交通事故のあと、ご本人の物忘れが増えた、怒りっぽくなった、約束を覚えていられない、仕事や家事の段取りがうまくいかなくなった――そうした変化に、ご本人よりも先にご家族や職場が気づくことがあります。頭部を打った事故では、こうした変化が「高次脳機能障害」と呼ばれる状態に関係している場合があります。
このコラムでは、高次脳機能障害が疑われるときに、後遺障害の認定や損害賠償の場面でどのような検査・資料が確認されるのか、ご家族が記録しておきたい日常生活の変化をどのように整理すればよいのかを、被害者本人とご家族の視点から整理します。検査の必要性や診断は医師の判断によるものであり、本コラムは医療上の判断を示すものではありません。法律の結論も、医療記録や生活状況などの資料を確認したうえで、個別事情により変わります。
「これは高次脳機能障害なのか」「何を準備すればよいのか」と迷ったときは、お手元の資料を整理する段階でご相談いただくことで、今後の対応方針を検討しやすくなります。
Contents
高次脳機能障害が疑われるとき、最初に確認したいこと
高次脳機能障害が疑われる場合、後遺障害の認定では、画像検査資料だけでなく、受傷直後の意識障害の状況、症状の経過、認知機能、そして事故前後の日常生活の変化を、総合的に確認する取扱いがあります。どれか一つだけで結論が決まるわけではなく、複数の資料を組み合わせて検討される点が、ほかのけがとは異なる特徴です。
まず押さえたい全体像
「画像に異常があるか」だけでなく、「事故直後にどの程度の意識障害があったか」「事故の前後で生活がどう変わったか」までを含めて確認されます。ご家族が気づいた具体的な変化は、立証のうえで重要な手がかりになります。
確認したい5つの要素
| 確認される要素 | 主な内容 |
|---|---|
| 画像検査資料 | CT・MRIなど(特に頭部)。事故直後から症状が固定するまでの資料が確認されることがあります。 |
| 受傷直後の意識障害 | 有無・程度・持続時間など。救急搬送記録や診療録などで確認されます。 |
| 症状の経過 | 受傷後から現在までに、症状がどのように変化してきたか。 |
| 認知機能の評価 | 神経心理学的検査など。どの検査を行うかは医師が判断します。 |
| 日常生活状況 | 事故の前と後で、生活・就労・就学・社会生活がどのように変化したか。 |
高次脳機能障害とは
交通事故で問題になる場面
高次脳機能障害は、交通事故などで脳が損傷を受けたことにより、記憶・注意・段取りなどの認知面や、感情・行動などの面に支障が生じる状態を指して用いられることがあります。半身の運動麻痺や、起立・歩行が不安定になるといった神経症状を伴うこともあります。仕事や学業、家事、対人関係など、日常生活の幅広い場面に影響することがあります。
あらわれやすい変化
あらわれ方は人によって異なりますが、一般に次のような変化が挙げられます。ご本人に自覚が乏しく、ご家族や職場が先に気づくことも少なくありません。
| 区分 | あらわれ方の例 |
|---|---|
| 認知の面 | 新しいことを覚えられない、気が散りやすい、計画して実行することが難しい、複数のことを同時に処理しにくい、話が回りくどくなる、など。 |
| 行動の面 | その場の状況に合わせた行動が難しい、職場や社会のルールを守りにくい、行動を抑えにくい、など。 |
| 感情・人格の面 | 自発性や気力の低下、衝動的になる、怒りっぽくなる、自己中心的にみえる、など。 |
後遺障害・症状固定・後遺障害診断書などの用語
賠償の場面でよく出てくる言葉を整理します。これらは事案により扱いが変わるため、実際の判断は資料を確認したうえで行う必要があります。
- 症状固定:治療を続けても、それ以上の改善が見込みにくいと医学的に判断される状態をいいます。判断は医師が行います。
- 後遺障害:症状固定の時点で残った症状について、賠償の場面で問題になる概念です。
- 後遺障害診断書:症状固定時の後遺障害の内容を医師が記載する書面です。
- 日常生活状況報告:事故前後の生活上の変化を、ご家族・近親者・介護にあたる方などが記載する書面です。
医学的な診断と、賠償上の立証の関係
