ご高齢のご家族が交通事故に遭い、入院中の付き添いや、退院後の介護が必要になったとき、「家族が付き添った分の費用は相手方に請求できるのか」「退院後の介護費はどうなるのか」「事故前から介護が必要だった場合はどう扱われるのか」といった不安を抱えるご家族は少なくありません。
交通事故の損害賠償では、付き添いや介護にかかる費用(付添費・介護費)も、請求できる可能性があります。もっとも、これらは当然に認められるものではなく、事故とのつながり(因果関係)、付き添い・介護の必要性、金額の妥当性が問題になります。とくにご高齢の方の場合は、事故の前後で生活がどのように変わったのかを資料で整理できるかどうかが、重要なポイントになります。
この記事では、付添費・介護費の種類や考え方、高齢者の事故で問題になりやすい点、そして示談前・後遺障害申請前・介護保険利用前に確認しておきたい資料と、相談のタイミングを整理します。保険会社から示談案が届いている方は、署名・押印の前に、損害項目に付添費・介護費が含まれているかを一度確認しておくことをおすすめします。
付添費・介護費を請求できるかどうかは、事故の状況やお身体の状態、資料の有無によって変わります。資料を確認することで、請求できる可能性や今後の対応方針を整理しやすくなります。
神戸みらい法律会計事務所では、交通事故に関するご相談をお受けしています。
Contents
この記事で分かること
- 付添費と介護費の違い、入院付添費・通院付添費・自宅付添看護費・将来介護費の区別
- 家族が付き添った場合でも請求できる可能性があること、その際に問題になる点
- 高齢者の事故で、事故前の介護状態や既往症がどのように影響するか
- 要介護認定があれば当然に交通事故の損害として認められるわけではない理由
- 症状固定後の将来介護費の基本的な考え方
- 介護保険・NASVAの介護料と損害賠償の関係で注意すべき点
- 示談前・後遺障害申請前に確認しておきたい資料と、相談のタイミング
まず確認したいこと(付添費・介護費の請求で大切な点)
詳しい内容に入る前に、ご家族に知っておいていただきたい要点を整理します。いずれも、個別の事情によって結論が変わり得る点にご注意ください。
- 付添費・介護費は、事故との因果関係と必要性を資料で説明できるかが重要です。
- 治療中に発生する付添費と、症状固定後の将来介護費は、分けて考えます。
- 高齢の方の事故では、事故前と事故後で生活がどう変わったかの比較が重要になります。
- 示談の前に、損害項目・後遺障害・介護保険・将来介護費の取り扱いを確認しておくことをおすすめします。
- これらは必ず認められるものではなく、資料を確認したうえで判断する必要があります。
付添費・介護費とは何か
交通事故の損害賠償では、付き添いや介護にかかる費用がいくつかの項目に分かれます。まずは、それぞれの違いを確認しておきましょう。
入院付添費
入院中に、ご家族や職業付添人が患者に付き添った場合の費用です。看護体制が整っている病院であっても、症状の程度、年齢、認知機能、転倒のリスク、医師の指示、病院からの付き添いの要請、実際に行った介助の内容などによって、付き添いの必要性が問題になります。
通院付添費
お一人での通院が難しく、ご家族などが付き添った場合の費用です。歩行能力や認知機能の状態、医師の指示、通院の頻度、利用した交通手段などをふまえて、付き添いの必要性が検討されます。
自宅付添看護費(退院後・在宅での付添看護)
退院後もまだ治療が続いており、ご自宅で入浴・排泄・移動・服薬管理・見守りなどの介助が必要な場合の費用です。医師の意見や、訪問看護・訪問介護の利用状況、ご家族による介護の実態などが手がかりになります。
将来介護費
症状固定(これ以上治療を続けても症状の改善が見込めないと判断される状態)の後に、後遺障害が残り、将来にわたって介護が必要になる場合の費用です。高次脳機能障害(脳の損傷により記憶・判断・感情のコントロールなどに支障が残る状態)や脊髄損傷、重い身体障害などで問題になりやすい項目です。
慰謝料・休業損害・交通費との違い
付添費・介護費は、精神的な苦痛に対する慰謝料、収入の減少を補う休業損害、移動の実費である通院交通費とは、別個の損害項目です。たとえば「通院交通費」と「通院付添費」は別のものであり、混同しないことが大切です。傷害慰謝料の考え方については、関連記事もあわせてご参照ください。
高齢者の交通事故で付添費・介護費が問題になりやすい理由
ご高齢の方の事故では、付き添いや介護の必要性そのものは生じやすい一方で、それが「交通事故によるものか」という点が争点になりやすいという特徴があります。
事故前から介護が必要だった場合の考え方
