屈筋腱・伸筋腱断裂の後遺障害|自動と他動で変わる手指の評価 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

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屈筋腱・伸筋腱断裂の後遺障害|自動と他動で変わる手指の評価

交通事故で手や指を切り、あるいは指を強くねじられて、屈筋腱又は伸筋腱の断裂と診断される方がおられます。腱を縫う手術を受け、装具を着け、リハビリテーションにも通った。それでも指先が曲がらない、伸びない。自分では動かせないのに、反対の手で押せば動く。そうした状態のまま症状固定を迎え、後遺障害の何級に当たるのか分からないというご相談をいただきます。

先に結論の方向をお伝えします。「屈筋腱断裂」「伸筋腱断裂」という傷病名や、腱縫合術を受けたという治療歴だけでは、後遺障害の等級は決まりません。確認されるのは、症状固定の時点で、どの指の、どの関節が、どちらの向きに、どれだけ動かなくなったのか、そして動かない原因を医学資料で説明できるのかです。腱の損傷では、他人が動かせば動くのに自分では動かせないという状態が残ることがあり、この点をどう記録するかで検討できる等級が変わります。

この記事では、屈筋腱と伸筋腱の働き、腱断裂の後に残る状態、自動運動と他動運動の違い、等級の検討枠組み、後遺障害診断書の作成前と申請前に確認したい資料を、法令・通達・学会資料に基づいて整理します。手指の欠損障害を含む等級の一覧は別の記事で扱っていますので、本記事は腱の損傷と直接関係する範囲に絞ります。

腱断裂による手指の機能障害は、後遺障害診断書にどの関節の、自動と他動のどちらの数値が記載されているかによって、検討できる枠組みが変わることがあります。診断書、手術記録、可動域の測定結果、保険会社からの書面を確認したうえで、資料の過不足と次に確認すべき事項を整理することができます。

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先に押さえておきたい五つのポイント

  • 傷病名や手術歴では等級は決まりません。評価の対象は、症状固定の時点で残っている動きの制限と、その原因です。手術で動きが戻れば非該当となることもあります。
  • 「手指の用を廃したもの」で判定されるのは、MP関節とPIP関節(おや指はIP関節)です。DIP関節(第一関節)だけが動かない場合は、この枠組みではなく第14級7号で検討されます。DIP関節の数値しか記載のない診断書では、上位の等級を検討できないことがあります。
  • 可動域の測定は原則として他動運動によりますが、第14級7号の基準は「自動で屈伸ができないもの」を掲げています。腱断裂は、他動では動くのに自動では動かないという状態が生じる典型例です。自動と他動の両方を関節ごとに記録してください。
  • 「原因が明らかなもの」であることが要件です。可動域の数値だけでなく、どの指のどの腱が、どの部位で、完全に切れていたのか一部だったのかを示す手術記録・術中所見が重要になります。
  • 神経も同時に切れている場合は、別の経路があります。指先の感覚が完全に失われた場合は、可動域とは別の要件で「手指の用を廃したもの」が検討されます。

屈筋腱・伸筋腱が切れると、何ができなくなるのか

屈筋腱は「曲げる力」を指に伝えます

日本整形外科学会の一般向け解説によれば、指を曲げる筋肉は前腕にあり、その筋肉と指の骨とを腱がつないでいます。おや指を曲げるのが長母指屈筋腱、ひとさし指からこ指までのDIP関節(第一関節)を曲げるのが深指屈筋腱、同じくPIP関節(第二関節)を曲げるのが浅指屈筋腱です。腱が切れると筋肉の力が指に伝わらなくなり、その腱が担当する関節を自分で曲げられなくなります。慶應義塾大学病院の解説も、深指屈筋腱が切れるとDIP関節の屈曲ができなくなり、浅指屈筋腱が切れるとPIP関節の屈曲力が低下すると説明しています。

