交通事故で顔や頭部、頸部に傷あとが残ってしまうと、痛みや治療の不安に加えて、「この傷あとは後遺障害になるのか」「何級になる可能性があるのか」「示談の前に何を準備すればよいのか」といった悩みを抱えることが少なくありません。とくに顔の傷あとは、接客・営業・販売・飲食・美容・医療福祉・受付など、人と接する機会の多い仕事や日常生活への影響を心配される方が多い部分です。
また、頭皮を強く打った、頭を縫った、脳の治療のために開頭手術を受けたという方からは、「頭の傷あとは髪で隠れるから対象外なのか」「傷あとの部分だけ髪が生えてこないが、これは後遺障害になるのか」というご相談をいただくことがあります。頭部は、顔面部とは定められている基準の内容が異なるうえ、頭髪との関係で判断が分かれやすい部位です。
結論からお伝えすると、傷あとが何級に当たるかは、傷あとのある部位・傷の種類・サイズ・人目につく程度に加えて、医療記録や実際の状態を確認して判断されるものであり、写真だけで自動的に決まるわけではありません。また、顔面部について定められている基準を、そのまま頭部に当てはめることもできません。
この記事で分かること
- 外貌醜状の後遺障害等級(第7級12号・第9級16号・第12級14号)の全体像
- 頭部・顔面部・頸部で異なる、部位別・傷の種類別のサイズ基準
- 頭部について、顔面部の線状痕の基準を当てはめられない理由
- 頭髪に隠れる部分の扱いと、開頭手術の痕・頭蓋骨の欠損の考え方
- 外傷性の脱毛が問題になる場合に、何を確認する必要があるか
- 残しておきたい写真と医療記録、示談前・申請前のチェックリスト
顔や頭に傷あとが残りそうで、後遺障害の見通しや示談前の確認点を整理したい方は、診療記録や写真を確認したうえで対応方針を検討できます。まずはお気軽にご相談ください。
顔・頭の傷あと(醜状障害)は何級になる?まず押さえる結論
交通事故で顔などに残った傷あとの後遺障害は、傷あとの程度に応じて、大きく三つの等級に分かれます。自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)の後遺障害等級は、自動車損害賠償保障法施行令別表第二に定められており、外貌の醜状については次の三つが設けられています。
| 等級 | 別表第二の文言 | おおまかなイメージ |
|---|---|---|
| 第7級12号 | 外貌に著しい醜状を残すもの | 頭部・顔面部・頸部に大きな瘢痕、組織陥没、頭蓋骨の欠損などがある場合 |
| 第9級16号 | 外貌に相当程度の醜状を残すもの | 顔面部に一定以上の長さの線状痕がある場合(具体的な基準が示されているのは顔面部のみ) |
| 第12級14号 | 外貌に醜状を残すもの | 頭部・顔面部・頸部に一定以上の瘢痕・線状痕がある場合 |
傷あとが何級に当たるかは、次の要素を確認して判断されます。
- 傷あとのある部位(頭部・顔面部・頸部のいずれか)
- 傷の種類(瘢痕・線状痕・組織陥没・頭蓋骨の欠損など)
- サイズ(長さ・面積)
- 人目につく程度以上のものかどうか
- 後遺障害診断書・診療録・写真などの医療記録
サイズ基準は目安であり、境界にあるケースでは、わずかな差で結論が変わることがあります。写真だけで等級が決まるわけではなく、医療記録や実際の状態とあわせて判断される点にご注意ください。
ここで最も注意していただきたいのは、同じ「傷あと」でも、頭部・顔面部・頸部で定められている基準の内容が異なるという点です。とくに、第9級16号の目安として知られている長さ5センチメートル以上の線状痕は、顔面部について定められたものであり、頭部の傷あとにそのまま当てはめることはできません。詳しくは後述します。
ここで説明する三段階の区分(著しい醜状・相当程度の醜状・醜状)は、平成22年6月10日以後に発生した事故について適用されるものです。それより前に発生した事故については、当時の取扱いとの関係を個別に確認する必要があります。改正の経緯と過去の事案への影響は、顔の傷の後遺障害等級と男女差|改正の経緯と過去事案への影響で整理しています。
醜状障害・外貌醜状とは(基礎知識)
