交通事故で脾臓を摘出することになった、あるいは肝臓や腎臓などの内臓に大きな損傷を負ったという場合、「後遺障害は何級になるのか」「以前は高い等級だったと聞いたのに、なぜ今は等級が違うのか」「保険会社から逸失利益を争われているが、どう考えればよいのか」といった疑問や不安を抱える方は少なくありません。
この記事では、交通事故で脾臓などの胸腹部臓器を損傷した被害者ご本人やご家族に向けて、脾臓摘出の後遺障害等級、平成18年4月を境とした等級改正の経緯、労働能力喪失率をめぐる考え方、免疫機能への影響の位置付け、そして示談前に確認しておきたい資料を整理します。先に結論の方向性をお伝えすると、脾臓摘出は後遺障害として問題になり得ますが、等級、逸失利益、労働能力喪失率、後遺障害慰謝料は、事故日、症状固定日、制度改正の適用、医療記録、職業、生活上の支障、他の後遺障害の有無によって結論が変わります。保険会社の提示をそのまま受け入れる前に、損害項目と立証資料を確認しておくことが重要です。
脾臓摘出をはじめとする内臓の後遺障害は、等級や逸失利益をめぐって保険会社と見解が分かれやすい分野です。示談前に、後遺障害等級認定票や後遺障害診断書などの資料を整理しておくことで、対応方針を検討しやすくなります。
Contents
脾臓摘出の後遺障害等級と示談前に確認したいこと(結論・全体像)
最初に、脾臓摘出に関する後遺障害のポイントを整理します。以下は一般的な枠組みであり、実際の等級や賠償額は、医療記録や事故態様、他の後遺障害の有無を確認したうえで判断する必要があります。
脾臓摘出に関する主なポイント
- 現在の自賠責保険の後遺障害等級では、脾臓を失った場合は第13級11号(胸腹部臓器の機能に障害を残すもの)に認定される可能性があります。
- 平成18年4月を境に等級の扱いが変わっており、以前は第8級とされていました。古い事故では、どちらの基準が適用されるかを個別に確認する必要があります。
- 後遺障害等級が同じでも、逸失利益の算定に用いる労働能力喪失率は事案により争われることがあります。
- 示談前には、後遺障害等級認定票、後遺障害診断書、手術記録、退院サマリー、保険会社の提示書などを確認しておくことが重要です。
これらの点について、以下で順に説明します。
脾臓の役割と「脾臓摘出・脾臓喪失」の意味(基礎知識)
脾臓が担っている主な働き
脾臓は、左の上腹部、胃の後方あたりに位置する臓器です。一般に、古くなった赤血球を処理する働き、血液中の細菌や異物を処理する免疫に関わる働き、血液を貯える働きなどを担っているとされています。脾臓は生命維持に必須の臓器とまではいえず、摘出しても他の臓器がその働きの一部を補うといわれています。
「脾臓摘出」と「脾臓喪失」の扱い
交通事故で脾臓が破裂するなど強い損傷を受けた場合、治療として脾臓を摘出することがあります。後遺障害の場面では、脾臓を摘出した場合だけでなく、摘出していなくても脾臓の機能が失われたと評価される場合に、「脾臓を失ったもの」と同様に扱われることがあります。いずれに当たるかは、画像検査結果や血液検査結果などの医学的資料を確認して判断されます。
後遺障害等級の認定と損害賠償請求は別の問題
後遺障害等級は、症状の内容や程度を一定の基準に当てはめて認定されるものです。これに対し、実際に受け取れる損害賠償額は、認定された等級を前提としつつ、逸失利益、後遺障害慰謝料、休業損害などの損害項目ごとに、収入や生活への影響を踏まえて検討されます。等級が下位に位置するからといって、賠償額が一律に決まるわけではありません。
平成18年4月の等級改正で何が変わったのか
脾臓摘出の後遺障害を理解するうえで重要なのが、平成18年4月に行われた障害等級の認定基準の見直しです。これにより、脾臓を失った場合の等級が大きく変わりました。
改正前と改正後の等級の比較
| 項目 | 平成18年3月31日以前に発生した事故 | 平成18年4月1日以降に発生した事故 |
|---|---|---|
| 脾臓を失った場合の後遺障害等級 | 第8級(第8級11号) | 第13級11号 |
| 等級表に対応する労働能力喪失率の一般的な目安 | 45% | 9% |
| 号の内容(現行の表現) | ― | 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの |
この見直しは、労災保険(労働者災害補償保険)の障害認定の取扱いが変更されたことに伴うもので、自賠責保険の後遺障害等級も同じ考え方で運用されています。背景には、医学的な検討を踏まえ、脾臓を失っても職種や業務の制限が直ちに生じるとはいえないと整理された一方で、免疫機能を一定程度低下させ、感染症にかかる危険性を高め得る点も考慮されたという経緯があります。
どの時点の基準が適用されるのか
自賠責保険では、一般に事故が発生した日を基準として、どちらの基準が適用されるかが判断されます。平成18年3月31日以前に発生した事故と、平成18年4月1日以降に発生した事故とで、脾臓喪失の等級の扱いが異なる点に注意が必要です。
