交通事故のあとに、「手元の書類から前を向いたとき、ピントが合うまで時間がかかる」「画面の文字がぼやけて、目を凝らさないと読めない」「事故前は使っていなかった近用の眼鏡が必要になった」といった変化が続く方がいます。眼科では「視力は出ています」と言われ、それでも見えにくさが残るため、後遺障害の対象になるのか分からない、というご相談を受けます。
眼が距離に応じてピントを合わせる働きを調節といい、この働きが低下した状態を調節機能障害といいます。自動車損害賠償保障法施行令別表第二では、第11級第1号と第12級第1号に「眼球に著しい調節機能障害」を残した場合が定められています。もっとも、「ピントが合いにくい」という自覚症状だけで等級が決まるわけではありません。左右別に測定した調節力の数値、比較の相手方となる基準、事故との因果関係、症状固定時に残っている状態、提出資料の内容を踏まえて判断されます。この記事では、等級の区分、判断基準、老視や既往症との切り分け、申請前にそろえておきたい検査結果と診療記録を整理します。個別事情により結論は異なります。
- 第11級第1号と第12級第1号の違いと、両眼・一眼の区分
- 「著しい調節機能障害」とされる調節力の水準と、二つの比較方法
- 治ゆ時の年齢に対応する調節力と、55歳以上の場合の取扱い
- 老視・既往症と事故による低下を切り分けるために必要な資料
- 視力障害、複視、外傷性散瞳が併存する場合の等級の考え方
眼の症状は、視力、調節機能、眼球運動、視野と評価の枠組みが分かれており、どの検査結果が足りないのかが分かりにくい分野です。診断書や検査結果を確認したうえで、法律上の見通しを検討します。
交通事故でピントが合わなくなった場合の結論と全体像
調節機能障害が後遺障害として評価されるかは、次の順序で検討します。いずれかが欠けたまま申請すると、症状があっても評価につながりにくくなります。
| 確認する事項 | 確認の内容 |
|---|---|
| 障害を受けた眼の範囲 | 事故により障害を受けたのが一眼か両眼か |
| 調節力の数値 | 症状固定の前後に、左右別の近点距離・遠点距離・調節力の測定があるか |
| 比較の方法 | 反対眼の調節力と比較する場面か、年齢別の調節力と比較する場面か |
| 老視・既往症との関係 | 事故前の眼科受診歴、眼鏡の処方歴、眼科手術歴の有無 |
| 事故との因果関係 | 受傷機転、症状の出現時期、初診時期、治療経過の連続性 |
| 併存する眼の障害 | 視力障害、視野障害、眼球運動障害、複視、外傷性散瞳の有無 |
眼の調節機能障害とは何か
調節力、近点、遠点、ジオプトリー
眼は、水晶体の屈折力を変化させて、遠くの対象にも近くの対象にもピントを合わせています。日本眼科学会の手引きでは、遠点は無調節の状態で網膜中心窩に結像する外界の点、近点は調節を最大に働かせたときに結像する点とされ、遠点と近点の距離範囲を調節域、これをジオプトリー(D)で表したものを調節力としています。眼前の距離を正と定義する場合、調節力は「1÷近点距離(メートル)-1÷遠点距離(メートル)」で求められるとされています。
調節力は加齢により変化し、同手引きでは、10代後半から低下が始まり、40代以降は徐々に減退するとされています。調節力の数値は、それだけで「低い=事故による障害」と評価できるものではなく、年齢や反対眼の状態と対比して初めて意味を持ちます。
視力障害・視野障害・眼球運動障害・複視との違い
眼の後遺障害は、評価する機能ごとに枠組みが分かれています。同じ「見えにくい」という訴えでも、評価の対象と認定基準が用いる物差しは異なります。
| 障害の種類 | 評価の対象となる機能 | 認定基準上の主な物差し |
|---|---|---|
| 調節機能障害 | 距離に応じてピントを合わせる機能 | 調節力(D)が通常の場合の2分の1以下に減じたか |
| 視力障害 | 対象物を識別する能力 | 原則として矯正視力の値 |
| 眼球運動障害 | 眼球を動かして対象を直視する機能 | 注視野の広さが2分の1以下に減じたか |
| 複視 | 物が二重に見えるかどうか | 正面視で複視が生じるかなど、両眼視の状態 |
| 視野障害 | 見える範囲の広さと欠損の有無 | 視野検査による欠損の程度 |
視力低下や複視が中心の場合は、確認する検査も等級の枠組みも変わります。視力低下・視野障害の後遺障害を確認する、複視・眼球運動障害の記事を読むもあわせてご覧ください。
