高齢のご家族が交通事故で足の付け根(股関節)を骨折し、「人工関節」や「人工骨頭」を入れる手術を受けた――そんな場面で、ご本人に代わって情報を集めているご家族の方は少なくありません。手術は無事に終わっても、この先の歩行や生活、そして保険会社とのやり取りに、大きな不安を感じておられるのではないでしょうか。
この記事では、大腿骨(だいたいこつ)の付け根の骨折から人工関節・人工骨頭の手術に至ったケースについて、後遺障害等級がどのように検討されるのか、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や持病があると賠償額が減らされてしまうのか、示談の前に何を確認しておくべきかを、法律や医学にくわしくないご家族にもわかるように整理します。結論として、人工関節・人工骨頭を入れた場合は後遺障害の対象として検討される余地がありますが、実際の等級や賠償の見通しは、医療資料や事故の状況を確認したうえで、個別の事情により判断されます。
「保険会社の説明が正しいのか判断できない」「何から準備すればよいのか分からない」という段階でも、資料を一緒に整理することで見通しを検討しやすくなります。
Contents
まず押さえておきたい結論と確認の流れ
細かい説明の前に、この記事の要点を先にまとめます。迷ったときの確認の順番として役立ててください。
この記事の要点
- 股関節に人工関節・人工骨頭を入れた場合、後遺障害等級の検討対象になり得ます。ただし「手術をすれば自動的に十分な賠償が受けられる」わけではありません。
- 等級は手術の名前だけでは決まらず、可動域(関節の動く範囲)、画像、後遺障害診断書、症状固定時の状態などをふまえて判断されます。
- 骨粗鬆症や加齢による変化があっても、それだけで当然に賠償が否定・減額されるわけではありません。
- 高齢の方でも、逸失利益(将来の減収に対する補償)や慰謝料を請求できる場合があります。
- 後遺障害の申請・症状固定・示談には順序とタイミングがあり、示談書に署名する前の確認が特に重要です。
大腿骨の付け根の骨折から人工関節・人工骨頭の手術に至る流れ
高齢の方は、転倒や交通事故による衝撃で、足の付け根に近い部分の骨(大腿骨近位部)を骨折することがあります。歩行中の事故や自転車事故などがきっかけになることもあります。
大腿骨頸部骨折と大腿骨転子部骨折
大腿骨の付け根の骨折は、折れた場所によって「大腿骨頸部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)」と「大腿骨転子部骨折(だいたいこつてんしぶこっせつ)」などに分けられます。これらをまとめて「大腿骨近位部骨折」と呼ぶことがあります。折れた場所や骨の状態によって、選択される治療が変わります。
人工骨頭置換術・人工関節置換術・骨接合術
治療としては、金属などでできた人工の部品に置き換える「人工骨頭置換術」や「人工関節置換術」、折れた骨を金属で固定する「骨接合術」などがあります。どの方法を選ぶかは、骨折の場所や状態、年齢や全身の状態などをふまえて医師が判断するものであり、この記事で治療の良し悪しを述べるものではありません。
手術後も問題になりやすいこと
手術が無事に終わっても、その後の歩行能力、関節の動く範囲(可動域)、痛み、日常生活の動作、介護の必要性、通院やリハビリの経過などが問題になることがあります。こうした点は、後遺障害の検討や賠償の話し合いにも関わってきます。
人工関節・人工骨頭と後遺障害等級の考え方
ここからは、後遺障害等級がどのように検討されるのかを見ていきます。専門的な用語もありますが、ご家族が保険会社の説明を理解する手がかりとして役立ててください。
股関節は下肢の主要な関節として評価の対象になり得る
股関節は、脚(下肢)の主要な関節のひとつとして、後遺障害の評価の対象になり得ます。後遺障害等級は、自動車損害賠償保障法施行令の別表に定められた基準をもとに検討されます。
症状固定と後遺障害
「症状固定」とは、治療を続けてもこれ以上の改善が見込めない状態になったことをいいます。後遺障害の申請は、原則としてこの症状固定の後に行われ、その時点で残っている症状が後遺障害として評価されます。
