合併や会社分割、株式交換、株式移転、株式交付、事業譲渡といった会社の重要な行為に反対する株主には、自分の持つ株式を会社に買い取るよう求める「株式買取請求」という制度が会社法に用意されています。組織再編などの通知や株主総会の招集通知を受け取り、「反対したいが、いつ、何を、どのように会社へ伝えればよいのか」「提示された価格に納得できないがどうなるのか」と悩む方は少なくありません。
この記事では、反対株主の株式買取請求について、手続の全体像、会社へ反対を伝えるタイミング、請求ができる期間、価格が折り合わないときの流れ、そして相談前に準備したい資料を整理します。結論を先にお伝えすると、株式買取請求は定められた期間内に、定められた方法で手続を進める必要があり、期間を過ぎると権利の行使が難しくなる可能性があります。一方で、対象となる行為や会社の状況、株式の種類などによって要件や期限が変わるため、個別事情により結論は異なります。具体的な対応は、資料を確認したうえで判断する必要があります。
反対通知や買取請求書を出す前に、手続の選択肢や期限を整理しておくことで、見通しを検討しやすくなります。
Contents
反対株主の株式買取請求とは|まず押さえる結論と全体像
通知を受け取ったら最初に確認すること
会社から組織再編などの通知や株主総会の招集通知が届いたら、まず次の点を確認することをおすすめします。判断の起点になる事項です。
- どのような行為(合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式交付、事業譲渡、株式の併合、一定の定款変更など)が予定されているか
- その行為について株主総会での承認が予定されているか、効力が生じる日(効力発生日)がいつか
- 自分が議決権を行使できる株主か、それとも議決権を行使できない株主か
- 会社からの通知や公告に記載された期限
これらによって、反対の意思をいつ・どのように伝える必要があるか、買取請求ができる期間がいつまでかが変わってきます。
手続全体の流れ(早見表)
株式買取請求は、大きく次の流れで進みます。対象となる行為の種類によって起算点や期限が異なるため、表は一般的な整理として参照し、実際の期限は必ず会社からの通知や条文で確認してください。
| 段階 | 主な内容 | 主体 |
|---|---|---|
| 1.会社からの通知・公告 | 会社が、対象となる行為をする旨などを株主へ通知または公告する | 会社 |
| 2.事前の反対通知 | 議決権を行使できる株主は、株主総会に先立って反対する旨を会社へ通知する | 株主 |
| 3.株主総会での反対 | 株主総会で、その行為に反対する | 株主 |
| 4.株式買取請求 | 定められた期間内に、買取を求める株式の数を明らかにして請求する | 株主 |
| 5.価格の協議 | 買取価格について、会社と株主が協議する | 会社・株主 |
| 6.価格決定の申立て | 協議が調わないとき、裁判所へ価格の決定を申し立てる | 会社・株主 |
「自分の場合はどの段階で何をすべきか」を整理したい段階でのご相談も可能です。資料を確認することで、対応方針を検討しやすくなります。
制度の基礎|対象となる行為と「反対株主」の意味
株式買取請求とは、会社が株主に一定の影響を与える行為をする場合に、その行為に反対する株主が、会社に対して自分の株式を「公正な価格」で買い取るよう求めることができる制度です。投じた資金を回収するための手段として用意されています。
どのような場面で問題になるか
株式買取請求が問題になる主な行為には、次のようなものがあります。行為の種類ごとに会社法で個別に定められており、要件や期限が異なる場合があります。
| 区分 | 主な行為の例 |
|---|---|
| 吸収型の組織再編 | 吸収合併、吸収分割、株式交換(消滅する側・存続する側のいずれでも問題になり得ます) |
| 新設型の組織再編 | 新設合併、新設分割、株式移転 |
| 株式交付 | 株式交付(買取請求ができるのは株式交付をする側の会社の株主です。子会社となる会社の株主には認められていません) |
| 事業譲渡等 | 事業の全部または重要な一部の譲渡など |
| 株式の併合 | 株式の併合により端数が生じる場合など |
| 一定の定款変更等 | 株式に譲渡制限を設ける定款変更など |
ただし、簡易な手続による場合など、株式買取請求が認められない場面もあります。どの行為に当たるか、買取請求が認められる場面かどうかは、契約書や計画書、定款などの資料を確認したうえで判断する必要があります。
「反対株主」とは誰か
株式買取請求ができるのは「反対株主」です。誰が反対株主に当たるかは、株主総会で議決権を行使できるかどうかで分かれます。
- 議決権を行使できる株主:株主総会に先立って反対する旨を会社へ通知し、かつ株主総会でその行為に反対した株主。つまり、事前の通知と総会での反対という二度の反対が原則として必要です。
- 議決権を行使できない株主:事前の反対通知をしなくても請求できる場合があります。
- 株主総会の決議が不要な場合:すべての株主が対象となる場合があります。
