税務調査で貸倒損失を否認されたときは、「今は回収できない」と説明するだけでは足りません。債権が実在して消滅していないか、どの貸倒れの取扱いに当たるか、その事業年度に回収不能が客観的に明らかになっていたか、会計処理と申告書の調整が合っているか、関連会社への債権放棄であれば寄附金に当たらないかを、分けて検討する必要があります。債権放棄書、倒産の通知、会計上の仕訳のいずれか一つだけで、損金に算入できるかどうかや計上する事業年度が決まるわけではありません。
対応は、調査結果の説明を受けて修正申告を勧められている段階か、更正の通知を受けた後かによって異なります。まず、通知書などを受け取った日と、そこから数える期限を確認してください。この記事では、国内の法人が法人税の申告で計上した売掛金、貸付金、損害賠償請求権の貸倒損失を否認された場面を想定して、争点の分け方と証拠の整理の仕方を説明します。個人事業者の所得税、消費税の取扱い、貸倒引当金の繰入限度額の計算は扱いません。結論は、個別の事実関係と資料によって異なります。
貸倒損失を否認されたら最初に確認すること
法人税法第22条第3項第3号は、損金の額に算入すべき金額として当該事業年度の損失の額(資本等取引以外の取引に係るもの)を掲げ、同条第4項は、その額を、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算するものとしています。もっとも、会計上費用として処理したことだけで、税務上の貸倒れの要件や計上すべき事業年度が決まるわけではありません。
貸倒れの判断については、国税庁の法人税基本通達9-6-1から9-6-3が取扱いを定めています。通達は、法令の解釈についての課税庁の取扱いを示すもので、法律や判例と同じ効力を持つものではありませんが、否認の理由がどの要件に関わるのかを確認するうえで重要な資料です。
税務署の指摘を要件と対象年度に分ける
国税庁の税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)は、調査結果の説明は原則として口頭で行い、納税者の要望に応じて調査結果の内容を記載した書面を交付することはないとしています(問24)。そのため、説明を受けた日、指摘を受けた債権ごとの相手方、債権の種類(売掛金、貸付金、損害賠償請求権など)、金額、計上した事業年度、指摘の理由、これまでに提出した資料を、その都度書き出して一覧にします。一つの債権に複数の理由が挙げられることもあるため、理由ごとに分けて記録します。更正の通知を受けた後であれば、通知書に記載された処分の理由を起点に整理します(同FAQの問30は、更正処分などの不利益処分に理由が附記されることを説明しています)。
そのうえで、理由ごとに、どの事実をどの資料で示すかを整理します。
| 否認理由・争点 | 確認する事実 | 対応する資料 |
|---|---|---|
| 債権の 実在・金額 |
債権が成立し、貸倒れとした時点で、弁済や相殺により消滅し、又は譲渡により自社に帰属しなくなっていなかったか。争いのある部分とない部分の区別 | 契約書、注文書・納品書・検収書、送金の記録、債務承認書、和解調書・判決、入金の履歴、債権の明細 |
| 債務者の 回収可能性 |
否認された事業年度に、債務者の資産状況や支払能力等からみて全額を回収できないことが明らかになったか | その事業年度当時の債務者の決算書・資金繰りの資料、財産の一覧、不動産の登記事項証明書、適法に得た調査結果、破産管財人等の報告書 |
| 担保・保証 | 担保・保証の範囲と有効性、担保物の実質的な価値と先順位の債権の残額、保証人の資産・収入・負債 | 担保・保証の契約書、評価書、先順位の債権の残高に関する資料、換価費用・配当の見込みと結果、保証人の資力に関する資料 |
| 回収の経過 | どの回収手段をとり、どのような結果になったか。とらなかった手段についての理由 | 督促状とその送達の記録、相手方の回答、交渉の記録、判決などの債務名義、強制執行の結果、配当表 |
| 貸倒れの 事業年度 |
切捨て・債務免除の効力が生じた日、取引の停止等から1年を経過した日、全額回収不能が明らかになった時期と、それぞれが属する事業年度。それより前の事業年度に既に生じていなかったか | 各事実の日付が分かる資料(決定書・通知書とその到達の記録、取引停止日・最後の弁済期・最後の弁済日の記録、倒産手続の報告書)、その時点の判断の記録 |
| 経理・ 申告調整 |
損金経理の有無、引当金との関係、過去の事業年度に否認された金額との二重計上の有無 | 仕訳、総勘定元帳、債権残高の明細、引当金の明細、決算書、法人税申告書(別表四、別表五(一)など) |
| 関連会社 への支援 |
支援をしなければより大きな損失が生じたか。合理的な整理・再建の計画に基づくか | 整理・再建の計画、支援しない場合の損失との比較資料、代替案の検討資料、支援者間の合意、負担割合の根拠、議事録、進捗管理の記録 |
