交通事故で転倒し、とっさに手をついたあと、手首の親指側の痛みが続いている。整形外科では「捻挫でしょう」と言われて様子を見ていたが、数か月たっても痛みが取れず、あとから「舟状骨骨折」「偽関節」と診断された。交通事故のご相談では、このような経過をたどる事案があります。
ここでいう舟状骨は、手関節を構成する八つの手根骨の一つで、母指(親指)側にある骨です。足の甲にも同じ名前の骨がありますが、別の骨です。日本整形外科学会は、偽関節を「骨折した骨がつかず、関節のように動く状態」と説明しています。
先にお伝えしたい点があります。診断書に「舟状骨偽関節」と書かれていることと、自動車損害賠償保障法施行令別表第二にいう「偽関節」の等級が認定されることとは、別のことです。この二つを結び付けたまま申請や示談に進むと、見込みと結果が食い違います。
この記事で分かること
- 手の舟状骨の骨折が、初期の単純エックス線写真で見つかりにくい理由
- 医学上の「舟状骨偽関節」に対応する号が、等級表に存在しないこと
- 実際に検討される枠組み(手関節の機能障害、動揺関節、局部の神経症状)
- 手関節の可動域が、どの運動を、どのように測定されるか
- 可動域制限と痛みの両方が残っても、等級が足し算にならない理由
- 診断書の作成前、申請前、示談前に確認しておきたい資料
手関節の可動域の測定値や画像所見の記載は、後遺障害診断書を作成してもらったあとで整えることが難しい事項です。診断書の作成前に、どの画像がいつ撮影されているか、患側と健側の可動域が測定されているかを確認しておくと、その後の手続の見通しを立てやすくなります。
先に結論 「偽関節」という診断名に対応する号はありません
舟状骨骨折のあとに残った症状は、「偽関節かどうか」という一点ではなく、次の四つに分けて検討します。根拠となる資料も注意点も、それぞれ異なります。
| 残っている問題 | 検討される評価の枠組み | 重要な資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 手関節の可動域制限 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能障害(第8級6号、第10級10号、第12級6号) | 患側と健側の可動域測定値、画像、手術記録、リハビリ記録 | 角度だけでは足りず、制限の医学的な原因が画像所見や治療経過と整合している必要があります |
| 手首に残る痛み、しびれ | 局部の神経症状(第12級13号、第14級9号) | 画像所見報告書、神経学的所見、受傷直後からの症状の記録 | 可動域制限とは別の枠組みです。同じ箇所の障害が当然に足し算されるわけではありません |
| 画像上の偽関節、骨癒合不全 | これ自体を対象とする号は、確認できた範囲では別表第二にありません。機能障害や神経症状を裏づける他覚的所見として意味を持ちます | 単純エックス線、CT、MRIと各画像の読影所見、手術記録 | 「一上肢に偽関節を残すもの」(第8級8号)と「長管骨に変形を残すもの」(第12級8号)は、上腕骨、橈骨及び尺骨を対象とする基準です |
| 握力低下、細かい作業のしにくさ、仕事への支障 | 対応する独立の号はありません。等級を支える補助的な所見となるほか、逸失利益の立証で問題になります | 握力測定の記録、職務内容が分かる資料、休業・配置転換・減収の資料 | 仕事がしづらいという事実だけで等級は決まりません。等級の評価と損害額の立証は別です |
手の舟状骨と、偽関節ができる理由
母指側にある小さな骨で、初期のエックス線では見つけにくい
手首の関節は、前腕の橈骨・尺骨と八つの手根骨で構成されています。日本整形外科学会の解説によれば、舟状骨は手根骨のうち母指側にある骨で、最も多い骨折部位は「腰部」、つまり舟状骨の中央のくびれた部分です。受傷の場面は、スポーツや交通事故などで手首を背屈して手をついたときとされ、交通事故では自転車や二輪車での転倒、歩行中の転倒、車内で身体を支えたときが典型です。