人工関節・人工骨頭を入れた場合に検討される等級
股関節に人工関節・人工骨頭を入れた場合、後遺障害等級の検討対象になり得ます。実務では、労災の障害認定基準を参考にした運用が行われており、可動域の制限の程度などによって、検討され得る等級が変わります。次の表は、下肢の関節についての考え方の一例です。
| 手術後の主な状態 | 検討され得る後遺障害等級(下肢の関節の例) |
|---|---|
| 人工関節・人工骨頭を入れた(可動域の制限が健側の2分の1を超える場合や、目立った制限が残らない場合を含む) | 「関節の機能に著しい障害を残すもの」として10級11号が検討され得る |
| 人工関節・人工骨頭を入れ、手術した側(患側)の可動域が反対側(健側)の2分の1以下に制限されている | 「関節の用を廃したもの」として8級7号が検討され得る |
| 手術した部位に痛みやしびれ(神経症状)が残った | 局部の神経症状として12級13号または14級9号が検討され得る |
| 置換はしていないが、骨折後に可動域の制限や痛みが残った | 可動域や画像所見に応じて等級が検討され得る(「機能に障害を残すもの」は12級7号など) |
これらは下肢(股・膝・足)の関節に関する等級の一例です。実際の認定は、可動域の測定方法、画像で確認できる状態、後遺障害診断書の記載などを総合して行われ、同じ「人工関節」でも結論が変わることがあります。個別事情により結論は異なります。
「手術をすれば必ず○級」ではない理由
人工関節・人工骨頭を入れたことは重要な事情ですが、それだけで等級が自動的に決まるわけではありません。可動域の測定結果、画像で確認できる状態、後遺障害診断書の記載、症状固定時の状態などを総合して判断されます。特に可動域は、日本整形外科学会などが定めた方法で正確に測定してもらい、後遺障害診断書に記載してもらうことが大切です。
人工関節・人工骨頭を入れた後は、痛みや可動域の制限が目立たなくなることもあります。その場合でも、してはいけない姿勢(禁忌肢位)による生活動作の制限や、将来的な入れ替え手術の可能性などがあるため、後遺障害として検討される余地があります。一方で、保険会社から「症状が軽い」として後遺障害や逸失利益を争われることもあり、生活上の支障や医学的な資料をていねいに示していく必要があります。
「骨が弱かった」「年齢のせい」と言われたときの考え方
高齢の被害者のケースでは、保険会社から「もともと骨粗鬆症で骨が弱かった」「加齢による変化が影響している」などと説明され、賠償額の減額(素因減額)を主張されることがあります。しかし、こうした主張がそのまま認められるとは限りません。
骨粗鬆症・変形性股関節症・加齢変化があると必ず減額されるのか
骨粗鬆症や過去の股関節の疾患、加齢による変化があっても、それだけで当然に賠償が減額されるわけではありません。事故との因果関係、既往症の程度、事故前の生活状況、医療記録や画像所見、事故の態様などを照らし合わせて検討する必要があります。
素因減額の法的な枠組み(民法722条2項の類推適用)
被害者側の要因によって損害が拡大した場合に賠償額を調整する考え方を「素因減額」といい、裁判実務では民法722条2項(過失相殺)の規定を類推適用して検討されます。もっとも、被害者に事故前からの「疾患」があり、その疾患を考慮しなければ加害者に損害の全部を負担させるのが公平を失するといえる場合に、被害者の疾患を考慮できるという考え方が示されています。反対に、疾患とはいえない加齢による一般的な変化や体質的な特徴については、特別な事情がない限り減額の理由にはならないと整理されています。
保険会社の主張と法的な判断は別のものです
重要なのは、保険会社が減額を主張することと、法的に減額が認められることは別だという点です。素因減額が問題になるかどうか、認められるとしてどの程度かは、医療資料と事故状況を照らして個別に検討する必要があり、結論を先取りして諦める必要はありません。なお、減額の根拠を示す責任は、原則として減額を主張する加害者側にあると考えられています。
高齢の被害者で問題になりやすい損害項目