第11級第1号と第12級第1号の違い
自動車損害賠償保障法施行令別表第二は、第11級第1号を「両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの」、第12級第1号を「一眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの」と定めています。両眼に著しい調節機能障害が残った場合は、二つの第12級第1号を機械的に併合するのではなく、等級表に明記された両眼の障害として検討します。
| 項目 | 第11級第1号 | 第12級第1号 |
|---|---|---|
| 施行令別表第二の文言 | 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの | 一眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの |
| 対象となる眼 | 両眼 | 一眼 |
| 自賠責保険の保険金額(支払限度額) | 331万円 | 224万円 |
| 自賠責の支払基準上の後遺障害慰謝料 | 136万円 | 94万円 |
| 判断の際の留意点 | 両眼それぞれの調節力の測定結果が必要となる | 反対眼に異常があるかどうかで比較の方法が変わる |
この二つの号は、調節機能障害と眼球の運動障害の両方を対象としています。もっとも、労災の認定基準では、著しい調節機能障害は調節力が2分の1以下に減じたもの、著しい運動障害は注視野の広さが2分の1以下に減じたものとされ、同じ「2分の1以下」でも測る対象が違います。注視野とは、頭部を固定して眼球を運動させ直視できる範囲をいい、多数人の平均では単眼視で各方面約50度、両眼視で各方面約45度とされています。
「著しい調節機能障害」とされる判断基準
調節力が通常の場合の2分の1以下であること
自賠責保険における後遺障害の等級認定は、金融庁・国土交通省の定める支払基準により、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行うものとされています。その労災の認定基準(厚生労働省「眼の障害に関する障害等級認定基準について」)では、「眼球に著しい調節機能障害を残すもの」とは、調節力が通常の場合の2分の1以下に減じたものをいうとされています。
この「通常の場合」が何を指すかは、障害を受けた眼が一眼か両眼か、反対眼に異常があるかによって変わります。
反対眼との比較と、年齢別の調節力との比較
| 場面 | 比較の相手方 | 対象とならないとされる場合 |
|---|---|---|
| 事故により障害を受けた眼が一眼のみで、障害を受けていない眼の調節力に異常がない場合 | 障害を受けていない眼(反対眼)の調節力 | 障害を受けていない眼の調節力が1.5D以下であるとき |
| 両眼が事故により障害を受けた場合、又は障害を受けた眼は一眼であるが反対眼にも調節力の異常が認められる場合 | 治ゆ時の年齢に対応する年齢別の調節力 | 治ゆ時の年齢が55歳以上であるとき |
労災の認定基準は「治ゆ」という語を用います。同基準では、「なおったとき」とは、医学上一般に承認された治療方法をもってしてもその効果が期待し得ない状態(療養の終了)に至り、かつ、残存する症状が自然的経過によって到達すると認められる最終の状態(症状の固定)に達したときをいうとされています。交通事故の実務でいう症状固定と重なる考え方ですが、その時期の評価は個別の判断になります。
年齢別の調節力と、2分の1に相当する値
年齢別の調節力は、労災の認定基準に次の値が示されています。表の年齢は5歳刻みの区分を表し、例えば「40歳」は40歳から44歳までの方に対応するものとして取り扱うとされています。55歳以上の行に2分の1の値を示していないのは、次に述べるとおり、年齢別比較による場合は対象とならないとされているためです。
| 治ゆ時の年齢 | 年齢別の調節力(D) | 2分の1に相当する値(D) |
|---|---|---|
| 15歳 | 9.7 | 4.85 |
| 20歳 | 9.0 | 4.5 |
| 25歳 | 7.6 | 3.8 |
| 30歳 | 6.3 | 3.15 |
| 35歳 | 5.3 | 2.65 |
