取引先や第三者に自社株を売る話がまとまり、会社に譲渡の承認を求めたところ、承認しないという回答が返ってきた。あるいは、会社から届いた通知の意味が分からないまま日数だけが過ぎている。非上場会社の株式をめぐる相談は、こうした場面から始まることが少なくありません。
会社が譲渡を承認しない場合、会社法は、会社又は会社が指定した買主が株式を買い取るという道筋を用意しています。ただし、それは自動的に始まるものではありません。最初の請求書に一定の記載があったかどうかで、その後の展開が変わります。そして、いったん手続が動き出すと、二週間、四十日、十日、一週間、二十日という短い期間が続けて進み、期間を過ぎると結論が法律上決まってしまいます。
この記事では、譲渡を望んで会社に不承認とされた株主の方に向けて、いま手元にある書類から自分がどの段階にいるかを判定し、誰が何をいつまでに行うのか、供託された金額は何を意味するのか、価格に納得できないときに何を検討するのかを順に整理します。個別の結論は、定款、請求書、通知書などの資料によって変わりますので、実際の判断は資料を確認したうえで行う必要があります。
この記事で分かること
- 手元にある書面から、いま手続のどの段階にいるかを判定する方法
- 会社に買取義務が生じる場合と、生じない場合の違い
- 株主・会社・指定買取人が、それぞれ何をいつまでに行うのか
- 供託された金額が何を意味し、最終的な売買価格とどう違うのか
- 価格に納得できないときに検討する手続と、その期限
まず、手元の書類の日付を確認してください
譲渡等承認請求書の控え、承認しない旨の通知、買取りの通知、供託を証する書面のいずれかが手元にある場合、その日付から法律上の期間がすでに進んでいる可能性があります。相談により、いまどの段階にいるのか、残っている期間はどれだけかを整理できます。
手元にある書類から、いまの段階を判定する
同じ「譲渡承認を拒否された」という相談でも、手続のどこにいるかによって、確認すべき資料も、動いている期間も違います。まず次の表で、自分の位置を確かめてください。
| 手元にある書類 | いま起きていること | すぐ確認すること | 進んでいる可能性のある期間 |
|---|---|---|---|
| まだ何も出していない | 会社法上の手続は始まっていない | 定款の譲渡制限の定め、承認機関、株券を発行しているか、譲受人が決まっているか | なし |
| 譲渡等承認請求書の控えだけがある | 会社が承認するか否かを決める段階 | 控えに「承認しない場合は買い取ることを請求する」旨の記載があるか、会社にいつ到達したか | 請求の日から二週間(会社法第145条第1号) |
| 承認しない旨の通知が届いた | 会社が買主を決める段階 | 元の請求に買取りを求める旨が含まれていたか、通知の日付と到達日 | 通知の日から四十日・十日(会社法第145条第2号) |
| 買取りの通知と供託を証する書面が届いた | 売買契約が成立し、価格を決める段階 | 買主は会社か指定買取人か、株式数、通知の日、株券の有無 | 通知の日から二十日(会社法第144条第2項)。株券発行会社では書面の交付から一週間 |
| 買取りの通知は届いたが、供託を証する書面がない | 買取りの要件が満たされていない可能性がある | 書面の交付の有無と、通知期間内に交付されたか | 通知の日から四十日・十日(会社法第145条第3号、会社法施行規則第26条) |
| 請求したのに、会社から何も届かない | 承認したものとみなされる場合に当たる可能性がある | 請求書の到達日を示す資料、定款の別段の定め、会社との合意の有無 | 請求の日から二週間 |
結論――買取りを求める旨があれば買取手続へ進み、通知後は二十日が要点
- 会社が譲渡を承認しなかったというだけでは、会社に買取義務は生じません。譲渡等承認請求のときに「承認しない旨の決定をする場合は、会社又は指定買取人が買い取ることを請求する」旨を明らかにしていたことが前提です(会社法第138条第1号ハ、第140条第1項)。
- 買主が会社になるか指定買取人になるかは、会社の側が決めます。請求する側が選ぶ仕組みではありません(会社法第140条第1項・第4項)。
- 会社又は指定買取人は、買取りの通知をする前に、法令の方法で算定した金額を供託し、供託を証する書面を交付する必要があります(会社法第141条第2項、第142条第2項)。この供託額は、最終的な売買価格そのものではありません。
- 売買価格は、まず当事者の協議で決めます。協議が調わないときは、買取りの通知があった日から二十日以内に、裁判所に売買価格の決定を申し立てることができます(会社法第144条第1項・第2項・第7項)。
