中心性頸髄損傷|高齢者に多い不全麻痺と回復・後遺障害の考え方 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

弁護士法人あわじみらい法律会計事務所

初回相談無料

兵庫県神戸市須磨区中落合2丁目2−5
名谷センタービル7階

 078-797-5227

受付時間 : 9:00〜20:00

中心性頸髄損傷|高齢者に多い不全麻痺と回復・後遺障害の考え方

交通事故のあとに「中心性頸髄損傷(ちゅうしんせいけいずいそんしょう)」と説明された方やご家族から、次のようなご相談をいただきます。「骨折はないと言われたのに、頸髄を痛めていると診断された」「入院中は手足が動かなかったが、いまは歩ける。それなのに箸やボタンがうまく使えない」「高齢であることや、もともと首の骨に変化があることを理由に、事故との関係を否定されるのではないか」。

中心性頸髄損傷は、頸髄の損傷のうち、下肢に比べて上肢、とりわけ手指の障害が強く出ることを特徴とする臨床像を指す言葉です。歩行が回復しても、手指の動かしにくさやしびれが残ることがありますが、この診断名が付いたことだけで回復の見通しや後遺障害の等級が決まるわけではありません。

この記事では、中心性頸髄損傷という言葉が何を指し、何を指さないのか、なぜ高齢の方で問題になりやすいのか、上肢優位の障害を後遺障害の枠組みでどう見るのか、頸椎症や脊柱管狭窄がある場合に因果関係がどのように争われるのかを整理します。診断、治療方針及び個別の回復の見通しは主治医の判断による事項であり、この記事はそれに代わるものではありません。

診断を受けた直後でも、リハビリテーションを続けている段階でも、診療録、画像、保険会社から届いた書面をお持ちいただければ、いま何を記録しておくべきかを資料に沿って整理することができます。示談書や同意書に署名する前に一度ご確認ください。

相談予約フォームへ進む 078-797-5227へ電話する

中心性頸髄損傷でまず確認したい結論

診断名だけで、回復の見通しも後遺障害の等級も決まりません。歩けるようになったかどうかと、手指の機能がどこまで戻ったかは、別々に確認する必要があります。そして、事故直後の神経学的所見と画像、その後の経過の記録が、のちに事故との関係や障害の程度を検討するときの中心的な材料になります。

中心性頸髄損傷で最初に押さえておきたい五つの点
確認すること なぜ重要か 関係する資料
1 診断名と障害の程度は別 後遺障害は、残った麻痺の範囲・程度、介護の要否、労務への影響で判断される 後遺障害診断書、神経学的所見
2 歩行の回復と手指の回復は別 歩行が回復しても、手指の巧緻動作や感覚の障害が残ることがある 握力・手指機能の検査、作業療法の記録
3 事故直後の記録が残っているか 初期の麻痺が改善した場合でも、因果関係の検討では初期所見が重要になる 救急搬送記録、初診時の診療録、初期の画像
4 上肢と下肢を分けた評価があるか 上肢優位という特徴は、上下肢を分けた記録がなければ説明できない 徒手筋力検査、感覚検査、標準化された評価
5 事故前の状態が分かるか 脊柱管の狭さ等がある場合、因果関係や減額の主張に対して事故前の状態が問題になる 事故前の診療録、健康診断、活動状況

この記事のうち、医学的な説明は、交通事故に限らず転倒などの外傷一般を念頭に置いています。これに対し、損害賠償、示談、自賠責保険、後遺障害等級の申請に関する説明は、交通事故の被害者を対象としています。仕事中や通勤中の事故(労災)、介護施設や病院内での事故、私有地での転倒などでは、責任を負う相手方、適用される制度、利用できる手続がいずれも異なります。事故の類型が異なる場合は、この記事だけで法的な結論が決まるものではありません。