醜状障害とは、交通事故によって身体に瘢痕(いわゆる傷あと)や組織陥没などが残った状態を指します。このうち、日常的に露出する部分に残った傷あとを「外貌醜状」と呼びます。読者ご自身の外見を評価する趣旨の言葉ではなく、後遺障害を分類するための制度上の用語です。
「外貌」とは──頭部・顔面部・頸部
厚生労働省の認定基準では、「外貌」とは、頭部、顔面部、頸部のごとく、上肢及び下肢以外の日常露出する部分をいうとされています。顔だけでなく、頭や首も外貌に含まれます。
腕や足の傷あとは、外貌とは別の枠組みで判断されます
腕や足に残った傷あとは、外貌醜状ではなく、別の項目で判断されます。別表第二では、第14級4号に「上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」、第14級5号に「下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」と定められています。
ここでいう「露出面」は、認定基準上、上肢についてはひじ関節以下(手部を含みます)、下肢についてはひざ関節以下(足背部を含みます)とされています。顔・頭・首の傷あととは基準もサイズの考え方も異なるため、区別してご確認ください。
自賠責の等級表と労災の認定基準の関係
外貌の醜状に関する具体的な認定の考え方は、労働者災害補償保険(労災保険)の障害等級認定基準に示されています。交通事故で用いられる自賠責の支払基準には、等級の認定は原則として労災保険における障害の等級認定の基準に準じて行う旨が定められており、これが労災の資料を交通事故で参照する根拠になっています。
労災の資料をご覧になる際は、号数が自賠責と一致しない点にご注意ください。「相当程度の醜状」は、自賠責では第9級16号ですが、労災では第9級第11号の2とされています。等級の数字は同じでも、号数の表記が異なります。
瘢痕・線状痕・組織陥没・症状固定・後遺障害診断書
等級を理解するうえで、次の用語を押さえておくと整理しやすくなります。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 瘢痕(はんこん) | けがの治癒後に残る、いわゆる「傷あと」。面積で評価されることが多い |
| 線状痕(せんじょうこん) | 切り傷や手術の痕のように、線状に残った傷あと。長さで評価される |
| 組織陥没 | 欠損などによって皮膚や組織がくぼんだ状態 |
| 症状固定 | 症状が安定し、治療を続けてもそれ以上の改善が見込めなくなった状態。医師が判断する |
| 後遺障害診断書 | 症状固定後に医師が作成する、後遺障害の内容を記載した診断書。等級申請の中心資料となる |
部位別・傷の種類別の等級基準
外貌醜状の等級は、部位(頭部・顔面部・頸部)と傷の種類(瘢痕・線状痕・組織陥没・欠損)ごとに、原則となるサイズの目安が定められています。いずれも「人目につく程度以上」であることが前提です。以下は、厚生労働省の認定基準を前提とした整理です。
外貌に著しい醜状を残すもの(第7級12号)
- 頭部に、てのひら大(指の部分は含みません)以上の瘢痕、または頭蓋骨のてのひら大以上の欠損
- 顔面部に、鶏卵大面以上の瘢痕、または10円銅貨大以上の組織陥没
- 頸部に、てのひら大以上の瘢痕
外貌に相当程度の醜状を残すもの(第9級16号)
認定基準が「相当程度の醜状」の具体的な基準として示しているのは、顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度以上のものです。頭部や頸部について、この区分に当たる具体的な基準は示されていません。
外貌に醜状を残すもの(第12級14号)
- 頭部に、鶏卵大面以上の瘢痕、または頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
- 顔面部に、10円銅貨大以上の瘢痕、または長さ3センチメートル以上の線状痕
- 頸部に、鶏卵大面以上の瘢痕
| 部位 | 傷の種類 | 第7級12号(著しい醜状) | 第9級16号(相当程度の醜状) | 第12級14号(醜状) |
|---|---|---|---|---|
