審判では、当事者に対して金銭の支払等の給付を命ずることができます(同法第196条)。また、遺産の分割の審判をするため必要があると認めるときは遺産を競売して換価することを命ずることができ(同法第194条第1項)、必要があり、かつ、相当と認めるときは、相続人の意見を聴いたうえで任意に売却して換価することを命ずることもできます。ただし、共同相続人中に競売によるべき旨の意思を表示した者があるときは、任意売却による換価は命じられません(同条第2項)。

会社が買い取る場合は、分割方法そのものではありません

 「会社に買い取ってもらう」という案は、遺産分割の方法というより、分割の前後に行われる別の取引です。相続による一般承継、遺産分割による取得、その後の相続人間の売買、第三者への譲渡、発行会社による自己株式の取得は、それぞれ適用される規定が異なりますので、混同しないでください。

  • 相続による取得 相続その他の一般承継による取得は「譲渡」ではありませんので、譲渡等の承認の手続(会社法第136条、第137条第1項)は予定されていません。株主名簿の名義書換についても、譲渡制限株式を一般承継により取得した者は第133条第1項の請求をすることができ(同法第134条第4号)、一般承継を証する書面等を提供して請求する場合には、名簿上の株主等と共同でしなくてよいとされています(同法第133条第2項、会社法施行規則第22条第1項第4号)。もっとも、会社法上の確認が一切不要になるわけではありません。
  • 遺産分割後の売買 分割後に相続人間や第三者との間で株式を売買する場合は、譲渡制限株式であれば会社の承認手続(会社法第136条以下)が関わります。株券発行会社かどうか、株券が現実に発行されているかによって、権利移転に必要な行為も変わります。
  • 発行会社による取得(自己株式の取得) 株主との合意による有償取得には、あらかじめ株主総会の決議が必要です(会社法第156条第1項)。特定の株主から取得する場合はその決定を同じ株主総会で定める必要があり(同法第160条第1項)、特別決議によります(同法第309条第2項第2号)。他の株主には自己を売主に追加するよう請求する権利がありますが(同法第160条第2項・第3項)、相続その他の一般承継により取得した株式を会社が取得する場合には、この売主追加請求の規定は適用されません(同法第162条本文)。ただし、会社が公開会社である場合、又はその一般承継人が株主総会等で当該株式について議決権を行使した場合には、他の株主の売主追加請求権が認められます(同条ただし書)。また、交付する金銭等の帳簿価額の総額は、効力発生日における分配可能額を超えることができません(同法第461条第1項第3号)。
  • 相続人等に対する売渡請求 定款に定めがある場合、会社は、相続等により譲渡制限株式を取得した者に対し売り渡すよう請求することができます(会社法第174条)。その都度、株主総会の特別決議で対象株式と相手方を定める必要があり(同法第175条第1項、第309条第2項第3号)、相手方となる者はその株主総会で議決権を行使することができません(同法第175条第2項本文)。請求は、会社が一般承継があったことを知った日から一年を経過したときはできません(同法第176条第1項ただし書)。売買価格は協議により、調わない場合は請求があった日から二十日以内に裁判所に価格の決定を申し立てることができ、その期間内に申立てがないときは請求は効力を失います(同法第177条)。この買取りについても、交付する金銭等の帳簿価額の総額は分配可能額を超えることができません(同法第461条第1項第5号)。
     定款にこの定めがある場合、相続人は、その意思にかかわらず株式を手放すことになる可能性があります。また、請求の相手方となる株主はその株主総会で議決権を行使できないため、誰を相手方とするかによって決議の結果が変わります。相続開始後にまず定款を確認すべき理由の一つがここにあります。

 したがって、相続人の側から会社に買取りを強制することはできませんし、権利行使者が決まれば会社による買取りができるという関係にもありません。株式の売買価格の決定手続そのものは、次の記事で扱っています。

株価は「何のための評価か」と「いつの時点か」で変わります

 自社株には市場価格がありません。そのため、同じ株式でも、何のために評価するのかによって用いる基準が異なり、結論も一致しません。最初にこの違いを共有しておかないと、「税理士の計算した金額と、相手方の主張する金額が違う」という形で対立が生じます。顧問税理士の相続税評価が誤っているという話ではなく、評価の目的が違うという話です。

評価の目的・基準時・主な資料と、他の場面にそのまま使えない理由
評価の目的 基準となる時点 主な資料 その金額を他の場面へそのまま使えない理由
相続税の申告のための評価 課税時期(相続の場合は被相続人の死亡の日) 財産評価基本通達に基づく取引相場のない株式(出資)の評価明細書、直前期末の決算書、法人税申告書別表 課税の公平のために定められた通達上の方式による金額です。当事者間でいくらが相当かという問題の答えとして作られたものではありません。
遺産分割で取得する財産・代償金を決めるための評価 実務上は、遺産分割をする時点の価額を基準とする扱いが一般的です 直近の試算表、基準日に近い決算書、主要資産の評価資料、資金繰り表 相続開始後の業績変動が反映されます。当事者が合意すればその金額によることができます。
特別受益・寄与分を考慮した具体的相続分の算定 相続開始の時の価額が基礎となります(民法第903条第1項、第904条) 贈与の時期・内容が分かる資料、相続開始時点の評価資料 分割時の評価とは基準時が異なります。同じ株式について二つの時点の価額が問題になることがあります。
売買の交渉価格 交渉・契約の時点 買い手の事業計画、デュー・ディリジェンスの結果、過去の売買事例 買い手が誰か、何株を取得するか、支配権が移るかによって、支払われる金額は変わります。

