交通事故で腎臓を強く打ち、緊急手術で片方の腎臓を摘出した。腎臓は残ったものの、血液検査の腎機能の数値が事故前より下がったままになっている。そうした状況で、保険会社から補償の説明を受け始めた方や、後遺障害の申請を控えている方から、次のようなご相談をいただくことがあります。
「腎臓を一つ失ったのに、残った腎臓が動いていれば後遺障害にならないと言われた」「後遺障害診断書に書く数値がどれなのか分からない」「等級は認定されたのに、収入が減っていないから逸失利益はないと言われた」。いずれも、腎臓の後遺障害に特有の論点が関係しています。
この記事は、交通事故による腎損傷・腎破裂で、腎臓の摘出又は腎機能の低下が問題になっている被害者ご本人とご家族に向けたものです。自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の後遺障害等級を中心に整理しています。腎がん、生体腎提供、医療過誤による摘出、労災保険、障害年金、身体障害者手帳の各制度は、判断の枠組みが異なるため扱いません。
この記事で分かること
- 腎臓の後遺障害等級は「一側の腎臓を失ったかどうか」と「GFR(糸球体濾過値)の程度」の組合せで検討されること
- 検査票の「eGFR」と、認定基準がいう「GFR」は同じ指標ではないこと
- 全摘、部分切除、機能低下を区別して確認する必要があること
- 等級が認定されても、逸失利益の有無、割合又は期間が別に争われ得ること
- 申請前に集めておきたい医療資料と、医師に確認すべき事項
腎臓の後遺障害は、診断名や手術の事実だけで結論が決まるものではなく、検査値の種類、術式、事故前後の経過といった資料の確認が必要になります。まずは全体像を確認してください。
腎臓の後遺障害で最初に確認したい四つのこと
腎臓の後遺障害を検討するときは、次の四点を最初に切り分けると、保険会社の説明や認定結果の意味を理解しやすくなります。
| 確認軸 | 確認する内容 | 確認先・資料 |
|---|---|---|
| 一側の腎臓を失ったか | 全摘出か、部分切除か、腎臓は残っているが機能していないか | 手術記録、術式の記載、画像、病理記録 |
| GFRの程度 | 腎機能を示す数値がどの区分にあるか。どの方法で測った値か | 検査結果の時系列、測定方法の記載、主治医の説明 |
| 等級と損害額は別 | 等級が認定されても、慰謝料や逸失利益は別に検討される | 認定結果の理由、示談案の内訳、収入資料 |
| 申請前の資料 | 事故直後から症状固定までの経過が資料でたどれるか | 診療録、画像、退院時要約、後遺障害診断書 |
逆にいえば、「腎臓を摘出したので何級です」「腎機能が下がっているので何級です」という一方向の説明だけでは足りません。個別事情により結論は異なりますので、資料を確認したうえで判断する必要があります。
腎臓の後遺障害の基礎知識
腎損傷、全摘、部分切除、機能低下の違い
交通事故による腎臓の外傷は、被膜下の血腫にとどまるものから、腎実質が深く裂けるもの、腎茎部の血管が損傷するものまで幅があります。治療の内容も、経過観察、カテーテルによる止血(塞栓術)、部分切除、全摘出と分かれます。
後遺障害の検討では、これらを次のように区別して確認します。
- 一側腎の全摘出……片方の腎臓を摘出した状態
- 部分切除……腎臓の一部を切除し、残りを温存した状態
- 温存されたが機能が低下している状態……腎臓は残っているが、萎縮、梗塞、塞栓術後などにより機能が落ちている状態
- 片側の機能廃絶……腎臓は体内にあるが、その側がほとんど機能していない状態
これらは医学的にも法的評価の上でも意味が異なります。診断書の病名だけでは判別できないため、手術記録や画像による確認が必要になります。
症状固定と後遺障害等級の関係
後遺障害等級は、治療を続けても症状の改善が見込めなくなった時点(症状固定)を前提に検討されます。裏を返せば、治療が続いている段階では、後遺障害としての評価にはまだ入りません。
