医師・歯科医師の死亡事故と逸失利益|診療所・医療法人の損害の分け方 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

弁護士法人あわじみらい法律会計事務所

初回相談無料

兵庫県神戸市須磨区中落合2丁目2−5
名谷センタービル7階

 078-797-5227

受付時間 : 9:00〜20:00

医師・歯科医師の死亡事故と逸失利益|診療所・医療法人の損害の分け方

交通事故でご家族を亡くされ、そのご家族が医師又は歯科医師であった場合、ご遺族には通常の死亡事故とは別の判断が重なります。保険会社からは基礎収入の資料を求められる一方で、診療所には明日の予約が入り、職員の給与日は近づき、患者からの問い合わせが続きます。何から手を付ければよいか分からないまま示談の話が進むことも少なくありません。

このページでは、勤務医・勤務歯科医、個人開業医、医療法人の理事長・役員という立場の違いを出発点に、死亡逸失利益の基礎収入をどの資料で立証するのか、診療所や医療法人の減収・追加費用をどこまで請求できるのか、代診・承継・閉院の判断が損害の検討にどう影響するのか、示談前に何を確認すべきかを整理します。医療過誤ではなく、医師・歯科医師ご自身が交通事故の被害者となった場合の損害賠償の問題を扱います。

先に結論の方向性をお伝えします。

  • 最初に分けるのは金額ではなく「誰の損害か」です。本人の損害(相続人が承継します)、ご遺族固有の損害、医療法人自身の損害は、法律上別の請求として整理されます。
  • 診療所の年間売上は、そのまま本人の基礎収入にはなりません。売上、所得、本人の労務の対価は、それぞれ意味が異なります。
  • 医療法人の減収や代診費用は、法人が当然に請求できるものではありません。裁判実務では、間接損害(企業損害)として限られた要件のもとで判断されています。
  • 他方、資料の裏付けがあれば、確定申告書の所得金額だけを前提とした提示を見直す余地があります。社会保険診療報酬の概算経費を用いていた場合は特にご確認ください。
  • 診療の継続・承継・閉院の判断と、賠償のための証拠の保全は並行して進める必要があります。判断の経過を記録に残すこと自体が立証材料になります。

以下は一般的な整理です。実際の結論は、勤務形態、診療所の開設主体、医療法人の有無と類型、収入の構成、資料の有無などの個別事情により異なりますので、資料を確認したうえで判断する必要があります。

診療所をどうするか決まっていない段階でもご相談いただけます。事故に関する書類、直近の源泉徴収票又は確定申告書、診療所の開設主体が分かる資料があれば、請求主体と損害項目の切り分けから整理できます。

死亡事故を含む交通事故の取扱業務を見る

医師・歯科医師の死亡事故で最初に分ける損害と請求者

死亡事故の損害は、ひとまとまりの「賠償金」として存在するわけではありません。誰にどの損害が生じ、誰が請求できるのかが法律上あらかじめ分かれています。医師・歯科医師の事案では、ここに診療所や医療法人が加わります。

最初に分ける五つの区分
区分 検討する収入・損害 請求主体・権利の帰属 主な資料 混同しやすい点
本人の死亡逸失利益 給与、賞与、非常勤収入、事業所得、役員報酬のうち労務の対価と評価される部分 本人の損害であり、相続人が承継します(民法第896条) 源泉徴収票、確定申告書、青色申告決算書、役員報酬の決議書類 相続人が複数なら相続分に応じて分かれます。配偶者が単独で全額を請求できるとは限りません
本人の慰謝料・治療費等 死亡までの治療費、死亡慰謝料のうち本人分 同じく相続人が承継します 診療報酬明細書、死亡診断書 死亡までの休業損害と死亡後の逸失利益は対象期間が重なりません
遺族固有の慰謝料 父母、配偶者及び子の固有の精神的損害 民法第711条により、その方自身の権利として生じます 戸籍、同居・扶養の状況が分かる資料 相続により承継する請求権ではありません
個人診療所に関する損害 個人開設の診療所の収支の変動、閉院に伴う費用 診療所は権利の主体ではありません。開設者本人又は費用を負担した方に帰属します 月次試算表、総勘定元帳、預金入出金、契約書、見積書 屋号を法人のように扱えません。発生時期が死亡の前か後かで構成が変わります
医療法人に生じた損害 法人の減収、代診医の費用、継続した固定費 法人自身の損害として、法人が請求できるかを別途検討します 法人の決算書、月次試算表、代診契約、募集記録 理事長の相続人が自分の名で法人の損害を請求することはできません

民法第896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めます。死亡逸失利益や本人の慰謝料は、本人に生じた請求権として相続の対象になります。これに対し民法第711条は「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかつた場合においても、損害の賠償をしなければならない」と定めており、これはご遺族自身の権利です。この区別は、相続人が複数いる場合、相続放棄を検討する場合、示談書に誰が署名するかを決める場合に結論を左右します。

また、個人開設の診療所は法人格を持ちません。「○○クリニック」は屋号であり、権利義務は開設者個人に帰属します。したがって個人診療所の収支の変動は、法人の損害としてではなく、本人の損害又は実際に費用を負担した方の損害として構成します。医療法人が開設している場合は、開設者は法人であり、本人は理事長・理事という役員の地位にあります。この違いが、後述する間接損害の問題につながります。

開設主体は、看板や領収書の表示ではなく、開設届の控え、保険医療機関の指定通知、法人登記事項証明書で確認してください。いわゆる法人成りをしている場合、事故当時にどこまで法人へ移していたかによって収入の性質が変わります。

