交通事故のあと、「片方の耳が聞こえにくい」「耳鳴りが止まらない」「人の話が聞き取りづらくなった」と感じていませんか。頭部に強い衝撃を受けたあとの難聴は、外から見えにくく、ご自身でも事故によるものか判断がつきにくい症状です。
頭部外傷による難聴は、外傷性難聴と呼ばれます。側頭骨の骨折や耳の内部の損傷などが原因となることがあり、聴力検査の結果や画像所見、そして事故との関係性が、後遺障害の評価では重要になります。この記事では、外傷性難聴の基礎、側頭骨骨折と聴力低下の関係、聴力検査の一般的な流れ、後遺障害等級の考え方、両耳と片耳で異なる評価の視点、耳鳴りを伴う場合の注意点を、被害者やご家族向けに整理します。
結論から言えば、耳の症状が続く場合は、まず耳鼻咽喉科や脳神経外科などの医療機関で検査を受け、症状と検査結果を記録に残しておくことが出発点になります。そのうえで、示談や後遺障害申請の前に、資料が整っているか、損害項目に漏れがないかを確認しておくことが重要です。
耳の症状が続いていて、後遺障害の申請や示談を控えている方は、資料が整理された段階でご相談いただくと、今後の見通しや確認事項を整理しやすくなります。
Contents
結論|外傷性難聴で示談前・後遺障害申請前に確認したいこと
外傷性難聴は、症状の程度や原因、事故との関係によって、後遺障害としての評価が変わります。まずは、次の場面ごとに確認しておきたいことを整理します。
| 確認したい場面 | 主に確認しておきたいこと |
|---|---|
| 症状固定と言われる前 | 難聴・耳鳴り・めまいなどが続く場合に、耳鼻咽喉科や脳神経外科などで検査を受けているか |
| 後遺障害診断書の作成前 | 聴力検査の結果や画像所見が、診断書に反映されているか |
| 後遺障害申請の前 | 事故直後からの症状経過や、事故との関係を示す資料が整理されているか |
| 示談・署名の前 | 後遺障害の申請が必要か、賠償の項目に漏れがないか |
難聴や耳鳴りは、自覚症状だけでなく、医学的な検査結果と、事故との関係を示す資料が重要になります。症状が残っている場合は、早めに医療機関で相談し、記録を残しておくことをおすすめします。
外傷性難聴とは|伝音難聴・感音難聴・混合性難聴の違い
外傷性難聴とは、交通事故などの外傷のあとに生じる聴力の低下をいいます。単に「聞こえづらい」という自覚だけでなく、聴力検査で一定以上の聴力低下が確認されることが、後遺障害の評価では前提になります。
外傷性難聴が起こる主な原因
頭部や耳への外傷で難聴が生じる原因には、次のようなものが挙げられます。いずれも、実際にどの部位がどの程度損傷しているかは、医師による診断と検査で確認する必要があります。
- 側頭骨の骨折(耳の構造を含む骨の骨折)
- 鼓膜の損傷(鼓膜穿孔)
- 耳小骨(中耳の小さな骨)の損傷やずれ
- 内耳の損傷
- 強い音による損傷(音響外傷)
- 頭部外傷にともなう神経の障害
伝音難聴・感音難聴・混合性難聴の違い
難聴は、音が伝わる経路のどこに問題があるかによって、大きく次のように分けられます。どのタイプかによって、検査での見え方や回復の見通しが異なります。
- 伝音難聴:外耳や中耳(鼓膜・耳小骨など)の問題で、音が内耳に伝わりにくくなる難聴です。
- 感音難聴:内耳や聴神経、脳の問題で、音を感じ取る働きが低下する難聴です。音が歪んで聞こえる、言葉が聞き取りにくいといった訴えを伴うことがあります。
- 混合性難聴:伝音難聴と感音難聴の両方の要素をあわせもつ難聴です。
一般に、感音難聴は回復が難しいとされる一方、伝音難聴は原因によって治療で改善が期待できる場合があるとされています。ただし、回復の見通しは個別の状態によって異なり、医師の診断が必要です。
側頭骨骨折と聴力低下の関係
側頭骨は、耳の外耳・中耳・内耳や、聴覚・平衡感覚・顔面の動きに関わる神経が収まっている部位です。そのため、側頭骨が骨折すると、難聴だけでなく、耳鳴り、めまい、顔面神経の麻痺などが問題になることがあります。
側頭骨骨折で問題になりやすい症状
