会社の経営をめぐって、共同創業者や親族、株主との間で対立が生じることがあります。「自分が代表取締役なのに、ほかの株主から株主総会の開催を求められた」「過半数の株式を持っているはずなのに、思うように会社を動かせない」「知らないうちに役員変更登記がされていた」——こうした場面で問題になっているのが、いわゆる会社の経営権をめぐる争いです。
経営権という言葉は日常的に使われますが、会社法上は「経営権」という一つの権利が定められているわけではありません。実際には、株主総会での議決権、役員(取締役・代表取締役)の選任権、代表権、株式の帰属、定款の定め、登記、会社印や会計資料の管理といった複数の要素が組み合わさって問題になります。そのため、経営権争いを整理するには、論点を「株主総会」「役員」「株式」の三つに分けて考えることが出発点になります。
この記事では、非上場会社・中小企業・同族会社を念頭に、経営権争いでまず何を確認し、どのような解決の選択肢があり得るのかを整理します。個別の事情によって結論は変わりますので、具体的な対応を検討する際は、資料を確認したうえで弁護士に相談することをおすすめします。
株主総会、役員変更、株式譲渡、新株発行などを進める前に
定款・株主名簿・登記事項証明書・議事録を確認することが重要です。資料を整理して相談することで、手続の順序や選択肢を検討できます。
Contents
この記事で分かること
- 経営権が会社法上の単一の権利ではなく、議決権・役員・株式などの組み合わせで決まること
- 経営権争いで最初に確認すべき資料は何か
- 株主総会・役員・株式の三つの局面それぞれで問題になる争点
- 株主総会決議の取消し・無効・不存在、招集許可、仮処分などの手段の概要
- 当事者間の交渉から仮処分・訴訟まで、解決の選択肢にどのようなものがあるか
- 弁護士に相談するタイミングと、相談前に準備したい資料
会社の経営権争いでまず確認したい結論
経営権をめぐる争いに直面したときは、感情的な対立として捉えるのではなく、次の三つの局面に分けて整理することが重要です。
経営権争いは「株主総会」「役員」「株式」の三つに分けて整理する
- 株主総会の局面:誰が議決権を持ち、どの決議ができるか。総会を適法に開けるか、開かれた総会を争えるか。
- 役員の局面:誰が取締役・代表取締役か。選任・解任、代表権、登記は実体と一致しているか。
- 株式の局面:株主名簿上の株主と実際の権利者は一致しているか。譲渡制限、相続、新株発行はどう影響するか。
最初に確認すべき資料
経営権の所在は、記憶や肩書ではなく、資料で確認する必要があります。まず次の資料を手元に集めてください。
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)
- 定款
- 株主名簿
- 過去の株主総会・取締役会の議事録
- 株式の出資・払込み・譲渡に関する資料
これらの資料の内容によって、とり得る手段や見通しは大きく変わります。資料がそろわない場合や、相手方が資料を開示しない場合の対応も含めて、早い段階で確認しておくことが望ましいといえます。
経営権とは何か
「経営権」は会社法上の単一の権利ではない
「経営権」は、会社を実際にコントロールできる状態を指す通称であり、会社法に「経営権」という権利が規定されているわけではありません。会社の意思決定は、おおまかに次のような仕組みで動いています。
- 株主は、株主総会で議決権を行使し、役員の選任・解任や重要事項を決めます(会社法295条、329条、339条)。
- 取締役・取締役会は、業務執行を決定し、代表取締役を選定します(会社法349条、362条)。
- 代表取締役は、対外的に会社を代表します。
つまり、株式(議決権)から株主総会、役員、代表権へという流れで会社が動きます。「経営権を握る」とは、この流れを実効的にコントロールできる状態を意味します。
株式・議決権・役員・登記の関係
注意したいのは、これらの要素が常に一致するとは限らないことです。たとえば次のようなずれが、経営権争いの火種になります。
- 株式を多く持っていても、定款の定めや種類株式、議決権制限により、思うように決議できないことがある。
- 代表取締役であっても、株主総会の多数を握っていなければ、解任される可能性がある。
- 登記上は代表取締役でも、その前提となる株主総会決議や取締役会決議に瑕疵があれば、後から効力が争われることがある。
「株式を持っている=自由に会社を動かせる」「代表取締役である=総会を支配できる」「登記されている=常に有効」と単純化できない点が、経営権争いの難しさです。
株主総会をめぐる経営権争い
