会社を経営していた方が亡くなると、相続人や後継者は、自宅にある通帳や権利証だけでは相続の全体像をつかめません。会社の株主関係を示す資料、決算と税務の資料、会社と個人との間で動いたお金の資料まで確認しないと、何が相続財産で、何が会社の財産なのかを切り分けられないからです。
とくに企業オーナーの相続では、「会社名義の預金は遺産に入るのか」「帳簿の役員貸付金は誰の債務なのか」「株を何株持っていたのかを何で確認するのか」といった疑問が、資料を見る前の段階で止まってしまいがちです。逆に、必要な資料の当たりがついていれば、遺産分割の協議も、相続税の申告準備も、会社の運営の立て直しも同時に動かせます。
この記事では、企業オーナーの相続が発生した直後に集めたい資料を、30の資料項目に整理します。各項目について、その資料から何が分かるか、どこにあるか、いつ時点のものが必要か、見つからないときに何と照合するかを示します。なお、ここでいう「30点」は、30枚の紙という意味でも、すべての相続に共通する法定の添付書類という意味でもありません。関連する書類をひとまとまりにした「30の資料項目」を指します。
この記事で分かること
- 企業オーナーの相続で最初に集める資料30項目と、その入手先
- 会社の財産と被相続人個人の財産を分けて考える理由と、その照合方法
- 「役員貸付金」と「役員借入金」が、被相続人から見てどちら向きの権利義務になるか
- 株主名簿、株券、契約書などが見つからない場合に何を代わりに確認するか
- 資料がそろう前でも動かしたほうがよい手続と、その理由
相続財産の範囲や会社との債権債務は、資料を確認したうえで判断する必要があります。資料がすべてそろうまで待つ必要はありません。どの段階で相談できるか、事前に用意しておく資料は何かを、あらかじめ問い合わせて確認することが考えられます。
結論|企業オーナーの相続で最初に分けるべき四つの区別
資料集めに着手する前に、次の四つを分けて考えると、集めた資料の意味が整理しやすくなります。この四つを混ぜたまま作業すると、会社の財産を遺産として二重に数えたり、逆に相続財産となり得る権利を落としたりする原因になります。
| 区別する軸 | 考え方 | 確認に使う資料の例 |
|---|---|---|
| 会社と個人 | 会社は株主とは別の法人です。会社名義の預金、会社名義の不動産、会社の売掛金は、原則として会社の財産であり、株主個人の相続財産にそのまま含まれるものではありません。他方、被相続人が保有していた株式や、被相続人が会社に対して有する貸付金は、相続財産となり得ます。 | 登記事項証明書、株主名簿、計算書類、法人名義口座の履歴、契約書 |
| 株式と債権・債務 | 自社株は「会社に対する持分」であり、会社への貸付金は「会社に対する金銭債権」です。会社からの借入れは相続債務となる方向です。三つは評価も、分け方も、手続も異なります。 | 株主名簿、株式異動資料、金銭消費貸借契約書、双方の元帳、残高確認書 |
| 相続開始日と現在 | 遺産分割や相続税の対象は相続開始日を基準に考えます。他方、会社の運営や名義の状況を確認するには現在の資料も必要です。株主名簿も定款も、両時点で確認する場面があります。 | 相続開始日現在の試算表、相続開始時の定款、現在の登記事項証明書 |
| 保管場所と取得権限 | 資料がどこにあるかと、相続人がそれを取得・閲覧できるかは別問題です。相続人であることだけを理由に、会社のすべての資料を当然に見られるわけではありません。 | 会社法上の閲覧謄写請求の可否、役職の有無、持株数、定款の定め |
「調査に使う資料」と「提出する書類」を混ぜない
同じ書類でも、使う場面によって求められる形式が変わります。最初の段階では、正式な証明書をそろえることよりも、事実関係を把握できる資料を早く集めることを優先すると、その後の判断が進みやすくなります。
| 使い道 | 目的 | 形式の目安 |
|---|---|---|
| 調査に使う資料 | 相続財産・相続債務の範囲、会社との債権債務、期限を把握する | 写しや電子データでも足りることが多い |
| 評価に使う資料 | 自社株、不動産、貸付金の評価の前提となる数値を確認する | 年度と時点が特定できる資料。金額の根拠が追えることが必要 |
| 手続で提出する書類 | 相続税の申告、相続登記、金融機関の手続、名義書換に添付する | 提出先が指定する原本又は証明書。有効期限が定められる場合がある |
| 紛争時の証拠 | 相続人間、会社との間で主張が食い違う場面で事実を裏づける | 原本の保全、作成日や送受信記録が残る形での保存 |
資料集めの完了を待たないほうがよい場面があります。相続の承認又は放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行う必要があります(民法第915条第1項)。同条第2項は、承認又は放棄の前に相続財産の調査ができることを定めており、調査が終わらない見込みであれば、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てる方法があります。準確定申告は相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内、相続税の申告は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内が期限です。個別の期限計算は事案によって異なるため、早い段階で確認することをおすすめします。相続放棄を検討する場面の進め方は、相続放棄の期限と必要書類について解説した記事で整理しています。
資料30点の調査表