中心性頸髄損傷とは何を指す言葉か

上肢の麻痺が下肢より強い、という特徴に着目した呼び方です

脊髄損傷は、損傷部位より下で運動または感覚の機能がまったく残っていない完全損傷と、何らかの機能が残っている不全損傷に大きく分けられます。中心性頸髄損傷は、この不全頸髄損傷のうち、下肢に比べて上肢の麻痺が不釣り合いに強いという特徴をもつものを指す言葉として使われてきました。1954年のSchneiderらの報告に由来する概念で、国内の文献でも「頸髄不全損傷のうち、受傷当初から、またはその回復過程において、上肢の運動障害が下肢よりも著明なもの」と説明されています。

この言葉は、障害の重さや回復の見込みを示すものではありません。国内の総説には、「古典的な中心性頸髄損傷という診断名は、MRIが普及する以前の臨床的な診断であり、回復することが前提にある」ため、この病名はなるべく使わない方がよいという指摘もあります。病名から「軽い」「必ず治る」といった見通しを読み取ることはできません。

「脊髄の中心だけが壊れる」という意味ではありません

かつては、脊髄の断面で神経の通り道が層状に並んでいるという前提のもと、中心に近い部分が損傷されるために上肢の麻痺が強くなると説明されていました。しかし、その後の病理学的な検討では側索・後索の障害が主体で灰白質の損傷を認めないとする報告があり、近年の総説でも、皮質脊髄路が体の部位ごとに層状に並んでいるという前提そのものが支持されないと指摘されています。現在は、頸髄に広く及んだ損傷のうち、手や上肢を支配する線維の密度が高いために、その部分の障害が相対的に強く現れると説明されることが多くなっています。

なお、資料によっては「中心性脊髄損傷」「中心性頚髄損傷」と表記されますが、いずれも同じ臨床像を指しており、この記事では「中心性頸髄損傷」に統一します。上肢と下肢の運動スコアの差で範囲を定める提案も研究上ありますが、近年の総説は既存の定義の見直しを提唱しており、臨床で一律に用いられる単一の数値基準は確立していません。診断、予後、後遺障害の認定を数値だけで決めることはできません。

非骨傷性頸髄損傷・頸椎症性脊髄症・後縦靱帯骨化症との違い

相談の場で最も混同されやすいのが、次の各用語の関係です。重なる場合はありますが、同じ意味ではありません。

混同されやすい用語の整理
用語 何を指すか 混同しやすい点
中心性頸髄損傷 下肢に比べて上肢の麻痺が強いという特徴に着目した、頸髄不全損傷の臨床像。外傷によって生じる 「脊髄の中心だけの損傷」という意味ではない
非骨傷性頸髄損傷 骨折や脱臼が確認されないまま頸髄が損傷された状態を指す、画像所見に着目した呼び方。外傷によって生じる 骨傷のない頸髄損傷がすべて中心性頸髄損傷になるわけではない
頸椎症性脊髄症 加齢に伴う頸椎の変化により脊髄が圧迫されて症状が出る疾患。外傷がなくても生じ得る 手指の巧緻運動障害や歩行の不安定さなど、症状の現れ方が似ている
後縦靱帯骨化症 頸椎の後縦靱帯が骨のように硬くなり、徐々に脊髄を圧迫する疾患。外傷がなくても生じ得る 事故前から存在していたことを理由に、因果関係を争われやすい
頸椎捻挫(いわゆるむち打ち) 頸部の軟部組織の損傷を中心とする診断名。外傷によって生じる 脊髄そのものの障害とは評価の枠組みが異なる

国内の総説でも、「非骨傷性頸髄損傷のすべてが中心性頸髄損傷であると考えている方が多いが、そうではない」と明示的に指摘されています。診断書を読むときは、骨折の有無に関する記載と、麻痺の分布に関する記載を、それぞれ別のものとして確認してください。

なぜ高齢の方で問題になりやすいのか

もともとの脊柱管の狭さと、頸部が後ろに反る力

典型的な受傷の仕方として説明されるのは、転倒して顔や額を打つ、追突されて頭が後ろに反るなど、頸部が後方に強く伸ばされる動きです。加齢によって椎間板や靱帯、椎体に変化が生じ、脊柱管が相対的に狭くなっている場合、頸部が伸展する際に椎体の下縁と椎弓の上縁の間で脊髄が挟まれる、あるいは黄色靱帯がたるんで内側に入り込み脊柱管がさらに狭くなる、といった機序が指摘されています。

