脳脊髄液減少症と交通事故|後遺障害の認定が難しい理由と確認事項 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

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脳脊髄液減少症と交通事故|後遺障害の認定が難しい理由と確認事項

交通事故のあと、「起き上がると頭痛が強くなり、横になると少し楽になる」「めまいや耳鳴り、吐き気、強い倦怠感が続く」「集中できず、仕事や家事が事故前のようには進まない」——こうした状態が続き、医療機関で脳脊髄液減少症、脳脊髄液漏出症、低髄液圧症候群という病名やその疑いを告げられた方がいらっしゃいます。保険会社から事故との関係を争われている方、治療費の一括対応の終了や症状固定を打診されている方、後遺障害が非該当となって次の一手を探している方もおられます。

この病態をめぐる交通事故の賠償では、診断名が付いたかどうかだけで結論が決まるわけではありません。医師の診断、事故との因果関係、自賠責保険の後遺障害等級認定、民事裁判での損害認定は、判断する主体も、判断の目的も、必要な資料も異なるからです。

この記事で分かること

  • 脳脊髄液減少症・脳脊髄液漏出症・低髄液圧症候群という三つの用語が、資料によって異なる意味で使われていること
  • 医師の診断、事故との因果関係、自賠責の等級認定、民事裁判の判断が、それぞれ別の判断であること
  • 画像検査ごとに、何を確認できて、何を確認できないのか
  • 事故との因果関係が争われやすい理由と、個別に確認される資料
  • ブラッドパッチ(硬膜外自家血注入)を受けた場合に注意したいこと
  • 治療中・症状固定前・申請前・非該当後・示談前に確認したい資料と行動

事故後の頭痛やめまいには、ほかの原因もあり得ます。この記事は損害賠償の面からの整理であり、自己診断のための資料ではありません。症状の診断と治療は、必ず医師にご相談ください。また、後遺障害の等級や損害額は資料と個別事情によって結論が異なり、以下は一般的な考え方の整理です。

脳脊髄液減少症等が問題になる事案では、示談書への署名や後遺障害の申請の前に、診療記録・画像・保険会社の書面を確認できるかどうかで、検討できる幅が変わります。手続を進める前に、資料と論点を一度整理しておくことをおすすめします。

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最初に押さえたい結論

この問題では、次の四つの判断が別々に行われます。どの段階の、どの制度の判断なのかを分けて考えることが出発点になります。

混同されやすい四つの判断
判断の場面 誰が、何のために判断するか 主に用いられる資料
医学的な診断 医師が、治療のために病名・病態を判断します 問診、診察、画像検査・各種検査の所見
事故との因果関係 賠償の場面で、その病態が本件事故によって生じたといえるかが検討されます(最終的には裁判所が判断します) 事故態様の資料、初診の時期、症状の経過、画像、既往歴
自賠責の後遺障害等級認定 損害保険料率算出機構の損害調査を経て、法令上の後遺障害等級表に相当するかが判断されます 後遺障害診断書、画像、診療録など、提出された書面
民事裁判での損害認定 裁判所が、証拠に基づいて因果関係・後遺障害・損害額を判断します 上記に加え、医師の意見書、鑑定、尋問など

この記事の要点

  • 三つの用語は資料によって使われ方が異なり、同じものとして扱うと誤解が生じます。
  • 「診断された=事故が原因」「画像所見がある=後遺障害が認定される」「ブラッドパッチで改善した=因果関係が証明された」「自賠責で非該当=裁判でも請求できない」は、いずれもそのままでは成り立ちません。他方で「画像に明確な所見がない=症状が存在しない」ともいえません。
  • 特定の検査を受ければ認定される、特定の治療で改善すれば因果関係が証明される、という関係にはありません。
  • 認定が難しいのは、症状が多様でほかの疾患との鑑別が必要なこと、検査ごとに評価対象と限界があること、事故との時間的・機序的な整合性や既往歴を総合して確認する必要があること、制度ごとに判断の目的が異なることによります。
  • 事故直後からの症状経過、体位との関係、受診・紹介の経過、画像の原本と読影報告、既往歴、保険会社とのやり取りを、事実に即して時系列で整理することが土台になります。
  • 検査と治療は医師に、賠償・手続・資料整理は弁護士に確認するという切り分けが有効です。症状が残る段階で示談書に署名する前に、症状固定と後遺障害申請の要否を確認してください。

