非上場株式の買取価格が安いと感じたら|交渉・価格決定・申立期限 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

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非上場株式の買取価格が安いと感じたら|交渉・価格決定・申立期限

会社や経営者、他の株主から非上場株式の買取価格を提示され、「安すぎる」と感じたときは、金額の高低だけで判断せず、買取りの根拠、期限、算定の前提、争う金額の4点を先に確認することが出発点です。価格を争う方法と期限は買取りの根拠によって異なり、会社法上の手続では、話合いを続けていても法律上の期限は延びません。本記事では、価格を争いたい株主と、株主から提示額の説明や引上げを求められている会社の双方に向けて、確認の順序と判断材料を整理します。決算書や算定書がそろうのを待たず、手元の通知書で期限を先に確認してください。結論は、手続の種類や会社の状況などの個別事情によって異なります。

提示額を検討する前に確認する4点

  • 買取りの根拠:当事者の合意による任意の売買か、会社法上の買取請求・価格決定の手続か
  • 期限:どの通知や日付を起点に、どの期間が進んでいるか
  • 算定の前提:評価の目的・方法・基準日と、計算に使われた数値
  • 争う金額:1株当たりの差額に対象株式数を掛けると、いくらになるか

価格を争う前に、買取りの根拠と対象株式を確認する

少数株主であること、株式を売りたいこと、提示額が低いことだけでは、会社に買取りを強制したり、裁判所に価格を決めてもらったりする一般的な権利は生じません。

任意売買と法定の買取請求は何が違うか

会社や経営者、他の株主との話合いで価格を決める任意の売買では、提示額に納得できなければ合意しないことはできますが、相手方に買取りを義務付けることはできず、裁判所に価格の決定を求める制度もありません。株主間契約などに買取りの条項がある場合は、その要件と期限を確認します。

これに対し、会社法は、譲渡制限株式の譲渡を会社が承認しない場合の会社又は指定買取人による買取り(会社法第140条・第144条)や、吸収合併などに反対した株主の買取請求(会社法第785条・第786条)など、一定の場面に限って、株式の買取りと裁判所による価格の決定を定めています。

非上場であることと、株式の譲渡に会社の承認が必要であること(譲渡制限)は同じではないため、まず定款と株式の種類を確認します。譲渡承認の請求では、譲り受ける者の氏名又は名称を明らかにし、承認されない場合に会社又は指定買取人による買取りを求めるときは、その旨も明らかにします(会社法第136条・第138条)。

すでに価格に合意し、売買契約を締結している場合に、その合意を覆せるかどうかは、価格の高低とは別に、契約の拘束力や合意に至った経緯から検討する問題です。署名や回答の前に、内容と根拠を確認してください。

企業全体の価値と、自分が争う金額を分ける

算定書に記載された企業価値の総額を見比べても、自分が争う金額は分かりません。出発点は、1株当たりの価格の差に対象株式数を掛けた金額です。次の数値は、説明のための仮定です。

提示額が1株8,000円、比較検討する価格が1株11,000円、対象株式が600株の場合、提示額による総額は8,000円×600株=480万円、比較検討する価格による総額は11,000円×600株=660万円で、差額は(11,000円-8,000円)×600株=180万円です。

この180万円は、主張する価格が認められたと仮定した場合の、税金と費用を差し引く前の差額にすぎず、実際に受け取れる金額や増額の見通しを示すものではなく、弁護士費用の計算の基礎となる額を確定したものでもありません。評価や手続にかかる費用、税負担、支払を受けられる見込みと比べて、争う方法と範囲を検討します。

また、任意の売買では、合理的な評価書があっても、それだけで買手や買取りの義務、支払資金が生まれるわけではありません。赤字会社の少数株式では、事業の継続性、資産と負債の内容、収益改善の根拠、買手の有無を慎重に検討します。高い算定値を示すことと、その金額で実際に換金できることは別の問題です。

交渉中でも、買取請求・価格決定の期限は別に管理する

会社法上の手続では、価格の話合いを続けていても、法律で定められた期間は延びません。期限は、請求する資格、会社への請求、裁判所への申立ての三つに分けて管理します。なお、価格の決定は非訟事件の手続であり、取引の差止めや株主総会決議の効力を争う手続とは別のものです。主な場面の違いは次のとおりです(会社法)。

