神戸で靴やケミカルシューズ、港湾物流、機械や金型などのものづくりに携わってこられた会社の多くは、創業から二代、三代にわたって地域の取引先や職人とともに事業を続けてこられました。その家業をいよいよ次の世代へ引き継ごうとするとき、株式のことだけ、相続のことだけ、あるいは借入や保証のことだけを別々に進めてしまうと、後になって思わぬ問題が表面化することがあります。
この記事では、同族会社・非上場会社の承継準備として、株式の集約、経営者保証(個人保証)の整理、親族や元役員に分散した株式への対応、そして決算書や借入・保証関係の資料整理を、できるだけ横断的に確認していきます。読み終えたときに、何を準備し、どの順番で進め、誰に相談すればよいかの見取り図が持てる状態を目指します。なお、株式評価額や税負担、税制の適用可否といった税務上の判断、保証を見直せるかどうかの最終的な結論は、会社の状況や金融機関・関係機関との協議により異なります。本記事は一般的な整理であり、個別の結論をお約束するものではありません。
株主名簿、定款、決算書、借入や保証に関する資料を確認することで、承継準備をどの順番で進めればよいかを整理しやすくなります。承継の準備段階での論点整理について相談したい方は、次のフォームからお問い合わせください。
Contents
結論|承継準備は「株式・保証・資料」を同時に確認する
結論から申し上げると、家業の承継は、株式・経営者保証・財務資料・親族説明という複数の要素が互いに影響し合うため、いずれか一つだけを先に進めるのではなく、全体像を確認してから順序を決めることが大切です。たとえば、後継者へ株式を集約しても経営者保証が先代に残ったままになっていたり、保証の見直しを金融機関に相談しようとしても財務資料が整理されていなかったり、という状態は珍しくありません。
承継準備で同時に確認したい五つの要素は、互いに連動しています。株式の状態は税務や資金、遺留分と結び付き、経営者保証は財務状況や金融機関との協議に左右され、親族への説明はこれら全体の合意形成を支えます。
| 確認する要素 | 主に確認する内容 | 連動しやすい論点 |
|---|---|---|
| 株式 | 株主構成、議決権、譲渡制限、株主名簿、名義株、相続未了株式 | 税務、資金、遺留分、親族関係 |
| 経営者保証(個人保証) | 借入、保証人、担保、根保証、信用保証協会付き融資の状況 | 会社の財務状況、金融機関との協議 |
| 分散株主 | 親族株主・元役員株主の有無、過去の経緯、連絡可能性 | 会社法上の手続、交渉、定款 |
| 財務資料 | 決算書、試算表、資金繰り表、借入・担保・保証の一覧 | 金融機関への説明、株価評価、税務 |
| 親族説明 | 後継者以外の相続人や株主への説明、合意の記録 | 遺留分、株式集約、将来の紛争予防 |
基礎知識|同族会社の承継で押さえる用語
同族会社・非上場株式・議決権
同族会社とは、一般に、少数の親族や関係者が株式の多くを保有している会社を指します。非上場会社の株式は市場で売買されていないため、価格や評価の考え方が上場株式とは異なります。会社の重要な意思決定は、株主総会での議決権を通じて行われるため、誰がどれだけの議決権を持っているかは、承継後の経営の安定に直結します。後継者へ経営を引き継ぐ際には、株式(議決権)をどのように集約するかが論点になります。
経営者保証(個人保証)とは
経営者保証(個人保証)とは、会社が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が会社の連帯保証人となることをいいます。会社が返済できなくなった場合に、経営者個人が会社に代わって返済を求められる仕組みです。経営者保証には資金調達を円滑にする面がある一方、思い切った事業展開や円滑な事業承継を妨げる要因になり得るとも指摘されてきました。こうした背景から、経営者保証に依存しない融資慣行を広げるための考え方が整理されてきています。詳しくは後半で扱います。
分散株主・名義株・相続未了株式