- その二十日以内に協議も調わず、申立てもなかったときは、法令の方法で算定した一株当たり純資産額に株式数を乗じた額が売買価格になります(会社法第144条第5項)。協議を続けていれば期間が止まる、という規定はありません。
前提の確認――「非上場株式」と「譲渡制限株式」は同じ意味ではない
会社法の手続が使えるのは、定款に承認の定めがある株式
株主は、原則としてその有する株式を譲渡することができます(会社法第127条)。会社は定款で、譲渡による株式の取得について会社の承認を要すると定めることができ(同法第107条第1項第1号)、この定めがある株式を譲渡制限株式といいます(同法第2条第17号)。
この記事で扱う手続は、対象となる株式が譲渡制限株式であることを前提としています。上場していない会社の株式であっても、定款にこの定めがなければ、承認を求める手続そのものが問題になりません。まず定款を取り寄せ、譲渡制限の定めの有無、承認する機関に関する別段の定め、承認したものとみなす旨の定めがないかを確認することが出発点になります。
会社法の「公開会社」は、上場会社という意味ではありません。会社法上の公開会社とは、発行する株式の全部又は一部について、譲渡による取得に会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない会社をいいます(会社法第2条第5号)。上場していない会社でも、一部の株式に譲渡制限を設けていなければ公開会社に当たります。逆に、種類株式の一部にだけ譲渡制限を設けている会社では、その譲渡制限株式についてこの記事の手続が問題になります。
「会社に買ってほしい」という申入れとは別の制度です
譲渡先が決まっていない状態で会社に買取りを求める話し合いと、会社法の譲渡等承認請求とは、別のものです。前者は、会社が自己株式を取得するかどうかの協議であり、会社に買取義務を負わせる制度ではありません(会社法第155条第2号は、買取りを求める請求があった場合を自己株式の取得ができる場合の一つとして掲げています)。
| 場面 | 問題となる主な制度 | この記事での扱い |
|---|---|---|
| 譲受人が決まっているのに、会社が譲渡を承認しない | 譲渡等承認請求と、会社又は指定買取人による買取り(会社法第136条から第145条まで) | 中心として扱う |
| 譲受人はいないが、会社に買い取ってほしい | 自己株式の取得に関する協議(会社法第155条以下) | 違いのみ説明する |
| 相続などで株式を取得した、又は会社から売渡しを求められた | 一般承継による取得(会社法第134条第4号)、定款に基づく相続人等に対する売渡しの請求(同法第174条) | 扱わない |
| 合併や定款変更などに反対している | 反対株主の株式買取請求(会社法第116条等)。裁判所が定めるのは「公正な価格」であり、制度が異なる | 扱わない |
| 特別支配株主から株式を売り渡すよう請求された、全部取得条項付種類株式とされた | 株式等売渡請求、全部取得条項付種類株式の取得 | 扱わない |
譲渡等承認請求――誰が請求し、何を書くか
これから譲り渡す株主と、すでに取得した者
請求できる立場は二つあります。
- これから譲り渡そうとする株主は、会社に対し、特定の相手が譲渡制限株式を取得することについて承認するか否かの決定を請求できます(会社法第136条)。条文は譲り渡す相手から発行会社自身を除いているため、会社を譲受人としてこの請求をすることはできません。
- すでに譲渡制限株式を取得した者は、取得したことについて承認するか否かの決定を請求できます(会社法第137条第1項)。この請求は、原則として株主名簿上の株主又はその一般承継人と共同してしなければなりません(同条第2項)。単独で請求できるのは、会社法施行規則第24条が定める場合に限られ、同条は、請求を命ずる確定判決の内容を証する書面を提供して請求したとき、競売により取得したことを証する書面を提供して請求したときなどを列挙しています。
請求書の記載事項――「買い取ることを請求する」旨の意味
譲渡等承認請求では、次の事項を明らかにしなければなりません(会社法第138条)。株主からの請求でも、取得者からの請求でも、構成は同じです。
- 譲り渡そうとする、又は取得した譲渡制限株式の数(種類株式発行会社では、種類及び種類ごとの数)
- 譲り受ける者、又は株式取得者の氏名又は名称
- 会社が承認しない旨の決定をする場合において、会社又は指定買取人が買い取ることを請求するときは、その旨