急性期には手首の母指側が腫れ、痛みが出ます。同学会は、舟状骨が母指の列にあるため他の指の列とは45度傾いて存在しており、通常の撮影方向では骨折が見えにくく、見逃されてしまうこともあると説明しています。初期段階では普通のエックス線写真では発見されにくいことが多く、これが偽関節になる原因の一つであるとされ、疑わしいものはCTやMRIをとると骨折部がはっきりするとされています。受傷直後の一枚の写真で「異常なし」とされたことは、骨折がなかったことを意味しません。
偽関節になると何が起きるか
日本手外科学会の資料では、舟状骨は血行が悪いため、非常に治りにくい骨折の一つであると説明されています。日本整形外科学会も、骨折しているとは思わず捻挫したと思ったまま放置したため偽関節になることが多いとし、偽関節になると手首の関節の変形が進行し、手首に痛みが生じて、力が入らなくなり、また動きにくくなってくると説明しています。痛み、握力の低下、動かしにくさが同時に問題になるのは、この経過によるものです。
そのため、診療記録や画像所見報告書に、骨癒合不全、偽関節、骨壊死、変形性変化といった記載があるかどうかが重要になります。残っている症状が自覚症状にとどまらないことを示す他覚的所見となり得るためです。なお、必要な検査や治療を判断するのは主治医であり、この記事はその判断に代わるものではありません。
初診時に骨折が写らなかったことだけを理由に、診断の誤りや医療機関の責任を判断することはできません。この記事は診療の当否を評価するものではなく、交通事故の損害賠償と後遺障害の手続で、経過をどのように資料で示すかを整理するものです。
医学上の偽関節と、等級表上の偽関節は別のものです
別表第二には、「一上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの」(第7級9号)、「一上肢に偽関節を残すもの」(第8級8号)、「長管骨に変形を残すもの」(第12級8号)が定められています。
これらがどのような場合に認定されるかは、厚生労働省の障害等級認定基準(せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について。平成16年6月4日基発第0604003号)に定められています。同基準は、上肢の偽関節を、上腕骨の骨幹部又は骨幹端部のゆ合不全、橈骨及び尺骨の両方の骨幹部等のゆ合不全、橈骨又は尺骨のいずれか一方の骨幹部等のゆ合不全で時々硬性補装具を必要とするもの、という形で定めています。長管骨の変形についても、対象は上腕骨、橈骨及び尺骨です。
舟状骨は手根骨であり、上腕骨、橈骨、尺骨のいずれでもありません。医学上「舟状骨偽関節」と診断されたことから、直ちに第8級8号や第12級8号が認定されるという関係にはありません。確認できた範囲では、手根骨の癒合不全そのものを直接の対象とする号は、別表第二にも障害等級認定基準にも設けられていません。
もっとも、舟状骨の偽関節が後遺障害と無関係というわけではありません。舟状骨は手関節を構成する骨の一つですから、癒合不全や変形によって手関節の動きが制限されれば、手関節の機能障害として評価される可能性があります。画像で確認できる器質的な変化は、残っている痛みを裏づける所見にもなります。偽関節は「等級の名前」ではなく、機能障害や神経症状を検討するための出発点だとお考えください。
舟状骨骨折後に検討される後遺障害
手関節の機能障害
手関節は、肩関節、肘関節とともに上肢の三大関節の一つとされています。別表第二では次の三段階が定められています。
| 等級・号 | 別表第二の文言 | 認定基準における目安 |
|---|---|---|
| 第8級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの | 関節が強直したもの、完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの等 |
| 第10級10号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの | 可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されているもの |