日本整形外科学会は、指先のDIP関節だけが曲がらないときは深指屈筋腱のみの損傷が、次のPIP関節も曲がらないときは両方の損傷が考えられるという趣旨の説明をしています。もっとも、実際にどの腱がどこで損傷したかは手術所見や画像で確認されるものです。握る動作の様子だけから損傷した腱を決めつけることはできません。

伸筋腱は「伸ばす力」を指に伝えます

伸筋腱は手の甲側を通り、指を伸ばす働きに関係します。伸筋腱は指の背側で複数の線維に分かれて骨に付着しているため、切れた部位によって伸ばせなくなる関節が異なります。読者の方が目にすることが多いのは、次の二つです。

伸筋腱の損傷部位と、生じ得る変形
損傷部位 生じ得る状態 主な特徴
DIP関節の背側 マレット変形(槌指) 第一関節が曲がったままになり、自分では伸ばせない。他動では伸ばせることが多い
PIP関節の背側(中央索) ボタン穴変形 中央索が切れることにより生じるとされる。第二関節の伸展に影響する

日本整形外科学会は、マレット変形について、第一関節が曲がったままで自分で伸ばそうとしても伸びない(自動伸展が不能である)が、他動では伸ばせる状態であると説明しています。診療録や手術記録には、部位ごとに「終末伸筋腱」「中央索」「総指伸筋腱」「長母指伸筋腱」といった名称が記載されることがあります。どの部位の損傷かは、主治医の所見でご確認ください。

腱性マレット指と骨性マレット指は区別されます

日本整形外科学会は、マレット変形には、伸筋腱が切れたために生じるもの(腱性マレット指)と、伸筋腱が付いている骨が関節内で骨折してずれたもの(骨性マレット指)があり、骨折の有無で治療法が変わるためX線撮影が重要であるとしています。腱の問題なのか骨の問題なのかは、後遺障害の検討でも原因の説明に関わります。診断書に「マレット」とだけ記載されている場合は、X線所見をあわせて確認してください。

腱断裂と混同されやすい病態

ばね指、腱鞘炎、デュピュイトラン拘縮、末梢神経の麻痺は、いずれも腱の断裂とは異なる病態です。「指が動かしにくい」という症状は共通していても、原因も、後遺障害として検討される枠組みも異なります。関節リウマチなど、事故とは別の原因で腱が切れることもあります。診断名は診断書で確認し、自己判断は避けてください。診断、治療、症状固定の時期は、いずれも医師の医学的な判断によるものです。

手術を受けたのに動かない――腱断裂の後に残る状態

自動運動と他動運動は別のものです

自動運動は自分の筋肉の力で動かすこと、他動運動は他人や反対の手で動かしてもらうことをいいます。腱が切れて筋肉の力が指に伝わらない状態では、自分では動かせないのに、他人が動かせば動くという状態になります。これに対し、関節そのものが固まってしまった場合(拘縮・強直)は、他動でも動きません。

ただし、「他動で動けば腱の問題」「他動でも動かなければ関節の問題」と機械的に振り分けることはできません。腱の癒着、再断裂、腱のゆるみ、関節の拘縮、皮膚のひきつれ、神経の損傷、骨折後の変形などが重なって生じている場合があるためです。原因の判断は医学的な評価であり、手術所見、画像、経過の記録とあわせて検討されます。

縫った腱がくっついてしまう(癒着)

屈筋腱を縫合した後に多いのが、腱が周囲の組織とくっついて滑らなくなる癒着です。慶應義塾大学病院の解説によれば、指のつけ根から中央部にかけての領域(ゾーン2)は深指屈筋腱と浅指屈筋腱が交差する部位であり、この部位の損傷では高い率で癒着が生じるとされています。日本整形外科学会も、癒着を防ぐために手術直後から動かす必要があり、三か月程度のリハビリテーションが必要になると説明しています。