脳脊髄液減少症・脳脊髄液漏出症・低髄液圧症候群の違い

三つの用語は、資料によって指す範囲が異なります。同じ意味の言い換えとして扱うと、診断の話と認定の話がかみ合わなくなるため、先に整理します。

三つの用語の使われ方
用語 着眼点 主な使われ方
脳脊髄液減少症 脳脊髄液が減少することにより症状が生じる、という考え方に基づく広い呼称 厚生労働省の研究事業の課題名や、行政の広報で用いられる包括的な呼び方です。この名称に対応する診断基準は公表されていません
脳脊髄液漏出症 画像検査で髄液の漏出(漏れ)が確認されることに着目した病名 厚生労働省の研究班が平成23年に公表した「脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準」や、令和元年12月に関連8学会合同で発行された「脳脊髄液漏出症診療指針」が対象とする病態です
低髄液圧症(候群) 髄液の圧が低下していることに着目した概念 国際頭痛分類第3版の「低髄液圧による頭痛」に対応する考え方です。研究班の基準でも、漏出症とは別立ての基準が置かれています

この区別がはっきり分かるのが、研究班の基準そのものです。同基準は、髄液の漏出を画像で確認するための基準を「脳脊髄液漏出症」の基準として示す一方で、髄液圧の低下に着目した「低髄液圧症」の基準を別に置き、低髄液圧症の診断は漏出症診断の補助として位置付けています。令和元年12月発行の診療指針も、付録に両方の基準を別立てで収載しています。つまり、少なくとも医学的な診断の場面では、三つの用語は同義のものとして扱われていません。

用語の使われ方には経緯があります。外傷を契機とする低髄液圧症候群については、日本脳神経外傷学会の作業部会が平成22年に診断基準案などを公表しましたが、同部会は平成23年4月に解散したことが同学会のページに記載されています。その後、平成23年10月の研究班基準、令和元年12月の診療指針という順で整理が進んでいます。古い基準案を現在の基準として説明している資料もあるため、どの時点の、どの主体の基準を指しているのかを確認する必要があります。

この記事では、三つを総称する場合に「脳脊髄液減少症等」と表記します。ご自身に告げられた診断名がどの基準に基づくものかは、主治医に確認することが第一歩になります。

交通事故後の症状と、まず医師に伝えたいこと

国土交通省は自賠責保険のポータルサイトで、脳脊髄液減少(漏出)症について、交通事故やスポーツ等により体への衝撃が加わった場合に脳脊髄液が漏れ出すことで症状を引き起こすものと説明し、現れることのある症状として、頭痛、首の痛み、めまい、吐き気、耳鳴り、疲れやすい、不眠等を挙げています。あわせて、病気の原因を含めて医学的な解明が進められている疾患であり、研究が進められているところであるとも記載しています。

症状の中でよく問題になるのが、起き上がったり立ち上がったりすると悪化し、横になると軽くなる頭痛です。姿勢(体位)によって症状が変わることから、起立性頭痛あるいは体位性の頭痛と呼ばれます。ただし、国際頭痛分類第3版は、低髄液圧による頭痛について、通常は起立性であるものの常にそうとは限らず、体位による変化だけを診断の決め手にはできない旨を注記しています。典型的な起立性頭痛でないから違う、とも、体位で変化する頭痛があるから本症である、とも、症状の現れ方だけでは判断できません。

受診の際は、次の点を誇張せず事実のとおり伝えることが、診断のためにも、後の資料整理のためにも重要です。

  • 症状がいつから始まったか(事故の直後か、数日たってからか)
  • 姿勢との関係(起き上がると悪化するか、横になると軽くなるか、変化までにどのくらいかかるか)
  • 症状が続く時間と、一日の中での変化
  • 頭痛以外の随伴症状(首の痛み、めまい、耳鳴り、吐き気、倦怠感、不眠など)
  • 仕事、家事、育児、通学、移動など、生活への具体的な支障