側頭骨骨折は、骨折線の走り方によって傾向が異なるとされ、中耳や鼓膜を巻き込みやすいタイプでは伝音難聴が、内耳や神経を巻き込みやすいタイプでは感音難聴やめまいが問題になりやすいと説明されています。どのタイプで、どの症状が生じているかは、画像所見や検査で医師が判断します。
難聴・耳鳴り・めまい・耳だれ・顔のゆがみ(顔面神経麻痺)などがある場合は、自己判断せず、耳鼻咽喉科や脳神経外科などの医療機関で確認してください。頭部外傷にともなう症状は、耳鼻咽喉科だけでなく脳神経外科の領域が関わることもあります。
まず医療機関での確認が出発点になる
後遺障害の評価では、診断書、診療録(カルテ)、聴力検査の結果、画像資料などが重要になります。症状があるのに検査や記録が残っていないと、事故との関係を示すことが難しくなる場合があります。事故のあとに耳の症状が出たときは、早めに受診し、症状を医師に伝えておくことが大切です。
聴力検査の一般的な流れ|純音聴力検査と語音聴力検査
聴力の程度は、自覚症状だけでなく、検査によって確認されます。後遺障害の評価では、次のような検査の結果が用いられるのが一般的です。
| 主な検査 | 主に分かること |
|---|---|
| 純音聴力検査(気導・骨導) | どの高さの音が、どのくらいの大きさから聞こえるか。伝音難聴か感音難聴かを見分ける手がかりにもなります。 |
| 語音聴力検査 | 言葉(語音)をどの程度正しく聞き分けられるか(語音明瞭度)。 |
| 画像検査(CTなど) | 側頭骨骨折や、耳小骨・内耳の損傷などの有無。 |
| その他の検査(ABRなど) | 自覚的な応答による検査を補う、他覚的な検査。必要に応じて行われます。 |
純音聴力検査は、一定の間隔をあけて複数回行い、その結果の一貫性や再現性が確認されることがあります。自覚症状と検査結果、診療録の内容が整合しているかも、評価では重要になります。
後遺障害等級の考え方|聴力障害はどう評価されるか
交通事故による後遺障害は、自賠責保険の制度では、自動車損害賠償保障法施行令の別表第一(介護を要するもの)または別表第二(それ以外のもの)に定められた等級に該当するかどうかで評価されます。等級の認定は、損害保険料率算出機構が、原則として労災保険の認定基準に準拠して行っています。
聴力障害については、両耳の場合と片耳(一耳)の場合で、それぞれ等級の区分が設けられています。認定は、純音聴力検査による平均純音聴力レベルと、語音聴力検査による語音明瞭度などの数値を、等級表の区分にあてはめて行われます。具体的な数値の基準や号数は公式資料で定められており、個別の当てはめは医療記録や検査結果をもとに判断されます。以下は、状態のイメージをつかむための目安です。
| 両耳の等級の目安 | 状態のイメージ |
|---|---|
| 4級 | 両耳の聴力を全く失った状態 |
| 6級 | 両耳とも、耳に接しなければ大きな声が聞き取れない状態 など |
| 7級 | 両耳とも、40センチメートル以上離れると普通の話し声が聞き取れない状態 など |
| 9級 | 両耳とも、1メートル以上離れると普通の話し声が聞き取れない状態 など |
| 10級 | 両耳とも、1メートル以上離れると普通の話し声を聞き取ることが困難な状態 |
| 11級 | 両耳とも、1メートル以上離れると小さな声が聞き取れない状態 |
| 片耳の等級の目安 | 状態のイメージ |
|---|---|
| 9級 | 片耳の聴力を全く失った状態 |
| 10級 | 片耳が、耳に接しなければ大きな声が聞き取れない状態 |
| 11級 | 片耳が、40センチメートル以上離れると普通の話し声が聞き取れない状態 |
| 14級 | 片耳が、1メートル以上離れると小さな声が聞き取れない状態 |
後遺障害等級が認定されると、後遺障害慰謝料や逸失利益(将来の収入への影響に対する賠償)が問題になり得ます。もっとも、その金額は、認定された等級、収入、年齢、労働能力への影響の程度、過失割合、保険の内容などによって変わります。個別事情により結論は異なるため、資料を確認したうえで判断する必要があります。
