交通事故でアキレス腱を断裂し、手術又は保存療法を受けた方から、「足首の角度はほぼ戻っていると言われたのに、片足でかかとを上げられない」「階段や坂道で力が抜ける」「長く歩くと翌日までふくらはぎが重い」というご相談をいただくことがあります。医師からは経過は順調だと説明され、保険会社からは治療費の打切りや症状固定の話が出はじめている。それでも、事故の前と同じようには足が使えない。そのような段階で、何をどう記録し、どの順番で手続を進めればよいのかが分からず、迷われる方が少なくありません。
この記事では、治療後に残ることがある症状、可動域制限が残りにくいことがある理由と残る場合、検討の対象になり得る後遺障害等級、治療中から残しておきたい記録の取り方を、法令と公的機関が公表している資料に基づいて整理します。
先に結論の方向性をお伝えします。「足首の動く範囲が戻ったこと」と「足の機能が完全に戻ったこと」は、同じではありません。他方で、自賠責保険の関節の機能障害は、公表されている基準上、足関節の可動域を中心に評価される仕組みになっています。つまり、実際の生活で感じている機能の低下を、そのまま可動域の等級に置き換えることはできません。だからこそ、可動域は可動域として、筋力や踵上げ、歩行、仕事への支障はそれぞれ別の資料として、経過に沿って残しておく必要があります。
結論|可動域だけでなく、筋力・踵上げ・歩行を経時的に記録する
- アキレス腱断裂は、関節そのものではなく、ふくらはぎの筋肉の力をかかとの骨へ伝える腱の損傷です。骨折や関節内の損傷とは、障害の現れ方が異なることがあります。
- 他動的に足首を動かせる範囲が回復しても、底屈の筋力、踵上げの高さや反復回数、持久力、歩くときの蹴り出しに左右差が残ることがあると報告されています。
- もっとも、可動域制限が残らないと一律に決まっているわけではありません。固定、癒着、痛み、合併損傷、再断裂、感染などの経過によっては、残る場合もあります。
- 自賠責保険の関節の機能障害は、公表されている評価方法上、可動域の測定値を健側と比較して判断されます。筋力の低下や片足での踵上げが難しいことだけをもって、直ちに関節の機能障害の等級に置き換えられるわけではありません。
- 痛みやしびれが残る場合は、神経症状として別の号が検討の対象になり得ます。ただし、症状があれば当然に等級が認定されるわけでもありません。
- 記録は、量よりも同じ項目を、同じ条件で、経過に沿って、診療記録と対応させて残すことが重要です。
- 検査、運動、リハビリテーション、症状固定の時期は医学的な判断です。主治医等の指示に従ってください。
アキレス腱断裂のあとに残ることがある症状
アキレス腱はどこにあり、何をしている組織か
ふくらはぎの表層にある腓腹筋と、その深層にあるヒラメ筋の腱が合わさってアキレス腱になり、かかとの骨(踵骨)につきます。日本整形外科スポーツ医学会が公表している患者向け資料でも、この構造が説明されています。アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉が生み出した力をかかとへ伝え、つま先立ち、歩くときの蹴り出し、走る、跳ぶといった動作を支えています。
ここで押さえておきたいのは、アキレス腱断裂は、足首の関節面そのものが壊れる損傷ではないという点です。足首の骨折や靱帯損傷のように関節の中が傷つく損傷とは、障害の現れ方が異なることがあります。関節の骨折や靱帯損傷による可動域制限と不安定性については、足関節骨折・靱帯損傷による可動域制限と不安定性を確認するで扱っています。
治療のあとに残ることがある症状
経過により差があり、すべての方に残るわけではありませんが、次のような症状が問題になることがあります。
- アキレス腱の部分やふくらはぎの痛み、つっぱり感、腫れ
- 底屈、すなわちつま先を下へ向ける方向の筋力の低下
- 片足でかかとを上げる動作の困難、上げられる高さの低下、繰り返せる回数の減少、持久力の低下
- 歩くときの蹴り出しの弱さ、かばう歩き方(跛行)
- 階段の昇降、坂道、不整地、走行、跳躍の困難
- 長時間の立位や歩行のあとに強まる症状
- ふくらはぎが細くなること(筋萎縮)、再び切れることへの不安感
