会社の株式を兄弟姉妹で相続したものの、「誰が株主として議決権を行使するのか」が決まらないまま株主総会の日が近づいている。そうしたご相談は珍しくありません。遺産分割が終わるまでの株式は相続人全員の準共有となり、会社に対して権利を行使する一人を定めて通知しなければ、原則として議決権を行使できないためです。この記事では、権利行使者の決め方と持分の過半数の意味、会社への通知と記録の残し方、決まらないときや争いになったときの対応を、条文と最高裁判所の判決に沿って整理します。結論は、持分の割合、定款、通知の到達時期、総会の日程といった個別事情により異なります。
この記事で分かること
- 権利行使者の指定・会社への通知・会社の同意・実際の議決権行使が、それぞれ別の問題であること
- 「持分の過半数」の分母は相続人の人数ではなく、その株式についての持分の価格であること
- 2分の1ずつで対立している場合、一人が勝手に名乗った場合など、六つの場面ごとの初動
- 権利行使者を変更するときに記録しておく項目と、通知の到達を示す方法
- 株主総会の前後で取り得る手続と、決議の取消し・不存在確認・無効確認の区別
相続した株式の議決権をめぐるご相談では、持分の割合、権利行使者の指定と会社への通知の有無、直近の株主総会の日の三点が出発点になります。この三点と手元の資料を整理していただければ、資料がすべてそろっていなくても、対応方針の検討を始められます。
まず確認するのは、持分・指定・通知・総会日の四つです
法律論に入る前に、次の四点を確認します。対象となる株式について各相続人がどれだけの持分を有しているか。権利行使者を定める共有者間の決定がされているか。その者の氏名又は名称が会社に通知され、到達しているか。直近の株主総会がいつか、既に決議がされたのはいつか。この四点の組合せによって、取り得る対応も、残された時間も変わります。
状態は大きく三つに分かれます
会社法第106条本文は、株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対しその者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができないと定めています。同条ただし書は、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合はこの限りでないとしています。この条文を前提に、状態は次の三つに整理できます。
| 現在の状態 | 共有者間の決定として確認すること | 会社の同意(第106条ただし書)の位置付け | 争いになったときに確認する資料 |
|---|---|---|---|
| 有効な指定があり、会社への通知も到達している | 指定が持分の価格の過半数によるものか。対象株式と適用範囲が特定されているか | 同意がなくても、通知が到達していれば本文の要件を満たします | 指定書、持分の根拠資料、通知書の控えと配達証明等 |
| 指定はあるが、会社への通知がない、又は到達を示せない | 指定自体の有効性は、通知とは別に検討します | 同意があれば本文の適用は排除されますが、共有者間の決定を欠く行使が適法になるわけではありません | 通知の発送記録、会社側の受領記録、総会当日の取扱い |
| 有効な指定自体がない(自称、協議未了、過半数に達しない決定を含む) | 誰がどの持分を有し、どの範囲で賛否が示されたかを先に確定します | 民法の共有に関する規定に従わない権利行使は、会社が同意しても適法となるものではありません | 持分の根拠資料、協議と賛否の記録、会社に届いた書面 |
指定・通知の有効性そのものに争いがあるときは、指定書の文面、対象株式の特定、署名又は記名の状況、持分の根拠となる戸籍・遺言・相続放棄の資料、通知書の宛先と到達日を、一件ずつ確認します。
混同しやすい六つの事柄を分けておきます
次の六つは、いずれも別の問題として整理してください。
- 相続人の間で権利行使者を決めること(共有者間の意思決定)
- 会社へ権利行使者の氏名又は名称を通知すること(会社との関係)
- 会社法第106条ただし書による会社の同意
- 指定された権利行使者が実際に議決権を行使すること
- 相続人間の内部合意に反した場合の責任
- 遺産分割によって株式の最終的な取得者を決めること
権利行使者とは何か――遺産分割や単独所有との違い
遺産分割前の株式は、相続人全員の準共有です
相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属し(民法第898条第1項)、株式のような所有権以外の財産権については共有の規定が準用されます(民法第264条)。したがって、遺産分割が終わるまでの株式は相続人全員の準共有であり、各相続人が法定相続分に対応する株数を当然に単独で取得して、それぞれ別々に投票できる仕組みではありません。