ここからが本記事の中心です。6つの分野に分け、通し番号1番から30番までの資料項目として整理します。各項目は一枚の書類ではなく、括弧内の関連書類を含む「資料群」です。会社を複数保有している場合は、会社の資料(11番から22番まで)を会社ごとに集めますが、項目番号は増やさずに、会社ごとの一覧として管理すると混乱しにくくなります。
優先度欄の「最優先」「早期」「該当時」は、初動でどれから手を付けるかの目安であり、法定の提出期限を示すものではありません。事案、会社の形態、保有資産、過去の取引、申告内容、金融機関、紛争の有無、手続の段階によって、追加の資料、最新版、原本又は証明書が必要になります。
分野1|相続人・遺言・相続開始の基礎資料(1番から5番まで)
| 番号 | 資料項目・具体例 | 分かること・照合先 | 主な保管者・取得先 | 優先度・不足時の対応 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 死亡日と死亡時の住所を示す資料(住民票の除票、戸籍の記載、死亡診断書の写し) | 相続開始日、各期限の起算点、相続税の申告先となる税務署、相続放棄の申述先の家庭裁判所 | 市区町村、自宅の保管書類、葬儀関係書類 | 最優先。死亡日は19番の試算表や13番の株主名簿の基準日にもなります |
| 2 | 相続人を確定する資料(被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍、相続人の戸籍、法定相続情報一覧図の写し) | 相続人の範囲、法定相続分、遺産分割協議の当事者、会社に対する権利行使の主体 | 市区町村、法務局(法定相続情報証明制度) | 最優先。一覧図の写しは無料で交付され、複数の手続で並行して使えます |
| 3 | 裁判所の手続に関する資料(相続放棄・限定承認の申述受理通知書、期間伸長の審判書、成年後見の登記事項証明書、特別代理人の選任審判書) | 相続人の確定への影響、協議の有効性、代理・同意の要否 | 家庭裁判所、法務局、相続人本人 | 該当時。他の相続人が放棄しているかは、必ず書面で確認します |
| 4 | 遺言と死因贈与に関する資料(公正証書遺言の正本・謄本、自筆証書遺言、遺言書情報証明書、検認調書、遺言執行者の就職承諾書、死因贈与契約書) | 自社株や事業用資産の帰属、遺言執行者の権限、遺産分割協議の要否 | 公証役場、法務局(遺言書保管所)、自宅の金庫、顧問税理士、取引金融機関の貸金庫 | 最優先。封印のある遺言書は家庭裁判所で相続人等の立会いのもとに開封します。自宅で開封しないでください |
| 5 | 既存の整理資料(生前に作成した財産債務目録、財産債務調書、過去の相続の遺産分割協議書、事業承継計画、特例承継計画の写し、生命保険の一覧、エンディングノート) | 財産の全体像の当たり、先代からの承継の経緯、既に検討済みの承継方針 | 自宅、会社、顧問税理士、金融機関、保険代理店 | 早期。過去の遺産分割協議書は、27番の先代名義不動産の確認に直結します |
分野2|被相続人個人の税務・贈与・金融資産(6番から10番まで)
| 番号 | 資料項目・具体例 | 分かること・照合先 | 主な保管者・取得先 | 優先度・不足時の対応 |
|---|---|---|---|---|
| 6 | 被相続人の過年度の所得税・消費税の確定申告書、青色申告決算書又は収支内訳書、住民税の課税明細 | 役員報酬、配当、不動産所得、事業所得の状況。申告されていた財産の手がかり。29番の賃貸不動産との照合 | 自宅、顧問税理士、税務署(保有個人情報の開示請求) | 早期。手元にない場合は、税理士への依頼のほか、開示請求という方法があります |
| 7 | 死亡年の所得を示す資料(源泉徴収票、役員報酬の支給明細、年金の支払通知、配当の支払調書、賃料の入金記録、事業の帳簿、生命保険料控除証明書、医療費の領収書) | 準確定申告の要否と内容、未収の役員報酬の有無、22番の未払給付との照合 | 会社の経理、年金事務所、金融機関、自宅 | 最優先。準確定申告の期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です |
| 8 | 生前贈与に関する資料(贈与税の申告書、贈与契約書、送金記録、贈与を受けた側の通帳、資金の原資と管理状況が分かる資料) | 相続税の課税価格への加算の要否、特別受益の検討材料、名義財産かどうかの判断材料 | 自宅、受贈者、顧問税理士、金融機関 | 早期。加算の対象期間は相続開始日によって異なるため、贈与の時期を特定できる資料を残します |
| 9 | 相続時精算課税と各種非課税措置に関する資料(相続時精算課税選択届出書、贈与税の申告書、教育資金・結婚子育て資金の一括贈与の契約書と残高証明、住宅取得等資金の非課税の適用資料) | 相続税の計算に取り込まれる金額、管理残額の有無 | 顧問税理士、金融機関、受贈者 | 該当時。届出の有無は本人の記憶に頼らず、書面で確認します |
| 10 | 個人名義の金融資産と名義財産の疑いがある資産の資料(残高証明書、取引履歴、証券口座の残高報告書、家族名義の口座の通帳と届出印、印鑑・カードの管理状況) | 相続開始日現在の残高、会社との資金移動、23番・24番の貸借の裏づけ、名義預金かどうかの判断材料 | 金融機関、証券会社、自宅 | 最優先。取引履歴は、会社と個人の資金移動を追える期間まで請求範囲を検討します |
分野3|会社・株主・自社株(11番から18番まで)
| 番号 | 資料項目・具体例 | 分かること・照合先 | 主な保管者・取得先 | 優先度・不足時の対応 |
|---|---|---|---|---|
