交通事故で足首を骨折した、あるいは靱帯を損傷したものの、治療が一段落した後も痛みや歩きにくさ、ぐらつくような不安定感が残っている。長時間立っていられず、以前のように立ち仕事や歩き回る仕事に戻れるか不安だ。足関節(足首)のケガでは、このような症状が残ることがあります。
このコラムでは、足関節の果部骨折や靱帯損傷でどのような後遺障害が問題になりやすいか、可動域制限や不安定性がどのように評価されるか、歩行や立ち仕事への支障が損害賠償上どのように扱われるか、そして示談や後遺障害申請の前に確認しておきたい資料を整理します。結論からお伝えすると、症状が残っている場合は、示談を進める前に後遺障害申請の要否と手元の資料を確認しておくことが重要です。ただし、後遺障害に該当するか、賠償の見通しがどうなるかは、診断名・画像所見・治療経過などの個別事情によって変わります。
本コラムは一般的な情報提供であり、特定の事案の結論を保証するものではありません。治療方針・回復の見込み・検査の要否は医師の判断が前提です。法的な見通しは、診断書や画像資料などを確認したうえで判断する必要があります。
足首の痛みや不安定感が残り、示談や後遺障害申請の進め方に迷っている場合は、診断書や画像資料を確認したうえで、後遺障害申請の要否や対応方針を整理できます。
Contents
結論|足関節のケガで後遺障害が問題になりやすい場面と示談前の確認
足関節の骨折・靱帯損傷では、骨がついた後(骨癒合後)や症状固定の後にも、次のような症状が残り、後遺障害として問題になることがあります。
- 足首の可動域(動く範囲)が狭くなる(可動域制限)
- 荷重時や歩行時の痛みが続く
- 歩くときや階段でぐらつく、力が入りにくい(不安定感)
- 長時間の立位や歩行が難しい
これらの症状が仕事や生活にどの程度影響するかは、後遺障害の等級だけでなく、職務内容や収入資料によっても評価が変わります。示談を進める前に、次の点を確認しておくことをおすすめします。
- 症状が残っている場合、示談前に後遺障害申請の要否を確認したか
- 後遺障害診断書に可動域・不安定性・画像所見などが正確に記載される見込みがあるか
- 立ち仕事・歩行を伴う職務への支障を示す資料(勤務内容・収入資料)がそろっているか
- 保険会社からの示談案・支払明細の内容を確認したか
後遺障害が認定されれば必ず逸失利益が認められる、必ず増額する、というものではありません。個別事情により結論は異なります。
足関節果部骨折・靱帯損傷の基礎知識
足関節の構造と「果部骨折」
日本整形外科学会の解説によれば、足関節は脛骨(けいこつ)・腓骨(ひこつ)・距骨(きょこつ)の三つの骨で構成されます。内くるぶし(内果)と後果は脛骨の下端にあたり、外くるぶし(外果)は腓骨の下端にあたります。これらの「くるぶし(果部)」やその周辺が折れるものを、一般に足関節果部骨折と呼びます。
跳躍や転落・転倒などで足関節に強い外力が加わると、靱帯損傷や骨折が生じ、折れる部位や組み合わせによって、内果骨折・外果骨折・後果骨折、これらが組み合わさった二果骨折・三果骨折、脱臼を伴う脱臼骨折など、さまざまな病態になります。診断はX線(レントゲン)検査で行い、粉砕が強い場合はCT(特に三次元CT)が必要になることもあります。
骨折・靱帯損傷から症状固定・後遺障害申請までの流れ
同学会の解説では、骨折のズレ(転位)が少ない場合や、徒手整復で整復位が得られる場合は、外固定による保存的な治療が可能とされます。一方、整復位を保つのが難しい不安定な例や、十分な整復位が得られない場合は、関節内の骨折であるため手術が必要になることがあります。いずれの場合も、治療方針は主治医の判断が前提です。
治療の後、リハビリを続けてもこれ以上の改善が見込めない状態になると、「症状固定」と判断されることがあります。症状固定の後に残った症状について、後遺障害の申請を検討することになります。法律の観点からは、治療方針そのものよりも、どのような診断名・画像所見・治療経過が記録されているかが重要になります。
後遺障害で問題になりやすい症状
足関節の骨折・靱帯損傷では、主に次のような症状が後遺障害として問題になります。
- 可動域制限:足首の背屈(つま先を上げる動き)・底屈(つま先を下げる動き)が狭くなる
- 痛み:荷重時・歩行時・長時間立位での痛みが続く
- 不安定感:歩行や階段でぐらつく、捻りやすい
- 歩行障害・跛行(はこう):歩き方に支障が出る
- 腫れ・違和感・しびれなど
これらは大きく分けて、関節の動きに関する「機能障害」と、痛みやしびれに関する「神経症状」として整理されます。どの症状がどの程度残るか、後遺障害としてどう評価されるかは、医療記録や画像所見、症状の一貫性によって左右されるため、断定はできません。
可動域制限・不安定性はどのように評価されるか
可動域制限の評価
