遷延性意識障害(植物状態)の将来介護費と生活費控除|算定の前提 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

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遷延性意識障害(植物状態)の将来介護費と生活費控除|算定の前提

事故から数か月が過ぎても、家族の意識が戻らない。医師からは遷延性意識障害と説明され、これから先ずっと介護が必要になると告げられた。そのようななかで、保険会社から損害計算書や示談案が届き、「将来介護費」「生活費控除」という見慣れない言葉が並んでいる。ご家族から、そのようなご相談をいただくことがあります。

このとき、多くのご家族が最初に直面するのは、次のような疑問です。

  • 将来の介護費用は、いつまでの分が認められるのか。
  • 家族が介護している期間の分も請求できるのか。
  • 保険会社の言う「生活費控除」とは、何を差し引く話なのか。
  • 生きているのに、亡くなった場合と同じ計算をされるのはなぜか。

この記事では、交通事故で遷延性意識障害が残った場合を前提に、将来介護費の算定で争点になりやすい点と、逸失利益や施設費との関係で問題になる生活費控除の考え方を整理します。結論の方向性を先に申し上げると、生活費控除は、将来介護費から一定割合を直接差し引くための概念ではありません。もっとも、そこにはいくつかの重要な留保があります。以下、順に説明します。

すでに保険会社から示談案や損害計算書を受け取っている場合は、署名される前に、日額、算定期間、係数、生活費控除の有無、費目の重複という五つの点をご確認ください。総額だけを見ていると、どの前提が争点になっているのかが分からないまま合意してしまうことがあります。

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遷延性意識障害の将来介護費と生活費控除|最初に確認したい四つのこと

細かい説明に入る前に、この記事全体の要点を整理します。いずれも個別の事情によって結論が変わる部分を含みますので、検討の出発点としてご覧ください。

将来介護費と生活費控除を検討するときの四つの出発点
確認したいこと 考え方の方向性 結論を左右する要素
将来介護費に決まった日額はあるか 一律の基準額はありません。介護の必要性、内容と時間、介護をする人、地域の費用水準を積み上げて検討します。 医療記録、介護記録、見積書、公的サービスの利用状況
いつまでの分が認められるか 症状固定時の年齢・性別に対応する平均余命が出発点です。遷延性意識障害であることだけを理由に期間を短くすることはできません。 最新の生命表、全身状態、主治医の意見、余命短縮を主張する側が出した医学的資料
生活費控除は将来介護費から引かれるのか 生活費控除は、本来、逸失利益の算定で問題になる概念です。将来介護費から一定割合を直接差し引くための概念ではありません。ただし、施設費や将来雑費に含まれる通常の生活費の扱いは、これとは別の問題として検討が必要です。 施設利用料の内訳、食費・居住費の明細、逸失利益での取扱いとの整合
示談案は何を見ればよいか 総額ではなく、日額、算定期間、中間利息控除の係数、控除項目、過失相殺、既払金という算定要素ごとに確認します。 損害計算書、後遺障害等級の認定結果、事故状況の資料、既払金の内訳

この記事で特に整理したいこと

「生活費控除」という言葉は、実務上、内容の異なる四つの問題に使われています。すなわち、逸失利益からの生活費控除施設費や将来雑費に含まれる通常生活費の取扱い公的給付の損益相殺中間利息控除です。この四つを混同したまま交渉すると、本来認められるべき費目まで減らされたり、逆に主張の焦点がぼやけたりします。後半で一つずつ分けて説明します。

遷延性意識障害と後遺障害等級|別表第一と限度額

用語の使い方と、診断は医師が行うこと

「遷延性意識障害」は、重い脳の損傷などにより意識障害が長期にわたって続いている状態を指す言葉として用いられています。一般には「植物状態」と呼ばれることもあり、検索の際にはこの語が使われることが少なくありませんが、賠償の場面で用いる用語としては「遷延性意識障害」を基本とするのが適切です。

遷延性意識障害は、脳死、昏睡、最小意識状態、高次脳機能障害と同じものではありません。これらは医学上区別されており、診断や今後の見通しの判断は、あくまで主治医が行います。ご家族が資料を整理する場面でも、医学的な評価そのものは診療録、看護記録、画像資料、意識状態やADLの評価資料といった記録に基づいて確認していくことになります。

