交通事故でけがをして治療を続けている方や、相手方保険会社から慰謝料の提示を受けた方の多くが、「この金額は妥当なのか」「傷害慰謝料はどのように計算されるのか」という疑問を抱かれます。傷害慰謝料(入通院慰謝料)には、自賠責保険基準・任意保険基準・弁護士基準(裁判基準)という3つの算定基準があり、どの基準を用いるかによって金額が大きく変わります。
本記事では、神戸市須磨区の弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所の交通事故を取り扱う弁護士が、傷害慰謝料の3つの算定基準と具体的な計算方法を、順を追って整理します。むちうちで通院した場合、骨折で入院した場合のどちらにも対応できるよう、弁護士基準のもとになる赤い本の別表Ⅰ・別表Ⅱも掲載しました。提示された金額が妥当かどうかは、診断書・通院状況・治療期間などの資料を確認したうえで判断する必要があり、個別事情により結論は異なります。示談書に署名すると原則としてやり直しがきかないため、署名前に一度ご自身のケースを確認しておくことをおすすめします。
Contents
この記事で分かること
- 傷害慰謝料(入通院慰謝料)と後遺障害慰謝料・死亡慰謝料の違い
- 自賠責保険基準・任意保険基準・弁護士基準(裁判基準)の性質と金額水準の傾向
- 自賠責保険基準の計算式(日額4,300円)と、傷害分120万円の上限の仕組み
- 弁護士基準(赤い本の別表Ⅰ・別表Ⅱ)による計算手順と、端数の日割り・長期通院の修正
- 同じ通院期間で3つの基準を比較した場合の金額差の目安
- 治療費の打ち切り・症状固定・通院頻度など、金額に影響しやすい場面と示談前の確認事項
保険会社から提示された金額に迷われている方へ。診断書や提示書面などの資料を確認することで、どの基準を前提とした提示か、どの程度見直す余地があるかを整理できます。当事務所では、交通事故の初回のご相談を無料でお受けしています(事前のご予約をお願いしています)。
傷害慰謝料でまず押さえたい結論(全体像)
詳しい計算方法に入る前に、要点を整理します。
- 傷害慰謝料には自賠責保険基準・任意保険基準・弁護士基準(裁判基準)の3つの算定基準があり、一般に弁護士基準が最も高くなる傾向があります。
- 例えば、むちうち(他覚所見なし)で通院6か月・実通院60日の場合、自賠責保険基準では51万6,000円であるのに対し、弁護士基準(赤い本別表Ⅱ)では89万円が基準額となり、その差は約37万円です(金額は目安であり、事案により増減します)。
- 保険会社が示談交渉の当初に提示する金額は、自賠責保険基準に近い水準にとどまっていることがあり、資料を確認したうえで見直す余地が残っている場合があります。
- 提示書面を受け取ったら、まず傷害慰謝料がどの基準で計算されているかを確認することが、見直しの出発点になります。
- むちうちの場合は、他覚所見の有無によって用いる別表(別表Ⅰか別表Ⅱか)が分かれやすく、金額に影響します。
- 最終的な金額は、けがの内容、入通院の状況、過失割合、既往症などの個別事情により異なります。
傷害慰謝料(入通院慰謝料)とは
傷害慰謝料とは、交通事故でけがを負い、入院や通院を余儀なくされたことによる精神的苦痛に対して支払われる金銭です。民法上、不法行為による損害賠償の一内容として、財産以外の損害(精神的苦痛)についても賠償を請求できるとされています(民法709条・710条)。傷害慰謝料は、治癒または症状固定までの入院・通院の期間や日数を基礎として算定されるため、入通院慰謝料とも呼ばれます。
傷害慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料の違い
交通事故の慰謝料には、傷害慰謝料のほかに、後遺障害が残った場合の後遺障害慰謝料と、被害者が亡くなった場合の死亡慰謝料があります。本記事で解説するのは、このうち傷害慰謝料です。
| 慰謝料の種類 | 対象となる精神的苦痛 | 算定の基礎となる主な事情 |
|---|---|---|
| 傷害慰謝料(入通院慰謝料) | けがをして入院・通院したことによる苦痛 | 入院期間・通院期間・実通院日数、けがの内容 |
| 後遺障害慰謝料 | 後遺障害が残ったことによる苦痛 | 認定された後遺障害等級 |
| 死亡慰謝料 | 死亡したこと及び遺族の苦痛 | 被害者の家庭内での立場、遺族の事情 |