「この症状で申請できるのか」「提示された示談内容のままでよいのか」と迷う場合は、診断書や検査結果を確認したうえで、後遺障害申請の方針や損害項目を整理できます。
両耳と片耳で異なる評価の視点
聴力障害は、両耳が聞こえにくい場合と、片耳だけが聞こえにくい場合とで、等級上の見方が異なります。両耳の聴力障害は、両耳の状態として定められた区分にあてはめて評価され、片耳ごとに等級を定めて組み合わせる方法はとられていません。
片耳だけの難聴でも、後遺障害の対象となり得ます。片耳の聞こえにくさは、音のする方向が分かりにくい、騒がしい場所での会話が聞き取りにくいなど、生活や仕事に影響することがあります。評価にあたっては、反対側の耳の聴力、事故前の聴力の状態、既往症、検査結果などが重要になります。
耳鳴りを伴う場合の考え方
外傷のあとには、難聴とあわせて耳鳴りが続くことがあります。耳鳴りは、外から見えず、本人の自覚症状として扱われやすいため、診療録、検査結果、症状の一貫性、事故直後からの訴えの有無が重要になります。
耳鳴りは、後遺障害等級表に直接の定めがなく、難聴を伴う場合に、準用(相当)として12級相当・14級相当の対象になることがあります。耳鳴りの高さや大きさを調べる検査(ピッチ・マッチ検査やラウドネス・バランス検査など)による裏付けや、症状の一貫性が評価の手がかりとされます。ただし、難聴と耳鳴りがあれば当然に別々の等級や賠償が認められるわけではなく、個別事情により結論は異なります。
耳鳴りは、聴力検査だけでは評価が難しく、専用の検査が必要になることがあります。整形外科の受診にとどまっている場合、耳鳴りの検査が行われていないこともあるため、症状がある場合は医師に伝え、必要な検査について相談してください。
外傷性難聴でよく問題になるケース
事故直後に耳の症状を訴えていなかった場合
事故直後は他のけがに気を取られ、耳の症状に気づかない、あるいは訴えていないことがあります。この場合、後から症状が確認されても、事故との関係を疑われることがあります。時間が経つほど因果関係の説明が難しくなるため、症状に気づいた時点で早めに受診し、記録に残すことが重要です。
頭部外傷・側頭骨骨折がある場合
頭部外傷や側頭骨骨折がある場合、難聴・耳鳴り・めまい・顔面神経麻痺などが問題になることがあります。画像所見や検査結果が重要になりますが、医学的な診断や治療方針は医師の判断が必要です。
片耳だけ聞こえにくい場合
片耳だけの難聴でも、後遺障害の対象となり得ます。反対側の耳の聴力や事故前の状態、検査結果を確認したうえで判断する必要があります。
事故前から聴力低下があった場合
加齢や既往症、職業上の騒音などで、事故前から聴力が低下していた場合、事故によってどの程度悪化したのかが争点になり得ます。事故前の健康診断や聴力検査の結果が確認の手がかりになることがあります。
保険会社から症状固定・示談を促された場合
保険会社から症状固定や示談を促されても、耳の症状について必要な検査や後遺障害の申請が済んでいるとは限りません。署名の前に、検査や診断書が整っているか、後遺障害の申請が必要かを確認しておくことが重要です。
示談前・後遺障害申請前のチェックリスト
示談や後遺障害申請の前に、次の資料が整っているかを確認しておくと、方針を整理しやすくなります。どの資料が必要かは事案によって異なります。
- 交通事故証明書
- 診断書・後遺障害診断書
- 聴力検査の結果(純音聴力検査・語音聴力検査)
- 画像資料(CTなど)・診療録(カルテ)
- 事故前の健康診断や聴力検査の結果(ある場合)
- 補聴器が必要な場合の医師の意見・見積書・領収書
- 保険会社からの提示書・示談書・免責証書
- 休業損害に関する資料・収入資料
- 事故状況を示す資料(ドライブレコーダー、現場写真、警察資料など)
- 弁護士費用特約の有無
弁護士に相談するタイミング
弁護士への相談は、次のような場面で、判断材料や対応方針を整理するうえで役立ちます。相談は、結果を保証するものではありませんが、資料の整理、後遺障害申請の方針、示談前の確認、損害項目の漏れの確認などに活用できます。