突然の激しい頭痛、意識がない・もうろうとしている、突然のしびれ、突然片方の腕や足に力が入らない、けいれんが止まらないといった症状は、消防庁のリーフレット「救急車を上手に使いましょう」でも、ためらわず救急車を呼んでほしい症状として挙げられているものです。事故後の頭痛をこの病態だけに結び付けず、こうした症状があるときは、救急要請や救急外来の受診をためらわないでください。

なお、耳鳴りやめまいそのものが後遺障害としてどのように評価されるかは、交通事故の耳鳴り・めまいと平衡機能障害の考え方を見るで解説しています。

診断では何を確認するのか

診断は、一つの検査だけで決まるものではありません。病歴と症状経過の聴取に加えて、複数の画像検査などの結果を組み合わせて検討されます。研究班の画像判定基準・画像診断基準は、検査ごとの所見を「確定」「確実」「強疑」「疑」という四つの区分で判定したうえで、複数の検査の結果を突き合わせて、総合的に「確定」「確実」「疑」のいずれかを判断する構造になっています。単一の所見だけで結論を出さない仕組みになっている点が重要です。

主な検査と、その評価対象・限界
検査 主に確認すること 評価上の注意・限界 これだけではいえないこと
脊髄MRI・MRミエログラフィー くも膜下腔と連続する硬膜外の水信号病変など、髄液の漏出を示唆する所見 撮影の範囲・時期・条件によって、所見が得られないことがあります 所見がないことだけで漏出の不存在とは断定できず、所見があることだけで事故が原因ともいえません
CTミエログラフィー 腰椎穿刺で注入した造影剤が、くも膜下腔と連続して硬膜外へ漏れているかどうか 穿刺を伴う侵襲的な検査です。実施の要否は医師の適応判断によります 実施したかどうか、結果がどうであったかだけで、等級や賠償が決まるわけではありません
RI脳槽シンチグラフィー RI(放射性医薬品)の分布から見た髄液の漏出や循環の状態 研究班の基準は、早期に膀胱内へRIが集積する所見について、参考所見にとどめ、単独では異常所見としないとしています 早期の膀胱内集積があることのみをもって、漏出が確定したとはいえません
脳MRI びまん性の硬膜造影所見など、髄液圧の低下に伴う変化 研究班の基準では、これは低髄液圧症の判定に用いられ、漏出症そのものの判定には用いられません 脳MRIに異常がないことは、漏出がないことを意味しません。逆に、所見があることが漏出の証明にもなりません
髄液圧の測定 腰椎穿刺による髄液圧 穿刺を伴います。頭痛の性状や他の検査所見と併せて評価されます 圧の数値のみで、確定とも否定とも断定できません

どの検査を、いつ、どの範囲で行うかは、症状と経過を踏まえた医師の医学的判断です。とくにCTミエログラフィーや髄液圧の測定は体への負担を伴う検査であり、賠償や認定のために受けるものではありません。「この検査を受ければ認定される」という関係にはありません。むちうちなど神経症状一般における検査と画像所見の役割については、むちうちの後遺障害を立証する検査と画像所見の役割を見るで解説しています。

交通事故との因果関係が争われやすい理由

保険会社との交渉や訴訟で最も争点になりやすいのは、「その病態が本件事故によって生じたといえるか」という因果関係です。争われやすい背景には、次の事情があります。

  • 症状の多くが本人にしか分からない自覚症状であり、ほかの疾患や事故前からの症状との鑑別が必要になること
  • 検査ごとに評価できる対象と限界があり、画像の読み方そのものに評価の幅が生じ得ること
  • 事故の態様や受傷の機序と、症状が出た時期との整合性を、事案ごとに検討する必要があること
  • 健康保険、自賠責保険、民事裁判と、制度ごとに判断の目的が異なること

個別の事案では、おおむね次のような論点と資料が確認されます。これは「すべて満たせば認められる」という条件の一覧ではありません。一部の資料がないというだけで直ちに請求できなくなるものでもなく、残っている資料で何をどこまで説明できるかを個別に検討することになります。

