交通事故で耳の一部を失った、耳がちぎれてしまったという場合、まず気になるのは「後遺障害として認めてもらえるのか」「認めてもらえるとして何級になるのか」という点だと思います。調べてみると「耳の欠損は第12級」と書かれている記事と「顔の傷として第7級」と書かれている記事の両方が見つかり、かえって分からなくなった、というご相談も少なくありません。
結論からお伝えすると、耳介(じかい。いわゆる「耳の外側の部分」です)の欠損は、「耳の欠損障害」として見た等級と、「外貌(がいぼう)の醜状障害」として見た等級のうち、上位の等級で評価するという取扱いが、公表されている障害等級認定基準に示されています。両方を足し合わせたり、併合したりするのではありません。この記事では、「耳殻の大部分」とは何を指すのか、第7級第12号・第9級第16号・第12級第14号とどう関係するのか、両耳や聴力障害が併存する場合はどう考えるのか、申請にあたって何を残しておくべきかを整理します。個別の事案では結論が変わり得ますので、実際の見通しは資料を確認したうえで判断する必要があります。
治療中・再建手術の前にお読みの方へ
耳の欠損では、処置の前の状態を示す写真や手術記録が、後から取り直せない資料になります。診断書、写真、手術記録などをご確認いただければ、申請前に整理しておくべき点を検討できます。
結論|耳介の欠損は「欠損障害」と「外貌醜状」の上位等級で評価されます
この記事の要点
- 施行令別表第二の第12級第4号は「一耳の耳殻の大部分を欠損したもの」と定め、認定基準ではこれを耳介の軟骨部の2分の1以上の欠損をいうとしています。
- 同じ耳介の欠損は、欠損障害としての等級と外貌の醜状障害としての等級のうちいずれか上位の等級で認定するとされています。二重評価でも併合でもありません。
- 軟骨部の2分の1に達しない欠損でも、「外貌の単なる醜状」の程度に達すれば第12級第14号が問題となり得ます。
- 両耳の欠損は「必ず併合第11級」ではありません。醜状障害として評価する場合は一耳ごとに併合する取扱いを行わないとされています。
代表的な五つの場面について、検討の方向を一覧にします。実際の認定は提出資料に基づく個別判断ですので、考え方の整理としてご覧ください。
| 場面 | 欠損障害としての検討 | 外貌醜状としての検討 | 両者の関係 |
|---|---|---|---|
| 一耳の軟骨部の2分の1以上の欠損 | 第12級第4号に当たり得る | 「著しい醜状」として第7級第12号に当たり得る | 上位の等級(第7級第12号)で認定するという取扱いが示されている |
| 一耳の軟骨部の2分の1未満の部分欠損 | 「大部分の欠損」に達しないため第12級第4号には当たらない | 「単なる醜状」の程度に達すれば第12級第14号が問題となり得る | 欠損障害として非該当でも、醜状として別途検討する |
| 耳介の欠損に加え、顔面部に別の線状痕がある | 軟骨部の欠損が2分の1以上かどうかで検討する | 顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で人目につく程度以上のものは第9級第16号の類型 | 耳介の欠損とは別に、外貌の醜状として評価されるかを検討する |
| 両耳の耳介を欠損した | 等級表は一耳の類型のみを定めるため、一耳ごとに等級を定めて併合する | 醜状障害としてとらえる場合は、一耳ごとの併合の取扱いは行わないとされている | 「両耳だから必ず併合第11級」とはならない |
| 耳介の欠損と聴力障害などが併存する | 軟骨部の欠損が2分の1以上かどうかで検討する | 醜状として評価される場合はその等級で検討する | 耳介の欠損障害と聴力障害が存する場合はそれぞれの等級を併合して認定するとされている |
本記事は、自賠責保険の後遺障害等級認定を中心に整理しています。労災保険の障害等級認定と、加害者に対する民事上の損害賠償請求は、それぞれ別の制度です。等級が認定されたことと、民事上どの範囲の賠償が認められるかも別の問題ですので、混同しないようご注意ください。
用語の整理|耳介、耳殻、耳介軟骨部、耳垂
「耳介」「耳殻」と、軟骨のない耳垂(耳たぶ)
