交通事故で手首や肘を骨折し、治療を続けて「骨はついた」「治った」と言われたのに、手首が事故前のように曲がらない、肘の曲げ伸ばしがしづらい、細かい作業がしにくい、力が入りにくい、痛みやしびれが残る——このような状態でお困りの方は少なくありません。
「骨折が治ったこと」と「後遺障害が残らないこと」は、実は別の問題です。骨がついても、関節の動く範囲(可動域)が狭くなったり、痛みやしびれが続いたりすることがあり、これらは後遺障害として評価される場合があります。とくに手作業を伴う仕事をされている方にとっては、仕事への影響や、保険会社との示談の進め方が大きな関心事になります。
この記事で分かること
- 手首(手関節)・肘(肘関節)の代表的な骨折と「機能障害」の基礎知識
- 後遺障害等級で何が確認されるか(可動域・画像所見・症状固定・後遺障害診断書)
- 可動域制限が仕事に与える影響と、手作業を伴う職種での整理の仕方
- 利き手か否かと逸失利益の関係(利き手だけで結論は決まりません)
- 示談前・後遺障害申請前に確認しておきたい資料と、相談を検討するタイミング
なお、後遺障害等級や損害額、逸失利益は、医療記録や仕事内容を確認したうえで判断すべきもので、個別事情により結論は異なります。以下は一般的な考え方の整理であり、断定的な見込みを示すものではありません。示談書に署名する前や後遺障害の申請前に、一度資料を確認しておくことをおすすめします。
手首・肘の動かしにくさや痛みが残り、仕事や示談への影響が心配な方は、後遺障害診断書や仕事内容の資料をもとに、申請の要否や対応方針を整理することができます。
Contents
先に結論|手首・肘の機能障害で確認すべきこと
手関節・肘関節の機能障害が後遺障害として問題になる場合、実務では次のような点が重要になります。数値だけで機械的に決まるものではなく、複数の資料を総合して判断されます。
| 確認する事項 | なぜ重要か |
|---|---|
| 可動域の測定値(健側との比較) | 手関節・肘関節の機能障害は、原則として障害のない側(健側)と比べて、関節の動く範囲がどの程度制限されているかで評価されます。 |
| 画像所見(レントゲン・CT・MRI等) | 可動域制限や痛みの原因を客観的に裏づける資料として重視されます。 |
| 治療経過・症状固定時の状態 | いつ症状固定と判断され、その時点でどのような症状が残っていたかが評価の前提になります。 |
| 利き手か否か・仕事内容 | 日常動作や仕事への影響、逸失利益を検討するうえで重要な事情になります。 |
| 後遺障害診断書の記載 | 可動域の数値等が記載されていないと、機能障害として評価する前提を欠くことがあります。 |
これらの資料は、症状固定の前後で整えておくと、後遺障害申請や損害項目の整理につながります。
手首・肘の代表的な骨折と「機能障害」の基礎知識
代表的な骨折の種類
手首・肘の周辺では、交通事故により次のような骨折が生じることがあります。いずれも一般的な名称であり、実際の診断名や治療方針は、医師の診断書・画像所見・診療録によって判断されます。ここでの説明は医学的診断に代わるものではありません。
- 橈骨遠位端骨折:手首側にある橈骨(とうこつ)の先端部の骨折で、手首の骨折として代表的なものです。
- 尺骨茎状突起骨折:手首の小指側にある尺骨の突起部分の骨折です。
- 舟状骨骨折:手首の小さな骨のひとつで、癒合しにくいことがあるとされます。
- 肘頭骨折・橈骨頭骨折:肘の周辺の骨折で、肘の曲げ伸ばしや前腕の回旋に影響することがあります。
- 上腕骨遠位端骨折:肘に近い上腕骨側の骨折です。
これらに加えて、脱臼、靱帯損傷、変形して癒合した状態(変形癒合)、神経症状などを伴うこともあります。骨がついた後も、可動域制限や痛み・しびれが残るかどうかは、経過を確認する必要があります。
手関節・肘関節・手指の違い
後遺障害の評価では、どの部位の障害かによって考え方が異なります。混同されやすいため整理します。
- 手関節(手首の関節)・肘関節(肘の関節):肩関節とあわせて「上肢の三大関節」と呼ばれ、これらの関節の動きの制限は「関節の機能障害」として評価されます。
- 手指(指):指の欠損(失う)や、指自体の動きの障害は、手関節・肘関節とは別の系列の後遺障害として評価されます。手首・肘の機能障害とは分けて検討する必要があります。
機能障害として問題になる症状
手関節・肘関節の機能障害では、次のような症状が問題になります。
- 可動域制限:手関節の背屈(手の甲側に反らす)・掌屈(手のひら側に曲げる)、橈屈・尺屈、肘関節の屈曲・伸展、前腕の回内・回外(手のひらを上下に返す動き)などが、制限されることがあります。
