「毎年、株主総会は開いていることにして議事録だけ作っている」「招集通知をいつ、どの方法で出せばよいのか分からない」「決算の内容について株主から質問されたら、どこまで答えればよいのか不安だ」。非上場の中小企業や同族会社では、株主総会の準備をめぐって、こうした悩みを抱えたまま毎年の総会を迎える会社が少なくありません。
結論からいえば、株主総会の準備は、招集通知・議案・決議要件・議事録といった法務面の適法性を確認するだけでは足りません。計算書類等、事業報告、想定問答、回答の前提となる数値の根拠を、会計・財務面から突き合わせる作業を、あわせて行う必要があります。この二つは、別の確認作業です。もっとも、必要な手続と資料は、公開会社か非公開会社か、取締役会その他の機関設計、定款、株主構成、議題、上場の有無によって大きく異なります。そのため、一般論をなぞるのではなく、自社の資料を確認し、開催予定日から逆算して準備することが重要になります。
本記事では、会社側(とりわけ非上場の中小企業・同族会社)の立場から、定時株主総会を中心に、準備の開始から招集、資料作成、想定問答、当日の運営、採決、議事録、総会後の手続までを、経営者・総務・法務・経理財務のご担当者が実務で確認しやすい順序で整理します。なお、以下はいずれも一般的な情報の整理であり、個別の事情により結論は異なります。最終的には、資料を確認したうえで判断する必要があります。
株主総会の準備では、招集通知・議案・決議要件・議事録という法務面だけでなく、計算書類等・事業報告・想定問答・回答数値の根拠を会計・財務面から突き合わせる必要があります。必要な手続と資料は、公開会社か非公開会社かの別、機関設計、定款、株主構成、議題、上場の有無によって異なるため、自社の資料を確認し、開催予定日から逆算して準備することが大切です。
Contents
この記事で分かること
- 非上場会社・一人会社でも定時株主総会が必要か、実際の会議とみなし決議をどう使い分けるか
- 「定時株主総会は決算後3か月以内」という言い方が、会社法の明文なのか実務上の取扱いなのか
- 開催予定日から逆算して、いつ・どの資料から準備を始めるか
- 招集通知の期限と方法が、会社の類型によってどう変わるか
- 計算書類等は株主総会の承認事項か報告事項か、事業報告との違い
- 株主からの質問に、取締役等はどこまで説明する必要があるか
- 法務面と会計・財務面を突き合わせる二層チェックの考え方と、相談前に準備したい資料
開催日や議案がすでに決まっている場合は、招集通知を発する前に、定款、登記事項証明書(履歴事項全部証明書)、株主名簿、直近の議事録、今回の計算書類等を確認しておくと、必要な手続を整理しやすくなります。何から準備すべきか迷う段階でも、資料の確認から対応方針を検討できます。
中小企業の株主総会でまず確認したい結論
株主総会の準備で最初に押さえておきたいのは、次の点です。細部は会社の類型や定款によって変わりますが、確認の出発点は共通しています。
- 開催予定日から逆算する。総会の何週間前という固定の工程表ではなく、開催日を起点に、招集の決定・通知・資料確定の期限を逆算します。
- 定款・登記・株主名簿・過去の議事録を確認する。機関設計、決議要件の加重、役員の任期、議決権を行使できる株主を、資料で確認します。
- 議題と決議要件を整理する。議案ごとに、どの機関が決議し、普通決議・特別決議・特殊決議・全員同意のいずれかを確認します。
- 計算書類等を準備する。作成・監査・提供・承認または報告の各段階と、事業報告との違いを確認します。
- 想定問答を準備する。法務面の説明範囲と、回答の前提となる数値・会計資料を、あわせて確認します。
- 総会後の手続を分けて確認する。登記、届出、支払、会計処理、税務確認、社内更新を、議案ごとに分岐させます。
これらは、「法律上の手続として適法か」という視点と、「説明する数値の根拠がそろっているか」という視点の、二つの確認からなります。以下では、この二層の確認を軸に説明します。
株主総会は何を決める機関か
株主総会が決められる事項の範囲は、機関設計によって異なります。「最高意思決定機関」という言い方だけで、あらゆる事項を決められると考えるのは正確ではありません。
取締役会設置会社かどうかで権限が異なる
