横断歩道を渡っていて車にはねられたのに、保険会社から「歩行者にも過失があります」と言われ、提示された過失割合に納得できない。そうした場面で、提示された割合をそのまま受け入れてよいのか、どの資料を確認すればよいのか、迷われる方は少なくありません。
この記事では、横断歩道上で自動車・バイク・自転車などと衝突した歩行者の方やそのご家族に向けて、過失割合の基本的な考え方、結論を左右する確認ポイント、保険会社の提示を検討するための資料、示談前に確認したいことを整理します。過失割合や賠償の結論は、信号、横断方法、車両の動き、証拠関係などの個別事情により異なります。本記事は一般的な情報であり、最終的な見通しは資料を確認したうえで個別に判断する必要があります。
この記事で分かること
- 横断歩道は歩行者優先であること、運転者にどのような義務があるか
- 横断歩道上の事故でも歩行者側の過失が問題になり得る場面
- 保険会社から提示された過失割合を確認するときのポイント
- 過失割合を検討するために集めておきたい資料
- 示談書に署名する前に確認したいこと、弁護士に相談するタイミング
示談書への署名・過失割合への回答の前に
提示された過失割合は、前提となった事故の状況によって評価が変わることがあります。事故状況図やドライブレコーダー、実況見分調書などの資料を確認することで、今後の対応方針を整理しやすくなります。
Contents
横断歩道上の歩行者事故でまず確認したい結論
横断歩道は歩行者が優先される場所です。運転者には、横断歩道の手前で停止できるよう減速する義務や、横断中・横断しようとする歩行者がいるときに一時停止して通行を妨げない義務があります(道路交通法第38条)。
もっとも、横断歩道上の事故であれば歩行者側の過失が必ず0になるわけではありません。信号の有無と色、歩行者が横断歩道上にいたのか、横断を始めたときに車両がどこにいたのか、車両が直進か右左折か、夜間・雨天などの状況により、過失割合の結論は変わります。
そのため、保険会社が提示する過失割合が当然に正しいとは限りません。提示の前提となった事故の状況を、交通事故証明書、事故発生状況報告書、実況見分調書、ドライブレコーダー、防犯カメラ、現場写真、信号サイクル資料、診断書などの資料で確認することが大切です。示談書に署名する前、または過失割合について回答する前に資料を整理しておくことで、今後の対応方針を検討しやすくなります。
過失割合とは(過失相殺の基本)
交通事故の被害者は、加害者に対して損害の賠償を求めることができます(民法第709条)。自動車による人身事故では、運行供用者の責任を定めた自動車損害賠償保障法第3条も問題になります。
一方で、被害者側にも事故の発生や損害の拡大について落ち度(過失)があるときは、その分を考慮して賠償額が調整されることがあります。これを過失相殺といい、民法第722条第2項に定めがあります。「過失割合」とは、事故についての当事者それぞれの落ち度の割合を示すもので、賠償額の計算に影響します。
過失割合は、最終的には示談交渉、ADR(裁判外紛争解決手続)、訴訟などで争点になることがあります。なお、損害賠償を請求できる期間には制限があり、人の生命・身体を害する不法行為については、損害および加害者を知った時から5年とされています(民法第724条の2)。起算点や例外の扱いは事案により異なりますので、早めに確認することが大切です。
横断歩道では運転者にどのような義務があるか
道路交通法第38条第1項は、運転者に対し、横断歩道に近づくときは、横断しようとする歩行者がいないことが明らかな場合を除き、その手前で停止できる速度で進行することを求めています。そして、横断中または横断しようとする歩行者がいるときは、横断歩道の直前で一時停止し、その通行を妨げてはならないとされています。
同条第2項は、横断歩道の手前で停止している車のそばを通って前に出ようとするときは、その前に一時停止しなければならないと定めています。同条第3項は、横断歩道とその手前から30メートル以内では、前を走る車を追い越したり追い抜いたりしてはならないとしています。横断歩道のない交差点で歩行者が横断しているときも、その通行を妨げてはならないとされています(第38条の2)。あわせて、運転者には安全運転の義務があります(第70条)。
歩行者の側にも横断のルールがあります。横断歩道や信号機のある交差点が近くにあるときはそこで横断すること(第12条)、車両の直前・直後での横断や、横断が禁止された場所での横断をしないこと(第13条)などです。これらのルールに反する横断であったかどうかは、過失割合を検討するうえで考慮されることがあります。
横断歩道上の事故でも過失割合が問題になる場面
横断歩道は歩行者優先ですが、次のような場面では、歩行者側の過失の有無や程度が争点になることがあります。
- 信号機がある横断歩道で、歩行者側・車両側それぞれの信号が何色だったかが問題になる場合
- 信号機のない横断歩道で、横断を始めたときに車両がどこにいたかが問題になる場合
- 交差点を右折・左折する車両と、横断中の歩行者が衝突した場合
- 衝突地点が横断歩道上か、横断歩道から外れていたかで評価が変わる場合
- 走行中の車両の直前・直後を横断した、斜めに横断した、夜間で視認が難しかったなどの事情がある場合
