手根管症候群・肘部管症候群|交通事故後の手のしびれと後遺障害 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

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手根管症候群・肘部管症候群|交通事故後の手のしびれと後遺障害

交通事故のあとに手指のしびれが取れない、握力が落ちた、ボタンや箸が扱いにくい――こうした症状が続き、「手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)」「肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん)」「正中神経麻痺」「尺骨神経麻痺」といった診断名を告げられた方から、ご相談をいただくことがあります。最初に不安に感じられるのは、「この症状は事故のせいだと認めてもらえるのか」「後遺障害として評価されるのか」という点です。

結論から申し上げます。診断名が付いたことだけで、事故との因果関係や後遺障害の等級が決まるわけではありません。いずれも交通事故とは無関係に発症することがある疾患であり、事故態様、受傷部位、症状が出た時期、治療経過、所見と検査結果の整合、既往症の有無といった事情を総合して検討されます。逆に、既往症があることだけを理由に、事故との関係が当然に否定されるわけでもありません。

この記事では、二つの疾患の違い、事故で問題になりやすい発症の経過、検査で分かることと分からないこと、後遺障害等級の考え方、示談や申請の前に整理したい資料を、法令と公的資料に基づいて解説します。なお、症状の原因、検査の要否、治療方針、症状固定の時期はいずれも医師の判断が前提となる事柄であり、この記事は診断や治療の指示を行うものではありません。

治療を続けても手のしびれや力の入りにくさが残っている場合、事故資料と医療資料を早い段階で整理しておくことで、後遺障害の申請の要否や今後の対応方針を検討しやすくなります。

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最初に確認したい結論

  • 手根管症候群は主に手首(手根管)での正中神経の障害、肘部管症候群は主に肘(肘部管)での尺骨神経の障害です。障害される神経も部位も異なります。
  • しびれる指の範囲は手がかりになりますが、それだけで自己判断はできません。いずれの神経も、手根管・肘部管以外の部位で障害されることがあります。
  • 事故との因果関係は、受傷機序、症状が出た時期、診療録の記載、症状の一貫性、所見と検査の整合、既往症の有無などを総合して検討されます。
  • 神経伝導検査や針筋電図は重要な資料になり得ますが、検査結果だけで法的な因果関係や等級が決まるわけではありません。
  • 末梢神経の麻痺は、原則として、損傷を受けた神経が支配する部位の機能障害の等級で評価されます。痛みやしびれが中心の場合は、局部の神経症状としての評価が問題になります。
  • 症状固定、後遺障害診断書の作成、示談書への署名の前に、事故資料・医療資料・就労資料を時系列で確認しておくことをおすすめします。

後遺障害の等級は、自動車損害賠償保障法施行令の別表に定められています。もっとも、別表に「手根管症候群」「肘部管症候群」という病名は書かれていません。等級は診断名ではなく、残った障害の内容と程度によって評価される仕組みです。この点が最も誤解されやすいところです。

手根管症候群と肘部管症候群は何が違うか

障害される神経と部位が異なります

日本整形外科学会の解説によれば、手根管症候群は「正中神経が手首(手関節)にある手根管というトンネル内で圧迫された状態」をいいます。手根管は手根骨と横手根靱帯(屈筋支帯)に囲まれた伸び縮みのできないトンネルで、正中神経と指を動かす腱が通っています。

これに対し、肘部管症候群は「肘で尺骨神経に圧迫や牽引などが加わって、生じる神経の障害」をいいます。原因としては、靱帯やガングリオンなどの腫瘤による圧迫、加齢に伴う肘の変形、子どもの頃の骨折による肘の変形、野球や柔道などのスポーツが挙げられています。二つは「手のしびれ」という共通の症状を示しますが、障害されている神経も場所も異なる別の疾患です。