因果関係の検討で個別に確認される主な論点と資料
確認される論点 関係することが多い資料
事故態様・受傷機転 交通事故証明書、事故発生状況報告書、実況見分調書などの刑事記録、ドライブレコーダー映像、車両損傷の写真、修理見積書、車両の評価に関する資料
症状が出た時期と初診までの経過 救急搬送記録、初診時の診断書、事故直後の診療録
症状の一貫性・連続性 その後の診療録、通院の状況、同時期に記録された症状の経過
診断基準・画像所見との整合性 画像データの原本、画像診断報告書、各検査の結果原資料
既往症・事故前の症状・ほかの原因 事故前の診療記録、健康診断の結果
専門診療科への紹介経過・治療経過・治療への反応 紹介状と返書、処置の記録、実施前後の診療録と画像
資料相互の矛盾の有無 上記各資料の突合(初診時の訴えと後の説明、画像の撮影日と症状の推移、保険会社への回答と診療録の記載など)

受診が遅れたことだけを理由に請求ができなくなるわけではありません。ただし、事故から初診までの間や、症状の訴えが記録に残っていない期間があると、その間に何があったかを別の資料で説明する必要が生じます。これから受診される場合でも、いつからどの症状があるのかを、事実のとおり医師に伝えることが大切です。

医師の診断と自賠責の後遺障害認定は同じではありません

医師の診断は、治療のための医学的判断です。これに対して自賠責保険の後遺障害等級認定は、症状固定の後に残った障害を、自動車損害賠償保障法施行令の別表(後遺障害等級表)に当てはめて評価する、保険実務上の手続です。国土交通省は症状固定について、症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行ってもその医療効果が期待できなくなった時をいい、医師により判断されるものと説明しています。

認定にあたっては、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所が提出書面に基づく調査を行い、判断が困難な事案は地区本部や本部で審査され、特定の事案については、日本弁護士連合会が推薦する弁護士、専門医、交通法学者、学識経験者等が審議に参加する自賠責保険(共済)審査会で審査されるとされています。書面による判断が中心になるため、資料に何が記録されているかが結論を大きく左右します。

後遺障害等級表に「脳脊髄液減少症」という病名専用の等級はありません。症状固定の時点で残った神経系統の症状は、法令上、たとえば次のような枠組みで検討され得ます。

神経系統の障害に関する主な等級(自賠法施行令別表第二)
等級 法令上の文言 自賠責の保険金額
第7級4号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 1,051万円
第9級10号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 616万円
第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの 224万円
第14級9号 局部に神経症状を残すもの 75万円

症状がさらに重い場合には、神経系統の機能又は精神に著しい障害を残すものについての第5級2号・第3級3号や、常に介護を要するもの・随時介護を要するものについての別表第一という枠組みもあります。また、別表第二の備考は、各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であっても、各等級の後遺障害に相当するものは当該等級の後遺障害とする旨を定めており、等級表に病名が明記されていないことは、評価の対象外であることを意味しません。

どの等級に当たり得るかは、診断名ではなく、症状固定時に残った症状の内容、画像などの客観的所見、治療の経過、日常生活や仕事への具体的な影響を示す資料によって判断されます。この病名なら通常は何級、という一般化はできません。なお、自賠責保険(共済)審査会には高次脳機能障害の専門部会が置かれていますが、脳脊髄液減少症について同様の専門部会が設けられていることを示す公表資料は見当たりません。

国土交通省は、平成23年の「脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準」の公表、平成28年のブラッドパッチ療法の社会保険適用、令和元年12月の「脳脊髄液漏出症診療指針」の発行を受けて、この診療指針等を有効に活用し、自賠責保険(共済)における適正な保険金の支払いを通じて被害者保護の一層の充実に努めるよう、保険会社等へ通知を行っていると案内しています。

自賠責の認定と民事裁判の判断も分けて考えます

自賠責で非該当や想定より低い等級となったとしても、民事裁判の判断が当然に同じになるわけではありません。自賠責の認定は保険金支払のための手続であり、裁判所の判断を拘束するものではないからです。

