交通事故の被害者であるにもかかわらず、ある日突然、裁判所から「被告」と記載された訴状が届くことがあります。差出人は加害者側で、内容は「交通事故による損害賠償債務は存在しない」、あるいは「一定額を超える債務は存在しない」ことの確認を求めるものです。これが、交通事故の債務不存在確認請求訴訟です。
「被害者なのに、なぜ自分が被告なのか」「訴えられたということは、加害者側の言い分が認められてしまったのか」と、強い不安を覚える方は少なくありません。しかし、訴状が届いた時点で、加害者側の主張が正しいと確定したわけではありません。訴訟は、これから双方が主張と証拠を出し合って進んでいく手続の入り口にすぎません。
他方で、裁判所からの正式な書類を放置してよいわけではありません。まずは、訴状一式と送達時の封筒を保管し、答弁書の提出期限と第1回期日を確認することが出発点になります。この記事では、交通事故の被害者が加害者側から先に訴えを起こされた場合を想定し、次の点を整理します。
- 被害者なのに被告になる理由と、訴えられた時点で何が決まっているのか
- 訴状が届いた直後に確認し、保存しておくべき事項
- 答弁書を提出しない場合に生じ得ること
- 答弁と反訴の違いと、反訴を検討する場面
- 治療中や後遺障害が未確定の段階で提訴された場合の考え方
- 誰がどの事実を立証し、どの資料が必要になるか
- 時効、訴訟費用、弁護士費用特約と、相談時に準備する資料
訴状が届いた直後は、答弁書の提出期限や第1回期日を確認しながら、請求の範囲と争点を早い段階で整理することが大切です。訴状、医療資料及び保険資料を確認することで、答弁、反訴及び証拠収集の順序を検討しやすくなります。
Contents
交通事故の債務不存在確認請求訴訟とは
債務不存在確認請求訴訟とは、「特定の債務が存在しないこと」の確認を裁判所に求める訴訟です。「債務不存在」という言葉だけを見ると、借金や債務整理を思い浮かべる方もいますが、交通事故の場面では、事故に基づく損害賠償義務の全部又は一部が存在しないことの確認を求める訴訟を指します。
誰が誰を訴える手続なのか
交通事故の債務不存在確認請求訴訟では、通常、損害賠償義務を負うと主張されている側が原告となり、損害賠償請求権を有すると主張する被害者が被告となります。つまり、被害者から見ると、加害者側から先に訴えを起こされ、自分が被告として訴訟に引き込まれた形になります。
ここでいう「被告」は、刑事事件で罪に問われる「被告人」とは異なります。民事訴訟で訴えられた側を指す手続上の呼び方にすぎず、被害者に落ち度があると評価されたわけではありません。
原告となり得るのは、加害車両の運転者、その車両の保有者、使用者など、責任を負う可能性のある立場の方です。任意保険会社が弁護士の選任や訴訟対応に関与することはありますが、保険会社が当然に原告になるとは限りません。誰が原告になっているかは、思い込みで判断せず、訴状の当事者欄で必ず確認してください。自賠責保険への被害者請求と、加害者本人に対する損害賠償請求とは別のものであり、当事者や請求の内容も、実際の訴状で確認する必要があります。
全く債務がない場合と、一定額を超えて債務がない場合
債務不存在確認請求には、大きく分けて二つの形があります。一つは、「損害賠償債務は全く存在しない」という確認を求めるもの、もう一つは、「一定の金額を超える債務は存在しない」という確認を求めるものです。後者は、加害者側が一定額までは支払義務を認めつつ、それ以上の金額については争う、という場面で用いられます。
また、確認の対象が人身損害だけなのか、物的損害を含むのか、既払金を控除する前後のどちらの金額を前提にしているのか、遅延損害金や過失相殺、損益相殺、保険給付の扱いをどう位置づけているのかによって、請求の意味は大きく変わります。これらは訴状の請求の趣旨と請求の原因に示されますので、抽象的なイメージで判断せず、実際の記載を確認することが欠かせません。
確認判決と金銭の支払を命じる判決の違い
債務不存在確認請求訴訟で下される判決は、あくまで「債務が存在するか否か」という法律関係の存否を確認するものです。仮に加害者側の請求が認められても、それによって被害者に金銭の支払を命じる効力(執行力)が当然に生じるわけではありません。
これに対し、金銭の支払を命じる判決(給付判決)は、支払を命じ、強制執行の根拠となる執行力を持ちます。被害者が加害者側から実際に賠償金を回収するためには、確認訴訟で相手方の請求を退けるだけでは足りず、後述する反訴によって給付判決を求めることが重要な選択肢になります。