| 頭部 | 瘢痕 | てのひら大以上 | 基準の定めなし | 鶏卵大面以上 |
| 頭部 | 頭蓋骨の欠損 | てのひら大以上 | 基準の定めなし | 鶏卵大面以上 |
| 頭部 | 線状痕 | 基準の定めなし | 基準の定めなし | 基準の定めなし |
| 顔面部 | 瘢痕 | 鶏卵大面以上 | 基準の定めなし | 10円銅貨大以上 |
| 顔面部 | 組織陥没 | 10円銅貨大以上 | 基準の定めなし | 基準の定めなし |
| 顔面部 | 線状痕 | 基準の定めなし | 長さ5センチメートル以上 | 長さ3センチメートル以上 |
| 頸部 | 瘢痕 | てのひら大以上 | 基準の定めなし | 鶏卵大面以上 |
表中の「基準の定めなし」は、認定基準にその部位・傷の種類についての具体的なサイズ基準が置かれていないという意味です。別表第二の文言そのものは「外貌に醜状を残すもの」などと定めるだけで、部位を限定していません。したがって「その等級には絶対に当たらない」という意味ではなく、具体的な基準がない以上、個別に確認する必要があるという趣旨です。
また、「てのひら大」「鶏卵大面」「10円銅貨大」は、いずれも認定基準で用いられている表現です。何センチメートル四方に当たるかという具体的な寸法は定められていません(「てのひら大」について、指の部分を含まないことは示されています)。ご自身で寸法に置き換えて判断することは避けてください。
上記はあくまで原則的な目安です。サイズが基準の境界にある場合、実際の結論は資料や診察結果によって変わり得ます。数字だけで自己判断せず、医療記録を確認したうえで判断することをおすすめします。
頭部の傷あと・頭蓋骨の欠損で確認したいこと
頭部は、顔面部と同じ「外貌」に含まれますが、定められている基準の内容が異なります。頭を縫った、頭皮に傷あとが残った、開頭手術を受けたという場合には、次の点を分けて確認する必要があります。
頭部には「相当程度の醜状」の具体的な基準が置かれていません
前記のとおり、認定基準が「相当程度の醜状」として具体的な基準を示しているのは、顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕です。頭部については、著しい醜状(第7級12号)と単なる醜状(第12級14号)の基準が示されており、その中間に当たる具体的な基準は示されていません。
「頭の傷あとが長さ5センチメートルあるから第9級になる」という当てはめはできません。長さ5センチメートル以上の線状痕は、顔面部について定められた基準です。頭部の傷あとを、顔面部の線状痕の基準に機械的に当てはめないようご注意ください。
頭部には線状痕の長さによる基準がありません
頭部について認定基準が定めているのは、瘢痕と頭蓋骨の欠損であり、いずれも大きさ(面積)で示されています。線状痕の長さによる基準は、頭部については置かれていません。そのため、頭部に細い線状の傷あとが残った場合に、これをどのように評価するかは、認定基準の文言から一義的に定まるものではありません。
なお、別表第二の備考六は、「各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であって、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする」と定めています。等級表に項目のない後遺障害は、この考え方によって評価される場合があります。もっとも、頭部の線状痕について、この考え方が実際にどのように用いられるかは、公表されている資料からは明らかではありません。傷あとの形状、範囲、実際の状態を個別に確認したうえで検討する必要があります。
頭髪に隠れる部分は醜状として扱われません
外貌醜状は「人目につく程度以上のもの」であることが前提とされ、眉毛や頭髪などに隠れる部分は、原則として醜状として扱われないとされています。頭部の傷あとは、髪の状態によって見え方が大きく変わるため、この点の影響を最も受けやすい部位です。