傷害慰謝料は入通院の「期間・日数」を、後遺障害慰謝料は「等級」を基礎とする点が大きく異なります。後遺障害が残った場合には、傷害慰謝料と後遺障害慰謝料の双方を請求しうることになります。等級ごとの考え方は「後遺障害慰謝料は等級でどう変わるかの解説」で整理しています。
慰謝料とは別に請求しうる損害項目
なお、傷害慰謝料は損害項目の一つにすぎません。このほかに、治療費、通院交通費、休業損害、後遺障害が残った場合の逸失利益などの費目があり、示談金の総額はこれらの合計で決まります。慰謝料の金額だけでなく、他の費目が漏れなく計上されているかも、提示書面の確認では重要になります。
傷害慰謝料の3つの算定基準
同じけが・同じ通院期間であっても、用いる基準によって傷害慰謝料の金額は変わります。一般に、金額は自賠責保険基準 < 任意保険基準 < 弁護士基準(裁判基準)の順に高くなる傾向があります。
自賠責保険基準
自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)は、自動車損害賠償保障法に基づき、原則としてすべての自動車・バイクに加入が義務付けられている強制保険で、被害者の基本的な補償を確保することを目的としています。保険会社は、国が告示で定めた支払基準に従って保険金を支払うものとされており、その水準は、3つの基準の中では最も低くなることが一般的です。
任意保険基準
任意保険基準は、加害者側の任意保険会社が社内で設定している基準です。各社が個別に定めており内容は公開されていませんが、実務上は、自賠責保険基準と弁護士基準の中間的な水準で提示されることが多いとされています。任意保険会社からの当初の提示額が、そのまま裁判実務で認められうる水準に達しているとは限りません。
弁護士基準(裁判基準・赤い本)
弁護士基準(裁判基準)は、過去の裁判例の集積を踏まえた基準で、訴訟のほか、弁護士が代理して行う示談交渉でも用いられます。実務では、公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が毎年発行する「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(通称「赤い本」)の別表が広く参照されています。3つの基準の中では最も高くなる傾向がありますが、別表から導かれる金額はあくまで基準額(目安)であり、事案の内容によって増減します。
| 基準 | 性質 | 金額の水準(傾向) | 主に使われる場面 |
|---|---|---|---|
| 自賠責保険基準 | 法令に基づく基本補償の支払基準 | 最も低くなることが多い | 自賠責保険への請求(被害者請求を含む) |
| 任意保険基準 | 各保険会社が独自に設定(非公開) | 自賠責と弁護士基準の中間とされる | 保険会社からの当初提示 |
| 弁護士基準(裁判基準) | 裁判例を踏まえた基準(赤い本等) | 最も高くなる傾向 | 訴訟・弁護士による示談交渉 |
同じ事故でも、弁護士が関与し、自賠責保険基準や任意保険基準ではなく弁護士基準を前提とした交渉に切り替わることで、傷害慰謝料が増額される可能性があります。どの程度の差が生じるかは、けがの内容や入通院の状況により異なります。
自賠責保険基準による傷害慰謝料の計算方法
自賠責保険基準による傷害慰謝料は、次の式で計算します。
傷害慰謝料 = 日額4,300円 × 対象日数
- 日額は、令和2年4月1日以降に発生した事故については1日あたり4,300円、令和2年3月31日以前に発生した事故については4,200円です(国の告示である自賠責保険の支払基準によります)。
- 対象日数は、支払基準上、傷害の態様や実治療日数などを勘案して治療期間の範囲内で定めるとされており、実務上は、①治療期間(初診から治癒または症状固定までの日数)と、②実治療日数(実際に入通院した日数)×2のいずれか少ない方を用いる運用が定着しています。
計算例|治療期間6か月・実通院60日の場合
治療期間が6か月(180日)、実通院日数が60日のケースで計算してみます。
- ①治療期間 = 180日
- ②実治療日数 60日 × 2 = 120日
- ①と②のうち少ない方は120日
- 4,300円 × 120日 = 51万6,000円
このケースの自賠責保険基準による傷害慰謝料は、51万6,000円となります。任意保険会社からの当初提示が、この自賠責保険基準に近い水準でなされることがある点に注意が必要です。
傷害分は治療費等を含めて120万円が上限