労災保険が関係する事案では、適用される基準の判断時点について、自賠責保険と異なる整理がなされる場合があります。古い事故や、労災と自賠責の双方が関係する事案では、どの基準が適用されるかを個別に確認する必要があります。
古い事故・労災が関係する事案は個別確認が必要
改正から時間が経過していますが、示談が長期化している事案や、過去の事故について改めて賠償を検討する事案では、改正前の基準が問題になることがあります。適用される等級によって労働能力喪失率の目安も変わるため、事故日と適用基準を最初に確認しておくことが重要です。
脾臓摘出と労働能力喪失率の考え方
等級だけで機械的に決まるわけではない
逸失利益は、後遺障害によって将来の労働能力がどの程度失われたか(労働能力喪失率)を、事故前の収入や就労可能期間などとあわせて算定します。後遺障害等級表には等級に対応する労働能力喪失率の目安があり、第13級は9%とされています。もっとも、この目安がそのまま適用されるとは限らず、実際の仕事や生活への影響を踏まえて検討されます。
脾臓摘出で労働能力喪失率が争われやすい理由
脾臓は摘出しても他の臓器が働きを補うといわれることから、加害者側(保険会社)から「労働能力の低下は生じていない」として逸失利益を争われやすい後遺障害の一つです。具体的には、逸失利益を認めないという主張や、第14級相当の5%にとどまるという主張がなされることがあります。
裁判実務でみられる傾向と個別事情
裁判例には、脾臓喪失について逸失利益を認めなかったものから、免疫機能の低下や感染症のリスク、易疲労性などの事情を考慮して一定の労働能力喪失を認めたものまで、幅があります。判断にあたっては、職業の内容、年齢、実際に減収が生じているか、日常生活上の制約、他の後遺障害の有無、医療記録や事故態様などが考慮されます。個別事情により結論は異なりますので、脾臓摘出だから逸失利益は認められない、あるいは必ず一定率が認められる、と一律に考えることはできません。裁判例を前提に見通しを検討する際は、その事案が改正前後のどちらのものか、認定された喪失率や期間はどうかを、資料に基づいて確認する必要があります。
「13級だから逸失利益は低い」「脾臓は摘出しても影響がない」と説明され、提示額に迷っている場合、免疫機能の低下や生活上の制約を示す資料を整理することで、見直しの余地を検討できることがあります。
免疫機能の低下と日常生活・就労への影響
脾臓を失うことで指摘される影響
脾臓を失うと、免疫機能が一定程度低下し、特定の細菌による感染症にかかりやすくなる、重症化しやすくなるといった影響が指摘されることがあります。もっとも、影響の程度には個人差があり、年齢や体質、生活状況によっても異なります。
医療判断は主治医に、法的な立証は資料の整理で
感染症予防のためのワクチンや投薬などは医療上の判断に関わる事項であり、具体的な内容は必ず主治医に確認してください。法律相談の場面では、医学的な当否を判断するのではなく、主治医の説明内容、通院の状況、生活や仕事の上でどのような配慮や制約が生じているかを、損害を裏付ける資料として整理していくことになります。こうした資料は、逸失利益や後遺障害慰謝料を検討する際の材料になります。
肝臓・腎臓など他の胸腹部臓器の後遺障害
胸腹部臓器の後遺障害は、脾臓に限られません。肝臓、腎臓、肺、胃腸、膵臓などの損傷でも後遺障害が問題になり得ますが、認定の基準や必要となる立証資料は臓器ごとに異なります。たとえば腎臓では、腎機能を示す検査結果が重視されるなど、脾臓摘出とは着目される点が異なります。したがって、脾臓摘出と他の臓器の損傷を同じ基準で考えることはできません。
脾臓以外の臓器損傷や、それぞれの等級・立証方法の詳細については、別の記事で改めて解説する予定です。まずは、ご自身の損傷がどの臓器のどのような機能に関わるものかを、診断書や画像検査結果で確認しておくとよいでしょう。
脾臓摘出で問題になりやすいケース
脾臓摘出に関する相談では、次のような場面で判断に迷われることが多くみられます。いずれも、資料を確認したうえで個別に検討する必要がある場面です。
- 保険会社から、労働能力喪失率を争われている、または逸失利益を認めないと言われている。
- 第13級11号と認定されたため、逸失利益は低くなると説明された。
- 脾臓摘出のほかに、骨折や神経症状などの後遺障害も残っている。
- 古い事故のため、改正前後のどちらの等級が適用されるかが問題になっている。
- 後遺障害の申請が済んでいないのに、示談を進めるよう促されている。
- 後遺障害診断書に、どのような内容を記載してもらえばよいか分からない。
脾臓摘出以外にも後遺障害がある場合、それぞれの等級を併合して全体の等級が繰り上がることがあります。全体像を踏まえて損害項目を検討するためにも、残っている症状をもれなく整理しておくことが大切です。
手続前に確認しておきたいチェックリスト
示談前・保険会社への回答前に確認したいこと
- 後遺障害等級認定票(認定された等級と理由)を確認したか。