交通事故の損害賠償では、治療費以外にもさまざまな項目を請求できる場合があります。高齢の被害者のケースで特に問題になりやすい項目を整理します。金額や算定の基準は事案により異なるため、ここでは項目の考え方を示します。
| 損害項目 | 考え方(高齢者のケースで問題になりやすい点) |
|---|---|
| 後遺障害慰謝料 | 認定された後遺障害の等級に応じて検討されます。 |
| 逸失利益 | 後遺障害により将来の収入や労働能力が失われたことに対する補償です。基礎収入・労働能力の喪失の程度・喪失する期間などをふまえて検討されます。 |
| 休業損害 | ケガの治療のために働けなかった期間の減収です。 |
| 家事労働への影響 | 家事に従事していた方は、家事ができなくなったことを損害として検討できる場合があります。 |
| 通院交通費・付添費 | 通院にかかる交通費や、付き添いが必要だった場合の費用が問題になることがあります。 |
| 将来介護費 | 後遺障害の内容によっては、将来の介護に関する費用が問題になる可能性があります。 |
高齢でも逸失利益や慰謝料を請求できるのか
「高齢だから逸失利益は請求できない」と決めつける必要はありません。年齢、就労の状況、家事従事の有無、年金などの収入、事故前後の生活状況などにより判断が変わります。年金や家事労働をどう評価するかは争いになりやすい部分でもあるため、資料を整理したうえで検討することが大切です。
神戸周辺で相談する場合に知っておきたいこと
神戸市の須磨区・垂水区・西区・北区などの地域から、高齢のご家族の交通事故についてご相談される場面もあります。股関節の人工関節・人工骨頭の治療やリハビリに関する地域の医療資源として、神戸市西区曙町にある兵庫県立リハビリテーション中央病院には「人工関節センター」が設置されており、膝や股関節の人工関節置換術と、術後のリハビリテーションに取り組んでいることが同病院の公式サイトで案内されています。
もっとも、後遺障害の申請では、どの医療機関で治療を受けたかということ以上に、後遺障害診断書、画像、手術記録、可動域の測定結果、症状の経過といった資料が重要になります。特定の医療機関への受診をおすすめするものではなく、地域の情報としてお伝えするものです。
示談前・後遺障害申請前に確認しておきたい資料
ご家族がご本人に代わって資料を整理する場面を想定し、確認しておきたいものを挙げます。手元にそろっているか、チェックしながら確認してみてください。
後遺障害の申請前に確認すること
- 後遺障害診断書(症状固定後に作成されます)
- 診断書・診療報酬明細書
- 診療録(カルテ)
- レントゲン・CT・MRIなどの画像資料と画像所見
- 手術記録・退院時サマリー
- リハビリの記録
- 可動域(関節の動く範囲)の測定結果
- 事故前の生活状況や既往症が分かる資料
示談・保険会社への回答の前に確認すること
- 交通事故証明書
- 事故の状況が分かる資料
- 保険会社からの提示書・示談書の案
- 休業損害証明書・収入資料・年金資料・家事従事の状況が分かる資料
- 介護・見守り・通院の付き添いに関する記録
後遺障害の申請、症状固定、示談は、進める順序とタイミングが結果に影響することがあります。特に、いったん示談書に署名すると、後から内容を見直すことは原則として難しくなります。署名の前に、提示された内容を確認しておくことが大切です。
弁護士に相談するタイミング
弁護士への相談は、結果をお約束するためのものではなく、判断の材料や対応の方針を整理するためのものです。次のようなタイミングでは、一度確認しておくことで見通しを検討しやすくなります。
- 人工関節・人工骨頭を入れる手術を受けたとき
- 症状固定の時期について説明を受けたとき
- 後遺障害診断書を作成してもらう前
- 後遺障害の申請をする前
- 保険会社から、骨粗鬆症や年齢を理由に減額を主張されたとき
- 保険会社から示談金の提示を受けたとき、示談書に署名する前
- ご家族が資料の整理や保険会社対応を負担しているとき
交通事故の取扱いや弁護士費用については、次のページもあわせてご確認ください。
後遺障害診断書を作成してもらう前や、保険会社から提示を受けた段階でご相談いただくと、必要な資料の整理や今後の進め方を検討しやすくなります。ご家族だけで抱え込まず、まずは状況をお聞かせください。