足関節の可動域制限は、後遺障害診断書に記載された可動域の数値をもとに、原則としてケガをしていない側(健側)と比較して、どの程度制限されているかで評価されます。可動域は、日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会などが定める「関節可動域表示ならびに測定法」に基づいて、角度計を用いて測定するのが一般的です。なお、この測定法は改訂され、2022年四月一日から実施されており、足関節の運動の名称や測定の基準にも変更があります。測定漏れや測定方法の誤りがあると評価の対象にならないことがあるため、後遺障害診断書の可動域欄が正確に記載されるかが重要です。
重要な点として、可動域制限が後遺障害として評価されるためには、可動域が狭くなっている医学的な原因(関節の破壊や変形、骨癒合の不良など)が、画像などで確認できることが求められます。診断名が「捻挫」のみで、可動域制限の原因となる器質的な損傷が画像で確認できない場合には、可動域制限そのものが評価されにくいことがあります。
不安定性(動揺関節)の評価
足首のぐらつき(不安定性)は、靱帯損傷などによって関節を支える組織が傷ついた結果として生じることがあります。後遺障害の実務では、いわゆる「動揺関節」として扱われる場合があり、その確認には、手技による動揺性テストやストレスX線などの検査に加え、動揺が生じるだけの靱帯損傷などの原因が特定されることが求められるとされています。自覚症状だけでなく、検査所見や画像、日常生活・仕事への具体的な支障と結びつけて整理することが重要です。
参考:後遺障害等級と労働能力喪失率の目安
足関節の機能障害・神経症状について、実務上参照される後遺障害等級の枠組みは、おおむね次のとおりです。等級に該当するかどうかは可動域の数値や画像所見などによるため、あくまで枠組みの整理であり、該当を保証するものではありません。労働能力喪失率は、労働省労働基準局長通達(昭和三十二年七月二日基発第五五一号)別表で示された原則的な率であり、実際の喪失の程度は職務内容などにより異なります。
| 区分・等級 | 症状のめやす | 労働能力喪失率(原則) |
|---|---|---|
| 機能障害 8級7号 | 関節が強直、または健側の可動域の約10%以下(用を廃したもの) | 45% |
| 機能障害 10級11号 | 可動域が健側の2分の1以下(著しい機能障害) | 27% |
| 機能障害 12級7号 | 可動域が健側の4分の3以下(機能障害) | 14% |
| 神経症状 12級13号 | 痛み・しびれの原因が画像等で証明できるもの | 14% |
| 神経症状 14級9号 | 痛み・しびれの原因が医学的に説明できるもの | 5% |
| 動揺関節 | 靱帯損傷等を原因とする不安定性(程度により8・10・12級に準じて評価) | 等級に準ずる |
上記の等級・喪失率は、公的資料・実務資料で確認した枠組みの整理です。具体的な等級認定や金額は、後遺障害診断書・画像資料・収入資料などを確認したうえで判断する必要があり、個別事情により結論は異なります。慰謝料の金額は、自賠責基準と裁判実務上参照される基準とで異なります。なお、自賠責保険の傷害部分の限度額は120万円、後遺障害部分は認定された等級に応じた限度額が定められています。
立ち仕事・歩行を伴う仕事への影響と逸失利益
物流、倉庫、配送、港湾関連、製造、建設、販売、介護、警備、飲食など、立ち仕事や歩行距離の長い仕事では、足関節の痛み・不安定感・可動域制限が就労に影響しやすい面があります。神戸港周辺やポートアイランドなどで、荷物の搬出入、倉庫作業、配送、現場確認など歩行や立ち仕事を伴う仕事をしている方は、足関節の症状が仕事に与える影響を資料で整理しておくことが重要です。
後遺障害が残った場合、将来の収入減少(逸失利益)や、仕事を休んだことによる減収(休業損害)が問題になることがあります。逸失利益の検討では、後遺障害の等級だけでなく、実際の職務内容、収入資料、勤務制限の有無、配置転換、残業の減少、転職、将来の昇進・昇給への影響、本人の努力による減収回避などを総合的に確認する必要があります。等級が認定されれば必ず逸失利益が認められるわけではなく、逆に、減収が生じていても具体的な支障を資料で説明できるかどうかで評価が変わります。
立ち仕事や歩行を伴う仕事への支障が残っている場合は、勤務内容や収入資料を確認することで、逸失利益や休業損害の検討材料を整理しやすくなります。
「捻挫」と言われた場合に軽視しないための注意点
事故直後に「捻挫」と診断された場合でも、実際には靱帯損傷や骨折、軟骨損傷、関節の不安定性などが背景にあることがあります。足関節捻挫は、足首をひねる動きで靱帯が損傷するもので、程度によっては治療後も不安定感などが残ることがあります。痛みや不安定感が続く場合は、自己判断で通院を中断せず、医師に相談して症状と検査結果を診療記録に残しておくことが大切です。
後遺障害の観点からは、事故直後の診断名だけで判断するのではなく、その後の画像検査、治療経過、症状固定時の状態、後遺障害診断書の記載を確認する必要があります。「捻挫だから軽い」と決めつけず、また過度に不安をあおられることもなく、記録を整えていくという姿勢が適切です。