三つ目の記載が、その後の手続を左右します。会社法第140条第1項の買取義務は、第138条第1号ハ又は第2号ハの請求を受けたことを前提にしています。この記載がないまま不承認となった場合、買取りの手続には進みません。なお、この記載をしても、会社が買うか指定買取人が買うかを請求する側で指定することはできません。すでに請求書を提出している方は、まず控えを確認してください。
請求日と到達日を示す資料を残す理由
会社法は、承認しない旨の通知の期間を「請求の日から二週間」と定めています(会社法第145条第1号)。意思表示は相手方に到達した時から効力を生じますから(民法第97条第1項)、いつ会社に届いたのかを説明できる資料がないと、期間の管理も、承認したものとみなされるという主張も難しくなります。法律が特定の送付方法を要求しているわけではありませんが、配達の記録が残る方法を選び、封筒、送付記録、受領印、電子メールの送受信記録を保存しておくことには実務上の意味があります。
不承認のあとに何が起きるか――株主・会社・指定買取人の時系列
不承認の通知が届いた後は、三者がそれぞれ別の行為を行います。誰が動く番なのかを取り違えると、期限の管理を誤ります。
| 段階 | 譲渡等承認請求者(株主・株式取得者) | 会社 | 指定買取人 |
|---|---|---|---|
| 請求 | 譲渡等承認請求書を提出する。買取りを求める旨を含めるかを判断する(会社法第138条) | 受領する | まだ登場しない |
| 承認するか否かの決定 | 通知を待つ | 株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議で決定し、内容を通知する。定款に別段の定めがあればその定めによる(会社法第139条) | まだ登場しない |
| 買主の決定 | 関与しない | 自ら買い取る旨と株式数を株主総会の特別決議で定める(会社法第140条第1項・第2項、第309条第2項第1号)。請求者は議決権を行使できない(同法第140条第3項) | 会社の決議により、対象株式の全部又は一部について指定を受ける(会社法第140条第4項・第5項) |
| 供託と買取りの通知 | 供託を証する書面と通知を受け取る | 法令の方法で算定した金額を本店所在地の供託所に供託し、供託を証する書面を交付したうえで、買取りの通知をする(会社法第141条第1項・第2項) | 同じ方法で供託し、供託を証する書面を交付したうえで、指定を受けた旨と買い取る株式数を通知する(会社法第142条第1項・第2項) |
| 株券の供託(株券発行会社の場合) | 書面の交付を受けた日から一週間以内に株券を供託し、遅滞なくその旨を通知する(会社法第141条第3項、第142条第3項) | 期間内に供託がなければ売買契約を解除できる(会社法第141条第4項) | 同じく解除できる(会社法第142条第4項) |
| 価格の協議 | 買主と協議する(会社法第144条第1項・第7項) | 自ら買い取る分について協議する | 自ら買い取る分について協議する |
| 価格決定の申立て | 買取りの通知があった日から二十日以内に申立てができる(会社法第144条第2項・第7項) | 同じ期間内に申立てができる | 同じ期間内に申立てができる |
| 価格の確定と精算 | 確定した価格で代金を受け取る | 供託した金銭に相当する額を限度として、代金を支払ったものとみなされる(会社法第144条第6項) | 同じ扱いを受ける(会社法第144条第7項) |
会社が自ら買い取る場合
会社は、買取りを求める請求を受けた場合において承認しない旨の決定をしたときは、対象となる譲渡制限株式(対象株式)を買い取らなければならず、買い取る旨と買い取る株式数を定めなければなりません(会社法第140条第1項)。この決定は株主総会の決議によることとされ(同条第2項)、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の三分の二以上に当たる多数で行う必要があります(同法第309条第2項第1号)。この総会では、請求をした本人は議決権を行使できません(同法第140条第3項。その者以外の株主の全部が議決権を行使できない場合を除く)。
また、会社自身が買い取ることは自己株式の取得に当たるため、株主に交付する金銭等の帳簿価額の総額は、効力を生ずる日における分配可能額を超えてはなりません(会社法第461条第1項第1号)。会社側の事情でこの手続が進まない場合、その背景に決議や財源の問題があることもあります。
指定買取人が買い取る場合