| 第12級6号 | 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの | 可動域が健側の可動域角度の4分の3以下に制限されているもの |
自賠責の等級認定は、支払基準において、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行うものとされています。右欄はその労災の認定基準における目安です。
手関節にぐらつきが残る場合
可動域の制限とは別に、関節が不安定になる状態があります。障害等級認定基準は、上肢の動揺関節について、常に硬性補装具を必要とするものは第10級に準ずる関節の機能障害として、時々必要とするものは第12級に準ずる関節の機能障害として取り扱うとしています。装具の処方内容と使用の頻度を、診療記録で確認してください。
局部の神経症状
可動域の制限が基準に達しない場合でも、痛みが残っていれば、局部の神経症状として第12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)又は第14級9号(局部に神経症状を残すもの)の該当性が検討されます。
厚生労働省の障害等級認定基準(神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について。平成15年8月8日基発第0808002号)は、疼痛について、時には強度の疼痛のためある程度差し支えがあるものを第12級、受傷部位にほとんど常時疼痛を残すものを第14級としています。実際の判断では、この程度に加えて、症状の一貫性、画像所見、治療経過との整合性が確認されます。痛みの訴えだけで等級が決まるものではありません。
労災の障害等級表と自賠責の別表第二とでは、同じ内容でも号数の表示が異なることがあります。局部の頑固な神経症状は、障害等級認定基準では「第12級の12」と表記されますが、自賠責では第12級13号です。認定基準の解説をそのまま自賠責の号数として転記すると誤りになります。
握力の低下や仕事上の支障の位置づけ
握力の低下や細かい作業のしにくさに対応する独立の号は、別表第二にありません。握力測定の結果は、機能障害や神経症状の程度を検討する際の補助的な資料にとどまり、仕事への影響は、等級の認定とは別に休業損害や逸失利益の立証において主張することになります。
可動域制限と痛みが両方残る場合
同じ手関節に可動域制限と痛みが残っていても、両方が当然に併合されて等級が上がるわけではありません。障害等級認定基準は、一の身体障害に他の身体障害が通常派生する関係にある場合には、いずれか上位の等級をもって当該身体障害の等級とするとしています。同基準は、その例として、上腕骨に偽関節を残し(第7級の9)、かつ当該箇所に頑固な神経症状を残した場合には、上位等級である第7級の9をもって当該障害の等級とすると説明しています。骨の障害と同じ箇所の痛みは、足し算ではなく上位の等級によって評価されるという整理です。
事故前から同じ手関節に障害があった場合は、加重の問題になります。同基準は、加重の対象となる「同一の部位」を同一系列の範囲内としています。事故前の手関節の状態が分かる資料は、この判断のために必要です。
手関節の可動域はどのように確認されるか
手関節の可動域は、「曲がりにくい」という感覚では評価できません。障害等級認定基準に定める測定要領は、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」に準拠して定められており、次の枠組みで測定します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主要運動 | 屈曲(掌屈)及び伸展(背屈) |
| 参考運動 | 橈屈及び尺屈 |
| 参考可動域角度 | 屈曲90度、伸展70度、橈屈25度、尺屈55度 |
| 同一面にある運動 | 屈曲と伸展は、両者の可動域角度を合計した値で制限の程度を評価します |
| 測定の原則 | 原則として他動運動によります。末梢神経損傷により自動では可動できない場合や、可動させると我慢できない程度の痛みが生じると医学的に判断される場合などは、自動運動による測定値を参考とします |
| 比較の対象 | 原則として健側と比較します。健側となるべき関節にも障害を残す場合等は、測定要領に定める参考可動域角度と比較します |