死亡逸失利益はどのように計算するのか

死亡逸失利益の基本的な考え方

基礎収入 × (1 - 生活費控除率) × 就労可能期間に対応する中間利息控除後の係数

三つの要素はいずれも争点になり得ます。医師・歯科医師の事案では、特に「基礎収入」と「就労可能期間」に議論が集中します。

基礎収入・生活費控除・就労可能期間

基礎収入は事故前の現実の収入を出発点に検討します。医師・歯科医師という資格があることが将来の収入を保証するものではなく、他方で職種別の平均額を当てはめれば足りるものでもありません。実際に得ていた収入の構成を、支払者と収入の性質ごとに分けて確認することが出発点です。

事故前年の収入が例年より高かった場合に、その金額をそのまま生涯固定してよいかは別の検討を要します。複数年の推移、年齢、健康状態、診療実態、診療科、診療日数、契約内容、退職・承継の予定などを踏まえ、期間を区切って算定する考え方もあります。逆に前年がたまたま低かった事情がある場合は、その事情を資料で示す必要があります。

生活費控除は、扶養関係、家族構成、現実の生活状況等を踏まえて検討されます。収入が高いことから当然に控除率が下がるとも、性別や職業から一律に何%と決まるとも説明できません。実務資料の目安を用いる場合は、該当箇所と適用条件を確認する必要があります。

なお自賠責保険の支払基準は、有職者の逸失利益について「事故前1年間の収入額と死亡時の年齢に対応する年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額」を収入額とし、生活費は被扶養者がいるときは35%、いないときは50%を控除すると定めています。もっともこれは自賠責保険の支払額を算定するための基準です。最高裁判所第一小法廷平成24年10月11日判決(平成23年(受)第289号)は、自動車損害賠償保障法第16条第1項に基づく被害者請求の訴訟について、「裁判所は、法16条の3第1項が規定する支払基準によることなく損害賠償額を算定して支払を命じることができる」と判示しました。支払基準の数値が、示談交渉や訴訟における損害額の上限や一律の基準になるわけではありません。

高収入の継続性と中間利息控除

就労可能期間について、医師・歯科医師には一般的な意味での定年がないという説明を目にしますが、これを理由に終身にわたり同額の収入が続くと当然に扱われるわけではありません。逆に、高齢であることのみを理由に逸失利益が認められないというものでもありません。勤務先の定年・再雇用制度、非常勤への移行予定、体調と診療の継続可能性、事故前から進んでいた承継計画などを資料に基づいて整理し、勤務形態や収入水準が途中で変わる見込みがある場合には、期間を区切って区間ごとに異なる基礎収入を用いる方法を検討します。

中間利息控除は遅延損害金とは別の問題です。民法第417条の2第1項は「将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これをする」と定め、同法第722条第1項により不法行為に準用されます。法定利率は民法第404条により3年を一期として見直され、法務省の公表資料によれば令和8年4月1日から令和11年3月31日までは年3%です。もっとも、一つの債権に適用される法定利率は請求権が生じた時点で定まり、その後の変動によって変わるものではないとされていますので、事故の時期によって前提が異なります。令和2年3月31日以前に生じた請求権は年5%を前提とする従前の取扱いによります。死亡事故では事故の日と死亡日が異なることがあり、日付を確認せずに利率を決めることはできません。

計算の枠組み自体は職業を問わず共通です。生活費控除率の一般的な考え方、就労可能年数の目安、中間利息控除の係数は次の記事で整理していますので、本記事では医師・歯科医師に固有の当てはめに絞ります。

勤務医・個人開業医・医療法人役員で異なる基礎収入

同じ「医師の年収」でも中身は立場によって異なります。しかも一人の方が常勤給与、非常勤の当直収入、個人事業としての収入、医療法人からの役員報酬を同時に得ていることは珍しくありません。支払者ごと、収入の性質ごとに分けて確認します。

働き方による基礎収入の検討の違い
立場 検討の出発点 主に争点となる事項 中心となる資料
勤務医・勤務歯科医 勤務先から支払われた給与及び賞与 当直・非常勤収入の継続性、臨時の高額手当、若手の場合の将来収入 源泉徴収票、給与明細、賞与明細、雇用契約書、勤務表、賃金台帳
個人開業医・個人開業歯科医 事業所得。ただし申告上の所得と実際の収支は一致しないことがあります 概算経費の適用の有無、専従者給与・減価償却費等の扱い、本人以外の労務と資本の寄与 確定申告書、青色申告決算書、月次試算表、総勘定元帳、診療報酬支払通知、固定資産台帳
医療法人の理事長・役員 法人から支払われた役員報酬 報酬の労務対価性、職務の実態と継続性、法人の支払能力、後任者の報酬水準 法人登記事項証明書、定款、社員総会・理事会の議事録、報酬の決議書類、法人の決算書
複数の収入がある場合 支払者ごとに分け、性質の異なる収入を重ねて数えないこと 同一の収入が複数の資料に現れることによる重複計上、法人化の前後の期間の区切り 上記の各資料に加え、法人設立の時期が分かる資料

勤務医・勤務歯科医の給与・賞与・非常勤収入

給与、賞与、当直手当、非常勤先からの収入を、源泉徴収票、給与明細、雇用契約書、勤務実績、確定申告書で照合します。手取り額、給与収入(支払金額)、給与所得控除後の金額は、いずれも別の数値です。どの数値を基礎収入として採用するかを明確にしないまま議論すると、前提がずれたまま交渉が進みます。また、源泉徴収票の支払金額には賞与が含まれていますので、これを基礎収入とする場合に賞与明細の金額を重ねて加算することはできません。