会社は、自ら買い取る代わりに、対象株式の全部又は一部を買い取る者を指定することができます。これが指定買取人です(会社法第140条第4項)。指定は株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議によりますが、定款に別段の定めがあればその定めによります(同条第5項)。指定買取人を株主総会で指定する場合、その決議は特別決議によることとされています(同法第309条第2項第1号)。
対象株式の一部を指定買取人が買い取り、残りを会社が買い取るという組み方もできます。この場合、買主ごとに株式数、通知の日、供託の額が分かれ、価格の協議も、二十日の申立期間も、買主ごとに別々に進みます。届いた通知が誰からのもので、何株についてのものかを確認する必要があります。
会社が動かない場合――承認したものとみなされる
会社法は、会社が必要な通知等をしないまま期間が過ぎた場合について、承認する旨の決定をしたものとみなす仕組みを置いています(会社法第145条)。承認したものとみなされれば、譲渡等承認請求どおりの譲渡について会社の承認があったことになります。
| 主体 | 必要な行為 | 起算点 | 原則の期間 | 必要な書面・交付物 | 期間を過ぎた場合 | 例外・確認事項 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 会社 | 承認するか否かの決定の内容を通知する | 譲渡等承認請求の日 | 二週間 | 決定の内容の通知(会社法第139条第2項) | 承認する旨の決定をしたものとみなされる(会社法第145条第1号) | 定款でこれを下回る期間を定めることができる。会社と請求者の合意による別段の定めがあるときは適用されない |
| 会社 | 買取りの通知をする | 承認しない旨の通知(会社法第139条第2項の通知)の日 | 四十日 | 買い取る旨と株式数の通知(会社法第141条第1項) | 指定買取人が十日以内に通知していなければ、承認する旨の決定をしたものとみなされる(会社法第145条第2号) | 定款でこれを下回る期間を定めることができる |
| 指定買取人 | 買取りの通知をする | 承認しない旨の通知の日 | 十日 | 指定を受けた旨と株式数の通知(会社法第142条第1項) | 会社が四十日以内に通知していなければ、承認する旨の決定をしたものとみなされる(会社法第145条第2号) | 起算点は指定を受けた日ではない。定款でこれを下回る期間を定めることができる |
| 会社・指定買取人 | 供託を証する書面を交付する | 承認しない旨の通知の日 | 上記の四十日又は十日と同じ期間内 | 供託を証する書面(会社法第141条第2項、第142条第2項) | 承認する旨の決定をしたものとみなされる(会社法第145条第3号、会社法施行規則第26条第1号・第2号) | 通知だけでは足りない。定款による短縮の定めがあれば、その期間による |
| 譲渡等承認請求者 | 株券を供託し、その旨を通知する(株券発行会社の場合) | 供託を証する書面の交付を受けた日 | 一週間 | 対象株式に係る株券の供託と、供託した旨の通知 | 会社又は指定買取人が売買契約を解除することができる(会社法第141条第4項、第142条第4項) | 株券を発行していない会社では、この供託は問題にならない |
| 譲渡等承認請求者 | 譲渡等承認請求を撤回する | 買取りの通知を受けた後 | 期間の定めはない | 会社又は指定買取人の承諾 | 承諾が得られなければ撤回できない(会社法第143条) | 買取りの通知を受ける前の扱いは条文に定めがなく、個別の検討が必要 |
| 会社・指定買取人・譲渡等承認請求者 | 売買価格の決定を申し立てる | 買取りの通知があった日 | 二十日 | 会社非訟事件としての申立書 | その期間内に協議も調っていなければ、一株当たり純資産額に株式数を乗じた額が売買価格になる(会社法第144条第5項) | 定款による短縮・延長の定めはない。協議中でも進行が止まる規定はない |
起算点と日数の数え方。四十日と十日は、いずれも会社が承認しない旨を通知した日を基準とします。指定買取人が指定を受けた日ではありません。二十日は買取りの通知があった日を基準とし、不承認の通知の日でも、供託の日でも、協議が行き詰まった日でもありません。いずれも暦の上の日数であり、営業日ではありません。期間の計算では初日を算入しないのが原則で(民法第140条)、末日が休日に当たる場合の扱いには別の規定があります(同法第142条)。具体的な起算日と満了日は、通知の到達状況や定款の定めによって変わりますので、日付を確定する際は書面と送付記録を確認してください。なお、これらは法律が定めた手続上の期間であり、権利が時効で消滅する場面とは別の問題です。