もっとも、裁判では被害者の側が証拠によって立証する必要があります。最高裁は、訴訟上の因果関係の立証について、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とする、としています(最高裁昭和50年10月24日判決)。診断名があるだけでは足りず、事故態様、症状経過、画像、治療経過などの証拠の積み重ねが求められます。

公表されている裁判例からも、判断が事案ごとに分かれていることが分かります。

  • 名古屋高等裁判所平成29年6月1日判決は、追突事故の事案で、複数の病院における臨床診断は十分に信頼性があるとして発症を認めました。同判決は、個々の画像が研究班の基準に必ずしも合致しないからといって、その画像の臨床的な価値を全て否定する方向で同基準を用いることは相当ではない、とも述べています。他方、同じ事案で主張された高次脳機能障害は認めていません。
  • 横浜地方裁判所平成24年7月31日判決は、自動車と自転車の衝突事故の事案で、発症を確定的に認めることまではできないとしつつ、疑いが相当程度あるとして賠償を認めました。RI注入から一時間後の膀胱内へのRI集積については、直ちに髄液の漏出を示すものとは認められないものの参考所見とはなる、と評価しています。
  • 交通事故の事案ではありませんが、大分地方裁判所平成25年6月20日判決は、学校で頭部にボールが当たった事故について、提出された民間のガイドラインは診断基準の根拠を示しているとはいえず診断基準として採用することはできないとし、起立性頭痛が認められないことなどから発症を認めませんでした。

これらはいずれも個別事案についての判断であり、ご自身の事案で同じ結論になることを意味しません。裁判所の判断は、事故態様、画像所見、症状経過、既往歴、医師の意見などの違いによって分かれています。なお、当事務所が取り扱った事件の結果をご紹介しているものではありません。

ブラッドパッチ(硬膜外自家血注入)を受けた場合の注意点

ブラッドパッチ(硬膜外自家血注入)は、ご自身の血液を硬膜の外側に注入し、その血液で漏出部位をふさぐことを目的とする治療です。国土交通省の案内によれば、平成28年に脳脊髄液漏出症に対するこの治療が社会保険適用となりました。現行の診療報酬上は、起立性頭痛を有する患者について、関係学会の定める脳脊髄液漏出症診療指針に基づき「確実」又は「確定」と診断された場合に限り算定できるものとされ、施設基準の届出をした保険医療機関で行われることが要件とされています。診療報酬の請求にあたっては、指針に規定する画像診断基準を満たすことを示す画像所見、撮影日、撮影医療機関の名称等を症状詳記として記載することも求められています。

交通事故の賠償との関係では、次の点にご注意ください。

  • 保険診療として実施されたこと自体は、事故との因果関係を直接証明するものではありません。健康保険の算定要件と、賠償の場面での因果関係の判断は、目的の異なる別の判断です。
  • 裁判例には、ブラッドパッチによる症状の改善を、発症を認める事情の一つとして考慮したものがあります。もっとも、治療への反応は考慮される要素の一つにとどまり、改善した(あるいは改善しなかった)という結果だけで、因果関係や後遺障害等級が決まるわけではありません。
  • 実施した場合には、同意説明書、処置の記録、実施前後の診療録や画像といった資料が作成されます。どの医療機関にどの資料があるかを把握しておくことが、後の検討に役立ちます。
  • 治療を受けるかどうか、いつ受けるかは、医師の医学的判断によります。賠償や認定のために治療を受けるという判断の順序は適切ではありません。

段階別に確認したいこと

以下、時系列に沿って各段階で確認したいことを整理します。事案により当てはまらない項目もあります。

治療中(治療費について保険会社から連絡が来たとき)

  • すべきこと:相手方保険会社が医療機関へ治療費を直接支払う扱い(いわゆる一括対応)の終了を打診されても、それは治療を終了すべきという医学的判断ではありません。治療の継続は主治医と相談して判断します。
  • 確認資料:保険会社からの書面・メール、医療照会への同意書の内容、診断書・診療報酬明細書の写し。
  • 医師へ確認:現在の診断名の位置付け、今後の検査・治療の見通し。
  • 弁護士へ確認:治療費・休業損害の扱い、健康保険や人身傷害保険への切替えという選択肢。詳しくは保険会社から治療費打ち切りの連絡を受けたときの対応を確認するをご覧ください。

