相続で自社の株式を取得した、会社から株式の買取価格を提示された、親族のあいだで株式の値段がまとまらない、M&Aで自社の株式価値をどう見ればよいか分からない——非上場株式(取引相場のない株式)の価値が問題になる場面は、相続・買取・M&Aなど多岐にわたります。そして、同じ会社の株式であっても、「何のために評価するのか」という目的によって、用いられる評価方法も、たどり着く金額も変わり得ます。
この記事では、非上場株式の評価が問題になる主な場面と、評価方法の全体像を整理します。個別の計算式の詳細よりも、「どの場面で、誰が、何のために、どの評価方法を検討するのか」という見取り図を示すことを目的としています。価格や株価算定書を前にして判断に迷ったときに、どこを確認すればよいかが分かることを目指します。
非上場株式の評価でお困りの場合、評価の目的や前提となる資料を整理することで、検討の方向性が見えやすくなることがあります。
Contents
非上場株式の評価でまず押さえておきたいこと
はじめに、この記事の要点を整理します。
非上場株式の評価で押さえておきたい4つの視点
- 非上場株式の評価は、相続・買取・M&Aなど場面によって目的が異なり、用いる評価方法も変わり得ます。
- 相続税の評価額、株式の買取価格、M&Aの取引価格は、必ずしも一致しません。
- 価格を検討する前に、評価の目的・評価の時点・株主の立場(支配株主か少数株主か)・必要資料を確認することが出発点になります。
- 提示額や株価算定書を受け取った場合は、どの評価方法を前提に、どの資料に基づいて算定されたのかを確認することが重要です。
非上場株式とは(取引相場のない株式・自社株との関係)
上場株式との違い
上場株式には市場価格があり、誰でも市場で売買でき、株価も日々公表されています。これに対して、非上場株式は証券取引所に上場しておらず、市場価格が存在しません。そのため、評価が必要になるたびに、一定の方法で価値を見積もる必要があります。
「取引相場のない株式」という税務上の呼び方
相続税・贈与税の場面では、非上場株式は「取引相場のない株式」と呼ばれます。相続や贈与により取得した財産は「取得の時における時価」で評価することとされていますが(相続税法第22条)、非上場株式には市場価格がないため、実務上は国税庁の財産評価基本通達に従って算定した金額を時価として取り扱っています。
同族会社・自社株・譲渡制限株式という視点
非上場株式の評価は、同族会社や家族経営の会社、いわゆる「自社株」で問題になりやすいという特徴があります。多くの中小企業では、株式に譲渡制限が付されており(譲渡には会社の承認が必要)、株主が誰かが経営に直結します。評価にあたっては、その株主が経営を支配する立場にある同族株主等か、配当を受け取るにとどまる少数株主かという区分も、結論に影響します。
非上場株式の評価が問題になる主な場面
非上場株式の評価は、次のような場面で問題になります。それぞれ、誰が、何のために評価するのかが異なります。
| 場面 | 主な読者・当事者 | 評価の主な目的 | 主に確認する資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 相続・贈与 | 相続人、後継者、贈与を受ける親族 | 相続税・贈与税の申告、遺産分割の前提となる評価 | 決算書、税務申告書、株主名簿、定款 | 税務上の評価額と、遺産分割で用いる評価が一致するとは限らない |
| 株式の買取り(同族間・少数株主・退職役員等) | 会社、支配株主、少数株主、退職役員 | 買取価格の検討・交渉 | 決算書、株主名簿、株主間契約、過去の譲渡契約 | 税務上の評価額をそのまま買取価格としてよいかは別途検討が必要 |
| 譲渡制限株式の譲渡承認・売買価格決定 | 会社、株主、譲渡を希望する株主 | 会社法上の手続における売買価格の決定 | 定款、議事録、決算書、株主名簿 | 協議が調わない場合は裁判所の価格決定手続に進むことがある |
| M&A・事業承継 | 売主、買主、後継者 | 取引価格・譲渡価格の検討 | 事業計画、決算書、デューデリジェンス資料、株価算定書 | 当事者の交渉やシナジーの見込みにより価格が変動する |
| 経営権争い・株主間紛争 | 対立する株主、経営陣 | 持株の価値評価、解決方法の検討 | 定款、株主間契約、議事録、株主名簿 | 立場により主張する評価方法・金額が大きく異なりやすい |
相続・贈与の場面