 結果として、相続税評価額、帳簿上の純資産、遺産分割で合意又は判断される価額、実際の売却価額、後継者が支払える額は、一致するとは限りません。「支払えないから株価が低い」という関係にはありませんし、「税務上安くなる方式を選べば代償金も一律に下がる」ということもありません。対立しているのが金額なのか、前提としている目的・基準時・資料なのかを、最初に切り分けてください。

相続税の評価と、遺産分割で問題になる評価の関係

 相続税の申告では、取引相場のない株式は、取得した株主が経営支配力を持つ同族株主等か否かの区分により、原則的評価方式又は特例的な評価方式である配当還元方式により評価します。原則的評価方式では、会社を総資産価額、従業員数及び取引金額により大会社・中会社・小会社に区分し、大会社は原則として類似業種比準方式、小会社は原則として純資産価額方式、中会社は併用によることとされています(国税庁タックスアンサーNo.4638。根拠は財産評価基本通達168、178から180まで、185、188、188-2、189から189-6まで)。具体的な計算や特定の評価会社に該当するかどうかの判定は、会社の決算内容と株主構成によって結論が変わりますので、税理士等による確認が必要です。

 これに対して、遺産分割の場面では、当事者が合意すればその金額で分割することができます。合意できない場合には、当事者がそれぞれ評価の考え方を主張し、必要に応じて評価書が提出され、裁判所の鑑定が行われることもあります。相続税評価の公的資料だけを根拠にして、遺産分割における適正な価額や裁判所の判断を断定することはできません。

評価の考え方には大きく三つの系統があります

 評価実務で用いられる考え方は、おおむね次の三つに整理できます。いずれか一つが常に正しいというものではなく、会社の状況と評価の目的によって使い分けられます。

  • 純資産を基礎とする考え方 資産と負債を評価し直し、その差額を基礎とします。含み損益を反映しやすい一方、将来の収益力は直接には反映されません。相続税の純資産価額方式は、評価差額に対する法人税額等相当額を差し引く通達上の方式であり、一般の時価純資産による評価とは前提が異なります。同一視しないでください。
  • 収益力・将来のキャッシュ・フローを基礎とする考え方 将来見込まれる利益や資金を一定の割引率で現在の価値に引き直します。予測と割引率の置き方で結論が動くため、前提の合理性が争点になります。
  • 類似する会社や取引と比較する考え方 業種や規模の似た会社の指標、過去の取引事例と比較します。比較対象の選び方が結論を左右します。

 名称を並べるだけでは判断材料になりません。前提となる数値がどの資料から取られ、調整の根拠が何かを確認することが出発点です。評価方法そのものの詳細は、次の記事で整理しています。

少数株主性・非流動性による調整は、事案ごとに検討します

 取得後に支配権を持つのか少数株主にとどまるのか、株式に譲渡制限があり換金が容易でないことをどう見るかは、評価上の調整として議論されます。もっとも、少数株式だから当然に配当還元方式になる、一律に一定割合の減額がされる、という関係にはありません

 この点に関して、最高裁判所第三小法廷令和5年5月24日決定(令和4年(許)第8号・集民第270号113頁)は、会社法第144条第2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定について、「当該譲渡制限株式に市場性がないことを理由に減価を行うことが相当と認められるときは、当該譲渡制限株式が任意に譲渡される場合と同様に、非流動性ディスカウントを行うことができるものと解される」と述べたうえで、「もっとも、譲渡制限株式の評価額の算定過程において当該譲渡制限株式に市場性がないことが既に十分に考慮されている場合には、当該評価額から更に非流動性ディスカウントを行うことは、市場性がないことを理由とする二重の減価を行うこととなるから、相当ではない」と判示しました。この決定は会社法第144条第2項の価格決定手続に関するものであり、遺産分割における評価に当然に及ぶものではありません。もっとも、二重の減価を避けるという考え方自体は、評価の前提を点検する視点として参考になります。

決算書のどこを見るか──株価に効く項目と、支払能力に効く項目

 株価の議論と代償金の議論は、見るべき箇所が重なりつつも同じではありません。同じ科目でも、株価に効く面と、支払能力に効く面があります。次の表は、その両面を分けて整理したものです。なお、評価方法によって調整項目の扱いは異なりますので、これらをすべて機械的に加算・控除すればよいというものではありません。

決算書の主な項目が、株価と支払能力のどちらにどう関わるか
項目 株価にどう関わるか 支払能力にどう関わるか 追加で見る資料
現預金 純資産を基礎とする考え方では、原則としてそのまま資産に含まれます。 すぐに使える資金とは限りません。担保に供されている預金、拘束性のある預金、運転資金として必要な額を差し引いて考えます。会社の現預金は会社のものであり、後継者個人の資金ではありません。 預金残高証明書、当座貸越契約、資金繰り表、直近数か月の入出金
売掛金・貸付金 回収可能性が乏しいものは、評価上の減額が問題になります。 回収の時期が資金化の時期を決めます。滞留債権は当てにできません。 勘定科目内訳明細書、年齢調べ表、取引先との契約書、入金実績、関連当事者との取引の有無
棚卸資産 不良在庫・陳腐化品は、帳簿価額と換価可能な価額が乖離します。 在庫は直ちに資金にはなりません。処分すれば損失が出ることもあります。 在庫明細、滞留在庫の一覧、評価損の計上履歴
土地・建物・有価証券 含み損益が結論を大きく動かします。評価方法によって反映のされ方が異なります。 担保に入っている資産、事業に不可欠な資産は、売却して代償金に充てることが難しい場合があります。 登記事項証明書、固定資産税の課税明細、担保設定の状況、不動産の評価資料、有価証券の明細
借入金・未払金・保証等 負債として控除されます。控除の範囲は用いる評価方法によって異なります。 返済期限と条件が資金繰りを規定します。簿外債務や偶発債務があると、見込みが崩れます。 金銭消費貸借契約書、返済予定表、保証契約、訴訟・係争の有無、注記
役員借入金・役員貸付金 どちらから見た科目かで意味が逆になります。会社の負債か資産かを取り違えないでください。 被相続人からの借入金は、相続人に返済すべき債務として資金需要になります。会社への貸付金は、返済されれば代償金の原資になり得ます。 勘定科目内訳明細書、総勘定元帳、金銭消費貸借契約書、残高確認書、過去の返済実績、取締役会議事録
売上・利益・役員報酬・一時的な損益 収益力を基礎とする考え方では中心的な要素です。平常時の収益力に引き直す調整の根拠が問われます。 継続的に生み出せる資金の水準を示します。役員報酬の水準を変える前提を置く場合、その実現可能性が問題になります。 直近数期の損益計算書、月次試算表、役員報酬の決議、臨時的な損益の内訳
納税・設備投資・借入元本の返済 直接には株価に現れないことがあります。 会計上の利益があっても、税金・設備投資・元本返済に充てる資金が必要です。利益=使える資金ではありません。 法人税等の申告書・納付書、設備投資計画、返済予定表、資金繰り表