取締役会を置いていない会社(取締役会非設置会社)では、株主総会は、会社に関する一切の事項を決議できるとされています(会社法第295条第1項)。これに対し、取締役会設置会社では、株主総会は、会社法に定める事項と定款で定めた事項に限って決議できるとされています(会社法第295条第2項)。つまり、取締役会を置くと、日常的な業務執行の決定は取締役会に委ねられ、株主総会の決議事項は限定されます。自社がどちらの機関設計かは、登記事項証明書と定款で確認できます。
定時株主総会と臨時株主総会の違い
定時株主総会は、毎事業年度の終了後の一定の時期に招集するものです(会社法第296条第1項)。臨時株主総会は、必要がある場合にいつでも招集できます(同条第2項)。ここで注意したいのは、「定時株主総会は決算日から3か月以内に開かなければならない」という数字は、会社法の明文ではないという点です。会社法は「一定の時期」と定めるだけです。実務で3か月以内が一般的なのは、議決権を行使する株主を確定する基準日を事業年度末日に置くと、その基準日から3か月以内に権利を行使させる必要があること(会社法第124条第2項)、多くの会社が定款でその趣旨を定めていること、法人税の申告期限との関係などが重なった結果です。したがって、自社の開催時期は、定款と基準日の定めを確認して判断する必要があります。
上場会社と非上場会社の実務差
上場会社には、株主総会資料の電子提供措置(後述)、金融商品取引法上の開示、証券取引所の規則、機関投資家対応など、非上場会社にはない固有の実務があります。本記事は非上場の中小企業・同族会社を主な対象とするため、これらの上場会社固有の論点は、必要に応じて別途確認すべき領域として切り分けて説明します。
株主総会の準備を法務と財務に分けて整理する
株主総会の準備では、同じ議案や同じ想定質問について、「法律上の手続・説明として適法か」という法務面と、「説明する数値・資料の根拠が整合しているか」という会計・財務面の、二つの確認を分けて行うと、抜け漏れを見つけやすくなります。次の表は、代表的な議案・質問領域について、両面の確認事項を対応させたものです。
| 議案・質問の領域 | 法務面で確認すること | 会計・財務面で確認すること |
|---|---|---|
| 計算書類等 | 作成・監査・提供の手続、承認事項か報告事項かの別(会社法第438条・第439条) | 各数値の整合、前年との差、重要な増減の理由の説明準備 |
| 剰余金の配当 | 決議機関・決議事項、分配可能額を超えないこと(会社法第454条・第461条) | 配当の原資、資金繰りへの影響、配当後の財政状態 |
| 役員報酬・役員賞与 | 定款または株主総会決議、委任の範囲(会社法第361条) | 会計処理、業績との関係、税務上の論点との切り分け |
| 役員貸付金・仮払金 | 利益相反取引に該当するかの検討、必要な承認手続(会社法第356条・第365条) | 残高、発生・増減の理由、回収可能性の説明準備 |
| 関連当事者取引 | 承認の要否、特別の利害関係、説明・開示の範囲 | 取引条件、残高、損益・財政状態への影響 |
| 業績・資金繰りの質問 | 説明義務の範囲、企業秘密・調査を要する事項の扱い(会社法第314条) | 売上・利益の変動、借入や資金繰り資料など回答の根拠 |
この二層チェックの目的は、法律上の説明範囲と、回答の前提となる数値・会計資料を、一体的に照合し、資料間の不一致や説明根拠の不足を事前に確認することにあります。会計・財務面の確認をしたからといって数値が当然に正しくなるわけではなく、これは会社法上の会計監査や任意監査、公認会計士法上の監査・保証業務とは異なります。位置づけとしては、株主総会での説明に備えて、法務と財務の資料を突き合わせる準備作業です。
招集から総会後までの実務の流れ
実務では、おおむね次の順序で確認・準備を進めます。会社の類型や議題により、細部は変わります。
会社の機関設計・定款・株主を確認する
出発点は資料の確認です。定款(決議要件の加重、基準日、役員の任期、種類株式・属人的な定めの有無)、履歴事項全部証明書(機関設計、公開会社か否か、役員構成・任期)、株主名簿(議決権を行使できる株主と持株比率、自己株式や議決権制限株式の有無)、過去の招集通知・議事録を確認します。株式の相続、共有、名義株、譲渡承認などに疑義がある場合は、この段階で洗い出しておきます。