手続ごとの請求と申立ての期限(条文はいずれも会社法)
場面 会社への請求 裁判所への申立て 期間の経過と注意点
任意売買
(交渉による売買)
法律上の買取請求権はなく、合意によって成立する 価格の決定を申し立てる制度はない 法定の申立期間はないが、相手方の回答期限、契約上の買取条項の期限、別の法定手続が始まった場合の期限に注意
譲渡承認拒否後の
買取り
(第144条)
譲渡承認の請求の際に、承認しない場合の会社又は指定買取人による買取りを求める旨を明らかにする(第138条) 会社又は指定買取人の買取通知があった日から20日以内。株主と会社側のいずれも申立て可 期間内に申立ても協議の成立もなければ、1株当たり純資産額×対象株式数が売買価格になる(第144条第5項)
吸収合併の消滅会社
の反対株主など
(第785条・
第786条)
議決権を行使できる株主は、原則として総会前の反対通知と総会での反対のうえ、効力発生日の20日前の日から前日までに、株式数を明らかにして請求 効力発生日から30日以内に協議が調わないとき、その期間の満了の日の後30日以内 協議が調わず、効力発生日から60日以内に申立てがなければ、その期間の満了後、株主はいつでも買取請求を撤回できる

表の期間は法律が定めるもので、会社の通知書に書かれた回答期限とは区別して確認します。

譲渡承認拒否では「買取通知」から20日以内

会社が譲渡を承認せず自ら買い取る場合は会社が(会社法第141条第1項)、会社が指定した買取人(指定買取人)が買い取る場合は指定買取人が(会社法第142条第1項)、株主に買取りの通知(買取通知)をします。売買価格の決定は、この買取通知があった日から20日以内に、会社又は指定買取人と株主のいずれからも申し立てることができます(会社法第144条第2項・第7項)。起算点は、承認しない旨の通知の日や最初に価格を提示された日ではないため、手元の書面がどちらの通知なのかを、記載内容と、届いた日が分かる封筒や配達の記録で確認してください。

期間内に申立てがなく、その期間内に価格の協議も調わなかったときは、1株当たり純資産額に対象株式数を掛けた額が売買価格になります(会社法第144条第5項)。提示された価格がそのまま確定するわけではありません。協議が長引きそうなときは、期間内に申立てをしたうえで協議を続けることも検討します。

会社又は指定買取人は、買取通知の際にこの額を供託し、供託を証する書面を株主に交付します(会社法第141条第2項・第142条第2項)。この1株当たり純資産額は会社法施行規則第25条の方法で計算する額であり、資産を時価で評価し直した純資産額や、裁判所が最終的に定める価格とは別のものです。

株券を発行している会社の株式では、株主も、書面の交付を受けた日から1週間以内に株券を供託する必要があり、供託しないときは会社又は指定買取人が売買契約を解除できます(会社法第141条第3項・第4項、第142条第3項・第4項)。株券の有無や所在は個別に確認します。また、買取通知を受けた後に譲渡承認の請求を撤回するには、会社又は指定買取人の承諾が必要です(会社法第143条)。手続の流れ全体は「譲渡制限株式の承認請求と売買価格決定の手続」で解説しています。

吸収合併の反対株主では、会社への請求と裁判申立てが別

ここでは、吸収合併で消滅する会社の株主など、会社法第785条が適用される場面を例にします。同条には適用されない場合の定めもあり、すべての組織再編、すべての株主に同じ規定が当てはまるわけではありません。

株主総会の決議が必要な場合、議決権を行使できる株主は、原則として、総会に先立って反対する旨を会社に通知し、かつ総会で反対する必要があります(会社法第785条第2項第1号イ)。議決権を行使できない株主などには別の定めがあります。そのうえで、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、株式の数(種類株式発行会社では種類と種類ごとの数)を明らかにして買取請求をします(同条第5項)。総会で反対しただけでは、買取請求は完了しません。

価格の決定の申立ては、効力発生日から30日以内に協議が調わないときに、その30日の期間の満了の日の後30日以内に、株主又は会社がすることができます(会社法第786条第2項)。効力発生日から60日以内であればいつでもよい、という定め方ではありません。買取請求の撤回には原則として会社の承諾が必要ですが(会社法第785条第7項)、協議が調わず、効力発生日から60日以内に申立てがないときは、その期間の満了後、株主はいつでも撤回できます(会社法第786条第3項)。第144条第5項のように、一定の価格で売買が確定する仕組みとは異なります。