通知や供託関係の書面が届いたときに確認できること
買取りの通知を受け取った時点で、株券の供託の要否と、二十日の申立期間の管理が同時に始まります。定款、請求書の控え、通知書、供託を証する書面を確認することで、いつまでに何を判断する必要があるのかを整理できます。
供託――誰が、何を、いつ、何のために
この手続には二種類の供託が登場します。供託とは、金銭や有価証券などを供託所に提出して管理を委ねる制度で、供託所の事務は法務局・地方法務局が取り扱っています。買主側が行う金銭の供託と、株主側が行う株券の供託は、目的も効果も別のものです。
| 供託する人 | 供託するもの | 時期 | 目的 | 最終的な売買価格との関係 |
|---|---|---|---|---|
| 会社(自ら買い取る場合) | 法令の方法で算定した一株当たり純資産額に、買い取る株式数を乗じた金銭 | 買取りの通知をしようとするとき。本店所在地の供託所へ(会社法第141条第2項) | 買取りの通知の要件を満たし、代金の支払を確保するため | 供託額がそのまま売買価格になるわけではない。価格が確定したときに、供託した金銭に相当する額を限度として支払ったものとみなされる(会社法第144条第6項) |
| 指定買取人 | 同じ方法で算定した金銭(買い取る株式数に応じた額) | 買取りの通知をしようとするとき。会社の本店所在地の供託所へ(会社法第142条第2項) | 同上 | 同上(会社法第144条第7項) |
| 譲渡等承認請求者(株券発行会社の場合) | 対象株式に係る株券 | 供託を証する書面の交付を受けた日から一週間以内(会社法第141条第3項、第142条第3項) | 対象となる株券の所在を確保するため | 価格を左右するものではない。供託しないと売買契約を解除されることがある |
供託額はどのように算定されるか
会社又は指定買取人が供託する金額は、「一株当たり純資産額」に買い取る株式数を乗じた額です。この一株当たり純資産額は、会社法施行規則第25条が定める方法により算定されます。具体的には、算定基準日における資本金の額、資本準備金の額、利益準備金の額、剰余金の額、評価・換算差額等に係る額、株式引受権及び新株予約権の帳簿価額を合計し、そこから自己株式及び自己新株予約権の帳簿価額を差し引いた額を基礎として、発行済株式(自己株式を除く。)の総数などで除して算出します。算定の基準となる日は、会社の場合も指定買取人の場合も、買取りの通知の日とされています。
供託額は、会社の価値を評価した金額ではありません。この計算は帳簿上の数値を基礎とするもので、不動産や有価証券の含み損益、事業の収益力、将来の見通しを織り込む仕組みにはなっていません。したがって、供託された金額が低いことをもって株式の価値が低いと決まるわけではなく、逆に供託額を上回る価格が当然に認められるわけでもありません。単純に「純資産を発行済株式総数で割った金額」という説明とも一致しませんので、算定の内訳を確認する必要があります。評価方法の考え方については、非上場株式の評価方法と買取価格の記事もあわせてご確認ください。
株券を発行しているかどうかで扱いが変わる
株券の供託が問題になるのは、対象株式が株券発行会社の株式である場合に限られます。株券を発行していない会社では、この供託は行いようがありません。会社が株券発行会社かどうかは、登記事項証明書で確認できます。株券発行会社であるのに株券が手元にない、所在が分からないという場合は、期間内の対応が難しくなりますので、早い段階での確認が必要です。
売買価格の決まり方――協議と、二十日以内の申立て
まずは当事者の協議
買取りの通知があった場合、対象株式の売買価格は、まず会社又は指定買取人と請求者との協議によって定めます(会社法第144条第1項・第7項)。協議の過程で示された金額、その算定の根拠、やり取りの経緯は、後に申立てをする場合の資料にもなりますので、書面や電子メールの形で残しておくことが有用です。
買取りの通知の日から二十日以内の申立て
会社又は指定買取人と請求者は、買取りの通知があった日から二十日以内に、裁判所に対し売買価格の決定を申し立てることができます(会社法第144条第2項・第7項)。申立権は双方にあり、株主の側だけの権利ではありません。
