会社や社長、会社側の代理人から「相続された株式を会社に売ってほしい」「定款の定めにより買い取る」「この金額で署名してほしい」と言われ、どう答えればよいのか分からないというご相談があります。亡くなった方が同族会社・非上場会社の株式を持っていた場合に起こりやすい場面です。
この場面で最初に分かれ道になるのは、その求めが単なる任意のお願いなのか、それとも会社法第174条以下の「相続人等に対する売渡しの請求」なのか、という点です。両者は、必要な手続も、期限も、価格の決まり方も違います。そして会社法上の売渡請求である場合には、通知を受け取った日から数えて20日という、見落とすと取り返しのつかない期間が動き出します。
この記事では、相続によって非上場会社の株式を取得し、会社から売渡しを求められた相続人とそのご家族に向けて、請求の根拠、先に確認すべき期限、請求の効力と価格をそれぞれどう争うのか、保存・収集すべき資料を整理します。結論の方向性を先に示すと、会社の提示額がそのまま法律上の売買価格になるとは限らず、他方で「署名しなければ何も起きない」わけでもありません。請求が有効かどうかの検討と、価格が妥当かどうかの検討は、期限を意識しながら並行して進める必要があります。
この記事で分かること
- 任意の買取提案と、会社法上の売渡請求の違い
- 売渡請求が認められるために会社側に必要な定款の定めと株主総会の決議
- 会社の側の「1年」と、価格を争うための「20日」という二つの期間
- 20日を過ぎたときに何が起きるのか(失効の条件)
- 売買価格の判断で考慮される事情と、集めておきたい資料
- 相続人が複数いる場合、定款や決算書を見せてもらえない場合の考え方
- 署名・回答・売却の前に確認すべき事項と、税務上の確認事項
神戸みらい法律会計事務所では、株主・役員・経営権に関するご相談として、相続した非上場株式について会社から通知を受けた方のご相談をお受けしています。通知書と定款を確認したうえで、請求の有効性と期限、価格の検討材料を整理できます。
お問い合わせの際は、会社名、ご相談者と相手方の立場、通知を受けた日、記載されている期限、概要をお知らせいただくと、確認が早く進みます。
会社から売渡しを求められたとき、最初にすること
資料がそろっていなくても、次の五つは今日から着手できます。とくに、期限は資料の到着を待ってくれません。
- 通知書・封筒・配達記録・メールを保存し、到達日を記録する。封筒の消印、書留の配達記録、受領印、メールの送受信日時まで含めて残します。破棄・加筆をせず、そのままの形で保管してください。
- 任意の買取提案か、定款と会社法に基づく売渡請求かを確認する。差出人が発行会社なのか社長個人なのか、定款の条項や会社法の条文が引用されているか、株式の数が明示されているかを見ます。
- 二つの期間を別々に確認する。会社の側の「一般承継があったことを知った日から1年」と、価格を裁判所に決めてもらうための「売渡請求があった日から20日」は、別の期間です。
- 承諾書・価格合意書・清算条項に署名する前に、対象と根拠を確認する。署名の対象が株式だけなのか、他の権利まで含むのかを読み取ります。
- 手元にある定款・相続関係の資料・提示価格の資料を整理し、全部そろうのを待たずに相談する。会社に資料を請求している間にも、20日は進みます。
「とりあえず無視する」「拒否だけ伝える」「資料開示や遺産分割が終わるまで待つ」は、いずれもこの場面での正解とは限りません。会社法上の売渡請求は、対象者が署名しなくても手続が進む仕組みになっており、拒否の意思を伝えただけでは、価格を裁判所に判断してもらう道は開かれません。他方で、慌てて署名することにも同じだけのリスクがあります。
その求めは任意のお願いですか、会社法上の売渡請求ですか
相続した非上場株式について会社から声がかかる場面は、法律上は少なくとも四つに分かれます。どれに当たるかで、必要な手続も期限も変わります。
任意の買取提案でも、会社が買う以上は会社法の手続が必要です
「一度会社で引き取らせてほしい」という口頭やメールの申入れは、当事者間の合意によって成立する通常の売買の申込みです。応じるかどうかは相続人の判断であり、断ったからといって、それだけで株式を失うことはありません。
もっとも、買主が発行会社である場合には、会社の側にも守るべき手続があります。会社が株主との合意により自社の株式を有償で取得するには、あらかじめ株主総会の決議によって、取得する株式の数、交付する金銭等の内容と総額、取得できる期間を定めなければなりません(会社法第156条第1項)。特定の株主から取得する場合には、その旨を同じ株主総会の決議で定める必要があり、この決議は特別決議です(同法第160条第1項、第309条第2項第2号)。
相続の場面には固有の定めもあります。会社が、株主の相続人その他の一般承継人から、その一般承継により取得した株式を取得する場合には、他の株主が自分も売主に加えるよう請求できる旨の規定(同法第160条第2項・第3項)は適用されません(同法第162条本文)。ただし、会社が公開会社である場合と、その相続人等が株主総会で当該株式について議決権を行使した場合は、この例外は働きません(同条ただし書各号)。相続人が株主総会で議決権を行使したかどうかが、会社側の手続の重さを左右することがあります。
会社法第174条以下の売渡請求は、一方的な請求として組み立てられています
これに対し、会社法第174条以下の売渡請求は、定款に定めを置いた株式会社が、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すことを請求できる制度です。譲渡制限を付していても相続や合併では株式が当然に移転してしまうため、会社にとって好ましくない者が株主となる事態に対応できるようにした制度と説明されています(日本公証人連合会「定款認証」Q12)。
この制度の下では、相続人が承諾書に署名しなくても、要件を満たした請求がされた以上、売買価格の決定へと手続が進みます。「署名しなければ売却されない」「嫌なら必ず拒否できる」という理解で対応すると、価格を争う機会そのものを失いかねません。他方、要件を満たしていない請求であれば、その効力を争う余地があります。請求の有効性の確認と価格の検討を切り離して同時に進める必要があるのは、このためです。
まぎらわしい四つの制度を区別する
- 発行会社による相続人等に対する売渡請求(会社法第174条から第177条まで)――この記事が扱う制度です。定款の定めと株主総会の特別決議が前提になり、価格決定の申立期間は20日です。