医学では、頭の外側に張り出している耳の部分を「耳介」と呼びます。これに対し、施行令別表第二の第12級第4号は「耳殻」という語を用い、労災保険の障害等級認定基準は「耳かく(耳介)」と表記したうえで「耳介の大部分の欠損」という言い方で説明を加えています。本記事では、条文を引用する場面では「耳殻」を、医学的な説明や認定基準の解説では「耳介」を用います。
ここで重要なのが、耳介の下端にある耳垂(じすい。いわゆる耳たぶ)には軟骨がなく、皮下組織と皮膚で構成されるとされている点です。「耳介の軟骨部の2分の1以上」は、この軟骨のある部分を基準としています。耳たぶの一部が失われたことをもって直ちに「耳の半分が欠けた」と評価できるわけではありません。逆に、耳の上部は軟骨部にあたるため、面積としては小さく見えても軟骨部に占める割合は小さくない場合もあります。どこまでが軟骨部で、そのうちどれだけが失われているのかは、医師の所見によって確認する必要があります。
「欠損」「変形」「瘢痕」は別の概念です
組織そのものが失われている状態が「欠損」、組織は残っているが形が崩れている状態が「変形」、傷が治った跡が残っている状態が「瘢痕(はんこん)」です。第12級第4号が定めているのは「欠損」であり、変形や瘢痕がそのまま同号に当たるわけではありません。もっとも、変形や瘢痕は外貌の醜状障害として別途検討の対象になり得ます。再建手術後の形態や人工耳介(エピテーゼ)を装着した状態を事故直後の欠損状態と同じに扱ってよいかは、どの時点のどの状態を評価するのかという形で争いになり得ます。
聴力が正常でも、耳介の欠損は別に評価されます
耳介の一部を失っても、聴力そのものは正常であることがあります。この場合でも、耳介の物理的な欠損は聴力障害とは別の後遺障害の類型として検討の対象になります。「耳は聞こえているから後遺障害にはならない」と考えて申請をしないまま示談してしまうことのないよう、注意が必要です。
第12級第4号の判断基準|「耳殻の大部分」とは
法令の文言と、認定基準がいう「軟骨部の2分の1以上」
施行令別表第二は、第12級第4号として「一耳の耳殻の大部分を欠損したもの」と定めています。条文自体は「大部分」としか書いておらず、具体的な割合や測り方は書かれていません。
他方、自賠責保険の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号、最終改正・令和元年金融庁・国土交通省告示第3号)は、後遺障害について「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」としています。そこで労災保険の障害等級認定基準を確認すると、「耳介の大部分の欠損」とは耳介の軟骨部の2分の1以上を欠損したものをいう、と説明されています。
労災保険の障害等級認定基準は、労災保険制度のために定められた行政上の基準です。自賠責の支払基準が「原則として」これに準じるという関係であり、労災の基準がそのまま自賠責に適用される法令であるわけではありません。両制度では等級表の号数が一致しない箇所もあります。外貌の醜状では第9級が、露出面の醜状では第14級が、それぞれ号数の異なる例です。
公表された一律の計測式は確認できません
「耳の長さの半分」「写真上の面積の半分」といった一律の計測式は、確認した範囲の公表資料には示されていません。写真を測って「半分あるから第12級のはずだ」とも「半分なさそうだから諦める」とも判断しないでください。実務上は、医師が診療録や後遺障害診断書、添付資料において軟骨部のどの部位がどの範囲で失われているのかを図示または記述し、手術記録や写真とあわせて総合的に確認していくことになります。
なお、令和8年(2026年)6月1日以降の労災の障害等級認定事務で使用される改訂後の診断書様式では、耳介の欠損について「耳介の2分の1以上の欠損」と「その他」の区分が設けられ、欠損の状態を図示するか状態が分かる資料を添付することが求められる形になっています。労災保険の様式に関するものですが、欠損範囲を図で明らかにすることが重視されている点は参考になります。
2分の1に達しない部分欠損の扱い
軟骨部の欠損が2分の1に達しない場合、第12級第4号の「大部分の欠損」には当たりません。ただし、それで検討が終わるわけではありません。認定基準は、2分の1以上には達しない欠損であっても、それが「外貌の単なる醜状」の程度に達する場合は第12級第14号とする、としています。欠損障害としては非該当でも、外貌の醜状障害としてなお検討の余地があります。