株主総会を開きたい場合
株主総会は、原則として取締役(取締役会設置会社では取締役会の決定に基づき代表取締役)が招集します(会社法296条3項、298条)。もっとも、一定の議決権を持つ株主は、取締役に対して株主総会の招集を請求できます(会社法297条1項)。
請求できるのは、総株主の議決権の3%以上を持つ株主です。公開会社(株式に譲渡制限のない会社)では、原則として6か月前から引き続き保有していることが必要ですが、非公開会社(全株式に譲渡制限のある会社。中小企業の多くがこれにあたります)では、この保有期間の要件はありません(会社法297条2項)。
招集を請求しても、遅滞なく招集手続がとられない場合や、請求の日から8週間以内の日を会日とする招集通知が発せられない場合には、請求した株主が裁判所の許可を得て自ら総会を招集できます(会社法297条4項)。これを株主総会の招集許可といい、会社の本店所在地を管轄する裁判所に申し立てます。
なお、株主全員の同意があれば招集手続を省略できますが(会社法300条)、対立がある場合は、招集通知の期間(公開会社は会日の2週間前まで、非公開会社は原則1週間前まで。会社法299条)や議題の記載など、手続を正確に踏むことが、後の紛争を避けるうえで重要になります。
開かれた株主総会を争う場合
相手方が開いた株主総会の決議に納得できない場合、決議の効力を争う方法があります。会社法は、瑕疵の程度に応じて三つの訴えを定めています。
- 決議取消しの訴え(会社法831条):招集手続・決議方法の法令定款違反や著しい不公正、決議内容の定款違反、特別の利害関係を有する者の議決権行使による著しく不当な決議などがある場合。決議の日から3か月以内に提訴する必要があります(出訴期間)。
- 決議無効確認の訴え(会社法830条2項):決議の内容が法令に違反する場合。
- 決議不存在確認の訴え(会社法830条1項):決議が実態として存在しない場合(総会が開かれていないのに議事録だけが作られている場合など)。
特に注意したいのは、決議取消しの訴えには「決議の日から3か月以内」という短い出訴期間がある点です。この期間を過ぎると、取消事由を主張して決議を争うことが原則としてできなくなります。相手方の総会に問題があると感じたら、早めに対応を検討する必要があります。
招集許可・検査役・仮処分
- 招集許可(会社法297条4項):会社が総会を開かない場合に、株主が自ら開催するための裁判所の許可。
- 総会検査役(会社法306条):株主総会の招集手続や決議方法を調査するため、裁判所に検査役の選任を求める制度。後の紛争に備えた証拠保全としての意味があります。
- 株主総会の開催禁止・決議禁止の仮処分:違法・不公正な総会が開かれようとしている場合などに、仮の地位を定める仮処分を申し立てることが考えられます。ただし、仮処分は権利の存在(被保全権利)と緊急の必要性(保全の必要性)が認められて初めて発令されるものであり、申し立てれば必ず認められるわけではありません。
期限や緊急性が問題になる場面では、早めの確認を
相手方から株主総会の招集通知が届いた、役員変更登記が進められている、新株発行の話が出ているといった場合は、出訴期間(決議の日から3か月)や差止めの緊急性が問題になることがあります。資料を持参のうえ、早い段階でご相談ください。
役員をめぐる経営権争い
取締役・代表取締役・取締役会の関係
役員をめぐる争いを理解するには、それぞれの役割を区別することが必要です。
- 取締役:株主総会の普通決議で選任されます(会社法329条)。
- 取締役会(設置している場合):業務執行を決定し、取締役の職務執行を監督し、代表取締役を選定・解職します(会社法362条)。
- 代表取締役:会社を代表します。取締役会設置会社では取締役会が選定し、非設置会社では定款・株主総会・取締役の互選などで定めます。
取締役・代表取締役の選任・解任
取締役は、いつでも株主総会の決議によって解任できるのが原則です(会社法339条1項)。多くの場合は普通決議ですが、定款で要件が加重されていることや、種類株式・累積投票など個別の事情によって結論が変わるため、定款の確認が欠かせません。
正当な理由がないのに任期途中で解任された取締役は、会社に対して損害賠償を請求できる場合があります(会社法339条2項)。また、不正行為などがあるのに株主総会で解任が否決された場合には、一定の要件のもとで、解任を求める訴え(会社法854条)を提起できることがあります。
代表取締役の変更と役員変更登記
