心臓・大血管損傷の後遺障害|等級・必要資料・賠償を解説 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

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心臓・大血管損傷の後遺障害|等級・必要資料・賠償を解説

交通事故で胸を強く打ち、心臓や大動脈の損傷で緊急手術や集中治療を受けた――そうした重い受傷を経て退院したあと、多くの方が迷うのは「これだけ大きな手術をしたのだから、後遺障害は当然に認められるのではないか」という点です。ペースメーカーや人工弁、人工血管が入っている、大動脈解離が残っていると言われた、動悸や息切れで以前のように働けない。そこへ保険会社から症状固定や示談の話が出ると、何を基準に判断すればよいのか分からなくなります。

結論から申し上げると、後遺障害の等級は、診断名や手術歴そのものによって決まるものではありません。症状固定の時点で心機能がどの程度残っているか、植込み型の機器が入っているか、弁置換後にどのような治療が続いているか、大動脈の偽腔が開いたまま残っているか、生活と仕事にどのような制限があるか。これらを医学資料で確認したうえで検討されます。

この記事では、後遺障害等級の区分、自賠責と労災で号数が一致しない理由、METSによる心機能の評価、人工血管やステントグラフトの扱い、症状固定の考え方、申請前にそろえたい資料、確認すべき損害項目を整理します。実際の結論は、症状固定時の状態、医療記録の内容、事故態様その他の個別事情により異なります。

後遺障害診断書を作成してもらう前に、手術記録、画像、心機能の検査結果、処方内容、仕事への支障を整理しておくと、検討すべき障害の区分と不足資料が見えやすくなります。相談により、必要資料と今後の方針を整理できます。

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心臓・大血管の後遺障害でまず押さえたい結論

自賠責保険の後遺障害等級は、自動車損害賠償保障法施行令の別表第一及び別表第二に定められています。心臓や大動脈の障害は、このうち「胸腹部臓器の機能に障害を残すもの」という枠で検討されます。

その認定の考え方は、厚生労働省が労災保険について定めた「胸腹部臓器の障害に関する障害等級認定基準について」(平成18年1月25日付け基発第0125002号)に示された循環器の障害の評価に沿って運用されています。この通知は、循環器の障害を次のとおり具体化しています。

症状固定後に残る障害の区分と、検討する自賠責保険の等級・号
残存障害の区分 厚生労働省通知(労災保険の認定基準)上の評価 対応を検討する自賠責の等級・号(施行令別表第二) 主な確認資料
心機能の低下(中等度) おおむね6METSを超える強度の身体活動が制限されるものは第9級の7の3 第9級第11号 心エコー、心電図、左室駆出率、運動耐容能に関する医師の評価
心機能の低下(軽度) おおむね8METSを超える強度の身体活動が制限されるものは第11級の9 第11級第10号 同上
植込み型除細動器の植込み 第7級の5 第7級第5号 機器の種類、植込みの理由と時期、作動記録、外来記録
ペースメーカーの植込み 第9級の7の3 第9級第11号 同上
房室弁・大動脈弁の置換(継続的な抗凝血薬療法を行うもの) 第9級の7の3 第9級第11号 手術記録、置換した弁の種類、抗凝血薬の処方と継続状況
房室弁・大動脈弁の置換(上記以外) 第11級の9 第11級第10号 同上
大動脈に偽腔開存型の解離を残すもの 第11級の9 第11級第10号 造影CT等の画像、偽腔の血流の有無、大動脈径の経時変化

自賠責の号の内容は、第7級第5号が「胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」、第9級第11号が「同、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」、第11級第10号が「同、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの」です。介護を要する状態が残った場合は別表第一の第1級第2号又は第2級第2号、より重い労務制限がある場合は別表第二の第3級第4号又は第5級第3号が問題となります。ただし、これらは胸腹部臓器の障害全般に共通する枠であり、心臓固有の基準として具体化されたものではありません。