完全断裂か部分断裂か、手術療法か保存療法か、固定と荷重をどのように進めたか、合併する損傷があるか、再断裂や感染が生じたかによって、経過は大きく変わります。この記事の内容は一般的な整理であり、個別の事案の見通しを示すものではありません。腫れや強い痛みが急に生じた場合、力が入らなくなった場合などは、記録よりも先に医療機関へご相談ください。
可動域制限が残りにくいことがある理由と、残る場合
損傷の中心が関節面ではなく腱であること
足首の可動域は、主としてすねの骨とかかと側の骨がつくる関節の形と、それを覆う組織の状態によって決まります。アキレス腱断裂は、この関節面そのものの損傷ではなく、関節をまたいで力を伝える腱の損傷です。そのため、治療とリハビリテーションが進むにつれて、他動的に動かせる範囲は改善しやすい面があると説明されています。
他動で動く範囲と、自分で力を出す機能は同じではないこと
可動域の測定は、原則として他動、つまり検査する人が患者の足を動かして測ります。これは、その関節がどこまで動く形をしているかを見る測定です。これに対して、つま先立ち、蹴り出し、階段の昇降といった動作は、自分の筋肉で力を出して関節を動かす機能です。アキレス腱断裂では、腱が修復されたあとも、腱の長さや張り、ふくらはぎの筋肉の量や働きが事故前と同じに戻るとは限らないため、他動的に動く範囲が回復しても、自分で力を出す機能に左右差が残ることがあると報告されています。
ここが最も誤解が生じやすい部分です。「可動域は正常だから問題ない」と説明されたと感じても、それは足首が動く形をしているという意味であって、力を出す機能まで元どおりだという意味とは限りません。逆に、力が入りにくいからといって、可動域の等級が認められると決まるわけでもありません。
可動域制限が残る場合もあること
「アキレス腱断裂では可動域制限は残らない」と一律に決めつけることはできません。固定の期間や角度、荷重の開始時期といった治療経過に伴う要因、腱やその周囲の癒着と瘢痕、痛みのために動かしにくい状態が続いたこと、足首やかかとの骨折・靱帯損傷・神経損傷などの合併損傷、再断裂や術後の感染、むくみの残存、ふくらはぎの筋の短縮、再び切れることへの不安感などがあると、可動域制限が残ることがあります。
したがって、可動域を測らなくてよいということにはなりません。可動域は可動域として正確に測定して記録し、そのうえで、可動域では表せない機能の低下を別に記録する、という二本立てで考えることになります。
検討の対象になり得る後遺障害等級
自賠責保険の後遺障害等級は、自動車損害賠償保障法施行令の別表第二に定められています。アキレス腱断裂の事案で検討の対象になり得るのは、主として次の枠組みです。診断名や手術を受けたことだけで等級が決まるものではありません。
足関節の機能障害
| 等級・号 | 別表第二の文言 | 公表資料に示された評価の概要 | 誤解しやすい点 |
|---|---|---|---|
| 第8級第7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの | 厚生労働省の障害等級認定基準では、関節が強直したもの、関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの、人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち可動域が健側の2分の1以下に制限されているもののいずれかとされ、「これに近い状態」は、他動では動くものの自動運動では可動域が健側の10パーセント程度以下となったものとされています。 | 片足での踵上げができないこと、底屈の筋力が落ちていることだけで、完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態に当たると扱うことはできません。 |
| 第10級第11号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの | 同基準では、関節の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されているものなどとされています。 | 労災保険の障害等級表では同じ内容が第10級の10とされており、自賠責の号数と一致しません。資料を読むときは、どちらの制度の号数かを確認してください。 |
