交通事故でまぶたを深く切った、まぶたの組織が失われた、まつげの生え際を損傷した——治療が終わったあとも、まぶたの形が元どおりにならない、目を閉じても白目が見えている、まつげが生えてこない、という状態が残ることがあります。
まぶた(眼瞼)の欠損とまつげの欠損(認定基準上の「まつげはげ」)は、自賠責保険の後遺障害等級表に独立した障害として定められています。ただし、「まつげが抜けた」「まぶたに傷が残った」というだけで等級が決まるわけではありません。片方の目か両目か、普通に目を閉じたときに黒目(角膜)を覆えるか、白目(球結膜)が露出しているか、まつげの生え際のどの範囲に脱毛が残っているか、症状固定の時点でその状態が残っているかを、医学的な資料で確認する必要があります。
この記事で分かること
- まぶたの欠損・まつげの欠損に関係する4つの後遺障害等級(9級4号・11級3号・13級4号・14級1号)の区分
- 「著しい欠損」「一部に欠損」「まつげはげ」が、それぞれどのような状態を指すのか
- 資料によって号数の表示が食い違って見える理由と、その見分け方
- まぶたの運動障害、視力や複視などの眼球の障害、顔の傷(外貌醜状)との評価の分かれ方
- 後遺障害診断書、診療録、手術記録、写真など、申請前に確認しておきたい資料
- 後遺障害慰謝料・逸失利益・自賠責保険の支払限度額が、それぞれ別のものであること
症状固定を打診された、後遺障害診断書をこれから作成する、認定結果や示談案を受け取った——そうした段階では、手元の資料でどこまで説明できているかを一度確認しておくと、次の手続を検討しやすくなります。
まぶたの欠損障害で最初に確認したい結論
結論から整理します。まぶたの欠損とまつげの欠損については、次の点が出発点になります。
- 自賠責保険の後遺障害等級表(自動車損害賠償保障法施行令別表第二)には、まぶたの欠損について9級4号・11級3号・13級4号・14級1号の4つの区分があります。等級は片方の目か両目かと欠損の程度の組合せで分かれます。
- 程度の物差しは、普通にまぶたを閉じたときに角膜(黒目)を完全に覆えるかどうか、覆えるとしても球結膜(白目)が露出しているかどうかです。
- まつげの欠損は、まつげ縁(まつげの生えている周縁)の2分の1以上にわたる脱毛が残っているかどうかが物差しとされています。
- まぶたの欠損障害と、まぶたの運動障害(11級2号・12級2号)は別の障害です。顔の傷(外貌醜状)としての評価とも関係しますが、単純に足し算されるわけではありません。
- 右のまぶたと左のまぶたは、制度上は別々の部位として扱われます。視力や視野などの眼球の障害とも別に評価されます。
- 症状が残っていることと、後遺障害等級が認められることは同じではありません。事故との因果関係、症状固定時に残っている状態、等級の基準に当てはまるかどうかを、資料で確認する必要があります。
まぶたの欠損障害とは
「後遺症」と「後遺障害」は同じ意味ではありません
日常語としての「後遺症」は、治療を続けても症状や状態が残っていることを広く指します。これに対して、賠償の場面でいう「後遺障害」は、自賠責保険の後遺障害等級表に定められた区分に当てはまると評価されたものを指します。
まぶたに違和感がある、見た目が気になるという事情があっても、それだけで等級が認められるわけではありません。事故によって生じたものか、症状固定の時点でも残っているか、等級の文言に当てはまる状態かを、診療録や検査所見などの資料で確認していくことになります。
まぶたの欠損障害という考え方
まぶたは、まばたきによって涙を目の表面に行き渡らせ、目を閉じることで角膜を覆って保護する役割を担っています。角膜は目の中央にある透明な組織で、日本人では黒く見えるため黒目とも呼ばれます(公益社団法人日本眼科医会の解説による)。
まぶたの「欠損障害」は、外傷や手術によってまぶたの組織そのものが失われた結果、閉じても目を覆いきれない、白目が露出するといった状態が残ったものを評価する枠組みです。組織は残っているのに神経や筋肉の問題で開閉しにくい場合は、後述する「運動障害」で検討されます。