- 社長個人や他の株主による買取提案――買主が会社ではないため、会社法上の自己株式取得の手続は問題になりません。当事者間の交渉であり、応じる義務もありません。ただし、株式の帰属や議決権をめぐる争いの一部として提案されていることがあります。
- 譲渡承認を拒否された場合の買取り(同法第136条から第145条まで)――相続人が第三者へ株式を売ろうとして、会社が承認しなかった場合の手続です。買取通知を受けた後の価格決定の申立期間は、買取通知があった日から20日です(同法第144条第2項)。期間の起算点も、協議が調わず申立てもない場合の処理も、相続人等に対する売渡請求とは異なります。
- 特別支配株主の株式等売渡請求(同法第179条以下)――総株主の議決権の10分の9以上を持つ株主が、他の株主全員に対して株式の売渡しを請求する制度です。相続を要件とせず、価格決定の手続も別に定められています。名称が似ているため混同されがちですが、別制度です。
会社から届いた書面に「売渡請求」と書かれていても、どの制度に基づくものかは、根拠条文、請求の主体、対象者の範囲、前提となる決議の内容から判断します。制度を取り違えると、期限の計算も、主張すべき内容も変わってしまいます。
売渡請求が認められるための条件
対象は「相続その他の一般承継で取得した譲渡制限株式」です
会社法第174条は、株式会社が、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる、と規定しています。
譲渡制限株式とは、会社が発行する全部又は一部の株式の内容として、譲渡による取得について会社の承認を要する旨の定めを設けている場合の当該株式をいいます(同法第2条第17号)。上場していないというだけでは足りず、定款にこの定めがあることが出発点です。
また、対象は「相続その他の一般承継により取得した」株式です。被相続人から相続した株式と、相続人がもともと自分名義で保有していた株式は、性質が違います。相続前から保有していた株式まで当然に請求の対象になるわけではありません。
なお、相続による取得には、第三者への譲渡の場面で必要になる譲渡承認の手続は適用されません(同法第134条第4号参照)。相続人は相続開始の時に被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継しますから(民法第896条)、会社が承認しなければ株式を相続できない、というものではありません。名義書換がまだであることと、株式を相続していることは別の問題です。ただし、株式の移転を会社に対抗するには株主名簿への記載又は記録が必要であり(会社法第130条第1項)、会社に対する権利行使の場面では名義書換の有無が問題になります。
遺贈の場合については、包括遺贈と特定遺贈とを一括して一般承継として扱うことはできません。遺言の内容に応じて、この制度の対象となるかを個別に確認する必要があります。また、この制度は株式会社の株式についての制度であり、合同会社の持分にそのまま当てはめることはできません。
定款に「相続人等に対する売渡しの請求」の定めがあること
ここが実務上いちばん誤解されやすい点です。譲渡制限の定めと、相続人等に対して会社への売渡しを請求できる旨の定めは、別の定款規定です。株式に譲渡制限が付いているというだけでは、会社は第174条の請求をすることができません。確認すべきは「現在の定款に、相続その他の一般承継により株式を取得した者に対する売渡請求の定めがあるか」です。登記事項証明書には株式の譲渡制限に関する規定が登記されますが、売渡請求の定めは登記事項ではありませんので、定款そのものを確認する必要があります。
請求の都度、株主総会の特別決議が必要です
定款に定めがあるだけでも足りません。会社は、請求をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、請求をする株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)と、その株式を有する者の氏名又は名称を定めなければなりません(会社法第175条第1項)。この決議は特別決議です(同法第309条第2項第3号)。
特別決議の要件は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合はその割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上に当たる多数をもって行うというものです。定足数と可決要件は別に定められ、定款で加重されていることもありますので、「全株主の3分の2の賛成があればよい」といった省略した理解は避けてください。取締役会の決議や代表者の判断だけで請求ができるわけではなく、議事録に請求する株式の数と対象者が特定して記載されているかは必ず確認したい点です。招集通知や議事録の一般的な要件は、株主総会の準備と運営の要点を確認するで扱っています。
対象者の議決権は制限されますが、例外があります
この株主総会では、対象者として定められる者は議決権を行使することができません(会社法第175条第2項本文)。相続人自身が賛成しない限り決議が成立しない、という構造にはなっていません。もっとも、同項にはただし書があり、対象者以外の株主の全部が当該株主総会において議決権を行使することができない場合には、この制限は働きません。被相続人以外に株主がいない会社や、他の株主も同時に対象者とされている場合など、この例外に当たるかどうかが争点になり得ます。「相続人には議決権がない」と一般化せず、あくまでこの決議についての制限であり、例外があることを押さえてください。
また、議決権を行使できないことと、株主としての他の権利がすべてなくなることとは別です。株主総会の議事録は、株主であれば会社の営業時間内にいつでも閲覧又は謄写を請求することができ、議決権の有無は要件とされていません(同法第318条第4項)。他方、招集通知を受ける立場にあるかどうかは、招集の決定に関する規定の読み方によって議論の余地があります(同法第298条第2項の括弧書きと第299条第1項の関係)。招集通知が届いたか届かなかったかは、いずれにせよ記録として残しておくべき事実です。
相続の後に定款が変更された場合はどう考えるか