国内では、日本脊髄障害医学会が実施した全国調査(2018年)に基づく報告があり、外傷性脊髄損傷全体について、受傷時年齢の中央値が70歳、頸髄損傷が約88パーセントを占め、受傷原因としては転倒が最も多いことが示されています。

軽い外傷でも重い麻痺が生じることがあります

日本脊髄外科学会は、頸椎症・頸椎症性脊髄症および頸椎後縦靱帯骨化症のいずれについても、「道で転倒するなどの比較的軽い外傷にもかかわらず、急激に四肢麻痺などの極めて重い症状が出現することもあります」と説明しています。事故の外形が大きくないことは、頸髄の損傷を否定する理由にはなりません。相手方から「その程度の事故で脊髄を痛めるはずがない」という趣旨の指摘を受けることがありますが、この点は事故態様だけでなく、受傷直後の症状、初期の画像所見、その後の経過とあわせて検討すべき事柄です。

他方で、中心性頸髄損傷は高齢者に限られた病態ではありません。若年者の高エネルギー外傷でも生じ得ますし、骨折や脱臼を伴う症例もあります。年齢や事故の外形だけを理由に、頸髄の損傷の可能性を検討しないという整理は適切ではありません。

上肢に強く出る症状と、生活・仕事への影響

手指の巧緻動作——ボタン、箸、書字

特徴として挙げられるのは、下肢よりも上肢、とりわけ手指の運動障害が強いことです。握力の低下だけでなく、指先の細かい動きが思うようにいかない、動きがぎこちなく時間がかかる、といった形で現れます。学会の一般向け解説では、頸髄が圧迫されたときの巧緻運動障害の例として、ボタンのはめ外し、箸の使用、字を書くことが挙げられています。小銭を扱う、鍵を回す、キーボードや工具を扱うといった動作でも支障が表面化します。

感覚障害、疼痛、易疲労性、歩行の不安定さ

しびれ、感覚の鈍さ、灼けるような痛み、歩行の不安定さ、疲れやすさが残ることがあります。感覚の障害は、肩から前腕にかけて分布するように現れることがあると説明されますが、現れ方には左右差や個人差があります。排尿の問題を伴うこともあり、その場合は泌尿器科等の記録が別に存在することがあります。排尿・排便の障害が残っている場合の等級の考え方と必要な資料は、別の記事で詳しく扱っています。

脊髄損傷後の排尿・排便障害の等級と資料を確認する

「歩けること」と「支障がないこと」は別です

歩行が回復したことは、上肢の機能、巧緻動作、就労能力、後遺障害の有無のいずれをも意味しません。海外の総説でも、歩行機能の回復が手指の巧緻性の回復を保証するものではないと指摘されています。相手方から「歩けているのだから重い障害ではない」という趣旨の指摘を受けることがありますが、前提が異なる議論です。症状ごとに、生活のどの場面で、どのような支障として現れているかを具体的に記録しておいてください。なお、歩行の不安定さが残る場合は、装具や杖の使用状況、屋外歩行に付添いが必要かどうかもあわせて記録してください。

残存症状と、記録しておきたい生活上の支障・資料
症状 生活・仕事に現れる支障の例 記録しておきたい資料
手指の巧緻運動障害 ボタン、箸、書字、小銭の取扱い、工具・機器の操作に時間がかかる 握力・手指機能の検査結果、作業療法の記録
上肢の筋力低下 洗髪、更衣、物の持ち上げ、つり革につかまる動作が難しい 徒手筋力検査の記録、日常生活動作の評価
感覚障害・しびれ 熱さや傷に気づきにくい、手袋をはめたような感覚で作業が遅くなる 感覚検査の記録、部位が分かる図示
疼痛・易疲労性 持続する痛みや疲れやすさで、睡眠、集中、勤務時間が制限される 診療録の疼痛に関する記載、投薬内容、勤怠記録