ここが、いわゆる株主50対50の対立と異なる点です。二人の株主がそれぞれ別々の株式を単独で所有し、議決権を50%ずつ保有している状態では、各自が自分の株式について単独で議決権を行使できます。これに対し、相続した株式が準共有で持分が2分の1ずつという状態では、そもそも一人では会社に対して議決権を行使できません。同じ「半分ずつ」でも、法律上の扱いは異なります。
権利行使者の指定は、遺産分割でも代表者の選任でもありません
権利行使者の指定は、誰が最終的に株式を取得するかを決めるものではありません。遺産分割の協議や審判(民法第907条)は別の手続です。また、権利行使者の指定は、相続人の一人を代表取締役に選ぶことでも、議決権の代理行使のために委任状を出すことでも、相続税の申告上の代表者を決めることでもありません。権利行使者に指定されただけで、その人が株式を自由に売却したり贈与したり、遺産分割の内容を単独で決めたりできるようになるわけではありません。
会社法第126条第3項は、株式が共有に属するときに会社からの通知又は催告を受領する者一人を定めて通知する旨を規定していますが、これは会社から株主への連絡先の話であり、第106条の権利行使者とは別の制度です。招集通知の宛先が決まっていることと、議決権を行使できることは同じではありません。
なお、譲渡制限株式について、相続その他の一般承継で取得した者に売渡しを請求できる旨を定款で定めている会社があります(会社法第174条)。この請求は、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から一年を経過したときはすることができないとされています(同法第176条第1項ただし書)。売渡請求を既に受けている場合は、権利行使者の指定と並行してこの期間を確認する必要がありますので、相続人への株式売渡請求の手続と期限を扱った記事もあわせてご確認ください。
持分の過半数と、半数ずつで対立している場合
「過半数」は半数を超えることで、2分の1ちょうどでは足りません
共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するとされています(民法第252条第1項前段)。ただし、共有物に変更を加える行為は管理に関する事項から除かれており、他の共有者の同意が必要です(同項の括弧書、民法第251条第1項)。つまり、持分の過半数で決められるのは管理に関する事項であって、すべての事柄ではありません。
最高裁判所第一小法廷平成27年2月19日判決(平成25年(受)第650号・株主総会決議取消請求事件・民集第69巻1号25頁)は、共有に属する株式についての議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、株式の管理に関する行為として、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられるとしました。したがって、議決権の行使が常に管理に関する行為になるわけではなく、議案の内容によっては別に考える必要があります。逆に、共同相続人全員の一致が常に必要になるという趣旨でもありません。
権利行使者を定めること自体についても、最高裁判所第三小法廷平成9年1月28日判決(平成5年(オ)第1939号・社員総会決議不存在確認・集民第181号83頁)が、共有持分の価格に従い過半数をもって定めるとしています。同判決は、その理由として、準共有者の全員が一致しなければ指定できないとすると、一人でも反対すれば全員の権利行使が不可能となり、会社の運営にも支障を来すおそれがあることを挙げています。もっとも、この判決は旧有限会社法第22条及び旧商法第203条第2項のもとでの有限会社の持分に関する事案であり、現行の会社法第106条を直接扱ったものではありません。どこまで及ぶかは、会社の種類、定款、株式の内容を踏まえて検討する必要があります。
過半数とは半数を超えることですから、2分の1ちょうどでは足りません。そして、その分母は対象となる準共有株式についての持分の価格であり、相続人の人数でも、会社全体の持株比率でも、議決権の総数でも、総会の出席者数でもありません。
| 仮定の例 | 各人の持分 | 単独で過半数になるか | 組み合わせると過半数になるか |
|---|---|---|---|
| 相続人が二人で、2分の1ずつ | 甲2分の1、乙2分の1 | いずれも2分の1にとどまり、過半数になりません | 甲と乙が合意すれば全部になりますが、対立している限り過半数を満たす組合せはありません |
