交通事故で腕や脚に傷あとが残ったり、骨折の手術で長い手術痕が残ったりすると、「顔ではない傷あとでも後遺障害になるのだろうか」「服で隠れる場所なら評価されないのではないか」と不安になる方は少なくありません。傷あとは時間の経過とともに薄くなることもありますが、症状固定の時点で残った状態は、後遺障害として問題になる可能性があります。
この記事では、顔以外の腕(上肢)・脚(下肢)に残った傷あと・手術痕について、後遺障害としての考え方、部位による評価の違い、手術痕や採皮痕・創外固定器の跡の扱い、そして示談前・申請前に確認しておきたい資料を整理します。結論の方向性としては、上肢・下肢の露出面に残った傷あとも後遺障害として検討できる可能性がありますが、部位、大きさ、形、色、診断書の記載、事故との因果関係などによって判断が変わります。個別事情により結論は異なりますので、まずはご自身の傷あとの状況を整理することが第一歩になります。
この記事でわかること
- 上肢・下肢の醜状障害の等級区分と、部位による評価の違い
- 手術痕・採皮痕・創外固定器の跡も対象になり得るのかという考え方
- 衣服で隠れる部位をどう考えるか
- 顔(外貌)の傷あととの評価枠組みの違い
- 後遺障害申請前・示談前に確認しておきたい資料
腕や脚の傷あと・手術痕について、後遺障害として検討できるかは、部位や大きさ、後遺障害診断書の記載などを確認して判断する必要があります。示談前・申請前に資料を整理しておきたい方は、まずご相談ください。資料を確認したうえで、見通しや進め方を一緒に検討できます。
Contents
結論と全体像|上肢・下肢の醜状障害の考え方
交通事故で残った傷あと(醜状)は、残った部位によって評価の枠組みや該当し得る等級が異なります。まず全体像を整理します。
部位による評価の違い
| 部位 | 該当し得る主な区分 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 外貌(頭部・顔面部・頚部) | 第7級12号/第9級16号/第12級14号 | 傷あとの大きさや線状痕の長さで区分。上肢・下肢より上位の等級が定められている。 |
| 上肢(腕・手)の露出面 | 第14級4号(第12級相当の可能性) | 露出面に手のひら大の醜いあと。手のひら大の約3倍以上で特に著しい場合は第12級相当の検討余地。 |
| 下肢(脚・足)の露出面 | 第14級5号(第12級相当の可能性) | 上肢と同様の考え方。 |
| 日常露出しない部位(腹部・背部・臀部など) | 原則として等級表になし(準用等級の検討余地) | 一定範囲以上に及ぶ場合などに準用等級が検討されることがある。 |
このように、顔(外貌)と腕・脚(上肢・下肢)では、そもそも定められている等級の枠組みが異なります。上肢・下肢の傷あとは、顔と同じ基準で判断されるわけではありません。
申請前・示談前に確認しておきたいこと(概要)
- 傷あとが体のどの部位(露出面かどうか)にあるか
- 傷あとの大きさ・形・色・凹凸、複数あるかどうか
- 手術痕・採皮痕・創外固定器の跡が後遺障害診断書に記載されているか
- 傷あと部分の写真、手術記録、診療録、画像資料がそろっているか
- 事故から症状固定までの治療経過と、事故との因果関係が説明できるか
上肢・下肢の醜状障害とは
醜状障害とは、交通事故による傷あとが人目につく部位に残り、症状固定後もその状態が残る後遺障害をいいます。医学的には次のような傷あとが問題になります。
瘢痕・線状痕・手術痕・採皮痕・創外固定器の跡
- 瘢痕(はんこん):擦過傷ややけどなどが治った後に残る傷あと。
- 線状痕(せんじょうこん):切創や、傷を縫合した際の手術痕(切開痕・縫合痕)のように、線状に残った傷あと。
- 手術痕:骨折の手術などで皮膚を切開・縫合したことにより残る傷あと。
- 採皮痕(さいひこん):皮膚移植のために、太ももなどから皮膚を採取した部分に残る傷あと。
- 創外固定器の跡:骨折の治療で創外固定器を用いた場合に残る、ピンの刺入部などの跡。
これらは、傷あとの種類や治療経過によって残り方が異なります。必ず傷あとが残るというものではなく、詳しい状況や治療経過は主治医にご確認ください。
医学的な傷あとと、法律上の後遺障害評価は同じではない