まぶたを普通に閉じても角膜を覆えない状態が続くと、角膜が乾燥や刺激にさらされやすくなることがあります。目の痛み、充血、見えにくさなどが続く場合は、後遺障害の手続よりも先に、眼科や形成外科など適切な診療科で診てもらってください。診断と治療の要否、症状固定の時期は、医師が医学的に判断する事項です。
9級4号・11級3号・13級4号・14級1号の区分
自動車損害賠償保障法施行令別表第二では、まぶたの欠損とまつげの欠損について、次の4つの等級が定められています。左右の別と欠損の程度で区分されます。
| 等級・号 | 等級表の文言 | 片眼・両眼 | 障害の程度 | 確認したい点 | 自賠責保険金額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 9級4号 | 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの | 両眼 | 著しい欠損 | 左右いずれについても、普通に閉じたときに角膜を完全に覆えない状態が残っているか | 616万円 |
| 11級3号 | 一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの | 片眼 | 著しい欠損 | どちらの目か、上まぶた・下まぶたのどこが欠けているかが資料で特定できるか | 331万円 |
| 13級4号 | 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの | 両眼 | 一部の欠損、またはまつげの欠損 | 角膜は覆えるが白目が露出しているか、またはまつげ縁の2分の1以上に脱毛が残っているか | 139万円 |
| 14級1号 | 一眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの | 片眼 | 一部の欠損、またはまつげの欠損 | 同上を、片方の目について確認できるか | 75万円 |
「又は」は「かつ」ではありません。13級4号と14級1号の文言は「一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの」です。まぶたの一部の欠損と、まつげの欠損は選択的な関係にあり、両方がそろわなければ対象にならない、という意味ではありません。
号数の表示が資料によって食い違うことがあります
まぶた・まつげの後遺障害を調べていると、同じ内容の障害に違う号数が付いている資料に行き当たることがあります。これは誤植ではなく、自賠責の等級表と労災の障害等級表とで、号の振り方が異なる箇所があるためです。
| 障害の内容 | 自賠責(自賠法施行令別表第二) | 労災(労災保険法施行規則別表第一) |
|---|---|---|
| 両眼のまぶたの一部欠損・まつげはげ | 13級4号 | 第13級の3 |
| 外貌に相当程度の醜状 | 9級16号 | 第9級の11の2 |
| まぶたの著しい欠損(9級・11級)、一眼の一部欠損(14級)、まぶたの運動障害(11級・12級) | 号数は一致(9級4号、11級3号、14級1号、11級2号、12級2号) | |
労災の等級表は、改正の際に「二の二」「一一の二」といった枝番で号を追加してきたのに対し、自賠責の等級表は号を通しで振り直しています。その結果、両眼のまぶたの一部欠損・まつげはげは、自賠責では13級4号、労災では第13級の3となっています。
交通事故の賠償で用いるのは自賠責の等級表です。自賠責の13級3号は「一眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの」、すなわち視野障害の号であり、まぶたの障害ではありません。労災の資料に書かれた号数をそのまま交通事故の書面に転記すると、まったく別の障害を指してしまいます。
もっとも、判断の中身が別々というわけではありません。国土交通省の支払基準には「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う。」と定められており、「著しい欠損」「一部の欠損」「まつげはげ」が何を指すかは、厚生労働省の障害等級認定基準で確認することになります。号数は自賠責の等級表で、定義の中身は労災の認定基準で——この使い分けが安全です。ただし、「準じて行う」ことと、労災の認定基準の内容がそのまま自賠責に直接適用されることとは同じではなく、個別の事案での評価は提出された資料に即して判断されます。
