鎖骨・肩甲骨・肋骨・胸骨の変形障害|12級5号と外見上の基準 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

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鎖骨・肩甲骨・肋骨・胸骨の変形障害|12級5号と外見上の基準

交通事故で鎖骨を骨折した後、骨の一部が盛り上がったまま治り、服の上からでも左右差が分かる。肩鎖関節を脱臼した後、鎖骨の端が浮き上がったままになっている。肋骨を何本も折り、胸のあたりに凹凸が残っている。こうした状態が残ると、「X線写真に変形が写っていれば後遺障害になるのか」「肩が動かしにくいのは別の等級なのか」「見た目だけでは仕事に影響がないと言われたが、賠償はどうなるのか」といった疑問が出てきます。

自賠責保険の後遺障害等級表には、鎖骨などの骨に「著しい変形」が残った場合の等級として第12級第5号が定められています。もっとも、ここでいう「著しい変形」は、日常語としての「大きな骨折」とも、画像上の大きなずれとも意味が違います。判断の枠組みは公的な基準で定まっており、そこを取り違えたまま申請すると、想定と異なる結果になることがあります。

この記事では、第12級第5号の対象となる骨と「著しい変形」の意味、X線・CT等の画像と外見上の変形が果たす役割の違い、鎖骨・肩甲骨・肋骨・胸骨それぞれの確認点、肩関節の可動域制限や痛みが併存する場合の取扱い、申請前にそろえる資料、後遺障害慰謝料と逸失利益で争点になりやすい部分を整理します。事案により結論は変わりますので、資料を確認したうえで判断を要する点もあわせて示します。

骨の変形が残ったまま後遺障害の申請や示談を進めてよいか迷われている場合は、後遺障害診断書、X線・CT等の画像、手術記録、保険会社から届いた書面をご用意いただければ、確認すべき点と手続の選択肢を整理しやすくなります。

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先に押さえておきたい五つの結論

  • 第12級第5号の「著しい変形」は、裸体となったときに変形が明らかに分かる程度のものを指します。X線写真によってはじめて発見し得る程度のものは、含まれないと明示されています。
  • したがって、画像に変形が写っていることは、それだけでは該当する理由になりません。もっとも画像は、骨折の部位、癒合の状態、事故との関係を確認するために欠かせない資料です。
  • 「変形」には欠損も含まれます。肋骨については、本数、程度、部位に関係なく、肋骨全体を一括して一つの障害として取り扱うと定められています。
  • 鎖骨の著しい変形と肩関節の運動障害が併存する場合は、系列を異にする障害として併合の方法により処理されます。痛みや手術痕は、これとはさらに別の評価対象です。
  • 第12級が認定されても、慰謝料と逸失利益が一律に決まるわけではありません。特に逸失利益は、仕事への具体的な影響をどの資料で説明できるかが問題になります。

第12級第5号の対象と「著しい変形」の意味

対象となるのは五つの骨

自動車損害賠償保障法施行令別表第二の第12級第5号は、「鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの」と定めています。「ろく骨」は肋骨、「けんこう骨」は肩甲骨のことで、法令上の表記が異なるだけで同じ骨を指します。

対象は五つの骨であり、鎖骨・肩甲骨・肋骨・胸骨のほかに骨盤骨も含まれます。認定基準は、この骨盤骨について、仙骨を含め、尾骨は除くものとして取り扱うと定めています。骨盤骨の変形には、股関節の運動障害や下肢の短縮との関係という固有の検討点があるため、本記事では取り上げず、別記事に譲ります。

骨盤骨折の後遺障害について確認する

自賠責保険の後遺障害等級の認定は、支払基準において、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行うものとされています。そのため、「著しい変形」の内容は、厚生労働省が定める障害等級認定基準を確認して判断されます。

「著しい変形」とは何を指すか

厚生労働省の「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準」(平成16年6月4日付け基発第0604003号)は、その他の体幹骨の変形障害について、次のとおり定めています。