| 11 | 関係するすべての会社の履歴事項全部証明書。必要に応じて閉鎖事項証明書 | 商号、本店、目的、発行可能株式総数、発行済株式総数、株式の譲渡制限の定め、役員構成と任期、支店、資本金の推移 | 法務局(誰でも取得可能)、オンライン請求 | 最優先。個々の株主の氏名は通常記載されません。株主の確認は13番以下で行います |
| 12 | 定款(原始定款、相続開始時の定款、現行定款、変更の経緯が分かる資料) | 株券発行会社かどうか、譲渡制限の内容、種類株式の内容、相続人等に対する売渡請求の定めの有無、機関設計 | 会社、公証役場(原始定款の謄本)、顧問税理士、司法書士 | 最優先。現行定款だけでは足りない場合があります。変更時期は17番の議事録と照合します |
| 13 | 株主名簿(相続開始日現在のものと現在のもの)。補助資料として登記申請に添付された株主リスト | 被相続人の保有株式数と種類、他の株主の構成、名義の状況。株主リストは議決権数と議決権割合の手がかり | 会社の本店(株主名簿管理人がある場合はその営業所)、法務局(申請書類の閲覧) | 最優先。株主リストは株主名簿とは記載内容が異なる別の書面です。代用はできません |
| 14 | 株券関係の資料(株券の現物、株券発行台帳、株券不所持の申出書、預り証、株券の写し) | 株券発行会社における株式の帰属と移転の経緯。株券番号は株主名簿の記載事項でもあります | 会社、自宅の金庫、貸金庫、取引先や金融機関の預り | 早期。株券が見つからないことだけで株式が存在しないとは判断できません。12番で株券発行会社かどうかを先に確認します |
| 15 | 株式の異動を示す資料(設立時の出資関係書類、増資の払込みの記録、株式譲渡契約書、贈与契約書、過去の相続関係書類、株式の分割・併合の資料、自己株式の取得の資料、名義書換の請求書) | いつ、誰から誰へ、何株動いたか。名義株の疑いの検討材料。20番の別表の株主欄との照合 | 会社、顧問税理士、株主本人、司法書士 | 早期。異動の連続性が切れている箇所は、資金の流れ(10番・21番)で補います |
| 16 | 株式に付随する契約と担保の資料(株主間契約、売買予約や買取条項のある契約、質権設定契約、信託契約、種類株式の内容を定めた書面、新株予約権に関する書面、事業承継に関する合意書) | 株式の処分や議決権行使に制約があるか。第三者に権利が及んでいないか | 会社、被相続人の保管書類、金融機関、顧問弁護士 | 該当時。見落とすと遺産分割の前提が崩れるため、早期に有無だけでも確認します |
| 17 | 株主総会・種類株主総会・取締役会の議事録、株主全員の同意書、招集通知(18番の売渡請求に固有の資料を除く) | 役員報酬、退職慰労金、定款変更、増資、会社と役員との取引の承認など、会社の意思決定の履歴 | 会社の本店、顧問税理士、司法書士 | 早期。取締役会議事録の閲覧謄写は、会社の機関設計によって裁判所の許可が必要になる場合があります |
| 18 | 相続人等に対する売渡請求に固有の資料(会社が相続その他の一般承継を知った日を示す資料、請求の通知書、売買価格の協議に関する書面、裁判所への申立て関係書類) | 会社から株式の売渡しを求められる可能性と、その手続の進行状況 | 会社、相続人本人が受領した通知、裁判所 | 該当時。定款の定めは12番、決議の議事録は17番で確認し、重複して数えません |
分野4|決算・税務・株価評価(19番から22番まで)
| 番号 | 資料項目・具体例 | 分かること・照合先 | 主な保管者・取得先 | 優先度・不足時の対応 |
|---|---|---|---|---|
| 19 | 計算書類と関連資料(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表、附属明細書、事業報告、相続開始日現在の試算表、仮決算の資料) | 会社の資産負債の状況、純資産、役員に対する債権債務の残高、株価評価の前提 | 会社の本店・支店、顧問税理士 | 最優先。相続開始日現在の数値は、直近決算だけでは分かりません。試算表の作成を早めに依頼します |
| 20 | 法人税・地方税の申告書一式、別表、勘定科目内訳明細書 | 申告上の所得、株主の記載、役員に対する貸付金・借入金の内訳、関係会社との取引、繰越欠損金 | 会社、顧問税理士 | 最優先。何期分を集めるかは、評価の目的、会社の変動、過去の組織再編によって異なります |
| 21 | 総勘定元帳、補助元帳(役員勘定、仮払金、立替金など)、法人名義の預貯金と証券口座の取引履歴 | 会社と被相続人との間の入出金の実態。23番・24番の残高が何によって動いたか | 会社の経理、会計ソフトの出力、顧問税理士、金融機関 | 早期。個人の通帳(10番)と突き合わせて、同日同額の資金移動を探します |
| 22 | 会社の資産と給付に関する資料(固定資産台帳、会社所有不動産の登記事項証明書、子会社・関連会社の株式、ゴルフ会員権、過去の株価評価資料、法人契約の生命保険の証券と解約返戻金の資料、役員退職慰労金規程、弔慰金規程、未払配当の資料) | 自社株評価に影響する会社側の資産負債。死亡退職金や弔慰金として相続人が受け取る可能性のある給付 | 会社、顧問税理士、保険会社、法務局 | 早期。会社所有不動産は会社の財産です。個人の遺産として重ねて計上しません |
分野5|会社との貸付金・借入金・保証(23番から25番まで)
| 番号 | 資料項目・具体例 | 分かること・照合先 | 主な保管者・取得先 | 優先度・不足時の対応 |
|---|---|---|---|---|
