交通事故で肩を強く打った、あるいは二輪車や自転車で転倒して肩から地面に落ちた——。その後、病院で「腱板断裂」と診断され、腱板修復術などの手術を受けたにもかかわらず、肩の痛みが引かない、腕が思うように上がらないという状態が続くことがあります。
このような肩関節の可動域制限や痛み・しびれが残った場合、示談の前に「後遺障害」として適切に評価されるかどうかが、受け取ることのできる賠償の内容を大きく左右します。もっとも、腱板断裂は加齢による変化が背景にあることもあり、事故との因果関係や可動域の測定方法をめぐって、保険会社と見解が分かれることも少なくありません。
この記事では、交通事故で腱板断裂と診断された被害者の方やそのご家族に向けて、後遺障害の申請前・症状固定前・示談前に確認しておきたいポイントを、公的資料を踏まえて整理します。結論の方向性としては、肩の可動域制限は測定方法や画像所見の裏づけによって評価が変わり得るため、後遺障害診断書を作成する前の段階から資料を確認しておくことが重要になります。
肩の痛みや動かしにくさが残っているものの、後遺障害として認められるか分からないという段階でも、手元の資料を整理することで見通しを検討しやすくなります。示談書に署名する前に、一度ご確認ください。
Contents
結論と全体像|肩の腱板断裂で確認すべきこと
交通事故による肩の腱板断裂で問題になりやすい点を、先に整理します。肩に残った症状は、大きく「可動域制限(関節がどれだけ動くか)」と「痛み・しびれ(神経症状)」に分けて考えられ、それぞれ後遺障害としての評価の仕方が異なります。
| 確認する項目 | ポイント |
|---|---|
| 受傷機転 | 転倒・転落、肩からの着地、脱臼を伴う外傷、腕をついた衝撃など。事故態様と受傷直後の症状が、事故との因果関係を判断する材料になります。 |
| 手術後の状態 | 腱板修復術などの後も、痛み・筋力低下・可動域制限が残ることがあります。回復の見通しは個別事情により異なります。 |
| 後遺障害の型 | 「可動域制限(機能障害)」と「痛み・しびれ(神経症状)」に整理して検討されます。 |
| 評価の中心 | 可動域は原則として健側(けがのない側)と比較し、医師が他動での測定値を用います。 |
| 診断書の重要性 | 後遺障害診断書に、可動域・画像所見・手術内容・リハビリ経過が適切に反映されているかが問題になります。 |
| 相談の目安 | 症状固定・後遺障害診断書の作成・示談金の提示を受ける前が、資料を確認する節目になります。 |
肩の可動域制限が後遺障害として評価されるためには、可動域が制限されている医学的な原因(腱板の損傷や関節の拘縮など)が、画像所見や検査結果で裏づけられることが重要になります。原因が確認できない場合には、痛み・しびれといった神経症状のみの評価にとどまることもあります。
腱板断裂とは|肩関節の腱板の役割と交通事故での損傷
腱板の役割と「腱板断裂」
腱板とは、肩関節を安定させ、腕を上げたりひねったりする動作を支える、複数の筋肉と腱のまとまりをいいます。腱板が損傷したり断裂したりすると、腕を上げにくい、力が入らない、夜間に痛むといった症状が生じることがあるとされています。交通事故では、肩を強く打ったり、腕に強い力が加わったりすることで、この腱板を痛める場合があります。
なお、具体的な診断名や損傷の程度は、医師による診察・画像検査(MRI、CT、レントゲンなど)・治療経過をもとに判断されるものであり、この記事の説明が医師の診断に代わるものではありません。
加齢性変化と外傷性損傷が問題になる場合
腱板は加齢によって傷みやすくなる部位でもあります。そのため、事故の前から腱板に変性(加齢による変化)があったのか、事故によって新たに断裂したのか、あるいは既存の状態が事故で悪化したのかが問題になることがあります。
事故との因果関係は、事故態様、受傷直後の症状、救急受診の有無、画像所見、治療経過、既往歴などをあわせて確認したうえで判断する必要があります。したがって、事故直後からの症状の記録や画像は、後の評価において重要な意味を持ちます。
受傷機転|どのような事故で肩の腱板を痛めるか
転倒・転落・肩からの着地・脱臼を伴う外傷
交通事故で肩の腱板が問題になりやすい受傷の仕方には、次のようなものがあります。