この表は、通達や判決・裁決の考え方から導いた実務上の整理であり、法令で定められた提出書類の一覧ではありません。必要な資料は事案によって異なります。資料は、否認された事業年度当時に作成されたものと後日作成したものとを分けて整理し、日付をさかのぼらせたり内容を書き換えたりしないでください。
修正申告前と更正処分後では対応が異なる
調査の結果、修正申告を勧められることがあります。同FAQは、勧奨に応じるかどうかは納税者の任意の判断であり、応じない場合は調査結果に基づき更正等の処分が行われるものの、応じなかったことで不利な取扱いを受けることは基本的にはないとしています(問25)。また、修正申告をした場合は不服申立てができない一方、一定期間内であれば更正の請求ができ、その際は請求の理由の基礎となる事実を証明する書類の提出が必要とされています(問25・問26)。調査の段階での対応については、税務調査への準備と修正申告前の確認事項もあわせてご覧ください。
更正の処分を受けて不服があるときは、原則として、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、処分をした税務署長等に対する再調査の請求又は国税不服審判所長に対する審査請求をすることができます。再調査の請求をした場合の審査請求は、原則として、再調査決定書の謄本の送達を受けた日の翌日から1か月以内です(国税通則法第75条・第77条、国税庁タックスアンサーNo.7200「税務署長等の処分に不服があるときの不服申立手続」)。
期間には例外もあるため、具体的な期限は通知書の記載と併せて確認し、数え方に迷うときは早めに相談してください。不服申立てをしても、それだけで納付や徴収の手続全体が止まるわけではありません。差押財産の換価に制限があるなどの取扱いはありますが、納期限や資金繰り、徴収の猶予等を求める必要があるかは、争う手続とは別に確認します(国税不服審判所「不服申立てをした場合の『徴収の手続』はどうなるの?」)。税額、延滞税や加算税などの附帯税、納付の方法は、会社が依頼している税理士とも確認してください。
貸倒れの3類型で要件と損金算入時期を分ける
法人税基本通達は、金銭債権の貸倒れについて、法的な切捨てや書面による債務免除(9-6-1)、事実上の貸倒れ(9-6-2)、一定の売掛債権に関する形式基準(9-6-3)の3つの取扱いを定めています。国税庁タックスアンサーNo.5320「貸倒損失として処理できる場合」も、この3つに分けて説明しています。対象となる債権、計上する事業年度、経理の要否が類型ごとに異なるため、当てはまり得る類型ごとに、要件と事業年度を確認します。
| 貸倒類型 | 対象・要件 | 損金算入時期・経理 | 主な証拠 |
|---|---|---|---|
| 切捨て・ 債務免除 (9-6-1) |
金銭債権。更生計画・再生計画の認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定、合理的な基準による債権者集会の協議決定等で切り捨てられることとなった部分の金額。債務超過の状態が相当期間継続し、弁済を受けることができないと認められる場合に、書面で明らかにした債務免除額 | その事実が発生した日の属する事業年度に損金算入。9-6-2・9-6-3と異なり、通達の文言上、損金経理は条件とされていない | 認可決定・協定・協議決定の書面、切捨額の明細、債務免除の通知書とその到達の記録、債務超過の継続を示す当時の決算書 |
| 事実上の 貸倒れ (9-6-2) |
金銭債権。債務者の資産状況、支払能力等からみて全額が回収できないことが明らかになったこと。担保物があるときは、原則としてその処分後 | 全額回収不能が明らかになった事業年度に、貸倒れとして損金経理 | 当時の債務者・保証人の財産や収入の資料、担保の処分結果、回収の経過の記録 |
| 売掛債権の 形式基準 (9-6-3) |
売掛金、未収請負金その他これらに準ずる売掛債権に限り、貸付金等は含まない。(1)継続的な取引の停止等から1年以上経過(担保物がある場合を除く)、(2)同一地域の売掛債権の総額が取立費用に満たず、督促しても弁済がない | 事実の発生後、売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理したときに認められる | 取引の履歴、取引停止の経緯、最後の弁済期・弁済日の記録、督促の記録、取立費用の見積り |
表の「対象・要件」と「損金算入時期・経理」の欄は通達の取扱いを要約したもので、「主な証拠」の欄は実務上の例です。
法的な切捨てと書面による債務免除