外貌醜状との関係|第7級第12号・第9級第16号・第12級第14号
施行令別表第二は、外貌の醜状について三つの号を定めています。「外貌」とは、認定基準では「頭部、顔面部、頸部のごとく、上肢及び下肢以外の日常露出する部分」とされており、耳は頭部・顔面部に位置しますので、耳介の欠損も外貌の問題として検討され得ます。
| 程度 | 自賠責(別表第二)の号数と文言 | 労災の号数 | 認定基準における顔面部の目安 |
|---|---|---|---|
| 著しい醜状 | 第7級第12号「外貌に著しい醜状を残すもの」 | 第7級の12 | 鶏卵大面以上の瘢痕、または10円銅貨大以上の組織陥没 |
| 相当程度の醜状 | 第9級第16号「外貌に相当程度の醜状を残すもの」 | 第9級の11の2 | 顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度以上のもの |
| 単なる醜状 | 第12級第14号「外貌に醜状を残すもの」 | 第12級の14 | 10円銅貨大以上の瘢痕、または長さ3センチメートル以上の線状痕 |
「醜状」は法令と認定基準で用いられている用語であり、人の容姿や価値を評価する趣旨のものではありません。本記事でも、制度上の等級を説明するために用いています。
上位の等級で評価する|二重評価でも併合でもありません
ここが本記事で最もお伝えしたい点です。障害等級認定基準は、耳介の大部分を欠損したものについて、耳介の欠損障害としてとらえた場合の等級と、外貌の醜状障害としてとらえた場合の等級のうち、いずれか上位の等級に認定するとしています。そのうえで、「耳介の大部分の欠損」は第12級の4に該当するが醜状障害としては第7級の12に該当するので、外貌の醜状障害として第7級の12に認定する、という具体例が示されています。これは、外貌の認定基準が「耳介軟骨部の2分の1以上を欠損した場合は『著しい醜状』とし、その一部を欠損した場合は単なる『醜状』とする」としていることと対応します。
同じ一つの耳介の欠損について、第12級第4号と第7級第12号の両方を認定して併合する処理は行われません。上位等級選択は、同じ障害を二つの角度から見たときにどちらの物差しで測るかという問題であり、障害が二つあるという評価ではないからです。この点を取り違えたまま主張を組み立てると、かえって主張全体の説得力を損なうおそれがあります。
第9級第16号は「耳介の欠損の中間の等級」ではありません
2分の1未満なら第12級第14号、2分の1以上なら第7級第12号となるのであれば、その中間に第9級第16号があるのではないか、と考えたくなるかもしれません。しかし、そうではありません。第9級第16号(労災の第9級の11の2)は、認定基準上、原則として顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度以上のものという別の類型です。耳介の欠損割合が中間だからこの等級になるという関係にはありません。第9級第16号が問題となるのは、事故や手術によって顔面部に一定の長さの線状痕が残ったような場面です。
髪に隠れる部分の取扱いとの関係
外貌の醜状障害に関する認定基準には、瘢痕、線状痕および組織陥没であって眉毛、頭髪等にかくれる部分については醜状として取り扱わない、という定めがあります。そのため「髪で耳が隠れるなら耳の欠損も評価されないのではないか」という疑問が生じますが、確認した資料の文言上、この除外は瘢痕・線状痕・組織陥没について定められたものであり、耳介の欠損については軟骨部の2分の1以上の欠損を「著しい醜状」とする定めが別に置かれています。両者の関係の理解は断定できる事柄ではなく、実際の認定は提出資料に基づく個別判断です。髪型で耳が隠れることのみを理由に諦める必要はありませんし、逆に、当然に認定されると考えることもできません。
耳介以外の瘢痕は、部位によって枠組みが異なります
事故そのものによって、あるいは肋軟骨を用いた再建に伴って、耳以外の部位に瘢痕が残ることがあります。醜状障害は部位ごとに枠組みが異なりますので、次のように分けて確認してください。
- 外貌(頭部・顔面部・頸部など、上肢下肢以外の日常露出する部分)|第7級第12号、第9級第16号、第12級第14号