- 二輪車や自転車で転倒し、肩から路面に落ちた
- 高い位置や段差から転落し、肩や腕を強く打った
- とっさに腕をついた際に、肩へ強い衝撃が加わった
- 肩関節の脱臼を伴う外傷を受けた
- 車内・車外で肩を強打した
いずれの場合も、どのような姿勢で、どの部位に、どの程度の力が加わったのかが、後の因果関係の検討に関わってきます。
六甲山系周辺の道路環境と二輪車・自転車の転倒
神戸市の六甲山系周辺では、坂道やカーブを含む道路環境で、二輪車・自転車の転倒事故が問題になることがあります。転倒して肩から落ちるような事故では、腱板をはじめとする肩の損傷が生じる可能性があり、その場合には、この記事で整理するような後遺障害の検討が必要になることがあります。
手術後のリハビリと症状固定
腱板修復術後に残ることがある症状
腱板修復術などの手術を受けた後も、痛み、筋力の低下、肩関節の可動域制限が残ることがあります。リハビリの期間や回復の見通しは、断裂の範囲、年齢、既往症、術式、リハビリの状況、仕事や生活で必要な動作などによって異なり、一律ではありません。
回復の見通しや今後のリハビリの方針については、必ず主治医に確認してください。医学的な判断は、医師の診察・検査・治療経過に基づくものです。
「症状固定」の意味と示談のタイミング
「症状固定」とは、治療を続けてもこれ以上の改善が見込みにくくなった状態をいいます。症状固定と判断された後に残った症状が、後遺障害として評価の対象になります。症状固定の時期は、医師が治療経過をもとに判断するものです。
症状固定の前に示談を成立させてしまうと、その後に後遺障害として評価されるべき損害(後遺障害慰謝料や逸失利益など)を、示談の内容に反映できなくなるおそれがあります。まだ治療やリハビリが続いている段階で示談を求められた場合には、署名の前に内容を確認することが重要です。
後遺障害の認定で見られるポイント
画像所見・手術記録・可動域測定
肩の後遺障害を検討するにあたっては、次のような資料が重要になります。
- MRI・CT・レントゲンなどの画像所見
- 手術を受けた場合の手術記録(どの部位をどのように修復したか)
- 医師による可動域の測定値
- リハビリの経過や日常生活・仕事への影響
これらが後遺障害診断書に適切に反映されているかどうかが、評価の分かれ目になることがあります。測定の肢位や記載に漏れがあると、再度の測定が必要になる場合もあります。
肩関節の可動域制限と想定される等級
肩関節の可動域制限については、健側と比べてどの程度動かしにくくなっているかに応じて、次のような後遺障害等級が想定されます。いずれも目安であり、実際の認定は個別の資料と測定結果によって異なります。
| 想定される等級 | 認定の目安 |
|---|---|
| 8級6号 | 肩関節の用を廃したもの(関節がほとんど動かない状態、または健側の可動域のおおむね10%程度以下)。腱板断裂などの軟部組織の損傷では、この等級に該当することは多くないとされています。 |
| 10級10号 | 肩関節の機能に著しい障害を残すもの(主要運動の可動域が健側のおおむね2分の1以下)。 |
| 12級6号 | 肩関節の機能に障害を残すもの(主要運動の可動域が健側のおおむね4分の3以下)。 |
また、可動域制限が基準に届かない場合でも、痛みやしびれが残ったときには、神経症状として次の等級が想定されることがあります。
| 想定される等級 | 認定の目安 |
|---|---|
| 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの(画像所見などで裏づけられる痛み・しびれ)。 |
| 14級9号 | 局部に神経症状を残すもの。 |
肩関節の可動域制限|主要運動と参考運動
主要運動・参考運動とは
肩関節の可動域制限を評価する際には、「主要運動」と「参考運動」という考え方が用いられます。主要運動とは、日常の動作にとって特に重要な運動をいい、参考運動とは、それを補うものとして参照される運動をいいます。
| 区分 | 肩関節の運動 |
|---|---|
| 主要運動 | 屈曲(前方挙上・腕を前から上げる動き)/外転(側方挙上・腕を横から上げる動き) |