症状固定を検討する前

  • すべきこと:症状固定の時期は医師の医学的判断です。残る見込みの症状や今後の治療方針を主治医と話し合ってから判断します。
  • 確認資料:通院の経過、実施済みの検査の一覧、同時期に記録した症状の経過。
  • 医師へ確認:症状固定時点で残る見込みの症状、追加で予定される検査の有無。
  • 弁護士へ確認:症状固定の前後で損害項目(治療費・休業損害・後遺障害関係)の扱いがどう変わるか。詳しくは症状固定と言われたときに示談前に確認したいことを見るをご覧ください。

後遺障害診断書の作成前

  • すべきこと:自覚症状を、発症の時期、姿勢との関係、生活への支障を含めて、誇張せず正確に医師へ伝えます。診断書に何をどう記載するかは医師の判断であり、特定の文言の記載を求めることは適切ではありません。
  • 確認資料:実施済みの画像検査の種類・撮影部位・撮影日・撮影医療機関、画像診断報告書の有無。
  • 医師へ確認:症状固定時点で残っている症状と、検査所見との関係。
  • 弁護士へ確認:作成前に整理しておく資料。詳しくは後遺障害診断書の作成前に確認したい資料と画像検査の注意点を見るをご覧ください。

事前認定又は被害者請求の前

  • すべきこと:申請には、相手方の任意保険会社を通じて行う方法(実務上「事前認定」と呼ばれます)と、自賠法第16条第1項に基づき被害者自身が自賠責保険会社へ請求する方法(被害者請求)があります。どの資料が提出されるかを把握できる形を選ぶことが出発点になります。
  • 確認資料:提出予定の資料一式(後遺障害診断書、画像、検査結果、診療録など)。
  • 期間制限:自賠責保険への請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び保有者を知った時から3年で時効により消滅します(自賠法第19条)。国土交通省は、後遺障害については症状固定日の翌日から3年以内と案内しています(平成22年3月31日以前に発生した事故は2年以内)。加害者に対する損害賠償請求権は、人の生命又は身体を害する不法行為の場合、損害及び加害者を知った時から5年とされています(民法第724条、第724条の2)。自賠責への請求と加害者への請求とでは、期間も起算点も異なります。
  • 弁護士へ確認:手続の選択、提出資料の不足や矛盾の有無。

非該当又は想定より低い等級の通知を受けた後

  • すべきこと:まず認定理由を確認し、どの資料のどの点が不足と評価されたのかを分析します。そのうえで、新たな立証資料を添えた異議申立て、自賠責保険・共済紛争処理機構への申請、訴訟という選択肢を検討します。
  • 手続の違い:国土交通省の案内によれば、損害保険会社等に対する異議申立ては、紛争処理機構の結果に不服がある場合に再度行うことも想定されています。これに対し、紛争処理機構は、同機構で既に紛争処理を行った事案について再申請はできないとしています。順序の検討が重要になるのはこのためです。
  • 確認資料:認定結果の通知と理由、提出済み資料の控え一式。
  • 弁護士へ確認:理由の分析と、追加できる資料の有無。詳しくは後遺障害が非該当となった場合の異議申立ての判断材料を確認するをご覧ください。

示談書への署名前

  • すべきこと:示談書に署名すると、原則としてその後の追加請求は困難になります。症状が残っている段階では、署名の前に、症状固定の要否、後遺障害申請の要否、損害項目の漏れを確認します。
  • 確認資料:示談案(免責証書・承諾書を含みます)、損害額の計算書、清算条項の内容。
  • 弁護士へ確認:示談案の項目と前提が妥当か。詳しくは交通事故の示談案で確認すべき項目を見るをご覧ください。