癒着が残ると、腱そのものはつながっているのに、自分では動かせないという状態になります。この場合も、動かない原因が腱側にあるのか関節側にあるのかを、手術記録とリハビリテーションの記録から確認していくことになります。

あわせて残ることのある状態

  • 縫合した腱が再び切れる(再断裂)、腱がゆるむ
  • 関節が固まる(拘縮・強直)、皮膚がひきつれる(瘢痕拘縮)
  • 神経、血管、骨、関節、皮膚・軟部組織の損傷を併発している
  • 痛み、しびれ、感覚の低下が残る
  • つまむ、握る、ボタンを留めるといった細かい動作に支障が残る

関節の名称を取り違えないでください。ひとさし指からこ指までは、つけ根からMP関節・PIP関節・DIP関節の三つ、おや指はMP関節とIP関節の二つです。後遺障害の検討は関節ごとに枠組みが異なるため、後遺障害診断書にどの関節の数値が記載されているかによって、検討できる等級が変わることがあります。

後遺障害等級はどのように検討されるのか

自賠責の等級は、支払基準を通じて労災の認定基準に接続しています

自賠責保険の後遺障害等級は、自動車損害賠償保障法施行令の別表第一・別表第二に定められています。他方、金融庁・国土交通省が定める支払基準は、後遺障害による損害について「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う。」と定めています。そのため実務では、厚生労働省が労災について定める障害等級認定基準(平成16年6月4日基発第0604003号)の内容が参照されます。両者は別の制度であり、労災の基準が当然に直接適用されるわけではありませんが、具体的な評価はこの基準を前提に進みます。

労災の資料に書かれた号数を、そのまま自賠責の号数として扱うことはできません。二つの等級表は内容が対応していますが、号の付け方が一致しない部分があります。手指に関係する範囲では、次のとおりです。

同じ内容でも号数が異なる例(手指に関係する範囲)
障害の内容 労災(施行規則別表第一) 自賠責(施行令別表第二)
おや指又はおや指以外の二の手指の用を廃したもの 第10級の6 第10級7号
ひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの 第12級の9 第12級10号
こ指の用を廃したもの 第13級の4 第13級6号
おや指以外の手指のDIP関節の屈伸不能 第14級の7 第14級7号
局部に頑固な神経症状を残すもの 第12級の12 第12級13号
局部に神経症状を残すもの 第14級の9 第14級9号

腱断裂で検討される三つの枠組み

手指の機能障害は、次の三つの枠組みのいずれかで検討されます。どの枠組みに乗るかによって、必要な記録がまったく違います。

手指の機能障害を検討する三つの枠組み
枠組み 評価の対象 認定基準上の内容(要旨)
手指の用を廃したもの MP関節・PIP関節(おや指はIP関節)、末節骨、指先の感覚 末節骨の長さの2分の1以上を失ったもの/MP関節又はPIP関節(おや指はIP関節)の可動域が健側の2分の1以下に制限されたもの/おや指について橈側外転又は掌側外転のいずれかが健側の2分の1以下に制限されたもの/末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚が完全に脱失したもの
DIP関節の屈伸不能 DIP関節(おや指以外の手指) DIP関節が強直したもの/屈伸筋の損傷等、原因が明らかなものであって、自動で屈伸ができないもの又はこれに近い状態にあるもの
神経症状 痛み、しびれ、感覚の低下 可動域の制限が上の枠組みに届かない場合に、症状の裏づけの程度に応じて検討される

「手指の用を廃したもの」で可動域を判定するのは、MP関節とPIP関節(おや指はIP関節)です。DIP関節はこの枠組みの判定対象ではありません。屈筋腱の損傷でPIP関節まで動かなくなっている場合に、後遺障害診断書へDIP関節の数値しか記載されていないと、上位の等級を検討する材料がそろわないことがあります。逆に、DIP関節だけが動かない場合は、次に述べる第14級7号の枠組みで検討されます。