もっとも、「頭の傷あとだから一律に対象外」ということではありません。髪を分けても隠れない部分、髪が生えていない部分、頭髪が薄い方の場合などは、人目につく部分がどの程度かが問題になります。反対に、髪で完全に覆われる部分については、対象として扱われないことになります。
開頭手術などの手術痕が残った場合
交通事故による急性硬膜下血腫や脳挫傷などの治療として開頭手術を受けた場合、頭皮に手術痕が残り、頭蓋骨の一部が欠損したままになることがあります。この場合も、評価の対象になるのは、頭皮に残った瘢痕と頭蓋骨の欠損であり、その大きさと、人目につく程度が確認されます。
手術痕は、事故そのものによる傷ではなく、治療によって生じたものです。もっとも、事故による傷害の治療として行われた手術の痕であれば、事故と相当因果関係のある損害として検討の対象になり得ます。結論は個別事情により異なりますので、手術記録、画像資料、紹介状などにより、いつ、どのような手術が行われ、どの範囲に欠損が残ったのかを示せるようにしておくことが役立ちます。
頭蓋骨の欠損と神経症状が併存する場合
頭蓋骨の欠損により頭部の陥没が生じ、脳の圧迫による神経症状がある場合は、醜状障害の等級と神経障害の等級のうち、上位の等級で判断されるとされています。症状が二つあることから当然に等級が加算されるわけではありません。
なお、別表第二では、第12級13号が「局部に頑固な神経症状を残すもの」、第12級14号が「外貌に醜状を残すもの」であり、番号が隣接しています。資料を確認する際は取り違えにご注意ください。複数の後遺障害が残った場合の併合・加重・準用の考え方は、後遺障害が複数残ったとき|併合・加重・準用の違いと確認手順で整理しています。
外傷性の脱毛・瘢痕性の脱毛が問題になる場合
頭部の負傷では、傷あとそのものよりも、「その部分だけ髪が生えてこない」という状態にお悩みの方が少なくありません。ここは、医学上の説明と、後遺障害の評価とを分けて理解しておく必要があります。
認定基準に「脱毛」そのものの定めは置かれていません
厚生労働省が公表している外貌の醜状障害に関する認定基準には、頭部について瘢痕と頭蓋骨の欠損の基準が定められていますが、「脱毛」を独立した認定の対象とする定めは置かれていません。頭髪について記載があるのは、頭髪等に隠れる部分を醜状として扱わないという趣旨の部分です。
したがって、次のような理解は正確ではありません。
- 毛が抜けたままであれば、それだけで後遺障害になる
- 外傷性の脱毛は、当然に頭部の瘢痕として第7級または第12級になる
- 脱毛している部分の面積を、そのまま瘢痕の面積として測る
- 一時的な脱毛も、瘢痕が残った場合と同じ基準で判断される
脱毛の状態だけで等級を判断することはできません。瘢痕が残っているか、その範囲はどこまでか、永続的なものといえるか、人目につく部分はどの程度かを、資料に基づいて個別に確認する必要があります。脱毛している範囲と瘢痕の範囲が一致するとは限らず、どの範囲をどのように評価するかは、認定を行う機関の判断によります。
医学的に、どのような場合に毛が再び生えないとされるのか
日本皮膚科学会の一般向け解説では、毛が生えてくる仕組みとの関係で、免疫反応や病原体の感染、薬剤や放射線、外傷、熱傷などの影響により幹細胞が完全に壊されてしまうと、毛包は自ら再生する力を失うため永久脱毛となりえる、と説明されています。
つまり、頭皮の深い部分まで損傷が及び、毛をつくる組織が失われた場合には、その部分の毛が再び生えないことがある、という説明です。もっとも、これは医学的な説明であり、法律上の等級の基準ではありません。実際にどの程度回復するか、いつの時点で判断できるかは、担当医が個別に判断する事項です。
事故以外の原因との区別が問題になることがあります
脱毛には、事故による頭皮の損傷以外にも、さまざまな原因があります。事故前からの脱毛、加齢に伴う変化、円形脱毛症など、他の原因による脱毛と区別できるかどうかが問題になることがあります。
この点については、事故前の状態が分かる写真、事故直後から症状固定までの診療録、皮膚科や形成外科の所見などが、判断の材料になります。どのような診療科を受診し、どのような検査を行うかは医師が判断する事項ですので、事故の経過と現在の状態を正確に医師にお伝えいただくことが出発点になります。