| 第12級第7号 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | 同基準では、関節の可動域が健側の可動域角度の4分の3以下に制限されているものとされています。 | 健側にも障害がある場合や、測定条件がそろっていない場合は、単純な左右の比較だけで結論を出すことはできません。 |
自賠責保険の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)は、「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う。」としています。上の表の「公表資料に示された評価の概要」は、厚生労働省が公表している労災保険の障害等級認定基準の内容です。等級と号数は自賠法施行令の別表第二によっており、労災保険の障害等級表とは号数が一致しない場合があります。
痛みやしびれなどの神経症状
可動域の制限が基準に達しない場合でも、痛みやしびれが残っているときは、局部の神経症状として、別表第二の第12級第13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)又は第14級第9号(局部に神経症状を残すもの)が検討の対象になり得ます。
もっとも、痛みが残っていれば自動的に第14級第9号になるというものではありません。また、「画像に写れば第12級、写らなければ第14級」といった単純な整理も正確ではありません。事故との因果関係、事故直後からの治療の経過、症状の一貫性と連続性、診察や画像などの他覚的な所見、症状を医学的に説明できるかどうかが、資料に基づいて総合的に確認されます。可動域の制限と痛みの両方がある場合の取扱いも、単純に足し合わせて考えることはできません。
手術痕や合併損傷がある場合
手術を受けた場合、後方に手術痕が残ることがあります。別表第二には第14級第5号(下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの)がありますが、手術痕があることだけで当然に該当するわけではありません。部位が露出面に当たるか、大きさが基準を満たすかなどが、公表された基準に照らして個別に確認されます。
足首やかかとの骨折、靱帯損傷、神経損傷、感染、再断裂などを合併している場合は、評価が変わり得ます。複数の障害があっても、それぞれの等級を単純に合算するわけではありません。また、事故の前からアキレス腱や足首に症状や既往がある場合、反対側の足にも障害がある場合には、因果関係、健側との比較の可否、既にあった障害の評価という問題が生じます。
足関節の可動域はどのように確認されるか
厚生労働省が公表している障害等級認定基準の別添「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」には、次の内容が示されています。後遺障害診断書の可動域欄を確認するときの手がかりになります。
- 関節可動域の測定値は、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」に従い、原則として他動運動による測定値によるとされています。
- 他動運動による測定値を採用することが適切でないものについては、自動運動による測定値を参考として認定を行う必要があるとされています。その例として、末梢神経損傷により関節を動かす筋が弛緩性の麻痺となった場合や、動かすと我慢できない程度の痛みが生じるために自動では動かせないと医学的に判断される場合が挙げられています。
- 制限の程度は、原則として健側の可動域角度と比較して評価するとされています。ただし、健側となるべき関節にも障害を残す場合などは、測定要領に定める参考可動域角度との比較によるとされています。
- 角度計は十分な長さの柄が付いたものを使用し、通常は5度刻みで測定するとされています。