- 事故後に難聴・耳鳴り・めまいが続いているとき
- 耳鼻咽喉科などの検査結果が出たとき
- 症状固定と言われたとき、後遺障害診断書を作成する前
- 後遺障害申請をする前
- 非該当や、想定より低い等級となったとき
- 保険会社から示談案が届いたとき、署名押印の前
神戸みらい法律会計事務所では、交通事故の被害に関するご相談をお受けしています。神戸市須磨区・名谷駅前に事務所があり、名谷・神戸周辺からもご相談いただけます。初回のご相談は無料でお受けしています。
示談の前に損害項目の漏れがないか、後遺障害申請が必要かを確認しておきたい方は、資料を確認したうえで見通しを検討できます。まずはお気軽にご相談ください。
よくあるご質問(FAQ)
交通事故後に耳が聞こえにくい場合、後遺障害になりますか。
後遺障害と評価される可能性はありますが、聴力検査の結果や事故との関係などによって結論は異なります。症状が続く場合は、医療機関で検査を受け、記録を残したうえで判断することが重要です。
側頭骨骨折があると、難聴の後遺障害が認められやすいですか。
側頭骨骨折は難聴の原因となり得ますが、骨折があれば当然に認定されるわけではありません。画像所見や聴力検査の結果、症状の程度などをもとに、個別に判断されます。
聴力検査はどのように確認されますか。
主に純音聴力検査と語音聴力検査の結果が用いられます。検査は複数回行われ、結果の一貫性や、診療録との整合性が確認されることがあります。
片耳だけの難聴でも後遺障害を申請できますか。
片耳だけの難聴でも、後遺障害の対象となり得ます。反対側の耳の聴力や事故前の状態、検査結果を確認したうえで判断する必要があります。
耳鳴りも後遺障害の対象になりますか。
耳鳴りは、難聴を伴う場合に、準用として後遺障害の対象になることがあります。専用の検査による裏付けや、症状の一貫性が重要になりますが、個別事情により結論は異なります。
事故前から難聴があった場合はどうなりますか。
事故前からの難聴がある場合は、事故によってどの程度悪化したのかが問題になり得ます。事故前の健康診断や聴力検査の結果が、確認の手がかりになることがあります。
保険会社から示談案が届いた後でも相談できますか。
示談案が届いた後でもご相談いただけます。署名の前に、後遺障害の申請が必要か、損害項目に漏れがないかを確認しておくことをおすすめします。
弁護士に相談するときは何を準備すればよいですか。
診断書・後遺障害診断書、聴力検査の結果、画像資料、保険会社からの提示書、収入資料、事故状況が分かる資料などがあると、状況を整理しやすくなります。手元にあるものからで構いません。
まとめ
- 外傷性難聴は、側頭骨骨折・鼓膜や耳小骨の損傷・内耳の損傷・音響外傷・神経の障害など、さまざまな原因で生じ得ます。
- 後遺障害の評価では、聴力検査の結果、画像所見、そして事故との関係が重要になります。
- 聴力障害は、両耳と片耳で評価の視点が異なり、耳鳴りは難聴を伴う場合に準用の対象になることがあります。
- 症状が続く場合は、耳鼻咽喉科や脳神経外科などで早めに検査を受け、記録を残しておくことが出発点になります。
- 示談や後遺障害申請の前に、資料が整っているか、損害項目に漏れがないかを確認しておくことが重要です。
監修・執筆
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所(神戸市須磨区・名谷駅前)
弁護士・公認会計士 藤井 貴之(兵庫県弁護士会所属)
交通事故を含む個人・法人の法律問題に対応しています。本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案の結論をお約束するものではありません。実際の症状・検査・後遺障害の評価については、医師による診断および個別のご相談のうえで判断する必要があります。
参考資料(公的機関・学会)

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