交通事故で骨盤を骨折し、入院や手術を経験された方やそのご家族から、「骨がついた後も歩きにくさが残っている」「骨盤が変形していると説明された」「股関節の動きが悪く、痛みやしびれが続いている」「将来、人工関節が必要になるかもしれないと言われた」「保険会社から示談を急かされているが、このまま応じてよいのか不安だ」といったご相談をいただくことがあります。
骨盤骨折は、救命処置や手術によって骨がついたとしても、歩行や立位、股関節の動き、脚の長さ、痛み・しびれといった形で、日常生活や仕事に影響が残ることのあるけがです。そして、こうした症状がどの程度後遺障害として評価されるかは、骨折の名前だけで決まるものではなく、画像所見や可動域、症状の一貫性、医師の所見などを総合的に確認して判断されます。
この記事では、骨盤骨折で問題になりやすい後遺障害の種類、「荷重機能障害」という考え方、将来の人工関節置換が損害賠償上どのように問題になるか、そして示談や後遺障害申請の前に確認しておきたい資料について、交通事故を取り扱う弁護士の視点から整理します。以下は一般的な整理であり、実際の見通しは資料を確認したうえで個別に判断する必要があります。
骨盤骨折後の後遺障害や将来の人工関節の見通しについて、手元の資料からどのような点を確認すべきか整理したい方は、一度ご相談ください。神戸みらい法律会計事務所では、交通事故について初回無料相談を実施しています。
Contents
骨盤骨折の後遺障害で最初に押さえておきたい結論
はじめに要点を整理します。骨盤骨折で後遺障害を検討する際は、次の点を確認する必要があります。
骨盤骨折の後遺障害でまず確認したいこと
- 骨折した部位(骨盤輪、寛骨臼、仙腸関節、恥骨、坐骨、腸骨など)と骨折の型
- 画像(X線、CT、MRI)で確認できる骨の変形や癒合の状態
- 股関節の可動域(動かせる範囲)と、健側(けがをしていない側)との比較
- 歩行や立位、荷重(体重を支えること)への影響
- 脚の長さの左右差(下肢短縮)
- 痛みやしびれなどの神経症状の有無と経過
- 手術の内容(内固定、抜釘、骨移植・採骨の有無など)と手術に伴う症状
- 将来、人工関節置換などの追加治療が見込まれるかどうかに関する医師の説明
これらは、後遺障害診断書や画像、手術記録、リハビリの記録などで確認します。骨折の名前が同じでも、これらの内容によって評価は変わり得るため、資料を確認したうえで判断する必要があります。骨盤骨折で問題になりやすい後遺障害と、確認したい資料・タイミングの全体像は、次のとおりです。
| 確認する場面 | 主に問題になる後遺障害 | 確認したい資料の例 |
|---|---|---|
| 骨の変形が残ったとき | 骨盤骨の変形障害 | X線・CT画像、後遺障害診断書 |
| 股関節が動かしにくいとき | 股関節の機能障害(可動域制限) | 可動域検査の結果、画像、後遺障害診断書 |
| 脚の長さに差が出たとき | 下肢短縮 | 脚長差の測定結果、画像 |
| 痛み・しびれが続くとき | 局部の神経症状 | 症状の経過記録、画像、神経学的な所見 |
| 将来治療が見込まれるとき | 人工関節置換に関する将来治療費など | 主治医の説明資料、画像、手術記録 |
骨盤骨折で問題になりやすい後遺障害の種類
骨盤は、左右の寛骨(腸骨・恥骨・坐骨)と仙骨・尾骨からなり、上半身の重さを支え、下肢のつけ根となる部分です。骨折の部位や型によって、残りやすい後遺障害の種類は異なります。ここでは代表的なものを整理します。以下で触れる等級は、自動車損害賠償保障法施行令別表第二を前提とした代表的な例であり、実際にどの等級に該当するかは、画像所見、可動域、症状の一貫性、医師の所見などを踏まえて個別に判断されます。
骨盤骨の変形障害
骨盤の骨が変形したまま癒合した場合、変形障害が問題になることがあります。自動車損害賠償保障法施行令別表第二では、骨盤骨を含む体幹の骨に著しい変形を残すものが12級5号として定められています。もっとも、実務上は、画像で変形が確認できるだけでなく、変形の程度が外見上も明らかに分かるといった点が確認される場合があるとされます。変形の評価はケースにより異なるため、画像と後遺障害診断書の記載を確認する必要があります。
股関節の機能障害(可動域制限)