なお、認定基準では平成16年の改正により「眼瞼」の語が「まぶた」に改められています。古い資料の「眼瞼の欠損障害」も、指している内容は同じです。
「著しい欠損」「一部に欠損」「まつげはげ」の意味
厚生労働省の障害等級認定基準では、それぞれ次のように定義されています。読者向けに補足を加えていますが、定義そのものは資料の記載に沿っています。
著しい欠損——普通に閉じても角膜を覆えない
「まぶたに著しい欠損を残すもの」は、閉瞼時(普通に眼瞼を閉じた場合)に、角膜を完全に覆い得ない程度のものとされています。
ここでいう閉瞼は、強く目をつぶった状態ではなく、普通に閉じた状態です。力を入れれば閉じられるかどうかではなく、自然に閉じたときにどうかが問われます。就寝時に目が開いてしまう、角膜が乾きやすいといった訴えがあれば、その状態が診療録や所見に残っているかを確認してください。
一部に欠損——角膜は覆えるが白目が露出する
「まぶたの一部に欠損を残すもの」は、閉瞼時に角膜を完全に覆うことはできるが、球結膜(しろめ)が露出している程度のものとされています。
角膜は黒目、球結膜は白目にあたります。目を閉じたときに黒目は隠れるけれども白目が見えている、という状態がこの区分です。黒目を覆えるかどうかが、著しい欠損と一部の欠損を分ける境目になります。
まつげの欠損——まつげ縁の2分の1以上
「まつげはげを残すもの」は、まつげ縁(まつげのはえている周縁)の2分の1以上にわたってまつげのはげを残すものとされています。
物差しは、まつげが何本抜けたかではなく、まつげの生え際という「縁」のうち、どれだけの範囲に脱毛が及んでいるかです。したがって、一時的に抜けただけで症状固定の時点では生えそろっている場合、脱毛の範囲が資料から特定できない場合、事故前からまつげが薄かったなど事故によって生じた欠損かどうかを区別できない場合には、そのままでは基準に当てはまると判断できません。
上まぶたと下まぶたをどう扱うか、離れた複数の脱毛部分をどう評価するか、左右をどう扱うかといった細部は、事案の内容と提出資料によって判断が分かれ得る部分です。合算して2分の1になるといった当てはめを自分で決めてしまわず、医学的な記載を整えたうえで検討してください。なお「まつげはげ」は法令と認定基準で用いられている正式な用語で、この記事では資料を引用する場面でのみその表記を用いています。
まぶたの欠損障害と間違えやすい眼の障害
目のまわりの後遺障害は、評価の対象ごとに枠組みが分かれています。労災の障害等級認定基準は、身体障害を部位ごとに区分したうえで「障害系列」に細分しており、目については次のように整理されています。同じ「目が閉じにくい」「見た目が変わった」という訴えでも、どの枠組みで評価するかによって、必要な検査も資料も変わります。
| 障害の種類 | 障害系列上の扱い | 主な評価対象 | 関係する等級の例 | 主に確認する資料 |
|---|---|---|---|---|
| まぶたの欠損障害 | まぶたは右・左でそれぞれ別の系列。欠損障害と運動障害は同じ系列 | まぶたの組織が失われたことにより、閉じたときに角膜を覆えるか、白目が露出するか。まつげ縁の脱毛の範囲 | 9級4号・11級3号・13級4号・14級1号 | 後遺障害診断書、眼科・形成外科の所見、手術記録、閉瞼時の状態が分かる資料 |
| まぶたの運動障害 | 同上(欠損障害と同じ系列) | 組織の欠損ではなく、開閉の動きに障害が残ったこと。開いたときに瞳孔領を覆うか、閉じたときに角膜を覆えないか | 11級2号・12級2号 | まぶたの開閉に関する所見、眼瞼挙筋機能などの検査記録、神経学的所見 |
| 眼球の障害 | 両眼球で一つの部位。視力・調節機能・運動・視野がそれぞれ別系列 | 見え方や目の働きそのもの(視力、視野、複視、調節機能、眼球運動) | 視力・視野・複視などに関する各等級 | 視力検査、視野検査、複視の検査、眼球運動の検査などの結果 |