- 足関節の主要運動は屈曲・伸展とされています。屈曲は底屈、伸展は背屈に当たり、参考可動域角度は屈曲(底屈)が45度、伸展(背屈)が20度、測定は膝関節を屈曲位で行うとされています。
- 屈曲と伸展のように同一面にある運動は、両者の可動域角度を合計した値で評価するとされています。足関節では、底屈と背屈を合計した値を健側の合計と比べることになります。
- 三大関節では、主要運動の可動域が基準をわずかに上回る場合に参考運動を考慮する取扱いがありますが、足関節には参考運動の定めがありません。
用語について補足します。日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会及び日本足の外科学会が承認した「関節可動域表示ならびに測定法」は2022年4月に改訂され、足関節については足背への動きを背屈、足底への動きを底屈とし、屈曲と伸展という語は使用しないこととされました。他方、労災保険の障害等級認定基準は「屈曲・伸展」という表記を用い、参考可動域角度の表では「屈曲(底屈)」「伸展(背屈)」と併記しています。後遺障害診断書の記載を読むときは、どの用語でどの方向を指しているかを確認してください。なお、参考可動域角度は正常値として定められたものではありません。
このうち、アキレス腱断裂の事案で見落とされやすいのが膝の肢位です。ふくらはぎの筋肉のうち腓腹筋は、太ももの骨(大腿骨)の内側と外側の出っ張りから起こり、ヒラメ筋とともにアキレス腱となってかかとの骨につきます。つまり腓腹筋は、膝関節と足関節の両方をまたぐ筋です。これに対してヒラメ筋は、すねの骨(脛骨)と腓骨から起こり、膝関節をまたぎません。膝を伸ばした姿勢では腓腹筋が引き伸ばされた状態になるため、膝を曲げた姿勢に比べて足関節の背屈が小さくなりやすいことが、複数の研究で報告されています。
測定要領が足関節の背屈・底屈を膝関節屈曲位で測定するとしている以上、患側と健側が同じ条件で測定され、その条件が記録されているかは、可動域欄を読むうえで重要です。基準と異なる条件で測って有利な数値を得ようとすることは、認定手続の信頼性を損ないます。確認すべきなのは、基準に沿った条件で、患側と健側が同じように測定されているかどうかです。
後遺障害診断書の可動域欄は、患側と健側の両方について、背屈(伸展)と底屈(屈曲)の両方向が、他動と自動を区別して記載されているかが重要になります。医師にお願いできるのは、実際の状態を正確に測定して記載していただくことであり、特定の等級に合う数値を書いていただくことではありません。
治療中から残しておきたい記録
記録は、多く残せば認定されるというものではありません。重要なのは、同じ項目を、適切な時期に、できるだけ同じ条件で測り、医療記録と生活・就労の記録が対応していることです。すべての事案ですべての資料が必要になるわけではなく、優先順位は個別の事情によって変わります。
| 段階 | 確認・記録項目 | 記録主体・記録媒体 | あとの判断で役立つ理由 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 事故直後・初診時 | 事故態様、足にかかった力、受傷時刻、受診までの経過、初診時の診察所見、医師が実施した場合の徒手検査の所見 | 本人・警察・医師/交通事故証明書、事故発生状況報告書、診療録 | 事故と受傷の結びつき、症状の一貫性を示す出発点になります。 | 断裂を確かめる徒手検査は検査する側が行うものです。ご自身やご家族で試さないでください。 |
| 事故直後・初診時 | 完全断裂か部分断裂か、断裂の部位、開放性の有無、合併損傷。超音波や磁気共鳴画像などの画像と報告書。事故前の同じ部位の症状、既往歴、反対側の足の状態 | 医師・本人/診断書、診療録、画像データ、報告書、問診票 | 経過や残る症状を説明する前提になり、因果関係や健側比較の可否にも関わります。 | どの検査を行うかは医師が判断します。磁気共鳴画像がすべての事案で必要とされているわけではありません。既往を伏せると、あとで説明が難しくなります。 |