この記事の出発点 診断名・急性期の重症度・手術歴・医療機器の存在と、症状固定時の後遺障害等級と、最終的な損害賠償額は、それぞれ別の問題です。

自賠責の等級表と労災の認定基準の関係

自賠責保険の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)は、後遺障害による損害について「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う。」と定めています。等級そのものは施行令の別表が定め、その認定の考え方が労災保険の認定基準に準じて運用されるという二段構えです。労災保険の認定基準がそのまま自賠責保険の法令になっているわけではありません。METSやペースメーカーといった具体的な評価は、施行令の条文ではなく厚生労働省の通知に書かれています。

読者の方が混乱しやすいのが号数の表記です。通知は労災保険の障害等級表に沿って「第9級の7の3」「第11級の9」と表記しますが、同じ内容の障害でも自賠責の別表第二では付番が異なります。たとえば「胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの」は、労災では第11級の9、自賠責では第11級第10号です。文言は同じでも、労災の障害等級表が改正のたびに枝番(「7の3」など)を用い、削除された号の番号もそのまま残しているのに対し、自賠責の別表第二は一から連番で振り直されているためです。通知の号数をそのまま自賠責の号数として用いることはできません。

制度の混同にご注意ください 心臓の障害については、自賠責保険の後遺障害等級のほかに、労災保険の障害等級、身体障害者手帳の心臓機能障害、障害年金の障害等級という別の制度があります。級の呼び方が似ているため、検索した情報が別制度のものである場合があります。この記事は自賠責保険の後遺障害等級を対象としています。

心臓・大血管の損傷と、症状固定後に残る障害

鈍的な胸部外傷では、心臓そのものが損傷することがあります。日本小児循環器学会の資料では、鈍的心臓外傷として、直接の死亡原因となりやすい心破裂のほか、弁膜障害、冠動脈障害、伝導障害、心室中隔障害が挙げられています。

後遺障害の認定基準で直接問題になる大血管は、大動脈です。肺動脈、大静脈その他の血管の損傷に、同じ基準がそのまま当てはまるわけではありません。鈍的外傷による大動脈損傷では、内膜と中膜の断裂により大動脈峡部に限局する仮性瘤の形成を引き起こすことが多いとされています(日本血管外科学会の学会誌に掲載された症例報告)。大動脈解離とは、大動脈の壁の中膜が裂けて血液が流れ込み、血管のなかに二つの通り道ができる状態をいいます(国立循環器病研究センター)。もともとの通り道を真腔、新しくできた通り道を偽腔と呼び、偽腔に血流があるものを偽腔開存型、血栓で閉じているものを偽腔閉塞型と整理しています(日本循環器学会ほか四学会合同「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン」2020年改訂版)。この区別が、後遺障害の評価に直結します。

救命のために開胸手術や長期の集中治療を要したことは、受傷の重さを示す事実です。しかし、等級は症状固定の時点で何が残っているかによって検討されます。急性期の重症度そのものを理由として等級が認められる仕組みにはなっていません。

強い症状があるときは受診を優先してください 胸痛、背部痛、呼吸困難、失神などの新たな強い症状があるときは、後遺障害や示談の検討よりも、受診又は救急要請を優先してください。この記事は一般的な法律情報であり、診断や治療に代わるものではありません。

循環器の障害として具体的に評価される四つの類型

心機能が低下したもの

通知は、心筋梗塞、狭心症、心臓外傷等の後遺症状により心機能が低下したものについて、心機能の低下による運動耐容能の低下の程度によって等級を認定するとしています。中等度の低下は、おおむね6METSを超える強度の身体活動が制限されるもの。軽度の低下は、おおむね8METSを超える強度の身体活動が制限されるものとされています。

METS(メッツ)は、安静に座っている状態を1として、その何倍のエネルギーを消費するかで身体活動の強さを表す指標です(厚生労働省「e-ヘルスネット」)。通知には、作業・運動の内容と運動強度との関連を示す表が添えられています。

作業・運動の内容と運動強度(METS)との関連(厚生労働省通知の別添による)
運動強度(METS) 作業・運動の内容の例
1~2 机上の事務的な仕事、パソコン・タイプ作業、ゆっくりとした歩行(時速1~2キロメートル程度)、食事・洗顔・歯磨き
2~3 守衛・管理人の業務、調理作業、立って電車等に乗る
3~4 機械の組立作業、溶接作業、トラックの運転、タクシーの運転、普通の歩行(時速4キロメートル程度)、シャワーを浴びる
4~5 軽い大工仕事、草むしり、階段を降りる
5~6 大工作業、農作業、垣根の刈り込み、階段を昇る
6~7 シャベルを使う穴掘りの作業、雪かき、早足での歩行
7~8 ジョギング(時速8キロメートル程度)
8~ 階段を連続して昇る、ジョギング(時速10キロメートル程度)