脱毛について確認しておきたい資料
- 受傷部位と、髪が生えていない部分が対応しているかが分かる写真
- 頭皮の傷あと(瘢痕)の有無、範囲、状態についての医師の所見
- 事故直後から症状固定までの診療録・診断書
- 手術を受けた場合の手術記録
- 皮膚科・形成外科を受診した場合の診療情報
- 事故前の頭部の状態が分かる写真
- 通常の髪型で、どの程度見えるのかが分かる写真
「人目につく程度以上」と、隠れる部分の扱い
外貌醜状は、「人目につく程度以上のもの」であることが前提です。そのため、瘢痕・線状痕・組織陥没であっても、眉毛や頭髪などに隠れる部分は、原則として醜状として扱われません。
たとえば、眉毛の走行に沿って長さ3.5センチメートルの縫合創痕があっても、そのうち1.5センチメートルが眉毛に隠れている場合、人目につく部分は2センチメートルとなり、この長さでは顔面部の線状痕(第12級の目安である3センチメートル)に届かない、という考え方が示されています。傷あとの「総延長」ではなく、「人目につく部分」で評価される点が重要です。
なお、傷あとの大きさや人目につく程度をどのような方法で確認するかは、事案により異なります。確認の方法については、手続を進める保険会社または調査を行う機関にご確認ください。
複数の傷あと・色素変化・欠損などの扱い
外貌醜状では、次のような場合の取扱いも示されています。いずれも個別事情により結論が変わり得るため、目安として押さえておくと役立ちます。
- 複数の傷あとが隣接する場合:二つ以上の瘢痕や線状痕が相隣接し、または相まって一つの傷あとと同程度以上の醜状を呈するときは、それらの面積や長さを合算して等級を判断するとされています。
- やけど後の色素変化:やけどの治癒後に残った黒褐色の変色や、色素脱失による白斑などで、永久に残ると認められ、人目につく程度以上のものは、単なる醜状として扱われる場合があります。
- 顔面神経麻痺による口のゆがみ:口のゆがみは単なる醜状として、まぶたを閉じられない状態は眼瞼の障害として、それぞれ扱われるとされています。
- まぶた・耳介・鼻の欠損:これらの欠損については、各部位の欠損障害としての等級と、醜状としての等級のうち、上位の等級で判断されます。
頭の傷あとや脱毛が残っている場合、どの範囲を、どの資料で裏づけるかによって、申請前に整えるべき準備が変わります。診療記録と写真を確認したうえで、検討すべき論点と不足している資料を整理することができます。
手術・形成外科的処置を検討している場合の注意点
顔や頭の傷あとについては、形成外科や皮膚科で状態を確認し、手術や処置によって傷あとが軽減される可能性があります。ただし、どのような治療を行うかという医学的判断は、あくまで医師が行うものです。
後遺障害の観点からは、次の点を意識しておくと、後の判断材料を残しやすくなります。
- 処置の前後で傷あとの状態が変わるため、処置前・処置後それぞれの記録(写真・診療情報)を残しておく
- 症状固定の時期と後遺障害申請のタイミングは、治療経過を踏まえて整理する必要がある
- 「手術をすれば必ず等級が下がる」「手術をしなければ必ず認定される」といった断定はできず、治療経過・残存状態・医療記録・写真などを確認して判断される
治療方針の選択は医師にご相談いただくことが前提です。そのうえで、申請のタイミングや記録の残し方は、医師と弁護士の双方の観点から整理すると、見通しを立てやすくなります。
写真・医療記録の残し方
外貌醜状では、傷あとの状態を客観的に示す資料が重要になります。写真だけで等級が決まるわけではありませんが、医療記録とあわせて確認されるため、時期ごとに記録を残しておくことが役立ちます。
写真の残し方(実務上の工夫)
- 事故直後、治療中、抜糸後、症状固定の前後、形成外科的処置の前後など、時期ごとに撮影する
- 正面・左右・近距離・全体像など、複数のアングルで撮影する
- 頭部の傷あとは、頭頂部・後頭部など、位置関係が分かるように撮影する
- 通常の髪型のままの状態と、髪を分けた状態の両方を残しておく
- 傷の長さや大きさが分かるよう、定規やメジャーを添える
- 撮影日を記録し、照明や角度をできるだけ揃える