| 相続人が二人で、3分の2と3分の1 | 甲3分の2、乙3分の1 | 甲は単独で過半数になります | 乙が加わるかどうかにかかわらず、甲の持分で過半数に達します |
| 相続人が三人で、2分の1・4分の1・4分の1 | 甲2分の1、乙4分の1、丙4分の1 | いずれも単独では過半数になりません | 甲と乙、又は甲と丙で4分の3となり過半数になります。乙と丙の二人だけでは2分の1にとどまり、足りません |
持分の前提になる事実を先に確認します
持分を計算するには、相続人が誰か、遺言があるか、相続放棄をした人がいるか、相続分の指定があるか、遺産分割が成立していないかを確認する必要があります。民法第898条第2項は、相続財産について共有に関する規定を適用するときは、第900条から第902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とすると定めています。したがって、共有の規律における持分は、特別受益や寄与分を織り込んだ具体的相続分や、遺産分割で最終的に取得する額と当然に同じものではありません。この点は見落とされやすいところです。
場面① 兄弟姉妹が2分の1ずつで対立している
最初に確認すること。戸籍等で相続人の範囲を確定し、遺言・相続放棄の有無を確認したうえで、持分が本当に2分の1ずつかを確かめます。次に、相手方が明確に反対しているのか、連絡が取れないのか、賛否を示さないのかを区別します。
法律上の整理。持分が2分の1ずつで対立している限り、どちらの側も過半数に達しません。この状態では、会社法第106条本文の指定を有効に行うことが難しく、いずれの相続人も単独では議決権を行使できないのが原則です。
今できる対応。対象となる株主総会と議案を限定した暫定的な合意(特定の総会に限って権利行使者を定める、議案ごとの扱いをあらかじめ確認する等)、中立性を確保しやすい候補者の調整、議案と会社資料の共有方法の取決め、そして株式を含む遺産分割の協議や調停による解決が検討対象になります。遺産分割で株式の帰属が確定すれば、準共有の状態そのものが解消されます。
注意点。合意ができていないのに、中立の第三者を一方的に選んで置けば解決する、という整理はできません。誰を権利行使者にできるか、その権限がどこまで及ぶかは、根拠を確認して検討する必要があります。また、家庭裁判所の遺産分割手続と、会社をめぐる訴訟・保全の手続は、目的も時間軸も異なります。総会の日が迫っている場合、遺産分割の結論を待っていては間に合わないことがあります。
相手方が所在不明である場合や、催告しても賛否を明らかにしない場合について、民法第252条第2項は、裁判所が、その共有者以外の共有者の持分の価格に従いその過半数で管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができると定めています(令和3年法律第24号により新設され、令和5年4月1日施行)。もっとも、これは裁判所が権利行使者を選んでくれる制度ではなく、決定の母数から除外するには裁判を経る必要があります。催告に回答がないというだけで、自動的に持分を除外できるわけではありません。また、準共有株式にこの規定が及ぶかについては、民法第264条ただし書が「法令に特別の定めがあるときは、この限りでない」としていることとの関係を含め、公表された最高裁判所の判断を確認できていません。
権利行使者を決めて会社に通知するまでの進め方と、記録の残し方
決めるときに記録しておく項目
後から争いになったときに効くのは、結論そのものよりも、結論に至る過程の記録です。次の項目を書面にしておけば、持分、決定の経過、会社への到達を、それぞれ別に示すことができます。
| 記録する項目 | 具体的に書く内容 | その記録が示すこと |
|---|---|---|
| 会社の表示 | 商号、本店所在地、会社法人等番号 | 対象会社の特定 |
| 対象株式 | 株式の種類と株式数、被相続人の氏名と死亡年月日 | どの株式についての指定かの特定 |
| 相続人と持分 | 各相続人の氏名と、その株式についての持分の割合 | 過半数を満たしているかの根拠 |
| 協議の日と方法 | 協議の日付、対面・書面・電磁的方法の別、参加者 | 決定の手続が踏まれたこと |
| 賛否とその記録 | 賛成・反対・無回答の別と、それぞれの根拠となる書面やメール | 過半数の計算の裏付け |
| 指定・変更の内容 | 権利行使者の氏名、変更の場合は旧権利行使者の氏名と変更の効力発生日 | いつから誰が権利行使者かの特定 |
| 適用範囲 | 期間や対象総会を限定した場合は、その範囲 | 限定の有無と範囲 |
| 通知先と方法 | 会社の本店又は代表者宛てであること、発送日、送付方法 | 会社への通知がされたこと |
| 到達の証拠 | 配達証明、受領書、受付印のある控え、返信メール | いつ会社に到達したか |