事故の前から介護を要していた場合には、事故によって「増えた」介護の負担が問題になります。事故前のADL(食事・着替え・移動など、日常生活を送るうえで必要な基本動作のこと)、要介護度、利用していた介護サービスの内容などと比較し、事故後に新たに必要になった部分を切り分けて整理することが求められます。
既往症・認知症・転倒リスクなどの影響
認知症、せん妄(入院などをきっかけに一時的に意識や注意が混乱する状態)、骨粗しょう症、脳梗塞の後遺症といった既往の状態があると、付き添い・介護の必要性や、事故との因果関係が争われやすくなります。「高齢だから介護が必要になった」と一括りにされないよう、事故の前後の生活状況を資料で示せるようにしておくことが大切です。
要介護認定があれば当然に認められるわけではない
介護保険の要介護認定は、介護保険のサービスをどの程度必要とするかを判定するためのものです。交通事故の損害として付添費・介護費が認められるかどうかは、事故との因果関係などを別に検討する必要があり、要介護認定があるからといって、当然に交通事故の損害として認められるわけではありません。
事故前から介護が必要だった場合や、既往症がある場合は、事故によって増えた負担をどう整理するかが特に重要になります。資料を確認することで、見通しを立てやすくなります。
入院中の付添費が問題になるケース
付き添いの必要性はどう判断されるか
入院中の付き添いについては、医師の指示、病院からの付き添いの要請、症状の程度、認知機能、転倒や点滴の自己抜去などのリスク、実際に行った介助の内容などをふまえて、必要性が検討されます。看護記録や診療録、医師の指示の内容が手がかりになります。
家族が付き添った場合と職業付添人を利用した場合
ご家族が付き添った場合(近親者付添費)と、付き添いを職業とする方(職業付添人)を利用した場合とでは、立証に必要な資料や金額の整理の仕方が異なります。職業付添人を利用した場合は領収書などが、ご家族が付き添った場合は介護日誌などが、付き添いの実態を示す資料になります。
家族が仕事を休んだ場合の注意点
ご家族が仕事を休んで付き添った場合、そのご家族自身の収入減少(休業損害)と、付添費との関係は慎重に整理する必要があります。両方をそのまま重ねて請求できるとは限らないため、資料を確認したうえで判断することをおすすめします。
通院付添費が問題になるケース
お一人での通院が難しい場合の付き添い
歩行能力の低下や認知機能の状態、医師の指示、通院の頻度などから、お一人での通院が難しいと整理できる場合に、通院付添費が問題になります。ご家族の送迎、介護タクシー、公共交通機関やタクシーの利用について、その必要性を整理しておくとよいでしょう。
通院交通費との違い
「通院交通費」は移動にかかった実費、「通院付添費」は付き添った方の負担に対するもの、というように、それぞれ別の項目です。ご家族自身の交通費も含め、内容を分けて把握しておくことが大切です。
退院後・症状固定前の自宅付添看護費
在宅での介助と必要性
退院後もまだ治療が続いている時期に、ご自宅で入浴・排泄・移動・服薬管理・見守りなどの介助が必要な場合には、自宅付添看護費が問題になります。医師の意見や、訪問看護・訪問介護などの利用状況が、必要性を判断する手がかりになります。
残しておきたい記録
日々の介助の内容を記した介護日誌、介護サービスの利用票や領収書などを残しておくと、後の整理に役立ちます。記録は、できるだけその都度残しておくことをおすすめします。
症状固定後の将来介護費
将来介護費が問題になる場面
症状固定の後も、後遺障害により将来にわたって介護が必要になる場合に、将来介護費が問題になります。高次脳機能障害、脊髄損傷、遷延性意識障害(意識が戻らない重い状態)、重い身体障害などでは、特に重要な項目です。「症状固定」と言われた場合の注意点については、関連記事もご覧ください。
職業介護と家族介護
将来の介護を、介護事業者などによる職業介護で行う場合と、ご家族による家族介護で行う場合とでは、費用の考え方や単価の整理の仕方が異なります。どのような介護体制を前提にするかによって、検討の内容が変わります。
平均余命・中間利息控除など計算上の考え方
将来介護費は、介護が必要となる期間(平均余命などをふまえます)にわたる費用を見積もったうえで、将来受け取る分を現在の価値に引き直す「中間利息控除」という計算を行うのが一般的です。具体的な日額・期間・利率・係数などは、お身体の状態や資料、その時点の実務上の取り扱いによって変わるため、資料を確認したうえで個別に検討する必要があります。将来介護費は金額が大きくなることもありますが、結論は個別事情により異なります。
住宅改修・福祉用具・介護用品