自賠責保険から傷害について支払われる金額には、被害者1人につき120万円という上限があります。この120万円は、傷害慰謝料だけの上限ではなく、治療関係費・文書料・休業損害・慰謝料をすべて含めた合計の上限です(自動車損害賠償保障法・同法施行令)。治療が長引いて治療費が高額になった場合などには、計算式で求めた傷害慰謝料の全額が自賠責保険から支払われるとは限りません。120万円を超える部分は、相手方の任意保険会社(任意保険がない場合は相手方本人)に請求することになります。
過失があっても減額されにくい(重過失減額)
自賠責保険には、被害者保護の観点から、被害者に有利な面もあります。被害者側にも過失がある場合、任意保険会社との示談交渉や訴訟では過失割合に応じた減額(過失相殺)が行われますが、自賠責保険では、被害者の過失割合が7割未満であれば減額されません。7割以上の重大な過失がある場合でも、傷害部分については原則として2割の減額にとどまるとされています(減額の細目は支払基準によります)。過失割合に争いがある事案では、自賠責保険への被害者請求を先行させるかどうかを含め、手続の選択が結果に影響することがあります。
弁護士基準(赤い本)による傷害慰謝料の計算方法
弁護士基準(裁判基準)による傷害慰謝料は、自賠責保険基準のように「式で計算する」のではなく、赤い本の別表(一覧表)に入通院期間を当てはめて金額を読み取る方式で算定します。赤い本は毎年2月に改訂されており、以下の別表の金額は目安としてご覧いただき、実際の算定では最新版での確認が必要です。手順は次の3ステップです。
ステップ1:別表Ⅰと別表Ⅱのどちらを使うかを決める(ここが最重要)
赤い本の算定表には、別表Ⅰと別表Ⅱの2種類があります。どちらを用いるかで金額の水準が変わるため、判断が分かれるケースでは、この点が交渉の争点になりやすい部分です。
- 別表Ⅰ……原則として用いる表です。骨折や脱臼など、他覚的に確認できるけがで用いられることが多く、別表Ⅱより高い水準で定められています。
- 別表Ⅱ……むちうち症で医学的な他覚所見がない場合や、軽い打撲・軽い挫創(挫傷)にとどまる場合などに用いられる表で、別表Ⅰより低い水準で定められています。
むちうち症では、MRIなどの画像所見や神経学的検査の結果(他覚所見)の有無によって、別表Ⅰと別表Ⅱのどちらを前提とするかが分かれやすく、傷害慰謝料の金額に直結します。診断書や検査結果の内容を確認することが重要です。他覚所見の考え方は「むちうちの後遺障害を立証する検査(画像所見・神経学的検査)の解説」で詳しく整理しています。
ステップ2:入院期間・通院期間を整理する(回数ではなく期間)
次に、入院と通院がそれぞれどれくらいの期間だったかを整理します。別表は、「通院回数」ではなく「入院・通院の期間」を軸に読みます(例:入院1か月・通院3か月)。期間は、原則として実際に入院・通院を継続した期間を用います。もっとも、通院期間が長くても通院頻度が低い場合には、後述の修正が入ることがあるため、実通院日数もあわせて整理しておきます。
ステップ3:別表の「交わるところ」が傷害慰謝料の基準額
別表Ⅰまたは別表Ⅱで、横軸(列)の入院期間と縦軸(行)の通院期間が交差するマスの金額(単位:万円)が、傷害慰謝料の基準額です。入院がなく通院のみの場合は、入院0月の列を見ます。赤い本の別表は次のとおりです(表はスマートフォンでは横にスクロールできます)。
別表Ⅰ(骨折などのけが)傷害慰謝料(単位:万円)
| 通院\入院 | 0月 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 13月 | 14月 | 15月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 0月 | — | 53 | 101 | 145 | 184 | 217 | 244 | 266 | 284 | 297 | 306 | 314 | 321 | 328 | 334 | 340 |
| 1月 | 28 | 77 | 122 | 162 | 199 | 228 | 252 | 274 | 291 | 303 | 311 | 318 | 325 | 332 | 336 | 342 |
| 2月 | 52 | 98 | 139 | 177 | 210 | 236 | 260 | 281 | 297 | 308 | 315 | 322 | 329 | 334 | 338 | 344 |