相談前・申請前に整理したい資料

必要な資料は事案により異なります。次のうち手元にあるもの、取得できるものを整理しておくと、検討が進めやすくなります。すべてそろっていなくてもご相談は可能です。

事故状況に関する資料

  • 交通事故証明書、事故発生状況報告書
  • 実況見分調書などの刑事記録(取得している場合)
  • ドライブレコーダー映像、現場や車両損傷の写真、修理見積書、車両の評価に関する資料

医療に関する資料

  • 救急搬送記録、初診時の診断書、事故直後からの診療録・診療報酬明細書
  • 専門診療科へ紹介された場合の紹介状と返書
  • 画像データの原本と画像診断報告書(検査名・撮影部位・撮影日・撮影条件が分かるもの)
  • RI脳槽シンチグラフィーなど、各検査の結果原資料
  • ブラッドパッチを受けた場合の同意説明書、処置の記録、実施前後の診療録と画像
  • 後遺障害診断書(作成済みの場合)
  • 事故前の診療記録・健康診断結果(頭痛、めまい、耳鳴り、頸部の症状などの既往が分かるもの)

仕事・生活への影響に関する資料

  • 欠勤・早退・配置転換・業務制限が分かる勤務先の記録、休業損害証明書、収入資料
  • 家事、育児、通学、移動などへの具体的な支障が分かる記録
  • 症状の経過メモ(発症の時期、姿勢との関係、続く時間、随伴症状、服薬、生活上の支障を、同時期に記録したもの)

保険・手続に関する資料

  • 保険会社とのやり取り(書面・メール・医療照会と同意書・回答書・一括対応終了の通知)
  • 自賠責へ提出済みの資料一式と、認定結果の通知・理由(申請済みの場合)
  • 健康保険、自動車保険、人身傷害保険、弁護士費用特約の契約内容

症状の経過メモは、それ自体が認定を得るための道具ではありません。診療録などの医療記録と整合する事実経過を確認するための補助資料です。作成する場合は、誇張せず、その時々に記録することが大切です。資料の集め方の全体像は、後遺障害の証拠の集め方と申請前の手順を確認するで解説しています。

弁護士に相談するタイミング

弁護士に相談しても、後遺障害の認定結果や賠償額を保証できるものではありません。もっとも、資料を早めに整理することで、不足や矛盾、手続の選択肢、証拠収集の優先順位、見通しを検討する材料を整えられます。次のような場面が、ご相談を検討する目安になります。

  • 保険会社から治療費の一括対応終了の連絡を受けたとき(連絡が来そうなときを含みます)
  • 専門の診療科への紹介や追加の検査を検討している時点
  • 症状固定や後遺障害診断書の作成を検討する前
  • 事前認定か被害者請求か、申請方法を選ぶ前
  • 非該当・低い等級の通知と理由を受け取った後
  • 示談書に署名する前

検査と治療の要否は医師が判断する事項です。弁護士は、診療記録、画像、認定結果、保険会社の書面といった資料を整理し、賠償と手続の面から検討する立場です。

よくあるご質問

脳脊髄液減少症、脳脊髄液漏出症、低髄液圧症候群は同じ病気ですか。

資料によって使われ方が異なり、同義のものとしては扱われていません。脳脊髄液減少症は髄液の減少に着目した広い呼称、脳脊髄液漏出症は画像で漏出を確認することに着目した病名、低髄液圧症(候群)は髄液圧の低下に着目した概念です。研究班の基準も診療指針も、漏出症の基準と低髄液圧症の基準を別立てで置いています。ご自身の診断名がどの基準に基づくものかは、主治医にご確認ください。

追突事故などで頭を直接打っていなくても発症することはありますか。

国土交通省は、交通事故やスポーツ等により体への衝撃が加わった場合に脳脊髄液が漏れ出すことがあると説明しており、頭部を直接打っていないことだけで直ちに否定されるものではありません。もっとも、外傷を契機とする発症については医学的な解明が進められている段階でもあり、一律にはいえません。事故の態様、受傷の機序、症状が出た時期、画像・検査所見、既往歴などを個別に確認する必要があります。