| 外貌醜状 | 頭部・顔面部・頸部の醜状障害として別の系列 | 日常露出する部分に残った瘢痕や欠損の見え方 | 7級12号・9級16号・12級14号 | 瘢痕の部位・大きさ・形状が分かる所見、受傷時から症状固定時までの経過記録 |
まぶたの運動障害(11級2号・12級2号)との違い
自賠責の等級表には、「両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの」(11級2号)、「一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの」(12級2号)という区分もあります。認定基準では、「まぶたに著しい運動障害を残すもの」は、開瞼時(普通に開いた場合)に瞳孔領を完全に覆うもの、または閉瞼時に角膜を完全に覆い得ないものとされています。
眼瞼下垂や顔面神経麻痺によってまぶたが開きにくい・閉じにくいという場合は、組織の欠損があるかどうかによって、どちらの枠組みで検討するかが変わり得ます。認定基準は、顔面神経麻痺について、その結果として現れる閉瞼不能は「眼瞼の障害」として取り扱うとしています。神経の問題が原因であっても、まぶたが閉じられないことは、まぶたの障害の枠組みで検討されるということです。
視力・視野・複視などを併発している場合
まぶたの外傷は、眼球の損傷を伴うことがあります。視力の低下、視野の異常、複視、眼球運動の制限などがある場合は、それぞれ別の検査と評価が必要です。認定基準では、同一の眼球に系列を異にする二つ以上の障害(たとえば調節機能障害と視力障害)が残る場合について、併合の方法を用いて準用等級を定めるという取扱いが示されています。
逆に、視力に問題がないことは、まぶたの欠損障害やまつげの欠損に関する等級を否定する理由にはなりません。まぶたの障害は眼球の障害とは別の系列に位置づけられており、見え方が保たれていても、まぶたの組織の欠損やまつげ縁の脱毛は別に評価の対象になり得ます。
左右のまぶたに別の障害が残った場合
右のまぶたと左のまぶたは、別々の系列として扱われます。そのため、左右にそれぞれ障害が残った場合は、併合して等級を認定するという取扱いになります。認定基準は、片方の目のまぶたに著しい欠損(11級3号相当)が、もう片方の目のまぶたに著しい運動障害(12級2号相当)が残る場合は、併合して第10級とするという例を示しています。
ただし、これは認定基準に示された一例です。実際にどう評価されるかは、残っている障害の内容と資料によって変わります。ご自身の状態を等級表に当てはめて機械的に計算するのではなく、資料を整えたうえで確認してください。複数の障害が残った場合の考え方は、次の記事で扱っています。
顔の傷(外貌醜状)との関係
まぶたの欠損は、顔に残った変化として、外貌醜状の観点からも問題になり得ます。厚生労働省の外貌の醜状障害に関する障害等級認定基準では、外貌を「頭部、顔面部、頸部のごとく、上肢及び下肢以外の日常露出する部分」と定義したうえで、眼瞼、耳介及び鼻の欠損障害については、これらの欠損障害について定められている等級と外貌の醜状に係る等級のうち、いずれか上位の等級により認定するという取扱いを示しています。
つまり、まぶたの欠損と顔の傷が必ず併合されて等級が上がる、慰謝料が二重に加算される、という関係ではありません。他方で、二つの等級のうち上位のものによる、という枠組みですから、まぶたの欠損の等級だけを見て終わりにしてよい、という意味でもありません。自賠責の外貌醜状の等級は、7級12号(外貌に著しい醜状を残すもの)、9級16号(外貌に相当程度の醜状を残すもの)、12級14号(外貌に醜状を残すもの)です。まぶた以外の部位にも瘢痕が残っている場合など、事案によって整理の仕方は変わります。
後遺障害申請前に確認したい医学資料と写真
まぶたの欠損とまつげの欠損は、状態を言葉と資料でどこまで具体的に示せるかが問われる分野です。診断名だけでは、角膜を覆えるのか、白目が露出しているのか、まつげ縁のどの範囲に脱毛が残っているのかが分かりません。
提出書類と補助資料は分けて考える
国土交通省が案内している自賠責保険の請求手続では、後遺障害の請求について、後遺障害診断書やレントゲン・CT・MRI等の画像が必要書類として示されています。他方、まぶたの状態を示す写真や手術前後の記録は、常に必須とされている書類ではなく、状態を裏づけるための補助的な資料です。両者を混同しないでください。