「用を廃したもの」に当たる手指が何本あるか、おや指を含むかによって、第13級6号から第4級6号までの等級が定められています。指と本数ごとの一覧は、手指の欠損・機能障害の等級を指ごとに解説した記事で整理していますので、そちらをご覧ください。

第14級7号――DIP関節を屈伸することができなくなったもの

別表第二の第14級7号は「一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなつたもの」と定めています。条文上、おや指は対象外です。労災の認定基準は、この「屈伸することができなくなったもの」を、次のいずれかに当たるものとして整理しています。

  • DIP関節が強直したもの
  • 屈伸筋の損傷等、原因が明らかなものであって、自動で屈伸ができないもの又はこれに近い状態にあるもの

腱断裂で問題になるのは、主に二つ目です。腱が切れたために自分では第一関節を曲げられない、伸ばせないという状態が、この枠組みで検討されます。ここで注意したいのは、要件が「原因が明らかなもの」であること「自動で」屈伸ができないことの二点を求めている点です。

「これに近い状態」がどの程度かについて、労働保険審査会の裁決例(平成28年労第488号)は、関節可動域が原則として健側の可動域角度の10パーセント程度以下に制限されているものと述べ、健側が80度から90度であるのに患側が20度から44度であった事案について、これに当たらないと判断しています。これは労災の再審査請求に対する行政上の裁決であり、裁判所の判例でも、自賠責の個別の認定例でもありません。数値の当てはめは事案により異なりますので、一つの目安として受け止めてください。

したがって、伸ばしきれない角度が少し残っている、マレット変形がある、部分的に可動域が狭いという事実だけで、当然に第14級7号になるわけではありません。他方で、自動ではほとんど動かないのに他動の数値だけが記載されているために、この枠組みに乗らないという事態も起こり得ます。

おや指(母指)の場合

長母指屈筋腱や長母指伸筋腱の損傷は、第14級7号の対象にはなりません。おや指については、IP関節の可動域や、橈側外転・掌側外転の制限といった「用を廃したもの」の基準で検討されます。なお、厚生労働省が公表している労災保険の審査請求の決定事例には、橈骨遠位端骨折に伴って長母指伸筋腱が断裂し、断裂した部位で腱が固定された状態になっていた事案について、他動運動ではなく自動運動による測定値を採用すべきであるとしたものがあります。

指の感覚が失われている場合

屈筋腱を損傷するような切創では、神経や動脈が同時に切れることがあります。認定基準は、「手指の用を廃したもの」の一類型として、手指の末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚が完全に脱失したものを挙げています。そのうえで、表在感覚のみならず深部感覚も完全に脱失するのは、外傷により感覚神経が断裂した場合に限られるとし、感覚神経が断裂し得る外傷を負った事実の確認に加えて、筋電計を用いた感覚神経伝導速度検査により感覚神経活動電位(SNAP)が検出されないことを確認する方法によって認定するとしています。

感覚が鈍いという自覚症状があることと、この要件を満たすこととは同じではありません。他方で、神経の断裂を伴う事案で感覚に関する検査の記録が残っていない場合、可動域の数値だけでは評価しきれないことがあります。どの検査を行うかは主治医が判断する事項ですが、実際に行われた検査の結果が資料として残っているかは確認しておく価値があります。

痛み・しびれが残る場合、複数の障害が併存する場合

可動域の制限が基準に届かない場合でも、痛みやしびれについて、第12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」又は第14級9号「局部に神経症状を残すもの」が検討されることがあります。ただし、機能障害とは別に神経症状の等級が当然に加算されるわけではありません。同じ原因から生じた障害をどのように評価するか、障害系列や派生関係、評価の重複をどう扱うかという問題があるためです。