このほか、吸収合併の存続会社や株式交換の完全親会社の反対株主には、別の規定(会社法第797条・第798条)があります。特別支配株主の株式等売渡請求に関する売買価格の決定(会社法第179条の8)や、全部取得条項付種類株式の取得価格の決定(会社法第172条)では、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所へ申し立てます。このように、取得日より前に裁判所への申立てが必要な制度もあるため、ここで説明した期限を他の制度に当てはめないでください。

反対株主の買取請求の流れは「反対株主の株式買取請求の基本手続」で、特別支配株主の売渡請求などの期限は「スクイーズアウトの手続と価格を争う期限」で解説しています。

通知書の日付から期限を確認する

買取通知や効力発生日の案内が届いている場合は、その書面と、届いた日が分かる記録を手元に置いてご相談ください。

期限の確認について相談を予約する

算定書は、評価目的・方法・基準日をそろえて読む

算定書の結論は、評価の目的、対象となる株式、基準日、評価方法によって変わります。最高裁判所も、非上場会社の株式の価格の算定にはさまざまな評価手法があり、どの場合にどの手法を用いるかは裁判所の合理的な裁量に委ねられているとしています(最高裁判所第一小法廷平成27年3月26日決定)。一つの方法が常に正しいわけではなく、時点や前提の異なる数字を単純に比べても、どちらが妥当かは判断できません。相続税などの申告のための評価額も、そのまま売買や裁判上の価格になるものではありません。評価方法の違いと税務上の評価との関係は「非上場株式の評価方法と税務評価の違い」で解説しています。

純資産法・収益還元法・DCF法の着眼点

代表的な評価方法は、何に着目して価値を計算するかが異なります。

  • 純資産法:会社の資産と負債に着目します。帳簿価額のまま使うか、資産を時価で評価し直すかによって結果が変わります。
  • 収益還元法:将来見込まれる利益に着目し、一定の率で現在の価値に換算します。
  • DCF法:事業計画などから予測した将来のキャッシュ・フロー(現金の収支)に着目し、割引率を用いて現在の価値に換算します。

算定書では、どの方法を選んだのか、その理由は何か、複数の方法を組み合わせている場合はどのような比重かを確認します。評価実務の考え方は日本公認会計士協会「企業価値評価ガイドライン」でも整理されていますが、これは研究報告であり、法令のような拘束力を持つものではありません。

基準日と、企業価値から株式価値への調整

評価の基準となる時点は、手続によって異なります。譲渡承認拒否後の価格の決定では、裁判所は、譲渡等承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を定めます(会社法第144条第3項)。一方、供託の基礎となる1株当たり純資産額の算定基準日は買取通知の日とされており(会社法施行規則第25条)、両者は別のものです。最新の決算書や、価格を提示された時点の数字をそのまま使えるとは限りません。

DCF法などで事業そのものの価値(事業価値)を求めた場合は、事業に使っていない資産(非事業資産)を加え、借入金などの有利子負債を差し引いて、株主に帰属する価値を求めます。株主に帰属する価値を直接求めるモデルもあるため、どちらのモデルかを確認し、同じ負債を二重に差し引いていないかを点検します。そのうえで、株式の種類や自己株式の有無を確認して1株当たりの価値に換算します。企業全体の評価の差が、そのまま自分の請求額になるわけではありません。

反論は「算定前提・影響額・証拠」を対応させる

「安すぎる」という不満だけでは、交渉でも裁判所の手続でも説得力を持ちません。算定のどの前提を変えるべきか、変えると対象株式の評価がいくら変わるか、その主張をどの資料で裏付けるかを、一つずつ対応させる必要があります。

遊休不動産・役員報酬・事業計画・割引率の確認表

次の表は、算定書を検討するときの着眼点です。法律で定められた自動的な調整ルールではなく、検討の手順を示した実務上の整理です。

算定前提ごとの影響額の確認方法と必要証拠
争う算定前提 対象株式への影響額の確認方法 必要証拠
遊休不動産 時価で評価されているか、事業に使っていない資産として加算されているかを確認し、売却費用や税負担を考慮して再計算する。事業価値の計算との重複も点検し、事業に使っている不動産を当然に別途加算することはしない 固定資産台帳、登記事項証明書、利用状況が分かる資料、査定書・鑑定書、賃貸借契約書
役員報酬・
関連当事者経費
職務に見合う継続的な費用との差が、利益やキャッシュ・フローにどう影響するかを再計算する。高額というだけで全額を足し戻さず、代わりの人材に支払う人件費も考慮する 報酬の明細と決議の記録、職務の実態や業務分担が分かる資料、関連当事者との契約書、過去の推移
事業計画 売上、利益率、設備投資、運転資金などの前提を変えた場合の1株当たりの価値の差を比べる。紛争が生じた後に計画が変更されていても、それだけで不当と断定はできない 計画の各版と作成日・承認の記録、過去の計画と実績の比較、受注残、主要な契約
割引率・
継続価値・減価
数値の出典とモデルの整合性を確認し、同じリスクを割引率と減価で重ねて反映していないかを点検して再計算する。割引率は低いほど正しいというものではない 算定式、類似会社を選んだ理由、資本構成や借入の資料、前提を変えた場合の感応度分析
株式数・種類・
負債
対象株式の権利の内容、1株当たりに換算する際の株式数、負債の控除を修正した場合の差を確認する 定款、株主名簿、自己株式の数が分かる資料、種類株式の内容、借入金の残高が分かる資料