「鎖骨、胸骨、ろく骨、肩こう骨又は骨盤骨に著しい変形障害を残すもの」とは、裸体となったとき、変形(欠損を含む)が明らかにわかる程度のものをいう。

したがって、その変形がエックス線写真によって、はじめて発見し得る程度のものは、これに該当しないものであること。

ここから読み取れるのは、次の二点です。

  • 判断の基準は、衣服を脱いだ状態で変形が明らかに分かるかどうかという、外見上の状態に置かれていること
  • X線写真ではじめて分かる程度の変形は、この基準に当たらないと明示されていること

基準は、突出の高さ、角度、左右差などを数値で定めてはいません。したがって、「何ミリメートル以上なら該当する」といった一律の線引きは、公的な基準としては存在しません。逆に、「変形して癒合していれば原則として認定される」と考えることもできません。個別の資料に基づく判断となります。

なぜ数値の基準がないのか

この点は、同じ通達が扱う背骨(せき柱)の変形障害と比べると分かりやすくなります。せき柱の変形障害については、平成16年の改正により、従来は外見によって判断していたものを改め、原則として椎体高の減少度やコブ法による側彎度を測定して評価することとされました。

これに対し、鎖骨などのその他の体幹骨の変形障害は、この改正の後も外見による判断のまま維持されています。つまり、数値基準がないのは基準が未整備だからではなく、外見上分かる変形であること自体が要件として選ばれているためです。「画像上の転位が大きいのに認定されない」という結果が生じ得るのは、この構造によります。

「変形」には欠損も含まれる

基準は「変形(欠損を含む)」と定めており、骨の一部を失った場合も同じ枠組みで検討されます。骨折後に骨片を摘出した場合や、手術で骨の一部を切除した場合も、外見上の状態がどうなっているかという観点から確認されることになります。

画像所見と外見上の変形は役割が違う

X線・CT等の画像が果たす役割

「外見で判断されるなら画像は不要」ということではありません。自賠責保険の後遺障害の請求では、受傷した部位を撮影したX線・CT・MRI等の画像の提出が求められています。画像と外見資料は、確認する対象が異なります。

外見上の状態と画像所見のそれぞれの役割
確認したい事項 主に用いられる資料 留意点
変形が「著しい」といえるか 外見上の状態を示す資料、診療録の記載 基準は裸体となったときに明らかに分かる程度としており、数値基準は定められていません。
どの骨のどこが折れたか 受傷直後のX線・CT 肋骨は肺や他の肋骨と重なるため、X線では骨折が分かりにくい場合があります。
骨がどのように癒合したか 治療経過中および症状固定時のX線・CT 経時的な比較ができるよう、撮影時期の分かる画像をそろえます。
事故によるものか、既存のものか 受傷直後の画像、事故前の画像、診療録 既往症がある場合、事故前後の比較が問題になることがあります。
固定材料が残っているか 症状固定時の画像、手術記録 固定材料そのものと骨の変形は、区別して確認する必要があります。

画像に変形が写っていることを理由に該当を主張しても、外見上の状態が示されていなければ判断材料が足りません。逆に、外見上の変形だけを示しても、事故との関係や骨の状態を裏付ける資料がなければ検討が進みません。

外見の状態を示す資料の位置付けと注意点

自賠責保険の請求に必要な書類として公式に案内されているのは、請求書、交通事故証明書、事故発生状況報告書、診断書、診療報酬明細書、印鑑証明書、後遺障害診断書、X線・CT・MRI等の画像などです。外見の状態を撮影した写真は、この必須書類の一覧に挙げられているものではなく、事案に応じて補足的に用いられる資料です。

写真の要否、撮影方法、提出の可否は、事案の内容や身体の部位によって判断が分かれます。撮影する場合も、過度な露出や、実際の状態と異なる印象を与える加工・角度は避けるべきです。撮影した資料は個人情報として管理され、保険会社や調査機関に渡ることになりますので、取扱いについても事前に確認しておくことが望まれます。実際に写真が必要か、どの範囲で撮影するかは、個別に相談したうえで決めることをおすすめします。

骨ごとの確認ポイント

鎖骨

鎖骨は皮膚のすぐ下にある骨で、骨折の多くは骨幹部に生じます。日本整形外傷学会の解説では、鎖骨骨折は保存療法が選択されることが多い一方、骨がつかない偽関節や、短縮して変形が残ることがあるとされています。また、肩鎖関節脱臼では、鎖骨の外側の端が皮膚を押し上げるように突出することがあります。