法律上求められる事項と、証明のために整える事項は別です
会社法第106条本文が求めているのは、権利を行使する者一人を定めたうえで、その氏名又は名称を会社に通知することです。相続人全員の実印、印鑑証明書、公正証書、内容証明郵便が法律上常に必要とされているわけではありません。これらは、後から争いになったときに事実を示しやすくするための工夫です。
日本郵便の案内によれば、内容証明は、いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかを、差出人が作成した謄本によって証明する制度です。配達証明は、一般書留とした郵便物について配達したという事実を証明するサービスであり、実際の受取人が誰であるかを証明するものではないとされています。いずれも、指定そのものが有効かどうか、持分の過半数を満たしているかどうかまでを証明するものではありません。民法第97条第1項が意思表示について到達した時から効力を生ずると定めていることからも分かるとおり、書面を出したことと相手方に届いたことは別の事実です。発送と到達を分けて記録してください。
なお、株主総会について基準日が定められている場合(会社法第124条)は、基準日の時点の株主名簿の記載が問題になります。総会日から逆算して、いつまでに何をしておくべきかを確認してください。株主名簿の記載や名義書換をめぐる問題は、相続後に会社の記録が変わっていた場合の確認方法を扱った記事で整理しています。
場面② 一人が勝手に権利行使者を名乗った
最初に確認すること。自称しているだけなのか、有効な指定がされているのかを分けます。確認するのは、各相続人の持分、候補者が提示された経緯、協議の有無と日時、賛否がどのように記録されているか、指定の内容、会社への通知の有無と到達日、そして予定されている総会と議案です。
法律上の整理。相手方が持分の過半数を有していれば、それだけで選定手続の検討が不要になるわけではありません。他方、相続人全員の署名がないというだけで指定が当然に無効になるものでもありません。持分の過半数による決定がされたと評価できるかを、記録に即して判断することになります。
今できる対応。会社に対しては、対象となる株式、異議の具体的な理由、根拠となる資料、指定通知の状況、予定されている総会と議案を整理して伝えることが初動になります。あわせて、自分の側の持分と、賛否を示した記録を確保しておきます。
注意点。会社に異議を伝えたというだけで、株主総会の開催や議決権の行使が自動的に停止するわけではありません。また、相手方からは、持分の過半数による適法な指定がされている、以前からの指定が続いている、会社が同意している、といった反論が想定されます。いずれも、どの資料でどこまで確認できるかを先に整理してください。
指定された人が約束に反して投票したとき、その投票の効力はどうなるか
場面③ 指定した者が約束に反して投票した
最初に確認すること。有効な指定と会社への通知があったか、相続人間の内部合意が何を定めていたか、投票の前に権利行使者の変更がされていたかを、時系列で確認します。
法律上の整理。最高裁判所第二小法廷昭和53年4月14日判決(昭和52年(オ)第833号・社員総会決議無効確認・民集第32巻3号601頁)は、その判決理由の中で、有限会社において持分が数名の共有に属する場合に、共有者が社員の権利を行使すべき者一人を選定して会社に届け出たときは、社員総会における共有者の議決権の正当な行使者は被選定者となるのであって、共有者間で個々の決議事項について逐一合意を要するとの取決めがされ、ある事項について意見の相違があっても、被選定者は自己の判断に基づき議決権を行使しうる、と述べています。
この判決は、有限会社の持分について、選定と会社への届出がされた後の事案に関するものです。株式会社の株式について直接判示したものではありませんので、現行の会社法第106条のもとでどこまで及ぶかは、定款、株式の内容、議案の性質を踏まえた検討が必要です。また、裁判所が判示事項及び裁判要旨として掲げているのは社員総会における特別利害関係に関する部分であり、権利行使者に関する部分は判決理由中の判断です。さらに、同判決は、内部の約束に反したことについての責任まで否定したものではありません。
今できる対応。内部合意に違反したことの責任、権利行使者の変更、将来の総会に向けた取決めや保全の検討、当該決議の瑕疵の主張は、それぞれ別の問題として検討します。内部の約束に反した投票であるというだけで、会社に対する議決権行使が当然に効力を失うとは考えにくいところです。