後遺障害診断書で確認したい記載
- 右眼・左眼のどちらか、上まぶた・下まぶたのどこかが特定され、欠損の部位と範囲が具体的に記載されているか
- 普通に開けた状態と、普通に閉じた状態の違いが分かる記載があるか
- 閉じたときに角膜を覆えるか、球結膜が露出するかについての医学的な所見があるか
- まつげ縁のどの範囲に脱毛が残っているかが記載されているか
- 視力、視野、複視、眼球運動、まぶたの開閉などを併発している場合、その検査結果が反映されているか
- 事故前の既往症、脱毛、眼疾患、手術歴との区別に必要な事情が整理されているか
医師には、医学的な事実、検査結果、残っている状態、経過を正確に記載してもらうことが重要です。特定の等級に合わせた記載や、実際と異なる記載を求めることは適切ではありません。
時期ごとに整理しておきたい記録
| 時期 | 記録・資料 | 確認したい事項 |
|---|---|---|
| 事故直後 | 診断書、診療録、救急受診時または治療開始時の写真 | 負傷部位が眼瞼として記載されているか。左右と部位が特定できるか |
| 治療・手術中 | 眼科・形成外科の診療録と検査所見、縫合・再建・植皮などの手術記録、手術前後の写真 | どの組織が失われ、どのように再建されたかが分かるか |
| 症状固定時 | 後遺障害診断書、症状固定時の所見 | 普通に閉じたときの状態、まつげ縁の脱毛の範囲が記載されているか |
| 等級申請時 | 提出書類一式の控え、補助資料の控え | 何を提出したかを自分で把握できているか |
| 認定結果後・示談前 | 後遺障害等級認定票と認定理由、保険会社からの通知・示談案・損害計算書 | どの資料をもとに、どの点が評価され、どの点が評価されなかったか |
写真を用意する場合の実務的な注意
写真は状態を伝えるうえで役に立つことがあります。撮影する場合は、撮影日、左右の別、普通に開けた状態と普通に閉じた状態、同じ距離・角度・明るさ、加工をしていないことが分かるようにしておくと、後から説明しやすくなります。これは実務上の工夫であって、正式な認定要件ではありません。
顔や目の写真は、機微性の高い個人情報です。必要な範囲で保存し、提出先を限定し、SNSなどに公開しないようにしてください。
後遺障害申請の流れ
おおまかな流れは次のとおりです。
- 症状固定——治療を続けても状態が大きく変わらないと医師が医学的に判断した段階です。まぶたの縫合、形成、再建などの経過を踏まえて判断されるもので、あらかじめ決まった期間があるわけではありません。
- 後遺障害診断書の作成——症状固定時に残っている状態を医師に記載してもらいます。
- 申請——相手方の任意保険会社を通じて進める方法(事前認定)と、自賠責保険会社に被害者が直接請求する方法(被害者請求)があります。
- 損害調査——請求書類は損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所に送られ、同機構が公正かつ中立的な立場で損害調査を行います。判断が難しい事案は自賠責保険(共済)審査会で審査されます。
- 支払額の決定——報告を受けた保険会社が、調査結果に基づいて支払額を決定します。
- 結果に納得できない場合——認定理由と提出済みの資料を確認したうえで、異議申立てなどを検討します。
後遺障害診断書の作成前や、認定結果を受け取った直後は、資料の不足や説明の抜けを見直しやすい時期です。相談により、確認すべき資料と対応方針を整理できます。
後遺障害慰謝料・逸失利益・自賠責の限度額の違い
「等級が認定されたら、いくら受け取れるのか」は、多くの方が気にされる点です。ここで混同しやすいのが、次の三つです。
- 自賠責保険の支払限度額——自賠責保険から支払われる金額の上限です。賠償の総額でも慰謝料の額でもありません。
- 後遺障害慰謝料——後遺障害が残ったことによる精神的損害に対する賠償です。自賠責の支払基準にも等級別の金額がありますが、裁判実務で用いられる基準とは水準が異なります。
- 逸失利益——後遺障害によって将来の収入が減少すると評価される場合の損害で、慰謝料とは別に検討します。