相続の後に、会社が定款を変更して売渡請求の定めを追加した、という相談は少なくありません。この点について、「相続時に規定がなければ後から請求することは絶対にできない」とも、「相続後に追加すれば常に有効」とも、断定することはできません。
検討すべき事項は複数に分かれます。第一に、定款変更決議そのものの手続が適法か(招集通知、定足数、可決要件)。第二に、その定款変更決議において相続人が議決権を行使できる立場にあったか。第175条第2項の議決権制限は、売渡請求をするかどうかを決める株主総会についての規定であり、これに先行する定款変更決議に当然に及ぶものとして条文が書かれているわけではありません。第三に、規定の追加と直後の請求という一連の経過に、権利の濫用や手続上の問題がないか。いずれも確認できる範囲を超える論点を含みますので、ここでは確認すべき論点として示すにとどめます。実際には、相続時の定款、現在の定款、変更決議の議事録、変更の日付、招集通知の写しをそろえて個別に検討することになります。
次の表は、届いた請求の適法性を検討するために、何を、どの資料で、なぜ確認するのかを整理したものです。
| 確認項目 | 見る資料 | 確認する理由 |
|---|---|---|
| 株式に譲渡制限があるか | 現行の定款、登記事項証明書 | 対象は譲渡制限株式に限られます(会社法第174条、第2条第17号)。 |
| 相続人等に対する売渡請求の定めがあるか | 現行の定款 | 譲渡制限の定めとは別の定めです。譲渡制限があるというだけでは請求できません。登記事項証明書では確認できません。 |
| その定めがいつ入ったか | 相続時の定款、現在の定款、株主総会議事録、招集通知 | 相続の前からあったのか、相続後に追加されたのかで、検討する論点が変わります。 |
| 株主総会の特別決議があるか | 株主総会議事録、招集通知 | 請求の都度の決議が必要です(同法第175条第1項、第309条第2項第3号)。取締役会決議や代表者の判断では足りません。 |
| 決議で株式数と対象者が特定されているか | 株主総会議事録 | 請求する株式の数(種類株式発行会社では種類及び種類ごとの数)と対象者の氏名又は名称を定める必要があります。 |
| 議決権を行使した株主は誰か | 株主総会議事録、株主名簿 | 対象者の議決権は制限されますが、対象者以外の株主の全部が議決権を行使できない場合は例外です(同法第175条第2項ただし書)。 |
| 会社がいつ一般承継を知ったか | 死亡の連絡の記録、相続関係の連絡、名義書換の依頼書、会社からの返信、議事録 | 会社が請求できる1年の起算点に関わります(同法第176条第1項ただし書)。 |
| 請求書に株式の数・種類が明示されているか | 請求書 | 請求は、請求に係る株式の数を明らかにしてしなければなりません(同法第176条第2項)。 |
| 請求の主体が発行会社か | 請求書の差出人、代表者の記名、代理人の委任状 | 社長個人や他の株主からの買取提案は、この制度によるものではありません。 |
| 請求はいつ到達したか | 封筒の消印、配達記録、受領印、メールの送受信記録 | 意思表示は通知が相手方に到達した時から効力を生じます(民法第97条第1項)。20日の起算点の判断に関わります。 |
| 20日以内に協議が調ったか、申立てがあったか | 合意書、覚書、裁判所から届いた書類 | 売渡請求が失効しているかどうかの判断材料になります(会社法第177条第5項)。 |
定款、株主総会議事録、請求書がそろえば、請求の適法性はかなりの部分まで検討できます。手元にある資料だけでも、確認すべき点と不足している資料の優先順位を整理できます。
二つの期間を混同しない――会社の1年と、価格決定の20日
会社が請求できるのは「一般承継があったことを知った日から1年」
会社は、株主総会で第175条第1項各号の事項を定めたときは、対象者に対して株式の売渡しを請求することができます。ただし、当該株式会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、この限りでない、とされています(会社法第176条第1項)。
起算点は「会社が知った日」です。死亡日でも、名義書換の日でも、遺産分割が成立した日でもありません。会社が、いつ、誰の取得を知ったのかは、事実の問題であり、証拠によって判断されます。
ここで、死亡を知ったことと、誰が承継したかを知ったこととは、必ずしも同じ時点ではありません。相続人が複数いる場合や、遺産分割が長引いた場合には、なおさらです。次のような資料が、この点の確認材料になります。
- 会社への死亡の連絡(誰が、いつ、どのように伝えたか)
- 相続関係を会社に伝えた書面・メール
- 株主名簿の名義書換の依頼と、会社からの返信
- 相続開始後の株主総会の招集通知、議事録の記載
- 会社が相続人に宛てた通知、配当や源泉徴収に関する書類
なお、この1年は、会社が請求権を行使できる期間であって、相続人側の申立期間ではありません。また、一般的な消滅時効とも別のものです。
価格決定の申立ては「売渡請求があった日から20日以内」
売渡請求があった場合、売買価格は、まず会社と対象者との協議によって定めます(会社法第177条第1項)。そのうえで、会社又は対象者は、売渡請求があった日から20日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができます(同条第2項)。
この20日について、実務上とくに注意していただきたいのは、次の点です。
- 20日は、売渡請求があった日から進みます。価格交渉が決裂した日でも、会社が示した回答期限でもありません。
- 交渉が続いていることは、期間の進行を止めません。「まだ話し合っている最中だから」という理由で申立てをしなければ、期間は経過します。
- 会社に対する異議の通知、内容証明郵便の発送、資料の請求、弁護士への相談の予約は、いずれも裁判所への申立てに代わるものではありません。
- 会社との合意によってこの期間を自由に延長することはできません。
期間内に申立てがあったときは、その申立てにより裁判所が定めた額が売買価格になります(同条第4項)。裁判所は、価格を定めるにあたり、売渡請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならないとされています(同条第3項)。
20日を過ぎたときに何が起きるのか
20日の期間内に申立てがないとき(当該期間内に協議が調った場合を除く。)は、売渡請求は、その効力を失います(会社法第177条第5項)。