臨時の高額手当、単発の講演・執筆収入、若手・研修中の場合の将来収入は、持続性と客観的な裏付けを個別に検討します。統計資料を用いる場合は、調査年、母集団、職種(医師と歯科医師は別です)、年齢階級、雇用形態、賞与の扱いを明らかにする必要があります。雇用される者と事業者を混ぜた平均値をそのまま当てはめることはできません。

個人開業医の売上・実額経費・本人の労務

最も誤解が生じやすいのが「診療所の年間売上」と「本人の基礎収入」の関係です。保険診療・自由診療の売上は、人件費、賃料、医薬品・材料費、機器の減価償却費などの経費を負担して初めて成り立つものであり、売上額がそのまま本人の収入になるわけではありません。検討にあたっては次の点を落とさないでください。

  • 税務申告上の所得、事業の実際の収支、損害賠償上の基礎収入は目的が異なり、一致するとは限りません。
  • 社会保険診療報酬の概算経費を用いていた場合は特に注意が必要です。租税特別措置法第26条は、医業又は歯科医業を営む個人について、社会保険診療につき支払を受けるべき金額が5,000万円以下であり、かつ事業所得の総収入金額が7,000万円以下であるときに、必要経費に算入する金額を、実際の支出額ではなく収入金額の区分ごとに定められた率により計算した金額とすることを認めています。この特例を用いていた場合、申告書上の経費は実額経費ではありません。もっとも、差額を機械的に全額加算してよいことにはならず、実額経費の集計資料と適用状況を確認する必要があります。
  • 青色申告特別控除、専従者給与、減価償却費、賃料、借入利息を、一律に足し戻したり一律に控除したりしないでください。それぞれ性質が異なります。
  • 本人以外の寄与を検討します。専従者、勤務医、歯科衛生士、事務職員の労務、設備・資本の寄与によって生じた利益と、本人の労務によって生じた利益は区別します。他方で、ご家族の労務を無償と決め付けることも適切ではありません。
  • 借入金の元本返済と利息、設備投資と費用、資金繰りと損益を区別してください。借入残高が残っていることを理由に、その全額を事故による損害に加算することはできません。
  • 確定申告額と異なる実収入を主張する場合は整合性が問われます。帳簿、診療報酬支払通知、預金入金、請求・診療実績が相互に整合していることを示す必要があり、「医師の平均年収を使えばよい」という方法で代替することはできません。

所得税等の扱いについては、最高裁判所第二小法廷昭和45年7月24日判決が、営業上の得べかりし利益が問題となった事案において、「税法上損害賠償金が非課税所得とされているからといつて、損害額の算定にあたり租税額を控除すべきものと解するのは相当でない」と判示しています。税務上の所得計算という問題と、損害額の算定にあたり個人の税負担を控除するかという問題は別です。受け取った賠償金への課税は、さらに別の論点です。

開業直後、大きな設備投資の直後、育児・介護等で診療日数を抑えていた時期、自由診療の比率が高い診療所、非常勤収入が併存する場合は、いずれも個別の説明を要する典型的な場面です。事故前年の数値のみを見て判断することは適切ではありません。

医療法人の役員報酬と法人の利益

医療法人が診療所を開設している場合、本人が受け取っていた役員報酬と、法人の医業収益・利益・内部留保はまったく別のものです。法人の売上や利益をそのまま役員個人の年収に足すことはできません。本人が法人に有していた貸付金の元本返済、本人所有の不動産を法人に賃貸していた場合の賃料も、診療・経営管理という労務の対価とは区別します。

役員報酬は、その全額が当然に基礎収入となるわけでも、当然に一部が除かれるわけでもありません。診療及び経営管理の職務内容、勤務実績、報酬決定の資料、支給額の推移、法人の支払能力、後任者に支払われている(又は支払う予定の)報酬額などから、本人の労務の対価としての実質を検討します。

ここで、株式会社を前提とした説明をそのまま持ち込まないでください。医療法第54条は「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない」と定めています。株式会社の役員報酬について語られる「利益配当部分」という説明を無修正で当てはめることはできません。他方、配当が禁止されていることを理由に、名目上の役員報酬の全額が当然に労務の対価であると結論づけることもできません。

用語も正確に用いる必要があります。医療法人には社団たるものと財団たるものがあり、社団医療法人の構成員は「社員」と呼ばれますが、これは従業員のことではありません。平成18年の医療法改正により、持分の定めのある社団医療法人は新たに設立することができなくなり、既存のものについて当分の間存続する旨の経過措置が置かれています(改正法附則第10条、第10条の2)。持分とは、厚生労働省の資料によれば、定款の定めるところにより出資額に応じて払戻し又は残余財産の分配を受ける権利をいいます。医療法人一般について「株主」「株式」「配当」という表現を用いることは適切ではありません。持分の相続、社員資格、議決権、役員の地位はそれぞれ別の問題であり、持分を相続したからといって、当然に社員となり、あるいは経営者となるわけではありません。この点は定款の定めによって左右されます。

診療所や医療法人の減収・追加費用は請求できるか

院長が亡くなれば診療所の収益は落ち込みます。代診を手配すれば費用がかかり、休診にしても賃料、リース料、職員の給与は発生し続けます。これを加害者側に請求できるかは、ご遺族と残された役員が最も知りたい点の一つですが、法的には本人の逸失利益とは別の、難度の高い論点です。