期間内に申立てがあったときは、裁判所が定めた額が売買価格になります(同条第4項)。これに対し、期間内に協議も調わず、申立てもなかったときは、供託額の計算に用いたのと同じ一株当たり純資産額に株式数を乗じた額が売買価格になります(同条第5項)。帳簿上の数値を基礎とする金額が、そのまま結論になるということです。協議を続けていることを理由にこの期間が停止したり延長されたりする規定は置かれていません。
裁判所は何を考慮するか
裁判所が売買価格を定めるときは、譲渡等承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならないとされています(会社法第144条第3項)。考慮する時点は譲渡等承認請求の時であり、供託額の算定基準日である買取りの通知の日とは異なります。どの評価方法を用いるか、どのように組み合わせるかを法律が定めているわけではなく、会社の実態と提出された資料によって判断されます。
非上場株式の評価では、市場性がないことを理由とする減価を行うかどうかが争点になることがあります。最高裁判所第三小法廷令和5年5月24日決定(令和4年(許)第8号)は、この手続で裁判所が売買価格を定める場合について、評価額の算定過程で株式に市場性がないことが考慮されていることがうかがわれないなどの事情の下では、DCF法によって算定された評価額から非流動性ディスカウントを行うことができると判断しました。もっとも、これは示された事情の下での判断であり、非上場株式であれば常に一定の割合が減額されるという趣旨ではありません。減価の可否と程度は、採用された評価方法とその算定過程によって変わります。
申立先と手続の性質
売買価格の決定の申立ては、通常の民事訴訟ではなく、会社非訟事件として扱われます。管轄は、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所です(会社法第868条第1項)。原告と被告が対立する訴訟とは手続の枠組みが異なり、裁判所は審問の期日を開いて、申立人と、申立てをすることができる他方の当事者の陳述を聴かなければならないとされています(同法第870条第2項第3号)。申立てがあったときは相手方に申立書の写しが送付され、審理を終結する日が定められます(同法第870条の2)。裁判には理由を付さなければなりません(同法第871条)。
決定に不服がある場合、申立人及び申立てをすることができる者は即時抗告をすることができ(会社法第872条第5号)、この即時抗告は執行停止の効力を有します(同法第873条)。即時抗告は、裁判の告知を受けた日から二週間の不変期間内にしなければなりません(非訟事件手続法第67条)。申立書の記載事項や添付書類は会社非訟事件等手続規則に定めがあり、申立てに必要な費用や部数、様式の運用は裁判所により異なりますので、申立先の裁判所の案内で確認してください。
よく問題になる場面
| 場面 | 確認する資料 | 次の行動 |
|---|---|---|
| 承認しない旨の通知だけが届いた | 提出した譲渡等承認請求書の控え、通知書、定款 | 請求に買取りを求める旨が含まれていたかを確認する。含まれていれば、通知の日から四十日・十日の期間を管理する |
| 買取りの通知と供託を証する書面が届いた | 通知書、供託を証する書面、登記事項証明書、株券 | 買主と株式数を確認し、株券発行会社であれば一週間以内の株券供託を検討する。あわせて二十日の申立期間を記録する |
| 請求したのに会社から何も届かない | 請求書の控え、到達を示す資料、定款、会社との合意書 | 承認したものとみなされる場合に当たらないかを検討する。定款の別段の定めや合意の有無で結論が変わる |
| 提示された価格に納得できない | 買取りの通知書、供託を証する書面、直近の計算書類、価格の算定資料 | 供託額と提示額の関係を確認し、二十日の期間内に協議を続けるか申立てを行うかを判断する |
| 価格の交渉が続いている | 通知書の日付、協議の記録 | 協議中でも二十日の期間は進む。合意ができないまま期間が過ぎると、法定の算定額が売買価格になる |
| 株券を発行しているか、株券の所在が分からない | 定款、登記事項証明書、株主名簿、株券 | 株券発行会社かどうかを先に確認する。株券発行会社で株券が見当たらない場合は、期間内の対応方法を早めに検討する |
| 買取りの通知を受けた後に、譲渡をやめたくなった | 通知書、請求書の控え | 買取りの通知を受けた後の撤回には、会社又は指定買取人の承諾が必要になる(会社法第143条)。承諾が得られるかを含めて検討する |
手続前に確認しておく資料
次の資料がそろっていると、いまの段階と残っている期間、取り得る選択肢を整理しやすくなります。手元にないものは、どの方法で取得できるかを含めて検討することになります。