寛骨臼(骨盤側で股関節を構成する部分)の骨折などにより、股関節が動かしにくくなることがあります。下肢の三大関節(股関節・膝関節・足関節)の一つである股関節の機能障害は、健側との比較で、可動域が4分の3以下に制限されると機能障害(12級7号)、2分の1以下に制限されると著しい機能障害(10級11号)、強直(ほとんど動かない状態)などでは用を廃したもの(8級7号)として評価されることがあります。可動域は、原則として他動運動(他人が動かした場合)を基準に、決められた方法で測定する必要があります。
下肢短縮(脚の長さの差)
骨盤の変形や癒合の状態によって、左右の脚の長さに差が生じることがあります。下肢短縮は、健側と比べて5センチメートル以上で8級5号、3センチメートル以上で10級8号、1センチメートル以上で13級8号として評価されることがあります。脚長差は測定方法によって数値が変わり得るため、測定結果と画像を確認する必要があります。
局部の神経症状(痛み・しびれ)
骨折や神経の損傷により、痛みやしびれが残ることがあります。画像などで症状の原因を他覚的に証明できる場合は頑固な神経症状(12級13号)、他覚的な証明までは難しいものの医学的に説明ができる場合は神経症状(14級9号)として評価されることがあります。症状の一貫性や経過が確認されるため、受傷直後からの症状の記録が重要になります。
生殖機能・分娩機能への影響
骨盤は生殖器や産道に近いため、骨折の部位や程度によっては、排尿・排便機能や、女性では正常分娩が難しくなるといった影響が問題になる場合があります。これらは後遺障害として評価される可能性がありますが、評価は医学的資料に基づき個別に判断されるため、主治医の所見や検査結果を確認する必要があります。
手術に伴う症状(採骨部の痛み・手術痕など)
骨盤骨折の治療では、金属プレートやスクリューによる内固定、後日の抜釘、骨移植のための採骨などが行われることがあります。骨盤周辺から採骨や骨移植が行われている場合には、採骨部の痛みやしびれ、手術痕、可動域の制限などが残ることがあります。これらは実際の手術記録・診療録で確認する必要があり、症状が残る場合は後遺障害診断書に整理してもらうことが重要です。
骨盤骨折では、これらの後遺障害が同時に複数残ることがあります。複数の障害が認められる場合、「併合」というルールにより等級が繰り上がることがあります。どの障害をどのように主張するかによって全体の評価が変わり得るため、資料を確認したうえで検討する必要があります。
「荷重機能障害」という考え方
骨盤骨折の相談では、「荷重機能障害」という言葉が使われることがあります。これは、体重を支える、立つ、歩く、階段を昇り降りする、長時間座る・立つといった、骨盤と股関節まわりが担う機能への影響を整理するための考え方です。もっとも、これは法令上の正式な等級名ではありません。実際の後遺障害の評価は、骨盤輪・寛骨臼の癒合の状態、股関節の可動域、歩行の状態、下肢長差、疼痛やしびれの推移、仕事や家事への支障などを、後遺障害診断書・可動域検査・リハビリ記録などで確認したうえで行う必要があります。「支える力・歩く力にどのような影響が残っているか」という視点で、資料を整理していくことが実務上重要です。
将来、人工関節が必要になるかもしれない場合の考え方
損害賠償上の位置づけ
寛骨臼骨折や股関節周辺の外傷では、時間の経過とともに、外傷後の変形性股関節症などへ進行し、将来的に人工股関節への置換が検討される場合があることが、医学的資料で指摘されています。ただし、人工関節置換が必要かどうか、必要だとしてその時期がいつになるかは、医師が医学的に判断する事項です。法律記事でこれを断定することはできません。損害賠償の場面では、人工関節そのものの評価と、将来治療という時間軸の両面から検討することになります。
参考として、人工関節・人工骨頭を挿入置換した場合、労災の認定基準を準用し、原則として関節の機能に著しい障害を残すもの(下肢では10級11号)、可動域が健側の2分の1以下に制限されている場合は用を廃したもの(8級7号)として評価される取扱いがあります。置換の時点で目立った可動域制限や痛みがなくても、禁忌となる姿勢の制限や、将来的な部品の摩耗・ゆるみの可能性があることが、評価の背景として説明されています。
将来治療費・再手術・逸失利益として問題になる点