よくある誤解は、「株主総会で反対票を投じれば足りる」というものです。議決権を行使できる株主の場合、事前の反対通知をしていないと請求が難しくなる可能性があります。どちらが必要かは状況により異なるため、早めの確認をおすすめします。
株主側と会社側で見るポイントが異なる
同じ制度でも、株主側は「期限内に正しく権利を行使できるか」、会社側は「通知・公告・協議・申立て対応を適切に進められるか」が中心的な関心になります。会社側でも、反対株主からの請求を受ける可能性があるため、手続の流れを整理しておくことが有用です。
手続の流れと期限|いつ・何をするか
会社からの通知・公告
会社は、対象となる行為をする場合、株主に対してその旨などを通知または公告します。多くの場面では効力発生日の一定期間前までに行うこととされていますが、新設型の組織再編では起算点が異なります。具体的な期限は、会社からの通知や条文で確認してください。
事前の反対通知と総会での反対(二度の反対)
議決権を行使できる株主が買取請求をするには、前述のとおり、株主総会前の反対通知と総会での反対の両方が原則として必要です。反対通知は、後から行ったことを示せるよう、控えや送付・到達の記録を残しておくことが大切です。
買取請求ができる期間
株式買取請求は、定められた期間内に、買取を求める株式の数(種類株式発行会社では種類と数)を明らかにして行う必要があります。一般に、吸収型の組織再編や事業譲渡等では効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に行うこととされています。新設型の組織再編では、会社が通知または公告をした日を起算点とする取扱いとなり、期間の数え方が異なります。
期間は限られており、過ぎてしまうと権利の行使が難しくなる可能性があります。どの起算点・期限が適用されるかは行為の種類により異なるため、通知を受け取った時点で確認することをおすすめします。
株券発行会社の株券提出/請求後の撤回制限
株券発行会社の株式について買取請求をするときは、原則として株券を会社へ提出する必要があります。また、買取請求をした後は、原則として会社の承諾を得なければ撤回できません。これは、価格の動きを見てから撤回するといった使い方を防ぐためと説明されています。もっとも、効力発生日から一定期間内に価格決定の申立てがない場合には、株主が撤回できる扱いもあります。
価格協議と価格決定の申立て
買取価格は、まず会社と株主の協議で決めます。協議が調えば、会社は定められた期間内に代金を支払います。協議が一定期間内に調わないときは、株主または会社が、その期間の満了後一定期間内に、裁判所へ価格の決定を申し立てることができます。申立期間も限られているため、協議の状況を見ながら期限を管理する必要があります。
なお、買取りの効力は効力発生日に生じ、会社が支払を遅らせた期間については法定利率による利息が生じるとされています。会社側は、価格の決定がされる前でも、公正と認める額をあらかじめ支払うことができる場合があります。
反対通知や買取請求書の文面、期限の管理、価格協議の進め方は、事案によって検討すべき点が異なります。弁護士費用の目安もあわせてご確認いただけます。
「公正な価格」はどう決まるか|概要と注意点
株式買取請求では、株式を「公正な価格」で買い取ることが求められますが、会社法には公正な価格の具体的な計算方法を定めた規定はありません。価格は、会社の状況、行為の内容、株式の性質などをふまえて検討されるもので、一律の計算式で決まるものではなく、個別事情により結論は異なります。会社の提示額に疑問があるからといって、特定の金額が当然に認められるわけではありません。
上場株式と非上場株式で検討資料が異なる
上場株式では市場株価が参考になりますが、非上場株式には市場価格がありません。そのため、決算書、事業計画、株主総会資料、組織再編の契約書・計画書、第三者が作成した算定書などの資料が重要になります。価格の検討にあたって参照される考え方は複数あり、専門的な検討を要します。詳細な評価方法はこの記事の対象外とし、別途の検討にゆだねます。
税務・会計・資金繰りは別途の検討が必要
株式の買取は、株主側・会社側のいずれにとっても、税務上・会計上の取扱いや資金繰りに影響することがあります。これらは法律上の手続とは別の観点からの検討が必要で、税務上の取扱いについては税理士による確認が必要です。本コラムでは税務・会計上の結論は扱いません。
よく問題になるケース
実務では、次のような場面で判断に迷うことが多くあります。いずれも個別事情により結論が変わるため、資料を確認したうえで検討する必要があります。
- 反対通知は出したが、株主総会で反対していなかった、あるいはその逆だった
- 会社から届いた通知の意味や、いつまでに何をすべきかが分からない
- 会社から提示された買取価格が低いと感じる
- 非上場株式で市場価格がなく、価格の見当がつかない
- 同族会社・親族経営の会社で、判断に必要な資料が十分に開示されない
- 株主名簿上の株主と、実際に出資した人が異なる