医療法人の間接損害と請求の条件

法人が所有する物自体が壊された場合のような法人に直接生じた損害と、医師個人が亡くなったことに伴って法人に生じた減収・追加費用とは性質が異なります。後者は、加害行為の相手方が本人であり法人はその影響を受けた立場にあるため、「間接損害」「企業損害」と呼ばれます。本人への加害行為によって法人に経済的不利益が生じたというだけでは、法人の請求が当然に認められるわけではありません。これを認めると賠償の範囲が際限なく広がりかねないためです。

この分野で参照されるのが、最高裁判所第二小法廷昭和43年11月15日判決(昭和40年(オ)第679号、民集22巻12号2614頁)です。個人で薬局を営んでいた方が納税上の理由から有限会社を設立し、その代表者が交通事故で負傷したという事案でした。原審は、会社が形式上は有限会社であっても実質上はその方個人の営業であり、その方が唯一の取締役として当然に会社を代表し、会社の実権は従前どおりその方に集中し、ほかに薬剤師がおらず、その方を離れて会社の存続は考えられないと認定しています。最高裁は、被上告会社が「法人とは名ばかりの、俗にいう個人会社」であり、「同人には被上告会社の機関としての代替性がなく、経済的に同人と被上告会社とは一体をなす関係にあるものと認められる」として、加害行為と会社の利益の逸失との間に相当因果関係があることを認め、「形式上間接の被害者たる被上告会社」の請求を認容した原審の判断を正当としました。

この判決は、薬局を営む有限会社の代表者が負傷した事案についてのものであり、医療法人の院長が死亡した事案について法人の損害を当然に認めた判例ではありません。医療法人には剰余金の配当禁止など固有の規律があり、会社法上の会社とは制度が異なります。負傷の事案と死亡の事案では、その後の事業の継続可能性の評価も異なり得ます。援用する場合は原文にあたり、事実関係と射程を確認してください。

したがって、法人と本人の経済的一体性、本人の代替困難性、事業の規模、他の医師や役員の関与の程度を、判例の判断枠組みに照らして具体的に検討することになります。「一人医療法人だから」「家族経営だから」「院長しか診療できなかったから」という呼称や事情を並べるだけで例外が成立するわけではありません。複数の常勤医が在籍し理事も複数いる医療法人では、法人の請求は認められにくい方向に働きます。

代診費用・固定費・閉院費用と二重計上

請求可能性を検討する項目としては、代診医・後任医師の確保費用、合理的な期間の減収、継続して発生した固定費、患者対応の費用、閉院に伴う費用が挙げられます。ただし、費用が現実に発生したことと、法的に賠償されるべき損害と評価されることは別です。次の各点を順に点検してください。

法人・診療所側の損害を検討するときの点検項目
点検項目 確認する内容
請求主体 その費用を負担したのは法人か、本人か、ご遺族個人か。支出の原資と名義を確認します
因果関係 死亡とその支出・減収との結び付き。事故前からの減少傾向や外部要因がないか
必要性・相当性 代診医の報酬水準、募集方法、契約期間が、その状況で合理的といえるか
対象期間 いつからいつまでを損害の期間とするか。後任者の確保に通常要する期間との関係
節減された費用 休診により支出を免れた材料費、光熱費、外注費などを差し引いているか
二重計上 本人の逸失利益として計算した金額と同じ経済的損失を、法人側でも計上していないか

実費として支出したという事実だけで間接損害としての問題がなくなるわけではありません。また、法人の損害について、本人の死亡逸失利益と同じ期間・同じ計算式を機械的に用いたり、本人の生活費控除率を適用したりすることは適切ではありません。法人には生活費や就労可能期間という概念がなく、事業の減収と追加費用として期間を区切って積算するのが本来の形です。売上減少額から支出を免れた変動費を控除し追加費用を加えるという営業損害の計算の考え方自体は契約不履行の場面と共通しますが、営業損害の計算方法だけを転用せず、そもそも法人が請求できるかという入口の問題を別に検討してください。

代診・事業承継・閉院が損害の検討に与える影響

診療所をどうするかという判断は、ご遺族にとって最も重い決断であり、同時に損害の検討にも影響します。次の各点を順に照合してください。

二重計上と相殺関係の照合手順
照合する事項 確認の視点
本人の逸失利益と法人の減収 同一の経済的損失を双方で計上していないか。本人の役員報酬を逸失利益として計算しつつ、その報酬を支払わずに済んだ法人が同額の減収を主張していないか
減収の計算と固定費の加算 売上減少から節減費用を控除したうえで、その節減費用に含まれる項目を固定費として別途加算していないか
後任者の報酬と免れた本人の報酬 後任者に支払う報酬を損害とする場合に、本人に支払わずに済んだ報酬との関係をどう処理しているか
代診により確保した収益 代診によって得られた診療収益を、減収額の計算に反映しているか
事故後に入金された診療報酬 死亡前の診療に係る未収金の回収か、死亡後の診療による収益か。入金月のみを見て減収の有無を判断していないか
承継後の収益 その収益が、誰の労務・資本・権利に基づき、誰に帰属しているか
譲渡代金・売却代金・持分の評価額 事業譲渡代金、設備の売却代金、出資持分の評価額を、逸失利益から差し引いたり別の損害として加算したりしていないか
事故以外の要因 死亡前から予定されていた引退・承継・閉院、経営不振、患者数の減少傾向を、事故の影響と分けているか

診療報酬は診療の月と入金の月がずれます。事故後の通帳に入金があることをもって収入が続いていると評価することはできません。どの月の診療に対応する入金かを、診療報酬支払通知や請求データで確認してください。