医療機関での「高次脳機能障害」という診断と、自賠責保険の後遺障害認定や損害賠償における立証とは、目的も確認される資料も完全に同じではありません。医学的な診断基準と、賠償の場面で求められる資料の整理は、射程が異なる可能性があります。そのため、医師の診断がある場合でも、賠償の場面では別途、画像・意識障害の記録・症状経過・日常生活状況などの資料を確認したうえで検討する必要があります。
後遺障害認定で必要になりやすい資料の全体像
自賠責保険における高次脳機能障害の後遺障害認定では、ほかのけがにはない書面の作成・提出が求められることがあります。次の表は、一般的に確認されやすい資料の全体像です。実際に必要となる資料や様式は、事案や手続により異なります。
| 資料・書面 | 作成者の目安 | 役割 |
|---|---|---|
| 後遺障害診断書 | 医師 | 症状固定時の後遺障害の内容を記載する書面。 |
| 頭部外傷後の意識障害についての所見 | 医師 | 受傷直後の意識障害の状況を記載する書面。 |
| 神経系統の障害に関する医学的意見 | 医師 | 神経系統の障害に関する医学的な意見を記載する書面。 |
| 頭部画像検査資料 | 医療機関 | CT・MRIなどの画像。 |
| 日常生活状況報告 | 家族・近親者・介護にあたる方など | 事故前後の生活上の変化を記載する書面。 |
これらに加えて、事故発生状況、救急搬送記録、診療録(カルテ)、症状の経過がわかる資料、事故前後の就労・就学・家事・社会生活の変化を示す資料などが確認されることがあります。後遺障害の認定を申請する際は、原則としてご本人の同意が前提となります。ご本人に障害の認識が乏しい場合には、申請の前提として、ご本人の気持ちへの配慮が必要になることもあります。
画像検査・意識障害・神経心理学的検査の位置づけ
画像資料(CT・MRI)
頭部の画像検査資料(CT・MRIなど)は、重要な判断要素の一つとされています。事故直後から症状が固定するまでの画像が確認されることがあるため、撮影された画像は医療記録として保管されている可能性があります。どの画像をどの時点で撮影するかは、医師が必要性を判断します。
受傷直後の意識障害の記録
受傷直後にどの程度の意識障害があったか(有無・程度・持続時間など)も、重要な要素とされています。救急搬送の記録や、搬送先での診療録などに残っていることがあります。事故直後の状況は後から再現しにくいため、当時の記録が確認できるかどうかが意味を持つ場面があります。
神経心理学的検査
記憶・注意・段取りなどの認知機能を確認するために、神経心理学的検査が検討されることがあります。どのような検査を行うか、その必要性は医師が判断します。検査の結果は判断材料の一つですが、検査結果があれば必ず一定の等級が認定されるというものではなく、ほかの資料と併せて検討されます。
画像所見がはっきりしない場合の考え方
「CT・MRIで異常がないと言われた」という場合でも、それだけで後遺障害の検討ができなくなるとは限りません。自賠責保険の認定では、画像所見が明らかでない場合であっても、意識障害の記録や症状の経過、検査所見などを併せて慎重に審査される取扱いがあるとされています。一方で、画像がなくても必ず認定されるというものでもありません。画像所見が乏しい場合の取扱いは個別事情により異なり、医学的な判断と資料を踏まえて検討されます。判断に迷う場合は、資料を整理したうえで相談することをおすすめします。
日常生活状況の立証
事故前後の変化を具体的なエピソードで
高次脳機能障害は、検査の数値だけでは伝わりにくい面があります。そのため、事故の前と後とで、生活がどのように変わったかを具体的に記録しておくことが役立ちます。「忘れっぽい」「怒りっぽい」といった一言ではなく、いつ、どこで、何が、どの程度、どのくらいの期間続いているのかが分かるように整理することがポイントです。
本人以外の視点を活かす
ご本人に自覚が乏しい場合でも、ご家族、同居の方、介護にあたる方、職場、学校など、ご本人以外の視点からの記録が手がかりになることがあります。事故前のご本人を知っている方の記録は、変化を客観的に示すうえで意味を持つ場面があります。
記録のしかたと注意点
日常生活のどのような場面に変化があるかを、具体的に書き留めておくと整理しやすくなります。記録の観点の例を挙げます。
| 生活の場面 | 記録したい観点の例 |
|---|---|
| 金銭・貴重品の管理 | 保険証・通帳・財布などの管理ができているか。 |