| 治療方針の決定・手術又は保存療法 | 手術記録(断裂部位、縫合・再建の方法、術中所見、合併症)、保存療法の固定方法・装具・角度・荷重開始時期、リハビリ計画、就労・運転・運動の制限、装具や松葉杖の使用期間、退院時要約 | 医師・医療機関/手術記録、診療録、リハビリ計画書、退院時要約 | 固定や荷重の進め方は経過に影響し得るため、残存症状の説明につながります。 | 治療方法は医学的な判断で選ぶものです。賠償上の有利不利を理由に選ぶことは適切ではありません。 |
| リハビリ・経過観察中 | 足関節の可動域(患側・健側)。他動と自動の区別、背屈と底屈の両方向、膝の肢位、荷重の有無、測定者、測定日、痛みや代償運動の有無 | 医師・理学療法士等/診療録、リハビリ評価記録 | 関節の機能障害の評価は可動域を中心に行われます。 | 測定条件が記録されていないと、値の意味が確定できません。条件の異なる値を並べても経過の比較になりません。 |
| リハビリ・経過観察中 | 底屈の筋力。評価の方法、測定の肢位、実施日 | 医師・理学療法士等/診療録、リハビリ評価記録 | 可動域では表せない機能の低下を示す資料になり得ます。 | 徒手筋力検査だけでは持久力や動きの終わりの筋力を十分に示せない場合があります。筋力の値は、可動域に代わる認定の基準ではありません。 |
| リハビリ・経過観察中 | 片足での踵上げ。可否、高さ、繰り返せる回数、終了した理由、左右差。支持物の有無、履物、床面、膝の肢位、テンポ、痛みや疲労 | 医師・理学療法士等/リハビリ評価記録 | 実際の動作の左右差を示す資料になり得ます。 | 再断裂などの危険があるため、主治医や理学療法士等の許可と管理がない状態で行わないでください。 |
| リハビリ・経過観察中 | 下腿周径、歩容と歩行能力(跛行、歩行の速さと距離、階段・坂道・不整地での支障)、腫れ、圧痛、感覚の症状、疲労後の悪化 | 医師・理学療法士等・本人/診療録、リハビリ評価記録、本人の記録 | 筋萎縮の左右差や、生活と仕事への影響を具体的に示せます。 | 下腿周径は測定位置と肢位で値が変わります。歩行は体調で変動するため、単発ではなく経過で記録します。 |
| リハビリ・経過観察中 | 画像上の腱の連続性や形態、再断裂・感染・癒着その他の合併症の発生時期と内容 | 医師・医療機関/画像データ、診療録 | 症状の医学的な説明や、経過が変わった事情の説明につながります。 | 検査の要否と評価は医師に委ねてください。合併症があると評価の個別性は高くなります。 |
理学療法士等による評価記録、ご本人の記録や動画、下腿周径などは、有用な補助資料になり得ます。もっとも、これらは医師による診断や医学的な総括に代わるものではありません。また、研究で用いられる左右比や回数、競技への復帰の目安を、そのまま後遺障害等級の基準として扱うことはできません。
ご本人が残す生活の記録
「痛い」「歩けない」とだけ書いた記録は、あとから読み返しても状況が分かりません。短くてよいので、次の形で続けられるようにしてください。
- 日付
- 行った動作、時間、距離、回数(例:買い物で片道15分歩いた、階段を3階分昇った)
- 症状が出た部位と内容(例:ふくらはぎの重さ、アキレス腱部の痛み)
- 何分又は何時間で症状が出たか
- 休憩したか、翌日までにどの程度戻ったか
- 手すり、杖、装具、家族の介助を使ったか
- できなかった家事、育児、通勤、仕事、運動
- 服薬、受診の有無、その日に医師へ伝えた内容
写真や動画は補助的な資料になり得ますが、撮影日と撮影の条件が分かるようにし、安全とプライバシーに配慮してください。編集や演出によって実際と異なる印象を与えることは避けてください。会員制交流サイトなどへ公開することはおすすめしません。
仕事への支障の記録
- 事故前の職務の内容。立位、歩行、階段、運搬、運転、走行などの頻度
- 休業した日、部分的に休んだ日、残業の減少、配置転換、業務の軽減、代替要員の有無
- 会社による就業上の制限、産業医や主治医の意見、復職支援の記録
- 給与明細、休業損害証明書、源泉徴収票などの収入に関する資料
- 自営業の場合は、稼働の記録、受注や売上の推移、外注や代替人員に要した費用
等級が認定されれば逸失利益が当然に認められるわけではなく、減収がなければ認められないと決まっているわけでもありません。職務の内容、実際に生じている支障、収入の推移、ご本人の努力などを、資料に即して検討することになります。等級ごとの慰謝料の考え方については、後遺障害慰謝料の基準別の考え方を確認するをご覧ください。