- 上肢・下肢の露出面(上肢はひじ関節以下、下肢はひざ関節以下)|てのひらの大きさの醜いあとを残すものは第14級第4号・第14級第5号
- 露出面以外(体幹など)|等級表に直接の号はないが、認定基準は胸部または腹部は各々の全域、背部・臀部はその全面積の2分の1程度を超えるものなどについて第12級を準用するとしている
肋軟骨の採取部に残る傷は胸部にありますので、外貌にも上肢・下肢の露出面にも当たらず、体幹部については範囲の要件を満たすかどうかが問題になります。なお、等級表に直接の号がない後遺障害について、施行令別表第二の備考は「各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であつて、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする」と定めており、これが労災でいう「準用」に対応します。症状固定の時点で、耳介以外の部位についても実測値と写真を残しておくと、後の検討がしやすくなります。
現行制度に外貌醜状の男女差はありません
かつて外貌の醜状障害には男女で異なる等級が定められていましたが、施行令の改正により、女性の等級を基本として男女差が解消され、あわせて「外貌に相当程度の醜状を残すもの」が第9級として新設されました。国土交通省の公表資料によれば、この改正は平成22年6月10日以後に発生した自動車の運行による事故に適用されます。
両耳の欠損・聴力障害などが併存する場合
両耳の耳介を欠損した場合
認定基準は、障害等級表が耳介の欠損障害について一耳のみの等級を定めていることを前提に、両耳の耳介を欠損した場合には一耳ごとに等級を定めてこれを併合して認定するとしています。ただし、これには重要な但し書きがあり、耳介の欠損を醜状障害としてとらえる場合には、この一耳ごとの併合の取扱いは行わないとされています。
この二つの定めを併せて読むと、両耳とも軟骨部の2分の1以上を欠損した場合は、一耳ごとの第12級第4号を併合するのではなく、外貌の醜状障害として評価されることになります。「両耳が欠けたのだから第12級と第12級で併合第11級になる」という説明は正確ではありません。左右それぞれの欠損範囲と、外貌の醜状障害としてとらえるべき事案かによって検討の道筋が変わります。
聴力障害、耳鳴り、めまいなどが併存する場合
認定基準は、耳介の欠損障害と聴力障害が存する場合には、それぞれの該当する等級を併合して認定するとしています。聴力障害の等級は平均純音聴力レベルや語音明瞭度、左右いずれの耳かなどで定まりますので、同じ「耳の後遺障害」でも、外形の問題と聞こえの問題は別の検査・別の資料で立証します。耳鳴り、平衡機能障害(めまい・ふらつき)、耳漏、外耳道の狭窄、顔面神経の障害、疼痛などが併存する場合には、それぞれ評価の系列が異なり、同じ症状を重ねて評価しないという考え方が問題になります。
事故前からの左右差や既存の障害がある場合
事故前から耳介の形に左右差があった、過去の外傷で耳介の一部を失っていた、既に聴力障害の等級認定を受けていた、といった事情がある場合には、加重その他の取扱いが問題となり得ます。事故前の状態が分かる写真や、過去の診療記録、既認定の等級に関する資料があるかどうかを、早い段階で確認しておくことが有用です。
後遺障害の申請前に一度ご確認ください
資料が足りているかどうかを申請前に確認しておくと、その後の検討がしやすくなります。お手元の診断書、写真、手術記録などを拝見したうえで、申請の方針や不足している資料を整理することができます。初回相談は無料で、事前予約制です。交通事故については、可能な範囲でお電話での無料相談にも対応しています。
後遺障害申請で準備する資料
耳介の欠損では、「軟骨部のどの範囲が失われたのか」を客観的に示す資料が中心になります。何のための資料かを意識して集めると、抜けが生じにくくなります。診療録や救急記録など一般的な資料の集め方は、後掲の関連記事をご確認ください。
| 資料 | 主な立証目的 | 入手先と注意点 |
|---|---|---|
| 受傷前の耳の形態が分かる写真 | 事故前の状態、左右差の有無 | 手元や家族の写真、証明写真など。撮影時期が分かる未加工のものを選ぶ |