| 測定の刻み | 十分な長さの柄がついた角度計を使用し、通常は5度刻みで測定します |
| 参考運動の考慮 | 主要運動が基準をわずかに上回る場合(手関節の屈曲・伸展は10度)に、参考運動が2分の1以下又は4分の3以下に制限されていれば、著しい機能障害又は機能障害と認定される取扱いがあります |
屈曲と伸展を合計して健側と比較する点は、見落とされがちです。屈曲だけを見て「半分以下だから第10級」と判断することはできません。橈屈・尺屈が測定されていない後遺障害診断書もありますが、主要運動があと10度というときには、この測定値の有無が結論を左右します。
角度が基準を下回っていれば必ず認定される、というものでもありません。可動域制限の医学的な原因(骨癒合の状態、関節面の変化、変形、拘縮など)が画像所見や治療経過から説明できるか、測定値が診療経過を通じて整合しているかも確認されます。なお、基準に合うように角度を調整して記載してほしいと医師に依頼することは、手続の信頼性を損ないます。お願いできるのは、実際の状態を正確に測定し、記録していただくことです。
事故との関係が争われやすい場面
初診時に骨折が確認されなかった事案では、事故と後遺障害との関係が争点になることがあります。もっとも、診断が遅れたという一事から、因果関係が否定されるとも肯定されるとも言えません。次のような事情を総合して検討します。
- 事故の態様と、手をついた状況が具体的に記録されているか
- 受傷直後から手首の母指側の痛みや腫れを訴えていたことが、診療録に残っているか
- 圧痛の部位が、当初から一貫しているか
- 初診から再受診、精査、診断名の変更までの経緯を説明できるか
- 各画像の撮影日と所見を時系列で並べられるか
- 事故前に同じ手首の痛みや外傷、陳旧性の骨折、変形性の変化がなかったか
- 事故後に別の外傷を受けていないか
受傷直後の診療録に手関節の症状の記載が乏しい場合、その不足を後から補うことは容易ではありません。整形外科以外の科の記録、救急記録、事故直後の写真も確認する価値があります。事故前から変形性の変化などが指摘されている場合は、加重のほか素因減額が主張されることもあり、事故前の状態が分かる資料が出発点になります。
相談前に一枚にまとめておきたい時系列
時系列に整理しておくと、どの争点にどの資料が対応するのかが見えやすくなります。次の項目を、日付順に一枚の表にしてみてください。
| 項目 | 記載する内容の目安 |
|---|---|
| 事故日と受傷の状況 | 日付、事故の態様、どちらの手をどのようについたか |
| 初診日と初診時の症状 | 医療機関、告げた症状、診断名、行われた検査 |
| 画像の撮影日と内容 | 単純エックス線・CT・MRIの別、撮影日、読影所見の要旨 |
| 固定、手術、リハビリの期間 | ギプス固定の開始日と終了日、手術日と術式、通院期間 |
| 症状の変化 | 痛みの部位と程度、動かしにくさ、握力、しびれの推移 |
| 休業と仕事上の支障 | 休業期間、復帰日、できなくなった作業、配置転換の有無 |
| 症状固定に関するやり取り | 保険会社からの打診の日付、主治医の判断、症状固定日 |
| 申請と認定の経過 | 申請の方法と日付、認定結果、認定理由の要旨 |
診断が遅れた事案では、どの資料がどの争点を裏づけるのかを整理することが出発点になります。診療記録、画像、後遺障害診断書を拝見したうえで、不足している資料と今後の見通しを整理いたします。
時点ごとにそろえる資料と、その資料が裏づけるもの
後遺障害の請求では、後遺障害診断書と、レントゲン・CT・MRI画像等が必ず提出する書類とされています。舟状骨骨折の事案では、これに加えて次の資料が役立ちます。ただ集めるのではなく、どの争点の裏づけになるかを意識してください。
| 時点 | そろえる資料 | 何の裏づけになるか |
|---|---|---|
| 事故直後 | 交通事故証明書、事故状況が分かる資料、救急記録、初診時の診療録と初診時画像 | 受傷機転と、受傷直後から母指側の手関節に症状があったこと |