議題・議案・決議要件を整理する
議題(会議の目的事項)ごとに、どの機関が決議し、どの決議要件が必要かを整理します。定足数と可決要件は、株主の人数や持株比率ではなく、原則として議決権の数を基準に考えます。次の表は原則的な整理であり、定款で定足数や可決要件が変更されている場合があるため、まず定款の確認から始めてください。
| 議案の例 | 決議の種類 | 定足数(原則) | 可決要件(原則) | 主な根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 計算書類の承認、剰余金の配当、役員報酬の総額決定など | 普通決議 | 議決権の過半数(定款で引下げ・排除が可能) | 出席株主の議決権の過半数 | 会社法第309条第1項 |
| 取締役の選任・解任、会計参与・監査役の選任 | 普通決議の特則 | 議決権の過半数(定款でも3分の1未満にできない) | 出席株主の議決権の過半数 | 会社法第341条 |
| 監査役の解任、定款変更、事業譲渡、組織再編など | 特別決議 | 議決権の過半数(定款で3分の1まで引下げ可) | 出席株主の議決権の3分の2以上 | 会社法第309条第2項 |
| 全部の株式に譲渡制限を付す定款変更など | 特殊決議 | ― | 議決権を行使できる株主の半数以上、かつその議決権の3分の2以上 | 会社法第309条第3項 |
普通決議の定足数は、定款によって引き下げたり排除したりできますが、役員の選任・解任に関する普通決議の特則では、定款によっても定足数を議決権の3分の1未満にはできません(会社法第341条)。また、監査役の解任は、選任と異なり特別決議が必要です(会社法第309条第2項)。議決権の過半数さえあればすべて決められる、という理解は正確ではありません。
招集通知と提供資料を準備する
招集は、取締役(取締役会設置会社では取締役会)が、日時・場所・議題や、書面・電磁的方法による議決権行使を認めるかどうかなどを決定して行います(会社法第298条)。招集通知の期限と方法は、会社の類型によって異なります。次の表のとおり、一律に「2週間前までに送る」「メールアドレスを知っていればメールで通知できる」と考えるのは正確ではありません。
| 会社の類型・場合 | 招集通知を発する期限(原則) | 書面による通知 |
|---|---|---|
| 公開会社 | 総会の日の2週間前まで | 必要 |
| 非公開会社(取締役会設置会社) | 総会の日の1週間前まで | 必要 |
| 非公開会社(取締役会非設置会社) | 総会の日の1週間前まで(定款でさらに短縮可) | 原則として書面に限られない |
| 書面・電磁的方法による議決権行使を採用する場合 | 非公開会社でも総会の日の2週間前まで | 必要 |
ここでいう期限は、通知を「発する」時点の基準です(会社法第299条)。電磁的方法(電子メールなど)で通知するには、株主の承諾が必要です。書面・電磁的方法による議決権行使を採用する場合は、株主総会参考書類や議決権行使書面の交付も必要になります(会社法第301条・第302条)。なお、議決権を行使できる株主全員の同意があれば、招集手続を省略できますが、書面・電磁的方法による議決権行使を採用する場合は省略できません(会社法第300条)。
上場会社(振替株式を発行する会社)では、株主総会資料の電子提供措置が義務づけられています(会社法第325条の2以下、2022年施行)。非上場会社は、定款で定めれば任意に採用できますが、当然に義務づけられるものではありません。電子提供措置を採用しても、招集通知そのものが不要になるわけではなく、書面交付請求への対応なども必要です。自社が採用しているかは、定款と登記で確認できます。
想定問答と当日の役割分担を決める
取締役・会計参与・監査役・執行役は、総会で株主から特定の事項について説明を求められたときは、必要な説明をしなければなりません(会社法第314条)。もっとも、議題に関しない事項、説明により株主共同の利益を著しく害する場合、調査が必要な場合、実質的に同一の事項を繰り返し求める場合、その他正当な理由がある場合には、説明を拒むことができます(会社法第314条ただし書、会社法施行規則第71条)。「事前質問がなかったから当日の質問には答えなくてよい」という理解は正確ではありません。