自賠責の支払限度額と支払基準上の金額
国土交通省が公表している自賠責保険の後遺障害部分の支払限度額と、支払基準(自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準。平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)に定められた後遺障害の慰謝料等の金額は、次のとおりです。金額は改定されることがあるため、手続の際は国土交通省の最新の公表内容を確認してください。
| 等級 | 自賠責保険の支払限度額(後遺障害部分) | 支払基準上の慰謝料等 | 労働能力喪失率表の率 |
|---|---|---|---|
| 第9級 | 616万円 | 249万円 | 35パーセント |
| 第11級 | 331万円 | 136万円 | 20パーセント |
| 第13級 | 139万円 | 57万円 | 9パーセント |
| 第14級 | 75万円 | 32万円 | 5パーセント |
限度額は自賠責保険から支払われる後遺障害部分の上限にすぎず、実際に受け取る賠償の総額とは別のものです。裁判実務では、日弁連交通事故相談センターが発行する「交通事故損害額算定基準」(青本)や、同センター東京支部が発行する「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(赤い本)の基準が参照され、その慰謝料の水準は自賠責の支払基準とは異なります。
逸失利益は等級だけでは決まりません
労働能力喪失率表は、等級に対応する率の目安を示したものですが、等級が認定されれば、その率が示談や裁判で当然にそのまま採用されるわけではありません。まぶたの欠損やまつげの欠損については、次のような点が具体的に検討されます。
- 目を閉じにくい、乾きやすい、光がまぶしいなど、機能面の支障が実際に生じているか
- 職種、業務の内容、画面作業や運転の頻度、対人業務の有無
- 事故の前後で、収入、配置、勤務状況にどのような変化があったか
- それらを裏づける資料(給与明細、勤務記録、業務内容が分かる資料など)があるか
将来の再建手術の費用などに触れる場合も、必要性、相当性、実施の見込みとそれを示す資料が問題になります。等級が認定されれば当然に認められるというものではありません。
よく問題になるケース
再建手術のあとも、一部の欠損やまつげの欠損が残った
手術によって形が整っても、まぶたの一部の欠損やまつげ縁の脱毛が残ることがあります。評価の対象は症状固定の時点で残っている状態です。手術前後の写真と手術記録があると、何が失われ、どこまで再建されたかを説明しやすくなります。
片眼と両眼で程度が異なる
片方は著しい欠損、もう片方は一部の欠損、というように左右で程度が異なることがあります。等級表は左右の別と程度の組合せで区分されているため、左右それぞれの状態が資料で特定できているかを確認してください。
まぶたは閉じられるが、白目が露出している
「目は閉じられます」と説明されて終わってしまうことがあります。しかし区分の物差しは、角膜を覆えるかどうかと球結膜が露出しているかどうかです。閉じられるかどうかだけでなく、閉じたときにどこまで覆えているかが記載されているかを確認してください。
まつげの範囲や永続性がはっきりしない/事故前からまつげが薄い
脱毛の範囲がまつげ縁の2分の1以上に及んでいるか、症状固定の時点でも残っているかが資料から読み取れない場合、そのままでは判断が難しくなります。また、事故前からまつげが薄かった、眼疾患や手術歴があるという場合は、事故によって生じた欠損かどうかが問題になります。事故前の状態が分かる資料(それ以前の診療録、健診記録など)があるかを確認してください。
まぶたの動きの障害、視力低下、顔の傷も残った
複数の障害が残っている場合、それぞれ別の枠組みで評価されます。一つの症状を重ねて評価することはできませんが、他の障害があるからといって、まぶたの欠損の評価が省かれてよいわけでもありません。系列の違い、併合、準用、上位等級による取扱いを含め、個別の確認が必要です。
診断書の記載が簡略/非該当や想定より低い等級となった