この表は、どの程度の身体活動が制限されているかを具体的にイメージするための手がかりです。もっとも、特定の作業ができないという事実だけで等級が決まるわけではありません。通知が定めているのは運動耐容能の低下の程度であり、しかも「おおむね」という表現が用いられています。症状、心機能の検査結果、危険な不整脈の有無、残存する虚血、治療の継続状況を含めて確認されます。

心機能の指標としては、心臓が1回の収縮で送り出す血液の割合を示す左室駆出率(LVEF)が用いられます。通知は、心筋梗塞について、左室駆出率がおおむね40%以上を維持している場合に心機能の低下が軽度であるといえることから、これをひとつの目安としたうえで、様々な指標を総合的に勘案して治ゆの判断を行う必要があるとしています。これは治ゆ(症状固定)の時期を判断するための目安であり、数値がいくつであれば何級という対応関係が定められているわけではありません。

植込み型除細動器・ペースメーカー

通知は、植込み型除細動器を植え込んだものを第7級の5、ペースメーカーを植え込んだものを第9級の7の3としています。両者は評価が異なりますので、機器の種類を正確に確認する必要があります。

もっとも、機器が入っているという事実だけで自動的に等級が認められるわけではありません。その植込みが交通事故による受傷を原因とするものか、症状固定に至っているか、心機能の低下が併存していないかが確認されます。なお、日本不整脈心電学会のステートメントでは年1回以上の対面診療が推奨され、国立循環器病研究センターの解説ではペースメーカーの電池寿命はおおむね5年から10年とされています。こうした管理の実態は、後述する将来費用の検討材料になります。弁形成術、補助人工心臓、リードレスの機器その他の治療について、通知が同じ等級を定めているわけではありません。

房室弁又は大動脈弁の置換

通知は、房室弁又は大動脈弁を置換したもののうち、継続的に抗凝血薬療法を行うものを第9級の7の3、これに該当しないものを第11級の9としています。区別の基準は、置換後に抗凝血薬の投与が続いているかどうかです。

日本心臓血管外科学会の解説では、機械弁は血栓を生じやすく血液の凝固を抑える薬を一生飲み続ける必要があるのに対し、生体弁は手術後3か月程度の服用で足りる場合があるとされ、他方で生体弁は10年から15年前後で機能が低下し再手術が必要となるとも説明されています。ただし、弁の種類だけで結論を決めることはできません。心房細動などの合併があれば生体弁でも投与が続きますし、弁を置換したのか弁形成術を行ったのかによっても評価の枠が変わります。処方内容と手術の内容を、診療録と手術記録で確認する必要があります。

大動脈に解離を残すもの

通知は、大動脈に解離を残すものについて、偽腔開存型の解離を残すものを第11級の9としています。基準とされているのは、手術を受けたかどうかではなく、症状固定の時点で偽腔が開存したまま残っているかどうかです。

そのうえで同じ通知は、偽腔開存型の解離を残すものは症状が安定しないものが多いことから、その治ゆの判断にあたっては、急性期経過後少なくとも5年間にわたって大動脈径がほとんど拡大しないことを確認するなど、症状の経過を慎重に見極めることが必要であるとしています。

「5年」の意味 これは、労災保険の認定基準において、いつの時点で症状が安定したと医学的に判断できるかを示す考え方であり、通知も「症状の経過を慎重に見極めることが必要である」という趣旨で述べています。自賠責保険に、5年を経過しなければ申請できないという法定の待機期間が定められているわけではありません。実際の症状固定の時期は、治療経過を踏まえた主治医の判断によります。時効との関係も個別に確認する必要があります。