| 事故直後・処置前後・症状固定時の写真 | 欠損の範囲と経過 | 受傷後できるだけ早い段階から継続的に。健側と同条件で撮り、目盛りを一緒に写す |
| 手術記録、切除範囲図、再接着・再建の記録 | 失われた組織の範囲、実施された処置の内容 | 手術を受けた医療機関。初回処置の記録は欠損範囲の直接証拠になり得る |
| 医師による軟骨部の欠損部位・残存範囲の記載または図 | 軟骨部の2分の1以上かどうかの判断資料 | 後遺障害診断書の作成時に、左右の別と再建後の状態も含めて記載を依頼する |
| 後遺障害診断書 | 症状固定時の残存状態 | 用紙は損害保険会社の窓口に備え付けられている。耳の障害に関する欄の記載と添付資料を確認する |
| オージオグラム、耳漏・外耳道狭窄・耳鳴り等の所見 | 併存する聴力障害その他の障害の立証 | 症状がある場合は症状固定前に。自覚症状だけでなく検査所見を残す |
| 将来の再建手術・人工耳介の見積書と医師の意見 | 将来費用の必要性と金額 | 実施を検討している場合。保険適用の有無、自己負担額、交換の周期も確認する |
耳介の欠損に固有の残し方
写真や医療記録の残し方の一般的な考え方は後遺障害の証拠の集め方と後遺障害診断書の作成前に確認したい資料で整理しています。耳介の欠損では、これに加えて次の点を意識しておくと有用です。
- 正面、左右側面、斜位、後面から、耳の全体像と近接像の双方を撮る。
- 健側の耳も同じ照明・距離・角度で撮り、左右を対比できるようにする。定規などの目盛りを一緒に写す。
- 再建手術や瘢痕修正の前後で、それぞれ撮影しておく。
- 医師に、耳垂ではなく軟骨部を基準として欠損範囲を図示してもらう。
撮影条件をそろえることは、公表資料が一律の必須要件として定めているものではなく、欠損の範囲を第三者が判断しやすくするための実務上の工夫です。他方で、欠損を実際より大きく見せる加工や撮影角度の操作は行わないでください。事実と異なる資料は全体の信用性を損ないます。顔が写った写真は、保存場所と共有範囲を限定し、位置情報などの付帯情報を確認したうえで、必要な相手にのみ提供してください。
再建手術と症状固定の考え方
症状固定の判断は医師が行います
後遺障害の申請は、症状固定(これ以上治療を続けても症状の改善が見込めない状態と判断されること)を前提とします。耳介の外傷では、受傷直後に組織の再接着が試みられることがあり、その後の経過に応じて形成外科的な処置や耳介の再建が検討されます。公的医療機関や大学病院の公開情報によれば、耳介の再建には肋軟骨を用いた方法などがあり、複数回の手術と一定の入院期間を要することがあるとされています。人工耳介(エピテーゼ)が選択肢として説明されることもあります。
等級の認定を目的として、必要な治療を控えたり、再建手術を急いだり遅らせたりすることはおすすめできません。治療方針と症状固定の時期は医学的判断に委ねるべき事柄です。そのうえで、手続上いつ何を残しておくべきかは、法的な観点から整理できます。
処置の前後を記録に残す
再建手術を受けると、外形は改善する一方で、事故によって実際にどれだけの組織が失われたのかが分かりにくくなります。処置の前の状態を示す写真や、手術記録に記載された欠損の範囲は、後から取り直すことができません。また、再接着や再建の後に組織の壊死、感染、瘢痕拘縮、変形などが生じ、これらが事故によるものかどうかが争点となる場合には、経過が分かる診療録と画像・写真が判断材料になります。
慰謝料・逸失利益・将来費用の考え方
混同しやすい三つの数字
国土交通省の公表資料によれば、自賠責保険・共済の後遺障害による損害の限度額は別表第二の第7級で1051万円、第9級で616万円、第12級で224万円、支払基準上の後遺障害慰謝料等の額は第7級で419万円、第9級で249万円、第12級で94万円とされています。この二つは意味が異なります。
限度額・支払基準・裁判実務上の基準は別のものです
- 自賠責の限度額は、自賠責保険から支払われる金額の上限であり、民事上の賠償総額そのものではありません。
- 支払基準上の慰謝料等の額は、自賠責の支払基準が定める額であり、裁判実務上参照される慰謝料の基準とは別のものです。
- 裁判実務上参照される基準による慰謝料額は、事案に応じて検討されます。適用される基準や金額は、資料を確認したうえで判断する必要があります。