アキレス腱断裂の事案では、可動域の数値だけを見ても、実際に残っている機能の低下は分かりません。手術記録、画像、リハビリテーションの評価記録、筋力や踵上げの記録、歩行や仕事への支障の記録を突き合わせることで、いま何がそろっていて、何が足りないのかを整理することができます。症状固定、後遺障害診断書の作成、申請、示談のいずれの段階でも、資料を確認したうえで方針を検討することができます。
記録のためにしてはいけないこと
- 医師や理学療法士等の許可なく、片足での踵上げ、負荷のかかる検査、走行などを行うこと。再断裂などの危険があります。
- 症状を実際より強く伝えること、逆に我慢して軽く伝えること。いずれも診療記録と実際の状態がずれ、あとから説明が難しくなります。
- 特定の等級を前提に、医師へ記載の内容を求めること。事実と異なる記載を求めることは、手続の信頼性を損ないます。
- 自己判断で治療やリハビリテーションを中断したり、内容を変えたりすること。
- 示談書や免責証書の内容を確認しないまま署名すること。
症状固定、後遺障害の申請、示談の順序
症状固定
症状固定とは、国土交通省の説明によれば、症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行ってもその医療効果が期待できなくなった時をいい、医師により判断されるものとされています。事故から何か月で症状固定になるという一律の決まりはありません。保険会社が治療費の支払を終了することと、医学的に症状固定に至ることは別の問題です。治療費の打切りを打診された場合の考え方は、治療費打切りの連絡を受けた場合の対応を確認するで扱っています。通院に空白がある場合も、何日空けば不利になるという一律の基準はなく、空白が生じた理由、その間の症状、医師の指示、再診時の所見が確認されます。
後遺障害診断書の作成前
- 自覚症状の記載が、これまでの診療録の記載と一貫しているか
- 足関節の可動域が、患側・健側、他動・自動、運動方向を区別して記載されているか。膝関節の肢位など測定の条件が記録されているか
- 健側にも既往の障害や症状がある場合、その事実が記録されているか
- 残っている症状の医学的な原因(癒着、瘢痕、筋の短縮、痛み、合併損傷など)を示す診察所見、画像所見、検査所見が整理され、相互に整合しているか
- 手術記録、画像データ、リハビリテーションの評価記録が、経過に沿ってそろっているか
- 筋力、踵上げ、歩容などが、認定の基準そのものとしてではなく、残っている機能を示す資料として整理されているか
- 仕事や生活への具体的な支障が、診療時に伝えた内容とご本人の記録に対応しているか
- 合併損傷、既往症、反対側の足の障害が区別されているか
準備する資料の具体的な内容は、後遺障害診断書の作成前に確認したい資料を見る、後遺障害申請前の証拠と資料の集め方を確認するもあわせてご覧ください。
申請と示談
申請にあたっては、後遺障害診断書のほか、診断書、診療報酬明細書、画像データと画像診断報告書、手術記録、紹介状、退院時要約、リハビリテーションの計画書と評価記録、事故証明、保険会社からの通知や示談案、収入・職務・休業に関する資料、ご本人の生活と就労の記録などが問題になり得ます。ご加入の自動車保険の証券と弁護士費用特約の有無も確認してください。
自賠責保険への被害者請求について、国土交通省は、後遺障害の請求期限を症状固定日の翌日から3年以内としています(平成22年3月31日以前に発生した事故については2年以内)。
加害者や任意保険会社に対する損害賠償請求権については、民法に別の定めがあります。民法第724条は、不法行為による損害賠償の請求権が、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき、又は不法行為の時から二十年間行使しないときに、時効によって消滅するとしています。もっとも、人の生命又は身体を害する不法行為については、民法第724条の2により、この「三年間」が「五年間」とされています。いつを起算点とみるか、改正前の民法が適用される事故か、時効の完成猶予や更新の事由があるかは、事案により異なりますので、期間の見込みは早めに確認してください。