もっとも、鎖骨骨折や肩鎖関節脱臼という診断名があること、プレートで固定したこと、抜釘を予定していること、偽関節と診断されたことは、それ自体が第12級第5号の該当を意味するものではありません。基準は外見上の状態に置かれているため、次の点を分けて確認する必要があります。

  • 骨の変形として、裸体となったときにどのような状態が分かるか
  • 皮膚の下にある固定材料の突出と、骨そのものの変形を区別できているか
  • 肩関節の動かしにくさがある場合、それは可動域制限として別に測定されているか
  • 肩鎖関節に不安定さが残る場合、その所見が診療録に記録されているか
  • 痛みやしびれがある場合、その部位と程度が記録されているか

肩甲骨(けんこう骨)

肩甲骨も第12級第5号の対象です。判断の枠組みは鎖骨と共通で、裸体となったときに変形が明らかに分かる程度かどうかが基準になります。肩甲骨は筋肉に覆われた部位ですが、そのことを理由に認定の可否をあらかじめ推測することはできません。外見上の状態、画像所見、診療録を個別に確認して判断することになります。

注意が必要なのは、肩甲骨が外見上浮き上がって見えるからといって、それが常に骨の変形によるものとは限らないことです。日本整形外科学会の解説によれば、腕を挙げるときに肩甲骨の内側の縁が浮き上がる「翼状肩甲」は、長胸神経の麻痺による前鋸筋の麻痺や、副神経の損傷による僧帽筋の麻痺などによって生じることがあります。これは骨の変形ではなく、神経と筋の機能の問題です。

外見だけで骨の変形と決めつけず、神経学的所見や画像によって原因を確認することが、後の等級判断でも重要になります。

肋骨(ろく骨)と肋軟骨

肋骨は左右12対あり、胸椎から胸骨に向かってかご状に胸腔を形成しています。交通事故では複数本を同時に骨折することも珍しくありません。

ここで誤解が生じやすいのが、本数と等級の関係です。認定基準は、次のとおり定めています。

ろく骨の変形は、その本数、程度、部位等に関係なく、ろく骨全体を一括して1つの障害として取り扱うこととし、ろく軟骨についても、ろく骨に準じて取り扱うこと。

したがって、何本折れていても、肋骨の変形は全体で一つの障害として評価されます。本数分の等級が付くわけではなく、本数が多いほど自動的に上位の等級になるわけでもありません。肋軟骨についても、肋骨に準じた取扱いとされています。

なお、多発肋骨骨折や胸骨骨折によって胸郭の動きが不安定になる状態は、日本救急医学会の用語解説において「フレイルチェスト」と呼ばれています。息苦しさなど呼吸の機能に影響が残った場合は、変形障害とは別の類型として評価が検討されます。

肋骨骨折後の呼吸機能障害と等級を確認する

胸骨

胸骨は胸の前面中央にある骨で、骨折後に胸郭前面の形が変わることがあります。胸骨についても、第12級第5号の判断枠組みは共通で、裸体となったときに変形が明らかに分かる程度かどうかが検討されます。

胸骨骨折の後に残る痛み、深呼吸や咳のときの症状、手術痕は、いずれも「著しい変形」の要件そのものではありません。変形の有無・程度と、痛みや機能の問題は、資料を分けて整理する必要があります。