段差の解消や手すりの設置といった住宅改修の費用、車いすなどの福祉用具の費用、おむつなどの介護用品の費用も、問題になり得ます。いずれも、必要性・相当性・事故との関係を資料で整理することが大切です。
介護保険・NASVAの介護料との関係
介護保険を使うときの第三者行為の届出
交通事故が原因で要介護の状態になった場合や、介護度が重くなった場合に介護保険のサービスを利用するときは、保険者(市区町村)への第三者行為に関する届出が必要になることがあります。神戸市にお住まいの場合を含め、お住まいの自治体の案内を確認しておくとよいでしょう。
NASVAの介護料
独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)には、自動車事故による重度の後遺障害が残った方を対象とする介護料の制度があります。対象となる方の範囲、支給の条件、金額、他の制度との併給の制限、申請の手続などが定められているため、利用を検討する際は公式の案内を確認する必要があります。
公的給付と損害賠償の関係は複雑
介護保険やNASVAの介護料などの公的給付を利用した場合、損益相殺(受け取った給付分を損害から差し引く調整)や求償、自己負担分や将来分の取り扱いなど、整理が複雑になる場面があります。利用の前後で取り扱いが変わることもあるため、示談の前に確認しておくと安心です。
保険会社の示談案で確認すべきポイント
保険会社から示談案が届いたら、署名・押印の前に、次の点を確認しておくことをおすすめします。
- 損害項目に、付添費・介護費が含まれているか
- 治療中の付添費と、将来介護費が、分けて記載されているか
- 後遺障害の申請が済む前に、示談を求められていないか
- 症状固定の前に、将来介護費まで含めて示談する内容になっていないか
- 清算条項(今後は一切請求しないとする条項)の有無と、その範囲
- 本人の判断能力に不安がある場合、誰が署名するのか(成年後見などの検討が必要な場合があります)
示談が成立すると、後から追加で請求することが難しくなる場合があります。もっとも、これは示談書の文言や個別の事情によって変わるため、署名・押印の前に内容を確認しておくことをおすすめします。後遺障害診断書を作成する前に確認したい点については、関連記事もご参照ください。
示談案に付添費・介護費が含まれているか分からない、将来介護費の取り扱いが不安だ、という場合は、署名・押印の前に内容を確認しておくと、今後の対応方針を整理しやすくなります。
相談前に準備したい資料
下表は、付添費・介護費を検討するうえで参考になる主な資料の例です。すべてがそろっていなくてもご相談いただけますので、お手元にあるものからご確認ください。
| 区分 | 主な資料 |
|---|---|
| 事故・治療関係 | 交通事故証明書/事故の状況が分かる資料/診断書/診療報酬明細書/診療録/看護記録/リハビリ記録/画像資料(MRI・CTなど) |
| 後遺障害関係 | 後遺障害診断書/主治医意見書/退院支援計画書 |
| 介護・要介護認定関係 | 介護保険被保険者証/要介護認定結果通知/認定調査票/ケアプラン/介護サービス利用票/介護サービス利用票別表 |
| 介護費用関係 | 介護サービス領収書/介護タクシー領収書/訪問看護・訪問介護・デイサービスなどの利用記録/介護用品・福祉用具・住宅改修の領収書・見積書 |
| 事故前後の生活 | ご家族の介護日誌/事故前の日常生活の状況が分かる資料/事故前から利用していた介護サービスの資料 |
| 示談・保険関係 | 保険会社からの示談案/損害計算書/自動車保険証券/弁護士費用特約の有無が分かる資料 |
| 本人の判断能力関係 | 本人の判断能力に関する資料/成年後見・保佐・補助に関する資料(ある場合) |
弁護士費用特約を利用できる場合は、弁護士に依頼する際の費用負担を抑えられることがあります。特約を使う前に確認したい点については、関連記事もご参照ください。
弁護士に相談するタイミング
次のような場面では、早めに弁護士に相談しておくと、判断材料や今後の進め方を整理しやすくなります。
- 入院中に、ご家族の付き添いが必要になったとき
- 退院後に、お一人での生活が難しくなったとき
- 介護保険を利用する前、または利用を始めた後に、第三者行為の届出が必要か迷ったとき
- 「症状固定」と言われたとき
- 後遺障害診断書を作成する前
- 後遺障害の認定結果が出たとき
- 保険会社から示談案が届いたとき
- 本人の判断能力や、ご家族による代理署名に不安があるとき
- 示談案に将来介護費が含まれていないと感じたとき
弁護士への相談は、結果を保証するものではありません。もっとも、資料を確認することで、請求できる可能性や今後の進め方を整理しやすくなります。
よくある質問(FAQ)
家族が付き添った場合でも、付添費を請求できますか?