相続や贈与で非上場株式を取得した場合、まず相続税・贈与税の申告のための評価が必要になります。さらに、遺産分割協議では、その株式を相続財産としていくらと見るかが、分け方や代償金の金額に影響します。遺留分が問題になる場合にも、株式の評価が争点になることがあります。これらは目的が異なるため、税務申告のための評価額と、遺産分割や遺留分で用いる評価が同じになるとは限りません。
株式の買取りの場面
同族間での買取り、少数株主や退職した役員・従業員株主からの買取りなど、株式の買取価格が問題になる場面も多くあります。会社から価格を提示された側が「低いのではないか」と感じる場合や、逆に会社側が「請求額が高い」と感じる場合があり、どの評価方法を前提とするかで認識に差が生じます。
譲渡制限株式の譲渡承認・売買価格決定の場面
譲渡制限株式について、株主が第三者へ譲渡しようとして会社が承認しない場合、会社または会社が指定する買取人が株式を買い取ることになります。その売買価格は当事者間の協議で定めるのが原則ですが、協議が調わないときは、一定の期間内に裁判所へ売買価格の決定を申し立てることができます(会社法第144条)。裁判所は、譲渡等承認請求の時点における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を定めるとされています。
M&A・事業承継の場面
M&Aや事業承継で株式を譲渡する場合、取引価格をどう見積もるかが中心的な論点になります。M&Aの価格は、売主・買主の交渉、買主が見込むシナジー(相乗効果)、デューデリジェンスの結果などにより形成されるため、税務上の評価額とは異なる水準になることがあります。
経営権争い・株主間紛争の場面
株主間の対立が深刻化し、一方が株式を手放す、または買い取るといった解決を検討する場面でも、株式の評価が問題になります。立場によって主張しやすい評価方法・金額が異なるため、見解が対立しやすい領域です。
評価の「目的」によって結論が変わる
非上場株式の評価で最も誤解が生じやすいのが、「評価額は一つに決まる」という思い込みです。実際には、同じ会社の同じ株式であっても、何のために評価するのかという目的によって、前提となる資料も、採用される評価方法も、結論となる金額も変わり得ます。
混同しやすい3つの「価格」
相続税・贈与税の申告で用いる税務上の評価額、会社法上の手続で問題になる売買価格・公正な価格、そしてM&Aの取引価格は、それぞれ目的・前提・考え方が異なり、一致するとは限りません。相続税の評価額をそのまま買取価格やM&A価格として使えるとは限らない点に注意が必要です。
たとえば、相続税の申告のための評価は財産評価基本通達という共通のルールに沿って行われますが、会社法上の売買価格や「公正な価格」は、裁判所が会社の資産状態その他一切の事情を考慮して判断するもので、税務上の評価とは枠組みが異なります。M&Aの取引価格は、最終的には当事者間の交渉によって決まります。同じ「価格」という言葉でも、場面によって意味が違うことを意識することが出発点になります。
非上場株式の主な評価方法の全体像
3つのアプローチ
非上場株式の評価方法は、考え方の違いから、大きく3つのアプローチに整理されます。日本公認会計士協会の企業価値評価ガイドラインでも、この3分類が用いられています。
- インカム・アプローチ:会社が将来生み出すと見込まれる利益やキャッシュ・フローに着目する考え方。DCF法、収益還元法、配当還元法などが含まれます。
- マーケット・アプローチ:類似する上場会社の株価や、類似の取引事例に着目する考え方。類似会社比較法(税務上の類似業種比準方式もこの系統です)、取引事例法などがあります。
- ネットアセット・アプローチ(コスト・アプローチ):会社の純資産に着目する考え方。簿価純資産法、時価純資産法(修正純資産法)などがあります。
| 評価方法 | 概要 | 使われやすい場面 | 確認すべき点 |
|---|---|---|---|
| 純資産価額方式/時価純資産法 | 会社の純資産(資産から負債を差し引いた額)に着目して評価する | 資産保有型の会社、清算を前提とする場面、評価の下限を見る場面 | 不動産・有価証券などの含み損益、資産・負債の時価評価 |
| 類似業種比準方式 | 類似する業種の上場会社の株価に、配当・利益・純資産で比準して評価する(税務上の原則的評価方式の一つ) | 相続税・贈与税の申告(一定規模以上の会社など) | 会社規模の区分、比準要素の数値、特定の評価会社に該当しないか |
| 配当還元方式 | 株式から受け取る配当額を一定の利率で還元して評価する(税務上の特例的評価方式) | 相続税・贈与税で、少数株主等が取得する株式 | 同族株主等に当たるか、少数株主等に当たるかの判定 |