被害者なのに訴えられるのはなぜか
加害者側が債務不存在確認請求訴訟を選ぶ背景には、損害の範囲や金額について当事者間で見解が対立し、示談による解決が難しくなっている、という事情があることが多いといえます。もっとも、その動機は事案によってさまざまであり、加害者側の提訴を一律に嫌がらせや威圧と決めつけることは適切ではありません。まずは、どの点が争われているのかを冷静に確認することが出発点になります。
実務上、次のような点が争点になりやすい傾向があります。ただし、実際に何が争われているかは訴状の記載によって異なりますので、下の表は典型例の整理としてご覧ください。
| 争点 | よく問題になる内容 |
|---|---|
| 事故態様・過失割合 | 事故がどのように起きたか、双方の過失をどの割合とみるか |
| 因果関係 | 事故と、被害者の症状や治療との間に関係があるといえるか |
| 治療の必要性・治療期間 | 治療が必要かつ相当であったか、通院期間が長すぎないか |
| 症状固定の時期 | これ以上治療を続けても改善が見込めない状態にいつ達したか |
| 後遺障害・逸失利益 | 後遺障害が残ったか、その程度、将来の収入への影響 |
| 休業損害 | 仕事を休む必要があったか、収入をどう算定するか |
| 慰謝料その他の損害 | 慰謝料の金額、その他の損害項目の当否 |
| 既払金・各種給付 | すでに支払われた金額や保険給付をどう差し引くか |
加害者側が一定額の支払を認めていても、その金額が被害者の実際の損害を反映しているとは限りません。提示額の当否は、訴状、医療資料及び収入資料などを確認したうえで判断する必要があります。
訴状が届いたら最初に確認すること
訴状が届いたら、まず落ち着いて封筒の中身を確認し、次の事項を整理してください。特に、答弁書の提出期限と第1回期日は、その後の対応を左右する重要な情報です。期限は一律の日数で決まっているわけではありませんので、届いた書面に記載された期限をそのまま確認してください。
| 確認する場所 | 確認する内容 |
|---|---|
| 訴状の表紙・欄外 | 裁判所名、事件番号、担当部、連絡先 |
| 当事者欄 | 原告、原告代理人、被告(自分)の表示 |
| 送達時の封筒・受領日 | いつ受け取ったか、封筒も保管する |
| 期日呼出状・答弁書催告状 | 答弁書の提出期限、第1回期日の日時 |
| 請求の趣旨 | 加害者側が認めている金額、確認を求める範囲 |
| 請求の原因・書証 | 争われている論点、添付された証拠 |
| 既払金の内訳 | これまでに支払われたとされる金額 |
| 自分・家族の保険 | 弁護士費用特約が付いていないか |
送達時の封筒には、受け取った日を示す情報が残っています。答弁書の提出期限や、手続の起算点を確認するうえで重要ですので、封筒も含めて訴状一式をひとまとめに保管してください。
手続の進め方が分からない場合、裁判所に問い合わせれば書類の出し方などの案内は受けられます。もっとも、裁判所は中立の立場ですので、どのような主張をすべきか、反訴をすべきかといった個別の法律相談や方針の助言まで受けられるわけではありません。書類の書き方と、どう争うかの検討は、性質の異なる問題である点に注意してください。裁判所から書類が届いた場合の初動を確認することも参考になります。
訴状を放置した場合に生じ得ること
答弁書を提出せず、第1回期日にも欠席するなど、まったく対応しないまま手続を放置すると、原告が主張した事実を争わないものとして扱われ、その主張を前提とした判決がされる可能性があります。債務不存在確認請求訴訟では、これは「損害賠償債務が存在しない、又は一定額を超えて存在しない」という内容の判決につながりかねません。
もっとも、放置すれば必ず全面的に敗訴すると決まっているわけではありません。裁判所が請求の内容を審査し、確認の利益などの訴訟要件を満たさないと判断すれば、請求が退けられることもあります。いずれにしても、被害者にとって不利な結論を避けるためには、期限内に適切に対応することが大切です。対応の要否や内容に迷う場合は、期限に余裕をもって相談することをおすすめします。
被害者側が検討する対応
訴えられた被害者が取り得る対応は、一つではありません。事案の状況に応じて、次のような選択肢を組み合わせて検討します。