変形以外に残りやすい後遺障害との切り分け

鎖骨や肩甲骨の骨折後には、変形以外の症状が残ることがあります。それぞれ評価の対象と根拠資料が異なりますので、混同しないよう整理します。

変形障害と混同されやすい後遺障害の整理
障害の類型 評価の対象と自賠責の主な号 主な確認資料
その他の体幹骨の変形障害 鎖骨、胸骨、肋骨、肩甲骨、骨盤骨の外見上の変形(欠損を含む)。第12級第5号。 外見上の状態を示す資料、X線・CT、診療録、手術記録
肩関節の機能障害 肩関節の可動域の制限。認定基準は、主要運動である屈曲と外転・内転のいずれか一方の可動域が健側の2分の1以下であれば「著しい機能障害」、4分の3以下であれば「機能障害」とします。第10級第10号または第12級第6号。 可動域測定の結果、健側との比較、画像、リハビリ経過
肩関節の動揺・習慣性脱臼 関節の不安定さ。認定基準は、動揺関節について常に硬性補装具を必要とするものを第10級、時々必要とするものを第12級に準ずる機能障害とし、習慣性脱臼を第12級に準ずる機能障害とします。 不安定性の他覚的所見、装具の処方と使用状況、画像
局部の神経症状 痛みやしびれ。程度により第12級第13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」または第14級第9号「局部に神経症状を残すもの」。 神経学的検査、画像、通院経過、症状の一貫性を示す記録
醜状障害 認定基準は「外貌」を頭部・顔面部・頸部のように上肢及び下肢以外の日常露出する部分と定義し、上肢・下肢の露出面をひじ関節以下・ひざ関節以下としています。鎖骨部や胸部の手術痕は、いずれにも当たらないのが原則です。 創部の位置と大きさが分かる資料、手術記録
長管骨の変形障害 上腕骨や大腿骨など、その他の体幹骨とは別に定めが置かれている骨の変形。第12級第8号「長管骨に変形を残すもの」など。 X線・CT、手術記録、経過の分かる画像

肩関節の可動域制限が主な問題になる場合は、腱板損傷など軟部組織の損傷が関係していることもあります。長管骨の変形や偽関節は、別の枠組みで検討されます。

腱板断裂と肩関節の可動域制限について確認する長管骨の変形障害の考え方を確認する

資料を読むときの注意点

自賠責保険の等級表と、その解釈のもとになる労災保険の障害等級表とでは、同じ内容の障害でも号の表示が異なることがあります。たとえば、その他の体幹骨の変形はどちらも第12級第5号ですが、局部の頑固な神経症状は、自賠責では第12級第13号、労災では第12級の12とされています。認定結果の理由や解説記事を読むときは、どちらの制度の号数かを確認してください。

複数の障害が残った場合の併合・準用

変形以外の障害も残っている場合、複数の障害をどう評価するかが問題になります。認定基準は、系列を異にする障害が二つ以上ある場合には「併合」の方法によるとし、等級表に定めのない障害については「準用」の方法で等級を定めるとしています。あわせて、一つの障害に他の障害が通常派生する関係にある場合には、いずれか上位の等級によるとされています。

体幹骨の変形障害に関して認定基準が示す主な場面
場面 認定基準の取扱い
鎖骨の著しい変形と肩関節の運動障害が併存する場合 系列を異にする障害として、併合により等級を認定するものとされています。
二つ以上の体幹骨に著しい変形が残った場合 併合の方法を用いて準用等級を定めるものとされ、例として、鎖骨および肩甲骨に著しい変形を残すものを準用第11級とする旨が示されています。
肋骨を複数本骨折した場合 本数、程度、部位に関係なく、肋骨全体を一括して一つの障害として取り扱います。本数分の障害にはなりません。
骨盤骨の変形とこれに伴う下肢の短縮がある場合 併合ではなく、いずれか上位の等級により認定するものとされています。
事故前から同じ部位に障害があった場合 加重として、障害の程度を加重した限度で評価される可能性があり、事故前の状態を示す資料の確認が必要です。

これらは、別の症状があれば必ず等級が上がるという関係ではありません。系列を異にするか、派生関係にあるか、既存の障害があるかによって結論は変わります。また、変形部の痛みやしびれを別に評価できるかどうかも、症状の内容と裏付け資料により異なります。

後遺障害が複数残ったときの併合・加重・準用を確認する

申請前にそろえる資料と確認手順

症状固定と後遺障害診断書

後遺障害の申請は、症状固定の時期を医師と確認したうえで進めます。後遺障害診断書は、残っている症状と所見を記載する書類であり、記載内容が不足していると、判断に必要な情報が伝わりません。作成前に、どの所見を記載してもらう必要があるかを整理しておくことが有効です。

ここで注意すべきことがあります。医師に特定の等級を書いてもらう、事実と異なる所見を記載してもらう、法的な目的だけのために治療方針を変えてもらう、といった働きかけは、いずれも適切ではありません。医学的な判断は医師の領域であり、弁護士が担うのは、必要な資料と手続を整理する役割です。