腱の断裂に加えて、手関節の機能障害、骨折、瘢痕、複数の指の障害が併存することもあります。この場合も、傷病名の数だけ等級が増えるわけではありません。認定基準は、同一の上肢に関節の機能障害と手指の障害が併存する場合について、それぞれ別個に等級を定めたうえで併合の方法を用いて準用等級を定めるという処理を示しており、単純な足し算とは異なる考え方をとっています。複数の障害が残った場合の考え方は、後遺障害の併合・加重・準用の違いと確認手順を解説した記事で扱っています。手関節そのものの機能障害については、手首・肘の骨折後に残る機能障害を解説した記事もあわせてご覧ください。

自動可動域・他動可動域と、原因を示す資料

測定の原則と、第14級7号の基準とのねじれ

労災の認定基準に付された測定要領では、関節可動域の測定値は、原則として他動運動による測定値によるとされています。他方で、他動運動による測定値を採用することが適切でない場合として、末梢神経の損傷により筋が弛緩性の麻痺となり、他動では動くが自動では動かせない場合や、痛みのために自動では動かせないと医学的に判断される場合が挙げられ、そのような場合には自動運動による測定値を参考として認定するとされています。

これに対し、第14級7号のDIP関節の屈伸不能は、認定基準の文言そのものが「自動で屈伸ができないもの」を基準としています。腱の損傷では、他動では動くのに自動では動かないという状態が生じ得るため、この違いが結論を大きく左右します。

自動と他動の両方の数値が、関節ごとに記録されていることが重要です。どちらか一方しか記載のない後遺障害診断書では、腱の損傷による機能障害を評価する材料がそろわないことがあります。「自分では動かせないが、押せば動く」という状態は、記録されて初めて意味を持ちます。

患側・健側、関節ごとの区別

可動域の制限の程度は、原則として反対側の手(健側)の可動域角度と比較して評価されます。健側にも障害がある場合などには、測定要領に定める参考可動域角度と比較する扱いが定められています。測定表を確認するときは、患側と健側、屈曲と伸展、MP・PIP・DIP・IPのどの関節か、自動か他動かが、それぞれ区別して記載されているかを見てください。

「原因が明らかなもの」を支える資料

第14級7号の二つ目の要件は「屈伸筋の損傷等、原因が明らかなもの」であることを求めています。可動域の数値だけでなく、なぜ動かないのかを示す医学資料が必要です。どの指の、どの腱が、どの部位で、完全に切れていたのか一部だったのかが分かる手術記録・術中所見や、画像・検査の結果が重要になるのはこのためです。

申請前に確保したい資料と、その資料で確認できること

資料は、何を確認するための資料なのかと結び付けて整理すると、不足が見えやすくなります。腱の損傷では、次の四つを押さえられるかが要点になります。

資料と、それによって確認できる事項
区分 資料 確認できる事項
受傷の状況 初診時の診断書、診療録、救急記録、創部の写真 切創・挫滅・挟圧・強制的な屈伸といった受傷の仕方、初診時の所見、診断の時期
原因の特定 手術記録、術中所見、退院時要約、診療情報提供書 どの指のどの腱が、どの部位で、完全断裂か部分断裂か。腱縫合・腱移植・腱移行・腱剥離のいずれが行われたか
画像・検査 単純X線、超音波、MRIなど実際に行われた検査の結果、感覚に関する検査の記録 骨折の有無(骨性マレット指との区別)、腱の連続性、関節の状態、感覚神経の状態
機能の程度 患側・健側、自動・他動、MP・PIP・DIP・IPを区別した可動域測定表、握力・ピンチ力の測定結果 等級の判断の基礎となる数値。握力等はそれ自体が要件ではなく、日常動作への影響を補う資料
経過 リハビリテーション・作業療法の記録、装具の記録 可動域の推移、癒着や再断裂をうかがわせる経過
申請・示談 後遺障害診断書、認定結果の通知と理由、示談金の提示書、免責証書の案 症状固定時の状態の医学的な記載、認定の理由、提示額の内訳
仕事・収入 事故前後の仕事内容、具体的な作業、利き手、作業の速度・正確性・安全性、配置転換、欠勤、賃金・売上の資料 休業損害や逸失利益を検討するための前提