皮膚に傷あとが残っていることと、後遺障害として認定されることは同じではありません。後遺障害としては、傷あとが「人目につく程度以上のもの」であることや、部位・大きさが一定の基準に照らして判断されます。医師が治療上「問題ない」と考える傷あとでも、後遺障害の観点からは評価が分かれることがあります。逆に、後遺障害の基準を意識して後遺障害診断書を作成してもらわないと、評価の対象にならないこともあります。
上肢・下肢の等級区分
自賠責保険の後遺障害等級表では、上肢・下肢の露出面に残った傷あとについて、次のように定められています。
| 区分 | 内容 | 等級 |
|---|---|---|
| 上肢の露出面・手のひら大 | 上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの | 第14級4号 |
| 下肢の露出面・手のひら大 | 下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの | 第14級5号 |
| 手のひら大の約3倍以上・特に著しい醜状 | 上肢または下肢の露出面(特に著しいと判断される場合) | 第12級相当 |
手のひら大・約3倍以上で変わる区分
ここでいう「手のひらの大きさ(手のひら大)」は、指を含まない、被害者ご自身の手のひらの面積を基準に判断されるのが一般的です。傷あとがこの手のひら大に達しているか、複数の傷あとを合わせて評価できるかが、認定の分かれ目になります。複数の瘢痕や線状痕がある場合は、それらが相隣接するなどして1個の傷あとと同程度以上の醜状といえるときに、面積などを合算して評価される取扱いがあります。ただし、この合算には、少なくとも手のひら大に達する傷あとが1個以上残っていることなどが前提とされ、いずれも運用による判断が伴います。
露出面の範囲(自賠責と労災で異なる)
「露出面」とは、日常的に露出する部分を指しますが、その範囲は自賠責保険と労災保険で異なるとされています。この違いは、太ももから皮膚を採取した採皮痕などで結論に影響することがあります。
| 部位 | 自賠責保険での露出面 | 労災保険での露出面 |
|---|---|---|
| 上肢 | 上腕(肩関節以下)から指先まで(手の甲を含む) | 肘関節以下(手部を含む) |
| 下肢 | 大腿(股関節以下)から足の甲まで | 膝関節以下(足の甲を含む) |
自賠責保険のほうが露出面を広くとらえているため、たとえば太もも(大腿部)の傷あとや採皮痕は、自賠責では下肢の露出面に含まれ、検討の対象になり得ます。どの範囲に該当するかは、具体的な傷あとの位置を確認して判断する必要があります。
手術痕・創外固定器の跡・採皮痕も対象になり得るか
醜状障害は、交通事故で直接生じた傷あとだけでなく、事故によるケガの治療のために行った手術によって生じた傷あとも、対象になり得ると考えられています。骨折の手術痕、皮膚移植のための採皮痕、創外固定器のピン刺入部の跡なども、事故との因果関係が認められ、症状固定後も残っていれば、検討の対象になり得ます。
ただし、手術痕や創外固定器の跡があれば必ず後遺障害に認定される、というものではありません。部位、大きさ、形、色、凹凸、複数痕をどう評価するか、写真や後遺障害診断書にどのように記載されているかなどを確認したうえで判断されます。個別事情により結論は変わります。
事故との因果関係と症状固定後の残存
手術痕・採皮痕が問題になる場合、その傷あとが「交通事故によるケガの治療の過程で生じたもの」であることを説明できるかが重要になります。事故直後の診断書に外傷の記載があること、治療経過(どの手術でどこを切開・採皮したか)が診療録や手術記録から追えることが手がかりになります。傷あとは時間の経過とともに収縮・変化することがあるため、一定期間が経過して状態が落ち着いた段階での評価が一般的です。
後遺障害診断書への記載と確認資料
傷あとの後遺障害は、後遺障害診断書の醜状に関する欄に、傷あとを図示し、長さや大きさの実測値を記載してもらうことで、はじめて評価の対象になります。記載がないと、傷あとが残っていても評価の対象にならないことがあります。皮膚科・形成外科以外の医師には、こうした記載方法や書式になじみがない場合もあるため、確認が必要です。あわせて、次の資料を整理しておくと、状況の説明がしやすくなります。
- 傷あと部分の写真(部位・大きさがわかるもの)