| 診断が確定するまで | 再受診の記録、圧痛・腫脹・可動域の経過が分かる診療録、追加のCT・MRIと読影所見、診療情報提供書 | 症状の連続性と一貫性、診断が遅れた理由、事故との関係 |
| 治療中 | 手術記録(術式、固定材料、骨移植の有無)、術後画像、リハビリ記録、可動域の測定表、握力測定、装具の処方内容 | 骨癒合の経過、可動域制限の医学的原因、動揺性や装具の必要性 |
| 症状固定前後 | 後遺障害診断書、症状固定時の画像と読影所見、保険会社との連絡記録、治療費の対応終了に関する書面、事故前の既往が分かる資料 | 残存する症状の内容と程度、症状固定時期の医学的理由、加重や素因減額の有無 |
| 申請・異議申立て | 認定結果と認定理由が記載された書面、職務内容が分かる資料、休業・配置転換・減収の資料、生活上の支障の記録 | 不足していた資料の特定、逸失利益その他の損害額 |
後遺障害診断書で確認したい記載
- 傷病名が、画像所見や治療経過と整合しているか
- 自覚症状として、痛む部位、どの動作で痛むか、頻度が具体的に書かれているか
- 他覚所見の欄に、偽関節、骨癒合不全、変形、術後の状態など、画像で確認できる所見が記載されているか
- 手関節の屈曲・伸展が測定され、患側と健側の双方が記載されているか。橈屈・尺屈も測定されているか
- 他動運動による測定か、自動運動によったのか、方法が分かるか
- 痛みのために動かせない部分と、骨や関節の状態そのものによる制限とが区別できる記載か
- 握力その他の所見が、リハビリ記録などの治療記録と矛盾していないか
- 症状固定日と、その医学的な理由が、治療経過と整合しているか
症状固定は、通院の終了や、保険会社による治療費対応の終了と同じ意味ではありません。国土交通省の資料では、症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行ってもその医療効果が期待できなくなった時をいい、医師によって判断されるものとされています。抜釘、再手術、骨移植などが検討されている段階であれば、症状固定の時期は主治医の医学的判断と治療の見通しによって変わります。
後遺障害の申請と、結果に納得できないとき
後遺障害の請求には、相手方の保険会社を通じて行う方法(実務上、事前認定と呼ばれます)と、被害者が自賠責保険会社に直接請求する方法(被害者請求)があります。どちらを選ぶかは、資料の内容と事案の状況によって判断します。提出された書類は、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所で調査され、判断が困難な事案は地区本部や本部で審査されます。同機構の説明によれば、認定が困難なケースや異議申立てがあったケース等の特定事案は、弁護士、専門医、交通法学者、学識経験者等の外部の委員が参加する自賠責保険(共済)審査会で審査されるとされています。
国土交通省の案内では、後遺障害等級認定に不服がある場合は、新たな立証資料を添付のうえ、損害保険会社(共済組合)に対して異議申立てを行うか、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構へ調停の申請を行うことができるとされています。同機構の調停結果に不服がある場合は、再度、新たな立証資料を添付して異議申立てを行うか、訴訟を提起することになるとされています。
何が不足していたのかを特定しないまま同じ資料を再提出することは、想定されている手続の使い方ではありません。まず認定理由を確認し、可動域の測定方法、参考運動の測定の有無、画像所見の記載など、補うべき点を検討することが出発点になります。
自賠責保険会社に対する被害者請求のうち、後遺障害による損害の請求期限は、国土交通省の資料によれば症状固定日の翌日から3年以内とされています。加害者や任意保険会社に対する民事上の損害賠償請求には、これとは別の期間制限があります。起算点や時効の完成猶予・更新の有無により結論が変わりますので、期限が近い場合は早めにご確認ください。
損害賠償で問題になる項目
等級が認定されると、後遺障害慰謝料と逸失利益が問題になります。自賠責の枠組みにおける数値は次のとおりです。
| 等級 | 自賠責保険金額(限度額) | 支払基準上の慰謝料等 | 労働能力喪失率 |