- 疼痛・しびれ:骨癒合後も痛みやしびれが残ることがあります。これらは可動域制限とは別に、神経症状として評価される場合があります。
- 握力低下・巧緻(こうち)性の低下:力が入りにくい、細かい作業がしづらいといった支障です。仕事内容によっては大きな影響になります。
後遺障害等級で確認されるポイント
症状固定と後遺障害診断書
後遺障害の申請では、これ以上治療を続けても症状の改善が見込みにくい状態(症状固定)に至った後、医師に後遺障害診断書を作成してもらうことが出発点になります。症状固定の時期は医学的判断によるもので、主治医とよく相談して判断されることが重要です。
後遺障害診断書には、可動域の測定値、画像所見、神経症状の有無、治療経過などが記載されます。とくに関節の機能障害では、可動域の数値が記載されていないと、機能障害として評価する前提を欠いてしまうことがあります。
三大関節の機能障害の等級の考え方
上肢(腕)の関節の機能障害は、自動車損害賠償保障法施行令別表第二の後遺障害等級表において、次のように区分されています。実際にどの等級に当たるか(あるいは非該当か)は、可動域の測定値、画像所見、治療経過、症状固定時の状態などを総合して判断されるもので、以下は枠組みの整理です。
| 等級(号) | 障害の内容 | 可動域のおおまかな目安 |
|---|---|---|
| 第8級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの | 関節が強直した、またはこれに近い状態(自動で動かせる範囲が健側の約1割以下)とされています。 |
| 第10級10号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの | 可動域が健側の2分の1以下に制限されているものとされています。 |
| 第12級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | 可動域が健側の4分の3以下に制限されているものとされています。 |
上の表は等級の枠組みを示すものです。実際には、「可動域が何度なら必ず何級」と単純に決まるわけではありません。関節を自分で動かした値(自動値)と他人が動かした値(他動値)のどちらで見るか、健側との比較、痛みの程度、画像所見、治療経過などをあわせて判断されます。前腕の回内・回外(回旋)の障害は、手関節や肘関節とは別の考え方で評価されることもあります。見込みを断定できるものではないため、資料を確認したうえでの検討が必要です。
可動域の測定方法と画像所見
関節の可動域は、日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会が定める「関節可動域表示ならびに測定法」に従い、角度計(ゴニオメーター)を用いて測定するのが一般的です。左右がある関節では、原則として障害のない側(健側)と比較して評価されます。
測定の方法や記載が適切でないと、本来評価されるべき制限が反映されないことがあります。可動域制限を裏づける画像所見(レントゲン・CT・MRI等)とあわせて、後遺障害診断書の記載を確認しておくことが大切です。
仕事への影響をどう整理するか
手作業を伴う職種の例
手関節・肘関節の可動域制限や巧緻性の低下は、次のような手作業・反復動作を伴う仕事に影響することがあります。
- 製造・組立、検品、仕上げなどの細かい手作業
- 縫製・裁断など、手指の細かな操作を要する作業
- 介護・調理・美容など、手や腕を繰り返し使う作業
- 運転、事務作業(キーボード操作・書字)など
大切なのは、「どの作業が、どの動きの制限によって、どの程度難しくなったか」を具体的に整理することです。抽象的に「不便になった」ではなく、作業内容と制限された動きを結びつけて説明できると、仕事への影響を検討しやすくなります。
神戸・長田区周辺の地場産業と手作業
神戸市の長田区周辺(須磨区を含む地域)は、全国有数の靴(ケミカルシューズ・神戸シューズ)の産地として知られています。兵庫県や神戸市の公表資料によれば、この産業は手工業的な性格が強く、縫製や裁断など、職人の手による工程を含むとされています。
こうした手作業・巧緻性を要する工程に従事している方の場合、手首や肘の機能障害が仕事の速度や精度に影響することがあります。もっとも、影響の有無や程度は職種・作業内容・個人の事情によって異なり、特定の産業に従事しているというだけで一律に支障が生じるわけではありません。実際の作業内容に即して、どの工程がどのように難しくなったかを資料化していく視点が実務的には重要です。
利き手か否かと逸失利益
逸失利益の基本的な考え方
後遺障害による逸失利益(将来の収入減少に対する賠償)は、一般的に次の要素で考えられます。