この「失効」の条件は、二つの要素から成り立っています。すなわち、①期間内に価格の協議が調っていないこと、②会社・対象者のいずれからも申立てがないこと、の両方です。ここを縮めて理解すると、判断を誤ります。
- 20日を過ぎれば自動的に会社の提示価格に決まる、というものではありません。相続人が申し立てなかったというだけでは、会社の提示額が法律上の売買価格になるわけではありません。
- 会社側が申し立てている可能性を確認してください。申立権は会社にもあります。会社が期間内に申し立てていれば、請求は失効せず、裁判所の手続の中で価格が判断されます。この場合も、相続人の側で資料を確認し、価格について主張と立証を検討する必要があります。
- 期間内に協議が調っていた場合も、失効しません。「合意した」と評価できるやり取りがあったかどうかは、メールや議事録の記載から判断されます。
期限が過ぎたように見える場合でも、そこで結論を出すのは早計です。請求がそもそも会社法上の売渡請求だったのか、いつ到達したのか、期間内の合意や双方の申立てはなかったか、会社が撤回していないか、その後に別の任意の売買がされていないかを確認する必要があります。「相続人が何もしなかったから失効した」と短絡することはできません。
この記事では、具体的な日付を当てはめた期限の計算例は示していません。初日を算入するかどうか、末日が休日に当たる場合の扱い、裁判所の受付方法によって、最終日の判断は変わり得るためです。実際の事案では、到達日が分かる資料をそろえたうえで、最終日を個別に確認してください。
次の表は、この場面で動いている期間を、誰の期間なのかという観点から整理したものです。
| 手続・行為 | 誰の期間か | 起算点と期間 | 経過した場合の意味・注意 |
|---|---|---|---|
| 会社が売渡請求をすること(会社法第176条第1項ただし書) | 会社 | 会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年 | 経過すると、会社は売渡請求をすることができません。死亡日・名義書換日・遺産分割成立日から数えるものではありません。 |
| 株主総会の特別決議(同法第175条第1項、第309条第2項第3号) | 会社の手続 | 請求の都度、請求に先立って行う | 期間の定めはありませんが、決議を欠く請求、株式数や対象者の特定を欠く決議に基づく請求は、効力が問題になります。 |
| 売買価格の協議(同法第177条第1項) | 会社と対象者の双方 | 売渡請求があった後 | 協議が調えば、その価格になります。合意の有無が後に争いになるため、内容と日付を書面で残してください。 |
| 裁判所への売買価格の決定の申立て(同法第177条第2項) | 会社・対象者のいずれもできる | 売渡請求があった日から20日以内 | 交渉の決裂日や会社の回答期限から数えるものではありません。異議の通知、内容証明の発送、相談の予約では代わりになりません。 |
| 売渡請求の失効(同法第177条第5項) | ― | 20日の期間内に申立てがないとき(当該期間内に協議が調った場合を除く。) | 請求は効力を失います。相続人が申し立てなかったというだけで会社の提示価格に確定するわけではありません。会社側の申立ての有無を確認してください。 |
| 会社による請求の撤回(同法第176条第3項) | 会社 | いつでも | 会社はいつでも請求を撤回することができます。撤回を期待して、20日への対応を先送りにすることはできません。 |
| 株主総会の決議の取消しの訴え(同法第831条第1項) | 株主等 | 決議の日から3か月以内 | 取消事由がある場合の期間で、価格決定の20日とは別に進みます。決議の無効・不存在の確認は、この期間とは別に検討します。 |
売りたくない場合と、価格に納得できない場合の対応
「請求の効力を争う」と「価格を争う」は別の手続です
売買価格の決定の申立ては、価格を決めるための手続です。定款の定めの有無、株主総会の決議の瑕疵、請求の主体や対象の特定といった点は、価格決定の申立てをすれば当然に解決する、というものではありません。
問題としたい瑕疵と、求めたい効果に応じて、次のような対応を検討することになります。
- 株主総会の招集手続や決議の方法が法令・定款に違反する場合、著しく不公正な場合、決議の内容が定款に違反する場合、特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされた場合――決議の取消しの訴え(会社法第831条第1項各号)。決議の日から3か月以内という期間があります。
- 決議が存在しない、あるいは内容が法令に違反する場合――決議の不存在又は無効の確認。これらは決議取消しの3か月とは別に検討します。
- 株主としての地位そのものが争われている場合――株主の地位の確認などを検討します。
- 手続の進行を止める必要がある場合――保全処分の可否を検討します。
一方の手続をとったからといって、他方の期限が当然に止まるわけではありません。請求の効力を争いながら、期間内に価格決定の申立てもしておくべきかどうかは、主張の整合性を含めて個別に判断する必要があります。定型的な対応を一律に勧められる場面ではありません。
価格決定の申立てはどこに、どのように
会社法の規定による非訟事件は、原則として、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属します(会社法第868条第1項)。相談者が神戸にお住まいだから神戸の裁判所、相続の事件だから家庭裁判所、というものではありません。本店がどこにあるかを、登記事項証明書で確認してください。
売買価格の決定をする場合、裁判所は、審問の期日を開いて、申立人と、売買価格の決定の申立てをすることができる者(申立人を除く。)の陳述を聴かなければならないとされています(同法第870条第2項第3号)。会社が申し立てた場合であっても、相続人の側が意見を述べる機会があるということです。
申立書の記載事項、添付書類、申立手数料や予納郵券の額、審理に要する期間は、事案と裁判所によって異なります。全国一律の相場を示すことはできませんので、申立てを検討する段階で、管轄裁判所に確認することになります。
価格はどう決まるか――請求の時の資産状態その他一切の事情
会社の提示額が、そのまま法律上の価格になるわけではありません