準備としては、想定される質問を洗い出し、回答方針、回答担当者、根拠資料、回答を控える場合の理由を、事前に整理しておきます。弁護士や公認会計士が取締役等の説明義務そのものを代行するわけではありませんが、想定質問の抽出や、回答の前提となる資料の整合確認を支援することは可能です。受付、本人確認、議決権の集計、議長、回答担当者、採決方法、緊急時の役割分担も、この段階で決めておきます。
受付・議事進行・採決を行う
当日は、受付で本人確認と代理権の確認を行い、出席する議決権の数を把握して、定足数を確認します。議長は、質問、動議、休憩、延期・続行などに対応しながら議事を整理します。説明義務に配慮しつつ、回答を保留または拒む場合はその根拠を意識します。採決は、議案ごとに賛否を確認し、可決要件を満たしたかどうかを記録します。委任状、議決権行使書面、書面・電磁的方法による議決権行使の集計も、この段階で整理します。
議事録と登記その他の後続手続を確認する
株主総会の議事録は、法務省令に従って作成し(会社法第318条、会社法施行規則第72条)、本店に10年間、支店に写しを5年間備え置きます。株主・債権者は、営業時間内に閲覧・謄写を請求できます。議事録には法定の記載事項を正確に記載し、必要に応じて、詳細な質疑の記録、議決権の集計表、委任状、受付記録、進行台本などを別の資料として保存しておくことが有用な場合があります。逐語の記録や録音が常に必要というわけではなく、個人情報や秘密情報の管理、録音の目的などに配慮して、会社の実情に応じて判断します。
総会後は、議案ごとに手続が分かれます。役員変更・代表者変更・定款変更・資本金の変更・組織再編などの登記(会社法第915条ほか。原則として変更から2週間以内)、役員報酬・賞与・剰余金の配当などの会計処理と税務確認、配当や報酬の支払、社内規程・名簿の更新などを、それぞれ確認します。すべての決議に登記が必要なわけではありません。役員変更などの登記では、株主名簿とは別に株主リストの添付を求められる場合があるため、法務局の案内を確認してください。
開催日から逆算して準備する
準備の工程は、「総会の何週間前」という固定の表よりも、開催予定日を起点に逆算して組み立てると、抜け漏れが起こりにくくなります。次はあくまで一例で、期限は会社の類型・定款・議決権行使の方法・議題によって変わります。数字を当てはめる前に、必ず自社の定款と登記を確認してください。
| 確認・確定すること | 開催日からの目安 | 主な根拠・注意 |
|---|---|---|
| 定款・登記・株主名簿・基準日の確認、議題の整理 | できるだけ早い段階 | 機関設計・決議要件・議決権を行使できる株主を確定 |
| 計算書類等の作成・監査、取締役会での承認・招集の決定 | 招集通知の発送前まで | 会社法第436条・第438条ほか(会社の類型による) |
| 招集通知の発送、参考書類・議決権行使書面の交付 | 公開会社は2週間前まで/非公開会社は1週間前まで(採用制度により異なる) | 会社法第299条・第301条・第302条 |
| 想定問答・進行案・役割分担の確定 | 開催日まで | 会社法第314条、会社法施行規則第71条 |
| 議事録の作成・備置き、登記・届出・支払・会計税務処理 | 総会後すみやかに(登記は原則2週間以内) | 会社法第318条・第915条ほか |
定時株主総会で扱う計算書類等
定時株主総会では、計算書類等が重要な議題になります。ここで用語を区別しておくと、準備がしやすくなります。
計算書類・事業報告・監査報告等の違い
会社法上の「計算書類」は、貸借対照表・損益計算書(会社法第435条第2項)に、株主資本等変動計算書・個別注記表(会社計算規則第59条)を加えた4種で構成されます。これに対し、「事業報告」は計算書類には含まれず、財務諸表の一部でもありません。日常用語の「決算書」は、これらをまとめて指すことが多い言葉で、会社法上の「計算書類」とは範囲が一致しないことがあります。招集通知に際して株主へ提供する書類、総会に提出・提供する書類、承認または報告の対象となる書類は、計算書類、事業報告、附属明細書、監査報告、会計監査報告、連結計算書類のいずれかによって扱いが異なり、会社の類型と機関設計によって変わります。