| 40歳 | 4.4 | 2.2 |
| 45歳 | 3.1 | 1.55 |
| 50歳 | 2.2 | 1.1 |
| 55歳 | 1.5 | - |
| 60歳 | 1.35 | - |
| 65歳 | 1.3 | - |
例えば、両眼が事故により障害を受け、治ゆ時の年齢が45歳である場合、比較の相手方は3.1Dですから、その2分の1に相当する1.55D以下に減じているかが目安になります。もっとも、この数値だけで結論が決まるものではなく、測定の条件や事故との因果関係とあわせて検討されます。表は15歳から65歳までの値であり、これより下又は上の年齢について独自に推計することはできません。
反対眼が1.5D以下の場合と、治ゆ時に55歳以上である場合
反対眼と比較する場面では、反対眼の調節力が1.5D以下であるときは、実質的な調節の機能は失われていると認められるとして対象とならないとされています。年齢別の調節力と比較する場面では、治ゆ時の年齢が55歳以上であるときは対象とならないとされています。この二つは、どちらの比較方法を用いる場面かによって適用が分かれます。「55歳以上であれば一律に認定されない」という説明は正確ではありません。また、この取扱いは調節機能の評価に関するものであり、55歳以上の方について視力障害、視野障害、眼球運動障害、複視などの評価まで否定されるわけではありません。なお、以前の資料に「50歳」を基準とする記載が残ることがありますが、現行の認定基準は上記のとおりです。
調節機能を確認する眼科の検査
調節力を把握する検査には、被検者の応答に基づく自覚的な検査と、機器で測定した屈折度をもとに評価する他覚的な検査があります。日本眼科学会の手引きでは、自覚的な検査について、視標を近方に移動させて明瞭に見える限界点を探る方法が説明されています。他覚的な検査には、オートレフラクトメータ、波面センサー、調節機能解析装置が用いられるとされています。
測定値は、屈折矯正の状態、明視しようとする努力の程度、疲労、点眼薬の影響、検査への協力状況によって変わり得ます。左右で測定条件が異なる場合や、測定時期が症状固定と離れている場合は、数値の意味を説明しにくくなります。近点距離の測定では、調節量を十分に引き出すための声かけを行うとされています。
労災の認定基準は、調節機能障害について特定の検査機器や測定回数を要件として明記していません。「この機器で測らなければ認定されない」と断定することはできません。どの検査をどの時期にどのような条件で行うかは医学的な判断に属します。本記事は診断や治療の方針を示すものではありませんので、必要な検査や記載は主治医の眼科医にご相談ください。
事故との因果関係、老視、既往症の整理
時系列で確認する事項
調節機能の低下が事故によるものかは、事故直後からの症状、眼科の初診時期、左右差、受傷機転との整合性、診療録上の症状の推移、治療経過、症状固定時の残存状態を時系列で並べて検討します。眼球や顔面への外傷、頭部外傷が関係する事案もありますが、受傷機転や診断名だけから有無は判断できません。
老視や既往症があるときの考え方
加齢に伴う老視は、日本眼科学会の説明では、自由にピントを変える力が衰えて近くのものを見る際に困難をきたした状態とされ、40代くらいから眼が疲れるなどの症状が現れ始めるとされています。年齢が近い方の事案では、事故による低下と加齢による変化の切り分けが争点になります。
ここで重要になるのが事故前の資料です。眼科の受診歴、眼鏡やコンタクトレンズの処方記録、近見の訴えの有無、眼科手術歴、事故前後の検査値が手がかりになります。既往症や手術歴があること自体で因果関係が否定されるわけではありませんが、事故前の資料がないほど説明は難しくなります。
反対に、事故後に眼鏡が必要になったという事実だけでは、調節力が2分の1以下に低下したことの裏づけにはなりません。眼鏡で見え方が補われていても、そのことから直ちに事故による低下がないとはいえない一方、眼鏡が必要になったことだけで基準を満たすともいえません。
自覚症状を「気のせい」と評価すべきではありません。検討すべきなのは、検査結果に再現性があるか、症状の経過が診療記録と整合しているか、他に説明できる原因がないか、という点です。
視力障害・複視・外傷性散瞳などが併存する場合
眼の障害の「系列」と、等級を単純に足し合わせない理由