回復の見通しは何によって変わるか

受傷時の重症度、年齢、画像所見、脊髄の圧迫

回復の見通しは一律には決まりません。文献で予後に関係し得る要素として挙げられているのは、受傷時の神経学的な重症度、年齢、脊柱管の狭さ、MRIで確認される脊髄内の信号変化やその範囲、脊髄の圧迫の程度、併存疾患、その後の治療とリハビリテーションの経過などです。国内の文献では、年齢が高いことと脊柱管が狭いことが成績不良の因子として挙げられ、後縦靱帯骨化症を伴う症例では改善が乏しい例が多いと報告されています。

これらは、集団としての傾向を示す研究上の知見です。個々の方の回復の見通しは、受傷の状況、画像所見、経過によって大きく異なります。「この年齢だからここまで」「この画像だからここまで」と一般化することはできません。個別の見通しは主治医にご確認ください。

機能ごとに回復の程度と時期が異なります

古典的には、Schneiderの記載として、下肢、膀胱機能、上肢の順に回復し、手指の巧緻運動障害が最後まで残るという説明が引用されてきました。もっとも、すべての方がこの順序で回復するという意味ではありません。実務上重要なのは、「全体としてどれくらい良くなったか」ではなく、歩行、上肢、手指の巧緻動作、感覚、疼痛、排尿機能のそれぞれについて、時点ごとにどこまで戻り、どこから変わらなくなったのかが記録されているかどうかです。

医学上の「改善」と法律上の「症状固定」は別の概念です

入院時には四肢が動かなかった方が、退院時には自力歩行に至るという経過は珍しくありません。医学的には大きな改善ですが、手指の機能、感覚、疼痛は別に評価する必要があります。改善の可能性が残っている段階と、後遺障害診断書を作成して申請を検討する段階とを混同しないことが重要です。保険会社から治療費の対応終了を打診されたことは、医学的な症状固定の判断とは別の事柄です。

症状固定と言われたときに確認すべきことを見る

手術とリハビリテーションについて

手術を行うかどうかと、行う場合にいつ行うかは、別の論点です。国内には、麻痺の進行がなく脊柱の不安定性もない場合には、脊髄の圧迫が高度であっても急いで除圧術を行う必要はないとする報告があります。他方で、受傷後早期の除圧を推奨する海外からの報告があり、国内でも早期手術の効果が再検討されています。いずれにしても、脊髄の圧迫の程度、脊椎の不安定性、神経症状の推移、全身状態などを踏まえた医師の判断によるものであり、「高齢者は全員早期手術」「骨折がなければ手術不要」といった一律の整理はできません。リハビリテーションの内容も医療機関の判断によりますので、この記事では個別の運動メニューを示しません。法律上の観点から申し上げられるのは、訓練の内容と、そのときにできたこと・できなかったことが記録として残っているかどうかが、後の評価を大きく左右するということです。

薬物療法についても評価が変遷してきた分野であり、この記事は特定の治療の実施・中止を勧めるものではありません。治療方針は必ず主治医にご確認ください。また、事故の後に手足の力が入りにくい、しびれが強くなった、歩きにくい、排尿がうまくいかないといった変化が生じた場合や、症状が悪化した場合は、法律相談よりも先に医療機関にご相談ください。

中心性頸髄損傷で特に落ちやすい記録

そろえておきたい資料の全体像は、脊髄損傷全般について別の記事で整理しています。ここでは、この類型で特に落ちやすく、後から作り直すことができない記録に絞って挙げます。