複数の障害が併存する場合

通知は、胸腹部臓器に認定基準に該当する障害が二つ以上ある場合について、労働者災害補償保険法施行規則第14条第4項により併合の方法を用いて準用等級を定めることとし、除細動器又はペースメーカーを植え込み、かつ心機能が低下したものについても同様の取扱いを示しています。他方で、胸腹部臓器の障害と系列を異にする障害が通常派生する関係にある場合には、併合することなく、いずれか上位の等級により認定するとされています。

注意が必要なのは、労災保険で用いられる「準用」と、自賠責保険の別表第二の備考に定める「相当」は、根拠も要件も同一ではないという点です。また、障害が複数あれば当然に併合されるというものでもありません。大動脈の損傷に伴って脳梗塞、脊髄障害、腎障害、下肢の障害などが生じている場合は、それぞれ独立した残存障害といえるか、因果関係があるか、どの系列の障害かを個別に検討します。

症状固定や後遺障害診断書の作成の前に、手術記録、造影CT等の画像、心機能の検査結果、植込み機器の作動記録、処方内容、仕事への具体的な支障を整理しておくと、どの区分で検討すべきかが見えやすくなります。

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人工血管置換・ステントグラフト後に注意したい点

大動脈の治療として、解離した部位を人工血管に置き換える手術や、カテーテルを用いて血管の内側にステントグラフトを留置する手術が行われることがあります。インターネット上には、これらの手術を受ければ特定の等級になるという説明も見られますが、厚生労働省の通知は、術式そのものを要件とする定めを置いていません。基準としているのは、症状固定時に偽腔開存型の解離が残っているかどうかです。

むしろ同じ通知は、解離した部位を全て人工血管に置換した場合、又は偽腔閉塞型の大動脈解離であって解離部の線維化が完成した場合について、それらの部位に脆弱性はなく、運動等の制限は必要ないことから、障害等級に該当する程度の障害を残すことはないとしています。つまり、完全に置換されている場合には、大動脈解離を理由とする等級の検討がかえって難しくなる方向で整理されているということです。確認すべきは次の点です。

  • 解離した範囲のすべてが人工血管に置換されたのか、一部にとどまるのか
  • 症状固定の時点で、偽腔に血流が残っているのか、血栓で閉じているのか
  • 偽腔閉塞型の場合、解離部の線維化が完成したと評価できる状態か
  • 大動脈径が経時的にどう推移しているか(複数時点の画像の比較)
  • 大動脈の損傷に伴う脳、脊髄、腎臓、腸管、下肢等の二次的な障害がないか
  • 心機能の低下、弁の障害、不整脈など、大動脈以外の残存障害がないか

これらは、造影CT等の画像と読影報告書、手術記録、外来の診療録を時系列で確認しなければ判断できません。個別事情により結論は異なります。

症状固定の時期をどう考えるか

症状固定は、通院を終えた日でも、保険会社が治療費の支払を打ち切った日でもありません。治療を続けても症状の改善が見込めない状態に至ったという医学的な判断であり、「事故から6か月」といった一律の基準はありません。厚生労働省の通知には、次の考え方が示されています。いずれも労災保険の認定基準における治ゆの判断の目安であり、自賠責保険が申請の時期を一律に定めたものではありません。

  • 心筋梗塞については、左室駆出率がおおむね40%以上を維持している場合に心機能の低下が軽度であるといえるとしたうえで、様々な指標を総合的に勘案して治ゆを判断する必要があるとされています。
  • 狭心症については、原則として、症状が軽度(日常生活や通常の身体活動には支障がない程度)に改善されたものでなければ治ゆと判断できないとされています。心機能の低下による運動耐容能の低下が軽度を超えるものも、通常、療養を要することから治ゆと判断できないとされています。
  • ペースメーカーについては、機器の機能点検及びペーシングの調整が完了し、安定した状態に至ったときをもって治ゆと判断できるとされ、その時期はおおむね6か月経過時と整理されています。
  • 偽腔開存型の解離を残すものについては、症状が安定しないものが多いことから、治ゆの判断にあたって、急性期経過後少なくとも5年間にわたって大動脈径がほとんど拡大しないことを確認するなど、症状の経過を慎重に見極めることが必要であるとされています。