将来、人工関節置換が見込まれる場合、示談の前に、将来治療の必要性・時期・費用の見込み、事故との相当因果関係、置換後に残り得る後遺障害、逸失利益(将来の収入への影響)、生活上の支障などが問題になり得ます。とくに、症状固定の時点でこれらの見込みが十分に整理されないまま示談をしてしまうと、後から生じた費用を求めることが難しくなる場合があります。示談前に、主治医の説明、画像所見、手術記録、リハビリ経過、将来治療に関する医学的資料を確認しておくことが重要です。将来治療費や逸失利益の算定には、裁判実務上参照される基準を前提とした検討が必要となるため、資料を確認したうえで判断する必要があります。
神戸・兵庫県内の専門医療資源について
神戸市内には、公的な専門医療機関として、兵庫県立リハビリテーション中央病院の人工関節センターのように、膝や股関節の人工関節手術とその後のリハビリテーションに取り組む施設もあります(受診には、原則としてかかりつけ医からの紹介状が必要とされています)。将来治療の見通しについては、主治医や専門医の説明を踏まえて整理することが重要です。なお、人工関節置換の要否・適否は、あくまで医学的に判断される事項です。
「将来、人工関節が必要になるかもしれない」と言われている場合、示談前にどの資料を確認し、どのような点を主張しておくべきかを整理できます。神戸みらい法律会計事務所では、交通事故について初回無料相談を実施しています。
後遺障害申請と示談の流れ
症状固定と後遺障害診断書
治療を続けても症状がこれ以上改善しないと医師が判断した状態を「症状固定」といい、これは医師が判断するものです。症状固定後に症状が残っている場合、医師に後遺障害診断書を作成してもらい、後遺障害等級の認定を申請します。骨盤骨折では、可動域や脚長差、神経症状、変形の程度などが後遺障害診断書に正確に記載されているかが重要になります。記載が不十分な場合、追記・修正を検討することがあります。
事前認定と被害者請求
後遺障害等級の申請方法には、相手方(加害者側)の任意保険会社を通じて行う「事前認定」と、被害者自身が自賠責保険に対して行う「被害者請求」があります。どちらの方法にも特徴があり、提出資料の準備や見通しの検討を踏まえて選択することになります。なお、損害賠償の請求には期間制限(消滅時効)があり、起算点や期間は事案により異なります。時間の経過により資料の収集が難しくなることもあるため、早めに確認しておくことが重要です。
| 段階 | 主に行うこと | 確認しておきたいこと |
|---|---|---|
| 治療中 | 通院・手術・リハビリ、症状の記録 | 症状の経過、画像、手術記録 |
| 症状固定 | 医師による症状固定の判断 | 残っている症状の内容と程度 |
| 後遺障害診断書 | 医師に診断書を作成してもらう | 可動域・脚長差・神経症状・変形の記載 |
| 申請 | 事前認定または被害者請求 | 提出資料、方法の選択 |
| 示談・賠償 | 等級を踏まえた賠償の検討 | 将来治療費・逸失利益など損害項目の整理 |
示談前・後遺障害申請前に確認したい資料
示談や後遺障害申請の前に、次の資料がそろっているかを確認しておくと、見通しの検討がしやすくなります。
- 交通事故証明書
- 診断書、診療報酬明細書
- 後遺障害診断書
- X線、CT、MRIなどの画像
- 手術記録、退院サマリー、紹介状、診療情報提供書
- リハビリ記録、可動域検査の結果、脚長差の測定結果
- 痛み・しびれ・歩行状態・日常生活の支障についてのメモ
- 保険会社からの示談金の提示書
- 休業損害証明書、収入がわかる資料
- 将来治療や人工関節置換の見通しに関する医師の説明資料
- 弁護士費用特約の有無がわかる保険証券やアプリの画面
保険会社から示談を急がされていると感じる場合でも、症状固定前や、将来治療の見通しが整理される前に応じてしまうと、後から生じた費用を求めることが難しくなる場合があります。署名の前に、一度、資料を確認することをおすすめします。
弁護士に相談するタイミング
弁護士への相談は、後遺障害の認定や増額を保証するものではありません。もっとも、資料を確認しながら、どの後遺障害が問題になり得るか、後遺障害診断書に不足がないか、将来治療費や逸失利益をどう主張するか、示談のタイミングをどう考えるかといった、判断材料と対応方針を整理しやすくなります。次のような場面は、相談を検討しやすいタイミングです。
- 症状固定が近づき、後遺障害申請を控えているとき
- 後遺障害診断書の記載内容に不安があるとき
- 将来、人工関節が必要になるかもしれないと言われたとき
- 保険会社から示談金の提示を受けたとき
費用の考え方や弁護士については、次のページもご確認ください。
よくある質問(FAQ)
骨盤骨折は後遺障害に認定されますか?