中心性頸髄損傷で特に確認しておきたい記録
資料 確認できること 注意点
救急搬送記録・初診時の診療録 受傷直後の意識、四肢の動き、感覚、排尿の状態 初期の麻痺がその後改善しても、受傷内容の裏付けとして重要
レントゲン・CT 骨折の有無、頸椎の配列、骨化病変などの骨性の所見 骨折が確認されないことだけを理由に頸髄損傷を否定することはできない
MRI・画像診断報告書・原画像データ 脊髄内の信号変化、脊髄の圧迫、椎間板や靱帯の状態。事故直後と症状固定時の比較 撮影時期により所見が変わり得る。報告書だけでなく原画像データを保存できるか医療機関に確認する
上肢と下肢を分けた神経学的所見 上肢優位という分布そのもの。徒手筋力検査、感覚検査、握力、手指機能 測定日・測定条件・左右差・上下肢の別が記載されているかを確認する
標準化された評価の記録 ISNCSCIに基づく評価、AIS、改良Frankel分類など 評価時点が複数あると、機能ごとの経過を説明しやすい
事故前の診療録・健康診断 事故前に頸部の症状や機能障害が現実に存在したか 既往の変性を指摘された場合に、最初に必要になる資料

改善しても、初期の記録が意味を失うわけではありません

中心性頸髄損傷では、受傷直後に強い麻痺が生じ、その後かなりの程度まで改善するという経過をたどることがあります。改善したこと自体は望ましいことですが、法律上は、事故によってどの程度の損傷が生じたのかを説明する材料が失われやすい局面でもあります。救急搬送記録、初診時の神経学的所見、初期の画像は、後から作成することができません。なお、CTは骨折や頸椎の配列などの評価に、MRIは脊髄内の信号変化や圧迫の評価に用いられるとされ、いずれか一方の所見だけで診断、因果関係、予後が決まるわけではありません。

後遺障害診断書の作成前に確認したい資料と画像検査の注意点を見る

上肢優位の障害を、後遺障害の枠組みでどう見るか

麻痺の範囲と程度は、身体的所見と画像で裏付ける

自賠責保険の後遺障害等級は自動車損害賠償保障法施行令の別表第一・別表第二に定められ、支払基準は「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」としています。労災の認定基準(厚生労働省「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」平成15年8月8日付け基発第0808002号)は、せき髄の障害について、麻痺の範囲(四肢麻痺、対麻痺、片麻痺、単麻痺)と程度(高度、中等度、軽度)、介護の要否、労務への影響を軸に等級を整理し、「麻痺の範囲及びその程度については、身体的所見及びMRI、CT等によって裏付けることのできることを要する」と明記しています。判断の対象は診断名ではなく、所見と画像に裏付けられた障害の内容です。

なお、麻痺の程度が軽度とされる場合でも、基本動作を行う際の巧緻性及び速度が相当程度損なわれているものが含まれるとされています。「歩ける」ことと評価が軽いこととは直結しません。

上肢だけに強い障害を、どの区分に当てはめるか

中心性頸髄損傷では、上肢の機能障害が中心で下肢の障害は軽いという分布になることがあります。認定基準は麻痺の範囲と程度、介護の要否、労務への影響を組み合わせて判断する構成ですので、この分布がどの区分に整理されるかは、所見の記載の仕方によって結論が変わり得ます。「軽度の四肢麻痺」と評価されるのか、上肢の障害を中心とした評価になるのかは、上肢と下肢を分けた記録があってはじめて議論できます。

判断の対象は、どの部位に、どの程度の麻痺が、どのような他覚的所見と画像所見に裏付けられて残っているかです。等級の全体像、介護を要する場合の考え方、損害項目については、脊髄損傷全般を扱う別の記事で整理しています。

脊髄損傷全体の後遺障害等級と介護の考え方を確認する

せき髄の障害と、局部の神経症状の第12級・第14級は別の問題です

せき髄の障害に関する認定基準は、第1級から第12級までを対象としており、第14級は含まれていません。他方で、自賠責の別表第二には「局部に頑固な神経症状を残すもの」(第12級第13号)、「局部に神経症状を残すもの」(第14級第9号)という等級があり、脊髄損傷としての客観的な裏付けが認められない場合に、残存する神経症状としてこれらが問題になることがあります。「中心性頸髄損傷と診断されたのだから第14級にはならない」「中心性頸髄損傷なら第14級である」といった対応関係は、いずれも成り立ちません。