代表取締役の変更や役員の交代があった場合、原則として変更の日から2週間以内に登記をしなければなりません(会社法915条)。もっとも、登記はあくまで対外的な公示であり、その前提となる株主総会決議や取締役会決議に瑕疵があれば、登記された内容の効力が後から争われることがあります。「登記が済んでいるから安心」とは限りません。
逆に、相手方が一方的に役員変更登記を進めてしまったと思われる場合には、その前提となる決議の有効性を争う、あるいは登記の抹消・更正を求めるといった対応を検討することになります。
役員の地位確認・職務執行停止
- 役員の地位確認:自分が依然として取締役・代表取締役の地位にあることの確認を求める訴え。
- 職務執行停止・職務代行者選任の仮処分:争いのある役員の職務執行を一時的に止め、裁判所が選んだ職務代行者に職務を行わせる仮処分。職務代行者の権限は通常の業務に限られるのが原則です(会社法352条)。これも仮処分であり、被保全権利と保全の必要性が必要です。
会社印・通帳をめぐる実務上の混乱と派生問題
役員の争いでは、法的な代表権と、実際に会社印・銀行印・通帳・会計資料を管理している人がずれることが少なくありません。誰が代表権を持つかという法的な問題と、現実の資料管理の問題を切り分けて整理する必要があります。
また、経営権争いの過程では、役員報酬や退職慰労金(会社法361条)、競業避止義務・利益相反取引(会社法356条)、任務懈怠による損害賠償責任(会社法423条)といった問題が派生することもあります。
株式をめぐる経営権争い
株主名簿と実際の株式の帰属
誰が株主かは、原則として株主名簿の記載で判断されます(会社法121条)。一定の株主は株主名簿の閲覧謄写を請求できます(会社法125条)。もっとも、株主名簿の記載と実際に出資した人が一致しないことがあり、これが争いの原因になります。
名義株の問題
過去に、設立時の人数合わせや融資の都合などで、実際には出資していない親族や知人の名義で株式が記載されているケース(いわゆる名義株)があります。この場合、真の株主が誰かは、出資金の原資、株式の管理状況、配当の受領状況などの事情を踏まえて判断されることになり、関連資料の確認が重要になります。
譲渡制限株式と譲渡承認
非上場会社の多くは、全部の株式に譲渡制限を付しています。譲渡制限株式を譲渡するには、会社(株主総会または取締役会など、定款で定められた機関)の承認が必要です(会社法136条以下)。承認のない譲渡は会社との関係で効力を主張できないため、過去の株式譲渡が適法な手続を踏んでいたかが、経営権争いで問題になることがあります。
相続株式・共有株式
株主が亡くなると、その株式は遺産分割が終わるまで、共同相続人の準共有になります。この場合、権利を行使する者を一人定めて会社に通知しなければ、原則として議決権などを行使できません(会社法106条)。遺産分割が終わらないまま会社の手続が進むと、決議の有効性をめぐる紛争につながりやすいといえます。
相続が絡む経営権争いでは、会社法上の手続と相続の手続を並行して整理する必要があります。代表取締役が亡くなった後の会社手続については、別の記事でも整理しています(代表取締役死亡後の会社手続と役員変更登記に関する記事を見る)。
新株発行・第三者割当による希釈化
募集株式の発行(新株発行)によって、特定の株主の持株比率が下がることがあります。非公開会社では、募集株式の発行は原則として株主総会の特別決議によります(会社法199条)。
発行が法令・定款に違反する場合や、著しく不公正な方法による場合には、株主は会社に対して発行をやめることを請求できます(新株発行の差止め。会社法210条)。差止めには緊急性があるため、発行の話が出た段階で早めに検討する必要があります。
株式買取・株主間の合意による解決
争いを根本的に解消する方法として、一方が他方の株式を買い取る、あるいは株主間で議決権や役員構成について合意する(株主間契約)といった選択肢もあります。この場合、株式の評価額の算定が重要な論点になります。純資産方式、収益還元方式、配当還元方式などの考え方があり、会社の決算書や事業内容を踏まえた検討が必要です。当事務所では、弁護士と公認会計士の双方の視点から、法務と評価の両面を検討できる場合があります(法人のお客様向けの取扱業務を見る)。
よくある経営権争いのケース
以下は、実際の相談で問題になりやすい典型的な場面です。いずれも、まず資料を確認し、とり得る手段を比較して検討することが出発点になります。
共同創業者が対立した
出資比率や役割分担があいまいなまま会社を続けてきた結果、方針をめぐって対立するケース。株主間の合意の有無、議決権割合、定款の定めを確認することになります。
親族間で後継者をめぐって争っている