裁判所が売買価格を定めるにあたって考慮しなければならないのは、売渡請求の時における会社の資産状態その他一切の事情です(会社法第177条第3項)。ここで基準とされる時点は、売渡請求の時です。死亡日でも、申立日でも、裁判所が決定をする日でもありません。評価の基準時を取り違えると、集めるべき資料も、主張の組み立ても変わってしまいます。
会社から示された金額に計算の根拠が付いていない場合、その金額が上記の考慮要素をどのように反映したものなのかを説明できません。計算根拠が示されていないこと自体が、協議における確認事項になります。
評価の三つの入口
非上場株式の評価方法は、大きく次の三つの考え方に整理されます。どれを、どの程度重視するかは、会社の規模、収益の状況、資産の内容、株式の保有状況などによって変わります。
- 純資産を基礎とする方法――会社の資産と負債を評価し直して、株主に帰属する価値を求める考え方です。不動産や有価証券の含み損益、退職給付や保証といった簿外の負担が論点になります。
- 収益・将来のキャッシュ・フローを基礎とする方法――将来生み出す利益やキャッシュ・フローを現在価値に割り引いて評価する考え方です。DCF法(割引キャッシュ・フロー法。将来のキャッシュ・フローを一定の割引率で現在価値に換算する方法)はこの系統に属します。事業計画の前提と継続性、割引率の設定が争点になります。
- 比較会社等を用いる方法――事業内容が類似する会社の指標や、過去の取引事例を参照して評価する考え方です。比較対象の選定と補正の合理性が問われます。
いずれの方法でも、簡易な係数を掛けるだけで裁判所の判断と同じ結論が出るわけではありません。インターネット上で見かける簡便な計算式を、裁判実務の標準的な算式のように扱うことはできません。評価方法ごとの考え方は、非上場株式の評価方法と買取価格の違いを確認するもあわせてご覧ください。
相続税評価額・帳簿純資産・額面との違い
会社から「相続税評価額で決まっている」「資本金を株式数で割った金額だ」と説明されることがあります。しかし、次の三つは、目的も判断の枠組みも異なります。
- 相続税の課税のための評価――課税の公平と画一的な処理のための評価です。
- 遺産分割における評価――相続人間で遺産をどう分けるかを決めるための評価です。
- 会社法上の売買価格――売渡請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して定まるものです。
相続税の申告書に一定の金額を記載したからといって、その金額での売却に同意したことになるわけではありません。また、いわゆる「額面額」は、現行の会社法の下で一般的な法定の評価基準として位置づけられているものではありません。帳簿上の純資産額や分配可能額も、それ自体が売買価格になるものではありません。
少数株主であること、市場性がないことの扱い
相続した株式が少数にとどまる場合や、市場で売却できない場合に、その事情を価格に反映させるかどうかは、事案によって判断が分かれるところです。どの評価方法を用いたか、その方法の中で市場性の欠如がすでに考慮されているかによって、結論は変わります。減価の可否や程度を、あらかじめ一律に決めることはできません。持株比率が小さい株主にどのような権利があるかは、非上場・同族会社の少数株主の権利を確認するで整理しています。
次の表は、価格の検討のためにどのような事情を確認し、どの資料で裏づけるのかを整理したものです。会社に対して当然に閲覧・謄写を請求できる資料と、そうでない資料が混在している点にご注意ください。
| 確認したい事情 | 資料の例 | 価格検討上の注意 |
|---|---|---|
| 評価の基準となる時点 | 請求書、封筒の消印、配達記録 | 考慮されるのは売渡請求の時における会社の資産状態その他一切の事情です(会社法第177条第3項)。死亡日や決定の日ではありません。 |
| 会社の資産と含み損益 | 貸借対照表、固定資産台帳、不動産の登記事項証明書、保険の解約返戻金の資料 | 帳簿価額と時価が離れている資産があるかを見ます。帳簿上の純資産額がそのまま価格になるわけではありません。 |
| 収益力 | 損益計算書、直近の試算表、事業計画、受注の状況が分かる資料 | 将来の収益を基礎とする方法では、計画の前提と継続性、割引率の設定が争点になります。 |
| 借入れ・保証・偶発債務 | 借入金の返済予定表、保証契約書、係争中の事件の資料、退職給付に関する資料 | 簿外の負担が価格に影響することがあります。 |
| 役員貸付金・役員借入金 | 勘定科目内訳明細書、金銭消費貸借契約書 | 会社と役員・株主との間の債権債務は、株式の価格とは別に整理が必要です。 |
| 配当と役員報酬の実績 | 株主総会議事録、役員報酬に関する資料、支払調書 | 配当の実績がない会社では、配当を基礎とする方法の説明力が下がります。 |
| 株式の種類と保有状況 | 定款、株主名簿、登記事項証明書 | 種類株式かどうか、議決権の有無、持株比率は、減価の当否の検討に関係します。 |
| 会社の提示額の計算根拠 | 会社からの通知書、算定書、会社が価格の算定を依頼した者の資料 | 計算方法と基準時が示されているかを確認します。示されていない場合、その点自体が協議での確認事項になります。 |
| 相続税の申告で用いた評価額 | 相続税申告書、財産評価の明細書 | 税務上の評価は課税のための評価です。会社法上の売買価格とは目的も枠組みも異なります。 |
よく問題になる六つの場面
実際のご相談は、次のいずれかの形で持ち込まれることが多くあります。架空の解決事例ではなく、それぞれの場面で分かれ目になる点を整理します。
口頭やメールで任意の買取りを打診されただけの場合
定款の条項も会社法の条文も示されず、「一度会社で引き取りたい」と言われている段階です。この段階では、応じるかどうかは相続人の判断です。ただし、会社が定款に売渡請求の定めを持っている場合には、任意の交渉と並行して、会社が一般承継を知った日から1年の期間が進んでいます。定款を確認せずに交渉だけを続けることは避けてください。
定款や会社法を引用した売渡請求の通知が届いた場合
到達日を確定し、20日の期間を意識したうえで、株主総会の決議の有無と内容を確認します。決議の議事録が示されない場合には、株主として議事録の閲覧又は謄写を請求することが考えられます(会社法第318条第4項)。定款も、株主であれば閲覧等を請求することができます(同法第31条第2項)。