交通事故の手続で用いる等級と号数は、自賠責の別表によります。労災の認定基準に出てくる号の表記(第1級の3、第5級の1の2など)をそのまま自賠責の号数として用いると誤りになります。自賠責と労災の号数の対応については、脊髄損傷全般を扱う記事で整理しています。

頸椎症や脊柱管狭窄がある場合の、事故との因果関係

既往があることだけで、請求できないとは限りません

相手方から「もともと頸椎症や脊柱管狭窄があった」「加齢による変化が原因である」といった指摘を受けることがあります。しかし、事故前から画像上の変化があったという事実だけで、事故との因果関係が当然に否定されるわけでも、賠償額が当然に減額されるわけでもありません。問題は、変化があったかどうかではなく、事故前に同じ症状や機能障害が現実に生じていたか、事故によって新たに症状が発生し、または悪化したか、という点にあります。

因果関係、素因減額、加重、自賠責の減額は、別々の問題です

「既往症による減額」と一括りにされがちですが、根拠も要件も効果も異なる複数の論点が含まれています。相手方の主張がどれに当たるのかを整理してから検討してください。

既往に関する主張の整理
論点 問題となる内容 主な検討材料
事故との因果関係 事故によって頸髄の損傷が生じ、または症状が現れたといえるか 事故態様、受傷直後の症状、初期の画像・神経学的所見、その後の経過
事故前の症状の有無 事故前に同じ症状や機能障害が現実に存在したか 事故前の診療録、健康診断、就労・家事・運転などの活動状況
素因減額 被害者の疾患が損害の発生・拡大に寄与した場合に、民法第722条第2項の類推適用により減額されるか 疾患の態様・程度、事故前の症状発現の有無、衝撃の強弱
加重障害 事故前に既に後遺障害に相当する障害があり、事故により重くなったといえるか 事故前の障害の内容と程度を示す資料
自賠責における減額 受傷と後遺障害との間の因果関係の有無の判断が困難な場合の減額 自賠責の支払基準の定めと、提出資料の内容

素因減額については、最高裁判所の判例があります。最高裁平成4年6月25日判決(民集46巻4号400頁)は、被害者の疾患と加害行為がともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、民法第722条第2項を類推適用できるとしています。他方で、最高裁平成8年10月29日判決(民集50巻9号2474頁)は、平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情がない限り賠償額の算定において斟酌することはできないとしました。事故前の画像上の変化が「疾患」として評価されるのか、疾患には当たらない身体的特徴にとどまるのかが、実際の争点になります。

これらの判例は、事案ごとの事実関係を前提とした判断です。脊柱管狭窄や後縦靱帯骨化症があることから、直ちに一定割合の減額が導かれるわけではありません。裁判例の射程を機械的に当てはめることはできず、事故前の症状の有無、事故の態様、初期所見、経過を含めた個別の検討が必要です。

事故前の状態を示す資料をそろえる

因果関係と減額のいずれについても、事故前の状態を示す資料が重要になります。事故前に頸部の症状で通院していたか、健康診断でどのような指摘を受けていたか、仕事、家事、運転をどの程度行えていたかが分かる資料をそろえておくと、事故後の変化を説明しやすくなります。高齢であることや退職していることだけを理由に、就労、家事、介護、通院にかかる損害が当然に否定されるわけではありません。

症状固定・申請・示談の前に確認したいこと

脊髄損傷全般の準備事項は別の記事で整理しています。ここでは、この類型で特に確認しておきたい点を挙げます。

  • 救急搬送記録と初診時の診療録に、四肢の動き、感覚、排尿の状態が記載されているかを確認したか
  • 上肢と下肢を分けた神経学的所見が、時点ごとに記録されているかを確認したか
  • 改善の可能性が残っている段階かどうかについて、主治医の医学的意見を確認したか
  • 後遺障害診断書に、上肢・手指の所見、感覚障害、疼痛が漏れなく記載される見込みか(画像診断報告書と原画像データの入手も含む)
  • 事故前の診療録、健康診断、就労・家事の状況が分かる資料を確認したか
  • 家族が行っている介助の内容・時間・頻度を、日付とともに記録しているか
  • 示談書案に、後遺障害や将来の費用に関する清算条項がどのように記載されているかを確認したか