常時介護と随時介護|別表第一の等級と、民事上の損害額との違い

自動車損害賠償保障法施行令の後遺障害等級表のうち、別表第一は「介護を要する後遺障害」を定めています。神経系統の機能もしくは精神(各級の第1号)または胸腹部臓器の機能(各級の第2号)に著しい障害を残し、常に介護を要するものが第1級、随時介護を要するものが第2級です。国土交通省が公表する自賠責保険の限度額は、介護を要する場合の第1級が4,000万円、第2級が3,000万円で、介護を要しない後遺障害を定めた別表第二は第1級3,000万円から第14級75万円までとされています。

ここで注意していただきたいのは、自賠責保険の限度額と、民事上の損害の総額は別のものだという点です。限度額は自賠責保険から支払われる金額の上限にすぎず、民法第709条以下に基づいて加害者側に請求できる損害の総額を意味しません。遷延性意識障害の事案では、将来介護費だけで自賠責の限度額を大きく超えることが少なくなく、超える部分は任意保険会社との交渉または訴訟によって請求していくことになります。

遷延性意識障害という診断名があれば当然に別表第一の第1級になる、というものではありません。等級は、常時介護または随時介護の必要性を含む具体的な状態を、後遺障害診断書、画像、診療録、看護記録などの認定資料に基づいて評価して決まります。また、平成14年に別表が改められる前の裁判例や、労災の障害等級では「第1級3号」といった別の号数表記が用いられています。資料によって等級の表記が異なる場合は、どの制度のどの時点の等級表によるものかをご確認ください。

遷延性意識障害の事案で、将来介護費はどう争われるか

算定の基本構造と、五つの争点

将来介護費の計算は、おおまかに次の構造で組み立てます。

一日当たりの相当な介護費用 × 365日 × 算定期間に対応する中間利息控除後の係数

介護体制が途中で変わる見込みがある場合には、期間ごとに区切って積み上げます。

したがって争点になるのは、主として、①介護の必要性があるか、②介護の内容と時間はどの程度か、③誰がどこで介護をするか、④一日当たりの相当額はいくらか、⑤算定期間は何年でどの係数を用いるか、の五点です。そのうえで、過失相殺、既払金、性質上控除の対象となる給付があるかを検討します。

遷延性意識障害の事案では、①と②はほとんど争いにならない一方、③④⑤と、後述する生活費控除が集中的に争われます。介護の中身については、体位交換の頻度、喀痰吸引の回数と時間帯、経管栄養の管理、排泄の介助、清拭や口腔ケア、関節拘縮予防のリハビリテーション、感染症への対応といった項目を、介護日誌や看護記録で具体的に示していくことになります。夜間対応の有無は拘束時間の評価に直結しますので、意識して記録を残しておくことをおすすめします。

近親者が介護している場合|現実の支出がなくても損害になり得ます

ご家族が無償で介護している場合、「実際にお金を払っていないのだから損害はないのではないか」と言われることがあります。しかし最高裁判所は、受傷のため付添看護を必要とした被害者について、付添看護をした者が近親者であるため現実に看護料の支払をせず、またはその支払請求を受けていない場合であっても、近親者としての付添看護料相当額の損害を被ったものとして加害者に賠償請求できると判断しています(最高裁判所第三小法廷昭和46年6月29日判決・民集25巻4号650頁)。同判決は、近親者が提供した労働は金銭的に評価できないものではなく、「肉親たるの身分関係に基因する恩恵の効果を加害者にまで及ぼすべきものではない」と述べています。

この判決は受傷後の付添看護料についての判断であり、症状固定後の将来介護費の日額や期間、職業介護への移行までを当然に導くものではありません。近親者介護の評価額は、介護の内容、一日の介護時間、夜間対応の有無、介護者の負担の程度によって個別に検討されます。

介護者が高齢になった後や体調を崩した後に誰が介護を担うのかは、遷延性意識障害の事案では避けて通れない問題です。実務上は、現在の近親者介護の期間と、その後の職業介護または施設介護の期間を分けて計算を組み立てることが検討されます。もっとも、介護者が一定の年齢に達すれば自動的に職業介護へ移行するという固定的な基準はありません。介護者の年齢、健康状態、就労状況、家族構成、介護を継続できる見込み、具体的な将来の介護計画を、資料に基づいて示していく必要があります。

在宅介護と施設介護|請求書の「内訳」が出発点になります

在宅であれば、近親者の介護、訪問看護、訪問介護、通所サービス、介護用品、住宅改造といった費目に分かれます。施設であれば、施設利用料という一つの請求書のなかに、介護の対価、医療的ケアの費用、食費、居住費などが含まれていることが通例です。