- 定款(譲渡制限の定め、承認する機関、期間を短縮する定め、承認したものとみなす定めの有無)
- 登記事項証明書(取締役会設置会社かどうか、株券発行会社かどうか、本店所在地)
- 株主名簿の記載、又は自分の保有株式数と種類を確認できる資料
- 株券の発行の有無と、発行されている場合の所持状況
- 譲渡等承認請求書の控え(買い取ることを請求する旨の記載の有無)
- 請求書の発送・到達を示す資料(配達記録、受領印、電子メールの送受信記録など)
- 承認しない旨の通知書(原本と封筒、受領日の記録)
- 会社又は指定買取人からの買取りの通知書(買主、株式数、通知の日)
- 供託を証する書面(供託所、供託の日、供託額)
- 会社との間で交わした合意書、覚書、協議の経過が分かる書面や電子メール
- 直近の計算書類など、価格の検討に用いられる資料
なお、株主が会社の資料をどこまで見られるかは別の問題であり、閲覧や謄写を求める手続にはそれぞれ要件があります。資料が当然に開示される前提で進めず、必要な資料をどの手続で得るかを検討してください。会社との関係で株主がどのような権利を持つかについては、非上場・同族会社の少数株主の権利に関する記事で整理しています。
弁護士に相談するタイミング
この手続は、請求書の記載と短い期間が結論を左右します。次の時点で確認しておくと、選択肢を残したまま進めやすくなります。
- 譲渡等承認請求を出す前。買取りを求める旨を入れるかどうか、撤回できなくなる時点はいつかを整理できます。
- 承認しない旨の通知を受け取ったとき。元の請求の内容を確認し、四十日・十日の期間を管理できます。
- 買取りの通知や供託を証する書面を受け取ったとき。株券の供託の要否と、二十日の申立期間の管理に入れます。
- 会社から何も届かないまま期間が過ぎたとき。承認したものとみなされる場合に当たるかを検討できます。
- 価格の協議が続いていて、期間が近づいているとき。協議を続けるか申立てを準備するかを、期間との関係で判断できます。
相談によって結果が保証されるわけではありませんが、資料を確認したうえで、いまどの段階にいるのか、いつまでに何を決める必要があるのかを整理し、法律上の見通しを検討することができます。
よくある質問
会社は、理由を示さずに譲渡の承認を拒否できますか。
会社法は、承認するか否かの決定の内容を通知することを求めていますが(会社法第139条第2項)、不承認の理由を示すことを一般的な義務としてはいません。もっとも、譲渡制限の仕組みは、承認しない場合に会社又は指定買取人が買い取るという道筋を用意することで、譲渡を望む株主の側にも手段を残しています。不承認の当否をどう争うかは、定款の定め、決議の内容、これまでの経緯によって変わりますので、資料を確認したうえで判断する必要があります。
会社に「株式を買ってほしい」と伝えるだけで、会社に買取義務が生じますか。
生じません。会社法第140条第1項の買取義務は、譲渡等承認請求の際に、承認しない旨の決定をする場合には会社又は指定買取人が買い取ることを請求する旨(同法第138条第1号ハ又は第2号ハ)が明らかにされていることを前提としています。譲受人を定めない買取りの申入れは、会社が自己株式を取得するかどうかの協議であり、別の枠組みです。
譲渡等承認請求をするには、実際の譲受人が決まっている必要がありますか。
株主からの請求では、譲り受ける者の氏名又は名称を明らかにしなければならないとされています(会社法第138条第1号ロ)。また、会社法第136条は、譲り渡す相手から発行会社自身を除いていますので、会社を譲受人としてこの請求をすることはできません。形式を整えるために実体のない譲受人を立てるような対応は、後にその効力が争われる原因になり得ますので、譲渡先の検討を含めて事前に整理することをおすすめします。
指定買取人とは誰のことですか。株主の側で選べますか。
指定買取人とは、会社が承認しない旨の決定をした場合に、対象株式の全部又は一部を買い取る者として会社が指定した者をいいます(会社法第140条第4項)。指定は、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議によります。ただし、定款に別段の定めがあればその定めによります(同条第5項)。誰を指定するか、会社が自ら買い取るかは会社の側が決めることであり、請求をする株主が選ぶ仕組みではありません。
会社が二週間以内に回答しない場合はどうなりますか。