後遺障害の申請を検討しないまま示談をすると、あとから追加の請求をすることが難しくなる場合があります。示談案が届いた段階では、損害の項目に漏れがないか、後遺障害の申請を行うべき事案かを確認したうえで、署名するかどうかを判断してください。非該当となった場合や、想定より低い等級となった場合の考え方は、非該当となった場合の異議申立ての判断材料を見るで扱っています。
業務中・通勤中の事故だった場合
仕事中や通勤中の交通事故では、労災保険が関係する場合があります。自賠責保険の異議申立てと、労災保険の決定に対する審査請求は、別の制度に基づく別の手続です。労災保険と自賠責保険等から同じ事由について二重に支払を受けられるわけではなく、支給調整の仕組みがあります。どちらを先に使うか、第三者行為災害の届出をどうするか、示談前に確認すべきことは、事案により異なります。労災保険の等級に納得できない場合の進め方は、労災の後遺障害等級に納得できない場合の進め方を見るをご覧ください。
弁護士に相談する時期
相談によって等級の認定や賠償額をお約束することはできません。相談で整理できるのは、いまそろっている資料と足りない資料、手続の選択肢、検討すべき損害の項目、そして署名や申請の前に確認しておく事項です。治療費の打切りを打診されたとき、症状固定の説明を受けたとき、後遺障害診断書を作成する前、申請の方法や追加資料の要否に迷うとき、非該当又は想定より低い等級となったとき、示談案が届いたとき、仕事への支障と収入の減少をどう整理すればよいか分からないとき、業務中・通勤中の事故で労災保険との関係を整理したいときは、手続を進める前に一度確認することをおすすめします。
よくあるご質問
アキレス腱断裂で後遺障害が認定されることはありますか。
診断名だけで決まるものではありません。残っている症状の内容と程度、その医学的な原因、可動域の測定値、治療の経過、資料の内容によって結論は異なります。可動域の制限、神経症状、手術痕、合併損傷のそれぞれについて、公表されている基準に照らして検討することになります。
足首の可動域が正常なら、後遺障害は認められませんか。
関節の機能障害としての等級は、公表されている評価方法上、可動域を健側と比較して判断されます。そのため、可動域の制限が基準に達しない場合、この枠組みでの等級には結びつきにくいことになります。もっとも、それは「症状や機能の低下が存在しない」という意味ではありません。痛みが残る場合は神経症状として別に検討されますし、実際の支障は損害の内容を検討する資料になり得ます。
片足でかかとを上げられない場合は何級になりますか。
踵上げができないことに対応する等級はありません。公表されている関節の機能障害の評価方法に、筋力や踵上げの可否を基準とする定めはなく、可動域の測定値が中心になります。踵上げの記録は、残っている機能や生活・就労への支障を示す資料として意味がありますが、それ自体が等級を決めるものではありません。なお、この動作は再断裂などの危険があるため、主治医等の許可と管理がない状態では行わないでください。
痛みだけが残った場合も申請できますか。
局部の神経症状として第12級第13号又は第14級第9号が検討の対象になり得ます。ただし、痛みがあれば当然に認定されるわけではありません。事故との因果関係、治療の経過、症状の一貫性と連続性、診察や画像の所見、症状を医学的に説明できるかどうかが、資料に基づいて確認されます。
筋力や下腿周径は、どのように記録すればよいですか。
記録の中心は医療機関の診療録とリハビリテーションの評価記録です。測定の方法、肢位、測定の位置、測定者、実施日といった条件をそろえ、経過に沿って残されていることが重要です。ご本人が測った値は補助的な資料にとどまります。まずは診察の際に、どの動作でどのような支障があるかを具体的にお伝えください。
手術と保存療法で、後遺障害の扱いは変わりますか。