| 23 | 被相続人から会社への貸付けに関する資料(金銭消費貸借契約書、借用書、会社側の役員借入金勘定の元帳、個人側の出金記録、残高確認書、返済の記録、利息の支払記録、債務承認書、返済猶予や条件変更の合意書、担保設定の資料) | 被相続人が会社に対して有する貸金債権の存否と金額。相続財産となり得る権利 | 会社の経理、顧問税理士、自宅、金融機関 | 最優先。契約書がないことだけで債権がないとは判断できません。元帳と入出金記録で照合します |
| 24 | 会社から被相続人への貸付けに関する資料(金銭消費貸借契約書、会社側の役員貸付金勘定の元帳、個人側の入金記録、残高確認書、返済の記録、利息の計上資料、取締役会等の承認に関する議事録、担保設定の資料) | 被相続人が会社に対して負う債務の存否と金額。相続債務となり得るもの | 会社の経理、顧問税理士、自宅 | 最優先。会社との取引について会社法上の承認が問題となる場合は、17番の議事録と照合します |
| 25 | 保証・担保・回収可能性の資料(金融機関の借入契約書、保証契約書、連帯保証の記載、根抵当権や抵当権の設定資料、保証残高証明、返済予定表、催告書、経営者保証の解除に関する合意書、会社の資金繰り表) | 被相続人が負っていた保証債務の範囲。会社に対する貸付金の回収可能性の検討材料 | 金融機関、会社、自宅、法務局(登記の担保設定) | 最優先。保証は表に出にくいため、登記と会社の借入一覧の両方から探します |
分野6|不動産とその他の個人資産・債務(26番から30番まで)
| 番号 | 資料項目・具体例 | 分かること・照合先 | 主な保管者・取得先 | 優先度・不足時の対応 |
|---|---|---|---|---|
| 26 | 個人所有不動産の所在を把握する資料(所有不動産記録証明書、固定資産課税明細書・名寄帳、固定資産税の納税通知書、権利証又は登記識別情報通知) | 被相続人名義で登記されている不動産の一覧。所在地の市区町村をまたぐ物件の手がかり | 法務局、不動産の所在する市区町村、自宅 | 最優先。所有不動産記録証明書は抽出結果に限界があるため、名寄帳や納税通知書と併用します |
| 27 | 権利関係を確認する資料(現在の登記事項証明書、閉鎖登記簿、共有持分の記載、先代名義のままの物件の資料、未登記建物の家屋番号のない課税資料、公図、地積測量図) | 名義人、持分、担保権、先代からの未了の相続の有無 | 法務局、市区町村、自宅 | 最優先。先代名義のままの物件は、過去の遺産分割協議書(5番)と併せて確認します |
| 28 | 税務上の評価に関する資料(固定資産評価証明書、固定資産課税明細、路線価図、評価倍率表、過去の土地及び土地の上に存する権利の評価明細書、地積の実測資料) | 相続税の評価の前提となる数値。会社所有不動産がある場合は22番と併せて株価評価にも関係します | 市区町村、国税庁の財産評価基準書、顧問税理士 | 早期。評価の目的によって用いる基準が異なります。数値だけを他の目的に流用しません |
| 29 | 現況・利用・収益に関する資料(賃貸借契約書、賃料の入金記録、敷金・保証金の資料、サブリース契約、管理委託契約、境界確認書、越境の覚書、写真、取得時の売買契約書、建築請負契約書、リフォームの領収書、火災保険証券、住宅ローンの残高証明) | 収益不動産の実態、承継後の管理負担、譲渡所得の取得費の資料、会社が使用している個人名義不動産の条件 | 自宅、管理会社、賃借人、会社、金融機関、保険会社 | 早期。会社が個人名義の不動産を使っている場合は、賃料と会計処理を21番と照合します |
| 30 | その他の個人資産・債務の資料(個人契約の生命保険証券と支払通知、共済、暗号資産の取引所の残高、国外財産、貴金属・美術品、自動車、個人の借入契約書、クレジットカードの利用明細、未払いの税金や社会保険料の通知、葬式費用の領収書。なお、会社からの給付は22番、不動産の賃貸借関係は29番で扱います) | 相続財産と相続債務の残りの範囲。債務控除や葬式費用の検討材料 | 自宅、保険会社、取引所、金融機関、市区町村、葬儀社 | 早期。相続開始後の入出金は、通帳の記帳と併せて記録を残します |
分野別の内訳を確認してください。分野1が5項目、分野2が5項目、分野3が8項目、分野4が4項目、分野5が3項目、分野6が5項目で、合計30項目です。会社が複数ある場合でも、項目番号は増やさず、分野3と分野4の資料を会社ごとに集めて一覧化します。
資料の一部しかそろっていない段階でも、何が足りないのか、どの期限が先に来るのか、誰に何を請求すべきかを整理することはできます。手元にある資料の種類と、相続開始日、会社の数を伝えたうえで、相談の進め方を確認することが考えられます。
資料どうしをどう照合するか
資料は、集めただけでは判断材料になりません。企業オーナーの相続では、同じ事実について複数の資料が食い違うことが珍しくないため、どの資料で何を確認し、どこで突き合わせるかを決めておくと作業が進みます。
自社株は、資料ごとに分かることが違います
「被相続人が何株持っていたか」は、一つの資料だけでは確定できないことがあります。資料ごとに証明できる範囲が異なるためです。
| 資料 | 分かること | 分からないこと・注意点 |
|---|---|---|
| 履歴事項全部証明書(11番) | 発行済株式総数、株式の譲渡制限の定め、種類株式の内容、資本金の推移、役員の異動 | 個々の株主の氏名や持株数は通常記載されません |
| 定款(12番) | 株券発行会社かどうか、譲渡制限の内容、相続人等に対する売渡請求の定めの有無 | 現行定款だけでは、相続開始時点の定めが分かりません |