会社が譲渡等承認請求の日から二週間以内に決定の内容を通知しなかったときは、承認する旨の決定をしたものとみなされます(会社法第145条第1号)。ただし、定款でこれを下回る期間を定めている場合はその期間によりますし、会社と請求者の合意で別段の定めをしたときは適用されません。請求書がいつ会社に到達したかを示す資料が必要になりますので、送付記録などを確認してください。
供託された金額が、そのまま最終的な買取価格になるのですか。
いいえ。供託は、買取りの通知をするための要件であり(会社法第141条第2項、第142条第2項)、その額は会社法施行規則第25条の方法により帳簿上の数値を基礎として算定されます。売買価格は、当事者の協議、又は裁判所の決定によって定まります。価格が確定したときは、供託した金銭に相当する額を限度として代金を支払ったものとみなされ(会社法第144条第6項)、差額があれば別途精算することになります。
株券を発行していない会社でも、株券の供託が必要ですか。
必要ありません。株券の供託は、対象株式が株券発行会社の株式である場合の手続です(会社法第141条第3項、第142条第3項)。株券を発行しているかどうかは登記事項証明書で確認できます。株券発行会社である場合は、供託を証する書面の交付を受けた日から一週間以内に供託しないと、会社又は指定買取人から売買契約を解除されることがありますので(同法第141条第4項、第142条第4項)、株券の所在を早めに確認してください。
価格の協議を続けている間も、二十日の期間は進みますか。
進みます。会社法第144条第2項の二十日は、買取りの通知があった日から起算される期間で、協議を理由に停止したり延長されたりする規定は置かれていません。この期間内に協議が調わず、申立てもなかったときは、一株当たり純資産額に株式数を乗じた額が売買価格になります(同条第5項)。協議を続ける場合でも、期間の満了日を把握したうえで、申立てを行うかどうかを判断する必要があります。
まとめ
- 会社が譲渡を承認しないというだけでは、会社に買取義務は生じません。譲渡等承認請求に、買い取ることを請求する旨が含まれていたかどうかを、まず控えで確認してください。
- 買主が会社になるか指定買取人になるかは会社が決めます。届いた通知が誰からのもので、何株についてのものかを確認してください。
- 二週間、四十日、十日、一週間、二十日という期間が続けて進みます。四十日と十日は不承認の通知の日から、二十日は買取りの通知の日から起算します。
- 買取りの通知は、供託と供託を証する書面の交付とセットです。書面が交付されていない場合は、承認したものとみなされることがあります。
- 供託額は帳簿上の数値を基礎とした金額であり、最終的な売買価格そのものではありません。
- 協議中でも二十日の期間は進みます。期間内に合意も申立てもなければ、法令の方法で算定した額が売買価格になります。
- 次の行動として、定款、登記事項証明書、請求書の控え、通知書、供託を証する書面を一か所にそろえ、それぞれの日付から残りの日数を数えてください。
譲渡承認と買取りの手続について検討したい方へ
定款、請求書の控え、通知書、供託を証する書面を確認することで、いまどの段階にいるのか、残っている期間はどれだけか、次に準備すべき資料は何かを整理できます。合意書に署名する前、期間が満了する前に一度ご確認ください。お問い合わせの際は、ご自身の立場(株主・株式取得者・会社・指定買取人のいずれか)、会社名、相手方のお名前、届いている書面の種類と日付をお知らせください。
なお、一つの紛争で利害が対立する当事者の双方からご依頼をお受けすることはできません。利益相反の確認が済むまでは、機密資料の送付をお控えください。お問い合わせをいただいた時点で委任契約が成立するものではありません。
監修者・執筆者
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
代表弁護士・公認会計士 藤井 貴之
兵庫県弁護士会所属/日本公認会計士協会兵庫会所属
参考資料(本文で参照した公的資料)
本記事は、2026年9月2日時点で確認した法令及び公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案についての法的助言ではありません。法令の改正や実務の運用の変更により内容が変わることがあります。実際の結論は、定款、株主名簿、譲渡等承認請求書、通知書、供託を証する書面などの資料と、事案の経緯によって異なります。手続を進める前に、資料を確認したうえで個別に検討してください。

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