後遺障害診断書について、医師に法律上の結論や特定の記載を求めることは適切ではありません。作成前又は申請前にご確認いただきたいのは、診察・検査によって現に確認されている医学的事実が、記載から漏れていないかという点です。腱の損傷では、自動と他動の別、関節ごとの数値、動かない原因に関する所見の三つが要点になります。後遺障害診断書の作成前に確認したい事項の全般は、後遺障害診断書の作成前に確認したい資料と画像検査の注意点を解説した記事で整理しています。

後遺障害の申請前や、保険会社から示談案が示された後は、医療資料、認定の理由、損害に関する資料を照合して、確認すべき事項を整理する場面です。資料を確認したうえで、記載の不足、検討し得る枠組み、異議申立てを検討する場合の材料、示談前に確認しておきたい点をご説明します。結果をお約束することはできませんが、何を確認すれば見通しを検討できるのかを明らかにすることができます。

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よく問題になる場面

腱断裂の事案で問題になりやすい場面と確認したい点
場面 確認したい点
術後に癒着が残った 可動域制限の原因が癒着か、関節の拘縮か、その両方か。手術記録とリハビリテーションの記録との整合。自動値と他動値の差が記録されているか
部分断裂・診断の遅れ 受傷の状況、初診時の所見、診断の時期の整合。事故との因果関係や経過が争点になり得ます
腱はつながっているが動かない 関節側の原因(拘縮・強直、骨折後の変形)の有無と、それを示す資料の有無
神経損傷・骨折・瘢痕を伴う 感覚に関する検査の記録の有無。それぞれの障害の評価と、評価の重複、併合・準用の扱い
既往がある ばね指、腱鞘炎、関節リウマチ、変性などの既往。既存障害、因果関係、民事上の素因減額はそれぞれ別の問題として整理されます
利き手・手作業への支障 等級表は利き手を区別していませんが、休業損害や逸失利益の検討では意味を持ち得ます
診断書の記載が足りない どの関節の、自動・他動どちらの数値か。原因に関する所見が記載されているか

いずれも、一般に問題となり得る場面として整理したものです。実際にどのように評価されるかは、資料の内容と個別の事情により異なります。

申請・示談の前に確認したいこと

後遺障害診断書の作成前

  • 症状固定について主治医の説明を受け、その時期と理由を理解しているか
  • 症状が残っている指と関節を、自分の言葉で整理して伝えられるか
  • 自分で動かせる範囲と、他人が動かせば動く範囲の違いを説明できるか
  • 痛み、しびれ、感覚の低下、細かい作業への支障を具体的に伝えられるか
  • 手術記録、画像、リハビリテーションの記録が手元にあるか、取り寄せの方法を確認したか
  • 症状固定の打診への対応を確認したか(症状固定と言われたときに示談前に確認したいこと

後遺障害の申請前

  • 後遺障害診断書に、患側・健側、自動・他動、関節ごとの数値が区別して記載されているか
  • 動かない原因に関する医学的な所見が記載されているか
  • 手術記録、術中所見、画像、検査結果を提出資料に含めるか検討したか
  • 申請の方法を検討したか(事前認定と被害者請求の違いと選び方
  • 期限を確認したか。自賠責保険への被害者請求は、後遺障害については症状固定日の翌日から3年以内、平成22年3月31日以前に発生した事故については2年以内とされています

認定結果を受け取った後

  • 認定結果に添えられた理由を読み、どの資料のどの点が評価され、又は不足とされたかを確認したか
  • 提出済みの資料と、実際に行われた検査・治療の記録との間に漏れがないか確認したか
  • 異議を申し立てる場合、新たな医学資料や、評価されていない事実を特定できているか(後遺障害が非該当となった場合の判断材料と確認点