直近数期の決算書だけでは足りません

 評価の前提をそろえるには、貸借対照表と損益計算書だけでは不十分なことが多くあります。基準日に近い試算表、勘定科目内訳明細書、総勘定元帳、法人税・消費税の申告書(別表を含む)、資金繰り表、主要資産の評価資料、保険契約の一覧、借入条件が分かる資料などを、必要な範囲で確認します。必要な資料は、どの評価の考え方を前提にするかによって変わります。企業オーナーの相続で集める資料の全体像は、次の記事にまとめています。

評価額が対立したときの進め方

 金額の差だけを言い合っても前に進みません。①何のための評価かを一致させる、②基準となる時点を一致させる、③使用する資料(同じ決算期か、同じ試算表か)を一致させる、④争いのある前提(不動産の評価、貸付金の回収可能性、将来の見通し、役員報酬の水準など)を一覧にする、⑤必要なら同じ前提を置いたうえで評価書を比較する、という順序で整理すると争点が絞られます。なお、当事者が依頼して作成した評価書と裁判所が行う鑑定は位置づけが異なります。鑑定には費用と時間を要し、その額は対象となる会社の規模や鑑定人によって異なりますので、申立ての前に見込みを確認したうえで、要否を含めて方針を検討します。

会社への貸付金(役員借入金)は、株式とは別の相続財産です

科目名ではなく、貸主と残高の裏づけを確認します

 会社の決算書に計上されている役員借入金は、会社から見た負債です。その債権者が被相続人であれば、被相続人の側では、会社に対する貸付金等の債権が、株式とは別の相続財産として存在することになります。逆に、会社から被相続人への役員貸付金は会社の資産であり、被相続人の側では債務となる可能性があります。名称が似ているため、どちらから見た科目かを取り違えないでください。

 もっとも、「役員」という科目名だけで全額が被相続人の債権であると断定することはできません。複数の役員が貸主である場合、過去の立替金や未払役員報酬が振り替えられている場合、入出金の裏づけがない場合もあります。貸主は誰か、発生の原因は何か、契約書はあるか、入出金の記録と残高が一致するか、残高確認や返済の実績があるかを確認してください。

二重計上として点検すべきなのは、次のような場面です

 まず前提として、会社の負債として役員借入金を株式の評価に反映したうえで、相続人の側で貸付金債権を別に相続財産として計上すること自体は、通常は二重計上ではありません。会社の負債と、被相続人の債権は、別の主体に帰属する別の権利義務だからです。正しい整理まで排除しないよう注意してください。

 点検すべきなのは、次のような場面です。

  • 株式の評価で控除すべき会社の債務(役員借入金を含む)を控除しないまま、貸付金債権だけを別に加算している場合。貸付金相当額を織り込んだ価額を「株価」として合意したうえで、さらに貸付金を加算している場合も同じです。
  • 被相続人が会社の借入金を連帯保証していた場合などに、会社の負債として株式の評価に反映しながら、相続人の側でも保証債務として重ねて控除している場合
  • 債務免除、返済、債務の株式化(資本への振替)などの前後で、評価の条件が混在している場合

 企業全体の価値から有利子負債等を調整して株主に帰属する価値を求める考え方をとる場合も、役員借入金がどの段階で反映されているかを確認してください。負債として控除することと、貸付金債権の回収可能性を検討することは、別々に行う必要があります。会社の経営状況や債務免除の有無を踏まえないまま、債権が当然に額面どおりであると考えることはできません。税務上の評価については、財産評価基本通達204が元本の価額を「その返済されるべき金額」とし、同通達205が、債務者について手形交換所の取引停止処分、更生手続開始の決定、再生手続開始の決定、特別清算開始の命令、破産手続開始の決定、業況不振による事業の廃止又は六か月以上の休業といった事実が発生している場合などに、その金額を元本の価額に算入しないと定めています。赤字や債務超過であるという理由だけで当然にゼロになるわけではありません。また、債務免除は法務・税務の双方に影響しますので、単純な節税策として選ぶべきものではありません。役員貸付金・役員借入金そのものの整理方法は、次の記事で扱っています。

貸付金は、株式と同じようには分けられません

 株式を取得した相続人が、会社への貸付金も当然に全額取得するわけではありません。最高裁判所第一小法廷昭和29年4月8日判決(昭和27年(オ)第1119号・民集第8巻4号819頁)は、「相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とする」と判示しています。