| 3月 | 73 | 115 | 154 | 188 | 218 | 244 | 267 | 287 | 302 | 312 | 319 | 326 | 331 | 336 | 340 | 346 |
| 4月 | 90 | 130 | 165 | 196 | 226 | 251 | 273 | 292 | 306 | 316 | 323 | 328 | 333 | 338 | 342 | 348 |
| 5月 | 105 | 141 | 173 | 204 | 233 | 257 | 278 | 296 | 310 | 320 | 325 | 330 | 335 | 340 | 344 | 350 |
| 6月 | 116 | 149 | 181 | 211 | 239 | 262 | 282 | 300 | 314 | 322 | 327 | 332 | 337 | 342 | 346 | 352 |
| 7月 | 124 | 157 | 188 | 217 | 244 | 266 | 286 | 304 | 316 | 324 | 329 | 334 | 339 | 344 | 348 | 354 |
| 8月 | 132 | 164 | 194 | 222 | 248 | 270 | 290 | 306 | 318 | 326 | 331 | 336 | 341 | 346 | 350 | 356 |
| 9月 | 139 | 170 | 199 | 226 | 252 | 274 | 292 | 308 | 320 | 328 | 333 | 338 | 343 | 348 | 352 | 358 |
| 10月 | 145 | 175 | 203 | 230 | 256 | 276 | 294 | 310 | 322 | 330 | 335 | 340 | 345 | 350 | 354 | 360 |
| 11月 | 150 | 179 | 207 | 234 | 258 | 278 | 296 | 312 | 324 | 332 | 337 | 342 | 347 | 352 | 356 | 362 |
| 12月 | 154 | 183 | 211 | 236 | 260 | 280 | 298 | 314 | 326 | 334 | 339 | 344 | 349 | 354 | 358 | 364 |
| 13月 | 158 | 187 | 213 | 238 | 262 | 282 | 300 | 316 | 328 | 336 | 341 | 346 | 351 | 356 | 360 | 366 |
| 14月 | 162 | 189 | 215 | 240 | 264 | 284 | 302 | 318 | 330 | 338 | 343 | 348 | 353 | 358 | 362 | 368 |
| 15月 | 164 | 191 | 217 | 242 | 266 | 286 | 304 | 320 | 332 | 340 | 345 | 350 | 355 | 360 | 364 | 370 |
別表Ⅱ(他覚所見がないむち打ち等)傷害慰謝料(単位:万円)
| 通院\入院 | 0月 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 13月 | 14月 | 15月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 0月 | — | 35 | 66 | 92 | 116 | 135 | 152 | 165 | 176 | 186 | 195 | 204 | 211 | 218 | 223 | 228 |
| 1月 | 19 | 52 | 83 | 106 | 128 | 145 | 160 | 171 | 182 | 190 | 199 | 206 | 212 | 219 | 224 | 229 |
| 2月 | 36 | 69 | 97 | 118 | 138 | 153 | 166 | 177 | 186 | 194 | 201 | 207 | 213 | 220 | 225 | 230 |
| 3月 | 53 | 83 | 109 | 128 | 146 | 159 | 172 | 181 | 190 | 196 | 202 | 208 | 214 | 221 | 226 | 231 |