- 加工や補正をしていない元のデータを保管しておく
医療記録との対応関係
写真は、次のような医療記録とあわせて確認されます。撮影した写真と、医療機関の記録の内容が対応していると、状態を説明しやすくなります。
- 医療機関で撮影された写真
- 診断書、診療録(カルテ)、診療報酬明細書
- 後遺障害診断書、手術記録、紹介状
- 頭蓋骨の欠損がある場合の画像資料(レントゲン・CT・MRIなど)
後遺障害診断書の作成前に確認しておきたい事項は、後遺障害診断書の作成前に確認したい資料と画像検査の注意点で、資料全体の集め方は後遺障害の証拠の集め方|申請前に確認したい資料と手順で整理しています。
傷あとの写真をSNSに投稿したり、第三者と共有したりすると、プライバシー上のリスクがあります。記録は個人的な保管にとどめ、共有の範囲には十分ご注意ください。
醜状障害で問題になる損害の項目
後遺障害等級が認定された場合、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益が問題になります。等級の認定と、民事上の賠償額の判断は別のものであり、等級が認定されたからといって、金額が自動的に決まるわけではありません。
後遺障害慰謝料は、認定された等級と、どの基準で計算するかによって目安が変わります。基準ごとの考え方は、後遺障害慰謝料は等級でどう変わる?基準別の考え方を解説をご確認ください。
後遺障害逸失利益は、醜状障害では争点になりやすい項目です。醜状障害は身体の機能そのものの障害を伴わないことが多いため、将来の収入が減るといえるかが争われることがあり、裁判例でも判断が分かれています。職種、業務内容、対人業務の有無、年齢、将来の職業選択、配置転換、昇進や転職への影響、現実に減収が生じているかといった事情と、それを裏づける資料によって結論が変わります。計算の枠組みは、後遺障害逸失利益の計算方法|喪失率・喪失期間とライプニッツ係数で整理しています。
将来の形成手術や、植毛、かつらなどの費用を請求できるかは、その必要性、金額の相当性、事故との因果関係、医師の見解、金額を裏づける資料によって判断されます。請求すれば当然に認められるというものではなく、個別事情により結論は異なります。
よく問題になるケース
実際のご相談では、次のような場面で判断に迷うことが多くあります。いずれも個別事情により結論が変わるため、目安としてご確認ください。
髪や眉毛で隠れる傷あと
人目につく程度以上であることが前提のため、髪や眉毛に隠れる部分は原則として醜状として扱われません。人目につく部分の長さ・面積がどの程度かが問題になります。
傷あとの部分だけ髪が生えてこない
瘢痕が残っているか、その範囲はどこまでか、永続的なものといえるか、通常の状態でどの程度見えるのかを、資料に基づいて確認することになります。脱毛の状態だけで等級を判断することはできません。
事故前から脱毛があった
事故による頭皮の損傷によるものか、他の原因によるものかの区別が問題になります。事故前の写真や、事故直後からの診療録が判断の材料になります。
複数の線状痕がある
一つひとつでは基準に届かなくても、隣接する複数の線状痕を合算して評価される場合があります。逆に、離れている場合の扱いは慎重に検討されます。
やけど後の色素沈着がある
永久に残ると認められ、人目につく程度以上のものは、単なる醜状として扱われる場合があります。変色の範囲や程度が問題になります。
手術で傷あとが変化した
処置の前後で状態が変わるため、いつの時点の状態で判断するかが問題になります。処置前後の記録を残しておくことが役立ちます。
後遺障害が非該当となった
サイズが基準に届かない、人目につく程度が争われるなどの理由で非該当となることがあります。認定結果に納得できない場合、異議申立てという手続もあります。判断材料の整理については、後遺障害が非該当|異議申立ての判断材料と確認点をご覧ください。
保険会社から示談案が提示された
「傷あとなので難しい」「逸失利益は認められない」といった説明を受けることがありますが、その内容が妥当かどうかは、資料を確認したうえで判断する必要があります。署名の前に一度確認することをおすすめします。