 もっとも、最高裁判所大法廷平成28年12月19日決定(前掲)は、共同相続された普通預金債権・通常貯金債権・定期貯金債権について、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく遺産分割の対象となると判断しました。同決定は、その理由の中で、「共同相続の場合において、一般の可分債権が相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるという理解を前提としながら、遺産分割手続の当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とするという運用が実務上広く行われてきている」と述べており、預貯金債権についての判断を、そのまま一般の貸付金債権に当てはめることはできません

 実務上は、相続人全員の合意により貸付金債権も遺産分割の対象に含めて処理することが多くあります。その場合でも、債務者(会社)に対する対抗要件や、相続分を超える部分の承継についての対抗要件(民法第899条の2)を確認する必要があります。逆に、相続人間で「会社への債務は誰が負担する」と決めたとしても、それだけで債権者が当然に拘束されるわけではありません。

説明のための数値例

 次の数値は説明のための仮定であり、実際の相談事例ではありません。税額の計算例や適正な価格の算式を示すものでもありません。評価方法は資産と負債の差額を基礎とする単純な考え方によるものとし、評価上の調整、税効果、回収可能性の減額その他の調整項目はすべて省略しています。

仮定

  • 発行済株式総数 1,000株(すべて被相続人が保有。持株割合100パーセント)
  • 会社の資産 3億円
  • 会社の負債のうち金融機関からの借入金 1億円
  • 会社の負債のうち被相続人からの借入金(役員借入金) 5,000万円
  • 資産・負債とも評価替えをせず、帳簿上の金額をそのまま用います。相続税評価額ではありません。

 このとき、会社の純資産は、3億円から1億円と5,000万円を差し引いた1億5,000万円です。1株あたりでは15万円となり、株式の価値は合計1億5,000万円と整理されます。これに加えて、被相続人は会社に対して5,000万円の貸付金債権を持っていますので、被相続人の側の財産は、株式1億5,000万円と貸付金債権5,000万円の合計2億円になります。会社の資産3億円から金融機関借入金1億円を差し引いた2億円と一致しており、検算が合います。この一致は、被相続人が発行済株式の全部を保有し、役員借入金の貸主が被相続人一人であるという仮定によるものです。持株割合が一部にとどまる場合や貸主が複数いる場合は、それぞれの割合に応じて計算し直す必要があります。

 これに対し、役員借入金5,000万円を負債として控除しないまま株式を2億円と評価し、そこに貸付金債権5,000万円を加えると、合計は2億5,000万円となります。先の検算と5,000万円ずれており、これが二重計上にあたる典型的な形です。株式の価値と貸付金債権は、分けて検算してください。

 なお、この例で会社に返済の余力がない場合、貸付金債権5,000万円が額面どおり回収できるとは限りません。その場合でも、会社の側では負債が残りますので、貸付金の価値が下がった分だけ株式の価値が自動的に増えるわけではありません。回収可能性の検討と、負債の控除は、別々に行う必要があります。

代償金は、金額と支払条件を一体で決めます

代償金は株価だけでは決まりません

 代償金の額は、株価に他の相続人の法定相続分を乗じれば自動的に決まる、というものではありません。株式以外の遺産(不動産・預貯金・保険金のうち遺産に含まれるもの)、各相続人が取得する財産の内容、特別受益や寄与分に関する主張、会社への貸付金の帰属などを含めた全体の調整として決まります。「株価×他の相続人の法定相続分」がどの事案でも確定額になると考えないでください。

 そのうえで、金額について合意できるかと、合意した金額を履行できるかは、分けて検討する必要があります。後継者が支払える範囲に合わせて他の相続人の取得額を当然に切り下げることはできませんし、他の相続人が当然に分割払を受け入れるべきだということにもなりません。支払の見通しが立たない場合は、現物分割や換価分割を含めて分割方法そのものを見直すことになります。

支払条件は、次の項目を確認します

代償金について、合意の前に確認する項目
項目 決めておくこと 確認の観点
当事者と対象 誰が誰に支払うのか、対象となる株式の種類と株数、各相続人が取得する財産の内容、代償債務の額 株数と持分の別が明確か。他の遺産の取得内容と整合しているか。
支払の方法と時期 一括払か分割払か、頭金の額、各回の支払日、最終期限、振込先、振込手数料その他の費用の負担 資金の入る時期と支払日が整合しているか。支払日が土日祝に当たる場合の扱いを決めたか。
利息・遅延損害金・期限の利益喪失 分割払期間中の利息を付すか、遅延損害金の利率、何回分の遅滞で期限の利益を失うか 利率を根拠なく固定していないか。法定利率は変動制であり、合意で定める場合はその趣旨を明確にしたか。
担保・保証 担保を設定するか、対象財産は何か、保証人を立てるか 担保に価値があるか、先順位の担保があるか、設定と対抗要件の手続を了したか、実際に換価できるか。
資金調達が実現しなかった場合 融資が受けられなかった場合、支払が遅れた場合の取扱い 条件付きの合意とするのか、期限を延ばすのか、他の分割方法に切り替えるのか。
履行の順序 株式の帰属が確定する時点、名義書換や株券の交付の時期、担保設定の時期、代償金の支払の時期の前後関係 どの順序で何が行われるかを、当事者全員が同じ理解で共有できているか。
支払完了までの株主としての扱い 分割払の期間中の議決権・配当の扱い、必要となる会社の手続 会社側の名義書換や株主名簿の記載と齟齬がないか。
履行の確保の方法 調停調書や公正証書の利用を検討するか どの文書がどの範囲で強制執行の基礎となるか、費用と手続、実際に回収できる財産があるか。