- 保険会社からの示談金提示書について、逸失利益や後遺障害慰謝料などの損害項目ごとの内訳を確認したか。
- 労働能力喪失率や喪失期間がどのように設定されているかを確認したか。
- 脾臓摘出以外の後遺障害が損害項目に反映されているかを確認したか。
- 一度示談すると原則としてやり直しができない点を理解しているか。
後遺障害の申請前・異議申立て前に確認したいこと
- 後遺障害診断書のほか、手術記録、退院サマリー、診療報酬明細書、画像検査結果、血液検査結果がそろっているか。
- 脾臓摘出の事実や、免疫機能の低下、生活・就労上の制約が、資料から読み取れるか。
- 認定結果に疑問がある場合、異議申立てで補うべき資料は何かを整理したか。
- 収入資料や休業損害証明書など、逸失利益・休業損害の裏付けとなる資料を用意したか。
治療費の打ち切りや示談を急ぐよう求められても、後遺障害の申請や損害項目の確認が済んでいない段階での署名は慎重に検討する必要があります。判断に迷う場合は、署名前に一度確認することをおすすめします。
弁護士に相談するタイミング
脾臓摘出をはじめとする内臓の後遺障害は、等級そのものよりも、逸失利益や労働能力喪失率の評価で見解が分かれやすい分野です。弁護士への相談では、結果をお約束するものではありませんが、後遺障害等級、労働能力喪失率、逸失利益、後遺障害慰謝料、異議申立ての要否、示談の可否について、資料に基づいて見通しを整理することができます。
神戸・阪神間では、大型車の交通量が多い幹線道路もあり、強い衝撃を伴う事故では内臓の損傷が問題になることもあります。示談を進める前や後遺障害の申請前など、早い段階で資料を整理しておくと、対応方針を検討しやすくなります。
よくある質問(FAQ)
脾臓を摘出したら後遺障害は何級になりますか。
現在の自賠責保険の等級では、脾臓を失った場合は第13級11号に認定される可能性があります。ただし、他の損傷が併存する場合は併合により全体の等級が変わることがあり、医療記録を確認したうえで判断する必要があります。
以前より等級が下がったのはなぜですか。
平成18年4月の障害等級の認定基準の見直しにより、脾臓を失った場合の等級が第8級から第13級に変更されました。医学的な検討を踏まえた整理によるものです。
第13級11号だと逸失利益は低くなりますか。
第13級に対応する労働能力喪失率の目安は9%ですが、実際の仕事や生活への影響により争われることがあります。等級と実際の賠償額は別の問題であり、個別事情により結論は異なります。
保険会社に逸失利益を否定されました。どうすればよいですか。
免疫機能の低下や生活・就労上の制約、減収の有無を示す資料を整理したうえで検討することが考えられます。提示額をそのまま受け入れる前に、損害項目と立証資料を確認しておくことが重要です。
平成18年3月31日以前の事故はどう扱われますか。
改正前の基準(第8級)が問題になる場合があります。適用される基準は事案により異なるため、事故日と適用基準を個別に確認する必要があります。
脾臓以外に骨折や神経症状もあります。等級はどうなりますか。
複数の後遺障害がある場合、併合により全体の等級が繰り上がることがあります。残っている症状をもれなく整理し、全体像を踏まえて検討することが大切です。
後遺障害の申請前・示談前に何を集めればよいですか。
後遺障害診断書、手術記録、退院サマリー、診療報酬明細書、画像検査結果、血液検査結果、保険会社の提示書、収入資料などが手がかりになります。資料の内容によって見通しが変わることがあります。
神戸・阪神間で事故に遭いました。いつ相談すればよいですか。
症状固定の前後や示談を進める前など、手続の節目で資料を整理しておくと方針を検討しやすくなります。判断に迷う段階で一度確認しておくとよいでしょう。
まとめ
- 脾臓を失った場合、現在の自賠責保険では第13級11号に認定される可能性があります。
- 平成18年4月の改正で、脾臓喪失の等級は第8級から第13級に変更されました。古い事故では適用基準の確認が必要です。
- 第13級の労働能力喪失率の目安は9%ですが、脾臓摘出では逸失利益が争われやすく、個別事情により結論が変わります。
- 免疫機能の低下や生活・就労上の制約は、医療記録とあわせて損害を裏付ける資料として整理することが重要です。
- 示談前には、後遺障害等級認定票、後遺障害診断書、手術記録、退院サマリー、提示書などを確認しておきましょう。
脾臓摘出をはじめとする内臓の後遺障害について、等級や逸失利益の見通しを整理したい場合は、資料を確認したうえで検討することができます。示談前・申請前に、損害項目と立証資料を確認しておくことをおすすめします。
監修者情報
神戸みらい法律会計事務所(弁護士法人ひょうご支所)
弁護士・公認会計士 藤井貴之
所属:兵庫県弁護士会/日本公認会計士協会兵庫会
交通事故による損害賠償をはじめとする法律問題を取り扱い、法律と会計の両面から対応しています。

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