注意点。損害賠償を検討する場合も、まず何を根拠とするかを確定する必要があります。相続人間の取決めを債務と構成するのであれば、民法第415条第1項は、債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときに、これによって生じた損害の賠償を請求することができると定めています。どのような義務があったか、その違反があるか、どのような損害が生じたか、違反と損害との間に因果関係があるかを確認しないまま、請求が認められると判断することはできません。
権利行使者を変更したいときに整理すること
場面④ 権利行使者を変更したい
最初に確認すること。当初の指定と内部合意の内容、現在の持分、変更を決める方法、旧指定との関係、新たな通知の内容、会社への到達日、そして総会や投票との前後関係を確認します。
法律上の整理。権利行使者を持分の価格の過半数で定めることができるという考え方(前記平成9年判決)を前提とすれば、その変更についても同様に考える余地があります。もっとも、変更の要件を直接判示した最高裁判所の判決は確認できていません。旧権利行使者の同意が常に必要であるとも、過半数があればどのような変更でも無条件に有効であるとも断定することはできません。当初の指定に期間や対象総会の限定が付されていたか、変更の対象と効力発生日が特定されているかによって、評価が変わり得ます。
今できる対応。旧権利行使者への連絡と、会社への通知は分けて行い、それぞれ日付と方法を記録します。会社への通知では、対象株式、新しい権利行使者、変更の効力発生日、旧指定の扱いを明示します。
注意点。変更後に会社へ通知したからといって、それ以前にされた議決権行使が自動的に取り消されるわけではありません。既にされた投票の効力を争うのであれば、後述する決議の取消し等の手続を別に検討することになります。
会社が指定の通知を受け付けないとき
場面⑤ 会社が指定通知を受け付けない
最初に確認すること。会社が何を理由に受け付けないのかを特定します。受取そのものを拒んでいるのか、資料が足りないと指摘しているのか、通知は届いているのに権利行使を拒んでいるのか、他の相続人から競合する通知が届いているのかで、対応は変わります。
法律上の整理。会社法第106条本文の通知は、会社に承認を求める申請ではありません。適法な指定と通知がされているかという問題と、同条ただし書の会社の同意の問題は、別の事柄です。前記平成9年判決は、その判決理由の中で、権利行使者を指定して届け出た場合に会社がその受理を拒絶したとしても、このことにより会社に対する権利行使は妨げられない、と述べています(有限会社の持分に関する事案です)。
今できる対応。拒否の理由を書面で示すよう求めること、指摘された資料を補充すること、通知の到達を示す資料を確保すること、総会日までの時間を踏まえて次の手続を検討することが考えられます。
注意点。会社の対応が適切でないとしても、それだけで議決権行使の内容まで自動的に認められるわけではありません。共有者間の決定が過半数を満たしているかは、なお別に問われます。
会社側が確認し、記録しておくこと
ここからは、指定通知を受け取る会社の側の対応です。会社としては、先に届いたほうを採用する、経営陣に賛成するほうを採用する、担当者の判断で決める、といった扱いは避け、次の点を確認して記録に残すことが基本になります。
- 通知の到達日時と、到達を示す資料(受領印のある控え、郵便の記録、受信メール)
- 対象となる株式の特定と、被相続人の死亡の事実が確認できる資料
- 各相続人の持分と、その根拠(戸籍等、遺言、相続放棄の資料)
- 指定の経過について、通知者が示している内容
- 競合する通知がある場合は、それぞれの到達日時と内容の対照
もっとも、会社が相続人間の争いについて最終的な判断を行うことができるとは限りません。判断に迷う場合は、総会の招集手続や議事録の作成と併せて、決議の前の段階で整理しておくことが考えられます。招集手続と議事録の一般的な進め方は、株主総会の準備と運営を扱った記事で整理しています。なお、同じ紛争で利害が対立する複数の当事者を同時に支援することはできませんので、会社の側からのご相談と相続人の側からのご相談は、別々にお受けすることになります。
株主総会が迫っているとき、既に決議されたとき
場面⑥-1 総会前に検討する手続
最初に確認すること。議案の内容、株主構成、指定・変更の状況、相手方と会社の対応、総会日までの残り日数を確認します。