「同時履行にすれば解決」「未払いなら株式が戻る」「公正証書さえ作れば回収できる」という一般化は避けてください。遺産分割は通常の株式売買とは法的な構成が異なります。共同相続人間で遺産分割協議が成立した場合、相続人の一人が協議で負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法第541条によって遺産分割協議を解除することはできないとされています(最高裁判所第一小法廷平成元年2月9日判決・昭和59年(オ)第717号・民集第43巻2号1頁)。遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は債権債務関係が残るだけであること、そう解さなければ民法第909条本文により遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ法的安定性が著しく害されることが理由とされています。
 他方で、共同相続人が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を全員の合意により解除したうえ、改めて分割協議を成立させることはできるとされています(最高裁判所第一小法廷平成2年9月27日判決・昭和63年(オ)第115号・民集第44巻6号995頁)。支払がなければ株式が自動的に戻るという条項を安易に置くことは適切ではありません。履行の確保は、担保、分割払の設計、強制執行の基礎となる文書の選択によって検討します。この記事では個別の事情を欠いた契約書のひな形は示しません。

支払の原資は、どこから出るのかを具体的に確認します

代償金の支払原資として検討される方法と、確認すべき事項
資金の出どころ 確認すべき手続・制限 見落としやすい点
後継者個人の預貯金・借入れ 金融機関の審査、担保・保証の要否、返済条件 相続税の納税資金と競合します。返済原資をどこから得るのかを説明できる必要があります。
他の相続財産の配分の調整 不動産や預貯金を他の相続人に取得させ、代償金の額を抑える方法 不動産を取得する側にも、管理費用や将来の処分の問題が生じます。
生命保険金 保険契約の内容と受取人の確認 受取人が指定されている死亡保険金は、原則として受取人固有の財産と扱われます。受取人と帰属を確認しないまま遺産として扱わないでください。
会社からの貸付け 利益相反取引に当たる場合の承認手続(会社法第356条第1項、第365条)、議事録、契約・利息・返済条件 会社の資金繰りを圧迫します。無利息・低利の場合の税務上の取扱いにも注意が必要です。
剰余金の配当 株主総会の決議(会社法第454条第1項)、分配可能額の制限(同法第461条第1項第8号) 他の株主にも持株数に応じて配当が生じます。後継者だけに資金を回すことはできません。
役員報酬 定款又は株主総会の決議(会社法第361条第1項) 会社の損益と資金繰りに影響します。個人の所得として課税されます。
後継者が取得した株式の一部を発行会社に譲渡する(自己株式の取得) 株主総会の決議(会社法第156条第1項)、特定の株主からの取得の規律(同法第160条)、相続人等からの取得の特則(同法第162条)、分配可能額の制限(同法第461条第1項第3号) 会社の現預金残高と分配可能額は別の指標です。残高があっても分配可能額が不足すれば取得できません。後継者の持株割合が下がる点と、後述する発行会社への譲渡の特例の要件もあわせて確認します。
会社からの借入金(役員借入金)の返済 債権を誰が承継したか、会社に返済の余力があるか 返済の前後で会社の資産と負債が変わるため、株価や資金繰りの前提と整合しているかを確認します。

 会社の資金を後継者が自由に引き出せるわけではありません。「必要な代償金と本人の納税資金等の合計」と「本人が用意できる資金と返済の原資」を並べて書き出し、不足があるかどうかを合意の前に確認してください。

 代償金を受け取る側にも注意点があります。分割払の場合、代償金を全額受領する前に相続税の納付期限が来ることがあります。支払う側だけでなく、受け取る側の納税資金と回収のリスクもあわせて検討してください。不動産の代償金の考え方は、次の記事でも整理しています。

代償金の額と支払条件を検討する前に

 代償金は、金額だけでなく、支払時期、利息、担保、履行の順序まで含めて一度で決める必要があります。決算書と資金繰りの資料をご用意いただければ、評価の前提と支払条件を整理したうえで、検討できる選択肢をご説明します。当事務所では、相続に関する初回のご相談を無料でお受けしています(事前のご予約をお願いしています。1回あたり60分を目安としています。事案によって平日夜間・土日祝にもご予約により対応します。)。

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税務は、法律上の分割と分けて確認します

遺産が未分割でも、相続税の申告期限は延びません

 相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日(通常は死亡の日)の翌日から10か月以内に行うこととされています(国税庁タックスアンサーNo.4205)。取得した財産の価額の合計額が遺産に係る基礎控除額の範囲内であれば申告も納税も必要ありませんので、すべての相続人に当然に申告義務があるわけではありません。

 申告と納税が必要な場合、相続財産が分割されていないことを理由に期限が延びることはありません。国税庁タックスアンサーNo.4208は、分割協議が成立していないときは、各相続人などが民法に規定する相続分又は包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして計算し、申告と納税をすることになると説明しています。その際、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例や配偶者の税額の軽減の特例などが適用できない申告になるとされています。

 その後に分割が行われ、分割に基づき計算した税額と申告した税額とが異なるときは、修正申告又は更正の請求をすることができます。更正の請求ができるのは、分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内です。修正申告又は更正の請求において、これらの特例を適用することもできますが、特例の適用ができるのは原則として申告期限から3年以内に分割があった場合に限られます(同No.4208。根拠は相続税法第19条の2、第27条、第31条から第33条まで、第55条、租税特別措置法第69条の4)。「分割が済むまで申告は不要」「未分割ならすべての特例が永久に使えない」「あとから当然に修正できる」という理解は、いずれも正確ではありません。適用の可否と手続は、税理士又は所轄の税務署にご確認ください。