答弁書で請求と事実関係を争う
答弁書では、原告の請求に対する答弁(認めるのか争うのか)と、請求の原因に書かれた事実についての認否・反論を整理します。ここで、内容を十分に確認しないまま事実を認めてしまったり、損害額や既払金について誤った前提を受け入れてしまったりすると、後の主張が制約されるおそれがあります。訴状一式を確認したうえで対応することが重要です。答弁書の具体的な書き方や認否は、個々の訴状の内容によって変わるため、汎用のひな型をそのまま使うことは適切ではありません。
確認の利益がないとの主張を検討する
確認の訴えが認められるためには、「確認の利益」が必要です。確認の利益とは、確認判決によって、現在の法律関係に関する不安や危険を除去する必要があるか、という手続上の要件です。損害額をめぐる具体的な争いの有無、これまでの請求や交渉の経過、被害者が請求の意思を示していたかどうかなどが問題になり得ます。
もっとも、交渉が長引いた、治療中である、金額が未確定である、といった一つの事情だけで、確認の利益が必ず認められる、あるいは必ず否定される、というものではありません。確認の利益の有無は、口頭弁論が終結する時点を基準に、事案全体を踏まえて判断されると考えられています。確認の利益を欠く場合には、請求は本案の審理に入らずに「却下」されます。これは、審理の結果として請求に理由がないとされる「棄却」とは区別されます。
損害賠償請求の反訴を検討する
被害者側から、加害者側に対して損害賠償金の支払を求めたい場合には、反訴を検討します。反訴の意義や、必ず反訴すべきかどうかは、この記事の中でも重要な論点ですので、後の見出しで詳しく説明します。
訴訟上の和解を検討する
訴訟の途中でも、和解によって解決することは可能です。和解では、支払額だけでなく、既払金の扱い、支払期限、遅延した場合の取決め、対象となる損害の範囲、清算条項(今後は互いに請求しないという条項)、将来の損害の扱い、訴訟費用の負担などを確認する必要があります。清算条項の範囲によっては、後から判明した損害について請求しにくくなる場合もありますので、内容を慎重に検討することが大切です。
管轄・移送その他の手続上の問題を確認する
どの裁判所が担当するのか、簡易裁判所と地方裁判所のどちらか、移送を求める余地があるかは、当事者、請求の内容、金額などによって変わります。遠方の裁判所に訴えが起こされた場合などには、手続上の対応を検討する余地もありますので、早い段階で確認しておくとよいでしょう。
答弁だけで足りるのか、反訴まで検討すべきかは、治療状況、後遺障害の見通し、損害額の確定状況などによって変わります。資料を確認することで、答弁、反訴、和解、証拠収集の順序を整理しやすくなります。
反訴とは何か|必ず提起する必要があるのか
反訴とは、同じ訴訟手続の中で、被告となった被害者側から、原告である加害者側に対して、逆に損害賠償金の支払などを求める訴えを起こすことです。加害者側が起こした債務不存在確認請求(本訴)を争うだけの対応(答弁)とは、目的が異なります。
答弁によって本訴の請求を退けられたとしても、それだけで、加害者側に金銭の支払を命じる給付判決が当然に得られるわけではありません。前に説明したとおり、確認判決には強制執行の根拠となる執行力がないためです。実際に賠償金の支払を求め、必要に応じて強制執行につなげたい場合には、反訴によって給付判決を求めることが重要な選択肢になります。
反訴を提起するかどうか、いつ、どの範囲で提起するか、損害の全部を請求するか一部にとどめるかは、治療や後遺障害、損害額の確定状況、時効との関係、訴訟費用、立証の準備状況、和解の方針などによって異なります。被害者が必ず反訴しなければならないわけではありませんし、反訴をしなければ直ちにすべての損害賠償請求権を失う、というものでもありません。反訴の要否は、個別の事情を踏まえて検討する必要があります。
なお、同一の債権について、加害者側の債務不存在確認の本訴に対し、被害者側が適法な給付の反訴を提起した場合には、本訴のうち反訴と重なる部分は、確認の利益を欠くとして却下されると考えられています。これは、給付を求める訴えの方が紛争のより直接的な解決になる、という考え方によるものです(最高裁平成16年3月25日判決参照)。ただし、この考え方は、反訴が適法に提起されていることが前提であり、反訴が損害の一部にとどまる場合や、本訴と反訴の請求の範囲が一致しない場合などには、そのまま当てはまるとは限りません。本訴と反訴の関係をどう整理するかは、請求の範囲を踏まえた個別の検討が必要です。