施設の請求書は、内訳の確認が特に重要です。総額をそのまま将来介護費として請求すると、事故がなくても生じたはずの食費や居住費の扱いをめぐって争いになります(後述の論点B)。逆に、施設に入所しているという理由だけで、ご家族が行っている面会時の介助や洗濯などの負担が一切評価されないというものでもありません。

医療記録、介護日誌、サービス利用の記録、施設や事業所の請求書、そして保険会社の損害計算書がそろうと、現在と将来の介護体制、そして算定の前提となっている数値を突き合わせて確認できます。資料がすべてそろっていない段階でも、何を集めればよいかを整理することはできます。

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算定期間|平均余命と、余命短縮の主張

「平均寿命」と「平均余命」は別のものです

算定期間は、原則として、症状固定時の被害者の年齢と性別に対応する平均余命を基礎に検討します。よく混同されますが、平均寿命は0歳の平均余命であり、たとえば30歳の方の残りの平均的な期間を示すものではありません。厚生労働省が公表している令和7年簡易生命表の概況によれば、令和7年の平均寿命は男性が81.35年、女性が87.33年ですが、これは0歳時点の数値です。実際の算定では、被害者の年齢に対応する平均余命を、公表時点で最新の生命表から確認する必要があります。

余命が短くなるという主張には、医学的資料が必要です

相手方から、「遷延性意識障害の場合は平均余命より短く見るべきである」という主張がされることがあります。しかし、遷延性意識障害であるという事実だけを理由に、平均余命より短い期間を当然の前提とすることはできません。余命の短縮を認めるには、当該被害者の状態に即した医学的な資料が必要です。

実際、千葉地方裁判所佐倉支部平成18年9月27日判決(平成16年(ワ)第31号)は、遷延性意識障害等の後遺障害が残った事案で、被告側が提出した意見書や論文が当該事案にどこまで及ぶかを個別に検討したうえでこれを採用せず、簡易生命表による平均余命を前提としました。他方で、すべての事案で平均余命までの期間が必ず認められるというものでもありません。感染症や褥瘡の予防を含む介護の状況、全身状態の安定性、医師の意見といった具体的な事情によって、判断は変わり得ます。

遷延性意識障害で「生活費控除」が問題になる四つの場面

ここからが、この記事の中心です。まず、そもそも生活費控除がどのような考え方に基づくのかを確認したうえで、内容の異なる四つの論点に分けて整理します。

出発点|生活費控除は「損益相殺」の考え方に基づいています

被害者が亡くなった場合の逸失利益では、収入を得ることができなくなる一方で、その方の生活費の支出もなくなることから、収入額から一定割合の生活費を控除して算定する取扱いが一般に行われています。

この控除がなぜ許されるのかについて、最高裁判所第二小法廷平成8年5月31日判決(民集50巻6号1323頁)は、交通事故の被害者が事故後に死亡した場合の後遺障害による損害額の算定について、「事故と被害者の死亡との間に相当因果関係がある場合に限り、死亡後の生活費を控除することができる」と判示し、その理由として、相当因果関係が認められない場合には「被害者が死亡により生活費の支出を必要としなくなったことは、損害の原因と同一原因により生じたものということができず、両者は損益相殺の法理又はその類推適用により控除すべき損失と利得との関係にない」と述べています。

ここが理解の鍵になります

生活費控除は、「生活費の支出を免れた」という利得があってはじめて問題になる控除です。逆に言えば、被害者が現実に生存して生活を続けている場合には、そもそも生活費の支出を免れていないのですから、控除の前提を欠くことになります。この視点をもって、以下の四つの論点を見分けてください。

論点A|生存する被害者の後遺障害逸失利益からの生活費控除

相手方から、「遷延性意識障害の場合は労働能力を全部失っており、実質的に死亡した場合と同じである」「自宅で療養するのであれば外食費や交際費の支出を免れる」といった理由で、逸失利益から生活費を控除すべきだと主張されることがあります。

この主張が交通事故の事案で正面から判断された例として、名古屋地方裁判所平成14年1月28日判決(平成12年(ワ)第2335号)があります。事故当時18歳の被害者に遷延性意識障害等の後遺障害が残り、常に介護を要する等級と認定され、労働能力を全部喪失したとされた事案です。同判決は、被告の生活費控除の主張について、次のとおり述べてこれを採用しませんでした。

被告は、原告Aが自宅における療養生活を継続するのであれば外食費、衣服代、交際費等の支出を免れることを理由に生活費の1割を控除すべきである旨主張するが、原告Aは、将来おむつ、医療品等の雑費、通院費用等、一般健常者とは異なる費目による出費が少なくないことが明らかであり、被告の前記主張は採用できない。