二つの疾患の比較

手根管症候群と肘部管症候群の主な違い(日本整形外科学会等の一般向け解説に基づく整理)
確認する項目 手根管症候群 肘部管症候群
障害される神経と部位 正中神経/手首の手根管 尺骨神経/肘の内側の肘部管
しびれが出やすい範囲 母指から環指の母指側まで(初期は示指・中指のことも)。手のひら側が中心 小指と環指の小指側。前腕の尺側に及ぶことも
運動障害・筋萎縮 母指球(母指の付け根)がやせる、母指と示指で輪をつくりにくい 手の中の筋肉(骨間筋等)がやせる、小指・環指の変形(かぎ爪変形)
生活・仕事で出やすい支障 ボタン、瓶の蓋、細かい物をつまむ動作、明け方の痛みで目が覚める 箸、筆記具、鍵、工具の把持、力を入れてつまむ動作
診察で確認されることがある所見 ティネル様サイン、手首を曲げて保持したときの症状悪化(ファレンテスト)、母指球の筋萎縮 肘の内側を叩くと小指・環指にしびれが走る所見、手の内在筋の萎縮、フローマン徴候
補助検査 神経伝導検査・筋電図、超音波、磁気共鳴画像検査 左記に加え、単純エックス線検査(肘の変形の確認)
主な鑑別の対象 頚椎の神経根、腕神経叢、回内筋症候群など正中神経の別部位、多発ニューロパチー 頚椎の神経根、腕神経叢、ギヨン管症候群など尺骨神経の別部位、多発ニューロパチー
事故との関係で確認したい局所外傷 手をついた、手首を打った、手関節・手根骨の骨折や脱臼、著しい腫脹・血腫、手術後の経過 肘を打った、肘周辺の骨折・脱臼、肘の変形、著しい腫脹・血腫、手術後の経過

この表は典型的な特徴の整理であり、「この指がしびれるからこの病気である」と判断するためのものではありません。症状の分布には個人差があり、二つが同時に存在することもあります。診断は医師が行います。

典型例に当てはまらないことがあります

正中神経も尺骨神経も、手根管や肘部管以外の部位で障害されます。日本整形外科学会は、正中神経麻痺の原因として外傷のほか回内筋症候群などの、尺骨神経麻痺の原因として外傷のほかギヨン管症候群などの絞扼性神経障害を挙げています。前腕の前骨間神経の麻痺では母指と示指の第一関節を曲げられなくなる一方で皮膚の感覚は障害されず、ギヨン管の部位の障害では、感覚障害だけのもの、逆に手の筋肉がやせるのに感覚障害がないものなど、現れ方が一様ではありません。頚椎の神経根や腕神経叢が原因であることもあり、「指がしびれる」という症状だけでは原因の部位を特定できません。

交通事故で発症したり悪化したりすることはあるか

外傷が末梢神経の障害の原因となり得ること自体は、医学的に説明されています。ただし、事故との関係を検討する際には、次の経過を区別する必要があります。

神経が直接傷ついた場合、圧迫された場合

切創による断裂、強い牽引、挫滅、打撲などにより神経が直接損傷する場合です。日本整形外科学会は、正中神経麻痺・尺骨神経麻痺のいずれについても、開放創や挫傷、骨折などの外傷を原因に挙げています。受傷部位と麻痺の範囲が対応しているか、初期の診療録に神経症状の記載があるかが重要な確認事項になります。

また、手関節や肘の骨折、脱臼、著しい腫脹、血腫、その後の瘢痕や変形、固定、手術といった経過を通じて、トンネル内の圧が高まり神経が圧迫されることがあります。日本整形外科学会は手根管症候群の原因の一つとして「骨折などのケガ」を挙げ、日本臨床整形外科学会も「骨折の後遺症による骨変形」を挙げています。肘部管症候群についても、日本整形外科学会は「子供のときの骨折による肘の変形」を原因に挙げており、肘の変形に伴う尺骨神経の障害では、受傷から相当の期間を経て症状が現れることがあります。

事故前からあった状態が強く出た場合、別の原因による場合

手根管症候群について、日本整形外科学会は「特発性というものが多く、原因不明とされています」としたうえで、妊娠・出産期や更年期、透析、腫瘤、手の使いすぎなど外傷以外の要因を挙げています。事故前から症状なく存在した、あるいは軽い症状があった疾患が事故後に顕在化・悪化した可能性が問題となり、事故がどの程度寄与したのかが争点になります。また、事故と時期が近くても、加齢による変化、基礎疾患、仕事や家事による反復負荷など別の原因による可能性が指摘されることもあります。