| 服薬・健康管理 | 薬の管理や通院の段取りができているか。 |
| 火の始末・安全 | 火の元や戸締まりの確認ができているか。 |
| 予定・時間の管理 | 約束や予定を覚えていられるか。 |
| 買い物・家事 | 買い物や料理などの段取りができているか。 |
| 仕事・学業 | 仕事や学業の段取り、ミスの増減はどうか。 |
| 対人関係・感情 | イライラや怒りやすさ、対人面のトラブルがあるか。 |
記録するときは、ご本人を責める書き方ではなく、事故の前後で何が変わったかを客観的に整理する書き方を心がけてください。また、職場名・学校名・第三者の氏名など、個人情報やプライバシーにかかわる情報を不用意に公開しないよう注意してください。
医師に伝えるべき内容と診断書・意見書の注意点
診察の場では、ご本人だけでなくご家族からみた事故前後の変化を、具体的に医師に伝えることが大切です。ご本人に自覚が乏しい症状は、ご家族が伝えなければ把握されにくいことがあります。後遺障害診断書や医師の意見書は、症状固定や後遺障害認定の場面で重要な書面になりますが、その作成や記載内容は医師の判断によります。
診断書・意見書の内容について、患者側から医学的な記載を求めることには限界があります。賠償の場面で必要となりやすい資料の全体像を踏まえて、どの記録を整えておくとよいかを早めに整理しておくと、申請前の準備がしやすくなります。具体的にどの資料が必要かは、医療記録や生活状況を確認したうえで判断する必要があります。
よく問題になるケース
高次脳機能障害が疑われる事案では、次のような場面で判断が難しくなりやすい傾向があります。いずれも一般的に問題になりやすい場面であり、結論は個別事情により異なります。
- CT・MRIの画像所見がはっきりしない。
- ご本人に病識(症状の自覚)が乏しい。
- ご家族だけが変化に気づいている。
- 事故の前から、発達面の特性、精神疾患、認知症、学習上の困難などがあった。
- 仕事に復帰したが、ミスや段取りの乱れが増えた。
- 保険会社から示談を求められているが、症状が残っていて不安がある。
- 後遺障害が非該当となった、または想定より低い等級になった。
これらの場面では、どの資料が不足しているか、追加で整えられる資料があるかを確認することが、対応方針を整理する出発点になります。
申請前・示談前に確認したいチェックリスト
後遺障害の申請前や示談前には、資料がそろっているかを確認しておくと、その後の対応を検討しやすくなります。
- 症状固定の前:治療や検査の経過、医師の見立てを確認できているか。
- 後遺障害診断書の作成前:受傷直後の意識障害、画像、症状の経過、生活上の変化が把握できているか。
- 後遺障害の申請前:医師の所見・意見書、画像、日常生活状況報告などの資料がそろっているか。
- 示談の前:症状が残っている場合に、示談の内容や時期が適切かを確認できているか。
- 異議申立てを検討する前:非該当・想定より低い等級となった理由と、追加できる資料があるかを確認できているか。
示談書に署名・押印をすると、原則として、その後に追加の請求を行うことが難しくなる可能性があります。症状が残っている段階や、後遺障害の見通しが定まらない段階で示談を求められた場合は、署名・押印の前に内容と時期を確認することをおすすめします。示談の効果は事案により異なるため、個別の判断は資料を確認したうえで行う必要があります。
後遺障害診断書の作成前や示談の前に、画像・意識障害の記録・検査結果・ご家族の記録を整理して相談することで、今後の対応方針や法律上の見通しを検討しやすくなります。
弁護士に相談するタイミング
高次脳機能障害が疑われる事案では、次のような場面で相談を検討する方が多い傾向があります。相談は結果を保証するものではありませんが、どの資料を整えるか、どのような対応方針が考えられるかを整理する手がかりになります。
| 場面 | 相談が検討される理由の例 |
|---|---|
| 事故直後/頭部外傷・意識障害があったとき | 早い段階で残しておきたい記録を確認しやすくなります。 |
| 認知面・行動面の変化に気づいたとき | 変化の記録のしかたや、必要な資料を整理しやすくなります。 |
| 治療費の打ち切りを打診されたとき | 治療や症状固定の見通しを踏まえた対応を検討しやすくなります。 |