生存している以上、生活費の支出はなくならず、むしろ健常な方とは異なる費目の支出が生じている、という理解です。これは、前記の最高裁判決が示した「損益相殺の考え方」とも整合します。

もっとも、これは一つの下級審の判断であり、事案ごとに結論が分かれ得る領域です。「遷延性意識障害であれば必ず生活費控除はされない」「生活費控除の主張は必ず違法である」と断定することはできません。 実務上は、被害者が現に生活を続けて現実に支出があること、その支出が他の費目でどのように扱われているか、相手方の控除の根拠がどの費目のどの部分を対象としているのかを、資料で確認していくことになります。

論点B|将来雑費・施設費に含まれる「通常の生活費」の扱い

これは、論点Aとは別の問題です。施設利用料や将来雑費のなかには、食費、居住費、衣類、日用品といった、事故がなくても生じたはずの支出が含まれていることがあります。そこで、事故による追加の支出として相当因果関係が認められる範囲はどこまでか、他の費目と二重に計上されていないか、という形で検討されます。

重要なのは、論点Aと論点Bが表裏の関係にあるという点です。前記の名古屋地方裁判所の判決は、逸失利益から生活費を控除しない一方で、退院後将来にわたる雑費については、「別途認められる原告Aの逸失利益から支出されることが予想される生活費を著しく超える支出となるとの事実は認められず、またこれを超える部分については後遺障害慰謝料算定に当たり考慮する」として、独立の費目としては認めませんでした。逸失利益のなかに通常の生活費が含まれている以上、同じ生活費を将来雑費としても計上すれば二重取りになる、という整理です。

他方、千葉地方裁判所佐倉支部の前記判決は、将来雑費について、請求された年額のなかには「健常人の生活費としても必要であるものが相当数含まれている」として、事故と因果関係のある将来雑費をその約7割に相当する年額と認めました。同じ問題に対して、全額を認めない処理、一部を認める処理のいずれもあり得ます。いずれも当該事案の事実関係に基づく判断であり、一律の控除率を示したものではありません。

整理すると

生活費控除は、本来、逸失利益の算定において問題になる概念であり、将来介護費から一定割合を直接差し引くための概念ではありません。もっとも、施設費や将来雑費のように、介護に関する費目のなかに通常の生活費が混在している場合には、相当因果関係と二重計上の観点から、その部分の扱いを別途検討する必要があります。相手方の主張が、逸失利益の話をしているのか、費目の内訳の話をしているのかを、まず切り分けてください。

論点C|公的給付の損益相殺・損害の填補

介護保険の給付、障害福祉サービス、障害年金、NASVAの介護料といった公的な給付を賠償額から控除するかという問題も、生活費控除とは別の問題です。

この点は、給付の法的性質、控除の対象とされる損害項目との同質性、現実に支給がされているか、将来の給付が確実といえるか、実施機関の代位や求償の仕組みがあるかといった要素を確認して判断されます。給付の種類ごとに扱いが異なり得ますので、「公的給付は必ず全額控除される」「公的給付は一切控除されない」といった一般化はできません。実際に受給している給付については、決定通知、支給額の記録、利用計画、自己負担額の資料を保存しておいてください。

なお、介護保険は、65歳以上の方が第1号被保険者、40歳以上65歳未満の方が第2号被保険者とされ、第2号被保険者が給付を受けられるのは特定疾病に該当して要介護状態にある場合に限られます。若い被害者の場合には介護保険の利用が想定しにくく、障害福祉サービスが中心となることがあります。どの制度を利用できるかは、年齢や状態、お住まいの自治体の運用によって異なりますので、市区町村の窓口でご確認ください。

論点D|中間利息控除

将来発生する損害を一時金として現在価値に引き直すための中間利息控除も、生活費控除とは別の計算です。民法第722条第1項が準用する第417条の2により、損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率によって控除します。

法定利率は民法第404条第2項により年3パーセントとされ、同条第3項以下により3年ごとに見直される仕組みです。法務省の公表によれば、令和8年4月1日から令和11年3月31日までの期間についても年3パーセントで変わらないとされています(基準割合は年0.4パーセントと告示されています)。もっとも、適用される利率と基準時は事故日等によって決まります。前記の名古屋地方裁判所の判決も、平成7年に発生した事故の事案として年5分で中間利息を控除しており、旧法下の年5パーセントを前提とする古い係数表を現在の事案にそのまま用いることはできません