治療中・後遺障害未確定で提訴された場合
まだ治療を続けている段階や、症状固定前、後遺障害の申請前であっても、加害者側から債務不存在確認請求訴訟を起こされることがあります。この場合でも、治療中であることだけを理由に、訴えが当然に却下されるとは限りません。
症状固定の時期は、相手方や保険会社の主張だけで決まるものではなく、医師の判断や診療の経過などを踏まえて判断されます。保険会社が治療費の支払を打ち切った日が、そのまま症状固定の日になるわけではない点にも注意が必要です。治療中や後遺障害が未確定の段階では、診断書、診療録、画像、検査結果、症状の経過、仕事や日常生活への影響などを整理しておくことが、その後の対応の土台になります。
後遺障害の認定前に反訴を検討する場合には、請求する損害の範囲、将来の損害の扱い、損害の一部のみを請求するかどうか、後に請求を拡張する余地などについて、個別に検討する必要があります。なお、治療を続けるかどうかは医学的な判断を含む事柄ですので、この記事で治療の要否を指示することはできません。治療方針は主治医とよく相談してください。
誰が何を立証するのか
「訴えたのは加害者側だから、加害者側がすべてを立証する」あるいは「被害者は被告だから何も立証しなくてよい」と考えるのは、正確ではありません。債務不存在確認請求訴訟であっても、どの事実を誰が主張・立証すべきかは、その争いの土台にある実体法上の請求権や抗弁の内容に応じて分配されます。
交通事故の損害賠償責任には、主に民法第709条に基づく過失責任と、自動車損害賠償保障法第3条に基づく運行供用者責任があります。両者は要件や立証の構造が異なり、同じものとして扱うことはできません。民法第709条では、被害者側が相手方の過失、事故と損害との因果関係、損害の発生・金額などを主張・立証していくことになります。これに対し、人身損害について自動車損害賠償保障法第3条を用いる場面では、立証の構造が異なり、加害者側が法律の定める免責事由を立証しない限り責任を負うという枠組みがとられています。どの請求権を前提とするかによって、立証の負担が変わる点に注意が必要です。
いずれにしても、被害者側としては、事故の発生、受傷、因果関係、治療の必要性、損害の項目と金額などについて、具体的な主張と資料の準備が求められます。加害者側が、弁済(既払)や過失相殺などの主張をする場合には、その内容に応じて立証の関係も変わってきます。下の表は、主な争点と、確認すべき資料の対応関係の一例です。
| 主な争点 | 問題となる事実 | 主な確認資料 |
|---|---|---|
| 事故態様・過失割合 | 事故がどう起きたか、双方の過失 | 交通事故証明書、実況見分調書、事故状況図、ドライブレコーダー映像 |
| 因果関係・受傷 | 事故と症状の関係、けがの内容 | 診断書、診療録、画像データ、検査結果 |
| 治療の必要性・期間 | 治療が必要・相当であったか | 診療報酬明細書、通院経過が分かる資料 |
| 後遺障害・逸失利益 | 後遺障害の有無・程度、将来収入への影響 | 後遺障害診断書、等級認定に関する資料、収入資料 |
| 休業損害 | 休業の必要性、基礎となる収入 | 休業損害証明書、給与明細、源泉徴収票、確定申告書 |
| 既払金・各種給付 | すでに支払われた金額、控除の当否 | 既払金の資料、保険給付や労災給付の支払資料 |
法律上どちらが立証責任を負うかという問題と、実務上どちらが証拠を出しておくべきかという問題は、必ずしも一致しません。立証責任がない事項でも、自分に有利な事実を裏づける資料を早めに準備しておくことが、結果的に有利に働くことがあります。過失相殺や各種給付の控除などの扱いは争点ごとに異なりますので、一括りに考えないよう注意してください。
訴訟対応で準備する資料
訴訟に対応するうえで、どのような資料を集めるかは、争点によって変わります。次の表は、加害者側の主張に対して、被害者側が確認・反論する事項と、その裏づけとなる主な資料を整理したものです。すべてが必要になるとは限りませんが、手元にある資料を早めに確認しておくと、方針を立てやすくなります。
| 相手方が主張しがちな点 | 確認・反論する事項 | 主な資料 |
|---|---|---|
| 過失は被害者側にも大きい | 事故態様と過失割合の当否 | 交通事故証明書、刑事記録(実況見分調書等)、現場写真、ドライブレコーダー映像 |