法律上の整理。議決権の行使等に関して仮処分その他の手続を検討する場合、保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにしてしなければならず、これらは疎明しなければなりません(民事保全法第13条)。仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができるとされ(同法第23条第2項)、原則として口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ発することができません(同条第4項本文。ただし、その期日を経ることにより申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでないとされています)。また、保全命令は担保を立てさせて発することができるとされています(同法第14条第1項)。
注意点。申立てをすれば株主総会を止められる、申立てだけで効力が生じる、短期間で決定が出る、といった前提で予定を組むことはできません。相手方を誰とするか、何を疎明資料とするか、担保の準備ができるかを含めて、早い段階での検討が必要です。
場面⑥-2 総会後に決議を争う場合
最初に確認すること。決議の内容、議事録、出席と議決権の集計、通知・異議・到達の記録、役員変更の登記がされているかを確認します。
法律上の整理。決議を争う手続は、次のように区別されます。
| 手続 | 根拠となる条文 | 主張する内容 | 条文上の期間の定め |
|---|---|---|---|
| 決議の取消しの訴え | 会社法第831条第1項 | 招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき、決議の内容が定款に違反するとき、特別の利害関係を有する者が議決権を行使して著しく不当な決議がされたとき | 株主総会等の決議の日から3か月以内 |
| 決議の不存在の確認の訴え | 会社法第830条第1項 | 決議が存在しないこと | 条文上、出訴期間の定めは置かれていません |
| 決議の無効の確認の訴え | 会社法第830条第2項 | 決議の内容が法令に違反すること | 条文上、出訴期間の定めは置かれていません |
会社法第831条第1項の期間は、決議の日から3か月以内です。決議があったことを知った日からではありませんし、90日でも、通常の消滅時効の期間でもありません。会社への抗議、話合い、仮処分の申立てをしたことは、この訴えを提起したことと同じではありませんので、それらを行ったことで期間が確保されるわけではありません。
また、招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、請求を棄却することができるとされています(会社法第831条第2項)。手続に違反があれば当然に取り消されるというものではありません。他方、どの訴えによるかは、主張する瑕疵の内容によって決まります。無効確認の訴えは決議の内容が法令に違反することを理由とするものですから(会社法第830条第2項)、招集の手続や決議の方法の瑕疵を、訴えの名称を不存在確認や無効確認に変えることで争えるとは限りません。
共同相続人が自ら訴えを提起できるか
最高裁判所第三小法廷平成2年12月4日判決(平成元年(オ)第573号・株主総会決議不存在確認・民集第44巻9号1165頁)は、株式を相続により準共有するに至った共同相続人は、権利行使者の指定及びその旨の会社に対する通知を欠く場合には、特段の事情がない限り、株主総会決議不存在確認の訴えにつき原告適格を有しないとしました。この判決は決議の不存在確認に関するものであり、決議の取消しについて直接判示したものではありません。
そのうえで同判決は、当該事案について、準共有する株式が会社の発行済株式の全部に相当し、共同相続人のうちの一人を取締役に選任する旨の株主総会決議がされたとしてその旨登記されているときは、他の共同相続人は不存在確認の訴えにつき原告適格を有するとしました。その理由として、会社の側が手続の欠缺を主張して原告適格を争うことは、株主総会の瑕疵を自認し、本案における自己の立場を否定するものであって、訴訟上の防御権を濫用し著しく信義則に反して許されないことを挙げています。この判断は当該事案の事情を前提としたものですから、あらゆる相続紛争や取消しの訴えに一般化できるものではありません。
したがって、相続人であれば当然に単独で訴えを提起できるとも、指定がなければ一切争えないとも言えません。指定・通知の有無、準共有ではない自己名義の株式を持っているか、役員等としての地位があるか、どの訴えを提起するか、特段の事情を基礎づける事情があるかを、個別に確認する必要があります。
相談前にそろえる資料と、相談の時期
次の資料は、持分、指定、通知、総会の四点を確認するために使います。すべてがそろっていなくても構いません。総会の日や期間制限が迫っているときは、手元の資料と日付を整理してご相談いただければ、不足している資料の取得方法もあわせて検討できます。権限のない社内システムにアクセスしたり、会社の資料を無断で持ち出したりすることは避けてください。