承継後の収益については、二つの極端な説明のいずれも適切ではありません。ご家族や後任医師が継続したからといって本人の逸失利益が当然にゼロになるわけではなく、本人が働いて得たはずの収入と別の医師が自らの労務で得た収入は同じものではありません。他方、承継後の状況が一切関係しないわけでもありません。いずれの主張をするにせよ、誰の労務・資本・権利に基づく収益かを整理して説明する必要があります。

診療の継続・閉院の判断について

賠償額を増やす目的で休診期間を延ばしたり閉院を選択したりすることはお勧めしません。損失の拡大を防ぐ対応をとること自体は法的にも自然な行動です。他方、無条件の即時再開を勧めるものでもなく、管理者の資格、代診の確保、職員の体制、患者の安全が整わないままの再開には別のリスクが伴います。

大切なのは、どの選択肢を、どのような理由で、いつ検討したのかを記録に残すことです。代診医の募集記録、紹介依頼先とその回答、報酬の見積書、承継の相談経過、休診を決めた際の判断資料は、後に「その対応が合理的であったか」が問われたときの中心的な材料になります。

資料と契約を確認する意味

代診の契約書、賃貸借契約書、医療機器のリース契約書、借入れの契約書は、賠償の検討だけでなく、診療を続けるかどうかの判断そのものに関わります。契約により、賃貸人やリース会社への通知が必要な場合、名義変更に相手方の承諾が必要な場合があります。手元の契約書と直近の会計資料をご用意いただければ、優先順位を整理できます。

相談予約フォームへ進む

院長死亡後に確認する診療継続と相続の手続

賠償の検討と並行して、期限のある手続を管理する必要があります。重要なのは、個人開設の診療所と医療法人が開設する診療所とでは、手続の構造がまったく異なるという点です。

個人開設の診療所の場合

個人開設では、開設者は亡くなったご本人です。医療法第9条第2項は「病院、診療所若しくは助産所の開設者又はオンライン診療受診施設の設置者が死亡し、又は失踪の宣告を受けたときは、戸籍法の規定による死亡又は失踪の届出義務者は、十日以内に、その旨をその所在地の都道府県知事に届け出なければならない」と定め、同条第1項の廃止の届出も10日以内とされています。神戸市は保健所を設置する市であり、市の案内では、診療所の休止・廃止の届出と開設者死亡(失そう宣告)の届出が別の様式として掲げられ、いずれも事実の発生から10日以内、提出先は施設所在地の各保健センターとされています。

相続によって建物や医療機器を承継することと、診療所を開設し医業を行うこととは別の問題です。医師法第17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定め、歯科医師法第17条も同様です。医療法第10条第1項により、診療所の開設者は、医業をなすものである場合は臨床研修等修了医師に、歯科医業をなすものである場合は臨床研修等修了歯科医師に管理させなければなりません。保険診療についても、健康保険法第65条第1項は保険医療機関の指定を「病院若しくは診療所又は薬局の開設者の申請により行う」と定めています。指定は開設者に対して行われますので、開設者が変われば従前の指定がそのまま引き継がれるわけではありません。なお地方厚生局は、開設者の死亡等により引き続き診療が行われる場合の遡及指定の取扱いを定めた通知を公表しています(保医発0605第2号・令和8年6月5日、原則として令和8年9月1日から適用)。取扱いは改められたばかりですので、現行の案内をご確認ください。

「相続すればそのまま診療を続けられる」わけでも、「医師でない相続人はいかなる立場でも関与できない」わけでもありません。開設者となれる者、管理者となれる者、実際に診療を行える者は、それぞれ要件が異なります。兵庫県及び神戸市の公式案内には、相続人が承継する場合の手続の流れが明示されていない部分がありますので、具体的な進め方は所管の保健所(神戸市内は各区の保健センター)及び近畿厚生局兵庫事務所にご確認ください。

免許に関する手続も忘れられがちです。医師法施行令第6条第2項は、医師が死亡し又は失踪の宣告を受けたときは、戸籍法による死亡又は失踪の届出義務者が30日以内に医籍の登録の抹消を申請しなければならないと定め、同令第10条第1項により免許証を返納することとされています。歯科医師法施行令第6条第2項にも同様の定めがあります。

医療法人の場合

医療法人が開設者である場合、理事長が亡くなっても開設者である法人は存続します。医療法第55条第1項が定める社団たる医療法人の解散事由は、定款で定めた解散事由の発生、目的たる業務の成功の不能、社員総会の決議、他の医療法人との合併、社員の欠亡、破産手続開始の決定、設立認可の取消しであり、理事長の死亡それ自体は解散事由とされていません。「理事長が亡くなれば法人は当然に解散する」という説明は正確ではありません。

他方、放置してよいわけでもありません。医療法第46条の5第1項は理事3人以上及び監事1人以上を置くことを求め、同法第46条の6第1項は「医療法人の理事のうち一人は、理事長とし、医師又は歯科医師である理事のうちから選出する」と定めています(都道府県知事の認可を受けた場合の例外があります)。医療法施行令第5条の13は、役員に変更があったときは就任承諾書及び履歴書を添付して遅滞なく都道府県知事に届け出なければならないと定め、管理者の変更は同令第4条により開設届の記載事項の変更として10日以内の届出が必要です。

兵庫県の案内によれば、医療法人に関する届出の提出先は、主たる事務所の所在地を所管する県健康福祉事務所又は各市保健所(神戸市内は各区役所の保健センター管理係)とされています。診療所の開設に関する手続は神戸市が保健所設置市として所管する一方、医療法人に関する手続は兵庫県知事宛てとなり、窓口が分かれます。どちらの手続かによって提出先が変わりますので、一覧にして管理してください。