「ハンドルを強く握ったから手根管症候群になった」といった説明を目にすることがありますが、そのような発症機序が一般に確立しているわけではありません。受傷機序は、手をついた、手首や肘を打った、骨折や脱臼を伴ったなど、実際の事故状況と医療資料との整合を確認する材料です。

事故との因果関係で確認されるポイント

因果関係の検討は、一つの事情だけで結論が出るものではありません。次の事情を時系列に沿って資料と突き合わせていくことになります。

因果関係の検討で確認される主な事情と、対応する資料
確認される事情 対応する主な資料
事故態様と、手首・肘に加わった外力 交通事故証明書、実況見分に関する資料、車両損傷写真、ドライブレコーダー映像
同じ側の骨折・脱臼・打撲・腫脹・血腫・創傷・固定・手術の有無 初診時からの診断書、診療録、画像データ・画像診断報告書、手術記録
いつから、どの指・どの部位に症状が出たか 初期の診療録、看護記録、日付順に記録した症状のメモ
症状の部位・程度・頻度が治療経過を通じて一貫しているか 継続的な診療録、リハビリテーション記録、診療報酬明細書
神経学的所見と、神経伝導検査・筋電図の局在が整合するか 神経学的所見の記載、検査報告書(検査日・左右・対象の神経と区間)
事故前の同様の症状、受診歴、既往、職業上の反復負荷の有無 事故前の診療録、健康診断結果、勤務内容が分かる資料
反対側にも同様の所見があるか 両側を対比した検査結果、診察所見
頚椎その他の代替原因との鑑別が行われているか 頚椎の画像検査、神経学的所見、他科の診療録
手術を受けた場合の術前後の経過 手術記録、術前後の所見・検査結果、入退院記録

診断が遅れた、症状が遅れて現れた、初期の検査が正常だった、両側に所見がある――こうした事情はいずれも判断に影響し得ますが、単独で結論を決めるとは限りません。反対に、事故直後に症状が出ていたことだけで事故が原因であると当然に証明されるわけでもありません。なお、事故前から存在した疾患や体質的な素因が損害の拡大に寄与した場合、民事の損害賠償では減額の当否が争われることがあります。

既往症・素因減額を主張されたときの整理のポイントを確認する

保険会社から治療費の打切りや症状固定を打診された時点で資料の過不足を確認しておくと、後遺障害の申請に向けて不足している記録を早い段階で把握できます。

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診察・検査で何が分かり、何が分からないか

診察で確認されることがある所見

診察では、症状の左右差、しびれの範囲(どの指か、手のひら側か手の甲側か)、感覚低下の程度、筋力、筋萎縮の有無が確認されます。前掲の表に挙げたティネル様サイン、ファレンテスト、フローマン徴候などの所見に加え、母指球筋・骨間筋の萎縮、母指の対立運動、握力やピンチ力、徒手筋力検査、知覚の評価が行われることもあります。

これらの所見は診断の手がかりですが、陽性であることだけで診断が確定するわけではなく、陰性であることだけで疾患が否定されるわけでもありません。どの検査をいつ行うかは、損傷の種類・部位・重症度、症状の推移、最初の検査結果を踏まえて医師が判断します。

神経伝導検査と針筋電図

神経伝導検査は、神経に電気刺激を与えて伝わる速度や反応の大きさを測定し、どの部位で伝導が障害されているかを調べる検査です。針筋電図は、筋肉に細い針電極を刺し、筋の電気的活動から神経の障害による変化を調べます。日本神経治療学会の治療ガイドラインは、電気生理学的検査には客観的な証拠を与えるという意義があり、臨床的に手根管症候群が疑われる場合には検査を行うことが推奨されるとしています。検査の進め方としては、正中神経の運動神経伝導検査(手首と肘での刺激)、手首から指までの正中神経の感覚神経伝導検査、そして通常は尺骨神経など他の神経の伝導検査を行うことが挙げられています。どの神経について、どちら側で、どの区間を測ったのかが報告書に残っているかどうかが、後の立証では大きな違いになります。