後遺障害申請前・示談前のチェックリスト
示談、後遺障害診断書の作成、後遺障害申請、保険会社の提示額への回答の前に、次のような資料がそろっているかを確認しておくと、後遺障害申請や示談交渉の検討材料を整理しやすくなります。
- 交通事故証明書
- 診断書・後遺障害診断書
- X線・CT・MRIなどの画像資料
- 診療報酬明細書、カルテ、リハビリ記録
- 通院日が分かる資料
- 保険会社からの通知、示談案、支払明細
- 休業損害証明書、源泉徴収票、給与明細
- 勤務内容が分かる資料(業務日報、シフト表、求人票、職務記述書など)
- 自動車保険証券(弁護士費用特約の有無の確認を含む)
- 労災が関係する場合の関連資料
あわせて、可動域・不安定性・痛みの状態、画像所見との整合など、医師に確認しておきたい事項を整理しておくと、後遺障害診断書の作成時に役立ちます。
弁護士に相談するタイミング
次のような場面では、資料を確認したうえで対応方針を整理しやすくなります。結果を保証するものではありませんが、判断材料をそろえる意味で、早めに相談を検討してよい場面です。
- 治療費の打ち切りを打診されたとき
- 症状固定と言われたとき
- 後遺障害診断書を作成する前
- 後遺障害申請の方法(被害者請求・事前認定など)で迷っているとき
- 非該当、または想定より低い等級だったとき
- 保険会社から示談金の提示を受けたとき
- 立ち仕事や歩行を伴う仕事への支障が残っているとき
よくある質問(FAQ)
足関節(足首)の骨折で後遺障害が認定されることはありますか。
可動域制限や痛みなどが残った場合、後遺障害として評価される可能性があります。ただし、可動域制限については、その原因となる器質的な損傷が画像などで確認できることが重要です。診断書や画像資料を確認したうえで判断する必要があります。
足首の靱帯損傷でも後遺障害申請を検討できますか。
靱帯損傷による不安定性(動揺関節)などが問題になる場合、後遺障害申請を検討できることがあります。手技による検査やストレスX線などの所見、靱帯損傷の原因の特定が重要とされています。個別事情により結論は異なります。
可動域制限はどのように確認されますか。
後遺障害診断書に記載された可動域の数値をもとに、原則として健側と比較して評価されます。角度計を用いた測定法に沿って測定されるため、後遺障害診断書に可動域が正確に記載されることが重要です。
歩くと痛いだけでも後遺障害になりますか。
痛みなどの神経症状も後遺障害として評価される場合がありますが、その原因が画像等で証明できるか、医学的に説明できるかによって扱いが変わります。事案により異なるため、資料を確認したうえで判断する必要があります。
立ち仕事に戻れない場合、逸失利益は問題になりますか。
立ち仕事や歩行を伴う仕事への支障は、逸失利益や休業損害の検討で問題になることがあります。等級だけでなく、職務内容や収入資料、勤務制限の状況などを確認する必要があります。認定されれば必ず認められるというものではありません。
「捻挫」と言われましたが、不安定感が残る場合はどうすればよいですか。
痛みや不安定感が続く場合は、自己判断で通院を中断せず、医師に相談して症状と検査結果を記録に残すことが大切です。示談前に、画像検査や症状固定時の状態を確認することをおすすめします。
示談前に何を確認すべきですか。
症状が残っている場合は、示談前に後遺障害申請の要否を確認することが重要です。診断書・画像資料・保険会社の提示書・勤務資料などを確認することで、検討材料を整理しやすくなります。
弁護士に相談するときは何を持参すればよいですか。
交通事故証明書、診断書・後遺障害診断書、画像資料、診療報酬明細書、保険会社からの通知や示談案、収入・勤務内容が分かる資料、自動車保険証券などがあると、状況を整理しやすくなります。
まとめ
- 足関節の骨折・靱帯損傷では、可動域制限・痛み・不安定感などが後遺障害として問題になることがあります。
- 可動域制限や不安定性の評価には、後遺障害診断書の記載、画像所見、症状の一貫性が重要です。
- 立ち仕事・歩行を伴う仕事への支障は、逸失利益・休業損害の検討で問題になり得るため、職務内容や収入資料を整理しておくことが有用です。
- 「捻挫」と言われた場合でも、痛みや不安定感が続くときは記録を残し、示談前に後遺障害申請の要否を確認することが重要です。
- 医療判断は医師、法的な見通しは資料の確認が前提です。個別事情により結論は異なります。
足関節の後遺障害や立ち仕事への影響について、診断書・画像資料・保険会社の提示書などを確認することで、後遺障害申請や示談交渉の検討材料を整理できます。手続の前に一度確認することをおすすめします。
参考資料(公的機関・医学会等)

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