|---|---|---|---|
| 第8級 | 819万円 | 331万円 | 45/100 |
| 第10級 | 461万円 | 190万円 | 27/100 |
| 第12級 | 224万円 | 94万円 | 14/100 |
| 第14級 | 75万円 | 32万円 | 5/100 |
限度額は自賠責から支払われる上限であり、慰謝料の額そのものではありません。等級が認定されれば当然に限度額まで支払われるものでもありません。支払基準上の慰謝料等の額は自賠責の枠組みにおける基準額であり、裁判実務上参照される基準による金額とは異なります。労働能力喪失率表の数値も、民事上の最終的な喪失率を拘束するものではありません。
手関節の障害では、工具や機械の操作、重量物の運搬、書字やパソコンの入力、調理、運転など、どの作業がどの程度困難になったのかを資料で示すことが重要です。収入が減っていないことだけを理由に逸失利益がゼロになるわけではなく、支障があるという説明だけで当然に認められるわけでもありません。自費で通院した分、装具の費用、将来の抜釘や再手術の費用は、必要性と相当性を資料で説明する必要があります。示談の際は、これらを留保するかどうかと清算条項の範囲をご確認ください。
弁護士に相談を検討したいタイミング
相談によって等級の認定や増額が保証されるわけではありません。もっとも、次の場面では、資料を確認したうえで対応方針を整理できます。
- 捻挫と言われた後に骨折が判明し、事故との関係を説明できるか不安があるとき
- 症状固定を打診されたが、手術や治療の見通しが定まっていないとき
- 後遺障害診断書の作成前に、記録しておくべき事項を整理したいとき
- 申請の前に、可動域の測定や画像の記載が十分かを確認したいとき
- 非該当となった、又は想定より低い等級であり、認定理由と提出資料を確認したいとき
- 保険会社から示談案を受け取り、損害項目の内訳を確認したいとき
ご自身やご家族の保険に弁護士費用特約が付いている場合、相談や依頼の費用にこれを利用できることがあります。契約の内容によって範囲が異なりますので、保険証券や約款をご確認ください。
手関節だけでなく肘関節や前腕にも骨折や機能障害が残っている場合は、上肢全体としての評価を検討する必要があります。手首・肘の骨折後に残る機能障害の全体像は、手首・肘の骨折後に残る機能障害の全体像を確認するで整理しています。
よくある質問
「舟状骨偽関節」と診断されました。偽関節なら第8級になりますか。
そうとは限りません。「一上肢に偽関節を残すもの」(第8級8号)について、障害等級認定基準は上腕骨、橈骨及び尺骨のゆ合不全を対象としています。舟状骨は手根骨ですので、この基準がそのまま当てはまるわけではなく、実際には手関節の可動域制限や神経症状として評価されるかを資料に基づいて検討します。
初診では骨折が見つからず、あとから診断されました。事故との関係は認められますか。
診断が遅れたことだけで結論は決まりません。事故の態様、受傷直後の症状の記録、圧痛の部位、再受診の経緯、各画像の撮影日と所見、事故前の既往などを総合して検討します。受傷直後の診療録や救急記録が特に重要ですので、早めに取り寄せてご確認ください。
可動域はほとんど制限されていませんが、痛みが続いています。後遺障害になりますか。
局部の神経症状として、第12級13号又は第14級9号の該当性が検討される可能性があります。症状の程度に加えて、一貫性、画像所見、治療経過との整合性が確認されますので、画像所見報告書に骨癒合不全や変形の記載があるかは確認しておきたい点です。
手関節の可動域は、どの動きを測るのですか。
主要運動は屈曲(掌屈)と伸展(背屈)、参考運動は橈屈と尺屈です。屈曲と伸展は合計した値で健側と比較します。測定は原則として他動運動により通常は5度刻みで行うものとされ、主要運動があと10度というときには参考運動の測定値が結論を左右します。
手術で骨がくっついたのに、痛みと動かしにくさが残っています。
骨癒合が得られたことと、症状が残らないこととは別の問題です。可動域制限があれば手関節の機能障害として、痛みが残っていれば局部の神経症状として検討します。ただし、同じ箇所の障害が通常派生する関係にある場合は上位の等級により評価され、単純な足し算にはなりません。