| 症状固定・後遺障害診断書の作成前 | 申請に向けて整えておきたい資料を確認しやすくなります。 |
| 後遺障害の申請前 | 資料の不足がないかを確認しやすくなります。 |
| 非該当・想定より低い等級が出たとき | 理由と、追加できる資料の有無を検討しやすくなります。 |
| 示談金の提示を受けたとき | 提示内容や時期について、見直す余地があるかを検討しやすくなります。 |
よくある質問(FAQ)
高次脳機能障害が疑われる場合、まず何を確認すべきですか。
画像検査資料だけでなく、受傷直後の意識障害の記録、症状の経過、認知機能、事故前後の日常生活の変化を確認することが出発点になります。何がどの程度変わったかを具体的に記録しておくと整理しやすくなります。結論は資料を確認したうえで、個別事情により変わります。
CTやMRIで異常がないと、後遺障害は認められないのですか。
画像所見が明らかでない場合でも、それだけで検討ができなくなるとは限りません。自賠責保険では、意識障害の記録や症状の経過、検査所見などを併せて慎重に審査される取扱いがあるとされています。一方で、画像がなくても必ず認定されるわけではなく、取扱いは個別事情により異なります。
どのような検査が必要ですか。
記憶・注意・段取りなどの認知機能を確認するための神経心理学的検査などが検討されることがあります。どの検査を行うか、その必要性は医師が判断します。検査結果は判断材料の一つで、ほかの資料と併せて検討されます。
日常生活状況報告には何を書けばよいですか。
事故の前と後とで、金銭・貴重品の管理、服薬、火の始末、予定の管理、買い物や家事、仕事や学業、対人面など、生活がどう変わったかを具体的に書きます。「いつ・どこで・何が・どの程度・どのくらい続いているか」が分かるように整理すると伝わりやすくなります。
本人に自覚がない場合、家族の記録は役立ちますか。
ご本人に自覚が乏しい症状は、ご家族など周囲の方の記録が手がかりになることがあります。事故前のご本人を知っている方の記録は、変化を客観的に示すうえで意味を持つ場面があります。記録の際は、ご本人を責めない書き方と、個人情報への配慮を心がけてください。
示談の前に相談した方がよいのは、どのような場合ですか。
症状が残っている、後遺障害の見通しが定まっていない、保険会社から示談を求められている、提示額に不安がある、といった場合は、署名・押印の前に内容と時期を確認することをおすすめします。示談の効果は事案により異なります。
後遺障害が非該当になった場合、見直す余地はありますか。
非該当や想定より低い等級となった場合でも、その理由を確認し、追加できる資料があるかを検討する余地があることがあります。見直しが可能かどうかは、これまでの資料や手続の経過を確認したうえで、個別事情により判断する必要があります。
まとめ
- 高次脳機能障害が疑われる場合、画像・意識障害の記録・症状経過・認知機能・日常生活状況を総合的に確認する取扱いがあります。
- 後遺障害認定では、後遺障害診断書に加えて医師の所見・意見書、画像、ご家族が作成する日常生活状況報告などが確認されることがあります。
- 「CT・MRIで異常なし」と言われた場合でも、ほかの資料と併せて検討される余地があり、取扱いは個別事情により異なります。
- 事故前後の変化は、いつ・どこで・何が・どの程度・どのくらい続いているかが分かるように、具体的に記録しておくと役立ちます。
- 症状固定・後遺障害診断書の作成前、申請前、示談前は、資料がそろっているかを確認するタイミングです。
- 判断に迷うときは、医療記録・画像・検査結果・ご家族の記録を整理して相談することで、対応方針を検討しやすくなります。
高次脳機能障害が疑われる事案では、必要な資料や手続が分かりにくく感じられることがあります。お手元の資料を整理して相談いただくことで、今後の進め方や法律上の見通しを検討しやすくなります。費用や相談方法については、下記のページもあわせてご確認ください。
監修・執筆
神戸みらい法律会計事務所(弁護士法人ひょうご支所)
弁護士・公認会計士 藤井 貴之
所属:兵庫県弁護士会/日本公認会計士協会兵庫会
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参考資料

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