診療録の保存も確認事項です。医師法第24条第2項は、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関する診療録はその病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものはその医師において、5年間保存しなければならないと定めています。保険医療機関及び保険医療養担当規則第9条は、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録を完結の日から3年間、患者の診療録については完結の日から5年間保存するものとしています。そのほか、患者への連絡方法、職員の雇用契約、建物の賃貸借、医療機器のリース、借入れ、自由診療の前受金の取扱いも、早い段階で確認すべき事項です。

持分の相続、社員・役員の地位、後任理事長の選任、遺産分割、納税資金といった事業承継そのものは、本記事の中心的な論点ではありません。次の記事もあわせてご確認ください。

保険会社との協議に必要な証拠と主な争点

医師・歯科医師の死亡事故では、保険会社から次のような指摘を受けることがあります。これらが常に誤りだというわけではありません。資料によっては相手方の指摘が相当と評価される場面もあります。重要なのは、どの事実が争点になるかを把握し、対応する資料を早い段階で確保することです。

想定される争点と、確認すべき事実・有用な資料
想定される争点 確認すべき事実 有用な資料
収入が一時的に高かっただけではないか 複数年の収入の推移と、増加の原因(診療日数、自由診療、一時的な受託業務等) 複数年分の源泉徴収票、確定申告書、青色申告決算書、月次試算表
売上・法人利益・他の者の貢献が混在していないか 本人の診療実績、他の医師・職員の診療実績、設備の寄与、専従者の職務 診療実績データ、勤務表、給与台帳、固定資産台帳、専従者の職務記録
役員報酬額に見合う職務実態・継続性があるか 診療・経営管理の職務内容、勤務日数、報酬決定の経緯、支給額の推移、法人の支払能力 社員総会・理事会の議事録、報酬の決議書類、法人の決算書、勤務実績
年齢・体調・引退予定・契約更新から期間を見直すべきではないか 健康状態、診療日数の推移、契約期間と更新の実績、承継の検討状況 健康診断結果、診療実績、雇用・委託契約書、承継に関する相談記録
代診・承継により減収を抑えられたのではないか 代診の確保に要した期間と費用、承継の実現時期、事故後の診療収益 募集記録、代診契約、見積書、事故前後の月次収支
法人の請求は間接損害にとどまるのではないか 法人と本人の経済的一体性、本人の代替困難性、他の医師・役員の関与 法人登記事項証明書、定款、役員名簿、常勤医の在籍状況
法人と本人で同じ損失を請求していないか 本人の逸失利益の計算根拠と、法人側の減収・費用の計算根拠の対応関係 双方の計算書と、根拠となる会計資料

資料は争点に応じて段階的に集めるのが現実的です。すべてがそろうまで相談を先延ばしにする必要はありません。初回は、事故と死亡に関する資料、保険会社からの書面、本人の働き方と診療所の開設主体が分かる資料、直近の源泉徴収票又は確定申告書と決算書、相続関係と現在の診療継続状況を説明できる資料があれば足ります。その後、争点に応じて次の資料を追加します。何年分を集めるかは、法律上の保存義務と実務上の推奨を分けて考えてください。

確認したいことと資料の対応
確認したいこと 資料 主な保有者 取得・保存時の注意点
収入の水準と推移 複数年分の源泉徴収票、確定申告書、青色申告決算書、給与明細、賞与明細 ご遺族、勤務先、税理士 控えではなく受付印又は受信通知のあるものが望ましい
診療所の収支の実態 月次試算表、総勘定元帳、預金入出金明細、固定資産台帳、実額経費の集計 診療所、税理士、金融機関 概算経費を用いていた場合、実額経費が別に集計されているか確認します
診療収益の内訳と時期 保険診療・自由診療別の売上、診療報酬支払通知、請求データ、入金記録 診療所、審査支払機関 診療月と入金月の対応が分かる形で整理します
本人と他の者の労務 雇用・非常勤契約、勤務表、診療実績、給与台帳、専従者の職務資料 診療所、法人、勤務先 患者個人が特定されない集計の形にできるか検討します
法人の意思決定と報酬 法人登記事項、定款、社員・役員名簿、報酬の決議書類、退職金規程、出資持分・貸付金の資料 法人 議事録は原本の所在を確認します
事故後の対応の合理性 代診・後任者の募集記録、見積書、契約書、事故前後の月次収支、休診・患者対応・承継検討の記録 ご遺族、法人、診療所 検討の経過が分かるよう日付入りで残します
固定費と契約関係 賃貸借契約書、医療機器のリース契約書、借入契約書、保険証券、前受金の記録、閉院費用の資料 診療所、法人、金融機関 解約や名義変更の条項を確認します
相続関係と各種給付 戸籍、遺言、相続関係を示す資料、保険金・年金・退職金の支給通知 ご遺族、保険会社、共済 受給・受取の主体がそれぞれ誰かを確認します

患者の診療情報の取扱いについて。患者の氏名や病名を含む資料を、一般の問い合わせフォームに貼り付けたり、公開型の生成AIサービスに一括して入力したりすることはお勧めしません。損害の立証には、患者個人が特定されない収益の集計、件数、点数の推移で足りる場合が多くあります。原データは改変せず、権限のある方が保存し、提出する範囲と方法を弁護士と調整してください。

示談前の確認事項と弁護士に相談するタイミング

期間制限は制度ごとに別に管理します

加害者等への損害賠償請求、自賠責保険の被害者請求、その他の保険金請求、相続放棄等の熟慮期間、医療機関に関する行政手続は、それぞれ制度が異なり、起算点も期間も別です。一つの期限を守れば足りるという構造ではありません。