労災の障害等級認定基準は、身体障害を部位と障害の種類により系列に区分し、眼については視力障害、調節機能障害、運動障害、視野障害を別の系列としています。もっとも、両眼球のこれらの障害の各相互間は同一系列とみなすものとされ、同一眼球に系列を異にする二以上の障害が存する場合は、原則として併合の方法を用いて準用等級を定めるものとされています。
同基準は、その例として、両眼の視力が0.6以下となり(第9級第1号)、かつ、一眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの(第12級第1号)は準用第8級とする取扱いを挙げています。単純に足し合わせるのでも、重い方だけを採るのでもない点が分かりにくさの一因です。
外傷性散瞳が併存する場合
外傷性散瞳は、等級表のいずれの系列にも属さないものとして準用等級が定められています。一眼について、瞳孔の対光反射が著しく障害され著明な羞明を訴えて労働に著しく支障をきたすものは第12級を、対光反射はあるが不十分で羞明を訴え労働に支障をきたすものは第14級を準用し、両眼の場合はそれぞれ第11級、第12級を準用するものとされています。そのうえで、外傷性散瞳と視力障害又は調節機能障害が存する場合は、併合の方法を用いて準用等級を定めるものとされています。
事故前から眼に障害があり、事故により重くなった場合は、加重の問題として既存の障害との関係を確認します。併合・準用・加重の一般的な考え方は、併合・加重・準用の違いと確認手順を見るで整理しています。
眼の症状が複数ある事案では、どの症状をどの枠組みで評価するかにより、そろえる検査資料も等級の組み立ても変わります。資料を確認したうえで、不足する検査や記録を整理できます。
後遺障害診断書の作成前・申請前に確認したい資料
自賠責保険の後遺障害診断書には、眼球・眼瞼の障害について、視力(裸眼・矯正)、調節機能(調節力、近点距離、遠点距離)、眼球運動、複視、視野の記載欄があります。調節機能の欄が空欄のまま提出されると、症状の程度を数値で示せません。
| 資料 | 主な用途 |
|---|---|
| 事故前後の眼科の診療録 | 症状の出現時期、左右差、治療経過、事故前の状態の確認 |
| 事故前の眼鏡・コンタクトレンズの処方記録、既往歴、眼科手術歴、服薬・点眼の記録 | 事故前の屈折状態と近くの見え方、既存の障害や他の原因の検討 |
| 救急搬送記録、初診時の診断書、紹介状 | 受傷機転と初期の所見の確認 |
| 左右別の近点距離・遠点距離・調節力の検査結果 | 「著しい調節機能障害」にあたるかの判断の基礎 |
| 左右別の裸眼視力・矯正視力 | 視力障害の有無と、調節機能障害との切り分け |
| 前眼部、中間透光体、眼底、瞳孔や対光反射の所見 | 器質的な変化、外傷性散瞳の有無と原因の確認 |
| 画像検査、神経眼科的な検査、手術記録 | 頭部・眼窩・神経系の損傷との関係の確認 |
| 後遺障害診断書 | 症状固定時に残存する症状と検査値の記載 |
| 交通事故証明書、事故発生状況報告書、事故時の写真 | 眼部・顔面・頭部への外力の確認 |
| 認定結果の通知と理由が記載された書面 | すでに認定結果がある場合の不足資料の把握 |
仕事や日常生活上の支障が分かる記録も有用ですが、左右別の調節力の測定値に代わるものではありません。診断書そのものの確認点は、後遺障害診断書の作成前に確認する資料を見るもご覧ください。
よく問題になる場面
次の場面では判断が分かれやすく、確認すべき資料も異なります。
| 場面 | 確認すること |
|---|---|
| 自覚症状はあるが、調節力の記録がない | 測定結果の有無と、いつの時点の数値であれば意味を持つか |
| 眼鏡を使えば見え方が改善する | 眼鏡による補完と調節力の低下は別であること。数値による確認が必要となること |
| 事故前から老視や眼の疾患、手術の既往がある | 事故前の受診歴・処方歴の所在。別の医療機関にある場合の取寄せの可否 |
| 一眼に症状があるが、反対眼にも異常がある | 反対眼比較ではなく年齢別比較によるため、認定がどちらの枠組みで行われたか |
| 視力低下、複視、外傷性散瞳が併存している | 系列の取扱いにより等級の組み立てが変わること。主たる争点とする症状の選択 |
| 非該当、又は想定より低い等級の認定を受けた | 認定の理由、調節力の測定結果の提出の有無、比較の方法、事故前資料の考慮 |