MRIで異常がないと言われたら、否定されたということですか。

そうとは限りません。検査にはそれぞれ評価できる対象と限界があり、撮影の部位・時期・方法によって所見が得られないことがあります。とくに脳MRIは、研究班の基準では低髄液圧症の判定に用いられるもので、漏出症そのものの判定に用いられるものではありません。他方で、客観的な所見が乏しい場合、賠償の場面での立証が難しくなる面があることも事実です。どの検査で何を確認したのかを医師に確認し、資料を整理することが第一歩になります。

医師に診断されれば、自賠責でも後遺障害が認定されますか。何級になりますか。

医師の診断と自賠責の等級認定は別の判断です。この病名専用の等級はなく、残った神経系統の症状が、第7級4号、第9級10号、第12級13号、第14級9号などの枠組みで検討され得ます。ただし結論は、症状固定時の残存症状、客観的所見、治療経過、仕事や生活への影響を示す資料によって事案ごとに異なります。この病名なら通常は何級、という一般化はできません。

ブラッドパッチで改善すれば、事故との因果関係は証明できますか。

改善したという結果だけで証明されるわけではありません。裁判例には改善を考慮要素の一つとしたものがありますが、事故態様、症状経過、画像所見などと併せた総合的な判断です。また、健康保険で実施されたことも、賠償上の因果関係を直接証明するものではありません。健康保険の算定要件と賠償上の判断は別の制度に属する判断です。

保険会社から治療費を打ち切ると言われたら、どうすればよいですか。

保険会社が治療費を直接支払う扱いを終了するという連絡は、治療を終了すべきという医学的判断ではありません。治療の要否は主治医とご相談いただき、健康保険への切替えなどで通院を続けるという選択肢もあります。連絡の内容は書面やメールで残し、対応を決める前にご相談いただくことをおすすめします。

非該当になった場合、異議申立てはできますか。

できます。新たな立証資料を添えて損害保険会社等に異議申立てを行うほか、自賠責保険・共済紛争処理機構へ申請する方法、訴訟で争う方法があります。国土交通省の案内では、紛争処理機構の結果に不服がある場合に再度異議申立てを行うことも想定されています。他方、同機構は、既に紛争処理を行った事案についての再申請はできないとしています。まず認定理由を分析したうえで、手続の順序を検討することが重要です。

症状が残っている状態で示談してもよいですか。

示談書に署名すると、原則として後から追加の請求をすることは困難になります。症状が残っている段階では、症状固定の要否や後遺障害申請の要否を確認してから判断されることをおすすめします。署名の前に、示談案の損害項目と前提について確認を受けることもできます。

まとめ|次に確認したいこと

  • 三つの用語は同義ではありません。ご自身の診断名がどの基準に基づくものかを主治医に確認してください。
  • 医師の診断、事故との因果関係、自賠責の等級認定、民事裁判の判断は別の判断です。どの段階の話かを分けて考えてください。
  • 症状の発症時期と体位との関係、受診と紹介の経過を、誇張せず事実のとおり医師に伝えてください。
  • 画像データの原本と画像診断報告書、各検査の結果原資料が、どの医療機関にあるかを確認してください。
  • 自賠責への請求(3年)と加害者への請求(人身損害は原則5年)とでは、期間制限も起算点も異なります。手続の順序とあわせて確認してください。
  • 症状が残る段階で示談書に署名する前に、後遺障害申請の要否と損害項目を確認してください。

脳脊髄液減少症等が問題になる事案では、用語と診断の枠組み、事故との因果関係、認定と裁判の違いなど、確認すべき点が多岐にわたります。当事務所では、交通事故の初回の法律相談を無料でお受けしています(ご予約制。法テラスの扶助相談や弁護士費用特約が利用可能な場合など、ご本人のご負担がない場合には相談料を申し受けることがあります)。治療中、後遺障害診断書の作成前、申請方法の選択、認定結果を受け取った後、示談書への署名前のいずれの段階でも、資料と争点、手続の選択肢を整理したうえで見通しを検討できます。

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監修者・執筆者

弁護士・公認会計士 藤井 貴之(ふじい たかゆき) 弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士

兵庫県弁護士会所属。日本公認会計士協会兵庫会所属。遺産相続、交通事故、労働、債務整理、企業法務、M&A等に対応しています。

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