- 基礎収入:事故前の収入などをもとにした基礎となる収入
- 労働能力喪失率:後遺障害によって労働能力がどの程度失われたかの割合
- 労働能力喪失期間:将来にわたり影響が続くと考えられる期間(これに対応する中間利息控除の係数を用います)
労働能力喪失率については、労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発第551号)別表による喪失率が参考とされることが多く、たとえば第8級で45%、第10級で27%、第12級で14%とされています。もっとも、この表はあくまで参考であり、実際の喪失率は、後遺障害の部位・程度に加え、被害者の職種、年齢、現実の減収の有無、仕事への具体的な影響などを総合して判断されます。表の数値より高く評価される場合も、低く評価される場合もあり、個別事情により結論は異なります。
利き手・非利き手と巧緻性
利き手に機能障害が残った場合、書字や細かい作業など日常動作・仕事への影響が大きくなりやすい面はあります。しかし、逸失利益は利き手か否かだけで決まるものではありません。
- 利き手でない側でも、両手を使う作業、物を保持・支える動作、反復動作などで影響が出ることがあります。
- 手指・手関節の巧緻性が業務の核となる職種では、利き手か否かにかかわらず、作業内容の具体化が重要になります。
- 最終的には、仕事内容、収入、年齢、後遺障害等級、労働能力喪失率、減収の有無、配置転換や職場の配慮の有無、証拠関係などにより結論が変わります。
よく問題になるケース
次のような場面は、相談者が迷いやすいところです。いずれも一般的な確認ポイントであり、結論は資料の確認が必要です。
- 橈骨遠位端骨折の後、手首の曲げ伸ばしがしづらい状態が残っている
- 肘の曲げ伸ばしや、前腕の回旋(手のひらを返す動き)がしにくい
- 骨はついたが、痛みやしびれが続いている
- 利き手に制限が残り、仕事の速度や精度が落ちたと感じている
- 保険会社から示談を勧められているが、後遺障害の申請をすべきか分からない
- 後遺障害が非該当とされた、または想定より低い等級だった
- 手指の障害と、手関節・肘関節の機能障害が区別されずに検討されている
手関節・肘関節の機能障害と「手指」の後遺障害の違い
手首・肘の機能障害(可動域制限など)と、指を失った・指自体が動かしにくいといった手指の後遺障害は、後遺障害等級表上、別の系列として評価されます。手指の欠損や用廃(指の用を廃した状態)は、手関節・肘関節の機能障害とは判断の枠組みが異なるため、両方の症状がある場合には、それぞれを分けて検討する必要があります。ご自身の症状がどちらに当たるか(あるいは両方か)は、診断書や画像を確認したうえで整理することになります。
示談前・後遺障害申請前のチェックリスト
示談書に署名する前、後遺障害の申請前、症状固定の前、異議申立てを検討する前に、次の資料を確認・準備しておくと、損害項目や申請方針の整理につながります。
- 後遺障害診断書(可動域の数値、画像所見、神経症状の記載があるか)
- レントゲン・CT・MRIなどの画像資料
- 診療録(カルテ)・リハビリの記録・可動域の測定経過
- 交通事故証明書、事故状況が分かる資料
- 休業損害証明書、給与明細、源泉徴収票(給与所得者の場合)
- 確定申告書・決算関係資料(自営業者・個人事業者の場合)
- 仕事内容が分かる資料(担当作業・工程・反復動作などのメモ)
- 保険会社から届いた提示書面(示談案・損害額の内訳)
後遺障害診断書に可動域の数値が記載されていない、または測定方法が適切でないと、機能障害として評価される前提を欠くことがあります。申請前に記載内容を確認しておくことが大切です。
弁護士に相談するタイミング
弁護士に相談しても、後遺障害の認定結果や賠償額を保証できるものではありません。もっとも、早い段階で資料を整理することで、後遺障害申請の要否や、損害項目・示談対応の見通しを検討する材料を整えることができます。次のような場面が、相談を検討するひとつの目安になります。
- 症状固定や後遺障害申請の要否を検討したいとき
- 後遺障害診断書の記載内容を確認しておきたいとき
- 保険会社から示談案が届いたが、内容の前提を確認したいとき
- 後遺障害が非該当・低位認定となり、異議申立てを検討したいとき
- 手作業を伴う仕事への影響を、資料に基づいて整理したいとき
手首・肘の機能障害について、後遺障害診断書や仕事内容の資料をもとに、申請の要否や示談対応の方向性を整理することができます。示談前・申請前に一度ご確認いただくと、後から争点になりやすい項目を整理しやすくなります。
橈骨遠位端骨折で後遺障害が認定されることはありますか?