不法行為による損害賠償請求権について、民法第724条は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間、不法行為の時から20年間と定め、同法第724条の2は、人の生命又は身体を害する不法行為による請求権については前者の期間を5年間とする旨を定めています。ここで注意が必要なのは、医療法人が主張する経済的な損害が「人の生命又は身体を害する不法行為」による損害といえるかが問題となり得るという点です。本人・ご遺族の請求と法人の請求とで前提が異なる可能性がありますので、個別に確認してください。死亡事故では事故の日と死亡の日が異なることがあり、起算点の検討も要します。また、保険会社と交渉を続けていれば時効の進行が当然に止まるというものではありません。

相続の承認・放棄の熟慮期間は、民法第915条第1項により自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月とされ、家庭裁判所への期間伸長の申立てが認められる場合があります。所得税の準確定申告は、所得税法第125条第1項により、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までとされています。

示談の当事者と、利益が相反する場面

ご遺族が複数いる場合、未成年の相続人がいる場合、医療法人も損害を主張する場合には、示談の当事者と代理権の所在を確認する必要があります。未成年者については法定代理の問題があり、親権者自身も相続人である場合には利益が相反する可能性があります。医療法人については代表権の所在を確認します。ご遺族全員と法人とを、当然に同一の代理人がまとめて代理できるわけではありません。示談書の清算条項が、本人分・遺族固有分・法人分のどこまでを対象としているかは文言によって左右されますので、署名前に対象範囲を確認してください。なお、遺産分割が終わっていないことは、資料の収集や相談を始めない理由にはなりません。

受け取った給付と税務の整理

自賠責保険金、任意保険金、生命保険金、遺族年金、労災保険給付、死亡退職金は、受給・受取の主体、制度の趣旨、対象となる損害、賠償額との調整の根拠がそれぞれ異なります。「すべて差し引かれる」とも「すべて差し引かれない」とも説明できません。本記事では、受領・請求に関する資料を漏れなく整理しておく必要性を指摘するにとどめます。

税務も、性質の異なる複数の問題が混在します。国税庁の資料によれば、被害者が死亡したことに対して支払われる損害賠償金は相続税の対象とはならないとされる一方、被相続人が生前に受け取ることが確定していて受け取っていなかったものについては、その債権が相続財産となり相続税の対象となるとされています。また、事業所得の必要経費に算入される金額を補てんするための損害賠償金は非課税とならず、事業所得の収入金額となるとされています(いずれも令和8年4月1日現在の法令等に基づく記載)。したがって、「民事上、請求権を相続するのだから相続税がかかる」とも、「死亡に伴って受け取るお金はすべて非課税である」とも説明できません。個人の所得税、相続税、法人税は別の制度であり、請求権が発生・取得された時期と、示談や判決により金額が確定した時期も区別します。会計上いつ費用や収益として認識するかという問題も、損害として認容されるかという問題とは別です。

相続放棄・限定承認を検討する場合の注意

診療所に多額の借入れがある場合、相続放棄や限定承認が選択肢になります。ただし民法第921条第1号は、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは単純承認をしたものとみなすと定めています(保存行為及び民法第602条に定める期間を超えない賃貸は除かれます)。診療所の資産の売却、事業譲渡、預金の払戻し、債務の支払は、いずれもこの規定との関係を検討すべき行為です。ご遺族自身に属する金銭、相続財産、医療法人の財産はそれぞれ別のものです。閉院や承継を急ぐ事情があるからといって、確認を経ずに財産を処分することはお勧めしません。行為の主体、原資、目的を確認したうえで判断してください。

相談を検討していただきたい時期

ご相談は、資料がそろってからでなくても差し支えありません。次のいずれかに当たる段階でご相談いただくと、対応方針を整理しやすくなります。

  • 保険会社から損害計算書や示談案が届いた、あるいは基礎収入に関する資料の提出を求められた
  • 診療を続けるか、代診を頼むか、閉院するかを決めなければならない
  • 診療所や医療法人に借入れがあり、相続放棄を検討する必要がある
  • 相続人が複数おり、示談の当事者や署名の方法を決めかねている
  • 医療法人の残存役員として、法人の損害を主張できるかを確認したい

よくある質問

医師・歯科医師の死亡逸失利益に一律の上限はありますか。

法令上、職業や収入額によって一律の上限を設ける仕組みはありません。自賠責保険には支払の限度額がありますが、これは自賠責保険から支払われる金額の限度であり、民事上の損害額の上限ではありません。最高裁判所第一小法廷平成24年10月11日判決も、被害者請求の訴訟において裁判所が支払基準によらずに損害賠償額を算定して支払を命じることができるとしています。他方、実際に得ていた収入がそのまま生涯続くと当然に扱われるわけでもなく、資料に基づく検討が必要です。

診療所の年間売上を基礎に計算できますか。

売上をそのまま基礎収入とすることはできません。売上は、人件費、賃料、医薬品・材料費、機器の減価償却費などの経費を負担して初めて成り立つものだからです。また、他の医師や職員の労務、設備・資本の寄与によって生じた部分と、本人の労務によって生じた部分も区別して検討します。売上の資料は、収支の実態を説明するための出発点として意味があります。

確定申告上の所得が低い場合、ほかの資料で検討できますか。

検討の余地はあります。特に社会保険診療報酬の概算経費(租税特別措置法第26条)を用いていた場合、申告書上の経費は実際の支出額ではありませんので、申告上の所得が実際の収支と一致しないことがあります。ただし、差額を機械的に全額加算してよいという結論にはなりません。帳簿、診療報酬支払通知、預金入金、診療実績が相互に整合していることを示す必要があり、資料の有無によって主張できる範囲が変わります。