法的な切捨てでは、認可の決定などにより切り捨てられることとなった金額と、その事実が発生した日を、決定書などで確認します。書面による債務免除の取扱いは、免除の書面を作成したことではなく、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、弁済を受けることができないと認められるという実質を前提としています。「相当期間」を一律の年数に置き換えることはできず、当時の決算書や資金繰りの状況などで説明します。債務者の滞納が続いているというだけでは足りず、和解をしたことや放棄書を作成したことだけで、この取扱いに当たるわけでもありません。
債務の免除は、債権者が債務者に対して免除の意思を表示することで債権を消滅させるもので(民法第519条)、意思表示は、その通知が相手方に到達した時から効力を生じます(同法第97条第1項)。社内で放棄を決裁した日、通知書を発送した日、免除の効力が生じた日を区別し、到達を確認できる資料を残します。また、債務者について破産手続開始の申立てや開始の決定があったというだけで、当然に債権の全額を損金に算入できるわけではありません。その時点の配当の見込みや破産管財人の報告などの資料から、どの類型に当たるかを検討します。
事実上の貸倒れは対象債権の全額回収不能が基本
9-6-2は、債務者の資産状況、支払能力等からみて金銭債権の全額が回収できないことが明らかになった場合に、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができるとする取扱いです。一部について回収の見込みが残っているときに、回収できないと見込まれる部分だけを損金に算入する仕組みではありません(法的な切捨てで一部が切り捨てられた場合は、9-6-1により、切り捨てられた部分の金額が対象になります)。また、帳簿上で貸倒れとして処理しても、それだけで債権が法律上消滅するわけではありません。
最高裁判所第二小法廷平成16年12月24日判決(平成14年(行ヒ)第147号、民集58巻9号2637頁)は、貸倒損失を法人税法第22条第3項第3号の損失の額として損金に算入するには、金銭債権の全額が回収不能であることを要し、そのことが客観的に明らかでなければならないとしました。そのうえで、その判断は、債務者の資産状況や支払能力等の債務者側の事情だけでなく、債権回収に必要な労力、債権額と取立費用との比較衡量、回収を強行することで生じる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失といった債権者側の事情や、経済的環境等も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断すべきものとしています(判決全文(裁判所ウェブサイト))。
もっとも、この判決は、いわゆる住専の処理をめぐり、その母体となった金融機関(母体行)の責任が問題とされた特殊な事実関係の下で、貸倒損失の損金算入を認めたものです。「回収に手間がかかる」「取引関係を考えて請求を控えた」というだけで、全額回収不能と認められるわけではありません。
取引停止後1年以上などの形式基準を使える債権
9-6-3は、売掛金、未収請負金その他これらに準ずる売掛債権を対象とする取扱いで、貸付金その他これに準ずる債権は含まれません。次のいずれかの事実が生じた場合に、売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理したときは、これを認めるとされています。
- (1)債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が取引を停止した時以後であれば、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過したこと。ただし、その売掛債権について担保物がある場合は除かれます。
- (2)同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が、その取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合に、支払を督促したにもかかわらず弁済がないこと。
(1)の取引の停止は、継続的な取引をしていた債務者の資産状況、支払能力等が悪化したため、その後の取引を停止するに至った場合をいいます。不動産取引のように、たまたま取引をした債務者に対する売掛債権には適用されません(同通達の注)。「決算日の時点で1年滞留している」「最後に請求書を送ってから1年たった」というだけで判定することはできません。備忘価額は、債権を帳簿上に残しておくための金額で、通達に具体的な金額の定めはありません。
(2)は、取立費用と債権額との関係や、督促しても弁済がないことに着目した取扱いで、(1)の1年の経過を要件とするものではありません。いずれも売掛債権に限られるため、貸付金や損害賠償請求権に広げて用いることはできません。損害賠償請求権を名目だけで売掛債権として扱うことや、貸付金を未収金などの科目に振り替えることで、この取扱いの対象になるわけでもありません。