可動域制限や痛み・しびれなどが残った場合、後遺障害の対象となる可能性があります。ただし、認定されるかどうかは、可動域の測定値、画像所見、治療経過、症状固定時の状態などを確認したうえで判断されるもので、個別事情により結論は異なります。
手首の可動域制限は、どのような資料で確認されますか?
角度計を用いて測定した可動域の数値(原則として健側との比較)と、レントゲン・CT・MRIなどの画像所見が重要になります。後遺障害診断書にこれらが適切に記載されているかを確認することが大切です。
肘が曲がりにくい場合も後遺障害の対象になりますか?
肘関節も上肢の三大関節のひとつであり、可動域制限が残った場合は機能障害として評価される可能性があります。前腕の回旋(手のひらを返す動き)の障害が問題になることもあります。いずれも資料の確認が必要です。
利き手に障害が残ると逸失利益は変わりますか?
利き手の障害は仕事や日常動作への影響が大きくなりやすい事情ですが、逸失利益は利き手か否かだけで決まるわけではありません。職種、収入、年齢、後遺障害等級、労働能力喪失率、減収の有無などを総合して判断されます。
手作業の仕事で支障がある場合、何を準備すればよいですか?
後遺障害診断書や画像に加えて、担当している作業内容・工程・反復動作が分かる資料を整理しておくと役立ちます。「どの作業が、どの動きの制限で難しくなったか」を具体的に示せることが重要です。
骨折後の痛みだけでも後遺障害申請はできますか?
痛みやしびれなどの神経症状も、後遺障害として評価される場合があります。ただし、症状を裏づける画像所見や治療経過などが確認されるかどうかによって判断が分かれます。可動域制限とは別枠で検討されることがあります。
保険会社から示談案が届いた後でも相談できますか?
示談案を受け取った後でも、内容を確認し、損害項目や提示額の前提を検討することは可能です。ただし、示談が成立すると原則としてやり直しが難しくなるため、署名する前に資料を確認しておくことをおすすめします。
手指の欠損や動かしにくさは別に検討する必要がありますか?
手指の欠損や指自体の機能障害は、手関節・肘関節の機能障害とは別の系列の後遺障害として評価されます。両方の症状がある場合は、それぞれを分けて検討する必要があります。
まとめ|次に確認したいこと
- 骨折が治っても、可動域制限・痛み・しびれが後遺障害として評価される場合があります。
- 手関節・肘関節の機能障害は、可動域(健側との比較)・画像所見・治療経過・症状固定時の状態を総合して判断されます。
- 仕事への影響は、「どの作業が、どの動きの制限で難しくなったか」を具体的に整理することが重要です。
- 逸失利益は利き手か否かだけで決まらず、職種・収入・年齢・等級・減収の有無などにより結論が変わります。
- 手指の後遺障害は別系列であり、分けて検討する必要があります。
- 示談前・後遺障害申請前に、後遺障害診断書や仕事内容の資料を確認しておくことが大切です。
手首・肘の機能障害でお悩みの方は、資料をもとに後遺障害申請の要否や示談対応を検討できます。相談は、結果を保証するものではなく、判断材料や対応の方向性を整理するためのものです。まずはお気軽にご相談ください。
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監修者・執筆者
弁護士・公認会計士 藤井 貴之(神戸みらい法律会計事務所〔弁護士法人ひょうご支所〕 代表弁護士)
兵庫県弁護士会所属。交通事故、相続・遺言、離婚・男女問題、債務整理、刑事事件、企業法務などを取り扱う。財務・税務の視点もふまえた対応に努めている。
参考資料
- e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法」「自動車損害賠償保障法施行令」(別表第二 後遺障害等級表)
- 国土交通省「自賠責保険・共済の限度額と補償内容」「後遺障害等級表」
- 国土交通省・金融庁告示「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」
- 厚生労働省「障害等級の認定基準」(障害等級表・関節機能障害の認定の考え方)
- 日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会「関節可動域表示ならびに測定法」

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