会社の提示額が低く、計算根拠も示されていない場合
まず、提示額がどの評価方法によるものか、基準時をいつと置いているのかを確認します。回答がない場合や、相続税評価額をそのまま用いている旨の説明にとどまる場合には、価格決定の申立てを含めて検討することになります。ここでも判断の期限は20日です。
価格の交渉中に期限が近づいている場合
交渉が続いていることは、20日の進行を止めません。合意の見込みがあるとしても、期間内に合意に至らない可能性がある限り、申立ての要否を早い段階で判断する必要があります。合意ができた場合には、合意の日付と内容を書面に残してください。
相続人が複数で、遺産分割や名義書換が終わっていない場合
株式が複数の相続人の共有に属する場合、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、会社に対してその者の氏名又は名称を通知しなければ、株式についての権利を行使することができません(会社法第106条本文)。ただし、会社が権利行使に同意した場合は、この限りでないとされています(同条ただし書)。
ここから、次の点に注意が必要です。第一に、法定相続分に応じて個々の株式を各相続人が単独で処分できる、というものではありません。相続財産は共同相続人の共有に属し(民法第898条第1項)、共有持分は法定相続分等によって算定されます(同条第2項)。第二に、相続人の一人が当然に全員を代表できるわけではありません。第三に、権利行使者の指定は、株式全部の処分権限や、価格決定事件における代理権と直結するものではありません。第四に、遺産分割が終わっていないからといって、会社の1年や価格決定の20日が進行を止めるわけではありません。
誰に対して請求の通知がされたのか、対象となる株式や持分がどのように特定されているのか、申立てを誰の名義で行うのかは、共同相続人の間で協議しながら整理する必要があります。遺産分割そのものの進め方は、自社株の相続でもめる評価と分け方を確認するで扱っています。
期限を過ぎたように見える場合
20日を過ぎているように見えても、到達日の認定、期間内の協議の成否、会社側の申立ての有無、会社による撤回の有無を確認するまでは、結論を出せません。反対に、失効していると考えて対応をやめた後に、会社から別の枠組みでの買取りを提案されることもあります。この場合は、任意の売買として、価格と条件を改めて検討することになります。
定款や決算書を見せてもらえない場合
「定款は見せられない」「決算書は株主でも見せる義務はない」と言われることがあります。しかし、資料ごとに閲覧・謄写を請求できる根拠と要件は異なります。誰でもすべての資料を請求できるわけではない一方で、株主として当然に請求できるものもあります。
- 定款――株主及び債権者は、会社の営業時間内であればいつでも、書面の閲覧、謄本又は抄本の交付などを請求できます(会社法第31条第2項。謄本等の交付には会社の定めた費用の支払が必要です)。
- 株主名簿――株主及び債権者は閲覧又は謄写を請求できますが、請求の理由を明らかにする必要があり、会社は法定の拒絶事由に当たる場合には拒むことができます(同法第125条第2項・第3項)。
- 株主総会議事録――株主及び債権者は、会社の営業時間内であればいつでも閲覧又は謄写を請求できます(同法第318条第4項)。議事録は、株主総会の日から10年間、本店に備え置かれます(同条第2項)。
- 計算書類等――株主及び債権者は、閲覧、謄本又は抄本の交付などを請求できます(同法第442条第3項)。備置きの期間は、定時株主総会の日の1週間(取締役会設置会社では2週間)前の日から5年間です(同条第1項第1号)。
- 会計帳簿及びこれに関する資料――請求できるのは、総株主の議決権の100分の3(定款で引き下げることができます)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の100分の3以上の数の株式を有する株主に限られます。請求の理由を明らかにする必要があり、法定の拒絶事由もあります(同法第433条第1項・第2項)。請求理由の書き方と拒否された場合の対応は、会計帳簿閲覧謄写請求の進め方を確認するで整理しています。
共有状態にある株式について、これらの権利をどのように行使するかは、権利行使者の指定の問題と関係します。また、名義書換が済んでいない場合の取扱いも問題になり得ます。
資料が出てこない場合には、任意の請求、法定の閲覧・謄写請求、裁判手続という順に検討することになりますが、資料がそろうのを待って期限の確認や相談を先送りにしてはいけません。手元にある定款の写し、通知書、相続関係の資料だけでも、検討は始められます。なお、会社のパソコンやクラウドに無断でアクセスして資料を持ち出すことは、別の法的問題を生じさせますので、行わないでください。
署名・回答・売却の前に確認すること
売却に進む場合でも、そうでない場合でも、書面に署名する前に確認しておきたい事項があります。
- 署名する書面の名称と法的性質(売渡請求への承諾なのか、価格の合意なのか、別途の売買契約なのか)
- 対象となる株式の数と種類が、決議・請求書の記載と一致しているか
- 1株当たりの単価と総額、その計算の前提
- 支払の時期と方法(一括か分割か、分割の場合の担保や期限の利益の喪失条項)
- 株券発行会社かどうか、株券の有無と交付の方法
- 株主名簿の記載をどのように処理するか
- 清算条項の範囲(株式以外の権利まで清算の対象に含まれていないか)
- 費用の負担(登記、評価、振込手数料など)
- 相続人が複数の場合、他の共同相続人の関与をどう整理するか
被相続人が会社に対して有していた貸付金、未払の役員報酬、退職慰労金の請求権などは、株式とは別の財産です。株式の代金に当然に含まれるものではありません。「本件に関し、当事者間に他に何らの債権債務がないことを確認する」といった清算条項に署名すると、これらの権利まで放棄したと評価されるおそれがあります。署名の前に、対象となる権利の範囲を必ず確認してください。
会社の側の財源規制
会社が売渡請求に基づいて株式を買い取る場合、株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、その効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならないとされています(会社法第461条第1項第5号)。分配可能額は、剰余金の額などから自己株式の帳簿価額などを控除して算定されるものであり(同条第2項)、現預金の残高、資本金の額、帳簿上の純資産額と同じものではありません。