各項目は、前提を修正した後の1株当たりの価値と元の価値との差に対象株式数を掛けて、影響の規模を確かめます。資料のない項目に推測で影響額を置いたり、複数の項目の影響を機械的に足し合わせたりすると、前提が重なって主張が過大になるおそれがあります。

会社側の説明と、資料が足りない場合の対応

会社側も、提示額の根拠を説明できるようにしておく必要があります。算定書と計算明細、事業計画の作成経緯、減価をした理由、株主への通知や協議の記録を保存し、株主の指摘には項目ごとに検討して回答します。合理的な指摘とそうでない指摘を区別して示すことは、和解を検討する材料にもなります。

株主は、提示額の算定方法、基準日、計算明細、採用された資料を確認します。定款・株主名簿は権利と株式数を、通知書・封筒・配達の記録は手続と期限を、決算書・算定書・事業計画は価格の前提を確認する資料ですが、株主が取得できる根拠は資料によって異なります。

  • 計算書類等(貸借対照表・損益計算書など):会社に備え置かれた計算書類等の閲覧や、会社の定めた費用を支払って謄本・抄本の交付を請求できます(会社法第442条第3項)。
  • 会計帳簿やこれに関する資料:閲覧・謄写の請求には、原則として総株主の議決権又は発行済株式の3%以上を有することが必要で、請求の理由を明らかにする必要があり、会社が拒むことのできる事由も定められています(会社法第433条)。
  • 算定書・事業計画:計算書類等と同じように請求できる資料ではありません。交渉の中で開示を求め、開示されない部分は、手元の資料から検討できる範囲を整理します。

会社の資料を無断で持ち出したり、権限なく社内のシステムにアクセスしたり、資料を書き換えたりすることは、別の法的責任を生じさせるおそれがあるため避けてください。

非流動性ディスカウントは一律に認められるわけではない

非流動性ディスカウントとは、非上場株式には自由に売買できる市場がない(市場性がない)ことを理由に、評価額を減額する調整です。「非上場の少数株式だから減額されて当然」とも、「非上場株式では減額は認められない」とも一律には言えず、手続の目的、評価方法、算定の過程で既に織り込まれたリスクを確認する必要があります。

平成27年決定と令和5年決定の違い

最高裁判所は、次の二つの決定で、手続と評価方法に応じて異なる判断を示しています。

非流動性ディスカウントに関する二つの最高裁判所決定
比較項目 平成27年3月26日決定 令和5年5月24日決定
裁判所・事件番号 最高裁判所第一小法廷、平成26年(許)第39号 最高裁判所第三小法廷、令和4年(許)第8号
手続 非上場会社の吸収合併に反対した消滅会社の株主の買取請求(会社法第785条)と価格の決定(第786条) 譲渡が承認されず、会社が買い取ることとなった株式の売買価格の決定(会社法第144条第2項)
評価方法 収益還元法 DCF法
判断 収益還元法を用いて価格を決定する場合に、非流動性ディスカウントを行うことはできない 市場性がないことによる減価が相当な場合は、非流動性ディスカウントを行うことができる。ただし、算定の過程で市場性の欠如が既に十分考慮されていれば、さらに減価するのは二重の減価となり相当でない
判断の背景 収益還元法には市場の取引価格との比較という要素がないことに加え、会社から退出する株主に企業価値を適切に分配するという買取請求制度の趣旨を踏まえた判断 この事案では類似上場会社の数値を用いて算定しており、市場性の欠如が算定に織り込み済みとは認められなかった