他方で、同ガイドラインは、症状のない人でも一定の割合で電気生理学的な異常所見が見られること、糖尿病があるとその割合がさらに高くなること、電気生理学的に正常でも臨床的に手根管症候群と判断される例があることも指摘しています。つまり、検査で異常があることがそのまま事故原因の証明になるわけではなく、検査が正常であることが神経障害の不存在を意味するわけでもありません。神経の障害は受傷直後には電気生理学的な変化として現れないことがあり、検査の時期や再検査の要否は医師が個別に判断します。「事故から何か月以内に必ず検査を受けなければならない」という一律の基準はありません。

画像検査の位置づけと、頚椎などとの鑑別

単純エックス線検査は骨折や脱臼、肘の変形などの確認に、超音波検査や磁気共鳴画像検査は神経の腫大や腫瘍・ガングリオンなどの原因の特定に用いられることがあります。同ガイドラインは、これらの画像検査について、原因を特定できる利点がある一方、軸索の変性の程度や予後の推定は困難であるとしています。画像に異常が写らないことは、末梢神経の障害を否定する根拠にはなりません。

同ガイドラインは、頚椎の疾患と手根管症候群が併存する場合に、どちらがより症状に関与しているか判断に苦慮することが多いとしており、糖尿病による多発ニューロパチーが背景にある場合も評価が難しくなります。相手方から「症状は頚椎に由来する」と主張されることがありますが、頚椎に所見があることだけで末梢神経の障害が否定されるわけではありません。神経学的所見の分布と検査で確認された障害部位が整合するかを、資料に基づいて確認することが重要です。

むちうちの後遺障害を立証する検査(画像所見と神経学的検査の役割)を見る

後遺障害の認定を目的として、医学的な必要がない検査や手術を受けることをおすすめする趣旨ではありません。検査や治療の要否は、必ず主治医とご相談ください。

後遺障害等級はどのように考えるか

診断名だけでは等級は決まりません

後遺障害の等級は、自動車損害賠償保障法施行令の別表第一・別表第二に、障害の内容と程度によって定められており、病名は記載されていません。また、自賠責保険の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)は「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」と定めており、実際の認定では厚生労働省の労災の障害等級認定基準が参照されます。

末梢神経の麻痺は「支配する器官の機能障害」で評価するのが原則

厚生労働省の「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」(平成15年8月8日基発第808002号)は、「末梢神経麻痺に係る等級の認定は、原則として、損傷を受けた神経の支配する身体各部の器官における機能障害に係る等級により認定すること」としています。末梢神経の障害それ自体に専用の等級があるのではなく、その神経が支配する手指や関節にどのような機能障害が残ったかによって評価されるのが原則、ということです。手根管症候群・肘部管症候群という病名から等級が導かれるわけではない、という点がここに表れています。

これは労働者災害補償保険の認定基準であり、自賠責保険の支払基準がこれに「準じて」等級を認定するという関係にあります。「労災の基準にこう書かれているから自賠責でも必ず同じ等級になる」わけではありません。また、民事の損害賠償訴訟で、裁判所が自賠責の認定と異なる評価をすることもあります。

手指の機能障害として評価される場合

別表第二には、失った手指の本数や「用を廃した」手指の本数に応じた等級が定められています。たとえば第10級第7号は「一手のおや指又はおや指以外の二の手指の用を廃したもの」、第12級第10号は「一手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの」です。

ここでいう「手指の用を廃したもの」は、実務上の説明ではなく、別表第二の備考第三号に置かれた法令上の定義です。「手指の末節骨の半分以上を失い、又は中手指節関節若しくは近位指節間関節(おや指にあつては、指節間関節)に著しい運動障害を残すもの」とされ、労災の認定基準は、この「著しい運動障害」を、当該関節の可動域が健側の2分の1以下に制限されているものなどと具体化しています。

しびれや感覚の低下、細かい作業のしにくさ、握力の低下は、それだけでは「手指の用を廃したもの」に当たりません。骨の欠損か、指の関節の可動域制限かが問われる仕組みになっているためです。労災の認定基準には、手指の末節の指腹部・側部の感覚が完全に脱失したものを用を廃したものとして扱う定めもありますが、感覚神経が断裂し得る外傷を負った事実の確認と、感覚神経伝導速度検査で感覚神経活動電位が検出されないことの確認が要件とされており、一般的なしびれに当てはめることはできません。