| 株主名簿(13番) | 株主の氏名・住所、保有株式数、取得日、株券発行会社では株券番号 | 更新が止まっていることがあります。記載と実質の帰属が一致するとは限りません |
| 株主リスト(13番の補助) | 登記申請時点の上位株主の議決権数と議決権割合 | 株主名簿とは記載内容が異なる別の書面で、株主名簿の代わりにはなりません |
| 株券・株券発行台帳(14番) | 株券発行会社における株券の存在と番号、交付の経緯 | 株券が見つからないことだけでは、株式の不存在を意味しません |
| 株式異動資料(15番) | いつ、誰から誰へ、何株、いくらで動いたか | 資料が欠けている期間は、資金の流れで補う必要があります |
| 法人税申告書の別表(20番) | 申告上把握されていた株主の記載 | 税務申告資料だけで株式の法的な帰属が確定するわけではありません |
相続によって株式を取得した相続人が、株主名簿の記載を求めるときは、株式取得者による名義書換の請求として整理されます(会社法第133条)。また、譲渡制限株式について、会社が相続その他の一般承継により株式を取得した者に対して売渡しを請求できる旨を定款で定めることができるとされており(会社法第174条)、その請求は会社が一般承継があったことを知った日から1年を経過したときはできないとされています(会社法第176条第1項ただし書)。定款の定めの有無と、会社が相続を知った時期は、早い段階で確認する必要があります。個別事情により結論は異なります。
役員貸付金と役員借入金は、どちらから見た科目かで意味が逆になります
ここは誤解が生じやすい部分です。会社の貸借対照表に載っている科目名は、あくまで会社側から見た呼び方です。被相続人の側から見ると、次のように逆向きになります。
| 会社の帳簿上の科目 | 会社側から見ると | 被相続人側から見ると | 主な確認資料 |
|---|---|---|---|
| 役員貸付金(資産) | 会社が役員に対して有する債権 | 会社に対して負う債務であり、相続債務となる方向です | 24番、21番、10番、17番 |
| 役員借入金(負債) | 会社が役員から借りている債務 | 会社に対して有する貸金債権であり、相続財産となる方向です | 23番、21番、10番 |
もっとも、勘定科目の名称だけで法的な関係が確定するわけではありません。契約の有無、実際の資金移動、返済や利息の実績、残高確認の経緯、決算整理の内容、議事録の記載を照合して判断する必要があります。逆に、契約書がないことだけを理由に債権債務が存在しないと決めることもできません。元帳に残高があるからといって、法的な残高がそのまま確定するわけでもありません。
また、被相続人が会社に対して有する貸付金債権を、預貯金と同じように当然に遺産分割の対象として扱ってよいとは限りません。共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権については、いずれも相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるとした最高裁判所平成28年12月19日大法廷決定があります。他方、会社に対する貸付金のような一般の金銭債権の扱いは、これと同じとは限らず、相続人全員の合意の有無や、協議・調停・審判・訴訟のいずれで解決するかによって整理が変わり得ます。相続債務についても、相続人間で負担割合を合意しただけで、債権者との関係まで当然に変わるわけではありません。
貸付金については、弁済期、最終の返済日、利息の支払、債務の承認、催告、訴訟提起など、消滅時効の完成猶予や更新に関わる事実を示す資料も集めておきます。時効期間は一律ではなく、債権が発生した時期、権利を行使できることを知った時期、当事者の属性などによって異なります。2020年4月1日より前に生じた債権については従前の規定が適用される場合があるため、発生時期の特定が重要です。
会社の財産か個人の財産かは、六つの軸で照合します
- 名義 登記名義、口座名義、契約名義がどちらか(ただし名義だけでは決まりません)
- 契約当事者 売買契約書、賃貸借契約書、保険契約の契約者と受取人が誰か
- 取得原資 購入代金や保険料が、会社の口座と個人の口座のどちらから出ているか
- 会計処理 会社の固定資産台帳に載っているか、費用として処理されているか
- 税務申告 法人税申告書と被相続人の所得税申告書のどちらに反映されているか
- 使用実態 誰が使い、賃料や使用料が支払われているか、その金額が妥当か
会社所有の財産は、自社株の評価を通じて相続に影響します。しかし、それは間接的な影響であり、会社名義の預金や不動産をそのまま被相続人の遺産として計上するものではありません。ここを重ねて計上すると、遺産分割の前提も相続税の計算も崩れます。
不動産は、名義の別に確認ルートを分けます
| 名義・状況 | 確認ルート | 注意点 |
|---|---|---|
| 被相続人の個人名義 | 26番で所在を洗い出し、27番で権利関係、28番で評価資料、29番で現況を確認 | 相続登記は、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請する義務があります |
| 会社名義 | 22番の固定資産台帳と登記事項証明書で確認 | 会社の財産です。個人の遺産に計上せず、自社株評価の前提として扱います |
| 共有 | 27番の登記事項証明書で持分を確認し、他の共有者を特定 | 共有者が親族の場合、過去の相続が未了である可能性があります |
| 先代名義のまま | 27番の閉鎖登記簿、5番の過去の遺産分割協議書、2番の戸籍で相続関係を遡る | 令和6年4月1日より前に相続を知った未登記の不動産には、令和9年3月31日までという期限の定めがあります |