腎機能障害では、この点が特に重要です。厚生労働省の専門検討会報告書は、GFRが毎分30ミリリットル以下となった場合について「透析の準備が必要な状態であるとともに、腎機能の低下による種々の症状を生じ、医療行為が不可欠である」とし、治ゆ(症状固定)として扱うことは適当でないとしています。人工透析を要する状態についても同様の整理がされています。
腎機能が大きく低下している段階、透析の準備中又は透析中の方に対して、後遺障害の申請を急ぐために早く症状固定にすべきだ、という助言は適切ではありません。症状固定の時期は、治療経過と医学的状態を踏まえ、主治医と検討すべき事項です。
一側腎の亡失の有無とGFRで等級が検討されます
腎臓の障害の等級認定は、厚生労働省の認定基準において、「じん臓の亡失の有無」と「糸球体濾過値(GFR)によるじん機能の低下の程度」により行うこととされています。自賠責保険でも、支払基準において「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」とされているため、この考え方が参照されます。
以下の表は、認定基準の区分に、自動車損害賠償保障法施行令別表第二の号番号を対応させたものです。境界値の「超える」「以下」は結論を左右しますので、そのまま記載しています。
一側の腎臓を失っていない場合
| GFR | 検討対象となる自賠責の等級 | 別表第二の文言 |
|---|---|---|
| 毎分30ミリリットルを超え、毎分50ミリリットル以下 | 第9級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
| 毎分50ミリリットルを超え、毎分70ミリリットル以下 | 第11級10号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
| 毎分70ミリリットルを超え、毎分90ミリリットル以下 | 第13級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの |
一側の腎臓を失った場合
| GFR | 検討対象となる自賠責の等級 | 別表第二の文言 |
|---|---|---|
| 毎分30ミリリットルを超え、毎分50ミリリットル以下 | 第7級5号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
| 毎分50ミリリットルを超え、毎分70ミリリットル以下 | 第9級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
| 毎分70ミリリットルを超え、毎分90ミリリットル以下 | 第11級10号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
| 毎分90ミリリットルを超える(残った腎臓の機能が保たれている場合) | 第13級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの |
表を読むときの注意点
- 片方の腎臓を失っていても、残った腎臓の機能が保たれていれば、第13級11号が検討対象になります。「機能が正常なら後遺障害にならない」という説明は、この点で正確ではありません。
- 腎臓を摘出していなくても、腎機能の低下の程度によっては等級が問題になります。摘出の有無だけで判断されるものではありません。
- 認定基準は労災保険の障害等級の号番号(第9級の7の3、第11級の9、第13級の3の3など)で書かれています。自賠責の等級表とは号番号の付け方が異なりますので、労災の通知に記載された号番号をそのまま自賠責の号番号として使うことはできません。
- 現行の自動車損害賠償保障法施行令別表第二の第8級には、腎臓に関する号はありません。古い資料に基づいて「片方の腎臓を失えば第8級」と説明されることがありますが、現行の枠組みとは異なります。
胸腹部臓器の後遺障害の全体像と、平成18年の改正の経緯については、別の記事で整理しています。
毎分30ミリリットル以下、透析、腎移植の扱い
上の表は、いずれも毎分30ミリリットルを超える範囲についてのものです。毎分30ミリリットル以下の状態を、表の最も軽い区分に当てはめて考えることはできません。