四つを見分けるための確認方法

「生活費控除」と呼ばれる四つの論点の区別と確認資料
論点 何を問題にしているか 主な確認資料
A 逸失利益からの生活費控除 生存する被害者の後遺障害逸失利益について、死亡事案と同様の生活費控除をするか 損害計算書の逸失利益欄、控除の根拠として示された資料、現実の生活費支出の資料
B 施設費・将来雑費中の通常生活費 介護に関する費目に含まれる、事故がなくても生じた支出をどう区分するか 施設利用料の内訳、食費・居住費の明細、介護用品の購入履歴、逸失利益での取扱い
C 公的給付の損益相殺 介護保険、障害福祉サービス、障害年金、NASVA介護料等を控除するか 各給付の決定通知、支給額の記録、利用計画、自己負担額の資料
D 中間利息控除 将来の損害を現在価値に引き直す計算 適用される法定利率、事故日、基準時、用いられた係数

示談案を確認するときは、相手方が主張する控除がこのいずれに当たるのかを特定し、同じ支出について二重に控除されていないか、逆に同じ支出を二つの費目で請求していないかを、損害計算書の各欄と手元の資料を突き合わせて確認してください。あわせて、過失相殺の割合と、既払金がどの段階で差し引かれているかも確認します。実務上は、損害の合計額から過失相殺をしたうえで既払金を充当する順序で計算されることが多く、この順序によって最終的な金額が変わります。

被害者が別の原因で亡くなった場合|介護費用と逸失利益で結論が分かれます

示談や訴訟の途中で、被害者が交通事故とは別の原因により亡くなることがあります。この場合、損害項目によって結論が分かれる点に注意が必要です。

事故後に別の原因で死亡した場合の取扱い(最高裁判所の判断)
損害項目 最高裁判所の判断 出典
将来介護費 事故のため介護を要する状態となった後に別の原因により死亡した場合、死亡後の期間に係る介護費用を当該交通事故による損害として請求することはできない。 第一小法廷平成11年12月20日判決(平成10年(オ)第583号・民集53巻9号2038頁)
後遺障害逸失利益 事故後に別の原因により死亡したとしても、事故の時点で死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮しない。 第一小法廷平成8年4月25日判決(民集50巻5号1221頁)
逸失利益からの生活費控除 事故と被害者の死亡との間に相当因果関係がある場合に限り、死亡後の生活費を控除することができる。 第二小法廷平成8年5月31日判決(民集50巻6号1323頁)

介護費用は、現実に支出を要しなくなれば損害として観念できないのに対し、逸失利益は事故の時点で発生したものとして扱われる、という考え方の違いによるものです。平成11年の判決には補足意見が付されており、事実審の口頭弁論終結の前に亡くなったか後かによって議論の前提が変わることも指摘されています。実際に問題となる場合には、個別に確認することをおすすめします。

一時金賠償と定期金賠償

将来の損害は、通常、中間利息を控除して現在価値に引き直した一時金として請求します。これに対し、将来の一定期間にわたって定期的に支払を受ける定期金賠償という方法もあります。定期金による賠償を命じた確定判決については、民事訴訟法第117条により、口頭弁論終結後に後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、判決の変更を求める訴えを提起することができるとされています。

最高裁判所第一小法廷令和2年7月9日判決(平成30年(受)第1856号・民集74巻4号1204頁)は、後遺障害による逸失利益が定期金による賠償の対象となり得ることと、その終期について判断したものです(事案は、事故当時4歳の被害者に高次脳機能障害が残り労働能力を全部喪失したというものでした)。将来介護費について判断したものではありません。「将来介護費の定期金賠償を認めた最高裁判決」といった説明を見かけることがありますが、同判決の判断対象は後遺障害逸失利益です。一時金と定期金のいずれを選択するかは、事案の内容、立証の見通し、ご家族の生活設計などを踏まえて検討する必要があり、定期金が常に有利であるとは限りません。