長く続いた家業では、過去の経緯から、親族や元役員などに株式が分散していることがあります。また、設立当時の事情で実際の出資者と株主名簿上の名義が一致しない「名義株」や、株主が亡くなったまま相続手続が済んでいない「相続未了株式」が残っていることもあります。これらは、承継のときに権利関係の確認や整理が必要になることがあるため、早めに状況を把握しておくことが望まれます。
承継準備の進め方|確認の順序
承継準備は、いきなり株式を動かしたり金融機関に相談したりするのではなく、まず現状を確認することから始めると整理しやすくなります。一般的な確認の順序は、おおむね次のとおりです。順序や進め方は会社の状況により変わります。
①株主構成と株式の状態を確認する
株主名簿、定款、登記事項証明書を確認し、現在の株主と議決権の状況、譲渡制限の有無、株券発行会社かどうかを把握します。あわせて、名義株や相続未了株式、過去の株式の移動に関する議事録や契約書の有無も確認します。ここが整理できていないと、後の集約や交渉の前提が定まりません。
②借入・担保・保証の状況を確認する
借入一覧、返済予定表、担保一覧、保証契約書を確認し、どの借入に誰が保証人として付いているか、根保証や信用保証協会付き融資の状況はどうかを整理します。決算書、試算表、資金繰り表とあわせて確認することで、会社の財務状況と保証の関係が見えやすくなります。役員貸付金・役員借入金や関連会社との取引など、会社と経営者個人の資金が区別しにくい部分があれば、ここで把握しておきます。
③金融機関・親族への説明資料を整える
株式と保証の現状が整理できたら、金融機関への承継の相談や、後継者以外の相続人・株主への説明に向けて、説明資料を整えていきます。説明した内容や合意した事項は、議事録、合意書、契約書、遺言書、株主名簿などの形で記録に残しておくことが、将来の認識の食い違いを防ぐうえで役立ちます。
株式と経営者保証は、別々に進めると後から問題が表面化することがあります。株主名簿・定款・決算書・借入・保証の資料を確認したうえで、承継準備の進め方を一緒に整理できます。
株式の整理|集約の選択肢と注意点
後継者へ株式(議決権)を集約する方法には、生前贈与、売買、遺言・遺贈、死因贈与、会社による自己株式の取得、種類株式の活用など、複数の選択肢があります。どの方法が適しているかは、株主構成、定款の定め、税務、資金、遺留分、親族関係などにより異なり、一つに決め打ちできるものではありません。
親族や元役員に分散した株式の買取りや、少数株主への対応には、会社法上の手続や交渉が関係します。手続の具体的な要件や進め方は事案により異なるため、本記事では概観にとどめます。少数株主・分散株主の整理については、関連コラムや個別のご相談で確認することをおすすめします。
注意したいのは、株式の整理は税務や資金繰りと連動するという点です。たとえば、株式をどの方法で移転するかによって、想定される税務上の取扱いや必要な資金が変わり得ます。非上場株式の評価額、贈与税・相続税、法人版事業承継税制の適用可否といった税務上の判断は、本記事では結論をお示しできません。これらは、税理士、公認会計士、認定経営革新等支援機関などの確認が必要です。事業承継に関する税制には提出期限や適用期限が定められており、改正によって内容が変わることがあるため、検討する際は最新の取扱いを確認してください。
経営者保証(個人保証)の整理|考え方と進め方
後継者が事業を引き継ぐにあたって、先代と同じように会社の借入の個人保証まで引き継ぐことに不安を感じるのは自然なことです。この点については、経営者保証に依存しない融資慣行を広げるための考え方として、「経営者保証に関するガイドライン」や、事業承継の場面に焦点を当てたその特則が整理されています。
ガイドラインは、中小企業・経営者・金融機関が自発的に尊重することが期待される自主的なルールという位置付けで、法律のような拘束力があるものではありません。そのため、保証を見直すかどうかの最終的な判断は金融機関に委ねられます。事業承継時の特則では、原則として前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めない取扱いや、後継者との保証契約にあたって保証の必要性を慎重かつ柔軟に判断することなどの考え方が示されていますが、例外もあり、個別の事情によって結論は変わります。