先代から引き継いだ会社で、親族株主の間で経営の主導権を争うケース。株式の帰属(名義株・相続株式を含む)、過去の総会運営、定款の確認が中心になります。
50%対50%で決議が進まない
議決権がちょうど半分ずつに分かれ、普通決議も成立しないデッドロックの状態。株主間契約の有無や、解消に向けた選択肢(株式の買取り、第三者の関与など)を検討することになります。
少数株主が資料を見せてもらえない
会社の経営状況を知りたいのに、決算書や帳簿を開示してもらえないケース。一定の株主は、会計帳簿の閲覧謄写を請求できる場合があります(会社法433条)。
代表取締役が会社印や通帳を管理している
代表者が会社の印鑑・通帳・会計資料を握っており、ほかの株主・役員が会社の状況を把握できないケース。法的な権限と実際の管理の問題を切り分けて検討します。
勝手に株主総会議事録や役員変更登記が作られた疑いがある
総会が実際には開かれていないのに議事録や登記だけが作られた疑いがあるケース。決議の不存在・取消し・無効や、登記の是正を検討することになります。
新株発行で持株比率を下げられそうになっている
第三者割当などにより、自分の持株比率が大きく下がろうとしているケース。新株発行の差止めを検討すべき場合があり、緊急性が問題になります。
相続株式の帰属が決まらないまま会社手続が進んでいる
遺産分割が終わらないうちに、相続株式を前提とした総会や役員変更が進められているケース。共有株式の権利行使(会社法106条)や遺産分割との整理が必要です。
解決の選択肢
経営権争いの解決には、交渉から裁判所を使う手続まで複数の選択肢があります。それぞれの概要を整理すると、次のとおりです。
| 選択肢 | 使う場面 | 確認すべき資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 当事者間の交渉 | 関係が完全には決裂しておらず、早期の解決を図りたい | 定款、株主名簿、これまでの経緯 | 合意内容は書面化する。口頭の約束は後で争いになりやすい |
| 株主間の合意・株式譲渡・株式買取 | 株式の集約や役員構成の整理で根本的な解決を図りたい | 株主名簿、株式の評価資料、決算書 | 譲渡制限株式は承認手続が必要。株式の評価額が争点になる |
| 株主総会・取締役会の適法な開催 | 自社で正規の決議を行いたい | 定款、株主名簿、招集手続の資料 | 招集通知の期間・議題・議事録など手続を正確に踏む必要がある |
| 株主総会の招集許可(会社法297条4項) | 会社が総会を開かない/開けない | 招集請求書、議決権割合の資料、登記、定款 | 3%以上の議決権などの要件を確認する。本店所在地の裁判所に申し立てる |
| 総会検査役・業務執行検査役(会社法306条等) | 総会手続や業務執行を調査・証拠化したい | 招集通知、議事録、議決権行使書面 | 調査の制度であり、それ自体で経営権が確定するものではない |
| 会計帳簿の閲覧謄写請求(会社法433条) | 会社の財務状況を確認したい | 株主名簿、議決権・株式の保有を示す資料 | 一定の議決権・株式(3%以上)が必要。請求理由の明示が求められる |
| 決議取消し・無効確認・不存在確認の訴え(会社法831条・830条) | 相手方が行った決議の効力を争いたい | 議事録、招集通知、登記、決議の経緯 | 取消しの訴えは決議の日から3か月の出訴期間に注意 |
| 役員の地位確認・解任の訴え(会社法854条等) | 役員の地位や解任の有効性を争いたい | 登記、議事録、役員の就任・解任の資料 | 解任の訴えには要件がある。事案により結論が異なる |
| 職務執行停止・職務代行者選任の仮処分 | 争いのある役員の職務を一時的に止めたい | 登記、議事録、緊急性を示す資料 | 仮処分であり被保全権利と保全の必要性が必要。必ず認められるとは限らない |
| 新株発行の差止め(会社法210条) | 不公正な新株発行で持株比率が下がりそう | 募集事項の資料、定款、株主名簿 | 緊急性が高い。発行の効力が生じる前に手続をとる必要がある |
| 株主代表訴訟・役員の責任追及(会社法847条・423条) | 役員の任務懈怠で会社に損害が生じた | 会計帳簿、取引資料、損害を示す資料 | 提訴前の請求手続など要件がある |
| 事業譲渡・会社分割・M&A・解散など | 事業の切り分けや清算で出口を探りたい | 決算書、事業資料、株主構成 | 多くの場合に株主総会の特別決議などが必要。税務上の検討も要する |