前記のとおり、専門検討会報告書は、GFRが毎分30ミリリットル以下となった場合や人工透析を要する場合について、症状が安定しているとはいえず、治ゆとして扱うことは適当でないとしています。したがって、これらの状態にある方については、まず治療の継続と症状固定時期の判断が先行し、そのうえで、胸腹部臓器の障害としてどのように評価されるかを個別に確認することになります。腎移植後の取扱いも含め、資料を確認したうえで判断する必要があります。
検査票の「eGFR」と認定基準の「GFR」は同じではありません
健康診断や通院先の血液検査の結果に「eGFR」という項目が印字されていることがあります。この数値を、そのまま上の表に当てはめてしまうと、判断を誤るおそれがあります。
| 指標 | 内容 | 単位・注意点 |
|---|---|---|
| GFR(糸球体濾過値) | 糸球体が1分間に濾過する量。腎機能そのものを示す | 認定基準では「ml/分」で区分されています |
| eGFR(推算GFR) | 血清クレアチニン値、年齢及び性別から計算した推算値 | 単位は「mL/分/1.73平方メートル」。体表面積1.73平方メートル当たりに補正した値です |
| Ccr(クレアチニンクリアランス) | 尿を一定時間ためて実際に測る検査。認定の場面で広く用いられてきた測定方法です | 採尿の方法や時間により結果が変わり得ます |
| 分腎機能(腎シンチグラフィ等) | 左右の腎臓それぞれの働きの割合を調べる検査 | 片側の機能廃絶が疑われる場合に問題となることがあります |
日本腎臓学会の資料では、eGFRは血清クレアチニン値、年齢及び性別から推算する値であり、単位は体表面積1.73平方メートル当たりに補正したものであると説明されています。体表面積で補正しない値を求める場合は、体表面積による換算が必要になるとされています。また、クレアチニンは筋肉量の影響を受けるため、体格によっては推算値と実際の腎機能とがずれ得ることも指摘されています。
eGFRと認定基準のGFRは、単位も算定方法も異なります。検査票の数値をそのまま当てはめたり、独自に換算したりせず、次を確認してください。
- その数値が、どの方法(推算式か、実測か)で得られたものか
- 単位に体表面積の補正が入っているかどうか
- 検査日と、複数回測定した場合の推移
- 急性期の一時的な低下ではなく、永続的な機能低下といえるか
どの検査が医学的に必要かは、主治医、腎臓内科医又は泌尿器科医が判断する事項です。この記事は特定の検査を受けることを勧めるものではありません。
「一側の腎臓を失った」といえるかは手術内容の確認が必要です
認定基準は「じん臓の亡失の有無」を軸としています。もっとも、実際の事案では、次のように評価が単純でない状態が生じます。
- 腎臓の一部だけを切除した(部分切除)
- 塞栓術により出血は止めたが、その後に腎臓が萎縮した
- 腎臓は残っているが、片側がほとんど機能していない
- 腎梗塞により機能が失われている
これらを、根拠なく「一側の腎臓を失ったもの」と同じに扱うことはできません。他方で、機能が失われていても腎臓が体内にあるという一点だけで検討の対象外になると決めつけることもできません。手術記録、術式の記載、摘出標本又は病理の記録、画像及び機能評価の資料を確認したうえで、個別に判断する必要があります。
後遺障害の申請で確認される検査と資料
腎臓の後遺障害では、「事故によって、どの程度の腎機能低下が、永続的に残ったか」を資料でたどれるかどうかが重要になります。以下は、何を確認するための資料かという観点で整理したものです。すべての事案ですべての資料が必要になるわけではありません。
| 資料 | 主に何を確認するための資料か |
|---|---|
| 事故直後からの診療録、救急記録、退院時要約 | 受傷の程度、初期対応、経過の連続性 |
| CT、MRI、超音波等の画像と読影結果 | 腎損傷の部位と程度、事故前後の変化、萎縮の有無 |
| 手術記録、術式、全摘か部分切除かの別、摘出標本又は病理記録 | 「腎臓を失った」といえるか、切除の範囲 |