適用される支払基準や等級表は事故日によって異なる場合があります。後遺障害慰謝料の基準ごとの考え方もあわせてご確認ください。
逸失利益と将来費用は、等級から自動的には決まりません
自賠責の支払基準では該当等級の労働能力喪失率が用いられ、別表では第7級が56%、第9級が35%、第12級が14%とされています。もっとも、民事上の損害賠償でこの率と期間がそのまま当然に認められるとは限りません。他方で、「機能障害がないから逸失利益は常に認められない」という取扱いでもありません。職種、対人業務の比重、収入や配置の変化、眼鏡・マスク・ヘッドセット・補聴器・保護具の装着への支障などを、資料によって具体的に示していくことになります。
将来の再建手術費や人工耳介(エピテーゼ)の作製費・調整費・維持費・交換費も、当然に全額認められるわけではありません。医学的な必要性、改善の見込み、実施の蓋然性と時期、見積額、交換の周期、保険適用の有無と自己負担額、症状固定との関係などを、資料に基づいて個別に検討します。なお、障害者総合支援法にもとづく補装具費支給制度では義眼や補聴器などが種目として掲げられていますが、耳介の補綴に相当する種目は掲げられていません。費用の負担は、医療保険の適用の有無を含め、医療機関や制作を担当する施設に個別に確認する必要があります。
期間制限と紛争処理機構|見落としやすい点
手続は、治療および必要な処置、症状固定の判断、後遺障害診断書の作成、事前認定または被害者請求による申請、認定結果の受領、必要に応じた異議申立てや自賠責保険・共済紛争処理機構への申請、示談という流れになります。ここでは、見落とされやすい期間制限を中心に整理します。
期間制限は請求の相手方ごとに考えます
- 自賠責保険会社への被害者請求(後遺障害部分)|症状固定日の翌日から3年(自動車損害賠償保障法第19条)。平成22年3月31日以前に発生した事故は2年
- 自賠責保険会社への被害者請求(傷害部分)|事故発生日の翌日から3年
- 加害者に対する人身損害の賠償請求|損害および加害者を知った時から5年(民法第724条、第724条の2)。改正法の経過措置の確認が必要
紛争処理機構への申請では、時効は更新されません
認定結果に納得できない場合、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構への申請を検討することがあります。ここで注意が必要なのは、同機構への申請を行っても時効は更新されないという点です。同機構は、時効の期限が迫っている場合には自賠責保険会社(共済組合)に対して「時効の更新」の手続をとることを勧めており、請求時効がすでに完成している場合には申請を受け付けないとしています。また、示談等で解決したあとの申請もできないとされています。
「異議を申し立てているうちは時効を心配しなくてよい」と考えて手続を進めると、期間の経過に気づかないことがあります。事故日、症状固定日、これまでの請求の経過を早い段階で確認し、期限が近い場合は自賠責保険会社に時効の更新の手続について確認してください。加害者や任意保険会社に対する請求の期間制限は、これとは別に考える必要があります。
よく問題になる場面と確認すべき資料
交渉や異議申立ての場面では、次のような指摘を受けることがあります。指摘ごとに確認すべき資料と検討の方向を整理しておくと、対応しやすくなります。
| 想定される指摘 | 確認すべき資料・医学的事項 | 法的に検討する事項 |
|---|---|---|
| 欠損は軟骨部の2分の1に達していない | 手術記録、切除範囲図、症状固定時の写真。軟骨部の欠損範囲を医師が図示できるか | 欠損障害としての検討と、外貌醜状としての検討を分けて主張できるか |
| 耳垂を含めて計算しており基準を満たさない | 欠損部位を軟骨部と耳垂に分けて示した資料。両者の境界と欠損の程度 | 軟骨部を基準とした主張に組み替える必要があるか |
| 写真の角度・距離・加工により状態が分からない | 撮影条件をそろえた写真、健側との比較写真。診療録の記載との整合 | 資料を補充して再度の判断を求めるべきか |
| 受傷前から左右差や既存の変形があった | 事故前の写真、過去の診療記録。事故による欠損部分と既存部分の切り分け | 加重その他の取扱いが問題となるか |