民事上の代償金の額と、相続税の課税価格に反映する代償財産の価額は別です

 相続税法基本通達11の2-9は、代償分割の課税価格について、代償財産の交付を受けた者は現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額、交付をした者は現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額によるとしています。同通達11の2-10は、代償財産の価額を原則として代償債務の額の相続開始の時における金額によるものとしたうえで、代償債務の額が、対象となった財産が特定され、かつ、その財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されているときは、一定の算式によって計算した金額によるとしています(全員の協議に基づき、この算式に準じた方法又は合理的と認められる方法で計算して申告した場合は、その申告した額によることが認められます)。

 つまり、当事者が合意した代償金の額が、そのまま課税価格に加減されるとは限りません。どの価額を基に代償金を決めたのかによって取扱いが変わりますので、分割時の価額を基にしたのかどうかを協議書に明示しておくことが実務上重要です。

 あわせて、金銭による代償分割、代償債務の履行として自己の固有財産(不動産など)を渡す場合、遺産分割後の株式の売買、分割のやり直し、債権の放棄は、それぞれ税務上の取扱いが異なります。同じものとして説明しないでください。「代償分割はすべて非課税」という説明は正確ではありません。具体的な税額の計算はこの記事の範囲を超えますので、税理士にご相談ください。

将来株式を売るときの取得費は、被相続人のものを引き継ぎます

 相続により取得した株式等の取得費は、原則として被相続人の取得費を引き継ぎます(国税庁タックスアンサーNo.1464)。そして、所得税基本通達38-7(1)は、「代償分割により負担した債務に相当する金額は、当該債務を負担した者が当該代償分割に係る相続により取得した資産の取得費には算入されない」と定めています。支払った代償金の額を取得費に置き換えることはできませんし、相続税評価額をそのまま取得費とすることもできません。

 このため、被相続人が株式を取得した際の払込みや購入、増資の引受けに関する資料は、相続後も保存しておく必要があります。取得費が分からない場合は売却代金の5パーセント相当額を取得費とすることも認められていますが(同No.1464)、実際の取得費がこれを上回るときは不利になります。遺産分割の後に相続人間で売買して取得した株式は、取得の経緯が異なりますので区別して扱ってください。

 また、相続又は遺贈により財産を取得し、その財産を取得した人に相続税が課税されている場合に、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡したときは、相続税額のうち一定金額を取得費に加算することができます(国税庁タックスアンサーNo.3267。根拠は租税特別措置法第39条)。適用には確定申告と一定の書類の提出が必要です。

発行会社に売却する場合は、要件と届出を確認します

 個人が所有する非上場株式を発行会社に譲渡して金銭等の交付を受けた場合、交付を受けた金額がその発行会社の資本金等の額のうち当該株式に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分は原則として配当所得とみなされて課税されます。

 これに対して、相続又は遺贈により財産を取得し、その相続又は遺贈について納付すべき相続税額がある個人が、その相続の開始があった日の翌日から、その相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、その相続税の課税の対象となった非上場株式を発行会社に譲渡した場合には、みなし配当課税を行わず、譲渡対価の額の全額を非上場株式の譲渡所得の収入金額とする特例があります(国税庁タックスアンサーNo.1477。根拠は所得税法第25条、租税特別措置法第9条の7、第37条の10、租税特別措置法施行令第5条の2ほか)。

この特例は、売却益が非課税になる制度ではありません。特例を適用した場合、譲渡対価の額の全額が譲渡所得の収入金額となり、そこから取得費及び譲渡に要した費用を控除して計算した譲渡所得金額に対して課税されます。また、相続した株式を会社に売れば自動的に適用される制度でもありません。納付すべき相続税額があること、その株式が相続税の課税の対象となったものであること、その期間内の譲渡であることが必要で、さらに、非上場株式を発行会社に譲渡する日までに、みなし配当課税の特例に関する届出書を発行会社に提出する必要があります(発行会社は、譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに、所轄税務署長にこの届出書を提出する必要があります)。取得費加算の特例との併用は可能とされていますが、両者の要件はそれぞれ別に確認してください。
 売主が個人か法人か、買主が発行会社か他の株主か、株式の取得の経緯、価格の妥当性によって取扱いが変わります。一般的な税率だけで手取額を断定することはできません。

 自社株の相続に伴う納税資金の確保は、次の記事で扱っています。

資料を見せてもらえない場合と、協議がまとまらない場合

資料は、種類ごとに請求できる人も要件も違います

 「相続人であれば会社の資料をすべて見られる」というものではありません。まずは任意の開示を求め、手元にある資料(被相続人の確定申告書、通帳、契約書、株主総会の招集通知など)を整理し、そのうえで権限に基づく請求や裁判手続の検討に進むという順序が基本になります。

会社の資料ごとの請求の根拠と主な要件
資料 根拠 請求できる人・主な要件
株主名簿 会社法第125条第2項・第3項 株主及び債権者が、請求の理由を明らかにして請求します。権利の確保又は行使に関する調査以外の目的である場合など、会社が拒むことのできる事由が四つ定められています。
会計帳簿又はこれに関する資料 会社法第433条第1項・第2項 総株主の議決権の100分の3(定款でこれを下回る割合を定めることができます)以上の議決権を有する株主等が、請求の理由を明らかにして請求します。会社が拒むことのできる事由は五つで、請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営む場合も含まれます。
計算書類等 会社法第442条 株主及び債権者。会社は、各事業年度に係る計算書類等を定時株主総会の日の一週間(取締役会設置会社は二週間)前の日から五年間、本店に備え置く必要があります。

 準共有の状態にある株式で請求する場合は、会社法第106条本文の仕組みとの関係や、持分の価格に従った過半数での決定が必要かどうかについて、請求の内容により考え方が分かれ得ます。実務としては、まず任意の開示を求め、応じられないときに、権利行使者の指定の要否を含めて請求の方法を検討するという順序になります。資料の開示を求める具体的な手順は、次の記事で扱っています。