相手方から問題にされやすい主張と、確認しておきたい資料

相手方の主張例と、確認すべき事実・資料
相手方の主張例 確認すべき事実 確認資料
家族が介護しているので費用は発生していない 現に行われている介護の内容、時間、夜間対応の有無、家族の負担の程度 介護日誌、看護記録、訪問看護等の利用記録、家族の就労状況の資料
職業介護人の見積額は高すぎる その地域で現に必要となる費用の水準、必要な介護の内容と時間、医療的ケアの有無 複数事業所の見積書、契約書、料金表、医師の意見
遷延性意識障害なので余命は短い 全身状態の安定性、感染症・褥瘡の予防状況、主治医の見解、提出された意見書の射程 診療録、看護記録、主治医の意見書、公表時点で最新の生命表
実質は死亡と同じだから逸失利益から生活費を控除すべきである 現実の生活費の支出状況、他の費目での取扱い、控除の根拠として示された資料の内容 施設利用料の明細、日常の支出資料、損害計算書
施設費には食費や居住費が含まれているから全額は認められない 施設利用料の内訳、介護・医療的ケアの対価部分、逸失利益での生活費の扱いとの整合 施設との契約書、請求書、費用内訳表、損害計算書
公的給付を受けているからその分は控除される 給付の法的性質、対象となる損害項目、現実の支給の有無、将来給付の見込み 各給付の決定通知、支給実績、制度の公式案内
住宅改造費は家族も使うから全額は認められない 改造の必要性、被害者の介護に固有の部分、家族が受ける利便の程度、耐用年数 医師・作業療法士等の意見書、図面、見積書、改造前後の状況が分かる資料
被害者側にも過失がある 事故態様、信号の状況、速度、進路、目撃者の有無。本人が説明できないため客観的資料が重要になります 実況見分調書、ドライブレコーダー映像、防犯カメラ映像、車両の損傷状況、刑事記録

なお、住宅改造費について、前記の名古屋地方裁判所の判決は、洗面所・トイレ・浴室等の工事が被害者以外の家人の利便にも供することなどを理由に、請求額の一部に限って事故と相当因果関係のある損害と認めました。この点も、事案ごとの判断です。

NASVAの介護料・療護センターと、兵庫県内の状況

独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)は、自動車事故により脳、脊髄または胸腹部臓器を損傷し、重度の後遺障害のため、移動、食事および排泄など日常生活動作について常時または随時の介護が必要な状態の方を対象として、介護料を支給しています。支給の対象は、最重度(特Ⅰ種)、常時要介護(Ⅰ種)、随時要介護(Ⅱ種)といった区分に分けられています。療護施設への入院中や特別養護老人ホーム等への入所中など、支給の対象外となる場合もあります。

また、NASVAは、交通事故で脳が損傷され意識不明となり、重度の後遺障害(遷延性意識障害)に陥った被害者のうち、治療と常時の介護を必要とする方を対象として、療護センターと委託病床を設けています。入院の承認は、治療および介護の必要性、脱却の可能性等を総合的に判断して行われるとされ、入院期間はおおむね3年以内とされています。

兵庫県内には療護センターがありません。療護センターは宮城県・千葉県・岐阜県・岡山県の4か所に置かれ、そのほかに委託病床が設けられています。神戸市やその周辺にお住まいのご家族が利用を検討される場合、面会や移動の負担が生じやすく、入院期間の終了後にどこでどのような介護体制を組むのかを、早い段階から見通しておく必要があります。この見通しは、将来介護費の算定の前提そのものにも関わります。最新の設置状況と対象要件は、NASVAの公式サイトでご確認ください。

これらの給付や施設の利用と、加害者に対する損害賠償請求との関係は、前記の論点Cの問題です。

本人が示談できない場合に検討する成年後見

遷延性意識障害の被害者は、示談や委任の意思表示をすることができない状態にあります。そして、ご家族であるという理由だけで、当然に本人を代理する権限が生じるわけではありません。そのため、示談、弁護士への委任、賠償金の受領と管理を進めるために、成年後見の申立てを検討する必要が生じることがあります。

裁判所の案内によれば、成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などによって物事を判断する能力が十分ではない方について、本人の権利を守る人を選ぶことで本人を法律的に支援する制度であり、判断能力が欠けているのが通常の状態の方には後見、著しく不十分な方には保佐、不十分な方には補助という三つの類型が用意されています。

申立ての要否、選任される後見人、権限の範囲、手続に要する期間は、個別の事情によって異なります。賠償金が高額になる事案では、後見人の選任や賠償金の管理方法について家庭裁判所の判断が関係することもありますので、示談交渉の見通しとあわせて、早めに検討しておくことをおすすめします。なお、後見人が選任された場合でも、家族が介護を続けること自体が妨げられるわけではありません。