資料をそろえるために、医学的に必要な治療や手術の時期を先延ばしにすることは避けてください。症状固定の時期の判断は主治医が個別に行うものであり、この記事がそれに代わるものではありません。症状固定一般の考え方については、症状固定と言われたときの確認事項を見るもあわせてご確認ください。

申請前に確認する医学資料・生活資料・職務資料

循環器の障害では、後遺障害診断書だけでは残存障害を説明しきれないことが少なくありません。すべての事案で同じ検査が必要になるわけではなく、症状と残存障害に応じて、医師が必要と判断した資料をそろえていくことになります。

心臓・大血管の後遺障害で確認を検討する医学資料
資料 確認する目的 注意点
救急搬送記録、救急外来記録、集中治療記録 受傷直後の状態、胸部への外力、初期の心機能 因果関係の検討に用います。搬送先と転院先に記録が分かれていることがあります。
手術記録、退院時サマリー、紹介状 手術の範囲、置換した弁や人工血管の種類、術中所見 解離部を全て置換したのか一部にとどまるのかは、手術記録でなければ確認できないことがあります。
造影CT、MRI等の画像データと読影報告書 偽腔の血流の有無、残存範囲、大動脈径の経時変化 複数時点の比較が必要です。画像そのものと読影報告書の両方を取り寄せてください。
心電図、心エコー、左室駆出率、血液検査 心機能、心筋障害、弁の状態 数値だけで等級が決まるものではなく、症状や治療経過とあわせて確認されます。
運動耐容能に関する医師の評価 どの程度の身体活動が制限されているか ホルター心電図、運動負荷試験等は、症状に応じて医師が必要と判断した場合の資料候補です。自賠責保険が一律に求める検査ではありません。
植込み機器の記録、処方内容が分かる資料 機器の種類と管理状況、抗凝血薬療法の継続 事故前からの心疾患を理由とする植込みでないかが確認されます。処方は開始時期と継続期間を確認します。
後遺障害診断書 症状固定日、自覚症状、他覚所見、検査結果 診療録や検査結果と整合しているかが確認されます。記載があれば当然に認定されるものではありません。

あわせて、日常生活と仕事への影響を示す資料も重要です。これらは医療機関では作成されませんので、被害者側で準備することになります。

  • 階段の昇降、歩行、入浴、家事、通勤など、どの動作でどのような症状が出るかの時系列の記録
  • 職務内容が分かる資料と、身体負荷、夜勤、高所作業、出血のリスク、電磁的な干渉が問題となる環境の有無
  • 配置転換、業務制限、休職、欠勤、退職に関する勤務先の記録
  • 事故前後の収入が分かる資料(源泉徴収票、給与明細、確定申告書など)

資料の集め方については、後遺障害診断書の準備資料を確認するもご参照ください。

事故との因果関係と既往症

心臓や大動脈の疾患は、外傷によらず自然に発症することもあります。そのため、相手方から「事故とは無関係の疾病ではないか」と主張されることがあります。外傷性のものであることを検討する材料としては、事故態様と受傷機転(胸部にどのような力が加わったか)、車両の損傷状況や刑事記録、症状が出現した時期、救急搬送時のバイタルと初診時の所見、事故直後の画像と検査結果、手術所見、事故前の健康診断結果や診療録が挙げられます。

他方で、高血圧、動脈硬化、先天性の疾患、既往の心疾患や大動脈疾患があるからといって、直ちに事故との因果関係が否定されるわけでも、必ず素因減額がされるわけでもありません。因果関係があるか、既往症がどの程度寄与したか、素因減額をすべきかは、それぞれ別の判断です。いずれも資料と個別事情により結論が変わります。

後遺障害の申請と不服申立て

後遺障害の申請には、任意保険会社を通じて手続を進める方法(実務上「事前認定」と呼ばれます)と、被害者側から自賠責保険会社へ直接請求する方法(被害者請求)があります。どちらが常に有利ということはなく、事案によります。国土交通省の資料では、後遺障害の請求について後遺障害診断書が必ず提出する書類とされ、レントゲン・CT・MRI等の画像が状況に応じて必要な書類とされています。循環器の障害では、これに加えて手術記録、心機能の検査結果、処方内容をどこまで添えるかが結果を左右します。