協議がまとまらないときの進め方

 協議が調わないとき又は協議をすることができないときに家庭裁判所へ分割を請求できることは、先に述べたとおりです。裁判所の案内によれば、調停では当事者双方から事情を聴き、必要に応じて資料の提出を求め、遺産について鑑定を行うなどして事情を把握したうえで、各当事者の希望する分割方法の意向を聴取し、解決案の提示や助言を経て合意が目指されます。話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には、自動的に審判手続が開始されます。

 審判では、遺産に属する物又は権利の種類及び性質その他一切の事情が考慮されます(民法第906条)。自社株が主要な遺産である事案では、評価をめぐって鑑定の要否が論点になりやすく、費用と期間の見通しをあらかじめ検討しておく必要があります。

署名・移転・支払の前に確認する資料チェックリスト

 すべてがそろうまで相談できないということはありません。手元にあるものから整理し、不足分は順次集めていくのが実際的です。

相続関係と遺産の範囲を確定するために

  • 遺言書の有無と内容(自筆証書の場合は検認の有無、保管制度の利用の有無)
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)、相続人全員の戸籍・住民票
  • 既に作成されている遺産分割協議書、調停調書、審判書
  • 財産目録、預貯金の残高証明書、不動産の登記事項証明書
  • 生命保険の契約内容と受取人が分かる資料

株式の帰属と会社の手続を確認するために

  • 会社の定款(譲渡制限の定め、相続人等に対する売渡請求の定め、種類株式の有無、株券発行の定めの有無)
  • 株主名簿、登記事項証明書、株券が発行されている場合はその現物の所在
  • 株主総会・取締役会の議事録、権利行使者の指定・通知に関する書面
  • 被相続人の確定申告書、法人税申告書の別表二(同族会社等の判定に関する明細書)
  • 過去の株式の譲渡契約書、株主間で取り決めがある場合はその資料

株価と支払条件を検討するために

  • 直近数期の決算書(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表)と、基準日に近い試算表
  • 勘定科目内訳明細書、総勘定元帳のうち必要な科目の明細
  • 法人税・消費税の申告書、取引相場のない株式(出資)の評価明細書(作成済みの場合)
  • 会社と被相続人との貸借に関する資料(契約書、入出金の記録、残高確認書、返済の実績)
  • 資金繰り表、借入金の返済予定表、担保・保証の設定状況
  • 主要資産(不動産・有価証券・保険)の評価に関する資料
  • 既に作成された株価の評価書がある場合は、その前提条件が分かる部分
  • 会社や他の相続人から届いた通知書・提案書

 資料の収集にあたっては、他人名義の口座や他人のアカウントに無断でアクセスすること、会社の記録を持ち出すこと、書類に手を加えることは避けてください。手元にあるものをそのままの形で保管し、どの資料をどこから入手したかを記録しておくことが、後の手続で重要になります。

弁護士に相談するタイミング

 次のような段階では、資料を確認したうえで方針を整理しておくことで、後から変更しにくい事項を落ち着いて検討できます。

  • 遺産に非上場株式が含まれていることが分かり、誰が取得するかを話し合う前
  • 権利行使者の指定を求められたが、それが何を意味するのか確認したいとき
  • 株価の提示を受けたが、前提となる資料と評価の目的を確認したいとき
  • 代償金の額や分割払の提案を受け、支払条件まで含めて検討したいとき
  • 会社に株式を買い取ってもらう案が出ており、手続と資金の制約を確認したいとき
  • 会社が決算書や株主名簿を見せてくれず、協議が進まないとき
  • 相続税の申告期限が近いのに、分割の見通しが立たないとき
  • 遺産分割協議書に署名を求められているが、内容の意味を確認したいとき

 自社株が関わる遺産分割は、民法と会社法に加え、会計と税務、会社の資金繰りが同時に関係します。弁護士が関与することで、株式の帰属、評価の前提、支払条件を一つの合意として整理しやすくなりますが、結論は資料と個別の事情によって異なります。相続税の申告や具体的な税額の計算は税理士、登記は司法書士の職務ですので、必要に応じて連携の形を検討します。なお、同じ相続について、立場の異なる相続人の双方からご依頼をお受けすることはできません。

よくある質問

権利行使者に指定されました。これで株式は私のものになったのでしょうか。

いいえ。権利行使者の指定と会社への通知は、共有状態にある株式について会社に対して権利を行使するための仕組みにすぎません(会社法第106条)。株式が誰に帰属するかは遺産分割によって決まりますので、権利行使者に指定されただけでは準共有は解消しません。

相続税の申告で使った評価額を、そのまま代償金の計算に使えますか。

当事者全員が合意すれば、その金額を前提に分割することはできます。もっとも、相続税の評価は課税時期を基準に財産評価基本通達に従って計算されるものであり、遺産分割で取得する財産の評価は分割時の価値が問題になります。合意できない場合には別の評価が主張されることがありますので、相続税評価額が当然に代償金の基礎になるわけではありません。どの評価を前提とするかを最初に確認してください。

相続人の過半数が賛成すれば、株式の分け方を決められますか。

いいえ。遺産分割は相続人全員の合意によって成立します。持分の価格に従った過半数で決められるのは、共有株式についての議決権の行使のような管理に関する行為です(最高裁判所第一小法廷平成27年2月19日判決・民集第69巻1号25頁)。合意が調わないときは、家庭裁判所の調停・審判によることになります。