| 参考運動 | 伸展(後方挙上)/内転/外旋/内旋 |
肩関節のように主要運動が複数ある場合には、いずれか一方の可動域が基準に達していれば、機能障害として評価されることがあります。また、主要運動の制限が基準をわずかに上回るにとどまる場合に、参考運動の可動域が考慮されることがあります。具体的な測定角度や評価の当てはめは、医師による測定と資料によって異なります。
健側との比較・他動運動・測定方法
可動域は、原則として、けがをしていない側(健側)の可動域と比較して評価されます。また、測定は原則として、医師などが動かして測る他動運動による値が用いられます。測定方法は、日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会による「関節可動域表示ならびに測定法」に準拠して行われます。
後遺障害診断書に記載される可動域の数値は、認定の結果を大きく左右します。測定の肢位や左右の記載、必要な運動の記載に誤りや漏れがないかを確認することが重要です。
利き手か否かによる生活・仕事への影響
肩に障害が残ったとき、それが利き手側か否かによって、生活や仕事への影響の出方が変わることがあります。
| 区分 | 影響が出やすい場面の例 |
|---|---|
| 利き手側 | 書字、箸や包丁の使用、洗髪、着替え、荷物の持ち上げ、運転、高所での作業、育児・介護の動作など。 |
| 非利き手側 | 両手を使う作業、身体を支える動作、特定の職業上の動作など。 |
もっとも、賠償上の評価は、職業、収入、家事に従事しているかどうか、症状の程度、可動域、痛み、年齢などによって異なります。利き手側に障害が残ったからといって、必ず賠償額が高くなるとは限りません。
損害賠償で問題になる項目
肩の腱板断裂で後遺障害が問題になる場合、検討されることのある損害項目には、次のようなものがあります。
- 治療費、手術費、リハビリ費用
- 通院交通費
- 入通院慰謝料(けがの治療・通院に伴う精神的苦痛に対するもの)
- 休業損害(治療・通院のために仕事を休んだことによる収入の減少)
- 後遺障害慰謝料(後遺障害が残ったことに対するもの)
- 後遺障害逸失利益(後遺障害による将来の収入の減少)
- 装具・文書料など、事案により検討される費用
このうち逸失利益は、一般に、基礎収入に、労働能力の低下の程度(労働能力喪失率)と、その影響が続くと見込まれる期間に対応する係数を掛け合わせて算定されます。具体的な金額は、収入、後遺障害の内容、年齢などによって異なるため、資料を確認したうえで検討する必要があります。なお、自賠責保険には損害の種類ごとに支払限度額があり、後遺障害分は認定された等級に応じて定められています。
後遺障害慰謝料や逸失利益は、認定された等級や個別の事情によって内容が変わります。保険会社から提示を受けた金額が妥当かどうかは、資料を確認したうえで検討することができます。
よく問題になるケース
肩の腱板断裂に関して、被害者の方が迷いやすい場面には、次のようなものがあります。いずれも、個別の資料を確認したうえで対応を検討することが重要です。
- 手術を受けたのに、肩が上がらない状態が続いている
- MRIで腱板断裂が確認できるのに、事故との関係を争われた
- 利き手側の肩に障害が残り、仕事への影響が心配である
- 症状固定の前に、保険会社から示談を求められた
- 後遺障害診断書の可動域の測定が十分でないように感じる
- 保険会社から治療費の打ち切りを打診された
- 後遺障害の申請をしたが、非該当という結果になった
非該当や低い等級の結果が出た場合でも、資料の内容によっては、異議申立てや紛争処理の手続きを検討できることがあります。
示談前・申請前に確認すべきこと(チェックリスト)
示談書に署名する前、後遺障害を申請する前に、次の点を確認しておくことをおすすめします。
- 症状固定の前に示談をしようとしていないか
- 後遺障害の申請が必要かどうかを確認したか
- 後遺障害診断書の内容(可動域・画像所見・手術内容・リハビリ経過)を確認したか
- MRIなどの画像、手術記録、リハビリ記録、可動域の測定値を確認したか
- 休業損害、逸失利益、慰謝料、治療費、通院交通費に漏れがないか
- 過失割合、事故態様、ドライブレコーダーの記録、現場写真を確認したか