認定結果に不服がある場合には、損害保険会社に対する異議申立てのほか、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構への申請を検討することができます。まずは認定理由を読み、どの点が不足していると判断されたのかを把握することが出発点です。心機能の評価が足りなかったのか、因果関係が問題とされたのか、偽腔の状態が確認できなかったのかによって、追加すべき資料は異なります。詳細は事前認定と被害者請求の違いを見る後遺障害が非該当となった場合の異議申立てを確認するをご確認ください。

時効・期間制限で確認すべきこと

自賠責保険の被害者請求権と、加害者に対する民法上の損害賠償請求権は、別の権利であり、期間制限も別に定められています。国土交通省の案内では、自賠責保険・共済の請求権は3年で時効となるとされ、被害者請求における後遺障害分については症状固定日の翌日から3年とされています。他方、加害者に対する損害賠償請求権については、民法第724条が、損害及び加害者を知った時から3年間、不法行為の時から20年間としたうえで、同法第724条の2が、人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権については前者の「3年間」を「5年間」とする旨を定めています。

もっとも、症状固定の時期に争いがある場合、遅発性の障害が問題となる場合、示談交渉や請求手続の経過がある場合には、起算点や時効の完成猶予・更新の有無が事案によって変わります。事故日、症状固定日、請求履歴、示談交渉の経過を確認したうえで判断する必要があります。特に偽腔開存型の大動脈解離のように経過観察が長期にわたる類型では、症状固定を待つ間に期間が進行していないかを早めに確認してください。

請求を検討する損害項目

後遺障害の等級が認定されると、自賠責保険の支払基準に従って後遺障害慰謝料と逸失利益が算定されます。もっとも、これは自賠責保険の支払の枠組みであり、加害者に対して請求し得る民事上の損害賠償額と同一ではありません。自賠責保険の支払限度額は、後遺障害について、別表第一に該当する場合は第1級4,000万円・第2級3,000万円、別表第二に該当する場合は第1級3,000万円から第14級75万円までとされています(国土交通省)。これは限度額であって、損害の総額を意味するものではありません。

心臓・大血管の後遺障害で確認する主な損害項目
損害項目 確認する資料 注意点
治療費、入院雑費、付添費、通院交通費 診療報酬明細書、領収書、付添いの状況が分かる資料 集中治療や長期入院を伴う事案では、付添いの必要性と期間が争点となることがあります。
休業損害 源泉徴収票、給与明細、休業の記録、確定申告書 復職後に業務が制限されている場合は、その内容も記録に残してください。
入通院慰謝料、後遺障害慰謝料 入通院の期間と実日数、認定された等級 自賠責保険の支払基準による金額と、裁判実務上参照される基準による金額は同一ではありません。
後遺障害逸失利益 収入資料、職務内容、業務制限や配置転換の記録 等級に対応する労働能力喪失率を機械的に当てはめれば足りるものではありません。
将来治療費、定期検査費、投薬費 主治医の意見、治療計画、診療報酬資料 医学的な必要性、実施の蓋然性、時期、頻度、単価、期間を資料で示す必要があります。
医療機器の管理・交換費、将来手術費 機器の種類と管理状況、再手術の見込みに関する医師の意見、見積り 将来の電池交換や再手術を、一般論として当然に必要と扱うことはできません。
将来介護費、介護器具費、住宅・自動車改造費 介護の必要性と内容、実際の負担、見積り 介護を要する重い状態が残った場合に、必要性と内容を個別に検討します。

逸失利益については、自賠責保険の支払基準に付属する労働能力喪失率表で、第7級は56%、第9級は35%、第11級は20%とされています。もっとも、実際の交渉や訴訟では現実の仕事内容と収入への影響が問題になります。心臓・大血管の障害では、身体負荷を伴う作業、夜勤、高所作業、出血のリスクを伴う作業、電磁的な干渉が問題となる環境での作業が具体的な制約となり得ます。