- 戸籍謄本等、又は法定相続情報一覧図の写し(相続人の範囲が分かるもの)
- 遺言書、検認の記録、遺言執行者に関する資料
- 相続放棄の申述受理通知書又は証明書
- 遺産分割協議書、調停調書、審判書(成立している場合)
- 株主名簿の写し、定款、履歴事項全部証明書(登記事項証明書)
- 権利行使者の指定書、変更に関する書面、会社への通知書の控え
- 郵便の記録、受領書、受付印のある控え、やり取りしたメール
- 相続人間で作成した合意書、覚書、議案ごとの取決めが分かる記録
- 株主総会の招集通知、議案の資料、参考書類
- 株主総会議事録、議決権行使書、委任状に関する資料
弁護士に相談する時期
相談の時期としては、指定書や通知書に署名する前、会社に回答する前、株主総会の議案に賛否を示す前、遺産分割の協議書に署名する前が目安になります。行動の後では、選択できる方法が狭まっていることがあります。決議の日から3か月という期間の定めがある手続もありますので、既に決議がされている場合は、その日付を最初にお伝えください。相談によって、持分と指定・通知の状況を整理し、取り得る手続とその前提となる資料を検討することができます。
持分・指定通知・総会日を確認し、対応方針を整理する
ご相談の際は、会社名、相続人の側と会社の側のいずれの立場か、相手方、株主総会の日又は決議の日、権利行使者の指定通知の有無をお知らせください。同じ紛争で利害が対立する複数の当事者を同時に支援することはできませんので、最初のご連絡ではこの点を確認させていただきます。利益相反の確認が済むまでは、定款、決算書、株主名簿などの資料をお送りにならないでください。
よくある質問
相続人の人数の多数決で権利行使者を決めてよいですか。
頭数の多数決ではありません。基準は、その株式についての持分の価格に従った過半数です(民法第252条第1項前段。有限会社の持分について、最高裁判所第三小法廷平成9年1月28日判決)。持分の割合は、相続人の範囲、遺言、相続放棄、相続分の指定によって変わりますので、先に確認してください。
相続人全員の署名や実印、印鑑証明書がなければ、指定は無効ですか。
全員の署名がないというだけで当然に無効になるわけではありません。会社法第106条本文が求めているのは、権利を行使する者一人を定めて会社に通知することです。実印や印鑑証明書は、後から争いになったときに事実を示しやすくするための工夫であり、法律上常に必要とされているものではありません。もっとも、争いが予想される場面では整えておくことをおすすめします。
兄弟二人で持分が2分の1ずつです。一方だけで権利行使者になれますか。
2分の1は過半数ではありませんので、一方だけで決めることはできません。対象の総会や議案を限定した合意、候補者の調整、遺産分割による株式の帰属の確定などを検討することになります。相手方が所在不明である場合や賛否を明らかにしない場合には、民法第252条第2項の裁判の利用が問題になりますが、準共有株式への適用関係は確認できていませんので、個別に方針を確認してください。
一人が勝手に権利行使者を名乗って議決権を行使しました。決議は当然に無効ですか。
当然に無効になるとは限りません。まず、有効な指定と会社への通知があったかを確認します。最高裁判所第一小法廷平成27年2月19日判決(平成25年(受)第650号・民集第69巻1号25頁)は、指定及び通知を欠いたまま権利が行使された場合において、その権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、会社が同意をしても、その権利の行使は適法となるものではないとしました。そのうえで、決議を争うには取消し、不存在確認、無効確認のいずれによるかを選び、期間の定めも確認する必要があります。
権利行使者が事前の約束と違う議案に賛成しました。その投票は無効になりますか。
内部の約束に反したというだけで、会社に対する議決権行使が当然に効力を失うとは考えにくいところです。最高裁判所第二小法廷昭和53年4月14日判決は、判決理由の中で、有限会社について、選定して会社に届け出た後は、共有者間に意見の相違があっても被選定者は自己の判断に基づき議決権を行使しうると述べています。もっとも、同判決は内部の約束違反に伴う責任まで否定したものではありませんので、責任の追及、権利行使者の変更、決議の瑕疵の主張は、それぞれ別に検討します。
権利行使者は後から変更できますか。変更すれば過去の投票も取り消せますか。
変更を検討することはできますが、旧権利行使者の同意が常に必要とも、過半数があればどのような変更でも有効とも断定できません。また、変更を会社に通知しても、それ以前にされた議決権行使が自動的に取り消されるわけではありません。既にされた投票の効力を争う場合は、決議の取消し等の手続を別に検討することになります。