| 未登記建物 | 26番の課税資料、29番の建築請負契約書や図面で存在と経緯を確認 | 登記がなくても課税されている場合があります。名寄帳で拾える可能性があります |
| 借地・借家 | 29番の賃貸借契約書、地代・家賃の支払記録で確認 | 借地権は財産として評価の対象になり得ます。契約の承継についても確認が必要です |
賃貸物件を相続した後の管理や確定申告まで見据えた検討は、賃貸アパートを相続した場合の確認点を解説した記事が参考になります。
三つの「価額」は一致しません
自社株や不動産では、次の三つが別の数字になることが通常です。遺産分割の話し合いで一つの数字だけを前提にすると、後になって認識のずれが表面化します。
- 遺産分割で用いる価額 相続人間で分け方を決めるための評価であり、当事者の合意や裁判所の判断によって定まります
- 相続税評価額 相続税の課税価格を計算するための評価であり、財産評価基本通達などの基準に沿って算定されます
- 売買価格・買取価格 第三者への譲渡や会社による買取りで現実に決まる価格であり、交渉や手続によって定まります
評価方法ごとの違いは、非上場株式の評価方法と買取価格の考え方を解説した記事で整理しています。相続税の納税資金の確保まで含めた検討は、自社株の相続・事業承継と納税資金の確保について解説した記事で扱っています。本記事は、その検討の前提となる資料をそろえる段階に絞っています。
資料が見つからない・会社が協力しない場合
企業オーナーの相続では、資料が完全にそろっていることのほうが少ないのが実情です。よくある行き詰まりと、次に確認する方向を整理します。
| 場面 | 次に確認する方向 |
|---|---|
| 株主名簿がない、又は古いまま | 登記申請に添付された株主リスト、法人税申告書の別表、株式異動資料、払込みの記録、配当の支払記録を組み合わせ、株式の移動を時系列で再構成します |
| 株券が見つからない | まず定款と登記で株券発行会社かどうかを確認します。株券不所持の申出や未発行の可能性、株券発行台帳や預り証の有無を確認します |
| 貸付金の契約書がない | 会社側の元帳、個人の通帳、振込の記録、決算書の推移、残高確認書、返済や利息の実績、決算時の説明資料を突き合わせます |
| 元帳と通帳が合わない | 差額の発生時期を特定し、決算整理仕訳、仮払金や立替金の振替、他の役員や関係会社との取引が混在していないかを確認します |
| 会社や他の相続人が資料を出さない | 誰にどの資料を求めるのかを特定したうえで、書面で請求します。会社法上の閲覧謄写請求ができる場合がありますが、資料ごとに要件が異なります |
| 相続人が役員でも株主でもない | 相続によって株式を取得した地位に基づいて何ができるかを整理します。名義書換の請求や、他の相続人との共同での対応を検討します |
| 対象資料 | 根拠 | 請求できる者・主な要件 |
|---|---|---|
| 株主名簿 | 会社法第125条 | 株主及び債権者。会社は同条第3項の拒絶事由に該当する場合を除き、請求を拒めないとされています |
| 計算書類・事業報告等 | 会社法第442条 | 株主及び債権者。本店では定時株主総会の日の一定期間前の日から5年間、支店では3年間の備置きが定められています |
| 取締役会議事録 | 会社法第371条 | 株主は原則として営業時間内にいつでも請求できますが、監査役設置会社等では裁判所の許可が必要とされています |
| 会計帳簿・資料 | 会社法第433条 | 総株主の議決権の100分の3以上、又は発行済株式(自己株式を除く。)の100分の3以上を有する株主。会社は同条第2項の拒絶事由を主張できます |
相続によって株式を取得した相続人が、株主としてどこまでの権利を行使できるかは、持株数や会社の機関設計によって異なります。非上場・同族会社の少数株主の権利について解説した記事もあわせてご確認ください。
相続人であることだけを理由に、会社のすべての書類、業務用のメール、クラウド会計、インターネットバンキング、共有ストレージ、業務用端末に自由にアクセスできるわけではありません。会社における役職の有無、株式の取得状況、共同相続の状態、社内の権限規程、個人情報や営業秘密の保護、会社法上の手続を確認する必要があります。無断でのログイン、封印された遺言書の開封、原本の持ち出し、データの削除や改変、パスワードの回避は行わないでください。事実関係の把握と手続の適法性の両方が問題になり得ます。
資料収集の安全な進め方
順序を決めておくと、後で資料の出所が分からなくなる事態を避けられます。
- 第一に、現状を変えずに保存します。原本、電子データ、保管場所の状態をそのまま維持します。会計データやメールも、削除や上書きをしないよう関係者に伝えます
- 第二に、所在と対象時点を特定します。どの資料が、誰の管理下に、どの会社の分として、いつ時点のものとして存在するかを一覧にします
- 第三に、写しを作り、記録を残します。写しや電子データを作成し、取得日、取得元、原本と写しの別、不足している理由を記録します。電子データは、作成日や送受信の記録が残る形で保存します
- 第四に、不足資料の取得を依頼します。取得する権限と守秘義務の範囲を確認したうえで、会社、顧問税理士、金融機関、法務局、市区町村へ依頼します
- 第五に、区分して整理します。個人の財産、会社の財産、債権、債務、税務上の評価、法的な評価を、別の欄に分けて記録します
- 第六に、安全な方法で共有します。弁護士や税理士へ資料を渡す際は、事務所から案内された方法に従います