ご家族が付き添った場合(近親者付添費)でも、付き添いの必要性や事故との関係を資料で説明できれば、請求できる可能性があります。ただし、当然に認められるわけではなく、個別の事情により結論は異なります。
高齢で、事故前から介護が必要だった場合は請求できませんか?
事故前から介護が必要だった場合でも、事故によって増えた介護の負担が問題になります。事故の前後の生活状況を資料で整理することが重要です。事案により異なるため、資料を確認したうえで判断する必要があります。
要介護認定を受ければ、将来介護費は認められますか?
介護保険の要介護認定は、介護保険サービスの必要度を判定するものです。交通事故の損害として将来介護費が認められるかは、事故との因果関係などを別に検討する必要があり、認定があれば当然に認められるわけではありません。
介護保険を使うと、損害賠償請求はできなくなりますか?
介護保険を利用したからといって、損害賠償請求ができなくなるわけではありません。ただし、交通事故が原因の場合は第三者行為の届出が必要になることがあり、公的給付と損害賠償の調整も問題になります。取り扱いが複雑なため、示談前に確認することをおすすめします。
入院中に、病院から家族の付き添いを求められました。何を残せばよいですか?
付き添いを求められた経緯や指示の内容が分かる記録、実際に行った介助の内容を記した介護日誌、付き添いに関する領収書などが手がかりになります。看護記録や診療録も、後の整理に役立ちます。
退院後に介護が必要になった場合、示談前に何を確認すべきですか?
損害項目に在宅での付添看護費や将来介護費が含まれているか、後遺障害の申請が済んでいるか、介護保険の届出が必要かなどを確認しておくとよいでしょう。資料がそろっていない段階でもご相談いただけます。
保険会社の示談案に介護費がありません。どうすればよいですか?
示談案に付添費・介護費が含まれていない場合でも、請求できる可能性があるかは、資料を確認したうえで判断する必要があります。署名・押印の前に、損害項目を一度確認することをおすすめします。
本人が認知症で、示談内容を理解できない場合、家族が署名できますか?
本人の判断能力が十分でない場合、ご家族がそのまま署名できるとは限らず、成年後見などの手続が必要になることがあります。個別の事情により対応が異なるため、早めに確認することをおすすめします。
まとめ
- 付添費・介護費は、事故との因果関係と必要性を資料で説明できるかが重要です。
- 治療中の付添費と、症状固定後の将来介護費は、分けて考えます。
- 高齢の方の事故では、事故の前後の生活状況の比較が重要になります。
- 要介護認定があっても、当然に交通事故の損害として認められるわけではありません。
- 介護保険・NASVAの介護料と損害賠償の調整は複雑なため、示談前の確認をおすすめします。
- 示談案に付添費・介護費が含まれているか、署名・押印の前に確認しておくと、今後の対応方針を整理しやすくなります。
高齢のご家族の付添費・介護費でお悩みの方へ
神戸市須磨区・垂水区・西区・北区周辺で、ご高齢のご家族の交通事故後の付添費・介護費にお悩みの方へ。資料を確認することで、請求できる可能性や今後の対応方針を整理しやすくなります。まずはお気軽にご相談ください。
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監修者・執筆者
弁護士・公認会計士 藤井貴之(兵庫県弁護士会所属)
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所(表示名:神戸みらい法律会計事務所)に所属し、交通事故、相続、企業法務、労働問題、損害賠償などの法律相談に対応しています。交通事故の付添費・介護費の問題は、事故前後の生活状況やお身体の状態、資料によって結論が変わるため、個別の事情に応じて整理します。

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