近年は、金融機関が経営者保証を求める際に、保証が必要となる理由や、どのような改善をすれば見直しの可能性が高まるかについて、経営者側が説明を求めやすくなる方向で運用が整理されてきています。会社の財務状況や、法人と個人の資産・資金の分離の状況、財務基盤の見通しなどを資料で示せるよう準備しておくことが、協議の出発点になります。
したがって、経営者保証は「必ず外せる」ものでも「外せない」ものでもなく、会社の財務状況の整理と金融機関との協議を通じて、見直しの余地があるかを検討していくものと考えるのが実務的です。先代の保証が残っている場合や、後継者が新たに保証を求められそうな場合も、まずは借入・保証・担保の現状と財務資料を整理することが、見直しの相談に向けた準備になります。
神戸の靴・港湾・ものづくり家業で注意したい実務課題
神戸はケミカルシューズや港湾物流、機械・金型などのものづくりが集積してきた地域として知られ、長く続く同族企業も少なくありません。こうした家業では、株式や保証だけでなく、事業そのものに付随する資産や関係が承継に影響することがあります。
たとえば、工場や倉庫などの事業用不動産、機械設備、金型、在庫、長年培われた技術や職人、主要な取引先との契約、業種によっては必要となる許認可などです。これらが会社名義なのか経営者個人名義なのか、賃貸借や担保の対象になっていないか、後継者へ円滑に引き継げる状態かを確認しておくと、承継の全体像が描きやすくなります。地域や業界の事情を踏まえつつも、最終的には株式・保証・資料という法律・財務の論点に立ち返って整理することが大切です。
よく問題になるケース
承継準備の場面では、次のような状況で判断に迷うことがよくあります。いずれも、会社の状況や資料の内容によって結論が変わるため、一般論として読みつつ、自社の状況に当てはめて確認することが大切です。
- 後継者が、金融機関から新たに個人保証を求められそうになっている。
- 先代経営者の保証が、承継後も残ったままになっている。
- 親族や元役員に株式が分散しており、承継前に整理したい。
- 名義株や、相続手続が済んでいない株式がある。
- 役員貸付金・借入金などで、会社と経営者個人のお金が区別しにくい。
- 株式の評価額や、想定される税負担の見当がつかない。
- 金融機関に何をどう説明すればよいか分からない。
これらは、株主名簿・定款・決算書・借入・保証関係の資料を確認することで、論点と優先順位を整理しやすくなります。
手続前チェックリスト
株式を動かす前、金融機関へ相談する前、親族へ説明する前に、次の資料が手元にそろっているかを確認しておくと、検討がスムーズになります。
- 株主名簿、定款、登記事項証明書
- 株券発行会社かどうかが分かる資料
- 株式譲渡契約書、贈与契約書、過去の株主総会・取締役会議事録
- 決算書、試算表、資金繰り表
- 借入一覧、返済予定表、担保一覧
- 保証契約書、根保証契約、信用保証協会関連の資料
- 役員貸付金・役員借入金、関連会社との取引が分かる資料
- 親族構成、推定相続人、遺言書の有無
- 主要な取引先、許認可、事業用不動産、機械設備、在庫に関する資料
- 金融機関への説明に使う事業計画・財務情報
弁護士に相談するタイミング
承継の準備は、早い段階で論点を整理しておくほど、選べる進め方の幅が広がります。次のような場面は、相談を検討しやすいタイミングです。株式を移転する前、金融機関へ承継の相談をする前、後継者が個人保証を求められたとき、分散株主との交渉を始める前、親族の間で意見が分かれ始めたとき、そして定款・株主名簿・保証契約・決算書がまだ整理できていないときです。
弁護士への相談は、結果をお約束するものではありません。もっとも、株主名簿・定款・決算書・借入や保証の資料を確認することで、法律面・実務面から承継準備の進め方を整理しやすくなります。税務の具体的な判断が必要な場面では、税理士や認定経営革新等支援機関、金融機関などと連携しながら進めることになります。
承継前に確認しておきたい株式・経営者保証・財務資料の論点を、資料を拝見しながら一緒に整理できます。費用や進め方については、各ページもあわせてご確認ください。