| 4月 | 67 | 95 | 119 | 136 | 152 | 165 | 176 | 185 | 192 | 197 | 203 | 209 | 215 | 222 | 227 | 232 |
| 5月 | 79 | 105 | 127 | 142 | 158 | 169 | 180 | 187 | 193 | 198 | 204 | 210 | 216 | 223 | 228 | 233 |
| 6月 | 89 | 113 | 133 | 148 | 162 | 173 | 182 | 188 | 194 | 199 | 205 | 211 | 217 | 224 | 229 | 234 |
| 7月 | 97 | 119 | 139 | 152 | 166 | 175 | 183 | 189 | 195 | 200 | 206 | 212 | 218 | 225 | 230 | 235 |
| 8月 | 103 | 125 | 143 | 156 | 168 | 176 | 184 | 190 | 196 | 201 | 207 | 213 | 219 | 226 | 231 | 236 |
| 9月 | 109 | 129 | 147 | 158 | 169 | 177 | 185 | 191 | 197 | 202 | 208 | 214 | 220 | 227 | 232 | 237 |
| 10月 | 113 | 133 | 149 | 159 | 170 | 178 | 186 | 192 | 198 | 203 | 209 | 215 | 221 | 228 | 233 | 238 |
| 11月 | 117 | 135 | 150 | 160 | 171 | 179 | 187 | 193 | 199 | 204 | 210 | 216 | 222 | 229 | 234 | 239 |
| 12月 | 119 | 136 | 151 | 161 | 172 | 180 | 188 | 194 | 200 | 205 | 211 | 217 | 223 | 230 | 235 | 240 |
| 13月 | 120 | 137 | 152 | 162 | 173 | 181 | 189 | 195 | 201 | 206 | 212 | 218 | 224 | 231 | 236 | 241 |
| 14月 | 121 | 138 | 153 | 163 | 174 | 182 | 190 | 196 | 202 | 207 | 213 | 219 | 225 | 232 | 237 | 242 |
| 15月 | 122 | 139 | 154 | 164 | 175 | 183 | 191 | 197 | 203 | 208 | 214 | 220 | 226 | 233 | 238 | 243 |
表の読み方を、具体例で確認します。
- 骨折で入院1か月・通院3か月(別表Ⅰ)……入院1月の列と通院3月の行の交点で115万円
- むちうち(他覚所見なし)で入院なし・通院3か月(別表Ⅱ)……入院0月の列と通院3月の行の交点で53万円
このように、同じ通院期間でも、用いる別表によって金額の水準が変わります。なお、繰り返しになりますが、別表の金額は基準額であり、最終的な金額は事案により増減します。
1か月未満の端数は日割りで計算する
入院期間・通院期間に1か月未満の端数がある場合は、1か月を30日として日割りで計算します。具体的には、その月数の金額と次の月数の金額との差額に、端数の日数を30日で割った割合を乗じた額を加算します。
例えば、通院期間が4か月10日(別表Ⅱ・入院なし)の場合、通院4か月の67万円に、通院5か月の79万円との差額12万円 × 10/30 = 4万円を加えて、71万円が基準額となります。
通院が長期にわたる場合は実通院日数で修正されることがある
通院期間が長い一方で通院の頻度が低い場合には、実際の通院期間ではなく、実通院日数を一定倍した日数を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることがあります。赤い本では、おおむね次のように整理されています。
- 別表Ⅰを用いる場合……通院が長期にわたるときは、症状・治療内容・通院頻度をふまえ、実通院日数の3.5倍程度を通院期間の目安とすることがあります
- 別表Ⅱを用いる場合……通院が長期にわたり、かつ不規則であるときは、実通院日数の3倍程度を通院期間の目安とすることがあります