したがって、「現金があるから適法だ」とも、「赤字だから請求は無効だ」とも言えませんし、分配可能額が売買価格の上限になるわけでもありません。もっとも、会社が支払能力の観点から価格を抑えようとしている場合には、この規制との関係を確認しておく意味があります。規制に違反した場合の取得の効力や、金銭等の交付を受けた者・業務執行者の責任(同法第462条第1項)、期末に欠損が生じた場合の業務執行者の責任(同法第465条第1項第7号)については、事案に応じた検討が必要です。財源規制に疑問があることを理由に、届いた請求を無視してよいということにはなりません。
税務は、売却の前に確認する
発行会社に株式を譲渡する場合、通常は、交付を受けた金銭等の額のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分が配当所得とみなされて所得税が課税されます。
ただし、相続又は遺贈により財産を取得し、その相続又は遺贈について納付すべき相続税額がある個人が、相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、相続税の課税の対象となった非上場株式をその発行会社に譲渡した場合には、みなし配当課税を行わず、譲渡対価の全額を株式の譲渡所得の収入金額とする特例があります(所得税法第25条、租税特別措置法第9条の7ほか。国税庁タックスアンサーNo.1477)。
この特例には、次のような確認事項があります。
- 納付すべき相続税額があること。相続税額が生じていない場合には適用されません。
- その相続税の課税の対象となった非上場株式であること。
- 譲渡の時期が上記の期間内であること。
- 非上場株式を発行会社に譲渡する日までに、所定の届出書を発行会社に提出すること。発行会社の側にも、譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに所轄税務署長へ提出する手続があります。
また、取得費の計算にあたっては、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(同法第39条。国税庁タックスアンサーNo.3267)を併用できる場合があります。いずれも要件と期限があり、届出を売却後に行うことはできません。手取り額は税引前の価格とは異なりますので、価格の交渉と並行して、税務上の取扱いを確認してください。当事務所は、税務申告の代理を行うものではありませんので、申告に関する具体的な処理は、顧問税理士又は所轄税務署にご確認ください。
弁護士に相談するタイミング
相談の時期として望ましいのは、次の各段階です。いずれも、選択肢が残っている段階です。
- 会社や社長から買取りの打診を受けたとき(定款を確認する前の段階でも構いません)
- 売渡請求の通知が届いたとき(到達日が分かる資料をお持ちください)
- 会社から価格の提示を受けたとき
- 承諾書・価格合意書・清算条項のある書面に署名を求められたとき
- 20日の期間が近づいている、又は経過したように見えるとき
- 共同相続人の間で対応の方針が分かれているとき
被相続人が代表取締役だった場合には、後任の選任や役員変更登記も同時に進みます。その全体像は、代表取締役が死亡したときの手続を確認するで整理しています。
ご相談では、定款・通知書・株主総会議事録から請求の効力を検討し、決算書等の資料から価格の検討材料を整理して、対応の方針をご説明します。結果をお約束するものではありませんが、請求の効力と価格の両面から、期限を意識した検討を行うことができます。
なお、会社側・株主側・共同相続人のいずれの立場からのご相談も、利益相反の確認を経たうえで受任の可否を判断します。同じ紛争の対立当事者双方を同時に支援することはできません。最初のご連絡では、会社名、ご相談者と相手方の立場、通知を受けた日、期限、概要をお知らせください。利益相反の確認が済むまでは、定款、決算書、会計帳簿、株主名簿などの機密資料の送付はお控えください。
よくある質問
会社から売れと言われたら、断ることはできますか。
求めの性質によって異なります。定款の定めと会社法の条文に基づかない任意の買取提案であれば、応じるかどうかはご自身の判断です。これに対し、定款に相続人等に対する売渡請求の定めがあり、株主総会の特別決議を経た会社法第176条第1項の請求がされている場合には、断るという意思表示だけで手続が止まるわけではありません。この場合は、請求の効力そのものを争うのか、価格を争うのかを分けて検討することになります。まず確認するのは、現行の定款、株主総会議事録、請求書の記載、通知の到達日です。
定款に譲渡制限があれば、必ず会社に売る必要がありますか。
いいえ。譲渡制限の定めと、相続人等に対して会社への売渡しを請求できる旨の定めは、別の定款規定です。譲渡制限があるというだけでは、会社は会社法第174条の請求をすることができません。売渡請求の定めは登記事項ではないため、登記事項証明書では確認できません。会社に対して定款の閲覧等を請求し(同法第31条第2項)、現行の定款で確認してください。
亡くなってから1年を過ぎても、会社は請求できますか。
できる場合があります。会社法第176条第1項ただし書の1年は、死亡日からではなく、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から起算されます。会社がいつ、誰の取得を知ったのかは事実の問題であり、死亡の連絡、相続関係を伝えた書面、名義書換の依頼と会社の返信、招集通知や議事録の記載などから判断されます。死亡から1年が経過しているというだけで請求が許されないと考えることはできません。
価格の交渉中でも、20日以内の申立てが必要ですか。
交渉が続いていることは、期間の進行を止めません。会社法第177条第2項の20日は、売渡請求があった日から起算され、交渉が決裂した日や会社が示した回答期限から始まるものではありません。会社への異議の通知、内容証明郵便の発送、資料の請求、相談の予約は、いずれも裁判所への申立てに代わるものではなく、会社との合意でこの期間を延長することもできません。期間内に合意に至る見込みが確実でない限り、申立ての要否を早い段階で判断する必要があります。