非該当の通知を受けた場合の考え方は、非該当だった場合の判断材料を確認するをご覧ください。
後遺障害の申請前・示談前のチェックリスト
後遺障害診断書の作成前
- 症状固定の時期について、主治医の医学的な判断を確認しているか
- 左右別の近点距離、遠点距離、調節力が測定されているか
- 裸眼視力と矯正視力が左右別に記載されているか
- 前眼部・眼底・対光反射などの他覚的な所見が記載されているか
- 事故直後からの症状の経過を正確に医師へ伝えられているか
後遺障害の申請方法を決める前
- 事故前の眼科受診歴や眼鏡処方の記録を取り寄せられるか
- 診断書に記載されていない検査結果を、別途添付できるか
- 相手方保険会社に任せる方法と、自ら請求する方法の違いを理解しているか
認定結果への異議申立てを検討する前
- 認定結果の理由を書面で確認し、不足とされた点を把握したか
- 提出済みの資料と、新たに追加できる資料を区別できているか
- 追加する資料が、認定の理由に対応する内容になっているか
- 自賠責保険に対する請求権の期間制限との関係を確認したか
示談書に署名する前
- 提示されている等級と、実際の検査結果に整合しない点がないか
- 後遺障害慰謝料と逸失利益が、どの基準により計算されているか
- 今後の治療や再検査の予定が示談の内容と矛盾しないか
- 署名後は原則としてやり直しができないことを踏まえ、確認の時間を確保したか
申請方法の選び方は事前認定と被害者請求の違いを確認する、症状固定の考え方は症状固定と言われたときの確認事項を見るで整理しています。
等級が認定された場合に問題となる損害
等級が認定された場合は、後遺障害慰謝料と逸失利益が問題になります。混同しやすいのは、自賠責保険から支払われる金額と、裁判実務上参照される基準による金額が別のものだという点です。自賠責保険の支払基準では、後遺障害慰謝料は第11級で136万円、第12級で94万円、支払限度額は第11級で331万円、第12級で224万円とされています。いずれも自賠責保険の枠組みにおける金額であり、加害者本人や任意保険会社に対する請求で認められる金額とは異なります。
逸失利益について、自賠責保険の支払基準は、年間収入額又は年相当額に、該当等級の労働能力喪失率と就労可能年数に対応する係数を乗じて算出するものとしています。もっとも、民事の損害賠償において労働能力の喪失の程度や期間がどう評価されるかは別の問題であり、職種、作業の内容、収入への影響と、それを裏づける資料により結論は変わります。後遺障害慰謝料の考え方を見る、後遺障害逸失利益の計算方法を確認するもご参照ください。
弁護士に相談する時期
ご相談をお受けする時期としては、後遺障害診断書の作成前、申請方法を決める前、認定結果を受けた後、示談書に署名する前の四つが挙げられます。診断書の作成前であれば、どの検査結果が記載されるかを確認し、不足資料を整理する余地があります。弁護士への相談によって等級の認定や増額が保証されるものではありませんが、診療記録、検査結果、後遺障害診断書、認定の理由を確認することで、必要な資料と対応方針を整理しやすくなります。
よくある質問(FAQ)
眼鏡で見えている場合でも、調節機能障害として評価されることはありますか。
眼鏡で日常の見え方が補われることと、調節力が低下していることは別の事柄です。評価の基礎は左右別に測定した調節力の数値であり、眼鏡の使用だけで結論が決まるわけではありません。
矯正視力が良くても、認定の対象になることがありますか。
視力は対象物を識別する能力、調節力は距離に応じてピントを合わせる能力であり、別の評価対象です。矯正視力が良好であることから直ちに調節機能障害が否定されるわけではありませんが、調節力の測定結果による確認は必要です。
片眼と両眼では、後遺障害等級はどのように違いますか。
施行令別表第二では、一眼に著しい調節機能障害を残すものが第12級第1号、両眼に残すものが第11級第1号とされています。両眼の場合は、二つの第12級第1号を機械的に併合するのではなく、両眼の障害として検討します。
老眼と、事故による調節機能障害はどのように区別しますか。
加齢による調節力の低下は誰にでも生じるため、事故前の眼科受診歴、眼鏡の処方記録、事故前後の検査値、症状の出現時期、症状固定時の年齢を対比して検討します。事故前の資料が乏しいほど、切り分けの説明は難しくなります。