| 後遺障害診断書 | 症状固定時点の所見、残存する症状、検査値の記載 |
| GFRの測定又は算定方法、Ccr、血清クレアチニン、eGFR、尿蛋白、血尿の時系列 | 腎機能の程度と推移、測定方法と単位 |
| 腎シンチグラフィ等の分腎機能の資料 | 左右それぞれの働き(必要とされた場合) |
| 治療、服薬、食事・生活上の指示、通院頻度、医学的な就業制限が分かる資料 | 日常生活と就労への具体的な影響 |
| 事故前の健康診断、血液・尿検査、画像、既往歴、服薬歴 | 事故前の腎機能の水準、既往症の有無 |
| 日常生活及び仕事への影響を時系列で記録した資料 | 症状の内容と頻度、支障の具体的な現れ方 |
| 休業、配置転換、業務軽減、勤務時間、減収が分かる勤務先資料 | 就労への影響、収入への影響 |
| 源泉徴収票、確定申告書その他の収入資料 | 基礎収入 |
| 保険会社又は認定機関からの通知、認定理由、示談案 | 何が評価され、何が評価されていないか |
弁護士は、法的な評価と証拠の整理をお手伝いすることはできますが、医学的な診断を行うものではありません。検査や治療の要否は主治医にご確認ください。
資料が手元にそろっていない段階でも、どの資料をどこから取り寄せるか、どの点を医師に確認するかを整理することはできます。後遺障害診断書の作成前であれば、確認しておきたい事項が変わることもあります。
症状固定から申請・認定・異議申立てまでの流れ
おおまかな流れは次のとおりです。
- 治療を継続し、主治医と相談のうえ症状固定の時期を判断する
- 後遺障害診断書を作成してもらう
- 後遺障害の申請を行う(相手方保険会社を通じて行う方法と、被害者側から自賠責保険会社に直接請求する方法があります)
- 損害保険料率算出機構の調査を経て、認定結果と理由の通知を受ける
- 結果に納得できない場合、異議申立て、紛争処理機構への申請、訴訟といった手段を検討する
申請の方法について、どちらかが常に有利と決まっているわけではありません。手元の資料の状況、追加で提出したい資料の有無、時間的な制約により、選び方は変わります。
期限については、国土交通省の案内において、自賠責保険の後遺障害の請求期限は「症状固定日の翌日から3年以内」とされています。これは自賠責保険への請求の期限であり、加害者本人や任意保険会社に対する損害賠償請求権の消滅時効とは別のものです。後者については、民法第724条及び第724条の2により、人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から5年、不法行為の時から20年とされています。事故日、請求の内容、時効の完成猶予・更新の有無により結論が変わりますので、個別に確認が必要です。
後遺障害診断書の作成前に確認したい資料を見る
後遺障害が非該当となった場合の異議申立ての判断材料を見る
腎臓の後遺障害で請求対象となり得る損害
損害は、傷害部分(症状固定までの分)と後遺障害部分(症状固定後の分)に分けて検討します。混同すると、二重に請求してしまったり、逆に請求漏れが生じたりします。
| 区分 | 主な項目 | 腎臓の事案で確認したい点 |
|---|---|---|
| 傷害部分 | 治療関係費、通院交通費、休業損害、傷害慰謝料 | 救急搬送から手術、入院、退院後の通院までの経過 |
| 後遺障害部分 | 後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益 | 等級だけでなく、就労と生活への具体的な影響 |
| 将来分 | 将来の検査費、治療費、薬剤費 | 医学的必要性、発生の蓋然性、頻度、期間、単価 |
将来の検査費や治療費については、「将来悪化するおそれがある」という一般的なリスクの指摘だけでは足りず、医学的な必要性と発生の蓋然性、その内容、頻度、期間及び費用を資料で示す必要が生じることがあります。逸失利益についても同様に、就労への具体的な影響の立証が問題になります。