よくある質問(FAQ)
経営者保証(個人保証)は、事業承継のときに必ず外せますか。
必ず外せるとは限りません。経営者保証に関するガイドラインやその特則では、事業承継時の保証のあり方について考え方が示されていますが、見直しを最終的に判断するのは金融機関です。会社の財務状況や資料の整備状況、金融機関との協議により結論は異なります。資料を確認したうえで、見直しを相談できる可能性があるかを検討することになります。
後継者は、先代と同じように個人保証を求められますか。
事業承継時の特則では、前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めないことが原則とされていますが、例外もあり、個別事情により異なります。後継者保証の要否は、会社の財務状況や金融機関との協議により変わります。
株式が親族や元役員に分散しています。承継前に集約すべきですか。
株式の分散は承継後の意思決定に影響することがあるため、準備段階で株主構成を確認しておくことが考えられます。集約の方法や少数株主への対応は、定款や過去の経緯、税務、資金、遺留分などを併せて確認する必要があり、進め方は事案により異なります。
名義株や、相続が済んでいない株式があります。どうすればよいですか。
名義と実態が一致しない株式や相続手続が未了の株式があると、承継時に権利関係が問題になることがあります。株主名簿、定款、過去の議事録、相続関係の資料などを確認し、整理の方針を検討する必要があります。事情により対応は異なります。
会社と経営者個人のお金が混ざっています。承継に影響しますか。
役員貸付金・役員借入金や関連会社との取引などで会社と個人の資金が区別しにくい状態は、金融機関への説明や保証の見直しの場面で論点になることがあります。決算書や試算表、契約書などを確認し、整理しておくことが考えられます。
株価の評価や税負担が分かりません。記事で確認できますか。
非上場株式の評価額や、贈与税・相続税、法人版事業承継税制の適用可否といった税務上の判断は、本記事では結論をお示しできません。これらは税理士、公認会計士、認定経営革新等支援機関などの確認が必要です。制度には提出期限や適用期限が定められており、改正により変わることがあるため、最新の内容を確認してください。
金融機関には何を説明すればよいですか。
一般には、会社の財務状況や事業計画、法人と個人の資産・資金の分離の状況、財務基盤の見通しなどが説明の対象になり得ます。何をどう説明するかは、借入や保証の状況、金融機関との関係により異なります。資料を整理したうえで協議に臨むことが考えられます。
いつ弁護士に相談すればよいですか。
株式を移転する前、金融機関へ相談する前、後継者が個人保証を求められたとき、分散株主との交渉前、親族間で意見が分かれ始めたときなどが、相談を検討しやすいタイミングです。結果を保証するものではありませんが、株主名簿や定款、決算書、借入・保証の資料を確認することで、承継準備の進め方を整理しやすくなります。
まとめ
- 家業の承継は、株式・経営者保証・財務資料・親族説明を同時に確認し、全体像を見てから順序を決めると整理しやすくなります。
- 株式の集約には複数の選択肢があり、税務・資金・遺留分・親族関係と連動するため、一つに決め打ちせず併せて確認します。
- 経営者保証は「必ず外せる」ものではなく、財務状況の整理と金融機関との協議を通じて見直しの余地を検討します。最終判断は金融機関に委ねられます。
- 株価評価・税負担・税制の適用可否といった税務判断は、税理士・公認会計士・認定経営革新等支援機関などの確認が必要です。
- まずは株主名簿・定款・決算書・借入・保証関係の資料をそろえ、必要に応じて弁護士・税理士・金融機関に相談する順序を整えることが、承継準備の第一歩になります。
監修者情報
本記事は、神戸みらい法律会計事務所の弁護士が監修しています。事業承継に伴う株式や経営者保証の整理、法人のお客様に関するご相談に対応しています。担当弁護士の経歴や取扱分野については、弁護士紹介ページをご覧ください。

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