| 再建手術後の最終状態が明らかでない | 症状固定時の写真、術後の診療録、後遺障害診断書 | どの時点の状態を評価対象とすべきか |
| 耳介の欠損と外貌醜状を二重に評価している | 認定結果と認定理由 | 上位等級選択の枠組みに沿った主張に整理し直す |
| 聴力障害や耳鳴りは事故によるものではない | オージオグラム、語音聴力検査、耳鼻咽喉科の所見、受傷直後の記録 | 因果関係の立証構造をどう組み立てるか |
| 将来手術や人工耳介の必要性・時期・金額が不明 | 医師の意見書、見積書、保険適用と自己負担が分かる資料 | 将来費用として請求する範囲をどう画するか |
示談前に確認しておきたいこと
ここまでの表は認定手続の場面を整理したものです。示談の段階では、これに加えて次の点を確認してください。
- 示談書や免責証書に署名する前に、清算条項の範囲を確認したか。
- 将来の再建手術費や人工耳介の費用の見積り、職務内容や収入の変化が分かる資料を提出したか。
- 被害者請求と加害者に対する請求の期間制限を、事故日・症状固定日にあてはめて確認したか。期限が近い場合、自賠責保険会社への時効の更新の手続を確認したか。
- ご自身やご家族の自動車保険に、弁護士費用特約が付いていないか確認したか。
弁護士に相談するタイミング
耳介の欠損では、資料が取り直せない場面が複数あります。次の段階でご相談いただくと、そのときにできる準備を整理しやすくなります。
- 再建や形成外科的な処置を検討している段階|処置の前に何を残すべきかを整理できます。
- 症状固定や後遺障害診断書の作成前|どの状態を記録してもらい、どの資料を添付するかを検討できます。
- 認定結果に疑問がある段階、示談の提示を受けた段階|認定理由や損害項目の抜けを確認できます。
ご相談によって結果をお約束できるものではありませんが、資料の状況を踏まえて、申請の方針や見通し、示談前に確認すべき事項を整理することはできます。
よくある質問(FAQ)
耳介の2分の1以上が欠けた場合は、第12級ですか、第7級ですか。
障害等級認定基準では、軟骨部の2分の1以上の欠損は欠損障害として第12級第4号に当たる一方、外貌の醜状障害としては第7級第12号に当たるとされ、上位の等級である第7級第12号に認定するという取扱いが示されています。実際の認定は提出資料に基づく個別判断です。
耳の欠損で第12級第4号と第7級第12号を併合できますか。
同じ一つの耳介の欠損について、両方を認定して併合するという取扱いは示されていません。欠損障害としての等級と外貌醜状としての等級のうち、いずれか上位の等級で評価するという関係です。二重に評価するものではない点にご注意ください。
耳介軟骨部の2分の1未満でも後遺障害になりますか。
第12級第4号の「大部分の欠損」には当たりません。ただし認定基準は、2分の1に達しない欠損でも「外貌の単なる醜状」の程度に達する場合は第12級第14号とするとしています。欠損の範囲や瘢痕の状態が分かる資料の確認が必要です。
聴力が正常でも、耳介の欠損は後遺障害になりますか。
耳介の物理的な欠損は、聴力障害とは別の類型として検討の対象になります。聴力に問題がないことを理由に申請を見送る必要はありません。もっとも認定の可否は欠損の範囲などによりますので、個別事情により結論は異なります。
両耳が欠けた場合は、必ず併合第11級になりますか。
そうとは限りません。認定基準は、両耳の耳介を欠損した場合は一耳ごとに等級を定めて併合するとしつつ、醜状障害としてとらえる場合にはこの取扱いを行わないとしています。両耳とも軟骨部の2分の1以上を欠損した場合は、外貌の醜状障害として評価されることになります。
再建手術を受ける前に、後遺障害の申請をすべきですか。
後遺障害の申請は症状固定を前提としますので、処置が続いている段階で申請を急ぐことは通常想定されません。治療方針と症状固定の時期は医学的な判断に委ねるべき事柄です。他方で、処置の前の状態を示す写真や手術記録は後から取り直せませんので、記録を残すことは早い段階から検討できます。
耳介の欠損でも、逸失利益は認められますか。
等級が認定されれば当然に一定の割合と期間で認められる、というものではありません。他方で、機能障害がないことのみを理由に一律に否定されるものでもありません。職種、対人業務の比重、収入や配置の変化、装具の装着への支障などを資料で示すことが検討の中心になります。