非該当になりました。異議申立てをすれば認定されますか。
国土交通省の案内でも、異議申立ては新たな立証資料を添付して行うものとされており、同じ資料の再提出で結論が変わることは期待しにくいところです。まず認定理由を確認し、可動域の測定方法、参考運動の測定の有無、画像所見の記載など何が不足していたのかを特定したうえで、異議申立て、調停の申請、訴訟のいずれによるかを検討します。
示談書に署名する前に、何を確認すればよいですか。
認定された等級と号、後遺障害慰謝料と逸失利益の算定根拠、休業損害、治療費、既払金、過失割合の内訳をご確認ください。将来の抜釘や再手術が予定されている場合は、その費用を留保するかどうかと、清算条項の範囲もあわせてご確認ください。
まとめ
- 手の舟状骨の骨折は初期の単純エックス線写真では見つかりにくいことがあり、捻挫と扱われたまま偽関節に至る経過があります。
- 医学上の「舟状骨偽関節」と、別表第二の「一上肢に偽関節を残すもの」(第8級8号)は別のものです。同号と「長管骨に変形を残すもの」(第12級8号)は、上腕骨、橈骨及び尺骨を対象とします。
- 実際に検討されるのは、手関節の機能障害(第8級6号、第10級10号、第12級6号)、動揺関節としての準用、局部の神経症状(第12級13号、第14級9号)です。
- 手関節の可動域は屈曲と伸展を合計して健側と比較し、参考運動である橈屈・尺屈の測定値が結論を左右することがあります。同じ箇所の可動域制限と痛みは足し算されず、通常派生する関係にあれば上位の等級によります。
- 診断が遅れた事案では、受傷直後の症状の記録と画像の時系列が重要になります。
- 異議申立ては新たな立証資料を添付して行うものとされており、認定理由の確認が出発点です。
- 次の行動は、初診時を含む診療録と画像を取り寄せること、各画像の撮影日と所見を時系列に並べること、後遺障害診断書の作成前に測定してもらう項目を確認することです。
手首の痛みや動かしにくさが残っている場合、まずは診療記録と画像を時系列に並べ、どの評価の枠組みで検討すべきかを整理するところから始まります。資料を拝見したうえで、確認すべき事項と今後の見通しを整理いたします。費用の目安は、あわせて次のページをご覧ください。
監修者・執筆者
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
弁護士・公認会計士 藤井 貴之(兵庫県弁護士会所属)
交通事故、相続、企業法務などを取り扱っています。経歴及び取扱分野は弁護士紹介を見るからご確認いただけます。ほかの記事はコラム一覧を見るからご覧いただけます。
本記事は、法令及び公的機関等の公表資料に基づいて作成したものです。医学的事項について医師の監修を受けたものではありません。実際の診断、検査、治療及び症状固定の判断は、担当の医師にご確認ください。個別の事案における結論は、資料の内容により異なります。
参考資料
- e-Gov法令検索 自動車損害賠償保障法施行令
- 国土交通省 自賠責保険・共済の限度額と補償内容
- 国土交通省 自賠責保険・共済の請求手続について
- 国土交通省 自賠責保険・共済に関するよくあるご質問
- 国土交通省 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準
- 国土交通省 労働能力喪失率表
- 厚生労働省 せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について
- 厚生労働省 障害等級認定基準(併合、準用及び加重に関する基本的事項)
- 厚生労働省 神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について
- 損害保険料率算出機構 当機構で行う損害調査
- 公益社団法人日本整形外科学会 舟状骨骨折
- 一般社団法人日本手外科学会 手外科シリーズ9 舟状骨骨折
- 公益社団法人日本リハビリテーション医学会 関節可動域表示ならびに測定法改訂に関する告知

24時間365日受付