承認事項か報告事項かは会社ごとに確認する
計算書類は、原則として定時株主総会の承認を受ける必要があります(会社法第438条第2項)。一方、事業報告は、その内容を株主総会に報告すれば足り、承認は不要です(同条第3項)。ただし、会計監査人設置会社では、計算書類が法令・定款に従い会社の財産・損益の状況を正しく表示しているなどの要件を満たす場合、計算書類の承認は不要となり、取締役が内容を報告すれば足りるとされています(会社法第439条)。「計算書類は必ず株主総会で承認する」と一律に考えるのではなく、自社の機関設計に応じて、承認事項か報告事項かを確認する必要があります。定時株主総会の終結後は、原則として貸借対照表(大会社は損益計算書も)の公告が必要です(会社法第440条)。
株主への説明と数値・資料の整合性を確認する
計算書類等を承認・報告する場面では、数値そのものだけでなく、前年との差や重要な増減の理由を説明できるように準備しておくと、質疑に対応しやすくなります。承認済みの資料、会計帳簿、取締役会資料などの客観的な資料で裏付けられるように整理し、分からない数値をその場で推測しない、という姿勢が実務では重要です。
株主からの質問にどう備えるか
株主からの質問への備えは、法務面と会計・財務面の両方から準備します。
取締役等の説明義務と限界
前述のとおり、取締役等は株主から求められた事項について必要な説明をする義務を負いますが、一定の場合には説明を拒むことができます(会社法第314条、会社法施行規則第71条)。説明を拒めるかどうかは、議題との関係、株主共同の利益、調査の必要性、会社や第三者の権利、同一質問の反復といった観点から、条文と施行規則に照らして検討します。事前質問の有無で当日の対応が自動的に決まるわけではありません。
財務事項の想定質問と根拠資料
財務に関する想定質問は、あくまで「想定される質問の領域」として、必要なものだけを抽出して準備します。例えば、売上高・利益・粗利率などの変動理由、多額または異常な特別損益・減損・引当金、借入金や資金繰り、配当方針と分配可能額、役員報酬・役員貸付金・関連当事者取引、重要な訴訟や偶発債務などが挙げられます。すべての会社にこれらの論点があるわけではありません。自社に該当する項目だけを抽出し、それぞれ回答の根拠となる資料を確認しておきます。
回答者、回答範囲及び追加確認の扱い
質問への回答は、誰が答えるか(回答担当者)、どこまで答えるか(回答範囲)、その場で答えられない場合にどう扱うか(追加確認・後日回答)を、あらかじめ決めておくと、当日の対応が安定します。数値に関する質問では、根拠資料に基づいて回答し、確認が必要な事項は無理にその場で断定しないという整理が実務的です。
よく問題になる株主総会
相談者が迷いやすい場面を、いくつか整理します。いずれも個別の事情により結論が変わります。
一人会社・少人数の同族会社
株主が一人、または親族だけであっても、株式会社である以上、株主総会による意思決定と記録は必要です。会議の開催を省くこと自体と、会社法上の決議の省略(後述)とは別の問題です。過去の議事録がない場合や、登記と実態が合っていない場合は、現状の資料を確認したうえで、今後の適法な手続を検討する必要があります。
会社法第319条の決議の省略を使う会社
議決権を行使できる株主の全員が、提案について書面または電磁的記録で同意した場合には、その提案を可決する株主総会の決議があったものとみなされます(会社法第319条。いわゆる書面決議・みなし決議)。これは、単に会議を開かないこととは異なり、全員の同意と、同意書面等の作成・保存が必要です。報告事項についても、全員の同意による報告の省略の制度があります(会社法第320条)。一人会社や同族会社でも、必要な意思決定と記録まで不要になるわけではありません。
反対株主・少数株主がいる会社
親族間の対立や、経営に関与しない株主がいる場合には、事前質問、当日の質問、株主提案、動議、委任状、議決権の集計、記録化について、総会前に準備しておくことが重要です。株主側の権利行使や、経営権をめぐる争いに発展した場面の対応は、本記事の主題とは検索意図が異なるため、詳しくは非上場・同族会社の少数株主の権利について見る、会社の経営権をめぐる争いへの対応を見るをご確認ください。