骨折の名前だけで決まるものではなく、変形の程度、股関節の可動域、脚の長さの差、痛み・しびれの経過などを、画像や後遺障害診断書で確認して判断されます。事案により結論は異なります。
骨盤の変形が残った場合、後遺障害になりますか?
骨盤骨を含む体幹の骨に著しい変形が残る場合、変形障害として問題になることがあります。ただし、変形の程度の評価はケースにより異なるため、画像と診断書の記載を確認する必要があります。
股関節が動かしにくい場合はどう評価されますか?
健側と比べた可動域の制限の程度に応じて、機能障害・著しい機能障害・用を廃したものとして評価されることがあります。可動域は決められた方法での測定が前提となるため、検査結果を確認します。
骨盤骨折後に歩きにくい場合、何を記録すべきですか?
歩行の状態、痛みやしびれの程度と部位、日常生活・仕事への支障を、時期とともに記録しておくと、症状の一貫性を示す資料として役立つことがあります。リハビリ記録もあわせて確認します。
将来、人工関節が必要になるかもしれない場合、示談前に何を確認すべきですか?
将来治療の必要性・時期・費用の見込み、事故との相当因果関係、置換後に残り得る後遺障害などについて、主治医の説明や画像・手術記録を確認しておくことが重要です。人工関節の要否は医師が判断する事項です。
採骨部の痛みや手術痕も後遺障害で問題になりますか?
骨盤周辺からの採骨や骨移植が行われている場合、採骨部の痛み・しびれや手術痕などが残ることがあります。症状が残る場合は、手術記録や後遺障害診断書で整理する必要があります。
保険会社から示談案が届いた後でも相談できますか?
示談前であれば、提示された内容や後遺障害の評価、将来治療費の扱いなどを確認したうえで検討できます。署名の前に一度確認することをおすすめします。
相談のとき、どの資料を準備すればよいですか?
後遺障害診断書、画像、手術記録、リハビリ記録、保険会社からの提示書、収入がわかる資料などがあると、見通しの検討がしやすくなります。手元にある範囲でお持ちください。
まとめ|次の一歩
- 骨盤骨折の後遺障害は、骨折名だけでなく、変形・可動域・歩行や荷重・下肢長差・神経症状・手術に伴う症状を総合して確認する
- 「荷重機能障害」は正式な等級名ではなく、支える力・歩く力への影響を整理する考え方として捉える
- 将来の人工関節は、医学的な要否とは別に、将来治療費・再手術・逸失利益・相当因果関係という損害の問題として検討する
- 示談前・後遺障害申請前に、画像・手術記録・リハビリ記録・将来治療の資料を確認する
- 症状固定が近いとき、診断書に不安があるとき、示談提示を受けたときは、相談を検討するタイミング
骨盤骨折後の後遺障害、将来の人工関節の見通し、示談前の資料確認について、手元の資料をもとに整理できます。神戸みらい法律会計事務所では、交通事故について初回無料相談を実施しており、交通事故はお電話での無料相談にも対応しています。
お電話:078-797-5227(受付9:00〜20:00/時間外・土日祝は予約制)
監修者
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
代表弁護士 藤井貴之(弁護士・公認会計士/兵庫県弁護士会・日本公認会計士協会兵庫会)
取扱分野:交通事故をはじめとする一般民事・家事ほか
交通事故では、後遺障害や損害賠償の法的な検討に加え、休業損害・逸失利益など数字の面からの検討にも対応しています。
参考資料(公的機関・公式資料)

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