- 手術記録・手術の同意書など
- 診療録(カルテ)、画像資料
- 事故直後からの治療経過がわかる診断書
衣服で隠れる部位はどう考えるか
「服で隠れる場所の傷あとは評価されないのか」という点は、多くの方が気にされます。上肢・下肢の醜状障害は、上で整理した「露出面」に該当するかどうかが一つの目安になります。もっとも、半袖やスカートなど日常生活上の露出のしやすさだけで機械的に決まるものではなく、等級表上の区分や認定の運用に照らして判断する必要があります。
「衣服で隠れるから必ず対象外」と断定することはできません。露出面に該当するか、日常露出しない部位として別の取扱いになるかは、傷あとの具体的な位置を確認したうえで判断する必要があります。自己判断で申請をあきらめる前に、資料を整理して確認することをおすすめします。
顔の傷あととの評価の違い
顔・頭・首といった外貌の傷あと(外貌醜状)は、上肢・下肢の醜状障害とは評価の枠組みが異なります。外貌では、傷あとの大きさや線状痕の「長さ」によって、上肢・下肢よりも上位の等級(第7級・第9級・第12級)が定められています。一方、上肢・下肢では露出面の傷あとが手のひら大に達しているかといった「面積」を軸に判断される点が異なります。
顔の傷あとについては、評価の考え方や等級区分がより細かく、本記事の範囲を超えます。外貌醜状の等級区分について詳しくは、別途「醜状障害の等級区分」を扱うコラムで整理していますので、そちらもあわせてご確認ください。
後遺障害申請で確認されやすい資料
上肢・下肢の醜状障害の申請では、書面審査に加えて、傷あとの状態を実際に確認するための面接(面談)が行われるのが特徴です。次の資料や記載がそろっているかを、申請前に確認しておくことが大切です。
- 後遺障害診断書(醜状に関する欄の記載)
- 傷あとの部位・大きさ・形・色・凹凸の記載
- 傷あと部分の写真
- 手術記録・診療録・画像資料
- 事故との因果関係を示す資料(事故直後の診断書など)
- 症状固定の時期
- 傷あとに伴う痛み・しびれ・突っ張り感などの症状の記載
なお、傷あたそのものだけでは、将来の収入減少(逸失利益)につながらないと評価されやすい傾向があります。傷あと部分に痛み・しびれ・つっぱり感などの症状がある場合は、その症状を医師に伝え、後遺障害診断書に記載してもらうことが重要になることがあります。
よく問題になるケース
実際のご相談では、次のような場面で判断に迷われることが多くあります。いずれも、資料を確認して個別に検討すべき問題です。
- 創外固定器のピン跡が複数残っている場合に、どのように評価されるか
- 腕や脚に長い手術痕が残った場合に、手のひら大に達するかどうか
- 傷あとが薄くなってきているが、まだ残っている場合の扱い
- 衣服で隠れやすい位置に傷あとがある場合の考え方
- 保険会社から「傷あとの後遺障害は難しい」と言われた場合の対応
- 顔の傷あとと腕・脚の傷あとの両方がある場合の整理
示談前・申請前チェックリスト
次のタイミングでは、署名や手続を進める前に、いったん確認することをおすすめします。
- 示談書に署名する前:傷あとの後遺障害が適切に評価されているか、提示内容を確認する。
- 後遺障害診断書を作成してもらう前:傷あとの図示・実測値・写真の添付、随伴症状の記載を依頼できているか。
- 保険会社に後遺障害申請を任せる前:提出資料に不足がないか、傷あとの記載が十分か。
- 非該当通知を受け取った後:資料の不足や記載内容を確認し、異議申立ての要否を検討する。
弁護士に相談するタイミング
弁護士に相談することで、傷あとが必ず後遺障害に認定される、というものではありません。もっとも、資料の整理、後遺障害申請の進め方、示談提示内容の確認、非該当となった場合の異議申立ての要否など、判断材料を整理しやすくなります。特に、後遺障害診断書の記載内容や、面接での確認事項は、事前に整理しておくことで対応の見通しを立てやすくなります。
また、ご自身が加入する自動車保険に弁護士費用特約が付いている場合、その利用を検討できることがあります。特約の適用条件や上限額は保険契約によって異なりますので、保険証券や契約内容をご確認ください。
腕や脚の傷あと・手術痕について、示談前・申請前に資料を整理しておきたい方は、ご相談ください。後遺障害診断書や写真などの資料を確認したうえで、後遺障害として検討できるか、次にどのような手続が考えられるかを一緒に整理できます。