症状固定や後遺障害診断書の作成を控えている段階であれば、残っている症状、上肢と下肢を分けた経時的な所見、生活上の支障が資料としてそろっているかを点検することができます。作成後に記載を補うことが難しくなる項目もありますので、作成前のご確認をおすすめします。

交通事故の取扱業務を見る 相談予約フォームへ進む

弁護士への相談を検討したい場面

弁護士に相談しても、認定される等級や賠償額が保証されるわけではありません。もっとも、次の場面では、資料の過不足と検討すべき選択肢を早い段階で整理しやすくなります。

  • 事故との因果関係や、脊柱管狭窄・後縦靱帯骨化症などの既往について相手方から指摘を受けている
  • 「歩けているのだから重い障害ではない」という趣旨の説明を受けている
  • 症状が改善している途中なのに、症状固定や治療費の対応終了を打診されている
  • 後遺障害診断書の作成を控えている、または申請方法をどうするか決めていない
  • 認定結果が、医学資料や実際の生活上の支障と整合していないと感じている

よくある質問

中心性頸髄損傷と不全脊髄損傷は同じものですか。

同じではありません。不全脊髄損傷は、損傷部位より下に運動または感覚の機能が残っている状態全般を指します。中心性頸髄損傷は、そのうち頸髄の損傷で、下肢に比べて上肢の麻痺が強いという特徴に着目した臨床像です。包含関係にありますが、置き換えられる関係ではありません。

中心性頸髄損傷と非骨傷性頸髄損傷は同じですか。骨折がなくても頸髄を損傷しますか。

同じではありません。非骨傷性頸髄損傷は、骨折や脱臼が確認されないまま頸髄が損傷された状態を指す呼び方で、重なる場合はありますが、骨傷のない頸髄損傷がすべて中心性頸髄損傷になるわけではありません。また、加齢により脊柱管が狭くなっている場合などには骨折を伴わないまま頸髄が損傷されることがあるとされており、CTで骨折が確認されないことだけを理由に頸髄の損傷を否定することはできません。

歩けるようになっても、後遺障害が認定されることはありますか。

あります。後遺障害の評価は、麻痺の範囲と程度、介護の要否、労務への影響を軸に行われ、歩行の可否だけで決まるものではありません。手指の巧緻運動障害、感覚障害、疼痛などが残っている場合は、それぞれの所見と生活上の支障を記録しておく必要があります。結論は個別事情により異なります。

手や指のしびれ、動かしにくさは回復しますか。

一律にお答えすることはできません。回復の程度は、受傷時の神経学的重症度、年齢、画像所見、脊髄の圧迫の程度、併存疾患、経過などにより異なると報告されています。古典的には手指の巧緻運動障害が最後まで残りやすいとされてきましたが、集団としての傾向にすぎません。個別の見通しは主治医にご確認ください。

高齢で脊柱管狭窄があると、交通事故との因果関係は否定されますか。

当然に否定されるわけではありません。事故前に同じ症状や機能障害が現実に存在していたか、事故によって症状が発生または悪化したかが検討されます。素因減額が問題になる場合も個別の判断であり、画像上の変化があることだけで一定割合の減額が導かれるものではありません。

軽い追突や転倒でも、頸髄を損傷することがありますか。

あり得ます。日本脊髄外科学会は、頸椎症性脊髄症や後縦靱帯骨化症について、道で転倒するなどの比較的軽い外傷でも急激に四肢麻痺などの重い症状が出現することがあると説明しています。事故の外形が大きくないことは、頸髄の損傷を否定する理由にはなりません。もっとも、実際の評価は、受傷直後の症状、画像所見、経過を含めて行われます。