手指の後遺障害等級(指ごとの欠損・機能障害の考え方)を確認する

関節の可動域制限、局部の神経症状として評価される場合

骨折や脱臼を伴い、手関節や肘関節の動きに制限が残った場合には、関節の機能障害として評価されることがあります。別表第二には、第8級第6号「一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの」、第10級第10号「同・機能に著しい障害を残すもの」、第12級第6号「同・機能に障害を残すもの」があり、労災の認定基準は、可動域を原則として健側(障害のない側)と比較し、健側の2分の1以下を「著しい障害」、4分の3以下を「障害」としています。末梢神経の障害による筋力低下と、関節そのものの可動域制限は評価の系統が異なりますので、混同しないよう注意が必要です。

痛みやしびれが症状の中心である場合には、局部の神経症状としての評価が問題になります。別表第二では、第12級第13号が「局部に頑固な神経症状を残すもの」、第14級第9号が「局部に神経症状を残すもの」です。

手首・肘の骨折後に残る機能障害と仕事への影響を確認する第12級と第14級を分ける確認ポイントを見る

労災の号数と自賠責の号数は一致しません

後遺障害を調べていくと、厚生労働省の認定基準や労災の資料に行き当たります。注意が必要なのは、労災の障害等級表(労働者災害補償保険法施行規則別表第一)と自賠責の等級表(施行令別表第二)で、同じ内容の障害に付された号数が一致しない場合があることです。号数だけを転記すると、別の障害を指すことになりかねません。

上肢・手指・神経症状に関する号数の対照(両表の現行規定に基づく整理)
障害の内容 自賠責(施行令別表第二) 労災(労災保険法施行規則別表第一)
一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの 第8級第6号 第8級6号
同・機能に著しい障害を残すもの 第10級第10号 第10級9号
同・機能に障害を残すもの 第12級第6号 第12級6号
一手のおや指(母指)又はおや指以外の二の手指の用を廃したもの 第10級第7号 第10級6号
一手のひとさし指、なか指又はくすり指(示指、中指又は環指)の用を廃したもの 第12級第10号 第12級9号
神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 第9級第10号 第9級7号の2
局部に頑固な(がん固な)神経症状を残すもの 第12級第13号 第12級12号
局部に神経症状を残すもの 第14級第9号 第14級9号

指の呼び方も、自賠責は「おや指」「ひとさし指」「なか指」「くすり指」、労災は「母指」「示指」「中指」「環指」と異なります。

よくある誤解

  • 診断名から等級が決まることはありません。
  • 神経伝導検査で異常が出れば第12級、出なければ第14級という振り分けは行われていません。
  • 筋萎縮があることだけで、特定の等級が自動的に決まるわけではありません。
  • 手術を受けたことが、等級の判断を当然に左右するわけではありません。
  • 手指が使いにくいというだけで、関節の機能障害と神経症状を必ず併せて評価できるわけでもありません。
  • 局所の絞扼性神経障害であるというだけで、病名から第9級第10号に当たるわけでもありません。

複数の障害が残った場合と、症状固定の時期

手指の機能障害と関節の可動域制限、左右両側の障害など、複数の後遺障害が残ることがあります。この場合には、併合、加重、同一系列の障害の扱い、同じ障害を二重に評価しないという考え方が問題になります。また、別表第二の備考第六号は「各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であつて、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする」と定めており、等級表に明記されていない障害の評価はこの規定を手がかりに検討されます。

症状固定は、治療を継続しても症状の改善が期待できない状態に至ったという医学的な判断であり、保険会社が治療費の支払を打ち切る日と当然に一致するものではありません。末梢神経の障害では、保存療法の経過を見る場合、手術や術後のリハビリテーション、再検査が予定されている場合など、時期の判断が事案により大きく異なります。一律の基準はなく、主治医と経過を共有しながら判断していくことになります。