- 弁護士費用特約に加入していないかを確認したか
弁護士に相談するタイミング
弁護士への相談は、次のような節目で検討することができます。相談によって、手元の資料を整理し、今後の対応方針や見通しを検討しやすくなります。
- 事故直後や、肩の痛みが続いているとき
- MRI検査や手術を受けたとき
- 保険会社から治療費の打ち切りを打診されたとき
- 医師から症状固定と言われたとき
- 後遺障害診断書を作成してもらうとき
- 後遺障害の等級の結果が出たとき
- 保険会社から示談金の提示を受けたとき
よくある質問(FAQ)
交通事故で腱板断裂になった場合、必ず後遺障害として認定されますか。
必ず認定されるとは限りません。可動域制限や痛みの程度、画像所見による裏づけ、事故との因果関係などをもとに個別に判断されます。資料を確認したうえで検討する必要があります。
手術を受けても肩が上がらない場合、何を確認すべきですか。
後遺障害診断書に記載された可動域の測定値、MRIなどの画像所見、手術記録、リハビリの経過が適切に反映されているかを確認することが重要です。測定の肢位や記載に漏れがないかも確認の対象になります。
肩関節の可動域制限は、どのように測定されますか。
原則として、けがをしていない側(健側)の可動域と比較し、医師などが動かして測る他動運動による値が用いられます。測定は「関節可動域表示ならびに測定法」に準拠して行われます。
主要運動と参考運動とは何ですか。
主要運動は、日常の動作にとって特に重要な運動をいい、肩関節では屈曲と外転がこれにあたります。参考運動は、それを補うものとして参照される運動で、伸展・内転・外旋・内旋などが挙げられます。主要運動の制限が基準をわずかに上回るにとどまる場合などに、参考運動が考慮されることがあります。
利き手の肩に障害が残ると、賠償額に影響しますか。
影響することがありますが、必ず高くなるとは限りません。賠償上の評価は、職業、収入、家事従事の状況、症状の程度、年齢などによって異なります。
保険会社から加齢による腱板断裂だと言われた場合は、どうすればよいですか。
事故直後からの症状、救急受診の有無、画像所見、治療経過などを確認し、事故によって生じた損傷や、事故による悪化との関係を検討する余地があります。個別の資料を確認したうえで対応を検討することが重要です。
症状固定の前に示談してもよいですか。
症状固定の前に示談を成立させると、その後に後遺障害として評価されるべき損害を反映できなくなるおそれがあります。治療やリハビリが続いている段階での示談は、内容を確認してから判断することをおすすめします。
弁護士に相談するときは、何を準備すればよいですか。
診断書、後遺障害診断書、MRIなどの画像、手術記録、リハビリ記録、保険会社からの提示書面、事故に関する資料(事故証明、現場写真、ドライブレコーダーの記録など)があると、状況を整理しやすくなります。
まとめ|次に確認したいこと
交通事故による肩の腱板断裂と後遺障害について、要点を整理します。
- 肩に残った症状は、可動域制限(機能障害)と痛み・しびれ(神経症状)に分けて検討される
- 可動域制限が後遺障害として評価されるには、画像所見などによる医学的な裏づけが重要になる
- 可動域は原則として健側と比較し、他動での測定値が用いられる
- 肩関節の主要運動は屈曲・外転、参考運動は伸展・内転・外旋・内旋とされる
- 腱板断裂は加齢性変化との関係が争われることがあり、事故直後からの症状・画像が重要になる
- 症状固定・後遺障害診断書の作成・示談金の提示の前に、資料を確認しておくことが重要である
肩の腱板断裂による後遺障害は、可動域の測定方法や画像所見の裏づけによって評価が変わり得ます。後遺障害診断書の作成前や示談の前に資料を確認することで、対応方針を整理しやすくなります。交通事故のご相談は、次のページからお進みください。
監修者・執筆者情報
弁護士・公認会計士 藤井貴之(兵庫県弁護士会所属)
神戸みらい法律会計事務所において、交通事故を含む案件を取り扱っています。弁護士の紹介は、次のページをご覧ください。

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