診断名と経過だけが書かれ、閉瞼時の状態やまつげ縁の範囲に触れていない、という場合があります。作成前や提出前に気づけば、記載の補充や資料の追加を検討できます。結果が非該当または想定より低い等級だった場合は、まず認定理由と、実際に提出された資料を確認してください。何が評価されなかったのかが分かると、追加すべき資料や説明が見えてきます。認定理由を確認せずに異議申立てを重ねても、同じ結論になることがあります。
等級の認定前に示談を促されている
示談が成立すると、あとから追加の請求をすることが難しくなる場合があります。等級や資料について確認したい点が残っている段階では、署名する前に一度確認しておくことをおすすめします。
申請前・示談前チェックリスト
- 後遺障害診断書が、前記「後遺障害診断書で確認したい記載」の各項目を満たしている
- 症状固定の時点で残っている状態として記載されている(一時的な状態と区別されている)
- 手術を受けた場合、手術記録と手術前後の状態が分かる資料がある
- 事故前の状態(既往症、脱毛、眼疾患、手術歴)との区別に必要な資料がある
- 顔のほかの部位に瘢痕が残っている場合、その部位・大きさ・形状が分かる資料がある
- 書面に記載された号数が、自賠責の等級表の号数と一致している
- 提出した書類と補助資料の控えを、自分で保管している
- 認定結果を受け取った場合、認定理由を読み、何が評価されなかったかを確認した
- 示談案を受け取った場合、後遺障害慰謝料と逸失利益がどのように計算されているかを確認した
- 示談書に署名する前に、確認したい点が残っていないかを整理した
弁護士に相談するタイミングと準備しておく資料
次の場面は、資料と方針を整理しやすい時期です。
- 症状固定を打診されたとき——何が残っているかを整理し、診断書に反映してもらう準備ができます。
- 後遺障害診断書の作成前——記載してもらうべき事項の抜けを確認できます。
- 申請方法を選ぶとき——事前認定と被害者請求のどちらで進めるかを検討できます。
- 認定結果が届いたとき——認定理由と提出資料を照らし合わせ、次の手続を検討できます。
- 示談案が提示されたとき——損害項目の立て方と計算内容を確認できます。
相談の際は、交通事故証明書、診断書と診療録の写し、検査結果、手術記録と手術前後の状態が分かる資料、後遺障害診断書、後遺障害等級認定票と認定理由、保険会社からの通知・示談案・損害計算書、就労や家事などへの影響が分かる記録があると、具体的な検討がしやすくなります。
なお、加害者に対する損害賠償請求権(民法724条・724条の2)と、自賠責保険に対する被害者請求権は別の権利で、期間の長さも起算点も異なります。後者について、国土交通省の案内では、後遺障害に関する請求は症状固定日の翌日から3年以内とされています。「交通事故の請求は一律に3年」ではありません。時期に不安がある場合は、早めに確認してください。
よくある質問
- まつげがどの程度抜けると、後遺障害の対象になりますか。
- 認定基準では、まつげ縁(まつげの生えている周縁)の2分の1以上にわたって脱毛が残っているものとされています。本数ではなく生え際の範囲が物差しです。範囲や症状固定時の残存は、医学的な記載で確認する必要があります。
- 片方の目と両目では、等級はどう変わりますか。
- 著しい欠損は、両眼で9級4号、片眼で11級3号です。一部の欠損またはまつげの欠損は、両眼で13級4号、片眼で14級1号です。左右それぞれの状態が資料で特定できることが前提になります。
- まぶたを閉じられても、白目が見える場合は対象になりますか。
- 認定基準では、閉じたときに角膜を完全に覆うことはできるが球結膜(白目)が露出している程度のものが、「まぶたの一部に欠損を残すもの」とされています。閉じられるかどうかだけでなく、どこまで覆えているかが記載されているかを確認してください。
- 調べていると「13級3号」と書かれた記事もあります。どちらが正しいのですか。
- 両眼のまぶたの一部欠損・まつげはげは、自賠責の等級表では13級4号、労災の障害等級表では第13級の3です。改正時の号の振り方の違いによるもので、内容は同趣旨です。交通事故の賠償では自賠責の等級表を用います。自賠責の13級3号は視野障害の号ですので、書面に記載する号数はご注意ください。