後遺障害が複数残ったときの併合・加重・準用の違いを確認する

よく問題になるケース

  • 初診時の診療録にしびれの記載が乏しい……受傷直後は骨折や創部の痛みが強く、記録に残らないことがあります。看護記録、搬送記録、リハビリテーション記録、その後の受診記録を確認します。
  • 診断や電気生理学的検査までに期間が空いた……いつ、どの医療機関で、どのような訴えをしていたかを時系列で確認します。転院の経緯や紹介状が手がかりです。
  • 反対側にも同様の所見がある……両側性であること自体は事故との関係を直ちに否定しませんが、基礎疾患や反復負荷の可能性が検討されます。事故前の症状の有無と左右差を確認します。
  • 糖尿病、透析、甲状腺疾患、旧骨折、頚椎疾患などがある……事故前の診療録、健康診断結果、服薬歴から、事故前に同様の症状や治療があったかを整理します。既往があることだけで請求できなくなるわけではありません。
  • 手術を受けたが、しびれや筋力低下が残っている……手術記録、術前後の所見と検査結果、リハビリテーションの経過を確認します。症状固定の時期にも関わります。
  • 検査結果と自覚症状が一致しない……障害部位、検査の項目と時期、左右の比較、別の原因の可能性を確認します。検査が正常であることのみを理由に症状が否定されるわけではありません。
  • 仕事上の支障はあるが、現時点で減収がない……職務の内容、作業の変更、周囲の補助、勤務時間や配置の変化を確認します。減収がないことが労働能力の低下がないことを意味するわけではありませんが、立証の負担は重くなります。

示談・申請前の時系列チェックリスト

すべての事案で以下のすべてが必要になるわけではありません。症状や事故態様に応じて確認してください。

事故直後

  • 交通事故証明書を取得し、事故現場・車両損傷の写真やドライブレコーダー映像を保全したか
  • 受傷した部位(手首・肘・手指)と症状を、初診時に医師へ具体的に伝えたか
  • 人身事故としての届出や、実況見分に関する資料の有無を確認したか

治療中

  • しびれの範囲、感覚の低下、力の入りにくさ、落としやすい物などを日付順に記録しているか
  • 画像データと画像診断報告書、診断書、診療報酬明細書を取得できるか確認したか
  • 神経伝導検査や筋電図を受けた場合、検査日・対象の神経・左右・測定区間が分かる報告書を確認したか
  • 握力、ピンチ力、筋力、筋萎縮の有無が経時的に記録されているか
  • 勤務内容の変更、休業、配置転換、作業時間の変化を記録しているか

症状固定の前

  • 今後の治療方針と症状固定の時期について、主治医と認識を共有できているか
  • 治療費打切りの打診を受けた場合、その時期の妥当性を検討したか
  • 手術やリハビリテーション、再検査の予定が残っていないか

後遺障害診断書の作成時

  • 症状の部位、程度、頻度、生活と仕事の具体的な支障を正確に医師へ伝えたか
  • 感覚障害の範囲、筋力、筋萎縮、可動域など、確認された所見が記載されているか
  • 検査結果の記載や検査報告書の添付、既往症の内容と事故前後の症状の違いを確認したか

医師に対して、特定の等級に該当する旨や、事故が原因であると断定する旨の記載を求めることは適切ではありません。お伝えいただきたいのは、症状の部位・経過・具体的な支障という事実です。医学的な評価は医師が判断します。

後遺障害診断書の作成前に確認したい資料と画像検査の注意点を見る

申請の前

  • 申請方法(相手方保険会社を通じた事前認定か、自賠責保険への被害者請求か)を選んだか
  • 提出する資料に不足がないか、時系列で確認したか
  • 既往に関する資料の扱いと、就労や家事への支障を示す客観的な資料を整理したか

後遺障害の証拠の集め方(申請前に準備したい資料と手順)を確認する事前認定と被害者請求の違いと申請方法の選び方を見る

認定結果を受け取った後

  • 認定結果とあわせて示される理由の記載と、判断の基礎とされた資料を確認したか
  • 新たな医学的資料や事実に関する資料を追加できる余地があるかを検討したか
  • 異議申立て、紛争処理機構への申請、訴訟といった選択肢を比較したか

自賠責保険の調査は、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所が行い、判断が難しい事案は上部機関で審査される仕組みです。調査結果や支払額に不服がある場合、損害保険会社等に異議申立てを行うことができるとされています。ほかに、自賠責保険・共済紛争処理機構による調停の制度もあります。