職業運転については、警察庁の通達(令和4年3月14日付け警察庁丁運発第68号)が、植込み型除細動器を植え込んでいる者について、医師が植込み後6か月を経過し過去3か月以内に適切作動がないこと等を診断した場合には運転免許の拒否等を行わない旨を示しています。また、日本不整脈心電学会のステートメントでは、植込み型除細動器を装着している方について大型免許、中型免許及び第二種免許は認められないとされています。運転を伴う職種の方は、こうした制約が就労に与える影響を資料で示すことが考えられます。免許の可否は医師の診断と公安委員会の判断によりますので、ご自身の状況は主治医にご確認ください。逸失利益の計算方法一般は、後遺障害逸失利益の計算方法を確認するをご覧ください。

なお、業務中又は通勤中の交通事故であった場合には、労災保険の給付もあわせて検討することになります。自賠責保険と労災保険は別の制度であり、同じ等級であっても号数や手続は一致しません。同一の損害項目について給付の調整が問題となることや、示談の内容が労災保険の給付に影響し得ることがありますので、示談書に署名する前に確認してください。胸腹部臓器の障害全般の枠組みについては、内臓損傷の後遺障害等級と平成18年改正の要点を見るもあわせてご確認ください。

申請・示談前のチェックリスト

  • 症状固定の前 治療や手術の予定が残っていないか。症状固定の時期について主治医の判断を確認したか。保険会社の治療費対応の終了と症状固定を混同していないか。
  • 後遺障害診断書の作成前 残存症状を、心機能の低下、植込み機器、弁置換後の治療、大動脈の残存所見、その他の障害に分けて整理したか。各項目について、どの検査結果と診療録が残っているかを確認したか。
  • 申請前 救急記録、手術記録、画像データと読影報告書、処方内容を取り寄せたか。事故前の診療記録の有無を確認したか。日常生活と職務上の支障を示す資料を用意したか。
  • 認定結果を受け取った後 認定理由を読み、どの点が不足していると判断されたかを確認したか。追加できる医学資料や職務資料があるかを検討したか。
  • 示談書・免責証書への署名前 損害項目と内訳を確認したか。将来治療費や機器の管理費が検討されているか。時効の起算点と残期間を確認したか。労災保険の給付との関係を確認したか。

弁護士に相談を検討したいタイミング

  • 後遺障害診断書を作成してもらう前。残存障害の区分ごとに、どの資料が必要かを整理できます。
  • 保険会社から症状固定を提案されたとき。治療経過と主治医の判断を踏まえた確認ができます。
  • 後遺障害の認定結果を受け取ったとき。認定理由と不足資料を確認し、対応方針を検討できます。
  • 示談案の提示を受けたとき。損害項目と内訳、将来費用の扱いを確認する余地があります。
  • 事故との因果関係や既往症について、相手方から指摘を受けたとき。争点と必要な資料を整理できます。

相談によって等級や賠償額が保証されるわけではありません。もっとも、資料を確認したうえで、検討すべき障害の区分、不足している資料、手続の見通しを整理することはできます。

よくある質問

心筋挫傷や心臓損傷の診断があれば、後遺障害として認められますか。

診断名だけで決まるものではありません。通知が定めているのは、症状固定の時点で心機能が低下しているか、植込み機器があるか、弁を置換して抗凝血薬療法が続いているか、偽腔開存型の解離が残っているかという内容です。急性期に重い状態であっても、症状固定時に機能が回復していれば、これらの要件を満たさないことがあります。

METSとは何ですか。数値だけで等級が決まるのですか。

METSは、安静に座っている状態を1として、その何倍のエネルギーを消費するかで身体活動の強さを表す指標です。通知はおおむね6METS、おおむね8METSを超える活動が制限されるものを区分していますが、いずれも「おおむね」とされています。心機能の検査結果、症状、不整脈の有無、治療の継続状況を含めて確認されますので、数値だけで決まるものではありません。

ペースメーカーや植込み型除細動器が入っていれば、等級は認定されますか。

通知は、植込み型除細動器とペースメーカーとで異なる評価を示しています。もっとも、機器があるという事実に加えて、その植込みが交通事故によるものといえるか、症状固定に至っているか、他に心機能の低下が併存していないかが確認されます。資料を確認したうえでの判断が必要です。