高齢で既に退職している場合でも、逸失利益や介護に関する費用を検討できますか。

年齢や退職していることだけを理由に、これらが当然に否定されるわけではありません。現実の就労、再就労の予定、家事労働の内容、実際に行われている介助の内容と頻度、通院や外出に必要な費用などを、資料に基づいて個別に検討します。損害項目ごとの考え方は、脊髄損傷全般を扱う記事で整理しています。

MRIに明らかな異常がなければ、後遺障害は認められませんか。

認定基準は、麻痺の範囲及び程度について身体的所見及びMRI、CT等によって裏付けることができることを要するとしています。画像所見は重要な資料ですが、撮影時期や条件によって所見は変わり得ますし、神経学的所見や経過も判断材料になります。画像だけで結論が決まるものではありません。

まとめ

  • 中心性頸髄損傷は、下肢に比べて上肢の麻痺が強いという特徴に着目した臨床像を指す言葉であり、「脊髄の中心だけが壊れる病気」を意味するものでも、非骨傷性頸髄損傷と同義でもありません。高齢の方では頸部の過伸展と脊柱管の狭さが背景として説明され、比較的軽い外傷でも重い麻痺が生じることがありますが、高齢者だけに起こるものではありません。
  • 回復の見通しは受傷時の重症度、年齢、画像所見、脊髄の圧迫などにより異なり、機能ごとに回復の程度と時期も異なります。歩行、上肢、手指、感覚、疼痛、排尿の各機能を分けて記録してください。
  • 後遺障害等級は診断名では決まりません。認定基準は麻痺の範囲及び程度について身体的所見及びMRI、CT等による裏付けを求めており、上肢優位という分布は上下肢を分けた記録があってはじめて説明できます。
  • 脊柱管狭窄などの既往があることだけで、因果関係が否定されたり減額が確定したりするものではありません。因果関係、素因減額、加重、自賠責上の減額、過失相殺は、それぞれ別の問題として整理します。

歩行が可能な状態で残る症状の記録の仕方については、次の記事もあわせてご確認ください。

歩ける不全脊髄損傷で残る症状と記録方法を確認する

神戸みらい法律会計事務所では、初回相談を無料でお受けしています(事前のご予約をお願いしています)。交通事故の分野では、可能な範囲でお電話での無料相談にも対応しています。夜間・土日祝のご相談も、ご予約により承っています。オンラインでのご相談にも対応しています。

ご相談の際は、診療録、画像診断報告書、後遺障害診断書、認定結果の通知、示談の提示書面など、お手元にある資料をお持ちいただくと確認が進みやすくなります。神戸市須磨区・垂水区・西神・北神をはじめ、兵庫県内及び関西圏からのご相談に対応しています。

相談予約フォームへ進む 078-797-5227へ電話する 弁護士費用を確認する

監修者・執筆者

弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所

代表弁護士・公認会計士 藤井 貴之

兵庫県弁護士会所属/日本公認会計士協会兵庫会所属

弁護士紹介ページを見る

参考資料

本記事は、中心性頸髄損傷と後遺障害に関する一般的な解説です。医学的な診断、治療方針及び個別の回復の見通しは主治医の判断によります。実際の等級認定や賠償額は、事故態様、受傷内容、画像所見、神経学的所見、治療の経過、既往の有無、生活及び就労の状況、資料の内容などにより異なります。事故の類型が交通事故以外である場合は、適用される制度と手続も異なります。具体的な事案については、資料を確認したうえで弁護士にご相談ください。

まずはご予約ください。夜間/休日はご予約で相談可能

法律のお悩みは、 相談しやすい
神戸みらい法律会計事務所
にお任せください。

(初回相談無料 / 交通事故 債務整理は電話での無料相談が可能)

初回相談無料

ご予約フォームはこちら

お電話でもご予約いただけます

 078-797-5227

受付時間 : 9:00〜20:00

LINEからの
ご予約はこちら