後遺障害が非該当となった場合の異議申立ての判断材料を見る

示談書に署名する前

  • 後遺障害の申請と認定の手続が終わっているか
  • 提示金額の内訳(治療費、休業損害、慰謝料、逸失利益など)を確認したか
  • 清算条項の範囲と、将来の治療や症状の変化の取扱いを確認したか
  • 過失割合や素因減額の主張の有無と、その根拠を確認したか

示談が成立すると、原則としてその内容を後から覆すことは容易ではありません。署名の前に内容を確認することをおすすめします。なお、自賠責保険に対する被害者請求の期限(自動車損害賠償保障法第19条)と、加害者や任意保険会社に対する損害賠償請求権の消滅時効(民法第724条・第724条の2)は、根拠となる規定も起算点も異なる別の制度です。同じ「3年」という数字が出てくる場面がありますが内容は同じではなく、事故日によって適用される規定が異なることもあります。

検討対象となる損害と、仕事・家事への影響

交通事故の損害は、治療費・通院交通費、休業損害、傷害慰謝料、後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益、医学的必要性や相当性が問題となる将来の治療費などに分けて検討されます。等級が認定されれば損害額が自動的に決まるわけではなく、項目ごとに個別の検討が必要です。後遺障害逸失利益は、基礎収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間、中間利息の控除といった要素から算定され、等級が決まれば喪失期間が機械的に決まるのではなく、症状の内容、職務への影響、年齢などを踏まえて検討されます。

後遺障害逸失利益の計算方法(喪失率・喪失期間とライプニッツ係数)を確認する

手のしびれ・筋力低下による支障は、抽象的に「手が使いにくい」と述べるのではなく、どの作業がどのように難しくなったかを整理しておくことが有用です。事務ではキーボードの操作、筆記、書類をめくる動作。現場作業では工具の把持、部品の組付け、力を入れてつまむ・回す動作。運搬や運転では物を持ち上げる、運ぶ、長時間のハンドル操作。家事・育児・介護では包丁の使用、調理、洗濯物を干す、抱きかかえる動作。日常ではボタン、箸、鍵、瓶の蓋、小銭の取り出しが問題になります。

もっとも、特定の職種であることだけを理由に、高い喪失率や長い喪失期間が当然に認められるわけではありません。具体的な労働能力の低下を裏づけられない場合、逸失利益が限定的に評価されるおそれもあります。

弁護士に相談するタイミング

ご相談によって認定や増額が保証されるわけではありません。もっとも、次の場面では、資料の過不足、争点、手続の選択肢を早い段階で整理しておく意味があります。

  • 保険会社から治療費の打切りを打診され、対応に迷っている
  • 症状固定の時期や、手術を受けるかどうかの方針で判断に迷っている
  • 後遺障害診断書の作成を控えており、伝えるべき事実を整理したい
  • 事前認定と被害者請求のどちらを選ぶか検討している
  • 非該当となった、又は想定より低い等級となった
  • 事故との因果関係や、既往症・素因減額を主張されている
  • 示談書に署名する前に、内容と金額の根拠を確認したい

ご相談では、事故資料と医療資料を確認したうえで、どの資料が不足しているか、どの点が争点になり得るか、どの手続を選ぶ余地があるかを整理します。

当事務所では、交通事故に関する初回のご相談を無料でお受けしています(事前のご予約をお願いしています)。電話受付は9時から20時までで、ご予約いただければ営業時間外・土日祝のご相談にも対応しています。オンライン・出張でのご相談も承っています。着手金は原則として無料ですが、訴訟、異議申立て、相手方が無保険の場合などには追加の着手金が必要です。ご加入の保険に弁護士費用特約が付いている場合は、費用の自己負担が生じないことがあります(適用範囲と上限は約款によります)。

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よくある質問

交通事故が原因で手根管症候群になることはありますか?

日本整形外科学会は原因の一つとして骨折などのケガを挙げており、手関節の骨折や強い腫脹に伴って正中神経が圧迫されることはあり得ます。もっとも外傷以外の要因で発症することも多い疾患ですので、事故との関係は、受傷機序、発症時期、治療経過、検査所見、既往などを総合して検討されます。個別事情により結論は異なります。

肘を打っていなくても肘部管症候群になることはありますか?