担保と保証人を含めて回収可能性を調べる
全額回収不能を説明するには、債務者本人の財産や収入だけでなく、担保の実質的な価値と保証人の支払能力も資料で示す必要があります。いずれも、貸倒れとして計上した事業年度の時点でどうだったかが問われます。
財産調査と担保評価で確認すること
債務者の資産と負債の状況は、表「否認理由ごとに確認する事実と資料」の「債務者の回収可能性」に挙げた当時の資料で確認します。調査は適法な方法で行い、権限なく他人の口座情報や個人情報を取得するような方法はとりません。
9-6-2の取扱いでは、担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないとされています。ただし、国税庁の質疑応答事例「担保物がある場合の貸倒れ」は、担保物の適正な評価額と先順位の担保権の状況からみて、後順位の抵当権が名目的なものにすぎず、実質的に全く担保されていないことが明らかな場合には、担保物がないものとして取り扱うとの考え方を示しています(照会された事実関係を前提とする回答です)。後順位であるというだけでは足りず、少額でも回収できる見込みが残る場合は、この取扱いには当たりません。
先順位の担保権で担保されている債権の額は、登記された極度額や当初の債権額ではなく、その時点で実際に残っている額で確認します。
例えば、貸付金1,000万円について、担保から200万円を回収できる見込みがあると仮定します。担保を処分する前に、差額の800万円(1,000万円-200万円)を9-6-2の貸倒れとして当然に計上できるわけではありません。担保を処分して実際に200万円を回収した後、残る800万円について、債務者や保証人の状況から全額回収不能が明らかになったか、それはどの事業年度かを判断します。ほかの類型に当たるかどうかは、それぞれの要件に従って別に検討します。
保証人と損害賠償請求権で見落としやすいこと
連帯保証人がいる場合は、主たる債務者だけでなく、連帯保証人の資産状況や支払能力等も含めて、全額回収不能かどうかを判断します(国税庁タックスアンサー「連帯保証人がいる場合の貸倒れの判断」)。主たる債務者に資産がないことだけでは足りず、保証人の資産、収入、負債の資料が必要です。
反対に、自社が他人の債務を保証している場合の保証債務は、現実に履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできません(9-6-2の注)。履行した後は、主たる債務者に対して取得した求償権について、回収できるかどうかをあらためて検討します。
損害賠償請求権についても、全額回収不能を具体的に示す必要があります。国税不服審判所の令和元年5月16日裁決は、元従業員による窃取の被害について会社が有する損害賠償請求権につき、対象の事業年度に元従業員が給与収入を得ていたことや、請求できない事情があったとは認められないこと等から、貸倒損失の計上を認めませんでした。資産が少ない、ほかに支払うべきものがあるといった主張だけでは、全額回収不能の説明として足りなかった例といえます。もっとも、この裁決は個別の事実関係を前提とする判断であり、債務者に給与収入があれば常に貸倒れが認められないという一般的な基準を示したものではありません。
また、不正などによる損害の計上、損害賠償請求権をいつ、どの額で益金に計上するか、その請求権が回収不能になったかどうかは、それぞれ別の論点です(益金に計上する時期の問題は、この記事では扱いません)。請求書に記載した金額をそのまま貸倒損失の額とすることはできず、まず請求権がどの額で成立し、どのように計上されているかを確認します。
貸倒年度と会計処理を証拠で説明する
現在は回収できないことが確かであっても、否認された事業年度に何が起きていたかを示せなければ、その事業年度の損金とは認められません。
取締役会の決議日だけでは年度を選べない
9-6-1では切捨てや免除の事実が発生した日の属する事業年度、9-6-2では全額回収不能が明らかになった事業年度に計上するとされており、社内で決議や決裁をする日を選ぶことで、計上する事業年度を動かせるわけではありません。国税不服審判所の平成20年6月26日裁決(裁決事例集75集314頁)は、前の事業年度までに破産手続の最後配当が行われ、破産手続が終結していた債権について、後の事業年度に取締役会で貸倒れとして処理しても、その後の事業年度の貸倒損失とすることはできないと判断しました。この裁決は当該事案の事実関係を前提とするもので、破産手続が終結すればあらゆる債権が例外なく消滅するという趣旨ではありません。