示談書に署名する前

  • 提示額の内訳(後遺障害慰謝料、逸失利益、休業損害、治療関係費、装具費など)を確認したか
  • 逸失利益の前提とされている仕事内容、収入、期間が実態と合っているか
  • 清算条項の範囲と、将来の再手術や治療が必要になった場合の扱いを確認したか
  • 時効までの残り期間を確認したか

期限は、請求の相手方と根拠によって異なります。自賠責保険への被害者請求、加害者に対する損害賠償請求、任意保険会社への保険金請求、自賠責保険・共済紛争処理機構への申請は、それぞれ請求先も起算点も異なります。事故日や請求の経過によって扱いが変わるため、個別の確認が必要です。

弁護士に相談するタイミング

ご相談によって等級が保証されるものではありませんが、資料を確認することで次の点を整理できます。

  • 後遺障害診断書と医療記録を照合し、どの関節のどの数値が不足しているか
  • 動かない原因に関する所見が足りているか。手術記録や術中所見を提出資料に含めるべきか
  • 「手指の用を廃したもの」「DIP関節の屈伸不能」「神経症状」のいずれの枠組みで検討し得るか
  • 認定結果の理由のどの部分を確認すべきか。異議申立てを検討する場合の材料
  • 損害の各費目の前提となる資料と、示談書の条項

ご相談に適した時期は、①症状固定について主治医の説明を受けたとき、②後遺障害診断書の作成前、③後遺障害の申請前、④非該当又は想定より低い等級の通知を受けた後、⑤保険会社から示談案が提示された後、⑥示談書・免責証書・承諾書に署名押印する前です。治療の方法、手術の時期、リハビリテーションの期間、症状固定の時期は医師が判断する事項であり、弁護士が医療上の判断に立ち入ることはありません。

後遺障害診断書、手術記録、可動域の測定結果、認定結果の理由、示談案をご用意いただければ、資料の過不足、検討し得る枠組み、損害の各費目の前提となる資料を整理し、今後の進め方をご説明します。事案により結論は異なりますので、資料を確認したうえで判断します。当事務所では、交通事故に関する初回のご相談を無料でお受けしています(事前予約制)。交通事故については、お電話での無料相談にも対応しています。

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よくあるご質問

屈筋腱や伸筋腱が断裂すれば、後遺障害等級は認定されますか。

傷病名だけで決まるものではありません。確認されるのは、症状固定の時点でどの指のどの関節がどれだけ動かなくなったか、その原因が医学資料で説明できるかです。手術とリハビリテーションによって動きが回復すれば、非該当となることもあります。個別事情により結論は異なります。

手術後も指が曲がらない、伸びない場合、どの枠組みで検討されますか。

MP関節又はPIP関節(おや指はIP関節)の可動域が健側の2分の1以下であれば「手指の用を廃したもの」の枠組み、DIP関節の屈伸ができない場合は第14級7号の枠組みで検討されます。等級は、用を廃した指の本数と、おや指を含むかどうかによって変わります。資料を確認したうえで判断する必要があります。

自分では指を動かせませんが、反対の手で動かせる場合はどうなりますか。

検討の対象になり得ます。第14級7号の認定基準は、屈伸筋の損傷等、原因が明らかなものであって自動で屈伸ができないもの又はこれに近い状態を挙げています。もっとも、可動域の測定は原則として他動運動によるとされており、自動運動による測定値が参考とされる場面は限られます。自動と他動の両方の記録を残しておくことが重要です。

マレット指は伸筋腱断裂と同じですか。

同じとは限りません。日本整形外科学会は、伸筋腱が切れて生じるもの(腱性マレット指)と、伸筋腱が付いている骨が関節内で骨折してずれたもの(骨性マレット指)があり、骨折の有無で治療法が変わると説明しています。X線所見をあわせて確認してください。