一般の問い合わせフォームやメールに、決算書、税務申告書、株主名簿、口座情報、マイナンバーの記載がある書類、契約書などをいきなり添付することは避けてください。相談の申込みの段階では、会社名、相談者のお名前、関係する当事者、相談の概要、目前に迫っている期限といった必要最小限の情報をお伝えいただき、資料の送付方法は、利益相反の確認を経たうえで事務所の案内を受けてから決めるのが安全です。
手続前チェックリスト
署名や回答を求められた場面では、応じる前に確認できることがあります。
原本を動かす前・会社へ請求する前
- 原本の所在と管理者を記録したか
- 写しを作成し、取得日と取得元を記録したか
- 誰に、どの資料を、どの根拠で求めるのかを特定したか
- 請求は口頭ではなく書面で行い、控えを残したか
遺産分割協議書に署名する前
- 自社株の株数と種類、議決権の内容を資料で確認したか
- 会社に対する貸付金と、会社からの借入れの双方を確認したか
- 保証債務や担保の有無を確認したか
- 用いている価額が、遺産分割上の評価、相続税評価額、売買価格のいずれなのかを確認したか
- 後で判明した財産の取扱いについて定めがあるか
協議書の条項面の確認点は、遺産分割協議書に署名する前のチェックリストにまとめています。
税務申告を行う前・株式の名義を変更する前・不動産を処分する前
- 相続開始日現在の会社の数値(試算表)を取得したか
- 相続開始日が属する時期に対応する評価の様式と基準を確認したか
- 名義書換の請求先と手続、定款の定めを確認したか
- 売渡請求の定めの有無と、会社が相続を知った時期を確認したか
- 不動産の権利関係と担保、賃借人の存在を確認したか
資料の収集が終わっていなくても、期限が先に来る手続があります。相続の承認又は放棄の熟慮期間、準確定申告、相続税の申告、相続登記のほか、会社の事業継続、給与の支払、取引先や金融機関への対応には緊急性が生じることがあります。代表取締役が亡くなった直後の会社側の対応については、代表取締役が死亡した場合の後任選任と役員変更登記を解説した記事をご確認ください。全部そろうまで待つという判断が、かえって選択肢を狭める場合があります。
相談するタイミングと専門職の役割
次のような状況では、早い段階で確認しておくと、資料の不足、法的な関係、期限、手続の順序を整理しやすくなります。
- 相続人の間で、資料の開示や評価をめぐって意見が分かれている
- 会社の資料にアクセスできない、又は開示を断られている
- 自社株、複数の会社、会社との貸付金や借入金、経営者保証、会社と個人の間の不動産利用がある
- 相続放棄、申告、登記、会社の手続について、期限が迫っている可能性がある
- 遺産分割協議書、株式関係の書類、金融機関の書類への署名や回答を求められている
- 金融機関から、被相続人の保証債務について支払を求められている(連帯保証人として請求された場合の確認点もあわせてご確認ください)
- 他の相続人から遺留分侵害額の請求を受けている(遺留分侵害額請求を受けたときの回答前の確認点で扱っています)
| 専門職 | 主に確認する事項 |
|---|---|
| 弁護士 | 遺産分割、遺留分、相続債務と保証、会社法上の手続と権利行使、資料の開示、相続人間や会社との交渉・紛争対応 |
| 税理士 | 相続税の申告の要否と税額、申告書の作成、税務代理、準確定申告、非上場株式の相続税評価 |
| 司法書士 | 相続登記、会社の役員変更等の商業登記 |
| 不動産鑑定士 | 評価の目的に応じた不動産の鑑定評価 |
それぞれの業務範囲は重なる部分もあり、事案によって誰にどこまで依頼するかは変わります。最初の段階では、どの論点を誰に確認するかを整理しておくと、同じ資料を何度も集め直す手間を避けやすくなります。
よくあるご質問
30項目は、すべて必ず必要ですか。
いいえ。30項目は、企業オーナーの相続で確認の対象になりやすい資料を網羅的に並べたものです。会社の形態、保有資産、過去の取引、紛争の有無によって、不要な項目も、逆に追加で必要になる資料もあります。まずは分野1と分野2、そして分野3の11番から13番までを起点にすると進めやすいことが多いですが、個別事情により結論は異なります。
資料が全部そろわなくても相談できますか。
そろっていない段階でも、何が足りないか、どの期限が先に来るか、誰に何を求めるかを整理することはできます。むしろ、熟慮期間や申告期限が関係する場合は、資料の収集完了を待たないほうがよいことがあります。相談の時期と事前に用意する資料については、あらかじめ問い合わせて確認することをおすすめします。
会社名義の預金や不動産は、相続財産に含まれますか。
会社は株主とは別の法人ですので、会社名義の預金や不動産は、原則として会社の財産であり、株主個人の相続財産にそのまま含まれるものではありません。ただし、会社の財産の状況は自社株の評価に影響します。また、名義と実質が食い違う疑いがある場合は、契約当事者、取得原資、会計処理、税務申告、使用実態を照合して検討する必要があります。
役員借入金や役員貸付金は、相続にどう関係しますか。
会社の帳簿の「役員借入金」は、通常、会社が役員から借りている債務ですので、被相続人の側から見ると会社に対する貸金債権となり、相続財産となる方向です。「役員貸付金」は、通常、会社が役員に対して有する債権ですので、被相続人の側から見ると債務となり、相続債務となる方向です。ただし、科目名だけで法的な関係は確定しません。契約、資金移動、返済、利息、残高確認、議事録を照合して判断する必要があります。
決算書や法人税申告書は、何期分を用意すればよいですか。