示談前チェックリスト

  • 後遺障害等級の認定結果と認定理由を受け取り、内容を確認したか。
  • 損害計算書で、将来介護費の日額または年額がいくらとされているかを確認したか。
  • 将来介護費の算定期間が何年とされ、どの生命表・どの年齢を前提としているかを確認したか。
  • 中間利息控除に用いられた法定利率と係数、その基準時(事故日)を確認したか。
  • 近親者介護の期間と職業介護の期間が分けられているか、その区切りの根拠を確認したか。
  • 相手方が「生活費控除」と述べている場合、それが逸失利益の話か、費目の内訳の話か、公的給付の話かを特定したか。
  • 逸失利益で生活費が控除されていないのに、将来雑費でも通常の生活費が計上されていないか(二重計上)を確認したか。
  • 施設利用料について、介護・医療的ケアの対価部分と食費・居住費の部分の内訳資料を取得したか。
  • 過失相殺の割合と、その根拠となる事故態様の資料を確認したか。
  • 既払金がどの段階で差し引かれているか(過失相殺の前か後か)を確認したか。
  • 公的給付の受給状況と、控除の対象とされている項目を確認したか。
  • 介護日誌、看護記録、見積書など、日額と期間を裏付ける資料を保存しているか。
  • 本人に代わって示談する権限の有無(成年後見の要否)を確認したか。
  • 示談書の清算条項によって、将来の治療費や介護費まで含めて清算されることにならないかを確認したか。
  • ご自身やご家族の自動車保険に弁護士費用特約が付いていないかを確認したか。

弁護士へ相談するタイミング

ご相談のタイミングとして多いのは、後遺障害等級の認定結果を受け取った後、または保険会社から示談案を受け取った後です。もっとも、遷延性意識障害の事案では、それより前の段階でも検討できることがあります。

  • 入院中・症状固定前 どのような記録を残し、どの資料を取り寄せておくとよいかを整理できます。介護日誌や夜間対応の記録、事故態様に関する客観的資料は、後から作り直すことができません。
  • 後遺障害の申請前 常時介護または随時介護の必要性を示す資料がそろっているかを確認できます。
  • 示談案の受領後・署名前 日額、期間、係数、控除項目、過失相殺、既払金という算定要素ごとに、相手方の前提を確認できます。
  • 成年後見の検討時 示談交渉の進め方とあわせて、手続の順序を整理できます。

弁護士に相談することで賠償額が増えることが約束されるわけではありません。しかし、資料を確認したうえで、どの前提が争点になっているのか、どの資料を追加すれば主張を裏付けられるのかを整理することはできます。結論は個別事情により異なりますので、まずは手元の資料をご確認ください。

よくある質問

遷延性意識障害であれば、必ず後遺障害の第1級になりますか。

診断名だけで等級が決まるものではありません。自動車損害賠償保障法施行令の別表第一は、常に介護を要するものを第1級、随時介護を要するものを第2級としており、介護の必要性を含む具体的な状態を、後遺障害診断書、画像、診療録、看護記録などの資料に基づいて評価して認定されます。等級の見通しは、資料を確認したうえで判断する必要があります。

家族が介護している場合でも、介護費を請求できますか。

最高裁判所は、近親者が付添看護をしたため現実に看護料を支払っていない場合でも、近親者としての付添看護料相当額の損害を被ったものとして賠償請求できると判断しています(昭和46年6月29日判決)。ただし、これは受傷後の付添看護についての判断で、症状固定後の将来介護費の金額や期間が当然に決まるわけではありません。介護の内容、時間、夜間対応の有無を記録で示すことが重要です。なお、介護のために近親者が仕事を休んだ場合の休業損害と、同じ時間帯の近親者介護費とを単純に両方積み上げることはできません。

親が高齢になった後の職業介護費も請求できますか。

現在の近親者介護の期間と、その後の職業介護または施設介護の期間を分けて算定することが検討されます。ただし、介護者が一定の年齢に達すれば自動的に職業介護へ移行するという固定的な基準はありません。介護者の年齢、健康状態、就労状況、家族構成、介護を継続できる見込み、具体的な将来の介護計画といった事情を、資料に基づいて示していくことになります。

将来介護費は平均余命まで認められますか。

算定期間は、公表時点で最新の生命表による平均余命を基礎に検討されます。遷延性意識障害であるという事実だけを理由に平均余命より短い期間を当然の前提とすることはできず、余命の短縮を認めるには当該被害者に即した医学的資料が必要です。他方で、すべての事案で平均余命まで必ず認められるというものでもありません。全身状態や介護の状況によって判断は変わり得ます。