自賠責保険の支払基準(金融庁・国土交通省告示)では、後遺障害による損害のうち慰謝料等の額として、別表第二の第7級は419万円、第9級は249万円、第11級は136万円、第13級は57万円と定められています(令和2年4月1日以後に発生した事故に適用される現行の支払基準)。これは自賠責保険から支払われる基準であり、裁判実務上参照される慰謝料の水準や、逸失利益そのものとは別のものです。事故日によって適用される基準が異なりますので、ご自身の事故日での適用関係をご確認ください。
腎臓の障害で逸失利益が争われやすい理由
等級別の労働能力喪失率は出発点にすぎません
自賠責保険の支払基準には、等級ごとの労働能力喪失率の別表が置かれており、第7級は100分の56、第9級は100分の35、第11級は100分の20、第13級は100分の9とされています。
もっとも、後遺障害等級が認定されたことと、逸失利益がその率のとおりに認められることは、同じではありません。腎臓の事案では、特に次のような主張がされることがあります。
- 片方の腎臓を失っても、残った腎臓が働いていれば日常生活に支障がない
- 事故後も同じ職場で同じ収入を得ており、減収がない
- 腎機能の低下は軽度であり、就労への影響が具体的でない
他方で、減収がないことのみを理由に逸失利益が当然に否定されるわけでもありません。障害の内容、職務の内容、勤務先の配慮の有無、将来の昇進・転職への影響などにより、判断は変わり得ます。腎臓については、片方を失ったことにより残った腎臓に負担がかかりやすくなるという医学的な指摘もあり、それが就労にどう影響するかが具体的に問われます。個別事情により結論は異なりますので、資料を確認したうえで判断する必要があります。
就労への支障をどう具体化するか
腎臓の事案では、次のような事情を、事実として整理できるかどうかが検討の分かれ目になります。医学的な裏付けのない制限を作り出すことは適切ではありませんので、主治医の指示や勤務先の記録に基づいて整理します。
| 視点 | 具体的に確認する事項 |
|---|---|
| 身体的負荷 | 重量物の取扱い、腹部への衝撃を伴う作業、外傷リスクの高い作業の有無 |
| 環境 | 高温環境、脱水を生じやすい作業、水分補給や休憩の確保のしやすさ |
| 勤務形態 | 夜勤、長時間労働、出張、通院のための時間確保の可否 |
| 医学的制限 | 主治医による就業制限、服薬、食事管理、定期通院の指示の有無と内容 |
| 職場の対応 | 配置転換、業務軽減、時間短縮の有無と、それが恒久的なものか |
| 収入への影響 | 事故前後の収入、賞与、昇給・昇進の見込み、転職への影響 |
事故前からの高血圧、糖尿病、片腎がある場合
事故前から高血圧、糖尿病、慢性腎臓病がある方や、加齢による腎機能の低下がある方については、事故との因果関係、事故による悪化の程度、加重障害の扱い、素因減額といった点が争点になり得ます。これらは別々の概念ですので、混同せずに整理する必要があります。
実務上、次の順で時系列に整理すると、争点が見えやすくなります。
- 事故前の健診結果、血液・尿検査の数値、画像、服薬歴
- 事故直後の画像と、腎損傷の程度に関する記載
- 摘出又は切除に至った医学的な理由(出血のコントロール、損傷の程度など)
- 事故後の腎機能の推移(測定方法と単位をそろえたうえでの比較)
- 症状固定時点の数値と、その後の見通しに関する主治医の説明
事故前から片方の腎臓がない方が、事故で残った腎臓を損傷した場合については、一律の等級を示すことはできません。既存障害、加重の扱い、現存する障害の評価を、現行の基準に照らして個別に確認する必要があります。
よく問題になる場面
| 場面 | 確認の方向 |
|---|---|
| 片方の腎臓を摘出したが、残った腎臓の機能は保たれている | 摘出の事実と機能の程度を分けて確認します。機能が保たれていても等級の検討対象になり得ます。他方で、逸失利益の有無、割合又は期間は別に検討されます。 |
| 部分切除にとどまった、又は片側の機能だけが低下している | 「腎臓を失った」といえるかを、手術記録、画像及び機能評価から確認します。分腎機能の資料が問題になることがあります。 |
| 事故前から腎機能が低下していた、又は片腎だった | 事故前の資料と事故後の推移を対比し、因果関係、加重、素因減額の各論点を分けて検討します。 |