令和5年決定は、平成27年決定とは事案が異なることを明示しており、平成27年決定を変更したものではありません。評価方法の名称だけで減価の可否を判断することはできず、いずれの決定も一般的な減価率を示したものではありません。また、市場性がないことによる減価と、支配権のない少数株式であることを理由とする評価の調整は、区別して検討します。各決定の全文は、最高裁判所第一小法廷平成27年3月26日決定と最高裁判所第三小法廷令和5年5月24日決定で確認できます。

高い算定書があれば増額されるのか

別の算定書で高い価格を示すだけでは足りません。どの算定前提が不合理で、それを修正すると価格がどう変わるのかを、手続の実質に即して示す必要があります。

上場会社の事案ですが、最高裁判所第二小法廷令和8年9月30日決定(令和6年(許)第32号・第33号・第34号)は、株式交換完全親会社の反対株主の買取請求(会社法第797条・第798条)について、独立した特別委員会による実質的な交渉、必要な情報の開示(試算が理論株価にすぎないことの説明を含みます)、適法な株主総会の承認などがあり、交換比率が公正と認められ、市場株価にも特段の事情がない場面で、より高い競合提案や理論株価の試算が公表されていたことを理由に会社の提示額から増額した原審の判断を否定しました。非上場会社の提示価格を常に尊重すべきことや、非流動性ディスカウントの可否を示したものではありませんが、高い試算があるだけでは増額の理由にならない場面があることを示しています。

和解は価格だけでなく、支払資金・税負担・回収まで確認する

価格の合意を検討するときは、売買代金の総額だけでなく、税金を差し引いた手取り額、支払の時期と支払を受けられる見込み、進行中の手続の終わらせ方を一緒に確認します。

会社の資産価値と支払能力は別の問題

会社が自社の株式を取得する場合は、取得の根拠と、株主総会の決議など必要な手続を確認します(会社法第155条・第156条など)。譲渡承認拒否後に会社が買い取る場合は、分配可能額(株主への払戻しに充てられる上限として会社法の定めにより計算される額)による規制の対象となります(会社法第461条第1項第1号)。一方、株式併合などの反対株主の買取請求には別の規律(会社法第464条)があり、すべての法定の買取りに同じ規制が当てはまるわけではありません。会社に価値のある資産があっても、手元の現金や分配可能額が足りるとは限らず、指定買取人が買い取る場合もその支払能力を確認します。

支払の扱いも手続によって異なります。譲渡承認拒否後の買取りでは、売買価格が確定すると、供託された金額を限度として代金の全部又は一部を支払ったものとみなされます(会社法第144条第6項)。吸収合併などの反対株主の買取りでは、協議が調ったときは効力発生日から60日以内に支払われ(会社法第786条第1項)、裁判所が価格を決定したときは、その期間の満了後の法定利率による利息も支払う必要があります(同条第4項)。会社は、価格の決定前に、自らが公正と認める額を支払うこともできます(同条第5項)。

和解の条件は、署名の前に次の点を確認します。

  • 対象株式の種類・数と、売買代金の総額
  • 供託金や既に支払われた金額の扱い
  • 支払期限と、分割払の有無や担保など支払を確保する方法
  • 税金・源泉徴収の処理と、手取り額の見込み
  • 価格決定の申立てや買取請求を取り下げ・撤回する時期と方法
  • 合意によって清算する権利や請求の範囲

支払の確保が整う前に、申立ての取下げや権利の放棄だけを先に約束すると、代金が支払われなかったときに手続をやり直せないおそれがあります。取下げと支払の順序も条件として定めます。

買主と取得原因で変わる税務

同じ金額で売っても、誰が、どの法的な原因で買い取るかによって、税金の計算と手取り額は変わります。以下は個人の株主(居住者)を念頭に置いた説明で、法人の株主には別の計算が必要です。

  • 発行会社以外への譲渡:指定買取人、経営者、他の株主などへの譲渡は、通常の株式の譲渡として、代金から取得費などを差し引いて株式等の譲渡所得等を計算します(国税庁タックスアンサー「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」)。代金の全額が所得になるわけではありません。
  • 発行会社による取得:原則として、代金のうち、その株式に対応する税務上の資本金等の額を超える部分がみなし配当となり(所得税法第25条第1項第5号、所得税法施行令第61条第2項第6号)、残りが株式等の譲渡所得等の収入金額となります(国税庁タックスアンサー「株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされる場合」)。税務上の資本金等の額は、株主の取得費とは別のものです。
  • みなし配当の対象から除かれる場合:合併に反対する被合併法人の株主からの買取りや、株式の併合に反対する株主からの会社法第182条の4に基づく買取りなどは、みなし配当の対象から除かれます(所得税法施行令第61条第1項第8号・第9号)。除かれても非課税になるわけではなく、代金の全額を譲渡所得等の収入金額として計算します。株式交換で完全子会社となる会社が反対株主から買い取る場合を、合併の場合の除外と同じに考えることはできません。
  • 相続で取得した株式:相続又は遺贈で財産を取得し、納付すべき相続税額がある個人が、相続税の課税対象となった非上場株式を、相続開始の日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの間に発行会社へ譲渡する場合には、みなし配当とせず、譲渡所得等の収入金額とする特例があります。譲渡の時までに所定の届出書を提出する必要があるなど、相続した株式であれば自動的に適用されるわけではありません(国税庁タックスアンサー「相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例」)。