20日を過ぎると、会社の提示価格に決まりますか。
いいえ。会社法第177条第5項は、20日の期間内に申立てがないとき(当該期間内に協議が調った場合を除く。)は、売渡請求はその効力を失う、と定めています。相続人が申し立てなかったというだけで、会社の提示額が法律上の売買価格になるわけではありません。もっとも、申立権は会社にもありますので、会社側が期間内に申し立てていないか、期間内に協議が調ったと評価されるやり取りがなかったかを確認する必要があります。会社が申し立てている場合には、裁判所の手続の中で価格が判断されますので、資料の確認と主張・立証の検討が必要です。
相続税評価額で売る必要がありますか。
相続税の課税のための評価と、会社法上の売買価格は、目的も判断の枠組みも異なります。裁判所が売買価格を定める場合に考慮しなければならないのは、売渡請求の時における会社の資産状態その他一切の事情です(会社法第177条第3項)。相続税申告書に一定の金額を記載したことをもって、その金額での売却に同意したことになるわけでもありません。会社から示された金額については、どの評価方法によるものか、基準時をいつと置いているのかを確認してください。
遺産分割前は、誰が対応するのですか。
株式が複数の相続人の共有に属する場合、共有者は、権利を行使する者一人を定めて会社に通知しなければ、株式についての権利を行使することができません(会社法第106条本文。会社が同意した場合は別です)。もっとも、権利行使者の指定は、株式全部の処分権限や、価格決定事件における代理権と直結するものではありません。また、遺産分割が終わっていないことを理由に、会社の1年や価格決定の20日の進行が止まるわけでもありません。通知が誰に対してされたか、対象の株式や持分がどう特定されているか、申立てを誰の名義で行うかを、共同相続人の間で早めに整理してください。
定款や決算書を見せてもらえない場合はどうすればよいですか。
資料ごとに根拠と要件が異なります。定款(会社法第31条第2項)、株主総会議事録(同法第318条第4項)、計算書類等(同法第442条第3項)は、株主として閲覧等を請求できます。株主名簿は請求の理由を明らかにする必要があり、法定の拒絶事由もあります(同法第125条第2項・第3項)。会計帳簿及びこれに関する資料は、議決権又は株式の100分の3以上という持株要件があり、請求の理由の提示と拒絶事由の定めもあります(同法第433条)。誰でもすべての資料を請求できるわけではありません。資料がそろうのを待つ間にも期限は進みますので、手元の資料からご相談ください。
まとめ
- まず、任意の買取提案なのか、定款と会社法第174条以下に基づく売渡請求なのかを区別してください。任意の提案であっても、買主が発行会社であれば、会社の側に株主総会の決議が必要です。
- 売渡請求が認められるには、対象が相続その他の一般承継により取得した譲渡制限株式であること、相続人等に対する売渡請求の定款の定めがあること、請求の都度の株主総会の特別決議があることが必要です。
- 会社の側の1年は「一般承継があったことを知った日」から、価格決定の20日は「売渡請求があった日」から起算されます。二つを混同しないでください。
- 20日以内に協議が調わず、会社・対象者のいずれからも申立てがなければ、売渡請求は効力を失います。申し立てなかったから会社の提示価格に確定する、という仕組みではありません。
- 価格は、売渡請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して定まります。相続税評価額、帳簿上の純資産額、分配可能額、いわゆる額面額と同じではありません。
- 請求の効力を争う手続と、価格を争う手続は別です。決議の取消しの訴えには決議の日から3か月という期間があり、価格決定の20日とは別に進みます。
- 通知書と封筒を保存し、到達日を記録したうえで、資料がそろうのを待たずに、期限を示してご相談ください。
神戸みらい法律会計事務所では、相続した非上場株式について会社から売渡しを求められた方のご相談として、定款・株主総会議事録・通知書からの請求の効力の検討、価格算定資料と決算書の確認、期限を踏まえた対応方針の整理に対応しています。署名や回答の期限が決まっている場合は、その日付を最初にお知らせください。予定日から逆算して、確認する資料と検討の順序をご提案します。
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この記事の監修者
弁護士・公認会計士 藤井 貴之(兵庫県弁護士会所属、日本公認会計士協会兵庫会所属)
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士。会社法・株主間の紛争のほか、法務と会計・財務が交差する分野の相談に対応しています。
参考資料
- e-Gov法令検索「会社法」(第2条第17号、第106条、第130条、第134条、第156条、第160条、第162条、第174条から第177条まで、第309条第2項、第31条、第125条、第318条、第433条、第442条、第461条、第462条、第465条、第831条、第868条、第870条)
- e-Gov法令検索「民法」(第97条、第896条、第898条)
- 日本公証人連合会「Q12 譲渡制限株式(全株式及び種類株式)の相続人等に対する売渡請求権の定めはどうなっていますか。」
- 国税庁「No.1477 相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例」
- 国税庁「A2-31 相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出」
- 国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
- 裁判所「裁判所の管轄区域」
本記事は、2026年9月10日現在の法令及び公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。定款の内容、株主構成、会社の資産状態、通知の経緯などの個別事情により結論は異なります。税務上の取扱いについては、顧問税理士又は所轄税務署にご確認ください。最新の内容は、本文に記載した一次資料及び弁護士へのご相談によりご確認ください。

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