過去の総会又は議事録に不備がある会社
過去に株主総会を開いていない、議事録がない、内容に不備がある、という会社は少なくありません。このとき、実際には開催していない総会を開催したかのように議事録を作成すること、日付を遡らせること、出席・採決・質疑を架空で記載することは、避けるべき対応です。まず現状の資料を保全し、今後の適法な手続、再決議や追認の可否、登記との不一致、紛争のリスクを、個別に検討することになります。追認すれば必ず問題が解消するとは限りません。社内の対立が背景にある場合の初動については、会社内部の対立で最初に確認したい点を見るもあわせてご確認ください。
役員変更・役員報酬・配当・関連当事者取引を予定する会社
これらの議案は、決議した後の手続まで見据えて準備します。役員報酬の会社法上の決め方や税務との関係は、役員報酬の決め方と損金算入の考え方を見るで扱っています。役員の選任・解任決議と、その後の登記や責任の問題については、取締役の責任と株主代表訴訟リスクへの備えを見るもご参照ください。配当については、分配可能額を超えないこと(会社法第461条)と、資金繰りへの影響の両面を確認します。
オンライン参加を予定する会社
オンラインの活用には、いくつかの類型があります。物理的な会場を設けたうえで、インターネットを通じて株主が出席・参加するハイブリッド型は、会社法の枠内で実施でき、特別な手続は必要ありません。これに対し、物理的な会場を設けない「場所の定めのない株主総会」(バーチャルオンリー型)は、産業競争力強化法の特例に基づくもので、現行制度では上場会社に限られ、経済産業大臣・法務大臣の確認、定款の定めなどの要件があります。一般の非上場会社が当然に利用できるものではありません。なお、株主総会に関する会社法制の見直しは検討されていますが、これは提案・検討の段階であり、現行の制度とは区別して考える必要があります。
株主総会の不備によって生じ得る問題
手続の不備は、後から決議の効力を争われる原因になり得ます。備えの観点から、概要を押さえておきます。
典型的には、招集の漏れ、議案や決議要件の誤り、説明義務への対応、採決の方法、議事録と実態の不一致などが問題になります。決議の効力を争う手段には、決議取消しの訴え、決議無効確認の訴え、決議不存在確認の訴えがあり、性質が異なります。決議取消しの訴えは、原則として決議の日から3か月以内に提起する必要があります(会社法第831条)。もっとも、招集手続や決議方法の法令・定款違反があっても、その違反が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないと認められるときは、裁判所が請求を棄却できる場合があります(同条第2項)。一方、決議の内容が法令に違反することを理由とする無効確認の訴えや、決議が存在しないことの確認の訴えには、3か月という出訴期間の制限はありません(会社法第830条)。手続や方法に違反があれば決議が当然に無効になる、招集漏れがあれば必ず取り消される、といった一律の理解は正確ではありません。
決議の効力が争われると、登記、役員の地位、会社が行った取引、社内の運営にも影響が及び得ます。とりわけ決議取消しの訴えには出訴期間があるため、効力を争われそうな場面や、すでに争いが生じた場面では、早めに対応方針を検討する必要があります。決議をめぐる紛争の具体的な対応は、会社の経営権をめぐる争いへの対応を見るで扱っています。
法務・財務双方から確認する株主総会サポート
会社側の準備を支援する場合、実際の作業は、おおむね次のような内容です。いずれも、資料を確認したうえで、必要な手続と説明の根拠を整理することを目的とします。
- 定款・登記事項証明書・株主名簿・過去の議事録の確認
- 議題、決議機関、決議要件、開催日から逆算したスケジュールの整理
- 招集通知、議案、議事録案などの作成・確認
- 計算書類等、事業報告、想定問答の回答案の整合確認
- 想定問答、進行案、役割分担、総会後の手続の整理