生きているのに、亡くなった場合と同じように生活費を控除されるのですか。

生活費控除は、生活費の支出を免れたという事情があってはじめて問題になる控除です。最高裁判所も、死亡後の生活費の控除を損益相殺の法理との関係で説明しています。生存して生活を続けている被害者について加害者側が生活費控除を主張した事案で、これを採用しなかった裁判例もあります。もっとも、「必ず控除されない」と断定できるものではなく、現実の支出状況や他の費目での取扱いを資料で確認したうえで検討する必要があります。

施設の食費や居住費も、すべて将来介護費になりますか。

施設利用料には、介護や医療的ケアの対価だけでなく、事故がなくても生じたはずの食費、居住費、日用品費が含まれていることがあります。そのため、事故による追加の支出として相当因果関係が認められる範囲はどこまでか、逸失利益のなかで生活費がどう扱われているかとの整合はとれているか、が検討されます。一律の割合で機械的に決まるものではありませんので、施設との契約書や請求書の内訳を確認することが出発点になります。

示談の途中で本人が別の病気で亡くなった場合、それまでの請求はどうなりますか。

損害項目によって結論が分かれます。最高裁判所は、事故のため介護を要する状態となった後に別の原因で死亡した場合、死亡後の期間に係る介護費用は請求できないとする一方、後遺障害逸失利益については、特段の事情がない限り死亡の事実を就労可能期間の認定上考慮しないとしています。死亡の時期が事実審の口頭弁論終結の前か後かによっても議論の前提が変わりますので、個別の確認が必要です。

本人が意思表示できない場合、家族が示談できますか。

ご家族であるという理由だけで、当然に本人を代理する権限が生じるわけではありません。示談、弁護士への委任、賠償金の受領と管理のために、成年後見の申立てを検討する必要が生じることがあります。申立ての要否、権限の範囲、手続に要する期間は個別の事情によって異なりますので、示談交渉の見通しとあわせて早めに確認しておくことをおすすめします。

まとめ

  • 将来介護費は、一日当たりの相当額、算定期間、中間利息控除後の係数を積み上げて算定します。一律の日額はありません。
  • 近親者が無償で介護している場合でも、付添看護料相当額の損害が認められ得ることを最高裁判所が示しています。ただし将来の日額・期間は個別の立証によります。
  • 算定期間は、公表時点で最新の生命表による平均余命が出発点です。余命短縮の主張には医学的資料が必要です。
  • 生活費控除は「生活費の支出を免れた」という利得を前提とする控除であり、将来介護費から一定割合を直接差し引くための概念ではありません
  • ただし、施設費・将来雑費に含まれる通常の生活費、公的給付の損益相殺、中間利息控除は、それぞれ別の問題です。四つを分けて検討してください。
  • 逸失利益で生活費を控除しないことと、将来雑費で通常生活費を計上しないことは表裏の関係にあります。二重計上・二重控除の両方を確認してください。
  • 示談案は、総額ではなく、日額、期間、係数、控除項目、過失相殺、既払金という算定要素ごとに確認します。
  • 介護日誌、看護記録、費用の内訳資料、事故態様の客観的資料は、後から作り直せません。早い段階から保存してください。

後遺障害等級の認定結果、示談案や損害計算書、介護日誌、施設や事業所の請求書・領収書、職業介護人や施設の見積書などをお持ちいただければ、将来介護費の算定の前提となっている日額、期間、係数、控除項目を一つずつ確認し、対応の方針を検討できます。資料がすべてそろっていない段階でも、今後どの資料を集めればよいかを整理することはできます。当事務所では、交通事故について初回のご相談を無料でお受けしています(事前のご予約をお願いしています。)。ご自身やご家族の自動車保険に弁護士費用特約が付いている場合は、その利用についてもご相談ください。

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監修者・執筆者

弁護士・公認会計士 藤井 貴之(ふじい たかゆき)
兵庫県弁護士会所属/日本公認会計士協会兵庫会所属
神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士

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参考資料(本文で参照した法令・裁判例・公的資料)

本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。将来介護費の日額、算定期間、生活費控除の可否、公的給付の取扱いは、被害者の状態、介護の内容、介護体制、そろえられた資料、事故日に適用される法制度などの個別事情により結論が異なります。本文で紹介した裁判例は、いずれもその事案の事実関係と当時の法制度に基づく判断であり、現在の一律の基準として転用できるものではありません。医学的な診断および今後の見通しの判断は主治医が行います。制度、金額および運用は改定されることがありますので、実際のご対応にあたっては、最新の法令・公式情報をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。記載の内容は令和8年9月時点で確認した情報に基づきます。

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