肘部管症候群は、肘の変形、腫瘤、加齢に伴う変化などによっても生じるとされています。肘への直接の打撲がない場合、事故との関係の説明は一般に難しくなりますが、骨折や脱臼に伴う変形など、事故による局所の変化と発症の経過を医学的資料で確認できるかが中心になります。

しびれる指の範囲だけで、手根管症候群と肘部管症候群を区別できますか?

典型的には、手根管症候群では母指から環指の母指側、肘部管症候群では小指と環指の小指側にしびれが出ます。ただし分布には個人差があり、いずれの神経も手根管・肘部管以外の部位で障害されることがあります。頚椎の神経根が原因のこともあり、症状の範囲だけで自己判断はできません。

神経伝導検査に異常があれば、後遺障害が認定されますか?

検査結果は重要な資料になり得ますが、それだけで等級が決まるものではありません。日本神経治療学会の治療ガイドラインは、症状のない人でも一定の割合で電気生理学的な異常が見られることを指摘しています。障害部位と症状の分布が整合するか、どの程度の機能障害が残っているかをあわせて検討します。

磁気共鳴画像検査に異常がなくても、末梢神経の障害は問題になりますか?

画像に異常が写らないことは、末梢神経の障害を否定する根拠にはなりません。神経の障害は画像上の形態変化として現れないことがあり、神経学的所見、電気生理学的検査、症状の経過をあわせて評価します。

事故から時間がたって診断された場合でも、因果関係は認められますか?

診断が遅れたことは判断に影響し得る事情の一つですが、それだけで結論が決まるわけではありません。初期の診療録に症状の記載があるか、症状が一貫して続いていたか、遅れて現れた医学的な経過を説明できるかを確認します。

糖尿病や過去の骨折があると、請求できなくなりますか?

既往症や代替原因があることだけで因果関係が否定されるわけではありません。他方で、事故前に症状がなかったことだけで事故が原因であると証明されるわけでもありません。民事の損害賠償では、素因が損害の拡大に寄与したとして減額が争われることがあります。なお、自賠責保険の支払基準にも、因果関係の判断が困難な場合の減額の定めがありますが、民事の素因減額とは別の制度です。

非該当となった場合、異議申立てはできますか?

調査結果や支払額に不服がある場合、損害保険会社等に異議申立てを行うことができるとされています。ほかに、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構による調停や訴訟という選択肢もあります。まず認定の理由と提出済みの資料を確認し、追加できる資料があるかを検討することが出発点です。

まとめ

  • 診断名、検査の異常、事故後の発症のいずれか一つだけで、事故との因果関係や後遺障害の等級が決まることはありません。受傷機序、発症時期、症状の一貫性、所見と検査の整合、既往を総合して検討されます。
  • 末梢神経の麻痺は、原則としてその神経が支配する部位の機能障害の等級で評価されます。しびれや握力低下だけでは「手指の用を廃したもの」に当たりません。
  • 労災の号数と自賠責の号数は一致しないことがあります。資料を読む際は、どちらの等級表に基づく記載かを確認してください。
  • 次の行動……①症状の部位・程度・頻度を日付順に記録する、②画像・神経伝導検査・筋電図の報告書を取得し、対象の神経と左右・区間が記載されているか確認する、③症状固定・後遺障害診断書の作成・申請・示談の各段階の前に、資料の過不足を確認する。

監修者・執筆者

藤井 貴之(ふじい たかゆき)
弁護士・公認会計士/兵庫県弁護士会所属
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士

交通事故による後遺障害・損害賠償、遺産相続、労働法務、債務整理、企業法務等のご相談に対応しています。交通事故の事案では、事故資料と医療資料を確認したうえで、後遺障害の申請に向けた資料の整理や、示談前の対応方針の検討をお手伝いしています。

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参考資料(法令・公的機関・学会資料)

本記事は、交通事故後の末梢神経障害に関する一般的な解説です。事故との因果関係、後遺障害の等級、賠償額は、事故態様、受傷内容、治療経過、検査結果、既往症、資料の内容などにより異なります。症状の原因、検査の要否、治療方針、症状固定の時期は、診察と検査を踏まえて医師が判断する事柄であり、本記事は診断や治療の指示を行うものではありません。具体的な事案については、資料を確認したうえで弁護士にご相談ください。

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