実際に提供する業務の範囲は、掲載先の公式ページで確認できる内容に限られます。当事務所の公式サイトでは、企業法務のスポット相談として株主総会・取締役会の手続に対応する旨、法律顧問の内容として取締役会・株主総会の運営支援・議事録作成支援が記載されています。あわせて、いくつかの点を区別しておく必要があります。第一に、法律相談のための会計資料の確認・分析は、会社法上の会計監査や任意監査、公認会計士法上の監査・保証業務、財務諸表の適正性に対する意見表明とは異なります。第二に、税務申告や税務代理、税務上の確定的な判断は行いません。必要に応じて、税理士への別途相談が必要になります。第三に、登記の要否や必要書類の整理と、登記申請の代理は別の問題であり、登記申請の代理については司法書士との関係を含めて確認します。
業績の変動、配当、役員報酬、役員貸付金、関連当事者取引などについて株主からの質問が見込まれる場合は、法的な説明の範囲と、回答の前提となる数値・会計資料の根拠を分けて、事前に確認しておくことが重要です。招集や議案の確定の前に資料を整理することで、想定される質問と回答の根拠を整理しやすくなります。
相談前に準備したい資料
相談や社内の検討をスムーズに進めるために、次の資料を確認しておくと役立ちます。何が必要かは事案により異なります。すべてがそろうまで待つ必要はなく、総会予定日や招集通知の予定日、法定の期間が迫っている場合は、まず期限と手元の資料を伝えることが大切です。
- 定款、履歴事項全部証明書(登記事項証明書)
- 株主名簿、種類株式・議決権・株式の異動に関する資料
- 直近数年の招集通知、株主総会・取締役会の議事録、委任状、同意書
- 今回の開催予定日、議題、議案、進行案、株主からの質問書
- 計算書類等、事業報告、監査報告、会計帳簿、試算表、資金繰り資料のうち該当するもの
- 配当、役員報酬、役員貸付金、関連当事者取引、重要な取引の裏付け資料
- 登記、税務の届出、株主への連絡など、期限が分かる資料
弁護士に相談するタイミング
株主総会は、決議のやり直しがきかない局面が多い手続です。次のような段階で相談を検討すると、判断材料や対応方針を整理しやすくなります。
- 開催日および議題を決める前
- 招集事項の決定、または招集通知の発送前
- 計算書類等、事業報告、想定問答を確定する前
- 反対株主、株主提案、事前質問、委任状をめぐる争いが見込まれる時点
- 配当、役員報酬、役員変更など、重要な議案を決議する前
- 過去の総会や議事録の不備が判明した時点
- 決議の効力が争われた時点
相談により、手続の適法性だけでなく、法務と財務の資料の突き合わせ、想定される質問への備え、総会後の手続までを、資料を確認したうえで整理できます。
よくある質問(FAQ)
非上場会社や一人会社でも定時株主総会は必要ですか。
株式会社である以上、定時株主総会による意思決定と記録は必要です。株主が一人または親族だけの場合でも、会議の開催を省くことと、会社法上の決議の省略(会社法第319条)とは別の問題です。過去に開催していない場合は、資料を確認したうえで今後の対応を検討する必要があります。
定時株主総会は決算日から3か月以内に開く必要がありますか。
「3か月以内」は会社法の明文ではありません。会社法は「毎事業年度の終了後一定の時期」に招集すると定めるのみです(会社法第296条第1項)。基準日を事業年度末に置く場合の制約(会社法第124条第2項)、定款の定め、税務申告期限などが重なって、実務上3か月以内が一般的になっています。自社の定款と基準日の確認が必要です。
招集通知はいつまでに、どのような方法で送る必要がありますか。
原則は総会の日の2週間前までに発しますが、非公開会社では1週間前まで(取締役会非設置会社は定款でさらに短縮可)となる場合があります。ただし、書面・電磁的方法による議決権行使を採用する場合は、非公開会社でも2週間前までとなります(会社法第299条)。電子メールで通知するには株主の承諾が必要です。会社の類型と採用制度により異なります。
株主全員の同意があれば、会議を開かずに決議できますか。
議決権を行使できる株主全員が、提案について書面または電磁的記録で同意すれば、決議があったものとみなされます(会社法第319条)。ただし、全員の同意と、同意書面等の作成・保存が必要で、単に会議を開かないこととは異なります。書面・電磁的方法による議決権行使を採用している場合の招集手続の省略には別の制約があります。
計算書類は株主総会で必ず承認しなければなりませんか。