後遺障害診断書を作成する前の確認事項を見る

画像と手術記録

変形障害では、事故直後、手術の前後、骨癒合後、症状固定時という各時点の画像がそろっているかが問題になります。あわせて、読影レポート、診療録、退院時要約、手術記録も確認します。転院がある場合は、前医の資料が引き継がれているかにも注意が必要です。

プレート固定と抜釘の扱い

プレートやスクリューといった固定材料が残っている状態と、骨そのものの変形は、別の事柄です。皮膚の下で固定材料が突出しているのか、骨が変形しているのかによって、確認すべき資料も変わります。

手続の時期については、認定基準に手がかりがあります。上肢の障害に関する定めとして、骨折部に用いた金属釘等がそれ自体で機能障害の原因となっている場合には、その除去を待って等級の認定を行い、機能障害の原因とならない場合には創面が治ゆした時点で認定を行う、という取扱いが示されています。固定材料が肩の動きを妨げているのか、そうでないのかによって、判断の時期の考え方が変わり得るということです。

もっとも、抜釘を行うかどうか、いつ行うかは医師の判断事項です。どの時点を症状固定とし、いつ後遺障害診断書を作成するかは、治療経過と医師の見解を踏まえた個別の判断になり、示談の時期にも影響します。抜釘の予定がある場合は、早めに整理しておくことが望まれます。

申請方法と結果を受け取った後

後遺障害の申請には、相手方保険会社を通じて行う事前認定と、自賠責保険会社に直接請求する被害者請求があります。提出できる資料の範囲や手続の進み方が異なりますので、どちらを選ぶかは事案に応じて検討します。なお、被害者請求には期限があり、後遺障害については症状固定日の翌日から三年以内とされています。

認定結果が想定と異なる場合には、異議申立てという手続があります。結果の理由を確認し、判断の前提となった資料の不足を補えるかどうかを検討することになります。

事前認定と被害者請求の違いを確認する後遺障害が非該当となった後の選択肢を確認する

仕事への影響を示す資料

逸失利益の検討に備え、収入、職務内容、実際の作業内容、配置転換の有無、欠勤や早退の状況、職場での配慮の内容などが分かる資料も、早い段階から整理しておくと役立ちます。

後遺障害慰謝料と逸失利益の考え方

混同しやすい五つの金額

「第12級だといくらもらえるのか」という疑問はよく聞かれますが、この問いには性質の異なる複数の金額が含まれています。

第12級に関して混同されやすい金額の性質
項目 内容 性質
自賠責保険の支払限度額 第12級は224万円(別表第二) 自賠責保険から支払われる後遺障害部分の限度額であり、賠償の総額ではありません。
支払基準上の後遺障害慰謝料等 第12級は94万円 自賠責保険の支払基準が定める金額であり、民事上の賠償額の上限を示すものではありません。
裁判実務上参照される後遺障害慰謝料 裁判実務で参照される基準に基づき検討されます。 自賠責の支払基準とは別の考え方によるものです。事案により金額は異なります。
労働能力喪失率 支払基準の別表Ⅰでは、第12級は14パーセント 自賠責の算定上の数値です。民事上の賠償で同じ率と期間が当然に採用されるとは限りません。
最終的な受取額 既払金、過失相殺、労災給付との調整などを反映した後の金額 上記の各項目とは別に計算されます。

変形だけが残った場合に逸失利益が争点になる理由

逸失利益は、後遺障害によって将来の収入が減ると見込まれることを理由とする損害です。そのため、外見上の変形だけが残り、具体的な作業の制限や減収が明らかでない事案では、労働能力の喪失があるといえるかどうかが争点になりやすい類型です。相手方から、等級は認定されているが労働能力の低下はない、という主張が出されることがあります。

他方で、減収がないという一事で逸失利益が常に否定されるわけでもありません。公益財団法人日弁連交通事故相談センターの解説では、本人の特段の努力によって収入を維持している場合、周囲の配慮によって現在の収入が保たれているにすぎない場合、将来の昇進・昇格や転職の際の不利益が見込まれる場合などには、逸失利益が認められ得ると説明されています。