よくある質問(FAQ)
人工関節や人工骨頭を入れれば、後遺障害は必ず認定されますか。
「必ず」とはいえません。人工関節・人工骨頭を入れた場合は後遺障害の検討対象になり得ますが、実際の認定は可動域や画像、後遺障害診断書などをふまえて判断されます。個別事情により結論は異なります。
股関節の人工関節・人工骨頭は何級になりますか。
下肢の関節の例では、置換をしたこと自体で「機能に著しい障害を残すもの」として10級11号が、手術した側の可動域が反対側の2分の1以下に制限されている場合に「用を廃したもの」として8級7号が検討され得ます。ただし、資料を確認したうえでの判断が必要です。
高齢でも逸失利益や慰謝料は請求できますか。
請求できる可能性があります。年齢、就労や家事従事の状況、年金などの収入、生活状況により判断が変わります。年金や家事労働の評価は争いになりやすいため、資料を整理して検討することが大切です。
骨粗鬆症や持病があると、賠償額は必ず減りますか。
必ず減るわけではありません。事故との因果関係や既往症の程度、事故前の生活状況、医療資料などを照らして検討されます。減額の根拠を示す責任は、原則として加害者側にあると考えられています。
保険会社に「年齢のせい」「骨が弱かったせい」と言われました。どう考えればよいですか。
保険会社が減額を主張することと、法的に減額が認められることは別です。医療資料と事故状況を確認したうえで検討する必要があり、主張をそのまま受け入れる前に一度確認することをおすすめします。
後遺障害の申請には何を準備すればよいですか。
後遺障害診断書、画像資料、手術記録、可動域の測定結果、診療録などが重要です。症状固定後に作成される後遺障害診断書の記載内容が特に大切になります。
示談書に署名する前に確認することはありますか。
提示された金額の内訳や、後遺障害の評価が反映されているかなどを確認することが大切です。いったん署名すると後から見直すことは原則として難しいため、署名の前の確認をおすすめします。
家族が本人に代わって相談や資料の整理をしてもよいですか。
ご家族が資料を整理し、状況を確認しておくことは可能です。ご本人の状態やご意向をふまえて進めることになります。まずはご家族からご相談いただいて差し支えありません。
まとめ
- 股関節に人工関節・人工骨頭を入れた場合、後遺障害等級の検討対象になり得ますが、手術の事実だけで等級が決まるわけではありません。
- 等級は可動域・画像・後遺障害診断書・症状固定時の状態などを総合して判断されます。
- 骨粗鬆症や加齢変化があっても、当然に減額されるわけではなく、資料と事故状況を照らして検討されます。
- 高齢でも逸失利益や慰謝料を請求できる場合があります。
- 後遺障害診断書の作成前、後遺障害の申請前、示談書への署名前に確認しておくことが大切です。
次の一歩として、手元の医療資料や保険会社からの提示書類を整理し、必要に応じて交通事故を取り扱う弁護士に確認してみてください。
神戸みらい法律会計事務所では、交通事故に関するご相談をお受けしています。初回のご相談は無料で、遺産相続・交通事故・債務整理については、可能な範囲でお電話での無料相談にも対応しています。診断書や保険会社からの資料を一緒に整理することで、今後の方針や見通しを検討しやすくなります。
お電話でのお問い合わせ:078-797-5227(受付時間 午前9時〜午後8時)
監修者・執筆者情報
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
代表弁護士 藤井貴之(弁護士・公認会計士・通知税理士)
所属:兵庫県弁護士会/日本公認会計士協会兵庫会
交通事故、遺産相続、離婚、債務整理、企業法務などを取り扱っています。
参考資料
本記事は交通事故に関する一般的な解説であり、特定の事案の結論をお約束するものではありません。後遺障害等級や賠償の見通しは、診断書・画像・手術記録などの医療資料や事故の状況を確認したうえで、個別の事情により判断されます。

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