人工弁を入れた後の抗凝血薬の治療は、評価に関係しますか。

関係します。通知は、房室弁又は大動脈弁を置換したもののうち、継続的に抗凝血薬療法を行うものとそれ以外のものとを区別しています。ただし、弁の種類だけで決まるものではなく、実際の処方内容、投与が続いているか、弁置換なのか弁形成なのかを手術記録と処方の記録で確認する必要があります。

人工血管置換やステントグラフト内挿術を受ければ、第11級になりますか。

そのようには整理されていません。通知が基準としているのは、偽腔開存型の解離を残すものという残存所見であり、術式ではありません。むしろ通知は、解離した部位を全て人工血管に置換した場合や、偽腔閉塞型であって解離部の線維化が完成した場合について、障害等級に該当する程度の障害を残すことはないとしています。症状固定時の画像で偽腔の状態と大動脈径の推移を確認する必要があります。

外傷性の大動脈解離では、いつ症状固定になりますか。

一律の時期は定められていません。厚生労働省の通知は、偽腔開存型の解離を残すものについて、急性期経過後少なくとも5年間にわたって大動脈径がほとんど拡大しないことを確認するなど、症状の経過を慎重に見極めることが必要であるとしています。これは労災保険の認定基準における治ゆ判断の考え方であり、自賠責保険に法定の待機期間があるという意味ではありません。実際の時期は主治医が判断します。時効の起算点と残期間もあわせてご確認ください。

高血圧や心臓の持病があると、事故との因果関係は否定されますか。

既往症があることから直ちに否定されるわけではありません。事故態様、胸部への外力、症状が出現した時期、救急搬送時の記録、事故直後の画像や検査結果、手術所見、事故前の診療記録を照らし合わせて検討されます。因果関係の有無と、既往症の寄与、素因減額をすべきかは別の判断であり、いずれも個別事情により結論は異なります。

後遺障害が非該当、又は想定より低い等級だった場合はどうすればよいですか。

まず認定理由を確認し、どの点が不足していると判断されたのかを把握してください。心機能の評価が足りなかったのか、因果関係が問題とされたのか、偽腔の状態が確認できなかったのかによって、追加すべき資料は異なります。そのうえで、異議申立てや自賠責保険・共済紛争処理機構への申請を検討します。示談書に署名する前であれば、対応を検討する余地があります。

まとめ

  • 心臓・大血管の後遺障害は、診断名や手術歴ではなく、症状固定時に残っている機能障害、植込み機器、弁置換後の治療、大動脈の残存所見によって検討されます。
  • 等級は自動車損害賠償保障法施行令の別表が定め、認定の考え方は労災保険の認定基準に準じて運用されます。号数の付番は両制度で一致しません。
  • 心機能の低下はMETSで表される運動耐容能の低下の程度によって評価されますが、数値だけで決まるものではありません。
  • 大動脈については、偽腔開存型の解離を残すものが基準であり、術式そのものは要件ではありません。全置換や偽腔閉塞型で線維化が完成した場合は、障害等級に該当する程度の障害を残すことはないとされています。
  • 症状固定に一律の期間はありません。「急性期経過後少なくとも5年」は治ゆの医学的な考え方であり、法定の待機期間ではありません。
  • 申請前に、救急記録、手術記録、画像データと読影報告書、心機能の検査結果、処方内容、生活と職務の資料を整理してください。
  • 自賠責保険の限度額と、加害者に対して請求し得る損害賠償額は別のものです。将来費用と逸失利益は資料に基づく立証が必要です。
  • 後遺障害診断書の作成前、申請前、示談書への署名前に、資料と争点を一度確認することをおすすめします。

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監修者・執筆者

弁護士・公認会計士 藤井貴之

兵庫県弁護士会所属。神戸みらい法律会計事務所の代表弁護士・公認会計士として、交通事故、相続、企業法務、労働問題、損害賠償など、個人・法人双方の法律相談に対応しています。

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本記事は、法令、告示、行政通達及び学会等の公表資料に基づいて作成した一般的な情報であり、医学的事項について医師の監修を受けたものではありません。診断、検査及び治療については担当医にご確認ください。個別の後遺障害等級、請求の可否及び賠償額を保証するものではなく、実際の結論は事故態様、受傷内容、治療経過、症状固定時の状態、証拠関係その他の個別事情により異なります。

参考資料

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