逆に、等級が認定されていれば必ず逸失利益が認められる、という理解も正確ではありません。いずれの方向にも決めつけず、次のような点を資料で説明できるかを検討することになります。

  • 実際の業務のうち、どの動作にどのような支障が出ているか
  • 重量物の取扱い、上肢の挙上、長時間の運転など、具体的な作業との関係
  • 装具の装着や休憩の必要があるか
  • 配置転換、業務内容の変更、勤務時間の変更があったか
  • 同僚の援助や勤務先の配慮によって収入が維持されていないか
  • 昇進・昇格、転職、独立に与える影響をどう説明できるか

これらは例示であり、すべての方に当てはまるものではありません。外見に残った障害について減収がない場合の考え方は、傷あとが残った場合と共通する部分があります。

外見に残った障害と逸失利益の立証について確認する

申請前・示談前チェックリスト

後遺障害の申請前、および示談案に回答する前に、次の点を確認してください。

  • 症状固定の時期について、医師から説明を受けているか
  • 抜釘の予定がある場合、その時期と後遺障害診断書の作成時期を整理できているか
  • 後遺障害診断書に、変形の状態、可動域、痛みやしびれの部位と程度が記載されているか
  • 事故直後、手術前後、骨癒合後、症状固定時の画像がそろっているか
  • 手術記録と、固定材料の種類・部位が分かる資料があるか
  • 肩関節の可動域が、健側と患側の両方について測定されているか
  • 骨の変形と、固定材料の突出、神経・筋の機能の問題を区別して整理できているか
  • 既往症がある場合、事故前の状態が分かる資料を確認したか
  • 認定結果を受け取っている場合、その理由の記載を確認したか
  • 示談案の内訳(治療費、休業損害、傷害慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益、既払金、過失割合)を項目ごとに確認したか
  • 被害者請求の期限(後遺障害については症状固定日の翌日から三年以内)を確認したか

示談案に署名する前であれば、内訳と資料を確認したうえで、見直す余地があるかを検討することができます。後遺障害の申請前であれば、必要な資料と手続の選択肢を整理することができます。

交通事故の取扱業務を見る

弁護士に相談するタイミング

相談によって結果が保証されるわけではありませんが、資料の不足や手続の選択肢を早い段階で整理できるという意味では、次の時点が節目になります。

  • 症状固定や抜釘の時期について医師から説明を受けたとき。症状固定の時期は、後遺障害診断書の内容にも示談の時期にも影響します。
  • 後遺障害診断書を作成する前。記載してもらう必要のある所見を、事前に整理できます。
  • 事前認定または被害者請求を行う前。提出資料の範囲と手続の選び方を検討できます。
  • 認定結果を受け取ったとき。理由の記載を確認し、異議申立てを検討する余地があるかを判断できます。
  • 示談案や免責証書を受け取ったとき。署名すると原則としてやり直しができないため、内訳を確認したうえで判断することが重要です。

よくある質問

X線写真で変形が分かれば、第12級第5号になりますか。

認定基準は、X線写真によってはじめて発見し得る程度の変形は該当しないと明示しています。画像に変形が写っていることは、それだけでは該当の理由になりません。もっとも、画像は骨折の部位や癒合の状態、事故との関係を確認するために必要な資料です。

鎖骨の出っ張りや肩鎖関節の脱臼は対象になりますか。

鎖骨は第12級第5号の対象となる骨です。ただし、診断名や突出があることだけで該当が決まるわけではなく、裸体となったときに変形が明らかに分かる程度かどうかが基準になります。皮膚の下の固定材料による突出なのか、骨そのものの変形なのかも区別して確認する必要があります。

プレートが残っている場合や、抜釘の予定がある場合はどう考えますか。

固定材料の存在と骨の変形は別の事柄です。認定基準には、金属釘等がそれ自体で機能障害の原因となる場合は除去を待って等級を認定する旨の定めがあり、肩の動きへの影響の有無によって判断の時期の考え方が変わり得ます。抜釘の要否と時期は医師の判断事項ですので、症状固定や診断書作成の時期とあわせて早めに整理することをおすすめします。