示談前・申請前に確認したい資料チェックリスト
顔や頭に傷あとが残っている場合、示談書に署名する前に、後遺障害申請の要否や損害の内容を確認しておくと、後の判断材料を残しやすくなります。示談が成立した後は、追加の請求が難しくなる場合があるため、次の資料を手元で確認しておくと役立ちます。
- 後遺障害診断書
- 診断書
- 診療録(カルテ)
- 診療報酬明細書
- 手術記録
- 形成外科・皮膚科の診療情報
- 頭蓋骨の欠損がある場合の画像資料
- 傷あと・脱毛部の写真(事故直後・治療中・症状固定前後)
- 事故前の状態が分かる写真
- 保険会社からの書面・示談案
- 交通事故証明書(事故発生日の確認)
- 職業や業務内容が分かる資料
- 弁護士費用特約の有無が分かる保険証券
後遺障害の申請方法には、加害者側の任意保険会社が手続を進める方法と、被害者側から自賠責保険に直接請求する方法があります。それぞれの違いと選び方は、事前認定と被害者請求の違い|後遺障害の申請方法の選び方で整理しています。
国土交通省の資料では、自賠責保険への被害者請求について、後遺障害は症状固定日の翌日から3年以内、傷害は事故発生の翌日から3年以内が請求期限とされています(平成22年3月31日以前に発生した事故は2年以内)。時効更新の制度もあるとされていますので、期限が気になる場合は早めにご確認ください。加害者に対する損害賠償請求の時効は、これとは別に考える必要があります。
弁護士に相談するタイミング
弁護士への相談は、次のような段階で検討すると、判断材料や対応方針を整理しやすくなります。相談によって結果が保証されるわけではありませんが、資料を確認したうえで、申請方針や示談前の確認点を整理することができます。
- 顔や頭に傷あとが残りそうだと感じた段階
- 傷あとの部分の髪が生えてこないことに気付いた段階
- 形成外科的処置を検討している段階
- 医師から症状固定と言われた段階
- 後遺障害診断書を作成する前
- 後遺障害等級の認定結果が出た後
- 保険会社から示談案が提示された段階
- 等級・逸失利益・過失割合・慰謝料の内容に納得できない段階
よくある質問(FAQ)
顔や頭の傷あとは、何センチメートルあれば後遺障害になりますか。
部位と傷の種類によって基準が異なります。顔面部の線状痕であれば、長さ3センチメートル以上で第12級、5センチメートル以上で第9級が一つの目安とされています。頭部については、瘢痕や頭蓋骨の欠損の大きさ(鶏卵大面以上、てのひら大以上)が目安とされ、線状痕の長さによる基準は置かれていません。いずれも人目につく程度以上であることが前提であり、最終的には医療記録や実際の状態を確認して判断されます。
頭の傷あとが長さ5センチメートルあれば第9級になりますか。
そのように当てはめることはできません。長さ5センチメートル以上の線状痕は、顔面部について定められた第9級の目安です。頭部については「相当程度の醜状」の具体的な基準が置かれておらず、線状痕の長さによる基準もありません。頭部の傷あとの評価は、瘢痕の範囲や実際の状態を個別に確認して判断されます。
髪や眉毛で隠れる傷あとも醜状障害になりますか。
外貌醜状は人目につく程度以上であることが前提のため、眉毛や頭髪などに隠れる部分は、原則として醜状として扱われません。隠れる部分を除いた、人目につく部分の長さや面積で評価される点にご注意ください。頭部の傷あとは、髪の状態によって見え方が変わるため、この点の影響を受けやすい部位です。
事故のあとに髪が生えなくなった場合、外傷性脱毛として認定されますか。
公表されている認定基準には、頭部について瘢痕と頭蓋骨の欠損の基準が定められていますが、「脱毛」そのものを独立した認定の対象とする定めは置かれていません。そのため、毛が生えてこないという状態だけで等級が決まるわけではありません。瘢痕が残っているか、その範囲、永続的なものといえるか、通常の状態でどの程度見えるのかを、資料に基づいて個別に確認する必要があります。
脱毛している部分の面積を、そのまま傷あとの面積として測るのですか。