| 腎臓のほかに、尿管、膀胱、肋骨、脊椎、神経症状などの障害も残っている | 系列が異なる障害か、通常派生する関係にある障害かを確認します。腎臓を失ったことと残った腎臓の機能低下は、上記の組合せで一体として評価されるため、別々の等級として重ねて評価することはできません。 |
| 将来の検査費や治療費を請求したい | 医学的必要性、発生の蓋然性、頻度、期間及び費用を、主治医の説明や実際の通院記録から整理します。 |
| 認定された等級と、実際に感じている就労上の支障が一致しない | 認定理由を確認し、何が評価され、何が評価されていないかを切り分けます。異議申立てのほか、賠償の交渉や訴訟の中で争う方法もあります。 |
申請・示談の前に確認するチェックリスト
- 手術記録に、全摘出か部分切除かが明記されているか
- 摘出した場合、その理由(損傷の程度、出血の状況など)が記録から分かるか
- 後遺障害診断書に記載された腎機能の数値が、どの方法で測られたものか分かるか
- その数値の単位に、体表面積の補正が入っているかどうかを確認したか
- 腎機能の数値が、事故直後、治療中、症状固定時と時系列でそろっているか
- 事故前の健診や検査の結果を取り寄せたか
- 急性期の一時的な低下と、永続する機能低下とが区別できる資料になっているか
- 服薬、食事、生活上の指示、通院頻度が分かる資料があるか
- 医学的な就業制限の有無と内容を、主治医に確認したか
- 勤務先での配置転換、業務軽減、勤務時間の変更を記録として残しているか
- 事故前後の収入資料(源泉徴収票、確定申告書等)をそろえたか
- 認定結果の通知書に記載された理由を読み、何が評価されたかを確認したか
- 示談案の内訳で、傷害部分と後遺障害部分が区別されているか
- 示談案に、逸失利益、将来の検査費・治療費が含まれているか、含まれていない場合の理由を確認したか
弁護士に相談するタイミング
次の時期には、資料と論点を整理しておくと、その後の判断がしやすくなります。
- 症状固定の話が出たとき、後遺障害診断書の作成前……どの資料をそろえるか、何を医師に確認するかを整理できます
- 後遺障害の申請前……申請方法の選択と、追加で提出する資料を検討できます
- 認定結果を受け取ったとき……認定理由を読み、異議申立てや他の手段の要否を検討できます
- 逸失利益の有無や割合を争われたとき……就労への影響を裏付ける資料の整理を検討できます
- 示談書に署名する前……内訳と、含まれていない項目の有無を確認できます
ご相談は結果をお約束するものではありません。資料を確認したうえで、法律上の見通しと今後の対応方針を整理することを目的としています。
よくある質問
片方の腎臓を摘出しましたが、残った腎臓の機能が正常です。後遺障害にはならないのでしょうか。
認定基準は、腎臓の亡失の有無とGFRの程度を組み合わせて判断するものとされており、一側の腎臓を失い、上記のいずれの区分にも当たらない場合には、第13級11号が検討対象とされています。機能が保たれているという一点だけで検討対象外になるとはいえません。もっとも、等級が認定された場合でも、逸失利益の有無、割合又は期間は別に検討されます。個別事情により結論は異なります。
腎臓は摘出していませんが、腎機能が下がったままです。等級は問題になりますか。
腎臓を失っていない場合でも、GFRが毎分90ミリリットル以下の区分に入るときは、その程度に応じて等級が検討されます。ただし、事故による永続的な機能低下といえるかどうかが問題になりますので、事故前の検査結果と事故後の推移を対比できる資料の確認が必要です。
健康診断のeGFRの数値を、そのまま認定基準に当てはめてよいですか。
そのまま当てはめることは適当ではありません。eGFRは血清クレアチニン値、年齢及び性別から計算した推算値で、単位も体表面積1.73平方メートル当たりに補正されたものです。認定基準のGFRとは算定方法も単位も異なります。どの方法で測った値か、単位に補正が入っているかを確認する必要があります。医学的にどの検査が必要かは主治医にご確認ください。