肩が動かしにくい、痛みが残るという場合は、別の等級になりますか。

肩関節の可動域制限は上肢の機能障害として、痛みやしびれは局部の神経症状として、変形障害とは別に検討されます。鎖骨の著しい変形と肩関節の運動障害が併存する場合は併合により処理されますが、別の症状があれば必ず等級が上がるわけではありません。系列の異同や派生関係により結論が変わりますので、資料に基づく検討が必要です。

肋骨を複数本骨折した場合、本数分の評価になりますか。

なりません。認定基準は、肋骨の変形について、本数、程度、部位等に関係なく、肋骨全体を一括して一つの障害として取り扱うと定めています。肋軟骨についても肋骨に準じた取扱いとされています。

鎖骨と肩甲骨の両方に変形が残った場合はどうなりますか。

認定基準は、その他の体幹骨の二つ以上の骨にそれぞれ著しい変形がある場合は、併合の方法を用いて準用等級を定めるとし、鎖骨および肩甲骨に著しい変形を残すものを準用第11級とする例を挙げています。もっとも、それぞれの骨について「著しい変形」といえるかが前提になりますので、まずは各骨の状態を資料で確認する必要があります。

どのような画像や書類を準備すればよいですか。

後遺障害診断書と、事故直後・手術前後・骨癒合後・症状固定時のX線・CT等の画像が基本になります。あわせて、読影レポート、診療録、手術記録、肩関節の可動域測定の結果、仕事への影響が分かる資料を整理します。外見の状態を示す写真は必須書類として案内されているものではなく、事案に応じた補足資料ですので、要否と方法を個別に確認してください。

変形だけが残り、減収がない場合でも逸失利益を請求できますか。

減収がない場合、労働能力の喪失があるといえるかが争点になりやすい類型です。もっとも、本人の努力や勤務先の配慮によって収入が維持されている場合、将来の昇進や転職で不利益が見込まれる場合などには、逸失利益が認められ得ると説明されています。職務内容と実際の支障を、どの資料で説明できるかが検討の中心になります。

まとめ

  • 第12級第5号の対象は、鎖骨、胸骨、肋骨、肩甲骨、骨盤骨の五つです。「著しい変形」は、裸体となったときに変形(欠損を含む)が明らかに分かる程度を指し、X線写真ではじめて分かる程度のものは含まれません。
  • 背骨の変形障害が数値による評価に改められた後も、その他の体幹骨は外見による判断が維持されています。画像は、骨折の部位、癒合の状態、事故との関係を確認するために用いられます。
  • 肋骨の変形は、本数にかかわらず全体で一つの障害として取り扱われます。二つ以上の体幹骨に著しい変形がある場合は、併合の方法により準用等級が定められます。
  • 鎖骨の著しい変形と肩関節の運動障害が併存する場合は併合により処理されますが、痛み、手術痕、呼吸の機能はさらに別の評価対象です。自動的に等級が上がるものではありません。
  • 第12級が認定されても、慰謝料と逸失利益が一律に決まるわけではありません。特に逸失利益は、仕事への具体的な影響をどの資料で説明するかが問題になります。
  • 症状固定の時期、後遺障害診断書の作成前、申請前、認定結果の受領後、示談案の受領後が、確認の節目になります。

鎖骨や肋骨などの変形が残った事案では、外見上の状態、画像、可動域、仕事への影響を、それぞれ別の資料で整理する必要があります。お手元の資料を確認したうえで、申請や示談の判断に必要な材料をご一緒に整理します。

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監修者・執筆者

弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
代表弁護士・公認会計士 藤井貴之
兵庫県弁護士会所属/日本公認会計士協会兵庫会所属

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参考資料

本記事は、交通事故により鎖骨・肩甲骨・肋骨・胸骨に変形が残った場合の後遺障害に関する一般的な解説であり、医学的な診断や治療の助言に代わるものではありません。症状の原因、検査や手術の要否、抜釘の時期は、主治医その他の医師にご確認ください。また、後遺障害の等級評価や損害賠償の結論は、事故態様、損傷部位、治療経過、既往症、職業などの個別事情により異なります。具体的なご相談は、資料をご用意のうえお問い合わせください。

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