例えば、別表Ⅱを用いるケースで、通院期間が1年でも実通院日数が50日にとどまる場合、50日 × 3 = 150日(5か月)を通院期間の目安として算定されることがあります。これは、通院の実態に即した金額とするための運用であり、修正の有無・程度は事案により異なります。通院頻度と慰謝料の関係は「むちうちの慰謝料と通院期間・通院頻度の解説」もご参照ください。
増額・減額が検討される主な事情
赤い本の別表は標準的な算定の出発点であり、次のような事情があるときは、基準額からの増額・減額が検討されることがあります。
- 生死が危ぶまれる状態が続いた場合、麻酔なしの手術など苦痛が甚大だった場合、手術を繰り返した場合などは、増額の方向で検討されることがあります。
- 入院待機中の期間や、ギプス固定中など安静を要した自宅療養期間は、入院期間とみて算定することがあります。
- 幼いお子さまを抱えている、仕事の都合があるなどの被害者側の事情により、入院期間を特に短縮したと認められる場合は、増額が検討されることがあります。
- 他方、被害者側にも過失がある場合の過失相殺や、既往症・素因を理由とする減額が問題になることがあります。
3つの基準で金額はどれくらい変わるか|同じケースで比較
むちうち(他覚所見なし)で、通院期間6か月・実通院60日のケースを例に、3つの基準を比較します。あくまで一例であり、金額は事案により変動します。
| 基準 | このケースの傷害慰謝料(目安) | 考え方 |
|---|---|---|
| 自賠責保険基準 | 51万6,000円 | 4,300円 × 120日(治療費等と合算で120万円が上限) |
| 任意保険基準 | 自賠責基準と弁護士基準の中間とされる | 各社が独自に設定(非公開) |
| 弁護士基準(別表Ⅱ) | 89万円(基準額) | 赤い本別表Ⅱ・入院0月×通院6月の交点 |
このケースでは、自賠責保険基準と弁護士基準の差は約37万円です。骨折などで別表Ⅰを用いるケースや入院を伴うケースでは、弁護士基準の金額がさらに大きくなる一方、自賠責保険からの支払は治療費等と合わせて120万円で頭打ちになるため、差はより開きやすくなります。提示された金額がどの基準によるものかを確認することが、見直しの余地を検討する出発点になります。
保険会社の提示書面(損害賠償額計算書)をお持ちであれば、どの基準を前提とした提示か、弁護士基準ではどの程度になりうるかを、資料に即して整理できます。示談書に署名する前のご相談をおすすめします。
傷害慰謝料で特に問題になりやすいケース
治療費の一括対応を打ち切られた
任意保険会社が治療費を医療機関へ直接支払う「一括対応」は、治療の途中で打ち切りを打診されることがあります。自賠責保険の傷害分が治療費等を含めて120万円を上限とすることも、打ち切り打診の背景になりやすい事情です。打ち切り後も治療の必要性が認められる場合には、健康保険等を利用して通院を継続し、治療費を事後に請求することも考えられますが、対応を誤ると傷害慰謝料の算定期間にも影響しかねません。「治療費打ち切りの連絡を受けた場合の対応」を参考に、早めに方針を整理することをおすすめします。
通院の頻度が低い・通院しない期間が空いている
通院の頻度が低い場合や、通院の間隔が大きく空いた場合には、前述のとおり実通院日数を基礎とする修正がなされたり、治療と事故との因果関係や治療の必要性が争われたりすることがあります。痛みが続いているのに我慢して通院を控えると、症状の実態より慰謝料が低く算定される要因になりかねません。通院は、主治医と相談しながら、医学的に必要な頻度で継続することが基本です。
整骨院・接骨院への通院が中心になっている
むちうちなどで整骨院・接骨院(柔道整復)への通院を希望される方は少なくありませんが、施術費や施術期間分の慰謝料の扱いは、医師の診察・指示の有無や施術の必要性・相当性をめぐって争いになることがあります。整形外科などの医師の診察を定期的に受けながら併用することが、治療の面でも立証の面でも基本となります。通院先の選び方に迷う場合は、早めにご相談ください。
症状固定の時期をいつにするか
症状固定(これ以上治療を続けても大幅な改善が見込めない状態)の時期は、傷害慰謝料の算定期間の終期になるとともに、後遺障害等級認定の前提にもなる重要な分岐点です。保険会社から症状固定を促されても、症状固定は本来、医学的な判断を前提とするものです。主治医の所見と治療経過を踏まえた検討が必要です。詳しくは「症状固定と言われた場合に示談前に確認すべきこと」をご参照ください。