原則として、計算書類は定時株主総会の承認事項です(会社法第438条第2項)。もっとも、会計監査人設置会社で一定の要件を満たす場合には、承認は不要となり報告で足りるとされています(会社法第439条)。事業報告は、そもそも承認ではなく報告の対象です。自社の機関設計に応じて確認する必要があります。
株主からの質問には、すべて回答しなければなりませんか。
取締役等は必要な説明をする義務を負いますが、議題に関しない事項、調査が必要な事項、株主共同の利益を著しく害する事項、同一事項の繰り返しなど、一定の場合には説明を拒むことができます(会社法第314条、会社法施行規則第71条)。事前質問の有無だけで当日の対応が決まるわけではなく、質問の内容ごとの検討が必要です。
弁護士・公認会計士には株主総会の何を相談できますか。
定款・登記・株主名簿の確認、議題と決議要件の整理、招集通知や議事録案の作成・確認、計算書類等と想定問答の整合確認などを相談できます。法律相談のための会計資料の確認は、監査・保証業務や税務代理とは異なります。対応範囲や費用の決まり方は、公式ページで確認できる内容に基づきます。
過去に株主総会を開いていない場合はどうすればよいですか。
まず現状の資料を保全し、今後の適法な手続を検討します。実際には開催していない総会を開催したかのように議事録を作成したり、日付を遡らせたりすることは避けるべきです。再決議や追認の可否、登記との不一致、紛争リスクは個別に異なるため、資料を確認したうえで判断する必要があります。
まとめ
- 株主総会の準備は、招集通知・議案・決議要件・議事録という法務面と、計算書類等・事業報告・想定問答の数値の根拠という会計・財務面を、分けて確認します。
- まず定款・登記・株主名簿・過去の議事録を確認し、開催予定日から逆算して準備します。
- 「株主総会は何でも決められる」「決算後3か月以内が義務」「議決権の過半数で何でも決まる」といった一律の理解は正確ではありません。会社の類型と定款で確認します。
- 招集前に法務と財務を突き合わせ、分からない数値をその場で推測しないことが重要です。
- 総会後の登記・会計・税務は、議案ごとに分けて確認します。過去の不備は、遡って作り替えるのではなく、適法な手続を検討します。
招集・決議・通知の前に資料を確認しておくことで、必要な手続、想定される質問、総会後の対応を整理しやすくなります。最初のお問い合わせでは、機密資料を添付せず、会社名・ご相談者名・相手方や関係する株主等の名称・総会予定日・期限・ご相談の概要をお伝えいただき、利益相反の確認後にご案内する方法で資料をお送りいただく流れが安全です。神戸みらい法律会計事務所では、会社法・株主総会に関する企業法務のご相談に対応しています。
監修者・執筆者
藤井 貴之(ふじい たかゆき)
弁護士・公認会計士/兵庫県弁護士会所属/日本公認会計士協会兵庫会所属
神戸みらい法律会計事務所
会社法・株主総会に関するご相談を含む企業法務を取り扱っています。法律と会計・財務の双方の視点から、資料の確認を踏まえた手続の整理と、想定問答の根拠資料の確認をお手伝いします。株主総会の財務事項に関する共著(「財務事項を中心とした本年6月総会の想定問答」旬刊経理情報2022年4月10日号、中央経済社)などがあります。
所在地:兵庫県神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階
電話:078-797-5227(受付時間 9:00〜20:00)
参考資料
本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。株主総会に必要な手続、招集通知の期限・方法、決議要件、計算書類等の承認・報告、説明義務の範囲などは、公開会社か非公開会社かの別、機関設計、定款の定め、株主構成、議題、個別の事情により結論が異なります。実際のご対応にあたっては、最新の法令・公式情報をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。記載の内容は作成時点(2026年7月)の情報に基づくものであり、その後の法改正等により変更される場合があります。

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