| 症状は事故と関係が薄い | 事故と受傷・症状の因果関係 | 診断書、診療録、画像データ、検査結果 |
| 治療が長すぎる・過剰 | 治療の必要性・相当性、通院経過 | 診療報酬明細書、通院状況の分かる資料 |
| 後遺障害はない・程度が軽い | 後遺障害の有無・程度、逸失利益 | 後遺障害診断書、等級認定に関する資料、異議申立関係資料 |
| 休業の必要はなかった | 休業の必要性、基礎収入 | 休業損害証明書、給与明細、源泉徴収票、確定申告書、決算書 |
| すでに十分支払った | 既払金・各種給付の内訳と控除の当否 | 既払金の資料、人身傷害保険金・労災給付等の支払資料 |
| 提示額で解決済みのはず | 交渉の経過、合意の有無 | 相手方や保険会社とのメール・書簡、示談提示書、交渉経過の記録 |
このほか、訴状、証拠説明書、書証、期日呼出状、答弁書催告状、送達時の封筒といった裁判所からの書類一式や、本人・家族の保険証券、約款、弁護士費用特約の案内も、あわせて確認しておくとよい資料です。
訴訟の流れと解決方法
訴訟は、おおまかに、訴状の受領、答弁書の提出、争点や証拠の整理、(必要に応じて)反訴の提起、書証や尋問などの証拠調べ、そして和解又は判決、という流れで進みます。どのくらいの期間がかかるかは事案によって大きく異なり、標準的な期間を一律に示すことはできません。
手続の進め方に関しては、令和8年5月21日から、改正された民事訴訟法などにより、民事裁判手続のデジタル化が本格的に始まっています。弁護士などの訴訟代理人には、裁判所のシステム(MINTS)を用いたオンラインでの提出が義務づけられています。本人が対応する場合の提出方法を含め、具体的な取扱いは事件の内容や裁判所の案内によって異なりますので、届いた書面の指示に従い、提出方法もあわせて確認してください。古い時期の書式や提出方法をそのまま前提にしないよう注意が必要です。
時効・判決の効力・清算条項で注意すること
損害賠償請求権には、時効による期間制限があります。人身損害と物的損害、自賠責への請求などで、期間や起算点の考え方が異なる場合があります。「訴訟が始まったのだから、時効はもう心配ない」と自己判断してしまうのは危険です。本訴に応訴し、あるいは反訴を提起することが、どの請求権について、どの範囲で時効の完成猶予や更新の効果を持つかは、具体的な訴訟行為の内容によって変わり得るためです。時効の一般的な仕組みや年数については、交通事故の損害賠償請求権の時効を確認するもあわせてご覧ください。
判決の効力についても、確認判決と給付判決とでは意味が異なります。確認判決は法律関係の存否を確認するにとどまり、給付判決は支払を命じて執行力を持ちます。また、判決や和解で一度解決した後に、新たに判明した損害や予見が難しかった後遺障害をどう扱うかは、既判力の範囲や清算条項の内容にかかわる複雑な問題です。「判決後は将来の請求が一切できない」「将来の損害はいつでも追加で請求できる」と単純に言い切ることはできませんので、和解案や判決の内容は、対象となる損害の範囲まで含めて確認することが大切です。
弁護士に相談するタイミング
債務不存在確認請求訴訟を起こされた場合、次のような場面が、弁護士に相談する一つの目安になります。相談によって結果が保証されるわけではありませんが、請求の範囲、争点、必要な証拠、対応の順序を整理しやすくなります。
- 訴状を受け取り、答弁書の提出期限を確認した直後
- 答弁だけでよいか、反訴まで検討すべきか判断がつかないとき
- まだ治療中で、症状固定や後遺障害の見通しが立っていないとき
- 相手方から和解案や一定額の提示を受けたとき
- 弁護士費用特約が使えるかどうかを確認したいとき
特に、答弁書の提出期限は、届いた書面で客観的に決まっています。期限が迫ってから慌てて対応するよりも、余裕をもって資料を確認し、方針を検討しておくことをおすすめします。弁護士費用特約の確認手順については、弁護士費用特約を使う前に確認すべき保険内容と流れを見るもあわせてご覧ください。
神戸みらい法律会計事務所では、交通事故に関するご相談に対応しています。訴状、医療資料及び保険資料を確認したうえで、答弁、反訴、証拠収集及び和解の順序を一緒に整理します。初回のご相談は無料で承っています(対象分野や予約状況などの詳細は問い合わせページでご確認ください)。
よくある質問