一律に何期分と決まっているわけではありません。何を確認するのか(株価評価の前提か、役員との貸借の推移か、過去の組織再編の経緯か)、相続開始日はいつか、会社に大きな変動があったかによって必要な範囲が変わります。まず手元にあるものを提示し、不足があれば追加で取得するという進め方が現実的です。実務上の収集の目安と、申告や手続に正式に添付する書類とは別のものとして考えてください。
株主名簿や株券、貸付金の契約書が見つからない場合はどうすればよいですか。
代わりになる資料から事実関係を組み立てます。株式については、登記申請に添付された株主リスト、法人税申告書の別表、払込みや譲渡の記録を照合します。株券については、まず定款と登記で株券発行会社かどうかを確認します。貸付金については、会社側の元帳、個人の通帳、振込記録、残高確認書、返済や利息の実績を突き合わせます。書類がないことだけを理由に、権利がないと判断することはできません。
会社が資料を出してくれない場合は、どうすればよいですか。
まず、誰にどの資料を求めるのかを特定し、書面で請求して控えを残します。会社法には、株主名簿(第125条)、計算書類等(第442条)、取締役会議事録(第371条)、会計帳簿(第433条)などについて閲覧謄写を請求できる規定がありますが、請求できる資格、持株の要件、裁判所の許可の要否、会社が拒める場合は資料ごとに異なります。相続人であれば当然にすべてを見られるというものではないため、個別に確認する必要があります。
原本、写し、PDFのどれを用意すればよいですか。
最初の調査の段階では、写しや電子データでも検討を進められることが多いです。ただし、相続税の申告、相続登記、金融機関の手続などでは、提出先が指定する原本や証明書が必要になります。原本は動かさずに保管し、写しに取得日と取得元を記録しておくと、後で原本を求められた際に対応しやすくなります。紛争が見込まれる場合は、原本の保全をとくに意識してください。
まとめ
- 企業オーナーの相続では、会社と個人、株式と債権債務、相続開始日と現在、保管場所と取得権限の四つを分けて考えます
- この記事の「30点」は、30の資料項目という意味です。すべての相続に共通する法定の添付書類ではありません
- 会社名義の預金や不動産は、原則として会社の財産です。自社株の評価を通じて間接的に影響しますが、個人の遺産として重ねて計上しません
- 帳簿の「役員貸付金」は被相続人の債務、「役員借入金」は被相続人の債権となる方向ですが、科目名だけでは確定しません
- 遺産分割で用いる価額、相続税評価額、売買・買取価格は一致しません
- 資料がそろう前でも、熟慮期間、準確定申告、相続税の申告、相続登記といった期限は進みます
- 原本は動かさず、写しに取得日と取得元を記録し、無断でのアクセスやデータの改変は行わないでください
資料を確認することで、相続財産と相続債務の範囲、会社との債権債務の関係、先に来る期限、次に取るべき手続の順序を整理しやすくなります。自社株、会社への貸付金、経営者保証、会社と個人の間の不動産利用が絡む相続では、署名や回答を求められる前に一度確認しておくことが考えられます。
お問い合わせの際は、相続開始日、関係する会社の数、手元にある資料の種類、目前に迫っている期限をお伝えいただくと、確認の順序を整理しやすくなります。資料の送付方法は、利益相反の確認を経たうえでご案内します。
執筆・監修
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
代表弁護士・公認会計士 藤井貴之
兵庫県弁護士会所属/日本公認会計士協会兵庫会所属
遺産分割、遺留分、相続債務と保証、会社法上の手続を含む相続の法律問題を取り扱っています。
参考資料
- e-Gov法令検索「民法」
- e-Gov法令検索「会社法」
- 裁判所「相続の放棄の申述」
- 裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長」
- 最高裁判所平成28年12月19日大法廷決定(平成27年(許)第11号)
- 法務局「法定相続情報証明制度について」
- 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」
- 法務省「所有不動産記録証明制度について」
- 法務省「株主リストに関するよくあるご質問」
- 国税庁「相続税の申告と納税」
- 国税庁「納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」
- 国税庁「相続税の申告のしかた(令和8年分用)」
- 国税庁「相続財産から控除できる債務」
- 国税庁「贈与財産の加算と税額控除」
- 国税庁「取引相場のない株式の評価」
- 国税庁「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」
- 国税庁「財産評価基本通達 第8章 その他の財産(貸付金債権等の評価)」
- 中小企業庁「事業承継税制(法人版)」
- 神戸市「固定資産課税明細書(名寄せ帳)の交付申請」
本記事は、企業オーナーの相続における資料収集について一般的な情報を提供するものであり、個別の事案に対する法律上又は税務上の助言ではありません。記載内容は2026年9月2日時点で確認した法令、通達、公的機関の公表資料に基づいています。法令、通達、様式及び運用は改正されることがあり、また、会社の形態、保有資産、過去の取引、相続開始の時期、手続の段階により結論は異なります。実際のご判断にあたっては、資料をご確認のうえ、弁護士、税理士その他の専門職にご相談ください。

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