医療法人の役員報酬は全額が基礎収入になりますか。

全額が当然に基礎収入になるとも、一部が当然に除かれるとも申し上げられません。診療及び経営管理の職務内容、勤務実績、報酬決定の資料、支給額の推移、法人の支払能力、後任者の報酬水準などから、本人の労務の対価としての実質を検討します。なお、医療法第54条は医療法人による剰余金の配当を禁じていますので、株式会社を前提とした「利益配当部分」という説明をそのまま当てはめることはできません。

医療法人の売上減少や代診費用も請求できますか。

当然に請求できるとは申し上げられません。医師個人への加害行為によって法人に不利益が生じた場合、それは間接損害(企業損害)として限られた要件のもとで判断されてきました。最高裁判所第二小法廷昭和43年11月15日判決は、薬局を営む有限会社について、法人と代表者の経済的一体性と代表者の代替困難性を認定した事案で会社の請求を認めた原審を正当としましたが、医療法人の事案について当然に法人の損害を認めた判例ではありません。法人の請求主体性、因果関係、必要性、金額、対象期間、節減費用、二重計上の有無を個別に検討する必要があります。

家族や後任医師が診療所を継続すると逸失利益はなくなりますか。

なくなるとは限りません。本人が働いて得たはずの収入と、別の医師が自らの労務によって得た収入は同じものではないからです。他方、承継後の状況が一切考慮されないわけでもありません。承継後の収益が、誰の労務・資本・権利に基づき、誰に帰属しているのかを整理して説明することが出発点になります。

高齢の医師・歯科医師でも逸失利益は認められますか。

年齢のみを理由に認められないというものではありません。実際の診療日数、健康状態、診療の継続可能性、事故前から進んでいた承継や引退の計画などを踏まえて、就労可能期間と基礎収入を検討します。逆に、いわゆる定年がないことを理由に、終身にわたり同額の収入が続くと当然に扱われるわけでもありません。期間を区切って算定する方法が検討される場面です。

診療所を閉めるか決まっていなくても相談できますか。

差し支えありません。むしろ判断を決める前の段階のほうが、選択肢とそれぞれの影響を整理しやすくなります。診療の継続、代診の確保、承継、閉院のいずれを選ぶ場合でも、検討の経過を記録に残しておくことが後の立証において意味を持ちます。資料がすべてそろっている必要はありません。

まとめ

  • 最初に、本人の損害(相続人が承継するもの)、ご遺族固有の損害、医療法人自身の損害を分けます。診療所は権利の主体ではありません。
  • 死亡逸失利益は、基礎収入、生活費控除率、就労可能期間に対応する中間利息控除後の係数から検討します。
  • 勤務医は給与・賞与・非常勤収入の照合、個人開業医は売上・所得・本人の労務の切り分け、医療法人役員は役員報酬の労務対価性が中心の論点になります。
  • 医療法人の減収や代診費用は、間接損害として入口の要件から検討します。計算方法だけを他の場面から転用することはできません。
  • 本人の逸失利益と法人側の損害を、同じ経済的損失について重ねて計上していないかを点検します。
  • 個人開設か医療法人かによって、死亡後の手続の構造が異なります。期限のある手続は一覧にして管理してください。
  • 示談の前に、期間制限、当事者と代理権、清算条項の対象範囲、受領した給付の整理を確認します。
  • 診療の継続・承継・閉院を検討した経過は、日付入りで記録に残してください。

ご相談で整理できること

ご相談では、本人・ご遺族・医療法人それぞれの請求の区別と請求主体、基礎収入を裏付ける資料の範囲と追加で必要になる資料、代診・承継・閉院の判断にあたって残すべき記録と証拠、保険会社からの提示内容と示談書の文言を、資料に沿って整理します。費用及び相談の方法はご相談の内容によって異なりますので、ご予約の際にご確認ください。

相談予約フォームへ進む

弁護士費用を確認する事務所案内・アクセスを見る交通事故の関連コラムを見る

お電話でのご予約 078-797-5227(受付時間 9:00~20:00)

弁護士紹介

本記事は、弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所(兵庫県神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階)が運営するコラムです。当事務所には、次の弁護士が在籍しています。

  • 藤井 貴之 弁護士(兵庫県弁護士会)・公認会計士(日本公認会計士協会兵庫会)/当事務所代表弁護士
  • 河津 昂輝 弁護士(兵庫県弁護士会)

当事務所は、交通事故の損害賠償請求のほか、遺言・相続、法人向けの法律業務を取り扱っています。本記事のように損害賠償の法律問題と会計資料の読み方が交錯する事案では、法律面の検討と会計資料の確認を併せて進めます。

弁護士紹介ページを見る法人向けの取扱業務を見る

参考資料

本記事は、令和8年(2026年)9月に確認した法令、判例及び公的資料に基づく一般的な説明であり、個別の事案についての法的助言ではありません。基礎収入の認定、医療法人の損害の可否、行政手続の要否と方法は、勤務形態、診療所の開設主体、医療法人の類型、資料の有無、家族構成などの個別事情により結論が異なります。行政手続の具体的な取扱いは、所管の窓口にご確認ください。

まずはご予約ください。夜間/休日はご予約で相談可能

法律のお悩みは、 相談しやすい
神戸みらい法律会計事務所
にお任せください。

(初回相談無料 / 交通事故 債務整理は電話での無料相談が可能)

初回相談無料

ご予約フォームはこちら

お電話でもご予約いただけます

 078-797-5227

受付時間 : 9:00〜20:00

LINEからの
ご予約はこちら