腎臓の部分切除は「一側の腎臓を失った」ことになりますか。
部分切除を、当然に「一側の腎臓を失ったもの」と同じに扱うことはできません。切除の範囲、残った腎臓と切除側の機能、画像所見を確認したうえで判断する必要があります。手術記録と分腎機能の資料が手掛かりになることがあります。
等級が認定されれば、逸失利益は当然に支払われますか。
等級の認定と逸失利益の算定は別の問題です。等級に対応する労働能力喪失率は検討の出発点になり得ますが、職業、年齢、収入、医学的な制限、配置転換、減収の有無などにより判断が変わります。減収がないことのみを理由に当然に否定されるわけでもありません。資料を確認したうえで判断する必要があります。
事故前から高血圧や糖尿病がありました。因果関係を否定されてしまいますか。
既往症があること自体で結論が決まるわけではありません。事故前の腎機能の水準、事故による損傷の程度、事故後の推移を時系列で整理し、事故による悪化の程度を検討します。加重障害の扱いや素因減額が問題になることもあります。事故前の健診結果や検査データが重要になります。
後遺障害の申請には、どのような資料が必要ですか。
事案により異なりますが、後遺障害診断書のほか、事故直後からの診療録、画像と読影結果、手術記録、腎機能の検査値の時系列が確認されることが多くあります。事故前の健診結果や、勤務先での業務変更が分かる資料が必要になることもあります。すべての事案ですべての資料が必須というわけではありませんので、資料を確認したうえで判断します。
まとめ
- 腎臓の後遺障害は、「一側の腎臓を失ったかどうか」と「GFRの程度」の組合せで検討されます。
- 片方の腎臓を失っていても、残った腎臓の機能が保たれている場合には、第13級11号が検討対象になります。
- 摘出していなくても、腎機能の低下の程度により等級が問題になります。
- 検査票の「eGFR」と認定基準の「GFR」は、算定方法も単位も異なります。そのまま当てはめないでください。
- GFRが毎分30ミリリットル以下の状態や透析を要する状態は、まず治療の継続と症状固定時期の判断が先行します。
- 等級が認定されても、逸失利益の有無、割合又は期間は別に検討されます。
- 次の行動としては、手術記録と検査値の測定方法の確認、事故前の検査資料の取り寄せ、医学的な就業制限の確認をおすすめします。
腎臓の後遺障害は、手術内容と検査値の意味を確認しなければ、認定結果や示談案の当否を判断できません。後遺障害診断書の作成前、申請前、認定結果を受け取った後、示談書に署名する前のいずれの段階でも、資料を確認したうえで論点と見通しを整理することができます。
神戸みらい法律会計事務所では、交通事故に関するご相談を初回無料でお受けしています(事前予約制)。ご相談の方法や日程は、分野、事案及び予約状況により異なる場合があります。
監修者
神戸みらい法律会計事務所
弁護士・公認会計士 藤井 貴之(兵庫県弁護士会所属、日本公認会計士協会兵庫会所属)
本記事は、交通事故を取り扱う弁護士が監修しています。経歴及び所属の詳細は弁護士紹介ページをご確認ください。
参考資料
- 自動車損害賠償保障法施行令(e-GOV法令検索)
- 後遺障害等級表(国土交通省)
- 支払までの流れと請求方法(国土交通省)
- 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(金融庁・国土交通省告示)
- 胸腹部臓器の障害に関する障害等級認定基準について(厚生労働省)
- 胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会報告書(厚生労働省)
- 当機構で行う損害調査(損害保険料率算出機構)
- 腎機能測定ツール(日本腎臓学会)
本記事は一般的な情報を提供するものであり、個別の事案についての法的助言ではありません。後遺障害等級、損害の内容及び金額は、資料及び個別事情により結論が異なります。医学的な診断、検査の要否及び生活上の指導については、主治医にご確認ください。

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