過失割合や既往症・素因による減額に争いがある
過失割合に争いがある場合や、事故前からの既往症・体質的な素因を理由とする減額(素因減額)が主張される場合、傷害慰謝料を含む賠償総額に影響します。いずれも証拠資料に基づく検討が必要で、個別事情により結論は異なります。素因減額への対応は「既往症・素因減額を主張された場合の整理」で解説しています。
示談書に署名する前に確認したいチェックリスト
示談が成立すると、原則としてその内容を後から覆すことはできません。提示を受けたら、署名前に次の点を確認しておくことをおすすめします。
- 診断書・後遺障害診断書(けがの内容、他覚所見の有無、症状固定日)
- 診療報酬明細書・通院記録(実通院日数、治療期間)
- 提示書面の内訳と、傷害慰謝料がどの基準・どの別表で算定されているか
- 治療期間の端数の日割りや、通院頻度による修正の当否
- 過失割合の根拠と、その妥当性
- 休業損害・後遺障害逸失利益など、慰謝料以外の費目の計上漏れ・算定の妥当性
- 後遺症が残っている場合、後遺障害等級認定の申請を検討したか
- 損害賠償請求権の時効(人身部分は原則5年)までの残り期間
- ご自身やご家族の保険に弁護士費用特約が付いていないか
示談案全体の確認項目は「交通事故の示談案で確認すべき項目の解説」にまとめています。
弁護士に相談するタイミングと、相談でできること
傷害慰謝料は、用いる基準や個別事情によって金額が変わるため、提示額の妥当性をご自身だけで判断するのは容易ではありません。次のようなタイミングでのご相談が考えられます。
- 保険会社から慰謝料・示談金の提示を受けたとき(署名前)
- 治療中に治療費の打ち切りを打診されたとき
- 症状固定の前後や、後遺障害等級認定の申請を検討するとき
- 過失割合や既往症による減額を主張されたとき
弁護士への相談では、診断書・診療報酬明細書・通院記録・提示書面などの資料を確認したうえで、どの基準・どの別表を前提に、どの程度見直す余地があるかという判断材料を整理できます。あわせて、自賠責保険への被害者請求のサポートや、訴訟によらない解決を図る裁判外紛争解決手続(ADR)の利用など、事案に応じた手続の選択も検討できます。
当事務所の代表弁護士は公認会計士の資格も有しており、傷害慰謝料に加えて、休業損害や逸失利益の算定で収入資料の検討が必要な場合、特に自営業者・会社役員の方で確定申告書や決算書の分析を要する場合にも、数字の面を踏まえて対応します(詳しくは「自営業・会社役員の休業損害と逸失利益の解説」をご覧ください)。弁護士に相談すれば増額が保証されるというものではありませんが、資料を確認することで、ご自身のケースの見通しと取りうる手続を整理できます。
提示された傷害慰謝料に納得できない方、示談書に署名する前に確認したい方は、診断書や提示書面をご用意のうえご相談ください。交通事故の初回のご相談は無料です(事前のご予約をお願いしています。事案により平日夜間・土日祝のご相談にも柔軟に対応します)。ご依頼いただく場合の費用は、見積りと委任契約書で明確にします。
よくある質問(FAQ)
傷害慰謝料はどの基準で計算すると一番高くなりますか。
一般には、弁護士基準(裁判基準)が最も高くなる傾向があります。自賠責保険基準が最も低く、任意保険基準はその中間とされることが多いです。ただし、最終的な金額はけがの内容や入通院の状況などの個別事情により異なります。
通院日数が少ないと傷害慰謝料は下がりますか。
影響することがあります。自賠責保険基準では実治療日数×2と治療期間の少ない方を用いるため、通院日数が少ないと対象日数が減ることがあります。弁護士基準でも、通院が長期で頻度が低い場合には実通院日数を基礎とする修正がなされることがあります。通院は主治医と相談のうえ、医学的に必要な頻度で継続することが基本です。
むちうちでも傷害慰謝料は請求できますか。
請求できる可能性があります。むちうちで他覚所見がない場合、弁護士基準では別表Ⅱで算定されることが一般的で、骨折などの場合(別表Ⅰ)より低い水準になります。画像所見や神経学的検査の結果など、診断内容が金額に影響するため、資料の確認が必要です。
主婦(主夫)や無職でも傷害慰謝料はもらえますか。
請求できます。傷害慰謝料は精神的苦痛に対する賠償であり、収入の有無や職業によって否定されるものではありません。お子さまや高齢の方も同様です。なお、家事従事者の休業損害は慰謝料とは別の費目として問題になります。