- 歩行者が児童・高齢者・身体に障害がある方であるなど、保護の必要性が考慮される場合
たとえば、信号機のある横断歩道を歩行者が青信号で渡っていたときは、歩行者側の過失は基本的に小さくなる傾向があります。一方、赤信号での横断や、車両の直前直後の横断などの事情があると、歩行者側にも一定の過失が考慮されることがあります。実務ではこうした事故態様の類型ごとに目安となる基準(別冊判例タイムズなど)が参照されますが、同じ類型でも具体的な事情により結論は変わります。実際の当てはめには資料の確認が必要です。
過失割合を左右する主な確認ポイント
過失割合を検討する際に確認したい主なポイントと、確認のために役立つ資料の例は次のとおりです。実際にどの資料が得られるかは事案により異なります。
| 確認項目 | 確認する内容 | 主な資料 |
|---|---|---|
| 信号の有無と色 | 事故時の歩行者・車両の信号表示、信号の切り替わり | 実況見分調書、信号サイクル資料、防犯カメラ映像 |
| 横断していた位置 | 横断歩道上か、外か、横断歩道のどのあたりか | 実況見分調書、現場見取図、現場写真、ドライブレコーダー |
| 車両の進行状況 | 直進・右折・左折・追越し・追抜きなど | 実況見分調書、ドライブレコーダー、供述調書 |
| 横断開始時の車両位置 | 渡り始めたとき、車両がどこにいたか | ドライブレコーダー、防犯カメラ、供述調書 |
| 速度・前方不注視等 | 速度、わき見、スマートフォン使用、飲酒など | 実況見分調書、ドライブレコーダー、刑事記録 |
| 視認性・道路環境 | 夜間・雨天、見通し、街灯、道路幅、交通量 | 実況見分調書、現場写真 |
| 歩行者側の事情 | 児童・高齢者・身体に障害がある方かどうかなど | 診断書、本人・家族の説明 |
保険会社から提示された過失割合を確認するポイント
保険会社から過失割合を提示されたときは、その割合がどの事故の状況を前提にしているかを確認することが大切です。次の点を点検してみてください。
- 提示された割合が、どの事故類型・どの基準を前提としているか
- 事故状況図に描かれた信号、車両の進路、衝突位置などが実際と合っているか
- 歩行者側の行動(横断位置や横断方法)が、事実と異なって記載されていないか
- 速度、停止位置、ブレーキ痕、衝突地点などの前提に裏付けがあるか
前提となる事故の状況の認識が違えば、過失割合の評価も変わり得ます。提示内容に疑問があるときは、署名・回答の前に根拠となる資料を確認しましょう。
過失割合を検討するために集めたい資料
過失割合を検討するために確認したい主な資料を整理します。すべてが必ず手に入るとは限らず、取得の可否や時期は事案により異なります。
| 資料 | 主に確認できること | 入手先・留意点 |
|---|---|---|
| 交通事故証明書 | 事故の発生日時・場所・当事者などの事実 | 自動車安全運転センター。過失割合は記載されません |
| 事故発生状況報告書 | 当事者が記載した事故状況の説明 | 保険会社に提出。記載内容の正確性を確認 |
| 実況見分調書 | 警察の現場見分による位置関係・状況 | 刑事記録。取得の可否・時期は事案により異なる |
| 現場見取図 | 衝突地点、停止位置などの図面 | 実況見分調書に含まれることが多い |
| 供述調書 | 当事者・目撃者の供述 | 刑事記録。取得の可否は事案により異なる |
| ドライブレコーダー映像 | 車両側から見た事故の経過 | 早期の保全が重要。上書き・消去に注意 |
| 防犯カメラ映像 | 第三者の視点から見た事故状況 | 保存期間が短いことが多く早期確認が必要 |
| 現場写真 | 路面状況、信号、見通しなど | 自分で撮影したもの、または捜査資料 |
| 信号サイクル資料 | 信号の切り替わりの時間関係 | 警察・公安委員会など。取得は事案による |
| 保険会社の提示書面 | 過失割合・賠償額の根拠 | 前提となる事故の状況を確認 |
| 診断書・診療報酬明細書 | 受傷内容、治療経過 | 医療機関。後遺障害・休業損害とも関係 |
| 休業損害証明書・収入資料 | 休業日数、減収 | 勤務先・確定申告書など |
| 自動車保険証券等 | 弁護士費用特約の有無 | 保険証券、アプリ、代理店で確認 |
資料ごとに確認したいこと
交通事故証明書は、事故が起きたという事実を確認するための書面であり、過失割合そのものは記載されません。過失割合を検討するには、実況見分調書やドライブレコーダー、防犯カメラなど、事故の経過が分かる資料が重要になります。
映像は時間の経過とともに上書き・消去されることがあります。ドライブレコーダーや防犯カメラの映像は、できるだけ早く保全することが大切です。なお、刑事記録の取得の可否や時期は、捜査・処分の状況により異なります。
資料の見方を一緒に整理したい方へ
どの資料から確認すべきか、提示された割合の前提に問題がないかを整理したいときは、資料をお持ちのうえでご相談をご検討ください。事案により結論は異なります。
示談書に署名する前に確認したいこと
示談は当事者間の最終的な合意であり、いったん成立すると、後から内容を覆すことは容易ではありません。署名の前に、次の点を確認しておくことをおすすめします。