紛争処理機構に申請すれば、時効の完成を止められますか。
止められません。自賠責保険・共済紛争処理機構は、同機構への申請を行っても時効は更新されないとしており、期限が迫っている場合は自賠責保険会社(共済組合)に対して時効の更新の手続をとることを勧めています。請求時効が完成している場合は申請を受け付けないともされていますので、事故日と症状固定日を確認して手続の順序を検討してください。
まとめ
- 第12級第4号は「一耳の耳殻の大部分を欠損したもの」を定め、認定基準では耳介軟骨部の2分の1以上の欠損がこれに当たるとされています。
- 同じ耳介の欠損は、欠損障害としての等級と外貌の醜状障害としての等級のうち、上位の等級で認定します。二重評価や併合ではありません。
- 2分の1未満でも、外貌の単なる醜状の程度に達すれば第12級第14号が問題となり得ます。第9級第16号は耳介の欠損の中間の等級ではありません。
- 両耳の欠損は「必ず併合第11級」ではありません。醜状障害として評価する場合には一耳ごとの併合を行わないとされています。
- 聴力が正常でも、耳介の欠損は独立して検討されます。
- 紛争処理機構への申請では時効は更新されません。事故日と症状固定日から期間制限を確認してください。
- 次の行動は、処置の前後を含む写真の確保、医師による軟骨部の欠損範囲の図示、後遺障害診断書の記載内容の確認、示談前の損害項目と期間制限の点検です。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案では結論が異なります。資料を確認したうえでなければ判断できない事項が多い分野ですので、申請前・示談前に一度ご確認いただくことをおすすめします。
認定結果や示談提示を受け取った方へ
認定結果を受け取った後や、保険会社から示談の提示を受けた後でも、資料を確認したうえで見直す余地があるかどうかを検討できます。診断書、写真、手術記録、認定結果、示談提示書などをもとに、損害項目と今後の進め方を整理いたします。
初回相談は無料で、事前予約制です。交通事故については、電話相談・オンライン相談のほか、出張相談(出張費用が必要です)にも対応していますので、入通院中の方や遠方の方もご利用いただけます。受付時間は9時から20時まで、事案によって平日夜間・土日祝にも対応しています。お電話は078-797-5227へお願いいたします。
監修者・執筆者
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
代表弁護士・公認会計士 藤井貴之
兵庫県弁護士会所属/日本公認会計士協会兵庫会所属
交通事故、相続、企業法務、労働問題、損害賠償など、個人・法人双方の法律相談に対応しています。
参考資料
- 自動車損害賠償保障法施行令(e-GOV法令検索)
- 自動車損害賠償保障法(e-GOV法令検索)
- 民法(e-GOV法令検索)
- 後遺障害等級表(国土交通省)
- 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(国土交通省)
- 自賠責保険・共済の限度額と補償内容(国土交通省)
- 請求方法・必要書類・時効(国土交通省)
- 自動車損害賠償保障法施行令の一部を改正する政令の公布について(国土交通省)
- 障害等級認定基準について(厚生労働省・耳の障害)
- 外貌の醜状障害に関する障害等級認定基準について(厚生労働省)
- 障害(補償)等給付に係る診断書様式の見直しについて(厚生労働省)
- 補装具費支給制度の概要(厚生労働省)
- よくある質問(一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構)
- ご請求に関する書類(損害保険料率算出機構)
本記事は、交通事故による耳介(耳殻)の欠損に関する一般的な解説です。実際の等級認定や請求可否は、欠損の範囲、治療経過、再建の有無、併存する障害、事故日、資料の内容などにより異なります。具体的な事案については、資料を確認したうえで弁護士にご相談ください。

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