治療方法そのものによって等級が決まるわけではありません。検討の対象は、症状固定の時点で残っている症状と機能の状態、その医学的な原因、資料の内容です。もっとも、固定の期間や荷重の進め方、合併症の有無は経過に影響し得るため、手術記録や固定・装具の内容は資料として意味があります。治療方法は、賠償上の有利不利ではなく医学的な判断で選ぶべきものです。
症状固定の前に、何を確認しておくべきですか。
その時点の症状が診療録に具体的に記載されているか、可動域が患側・健側、他動・自動を区別して測定されているか、残っている症状の医学的な原因を示す所見が整理されているか、手術記録や画像、リハビリ評価記録がそろっているか、生活と仕事への支障が診察時に伝えられているかを確認してください。症状固定の時期そのものは、主治医の医学的な判断によります。
仕事中や通勤中の事故では、労災保険も使えますか。
業務中・通勤中の事故では労災保険が関係する場合があります。もっとも、同じ事由について労災保険と自賠責保険等から二重に支払を受けられるわけではなく、支給調整の仕組みがあります。どちらを先に使うか、届出をどうするかは事案により異なりますので、示談の前に確認することをおすすめします。
まとめ
- 足首の動く範囲が戻ったことと、足の機能が完全に戻ったことは同じではありません。可動域、筋力、持久力、実際の動作は分けて確認します。
- 自賠責保険の関節の機能障害は、可動域の測定値を健側と比較して判断されます。筋力の低下や片足での踵上げの困難だけを、可動域の等級に置き換えることはできません。
- 痛みなどが残る場合は、神経症状として別の号が検討の対象になり得ます。症状があれば当然に認定されるわけではありません。
- 可動域制限が残らないと一律に決まっているわけでもありません。癒着、痛み、合併損傷、再断裂などによっては残ることがあります。
- 筋力、踵上げ、歩行、生活と仕事への支障は、同じ条件で、経過に沿って、診療記録と対応させて記録してください。
- 検査、治療、リハビリテーション、症状固定の時期は医学的な判断です。主治医等の指示に従い、許可のない負荷試験は行わないでください。
- 症状固定、後遺障害診断書の作成、申請、示談のそれぞれの前に、資料がそろっているかを確認してください。
監修者・執筆者
弁護士・公認会計士 藤井 貴之(兵庫県弁護士会所属)
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
取扱分野:交通事故、相続、企業法務、労働問題、損害賠償ほか
参考資料
- e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法施行令」(デジタル庁)
- e-Gov法令検索「民法」(デジタル庁)
- 国土交通省「自賠責保険・共済の限度額と補償内容」
- 国土交通省・金融庁「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(PDF)
- 国土交通省「支払までの流れと請求方法」
- 厚生労働省「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」
- 厚生労働省「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」
- 日本リハビリテーション医学会「関節可動域表示ならびに測定法(2022年4月改訂)」
- 日本足の外科学会「足関節・足部・趾の運動に関する用語」
- 日本整形外科スポーツ医学会「スポーツ損傷シリーズ 9.アキレス腱断裂」(PDF)
- 損害保険料率算出機構「自賠責の損害調査」
本記事は、2026年(令和8年)8月29日時点で確認できた法令、公的機関の公表資料及び学会の公表資料に基づく一般的な情報です。診断や治療の指示ではなく、個別の事案についての法律相談でもありません。閲覧によって委任関係が生じるものでもありません。実際の等級認定や賠償の内容は、事故態様、断裂の状態、治療の経過、合併損傷や既往の有無、資料の内容などにより異なります。法令、基準及び運用は改正されることがあります。具体的な事案については、資料を確認したうえでご相談ください。

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