合意の前に、買主、手続、取得費、資本金等の額、特例の適用、源泉徴収の扱いを確認します。当事務所の企業法務のご相談では税務申告・税務代理をお受けしていないため、具体的な税額の計算や申告は、税理士又は税務署にご確認ください。

よくある質問

税務上の評価額で売らなければならないのですか。

そのような決まりはありません。相続税や贈与税の申告などのための評価は課税のために定められた方法によるもので、任意の売買の価格や裁判所が定める価格は、それぞれの目的と手続に応じて検討します。会社が税務上の評価額を示してきた場合も、その評価の目的と前提を確認してください。

赤字会社の株式には価値がないのですか。

赤字であることだけで価値がゼロになるわけではなく、資産と負債の内容、事業の継続性、収益改善の根拠などによって評価は変わります。一方、算定上の価値があっても、任意の売買では買手や支払資金がなければ換金できません。価値の有無と換金の可能性は分けて考えます。

決算書や算定書が手元になくても相談できますか。

ご相談いただけます。まず、手元の通知書や提示額が分かる書面で、どの手続の、どの期限が進んでいるかを確認することが先です。決算書や株主名簿などの資料は、会社への請求の可否を含めて検討し、利益相反の確認後の案内に従って準備します。

非上場株式の価格について相談する前に

相談の前に、次の事項を手元で整理しておくと、期限と争う範囲を早く確認できます。すべてがそろっていなくても構いません。

  • 提示された1株当たりの価格と総額、提示の相手方と日付
  • 対象となる株式の種類と数、比較したい価格がある場合はその差額の概算
  • 受け取った通知書の種類と日付、届いた日が分かる封筒や配達の記録
  • すでに合意した内容と、署名や回答をした書面の有無
  • 定款、株主名簿、決算書、算定書など、手元にある資料の一覧

最初のお問い合わせでは、会社名、相談者のお名前、相手方の名称、相談の概要、期限をお知らせください。決算書や株主名簿などの機密資料は、利益相反の確認が済んだ後、当事務所の案内に従ってお渡しください。当事務所は株主側・会社側のいずれの立場の価格紛争にも対応していますが、同じ紛争で対立する当事者の双方を同時に支援することはできません。お問い合わせや予約は依頼(委任契約)の成立を意味せず、これによって法律上の期限が止まったり延びたりすることもありません。相談の対象は「株主・会社法に関する相談内容を確認する」でご確認いただけます。

価格の決定の申立ては、原則として会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所にし(会社法第868条第1項)、特別支配株主の株式等売渡請求に関する売買価格の決定は、対象会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所にします(同条第3項)。株主の住所や相談先の所在地で決まるわけではありません。神戸地方裁判所の窓口案内では、本庁の商事非訟の申立ての窓口を第3民事部(3階)としていますが、兵庫県内に本店がある会社の事件がすべて本庁で扱われるとは限らないため、本庁・支部の分担や提出方法を事前に確認します。

価格と期限についてのご相談

提示額に納得できないとき、又は株主から価格の根拠の説明を求められているときは、通知書の日付と対象株式数を手元に置いて、相談をご予約ください。手続の種類と期限を確認したうえで、算定書の検討の方向性や、交渉・価格決定の進め方を整理します。

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参考資料

情報基準日:2026年10月28日(本記事の法令・判例・公表資料の記載は、同日時点で確認した内容に基づいています。公開日・更新日とは異なります。)

本記事は、非上場株式の買取価格をめぐる一般的な情報を提供するもので、個別の事案についての法的助言や税務上の助言ではありません。どの手続が適用されるか、価格や税務がどうなるかは、定款や手続、通知の日付、算定の前提などの個別事情によって異なります。情報基準日の後の法令・税制の改正や裁判例により、取扱いが変わることがあります。

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