- 過失割合の根拠資料を確認したか
- 慰謝料、治療費、休業損害、通院交通費の算定根拠を確認したか
- 後遺障害の有無や等級認定の見込みを確認したか
- 将来の追加請求が難しくなる可能性を理解したか
- 不明点を残したまま署名しようとしていないか
- 弁護士費用特約が使えるかを確認したか
弁護士に相談するタイミング
弁護士に相談すれば必ず過失割合が変わる、必ず賠償額が増える、というものではありません。もっとも、資料を整理し、提示内容の前提を確認し、今後の対応方針を検討する材料を整えることはできます。次のような場面は、相談を検討するひとつの目安です。
- 保険会社から過失割合を提示されたとき
- 歩行者にも過失があると言われたとき
- ドライブレコーダーや防犯カメラの確認・保全が必要なとき
- 治療費の打ち切りを打診されたとき
- 症状が残っているとき
- 示談書への署名を求められたとき
弁護士費用特約を確認しましょう
自動車保険などに付帯する弁護士費用特約を利用できる場合があります。利用の条件、対象となる方、上限額は保険契約により異なります。ご自身の契約だけでなく、ご家族の契約で使える場合もあります。保険証券、保険会社のアプリ、代理店などで確認してみてください。費用に関する具体的な取扱いは、弁護士費用を確認するページや保険契約の内容をご確認ください。
よくある質問
- 横断歩道上の事故なら、歩行者側の過失は必ず0ですか?
- 必ず0になるとは限りません。横断歩道は歩行者優先ですが、信号の色、横断の方法、衝突した位置、車両の動きなどにより、歩行者側にも過失が考慮されることがあります。具体的な結論は資料の確認が必要で、事案により異なります。
- 保険会社から歩行者にも過失があると言われました。従う必要がありますか?
- 提示された過失割合が当然に正しいとは限りません。まずは、その割合がどの事故の状況を前提としているか、事故状況図や信号、横断位置の記載が事実と合っているかを確認しましょう。署名・回答の前に根拠資料を確認することをおすすめします。
- 交通事故証明書だけで過失割合は分かりますか?
- 交通事故証明書は、事故が起きたという事実を確認する書面で、過失割合は記載されません。過失割合の検討には、実況見分調書やドライブレコーダー、防犯カメラなど、事故の経過が分かる資料が重要になります。
- ドライブレコーダーがない場合でも過失割合を争えますか?
- 防犯カメラの映像、実況見分調書、目撃者の供述、現場の状況など、ほかの資料から検討できる場合があります。得られる資料は事案により異なりますので、何が確認できるかを早めに整理することが大切です。
- 防犯カメラの映像はどうやって確認しますか?
- 映像は保存期間が短いことが多く、上書きや消去の前に早めに保全することが重要です。設置者・管理者への確認や保全の依頼などの方法がありますが、対応の可否や手続は設置場所や事案により異なります。
- 示談書に署名した後でも過失割合を争えますか?
- 示談は最終的な合意であり、いったん成立すると後から覆すことは容易ではありません。署名の前に過失割合や賠償項目を確認しておくことが大切です。例外的に争える事情があるかどうかは、個別の状況により異なります。
- 弁護士費用特約は歩行者事故でも使えますか?
- 利用できる場合がありますが、条件や対象者、上限額は保険契約により異なります。ご自身だけでなくご家族の契約で使えることもあります。保険証券やアプリ、代理店でご確認ください。
- 弁護士に相談するときは何を持参すればよいですか?
- 交通事故証明書、保険会社からの提示書面、診断書、事故の状況が分かる図や写真、ドライブレコーダーの映像、保険証券などがあると、状況を整理しやすくなります。お手元にあるものをお持ちください。
まとめ
- 横断歩道は歩行者優先であり、運転者には減速・一時停止などの義務があります(道路交通法第38条)。
- 横断歩道上の事故でも、歩行者側の過失が必ず0になるとは限らず、信号・横断方法・車両の動き・状況により結論は変わります。
- 保険会社の提示割合は、前提となる事故の状況を資料で確認することが大切です。
- 実況見分調書やドライブレコーダー、防犯カメラなどは早めに確認・保全しましょう。
- 示談書への署名・過失割合への回答の前に、資料を整理して方針を検討することをおすすめします。
横断歩道上の事故で過失割合に納得できない方へ
神戸みらい法律会計事務所では、交通事故の過失割合、慰謝料、休業損害、後遺障害、保険会社への対応についてのご相談を受け付けています。事案により結論は異なりますので、お手元の資料をご用意のうえご相談をご検討ください。
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お電話でのお問い合わせ:078-797-5227へ電話する
監修者・執筆者
- 弁護士名:藤井貴之
- 所属弁護士会:兵庫県弁護士会
- 資格:弁護士・公認会計士
- 取扱分野:交通事故 ほか
監修者の詳細は弁護士紹介を見るページをご確認ください。

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