物損事故のままだと慰謝料は請求できませんか。
物損のみの事故では、慰謝料は原則として認められにくいのが実務の傾向です。事故でけがをしているのに物損事故として処理されている場合は、人身事故への切替えや診断書の提出を検討する必要があります。切替えが難しい場合でも、所定の書面の提出により賠償請求を進められることがあります。詳しくは「物損事故から人身事故への切替えの解説」をご覧ください。
傷害慰謝料の請求に期限(時効)はありますか。
あります。人身損害の損害賠償請求権は、原則として損害及び加害者を知った時から5年で時効になります(民法724条の2)。自賠責保険への被害者請求には別途の期限(傷害部分は原則として事故日から3年)もあります。起算点や時効の完成猶予・更新の判断は事案によるため、「交通事故の損害賠償請求権の時効の解説」もあわせてご確認ください。
保険会社の提示額はそのまま受け入れる必要がありますか。
そのまま受け入れる義務はありません。提示額が自賠責保険基準に近い水準にとどまっている場合など、資料を確認したうえで見直す余地が残っていることがあります。示談書に署名すると原則としてやり直せないため、署名前の確認をおすすめします。
弁護士費用特約がなくても相談できますか。
ご相談いただけます。当事務所では交通事故の初回のご相談を無料でお受けしており(事前予約制)、ご依頼いただくかどうかは、費用の見積りをご確認のうえでご判断いただけます。弁護士費用特約が使える場合は、保険会社が一定の範囲で弁護士費用を負担するため、まずはご自身やご家族の保険内容の確認をおすすめします(「弁護士費用特約を使う前に確認したい内容の解説」参照)。
まとめ
- 傷害慰謝料(入通院慰謝料)には、自賠責保険基準・任意保険基準・弁護士基準(裁判基準)の3つの基準があり、一般に弁護士基準が最も高くなる傾向があります。
- 自賠責保険基準は「日額4,300円 × 対象日数(治療期間と実治療日数×2の少ない方)」で計算し、傷害分は治療費等を含めて120万円が上限です。
- 弁護士基準は赤い本の別表Ⅰ・別表Ⅱに入通院期間を当てはめて算定し、1か月未満の端数の日割りや、長期通院の場合の実通院日数による修正などの運用があります。
- むちうちで他覚所見がない場合は別表Ⅱが用いられることが一般的で、別表の選択が金額に直結します。
- 提示額がどの基準によるものかの確認が見直しの出発点です。示談書への署名前に、診断書・通院記録・提示内訳を確認し、必要に応じて弁護士に相談することで、見通しと取りうる手続を整理できます。
神戸みらい法律会計事務所では、交通事故の傷害慰謝料に関するご相談を承っています。提示額の確認、症状固定や後遺障害等級認定の検討、被害者請求やADRの利用など、ご自身のケースに即した方針を一緒に整理します。交通事故の初回のご相談は無料です(事前予約制)。
監修者・執筆者
藤井 貴之(ふじい たかゆき)
弁護士・公認会計士/兵庫県弁護士会所属・日本公認会計士協会兵庫会所属
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士
交通事故(傷害慰謝料・後遺障害・休業損害・逸失利益等)、相続、債務整理、企業法務等を取り扱っています。交通事故では、立証資料を精査したうえで裁判実務上参照される基準を前提に各費目を検討し、必要に応じて被害者請求や裁判外紛争解決手続(ADR)の利用も検討します。法律と会計・税務の双方の視点から、収入資料の分析を要する休業損害・逸失利益の算定にも対応します。
所在地:兵庫県神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階
電話:078-797-5227(受付時間 9:00〜20:00)
参考資料(本文で参照した公的資料等)
本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。傷害慰謝料の金額は、けがの内容、治療経過、通院状況、過失割合、既往症その他の個別事情により異なります。実際のご対応にあたっては、最新の法令・基準・公式情報をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。記載の内容は作成時点(2026年7月)の情報に基づくものであり、その後の法令改正・基準改定等により変更される場合があります。

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