現時点で債務者の財産を調べた結果は、過去の状況を推認させる資料になり得ますが、否認された事業年度の事実そのものではありません。後日作成した報告書や評価書を使う場合は、作成日、根拠とした資料、どの時点の状況を示すものかを明記します。前の事業年度に既に回収不能になっていたと指摘された場合は、その事業年度の申告の扱いも含めて、税理士と検討します。
引当金と貸倒損失を区別し申告調整まで照合する
会計上の貸倒引当金と税務上の貸倒損失は、別々に判定します。企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」の2026年6月2日改正版(同年10月の改正前のもの)は、債権を区分し、担保の処分見込額や保証による回収見込額も考慮して貸倒見積高を算定する方法を定めていますが、会計上全額を引き当てたことが、税務上の全額回収不能を示す十分な根拠になるわけではありません。否認された事業年度に会社が適用していた会計処理の基準とその版も確認します。
9-6-2と9-6-3の取扱いでは、貸倒れとしての損金経理(法人がその確定した決算において費用又は損失として経理すること。法人税法第2条第25号)が前提です。表「否認理由ごとに確認する事実と資料」の「経理・申告調整」に挙げた資料を突き合わせ、貸倒損失の計上、引当金の取崩し、過去の事業年度に否認された金額の処理が二重になっていないかを確認します。否認の理由によって申告書上の調整の方法は異なるため、具体的な処理は税理士と確認してください。
関連会社への債権放棄と寄附金の境界
子会社や取引先など関係のある会社に対する債権を放棄した場合は、回収不能による貸倒れに当たるかと、経済的な利益の無償の供与として寄附金に当たるかを、分けて検討します(法人税法第37条)。
回収不能と合理的な整理再建を混同しない
まず、9-6-1から9-6-3の要件を満たすかを検討します。満たさない場合も、直ちに寄附金に当たるとは限らず、子会社等の整理や再建の支援として相当な理由があるかを検討します。法人税基本通達9-4-1は、子会社等の解散や経営権の譲渡等に伴う損失負担や債権放棄等について、それをしなければ今後より大きな損失を被ることが社会通念上明らかであるためやむを得ず行った等、相当な理由があると認められるときは、寄附金の額に該当しないものとしています。9-4-2は、業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われ、合理的な再建計画に基づくものである等、相当な理由があると認められる債権放棄等について、同様に寄附金の額に該当しないものとしています。ここでいう子会社等には、資本関係がある者だけでなく、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者も含まれます(同通達の注)。
これらは寄附金に当たらない場合を示す取扱いであり、9-6-2の全額回収不能の要件を緩めるものではありません。寄附金に当たる場合、一般の寄附金は損金算入限度額を超える部分が損金の額に算入されず、法人による完全支配関係がある他の内国法人に対する一定の寄附金は、全額が損金の額に算入されません(国税庁タックスアンサーNo.5281「寄附金の範囲と損金不算入額の計算」)。受け取った側の課税関係を含め、グループ内の処理は個別に確認が必要です。役員個人に対する貸付金の放棄は、関連会社への支援とは別の問題として検討します(役員貸付金・役員借入金の税務と法務)。
支援の必要性と負担額を当時の資料で示す
相当な理由があることは、意思決定をした時点の資料で示します。資料の例は、表「否認理由ごとに確認する事実と資料」の「関連会社への支援」に挙げたとおりです。9-4-2の注は、合理的な再建計画かどうかについて、支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性、支援割合の合理性等を、個々の事例に応じ総合的に判断するとしています。
グループの方針として決めたという説明だけでは足りません。後から作成した説明資料だけで合理性を示そうとするのではなく、当時の検討の経過が分かる資料を整理します。
回収訴訟と倒産対応の記録を税務の立証につなげる
督促、訴訟、強制執行、倒産手続への参加など、回収のために行った手続の記録は、貸倒れを説明するための重要な資料です。ただし、それぞれの資料が何を証明し、何を証明しないかを区別して使います。勝訴判決は請求権があることを裏付けますが、それだけで回収不能を証明するものではありません。特定の財産に対する強制執行で回収できなかったことも、債務者にほかの財産がないことまで示すものではありません。取引先が倒産したときの回収の手続は、取引先倒産時の債権届出・担保・相殺の確認をご覧ください。
訴訟や強制執行を行った結果と行わなかった理由