| 収益還元法 | 将来見込まれる平均的な利益を一定の利率で還元して評価する | 事業計画の作成が難しい場面、簡便に収益力を反映したい場面 | 前提となる利益水準、還元利回りの設定 |
| DCF法 | 将来のキャッシュ・フローを見積もり、現在価値に割り引いて評価する | M&A、事業の継続を前提とした価値評価 | 事業計画の合理性、割引率、継続価値の前提 |
| 類似会社比較法 | 類似する上場会社の指標(株価倍率など)と比較して評価する | M&A、客観的な目安を得たい場面 | 比較対象会社の選定、用いる指標の妥当性 |
| 取引事例法 | 過去の実際の株式取引の価格を参考に評価する | 過去に取引実績がある場合 | 取引時点・取引条件が現在と比較できるか |
税務評価(財産評価基本通達)の位置づけ
相続税・贈与税の申告では、財産評価基本通達に従い、会社の規模や株主の区分に応じて、類似業種比準方式・純資産価額方式・その併用、または配当還元方式により評価します。なお、税務上の評価方法については、近年その在り方をめぐる議論が進められており、国税庁は令和8年に有識者会議を設けて検討を行っています。相続・贈与の評価を検討する際は、申告時点での最新の取扱いを確認することが重要です。
評価方法は目的・会社の状況で使い分けられる
どの評価方法が適切かは、評価の目的、会社の業種や財務状況、評価する株式が支配株主のものか少数株主のものかなどによって変わります。実務では、一つの方法だけでなく、複数の方法を併用して総合的に検討することも少なくありません。中小企業のM&Aでは、時価純資産に数年分の利益を加える簡便な方法が用いられることもあります。「この方法が常に正しい」という唯一の答えがあるわけではない点が、非上場株式の評価の難しさです。なお、各評価方法の具体的な計算や、買取価格の交渉の進め方については、関連するコラムもあわせてご確認ください。
価格や株価算定書を検討する前に確認したい実務ポイント
提示された価格や株価算定書を検討する際は、次のような点を確認すると、検討の方向性が整理しやすくなります。
評価の目的・評価の時点・株主の立場
何のための評価か(税務申告・買取り・M&A・裁判手続など)、いつの時点を基準とする評価か、評価の対象となる株式が支配株主のものか少数株主のものかは、結論を大きく左右します。
会社の財務状況・特殊な資産・将来計画
不動産や関係会社株式、役員への貸付金、借入金の状況、直近期の一時的な損益、将来の事業計画の合理性などは、評価に影響します。これらが評価にどう反映されているかを確認することが重要です。
株価算定書の前提条件
株価算定書がある場合は、どの評価方法を採用しているか、どの資料・前提に基づいているか、評価の時点はいつかを確認します。前提資料に疑問がある場合や、採用された方法が場面に合っているか不明な場合には、内容を精査する必要があります。
よく問題になるケース
非上場株式の評価では、次のような場面で判断に迷うことが多くあります。いずれも個別の事情によって結論が変わり得るため、一般論だけで判断することは適切ではありません。
- 相続税の評価額を、そのまま親族間の買取価格としてよいか迷うケース
- 会社から提示された買取価格が、低いのではないかと感じるケース
- 少数株主として株式を売却したいが、価格で折り合いがつかないケース
- M&Aで、売主と買主の評価額が大きく異なるケース
- 遺産分割や遺留分で、非上場株式の評価が争点になるケース
- 株価算定書はあるが、前提となる資料や採用された方法に疑問があるケース
株式評価を検討する前に確認したい資料
評価の目的にかかわらず、次のような資料が手元にあると、検討がスムーズになります。すべてが必要とは限りませんが、確認しておきたい主な資料です。
- 定款、登記事項証明書
- 株主名簿、株券を発行している会社かどうかが分かる資料
- 株主総会・取締役会の議事録
- 株主間契約、投資契約、種類株式の内容が分かる資料
- 過去の株式譲渡契約書、買取りの合意書
- 決算書(貸借対照表・損益計算書など)、税務申告書、勘定科目内訳書
- 総勘定元帳、試算表、固定資産台帳
- 不動産に関する資料、借入金の明細
- 関係会社株式・投資有価証券に関する資料
- 事業計画、資金繰り表
- M&Aの場合は、意向表明書、基本合意書、デューデリジェンス資料、株価算定書
どの資料をどこまで確認すればよいか分からない場合でも、お持ちの資料から評価の目的や前提を整理することで、次に検討すべき点が見えやすくなります。
弁護士に相談するタイミング