代償金を一括で支払えません。分割払にできますか。

相続人全員が合意すれば、分割払とすることは可能です。その場合は、各回の支払日、最終期限、利息の有無、遅滞したときの期限の利益の喪失、担保の要否まで一体で決めておく必要があります。なお、審判で代償分割の方法がとられるには「特別の事情」が必要とされており、資金の裏づけがなくても裁判所が当然に長期の分割払を認めるというものではありません。

会社に株式を買い取ってもらうことはできますか。

会社が買い取るかどうかは会社の機関決定の問題であり、相続人の側から買取りを強制することはできません。株主との合意による自己株式の取得には、あらかじめ株主総会の決議が必要で(会社法第156条第1項)、特定の株主から取得する場合は特別決議によります(同法第160条第1項、第309条第2項第2号)。さらに財源の制限もありますので、会社に現預金の残高があることと、取得ができることとは別の問題です。

会社の決算書に「役員借入金」があります。株式を相続する人が、この貸付金も取得するのですか。

当然にそうなるわけではありません。会社から見た役員借入金は会社の負債で、その貸主が被相続人であれば、被相続人の側では会社に対する貸付金債権が株式とは別の相続財産になります。金銭その他の可分債権は原則として相続開始とともに相続分に応じて分割されると解されていますので(最高裁判所第一小法廷昭和29年4月8日判決・民集第8巻4号819頁)、相続人全員の合意により遺産分割の対象に含めるかどうかを確認する必要があります。また、科目名だけで貸主を判断せず、契約、入出金、残高、返済の実績を確認してください。

会社が決算書も株主名簿も見せてくれません。相続人であれば全部見られるのではないのですか。

資料の種類によって、請求できる人も要件も異なります。株主名簿や計算書類等は株主及び債権者が請求できますが(会社法第125条第2項、第442条)、会計帳簿及びこれに関する資料の閲覧謄写は、議決権又は株式の一定割合以上を有する株主に限られ、会社が拒むことのできる事由も定められています(同法第433条)。まず任意の開示を求め、応じられない場合に請求の方法を検討するという順序になります。

遺産分割がまとまらないまま、相続税の申告期限が近づいています。どうなりますか。

申告と納税が必要な場合、未分割であることを理由に期限が延びることはありません。その場合は、法定相続分等に従って財産を取得したものとして計算し、申告と納税をすることになります。その後に分割が行われれば修正申告又は更正の請求をすることができますが、期限と、適用できる特例の範囲に制約があります(国税庁タックスアンサーNo.4208)。適用の可否と手続は税理士又は所轄の税務署にご確認ください。

まとめ

  • 共同相続された株式は相続人全員の準共有となり、相続開始だけで法定相続分に応じた株数を当然に単独取得するわけではありません(民法第898条、第264条)。
  • 権利行使者の指定・通知は会社に対して権利を行使するための仕組みであり(会社法第106条)、それだけでは株式の帰属は決まらず、準共有も解消しません。
  • 未分割の遺産共有は遺産分割の手続で、共有持分の関係は合意又は共有物分割の手続で解消します。株数ごとに単独取得していれば、株主が複数でも準共有ではありません。「相続から10年で、どの未分割遺産でも共有物分割請求ができる」という理解も正確ではありません(民法第258条の2、第904条の3)。
  • 評価は、目的・基準時・資料がそろって初めて比較できます。相続税評価額、帳簿上の純資産、分割で用いる価額、売却価額、支払える額は一致するとは限りません。
  • 決算書は、株価に効く面と支払能力に効く面を分けて読みます。会社の現預金は後継者個人の資金ではありません。
  • 会社への貸付金は株式とは別の相続財産です。会社の負債として反映したうえで債権を別に計上すること自体は、通常は二重計上ではありません。
  • 代償金は、金額と支払条件(時期・利息・担保・履行の順序)を一体で決めます。未払いでも遺産分割協議を債務不履行で解除することはできないとされています(最高裁判所第一小法廷平成元年2月9日判決)。
  • 相続税の申告期限は未分割でも延びません。発行会社への売却の特例は、要件と届出を満たして初めて適用され、売却益が非課税になる制度ではありません。
  • 結論は資料と個別の事情によって変わります。署名・移転・支払の前に、資料を確認したうえで判断してください。

資料を確認したうえで、方針を整理します

 自社株の準共有は、時間が経つほど関係者が増え、資料も集めにくくなります。定款、株主名簿、決算書、会社との貸借に関する資料をご用意いただければ、株式の帰属、評価の前提、代償金の支払条件について、検討できる選択肢と次に確認すべき事項を整理してご説明します。お手元にある資料(被相続人の確定申告書、会社から届いた通知など)だけでもご相談いただけます。会社の資料を入手できない場合の進め方もあわせて整理します。相続に関する初回のご相談は無料です(事前のご予約をお願いしています。1回あたり60分を目安としています。弁護士費用特約の利用等でご本人のご負担がない場合には、相談料を申し受けることがあります。)。

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弁護士紹介

藤井 貴之(ふじい たかゆき)
代表弁護士・公認会計士/兵庫県弁護士会所属・日本公認会計士協会兵庫会所属
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所

 遺言・相続、企業法務、M&A・事業承継などのご相談に対応しています。非上場株式が関係する遺産分割では、株式の帰属、評価の前提となる資料、代償金の支払条件を分けて整理したうえで、方針を検討します。

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参考資料

 本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。株式の帰属、評価の結論、代償金の額と支払条件、税務上の取扱いは、遺言の有無、会社の定款と財務の状況、相続人の事情その他の個別事情により異なります。法令、通達、実務の運用は改正されることがありますので、実際のご対応にあたっては最新の法令・公式情報をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。相続税の申告及び具体的な税額の計算は税理士又は所轄の税務署に、登記は司法書士にご確認ください。記載の内容は令和8年9月時点の情報に基づきます。

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