よくある質問(FAQ)
腕の傷あとでも後遺障害になりますか。
上肢(腕・手)の露出面に手のひら大の傷あとが残った場合、後遺障害として検討できる可能性があります。ただし、部位、大きさ、形、診断書の記載などによって判断が変わります。個別事情により結論は異なります。
脚の手術痕は後遺障害の対象になりますか。
事故のケガの治療のために生じた手術痕も、事故との因果関係が認められ、症状固定後も残っていれば、検討の対象になり得ます。必ず認定されるものではなく、資料を確認したうえで判断する必要があります。
創外固定器のピン跡も醜状障害になりますか。
創外固定器のピンの跡も、部位や大きさ、複数痕の状況によっては検討の対象になり得ます。複数の跡をどのように評価するかは運用による判断を伴うため、写真や診断書の記載を確認して判断します。
服で隠れる場所の傷あとでも認定されますか。
衣服で隠れるから一律に対象外、というわけではありません。上肢・下肢の露出面に該当するかどうかなどを、傷あとの位置を確認したうえで判断する必要があります。自己判断であきらめる前に、一度確認することをおすすめします。
顔の傷あとと腕や脚の傷あとでは何が違いますか。
顔(外貌)は傷あとの大きさや線状痕の長さで区分され、上肢・下肢より上位の等級が定められています。腕・脚は露出面に手のひら大の傷あとがあるかなどで判断され、評価の枠組みが異なります。
後遺障害診断書には何を書いてもらう必要がありますか。
傷あとの部位・大きさ・形・色・凹凸を図示し、実測値を記載してもらうことが基本です。あわせて、傷あとに伴う痛みやしびれなどの症状があれば、その旨も記載してもらうことが重要になることがあります。写真の添付も有用です。
保険会社から示談案が届いた後でも相談できますか。
示談案が届いた後でも、署名前であれば、提示内容を確認したうえで検討することができます。傷あとの後遺障害が適切に評価されているか、資料を確認して見通しを整理できます。
非該当になった場合、異議申立てはできますか。
非該当となった場合でも、資料の不足や記載内容を確認したうえで、異議申立てを検討できることがあります。まずは、どの点が評価されなかったのかを確認することが出発点になります。
まとめ|次に確認すべきこと
- 顔ではない腕・脚の傷あと・手術痕も、上肢・下肢の露出面に残ったものは後遺障害として検討できる可能性がある。
- 上肢は第14級4号、下肢は第14級5号が基本で、手のひら大の約3倍以上で特に著しい場合は第12級相当の検討余地がある。
- 露出面の範囲は自賠責と労災で異なり、太ももの採皮痕などは自賠責では検討の対象になり得る。
- 手術痕・採皮痕・創外固定器の跡も、事故との因果関係と症状固定後の残存により検討の対象になり得るが、必ず認定されるものではない。
- 後遺障害診断書の醜状欄への図示・実測値・写真添付が、評価の前提として重要になる。
- 示談書に署名する前、後遺障害診断書の作成前、申請前、非該当通知後には、資料を整理して確認することをおすすめする。
まずは、ご自身の傷あとがどの部位にあるか、大きさ・形・色・凹凸はどうか、後遺障害診断書に記載されているかを確認し、写真・診療録・手術記録などの資料を整理してみてください。そのうえで、示談前に後遺障害申請の要否を検討し、必要に応じて弁護士にご相談ください。
神戸およびその周辺で交通事故に遭われ、腕や脚の傷あと・手術痕についてお悩みの方は、資料を整理したうえでご相談いただけます。後遺障害として検討できるか、示談前に何を確認すべきかを一緒に整理できます。
監修者・執筆者情報
神戸みらい法律会計事務所(弁護士法人ひょうご支所)
弁護士・公認会計士 藤井 貴之
所属:兵庫県弁護士会/日本公認会計士協会兵庫会
取扱分野:交通事故、相続、離婚、債務整理、刑事事件、企業法務ほか
参考資料
- 国土交通省「自動車総合安全情報」自動車損害賠償保障制度
- e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法施行令(別表第二 後遺障害等級表)」
- 損害保険料率算出機構(自賠責損害調査に関する情報)

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