訴訟や強制執行を行うことは、すべての貸倒れに共通して欠かせない条件ではありません。最高裁判所平成16年12月24日判決も、回収に必要な労力や、債権額と取立費用との比較を判断の要素に含めています。手続を行った場合はその結果を、行わなかった場合は、費用、労力、予想される回収額などに照らして合理的と判断した理由を、その時点で記録しておきます。回収手段の選び方は、督促・訴訟・仮差押えなど債権回収手段の選び方で説明しています。
一方で、回収のための資料が、否認された事業年度より前に既に回収不能だったことを示す場合もあります。都合のよい事業年度の資料だけを抜き出すのではなく、時系列に並べて、いつ何が分かったのかを整合させます。また、債権放棄をすると債権は消滅し、保証人や担保にも影響が及ぶことがあります。税務上の証拠をそろえるためだけに放棄書を作成するのではなく、回収可能性、会社としての意思決定の手続、保証や担保への影響を検討したうえで判断してください。
相談前に整理する資料と期限
相談の前には、可能な範囲で次の資料を用意しておくと、争点を整理しやすくなります。否認の理由ごとの詳しい資料は、表「否認理由ごとに確認する事実と資料」を参照してください。更正の通知を受けて不服申立ての期間が進んでいるときなど、期限が近い場合は、資料がそろうのを待たずにご相談ください。
- 調査結果の説明を記録したメモや更正通知書などの書面と、それを受け取った日が分かる資料
- 否認の対象となった債権の一覧(相手方、債権の種類、金額、計上した事業年度、指摘の理由)
- 債権の発生と金額、否認された事業年度当時の債務者・保証人・担保の状況、回収の経過を示す資料
- その事業年度の会計と申告に関する資料
- 税務署に提出した資料の控えと、依頼している税理士の見解が分かるもの
貸倒損失の否認についてのご相談
当事務所では、貸倒損失の否認や債権放棄をめぐる法的な問題、回収の記録や契約書などの資料の整理、今後の対応方針についてのご相談をお受けしています。ご相談では、債権の存否や回収の経過、債権放棄や担保・保証の効力について、事実関係と資料を整理します。
当事務所は、税務申告・税務代理は行っていません。税額の計算や申告書の作成は、会社が依頼している税理士にご確認ください。税理士の見解や、税務署に提出した資料があれば、ご相談の際にお知らせください。
初回のご連絡では、会社名、ご相談者のお名前、債務者など関係者の名称、ご相談の概要、対象となる事業年度、通知の有無と期限をお知らせください。利益相反の確認が済むまでは、決算書や申告書などの資料は送らないでください。資料の共有方法は、確認後にご案内します。お問い合わせフォームは相談予約の受付窓口であり、送信や予約によってご依頼(委任契約)が成立するものではありません。ご相談やお問い合わせによって、不服申立ての期限が延びることもありません。相談の方法、費用、対応の範囲は、ご予約の際にご確認ください。
事務所・弁護士紹介
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所は、兵庫県弁護士会に所属する弁護士法人ひょうごの事務所で、神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階にあります。所属する弁護士の経歴や資格は、弁護士紹介のページでご覧いただけます。
参考資料
- e-Gov法令検索「法人税法」
- e-Gov法令検索「民法」
- 国税庁「法人税基本通達 第9章第6節 貸倒損失(金銭債権の貸倒れ)」
- 国税庁「法人税基本通達 第9章第4節 寄附金(寄附金の範囲等)」
- 国税庁「No.5320 貸倒損失として処理できる場合」
- 国税庁「連帯保証人がいる場合の貸倒れの判断」
- 国税庁 質疑応答事例「担保物がある場合の貸倒れ」
- 国税庁「No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算」
- 国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
- 国税庁「No.7200 税務署長等の処分に不服があるときの不服申立手続」
- 国税不服審判所「不服申立てをした場合の『徴収の手続』はどうなるの?」
- 最高裁判所第二小法廷平成16年12月24日判決(平成14年(行ヒ)第147号)判決全文
- 国税不服審判所 平成20年6月26日裁決(裁決事例集75集314頁)
- 国税不服審判所 令和元年5月16日裁決
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(2026年6月2日改正版)
この記事は、令和8年(2026年)10月17日時点で確認した法令、通達、公表資料に基づく一般的な情報です。過去の事業年度について否認を受けた場合は、その事業年度に適用される法令・通達を確認する必要があります。個別の事案への当てはめは、事実関係と資料によって異なります。

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