55歳以上であれば、調節機能障害として認定されないのですか。
一律にそうなるわけではありません。年齢別の調節力と比較する場面、すなわち両眼が障害を受けた場合や反対眼にも調節力の異常がある場合について、治ゆ時の年齢が55歳以上であるときは対象とならないとされています。この取扱いは調節機能の評価に関するものであり、視力障害や視野障害の評価を否定するものではありません。
後遺障害診断書では、どのような検査結果を確認しますか。
眼球・眼瞼の欄に、左右別の視力(裸眼・矯正)、調節力、近点距離、遠点距離、眼球運動、複視、視野が記載されているかを確認します。調節機能の欄が空欄でないか、測定時期が症状固定と整合しているかも確認します。
視力障害や複視も残っている場合、どのように評価されますか。
眼の障害は視力障害、調節機能障害、運動障害、視野障害の各系列に分かれますが、両眼球のこれらの障害の相互間は同一系列とみなして取り扱われます。単純に足し合わせるのではなく、併合、準用、加重の考え方により検討されます。
非該当だった場合、何を確認してから異議申立てを検討しますか。
認定の理由を確認し、調節力の測定結果が提出されていたか、反対眼との比較と年齢別比較のどちらによったか、事故前の資料が考慮されたかを点検します。そのうえで、理由に対応する医学的資料を追加できるかを検討します。請求権の期間制限も確認します。
まとめ
- 調節機能障害は、施行令別表第二の第11級第1号(両眼)と第12級第1号(一眼)に定められています。
- 「著しい調節機能障害」とは、調節力が通常の場合の2分の1以下に減じたものとされています。
- 比較の相手方は、反対眼の調節力による場合と、年齢別の調節力による場合に分かれます。反対眼が1.5D以下の場合と、年齢別比較で55歳以上の場合とでは適用される場面が異なり、55歳以上を一律に扱う説明は正確ではありません。
- 同じ号に定められた運動障害は、注視野の広さで判断される別の基準です。
- 視力障害や外傷性散瞳が併存する場合は、系列の取扱いを踏まえ、併合・準用により検討されます。
- 左右別の近点距離・遠点距離・調節力の測定結果と、事故前の資料が判断の基礎になります。
- 診断書の作成前、申請方法の決定前、認定結果を受けた後、示談書への署名前が確認の時期です。
ピントが合いにくいという症状は、視力の数値に表れにくく、資料が整わないまま手続が進みやすい分野です。診療記録、検査結果、後遺障害診断書、認定の理由を確認することで、追加すべき資料を整理できます。
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監修者・執筆者
弁護士・公認会計士 藤井 貴之
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所(通称 神戸みらい法律会計事務所)代表弁護士・公認会計士。兵庫県弁護士会所属、日本公認会計士協会兵庫会所属。交通事故、相続、企業法務、労働問題、損害賠償など、個人・法人双方の法律相談に対応しています。交通事故の損害賠償では、法律の観点に加え、損害の算定や保険実務の観点も踏まえた検討を行っています。
参考資料
- e-Gov法令検索 自動車損害賠償保障法施行令(別表第二)
- e-Gov法令検索 自動車損害賠償保障法
- 金融庁・国土交通省 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準
- 国土交通省 自賠責保険・共済の限度額と補償内容(後遺障害等級表)
- 厚生労働省 眼の障害に関する障害等級認定基準について
- 厚生労働省 障害等級認定基準について(障害系列、併合・準用・加重の一般原則)
- 損害保険料率算出機構 自賠責損害調査
- 公益財団法人 日本眼科学会 成人の視力検査および眼鏡処方に関する手引き
- 公益財団法人 日本眼科学会 老視(老眼)
本記事は、交通事故により眼の調節機能障害が残った場合の後遺障害等級と立証に関する一般的な解説です。実際の認定の可否や賠償額は、受傷内容、検査結果、治療経過、事故前の状態、提出資料により異なります。具体的な事案については、資料を確認したうえで弁護士にご相談ください。

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