そのように測ると決まっているわけではありません。脱毛している範囲と瘢痕の範囲が一致するとは限らず、どの範囲をどのように評価するかは、医師の所見や実際の状態をもとに、認定を行う機関が判断します。ご自身で面積を測って等級を判断することは避け、医療記録を確認したうえで検討することをおすすめします。
開頭手術の傷あとや頭蓋骨の欠損は、どのように評価されますか。
頭皮に残った瘢痕と、頭蓋骨の欠損の大きさが確認され、人目につく程度以上であるかが問題になります。また、頭蓋骨の欠損によって頭部の陥没が生じ、脳の圧迫による神経症状がある場合は、醜状障害の等級と神経障害の等級のうち、上位の等級で判断されるとされています。症状が複数あることから当然に等級が加算されるわけではありません。
写真はいつ、どのように残せばよいですか。
事故直後、治療中、抜糸後、症状固定の前後、処置の前後など、時期ごとに残しておくと役立ちます。正面・左右・近距離・全体像など複数のアングルで、定規やメジャーを添え、撮影日を記録しておくとよいでしょう。頭部の場合は、通常の髪型のままの状態と、髪を分けた状態の両方を残しておくと、状態を説明しやすくなります。写真だけで等級が決まるわけではなく、医療記録とあわせて確認されます。
醜状障害でも逸失利益は認められますか。
認められる場合もありますが、争点になりやすい項目です。醜状障害は身体の機能そのものの障害を伴わないことが多いため、将来の収入が減るといえるかが争われることがあり、裁判例でも判断が分かれています。職種・業務内容・対人業務の有無・転職や昇進への影響・現実の減収の有無など、個別事情と、それを裏づける資料により結論が変わります。
まとめ
- 顔・頭・首の傷あとの後遺障害(外貌醜状)は、第7級12号・第9級16号・第12級14号に区分される
- この三段階の区分は、平成22年6月10日以後に発生した事故について適用される
- 等級は、部位・傷の種類・サイズ・人目につく程度・医療記録・実際の状態を確認して判断される
- 「相当程度の醜状」(第9級16号)として具体的な基準が示されているのは顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕であり、頭部には具体的な基準がない
- 頭部について定められているのは瘢痕と頭蓋骨の欠損であり、線状痕の長さによる基準はない
- 頭髪に隠れる部分は醜状として扱われず、頭部はこの点の影響を受けやすい
- 認定基準に「脱毛」そのものの定めはなく、脱毛の状態だけで等級を判断することはできない
- 形成外科的処置の前後は記録を残し、申請のタイミングは医師・弁護士双方の観点で整理する
- 示談書に署名する前に、後遺障害申請の要否や損害の内容を確認しておく
顔や頭に傷あとが残った場合の後遺障害の見通しや、示談前・申請前の確認点を整理したい方は、診療記録と写真を確認したうえで対応方針を検討できます。神戸みらい法律会計事務所では、初回の法律相談を無料でお受けしています。
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監修者・執筆者
弁護士・公認会計士 藤井 貴之(兵庫県弁護士会所属、日本公認会計士協会兵庫会所属)
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士・公認会計士。交通事故(被害者側・加害者側)、遺言・相続、離婚・男女問題、借金問題、企業法務などを取り扱っています。交通事故については、保険会社との交渉から後遺障害等級の申請、異議申立て、訴訟対応まで、事案の状況に応じて対応しています。
本記事は、調査時点で確認できた法令、告示、行政機関の公表資料及び学会の公表資料に基づく一般的な説明です。医学的な事項について医師の監修を受けたものではありません。等級認定の結果や請求できる損害の範囲は、事故の態様、受傷の内容、治療の経過、傷あとの部位・大きさ・状態、既往の有無、資料の内容などにより異なります。診断、検査及び治療の方針は医師が判断します。具体的な事案については、資料を確認したうえでご相談ください。

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