非上場株式の評価が関係する場面では、次のようなタイミングで一度確認しておくと、対応方針を整理しやすくなります。弁護士への相談は、有利な結論を保証するものではありませんが、評価の前提や手続の選択肢を整理し、判断材料をそろえるうえで役立ちます。
- 相続税の申告前、遺産分割協議書に署名する前、遺留分の請求に回答する前
- 株式の買取価格を提示された、または提示する前
- 株式譲渡契約書・株主間契約・和解書に署名する前
- 譲渡承認請求や価格決定の申立てなど、会社法上の手続を検討する前
- M&Aの基本合意・価格交渉・デューデリジェンスの前
- 少数株主との紛争が表面化してきた段階
- 税務・会計・法務の前提が食い違っていると感じる段階
非上場株式の評価は、法務だけでなく会計・税務の検討が交錯する分野です。税務上の具体的な計算や税額、節税の可否といった点は税理士・公認会計士等の領域にかかわるため、必要に応じて、これらの専門職と連携・確認しながら進めることが適切です。
株式の評価や会社法上の手続についてご検討の際は、資料を確認したうえで、法的な見通しや対応方針を整理することができます。
よくある質問
非上場株式の評価額は一つに決まりますか。
評価の目的や前提、評価の時点、株主の立場などによって、用いる評価方法も結論も変わり得ます。一つの金額に必ず定まるとは限りません。
相続税の評価額を、そのまま買取価格にしてよいですか。
相続税の評価額(財産評価基本通達による評価)と、当事者間の買取価格や会社法上の売買価格は、目的も考え方も異なります。そのまま用いてよいかは個別の事情により異なり、別途検討が必要です。
会社から提示された株式の買取価格に納得できない場合は、どうすればよいですか。
まずは、どの評価方法・どの資料に基づく価格かを確認することが出発点になります。譲渡制限株式については、協議が調わない場合に裁判所へ売買価格の決定を申し立てる手続が定められており(会社法第144条)、対応の選択肢を整理することが考えられます。
M&Aではどの評価方法が使われますか。
M&Aでは、DCF法などのインカム・アプローチ、類似会社比較法などのマーケット・アプローチ、純資産に着目するネットアセット・アプローチが用いられ、複数を併用することもあります。最終的な取引価格は当事者の交渉により形成されます。
少数株主の株式は低く評価されますか。
場面によって扱いが異なります。たとえば相続税では、少数株主等が取得する株式に配当還元方式が用いられることがあります。一方、会社法上の手続における価格は裁判所が諸事情を考慮して判断するもので、結論は事案により異なります。
株価算定書があれば十分ですか。
株価算定書は重要な資料ですが、どの評価方法を採用し、どの前提資料に基づいているか、評価の時点はいつかによって意味合いが変わります。前提条件を確認することが重要です。
相談の前に、どの資料を準備すればよいですか。
定款、株主名簿、決算書、税務申告書、株主間契約や議事録、株価算定書などがあると検討がスムーズです。すべてがそろっていなくても、お持ちの資料から整理を始めることができます。
弁護士・税理士・公認会計士のどこに相談すればよいですか。
会社法上の手続や紛争の見通しは弁護士の領域、税額や税務申告は税理士の領域など、論点によって関わる専門職が異なります。複数の領域が交錯する場面では、必要に応じて連携しながら検討することが適切です。
まとめ
本記事の要点と、次に取りたい行動を整理します。
- 非上場株式の評価は、相続・買取・M&Aなど場面によって目的が異なり、用いる評価方法も変わり得ます。
- 相続税の評価額・会社法上の売買価格・M&Aの取引価格は、一致するとは限りません。
- 評価方法には大きくインカム・マーケット・ネットアセットの3つのアプローチがあり、目的や会社の状況に応じて使い分けられます。
- 価格や株価算定書を検討する前に、評価の目的・時点・株主の立場・前提資料を確認することが出発点になります。
- 署名・回答・申告・価格提示・基本合意などの前に、一度確認しておくと対応方針を整理しやすくなります。
非上場株式の評価や、これに関連する会社法・相続の手続についてのご相談を承っています。評価の目的や前提となる資料を整理することで、検討の方向性を見定めやすくなります。ご相談の流れや費用は、各ページをご確認ください。
監修・執筆
本記事は、神戸みらい法律会計事務所(弁護士法人ひょうご支所)の弁護士が監修しています。会社法上の株式に関する手続や、相続・事業承継に関連するご相談に対応しています。担当弁護士の経歴・保有資格・取扱分野は、弁護士紹介ページをご覧ください。
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