- 相続した株式や、共有になっている株式が関係している
- 会社側として、通知・協議・申立て対応で誤りたくない
- 価格決定の申立てをするか、協議を続けるかを迷っている
手続前チェックリスト|株主側・会社側
反対通知や買取請求書を出す前、価格協議に入る前に、次の資料を整理しておくと、対応方針を検討しやすくなります。
株主側で確認したい資料
- 株主総会の招集通知、議案・参考書類
- 組織再編の契約書・計画書、事前に備え置かれた書類
- 株主総会の議事録、議決権行使書の控え
- 事前の反対通知の控え、送付・到達の記録
- 買取請求書とその到達記録
- 株主名簿の記載や保有株式数が分かる資料、定款
- 決算書、第三者が作成した算定書、会社からの価格提示書
- 会社とのやり取りのメール・通知書、株券発行会社の場合は株券
会社側で確認したい資料・事項
- 株主への通知・公告の内容と時期が適切か
- 請求をした株主が反対株主の要件を満たしているか
- 買取請求の期間や、価格決定申立ての期間の管理
- 株券発行会社の場合の株券の取扱い
- 価格協議の方針、価格決定前の支払の要否、利息の負担
弁護士に相談するタイミングと準備
弁護士への相談は、結果を保証するものではありませんが、手続の選択肢、期限、必要な資料、対応方針を整理するうえで役立ちます。次のような場面では、早めの相談が有用です。
- 株主側:通知を受け取り、反対するかどうか・どう伝えるかを検討する段階。買取請求書を出す前。価格に疑問があり、協議を続けるか申立てをするか迷う段階。
- 会社側:反対株主から請求を受ける可能性がある段階。通知・公告・協議・申立て対応の流れを整理したい段階。
期限が関わる手続のため、資料がそろっていない段階でも、まず相談して論点と期限を整理することをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
株主総会で反対すれば株式買取請求できますか?
議決権を行使できる株主の場合、株主総会で反対するだけでなく、株主総会に先立って会社へ反対する旨を通知しておくことが原則として必要です。いずれが必要かは状況により異なるため、資料を確認したうえで判断する必要があります。
事前に反対通知を出していない場合でも請求できますか?
議決権を行使できない株主や、株主総会の決議が不要な場合には、事前の反対通知をしなくても請求できることがあります。それ以外の場合は原則として事前の通知が必要となるため、ご自身がどの立場かを確認することが大切です。
株式買取請求はいつまでに行う必要がありますか?
対象となる行為の種類によって期間と起算点が異なります。吸収型の組織再編や事業譲渡等では効力発生日を基準とし、新設型の組織再編では会社の通知・公告の日を起算点とする取扱いです。期間は限られているため、通知を受け取った時点での確認をおすすめします。
会社から提示された価格に納得できない場合はどうなりますか?
まず会社と価格を協議し、協議が調わないときは、期間内に裁判所へ価格の決定を申し立てることができます。公正な価格は一律の計算式で決まるものではなく、個別事情により結論は異なります。
非上場株式でも株式買取請求はできますか?
対象となる行為に該当すれば、非上場株式でも請求できる場合があります。市場価格がないため、決算書や算定書などの資料をもとにした専門的な検討が必要になります。
買取請求をした後に撤回できますか?
原則として、会社の承諾を得なければ撤回できません。ただし、効力発生日から一定期間内に価格決定の申立てがない場合などには、撤回できる扱いがあります。具体的な可否は事案により異なります。
弁護士に相談するときは何を準備すればよいですか?
招集通知や議案、組織再編の契約書・計画書、株主総会議事録、反対通知や買取請求書の控え、株主名簿や保有株式数が分かる資料、決算書、会社からの価格提示書などがあると、論点や期限を整理しやすくなります。そろっていない段階でのご相談も可能です。
会社側は反対株主から請求を受けたら何を確認すべきですか?
通知・公告の内容や時期が適切か、請求した株主が反対株主の要件を満たすか、請求や申立ての期間、株券の取扱い、価格協議の方針、価格決定前の支払や利息の負担などを確認する必要があります。対応の流れを早めに整理しておくことが有用です。
まとめ
- 反対株主の株式買取請求は、対象となる行為に反対する株主が、会社に株式の買取を求める制度です。
- 議決権を行使できる株主は、原則として事前の反対通知と総会での反対の二度の反対が必要です。
- 買取請求や価格決定申立てには期間があり、過ぎると権利の行使が難しくなる可能性があります。
- 「公正な価格」は一律の計算式で決まらず、上場株式と非上場株式で検討資料が異なります。
- 税務・会計・資金繰りは別途の検討が必要で、税務は税理士による確認を要します。
- まずは資料を整理し、期限と論点を確認することをおすすめします。株主側・会社側のいずれの相談にも対応しています。
参考資料

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