- まぶたの欠損障害と、まぶたの運動障害は何が違いますか。
- 欠損障害は、まぶたの組織そのものが失われたことを評価します。運動障害は、組織の欠損によらず開閉の動きに障害が残ったことを評価する枠組みで、11級2号・12級2号が定められています。なお認定基準は、顔面神経麻痺による閉瞼不能を「眼瞼の障害」として取り扱うとしています。
- まぶたの欠損と顔の傷は、併合されますか。
- 外貌の醜状障害に関する認定基準では、眼瞼、耳介及び鼻の欠損障害については、欠損障害の等級と外貌の醜状に係る等級のうち、いずれか上位の等級により認定するとされています。必ず併合される関係ではありませんが、まぶたの欠損の等級だけを見て終わりにしてよいという意味でもありません。個別の事情により結論は異なります。
- 視力に問題がなければ、対象にならないのでしょうか。
- 視力が保たれていることは、まぶたの欠損障害やまつげの欠損に関する等級を否定する理由にはなりません。まぶたの障害は、眼球の障害とは別の系列に位置づけられています。
- 等級の認定前に示談してもよいですか。
- 示談が成立すると追加の請求が難しくなる場合があります。等級や資料について確認したい点が残っている段階では、署名する前に確認することをおすすめします。
まとめ——次に確認すること
- 後遺障害診断書に、左右の別、まぶたの部位と範囲、普通に閉じたときに角膜を覆えるか、球結膜が露出するか、まつげ縁のどの範囲に脱毛が残るかが記載されているかを確認する。
- 手術記録、手術前後の状態が分かる資料、事故前の状態が分かる資料がそろっているかを確認する。
- 書面に記載された号数が、自賠責の等級表の号数と一致しているかを確認する。
- まぶたの運動障害、眼球の障害、顔の傷を併発している場合は、それぞれ別に評価されているかを確認する。
- 認定結果が届いたら、認定理由と実際に提出した資料を照らし合わせる。
- 示談書に署名する前に、等級と損害項目について確認したい点が残っていないかを整理する。
まぶたの欠損やまつげの欠損は、状態を資料でどこまで具体的に示せるかによって、評価の見通しが変わり得る分野です。後遺障害診断書の作成前、申請方法を選ぶとき、認定結果や示談案を受け取ったときに、資料の不足と対応方針を整理できます。
当事務所は初回の法律相談を無料で承っています(事前予約制)。交通事故については、可能な範囲でお電話での無料相談にも対応しています。事案によって平日夜間・土日祝のご相談、オンライン・出張相談にも対応しています。
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監修者・執筆者
代表弁護士・公認会計士 藤井 貴之
兵庫県弁護士会 所属/日本公認会計士協会兵庫会 所属 (神戸みらい法律会計事務所 神戸市須磨区中落合2丁目2−5 名谷センタービル7階)
本記事は、交通事故による後遺障害に関する一般的な情報をまとめたものです。個別の事情により結論は異なり、実際の対応にあたっては資料を確認したうえで判断する必要があります。
参考資料
- e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法施行令」(別表第二)
- e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法施行規則」(別表第一)
- 国土交通省「自賠責保険・共済の限度額と補償内容」
- 国土交通省「後遺障害等級表」
- 国土交通省「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」
- 国土交通省「労働能力喪失率表」
- 国土交通省「支払までの流れと請求方法」
- 厚生労働省「障害等級認定基準の一部改正について」(眼瞼の障害)
- 厚生労働省「外貌の醜状障害に関する障害等級認定基準について」
- 損害保険料率算出機構「当機構で行う損害調査」
- 公益財団法人日弁連交通事故相談センター「青本・赤い本のご紹介」
- 公益社団法人日本眼科医会「角膜の病気」

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