会社が指定の通知を受け取らないと言っています。どうすればよいですか。
会社法第106条本文の通知は、会社の承認を求める申請ではありません。前記平成9年判決は、判決理由の中で、権利行使者を指定して届け出た場合に会社が受理を拒絶したとしても、このことにより会社に対する権利行使は妨げられないと述べています。拒否の理由を書面で示すよう求め、指摘された資料を補い、通知の到達を示す資料を確保したうえで、総会日までの時間を踏まえて次の手続を検討してください。
株主総会が終わってしまいました。今から争えますか。期限はありますか。
決議の取消しの訴えは、株主総会等の決議の日から3か月以内に提起する必要があります(会社法第831条第1項)。決議があったことを知った日からではありません。決議の不存在確認及び無効確認の訴えについては、条文上、出訴期間の定めは置かれていません。もっとも、共同相続人が自ら訴えを提起できるかは、指定・通知の有無、自己名義の株式の有無、役員等としての地位、訴えの種類により異なります。決議の日付を確認して、早めにご相談ください。
まとめ|確認する順序と、次に取る行動
- 持分、権利行使者の指定、会社への通知と到達、株主総会の日の四点を先に確認します。
- 「過半数」は半数を超えることであり、分母はその株式についての持分の価格です。人数でも会社全体の持株比率でもありません。
- 指定・通知と、会社法第106条ただし書の会社の同意は別の問題です。民法の共有に関する規定に従わない権利行使は、会社が同意しても適法となるものではありません。
- 内部の約束違反、権利行使者の変更、決議の瑕疵は、それぞれ別に検討します。変更の通知で過去の投票が自動的に覆るわけではありません。
- 決議の取消しの訴えには、決議の日から3か月という期間の定めがあります。取消しと不存在確認・無効確認は区別してください。
- 次の行動は、持分の根拠資料と通知の到達資料を集め、総会日や決議日から逆算して、署名・回答・投票の前に方針を確認することです。
署名・回答・投票の前に、資料と期限を整理する
権利行使者をめぐる争いでは、持分の根拠、指定の経過、通知の到達、総会の日程という四つの事実が結論を左右します。資料がすべてそろっていなくても、手元の資料と日付からご相談いただけます。お問い合わせフォームの送信、自動返信、相談のご予約、利益相反の確認の通過は、いずれも受任(委任契約の成立)ではありません。また、ご相談やお問い合わせによって法律上の期限が停止・延長されることはありませんので、期限が迫っている場合は最初のご連絡でお知らせください。
弁護士紹介
代表弁護士・公認会計士 藤井 貴之(ふじい たかゆき)
兵庫県弁護士会所属・日本公認会計士協会兵庫会所属/弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
会社法・株主間の紛争のほか、法務と会計・財務が交差する分野の相談に対応しています。
所在地 兵庫県神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階(神戸市営地下鉄西神・山手線名谷駅徒歩1分)
参考資料
- e-Gov法令検索「会社法」(本文で引用した条文は、第106条、第124条、第126条、第174条、第176条、第830条、第831条)
- e-Gov法令検索「民法」(第97条、第251条、第252条、第264条、第415条、第898条、第900条から第902条まで、第907条)
- e-Gov法令検索「民事保全法」(第13条、第14条、第23条)
- 裁判所 裁判例検索(本文で引用した最高裁判所の判決を事件番号で検索できます)
- 法務省 所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(共有制度の見直しを含む令和3年法律第24号の案内)
- 法務局 「法定相続情報証明制度」について(相続人の範囲を示す一覧図の写しの取得方法)
- 日本郵便 内容証明(内容証明の取扱い)
- 日本郵便 配達証明(配達証明の取扱い)
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案についての法律的な助言ではありません。結論は、持分の割合、定款の定め、株式の内容、指定と通知の経過、株主総会の議案、期間の経過などの個別事情により異なります。記載の内容は令和8年9月時点で確認できた法令及び公表資料に基づいています。実際の対応にあたっては、資料を確認したうえで個別に判断する必要がありますので、弁護士にご相談ください。

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