交通事故の被害者なのに、なぜ被告になるのですか。
加害者側が「損害賠償債務は存在しない」「一定額を超える債務は存在しない」ことの確認を求めて先に訴えを起こすと、賠償請求権を有すると主張する被害者が被告になります。ここでの被告は、民事訴訟で訴えられた側という手続上の呼び方で、刑事事件の被告人とは異なります。
訴状が届いた時点で、加害者側の主張が認められたのですか。
いいえ。訴状が届いた時点では、これから審理が始まるにすぎず、加害者側の主張が認められたわけではありません。ただし、放置は禁物です。答弁書の提出期限と第1回期日を確認し、期限内に対応することが重要です。
答弁書を提出しないとどうなりますか。
答弁書を提出せず、期日にも対応しないと、原告の主張した事実を争わないものとして扱われ、不利益な判決がされる可能性があります。もっとも、放置すれば必ず全面的に敗訴すると決まっているわけではありません。いずれにしても、期限内の対応が大切です。
債務不存在確認請求訴訟では、必ず反訴が必要ですか。
必ず必要というわけではありません。答弁だけで争う方法もあります。ただし、加害者側に賠償金の支払を求め、執行力のある判決を得たい場合には、反訴が重要な選択肢になります。反訴の要否は、治療状況や損害額の確定状況などにより、個別に検討します。
反訴をすると、加害者側の本訴はどうなりますか。
同一の債権について適法な給付の反訴が提起されると、本訴のうち反訴と重なる部分は、確認の利益を欠くとして却下されると考えられています。もっとも、反訴が損害の一部にとどまる場合など、請求の範囲が一致しないときは扱いが異なり得ますので、個別の検討が必要です。
まだ治療中や後遺障害申請前でも反訴できますか。
治療中や後遺障害が未確定でも対応を検討できます。ただし、請求する損害の範囲や将来の損害の扱い、損害の一部のみを請求するかなどについて、個別の検討が必要です。症状固定の時期は相手方の主張だけで決まるものではなく、医療資料の整理が重要になります。
訴訟が始まれば、損害賠償請求権の時効は心配ありませんか。
「訴訟が始まったから時効は大丈夫」と自己判断するのは危険です。応訴や反訴が、どの請求権について、どの範囲で時効の完成猶予や更新の効果を持つかは、具体的な訴訟行為の内容によって変わり得ます。時効については、資料を確認したうえで判断する必要があります。
弁護士費用特約で答弁・反訴の費用をまかなえますか。
本人やご家族の自動車保険などに弁護士費用特約が付いていれば、利用できる場合があります。ただし、対象となる範囲、事前の承認、限度額などは約款や保険会社によって異なり、必ず使えるとは限りません。加入状況や適用条件は、保険証券や約款を確認してください。
まとめ
交通事故の被害者が、加害者側から債務不存在確認請求訴訟を起こされた場合のポイントを整理します。
- 訴状が届いても、加害者側の主張が認められたわけではないが、放置はしない。まず訴状一式と封筒を保管し、答弁書の提出期限と第1回期日を確認する。
- 答弁は本訴を争う対応、反訴は加害者側に支払を求める訴え。確認判決には執行力がなく、給付を求めるなら反訴が重要な選択肢になる。
- 治療中や後遺障害が未確定でも、当然に却下されるとは限らない。医療資料の整理と、請求範囲の個別検討が大切。
- 時効は自己判断せず、弁護士費用特約の有無も早めに確認する。
- 相談時には、訴状一式、医療資料、収入資料、保険関係資料を準備すると、方針を整理しやすい。
債務不存在確認請求訴訟への対応は、答弁書の提出期限までに、請求の範囲と争点を整理することが出発点になります。神戸みらい法律会計事務所では、交通事故に関するご相談を承っています。手続前に、時効、治療・後遺障害の見通し、弁護士費用特約などを一度確認することをおすすめします。
監修者・執筆者
藤井貴之(ふじいたかゆき)
弁護士・公認会計士(兵庫県弁護士会所属)。神戸みらい法律会計事務所(弁護士法人ひょうご支所神戸みらい法律会計事務所)代表弁護士。交通事故に関する損害賠償請求や示談交渉、訴訟対応などに取り組んでいます。
参考資料
本記事は、交通事故の債務不存在確認請求訴訟に関する一般的な解説です。実際の結論は、訴状の内容、事故の状況、治療の経過、請求の範囲及び証拠によって異なります。個別の事案については、資料を確認したうえで弁護士にご相談ください。

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