ばね指や腱鞘炎と、腱断裂は同じ傷病ですか。

異なる病態です。指が動かしにくいという症状が似ていても、原因も、後遺障害として検討される枠組みも異なります。事故前からの既往がある場合は、既存障害、因果関係、素因減額のどの問題なのかを分けて整理する必要があります。

指の感覚がなくなった場合も、機能障害として評価されますか。

認定基準は、手指の末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚が完全に脱失したものを「手指の用を廃したもの」の一類型として挙げています。もっとも、深部感覚まで完全に脱失するのは感覚神経が断裂した場合に限られるとされ、外傷の内容の確認と、感覚神経伝導速度検査により感覚神経活動電位が検出されないことの確認によって認定するとされています。感覚が鈍いという自覚症状があることとは同じではありません。

後遺障害診断書の作成前に、どの資料を確認すればよいですか。

手術記録と術中所見(どの腱がどこで、どの程度切れていたか)、画像・検査の結果、リハビリテーションの記録、そして患側・健側と自動・他動を区別した関節ごとの可動域の測定結果です。医師に特定の記載を求めるのではなく、現に確認されている医学的事実の記載が漏れていないかを確認する趣旨です。

非該当や想定より低い等級だった場合、何を確認しますか。

まず認定の理由を読み、どの点が評価され、何が不足しているとされたのかを確認します。そのうえで、自動値の記載の有無、動かない原因に関する所見、手術記録や検査結果の提出漏れ、対象となった関節の取り違えがないかを検討します。回数を重ねること自体に意味があるわけではなく、補える資料を特定できるかどうかが出発点になります。

まとめ

  • 「屈筋腱断裂」「伸筋腱断裂」という傷病名や手術歴だけでは、後遺障害の等級は決まりません。症状固定の時点でどの指のどの関節がどれだけ動かないか、その原因が説明できるかが確認されます。
  • 「手指の用を廃したもの」で可動域を判定するのはMP関節とPIP関節(おや指はIP関節)で、DIP関節の屈伸不能は第14級7号の別の枠組みです。おや指は第14級7号の対象外です。
  • 可動域の測定は原則として他動運動によりますが、第14級7号の基準は自動での屈伸を問題にしています。自動と他動の両方を、関節ごとに記録してください。
  • 第14級7号は「原因が明らかなもの」であることを要件としています。手術記録・術中所見・画像が、可動域の数値と同じくらい重要になります。
  • 神経も切れている場合は、指先の感覚の脱失という別の要件があります。感覚に関する検査の記録が残っているかを確認してください。
  • 労災の資料に書かれた号数は、自賠責の号数と一致しないことがあります。資料を引用するときは制度を確かめてください。
  • 後遺障害診断書の作成前、申請前、認定結果を受け取った後、示談書に署名する前が、確認に適した時期です。

監修者・執筆者

弁護士・公認会計士 藤井 貴之(ふじい たかゆき)

弁護士法人ひょうご支所神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士・公認会計士。兵庫県弁護士会所属、日本公認会計士協会兵庫会所属。

交通事故の後遺障害について、診断書、画像、手術記録、可動域の測定結果、保険会社からの書面を確認したうえで、検討し得る枠組み、症状固定と申請の時期、示談条項の確認に対応しています。

所在地:〒654-0154 兵庫県神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階(神戸市営地下鉄西神・山手線「名谷駅」から徒歩1分)
電話:078-797-5227(受付時間 9:00〜20:00)

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参考資料

この記事は一般的な解説です。実際の結論は、損傷した腱と部位、治療の経過、症状固定の時点で残っている動きの制限、そろえられた資料、既往症の有無、事故の状況によって異なります。医学に関する記載は、法律上の検討に必要な範囲で公表資料を要約したものであり、診断や治療についての助言ではありません。治療に関する判断は主治医とご相談ください。記載した制度は、2026年(令和8年)9月時点で確認した法令及び公的機関の公表情報に基づいています。

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