これらの選択肢は、いずれも「必ず認められる」ものではありません。事案の事情、資料の有無、緊急性によって適否が変わり、複数の手段を組み合わせることもあります。どの手段が適しているかは、資料を確認したうえで個別に検討する必要があります。
相談前に準備したい資料(チェックリスト)
相談の前に、次の資料をできる範囲で整理しておくと、状況を正確に把握しやすくなります。すべてそろっていなくても構いません。
| 区分 | 準備したい資料 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 会社の基本 | 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)、定款 | 現在の役員構成・資本構成・定款の定めを確認する |
| 株式関係 | 株主名簿、株券の有無が分かる資料、出資・払込み・株式譲渡の契約書・領収書・通帳記録 | 株式の帰属、名義株、譲渡の経緯を確認する |
| 会議体関係 | 過去の株主総会・取締役会の議事録、招集通知、委任状、議決権行使書面 | 過去の決議が適法な手続を踏んでいるかを確認する |
| 登記関係 | 役員変更登記に関する書類 | 登記と実体が一致しているかを確認する |
| 会計・税務関係 | 決算書、会計帳簿、総勘定元帳、通帳、税務申告書 | 会社の財産状況と資料の管理状況を確認する |
| 承継・相続関係 | 株主間契約、事業承継資料、遺言書、遺産分割資料 | 相続・承継の経緯と未了の手続を確認する |
| 相手方とのやり取り | メール、LINE、通知書、内容証明郵便 | 交渉の経緯と相手方の主張を確認する |
| 事業への影響 | 会社印・銀行印・通帳・キャッシュカード・許認可・主要契約の管理状況、従業員・取引先・金融機関への影響が分かる資料 | 事業継続上のリスクを確認する |
弁護士に相談するタイミング
経営権争いでは、手続を進めた後では取り返しのつかない場面があります。次のようなタイミングでは、資料を整理したうえで相談することで、手続の順序や選択肢、交渉方針、仮処分・訴訟の要否を検討できます。
- 株主総会を開く前
- 株主総会の招集通知が届いた直後(特に決議取消しの3か月の出訴期間に注意)
- 役員の解任や代表取締役の変更を進める前
- 相手方が勝手に議事録や登記を進めた疑いがあるとき
- 株式譲渡契約、株式買取の合意、和解書に署名する前
- 新株発行・第三者割当・持株比率の変更が問題になったとき
- 会社印・通帳・会計資料・許認可をめぐって事業に支障が出ているとき
- 仮処分や訴訟の期限・緊急性が問題になりそうなとき
弁護士に相談しても、結果が保証されるわけではありません。もっとも、資料を整理して見通しと選択肢を検討しておくことは、その後の判断の精度を高めることにつながります(弁護士費用を確認する)。
やってはいけない初動対応
混乱した状況では、かえって不利になる対応をとってしまうことがあります。次のような行動は、後の手続で問題になりやすいため注意が必要です。
- 定款や株主名簿を確認せずに株主総会を進める
- 招集通知や議事録を形式的に作るだけで済ませる
- 相手方を排除する目的で会社印や通帳を一方的に持ち出す
- 株式譲渡や新株発行を急いで進める
- 役員変更登記だけを先行させる
- 相手方の同意がないまま和解条件を口頭で進める
- 従業員・取引先・金融機関に一方的な説明をして混乱を広げる
よくある質問
Q1 経営権は株式を過半数持っていれば必ず取れますか?
過半数の議決権があれば、株主総会の普通決議で取締役の選任・解任など多くの事項を決められるため、経営の主導権を握りやすくなります。もっとも、定款の定め、種類株式や議決権制限、定足数の要件、特別決議が必要な事項(定款変更など)によっては、過半数だけでは思うように決議できないことがあります。実際の持株比率と定款の内容を確認したうえで判断する必要があります。
Q2 取締役や代表取締役を株主総会で解任できますか?
取締役は、原則としていつでも株主総会の決議で解任できます(会社法339条1項)。多くの場合は普通決議ですが、定款で要件が加重されている場合や、累積投票で選任された取締役の場合などは、要件が変わることがあります。代表取締役については、取締役会設置会社では取締役会で解職するのが原則です。正当な理由のない解任は損害賠償の問題が生じる場合もあるため、手続と理由を確認することが重要です。
Q3 50%対50%の株主で意見が割れた場合はどうなりますか?
議決権がちょうど半分ずつに分かれると、普通決議が成立せず、役員の選任・解任なども決められないデッドロックの状態になりがちです。この場合、株主間契約の有無を確認したうえで、株式の買取り、第三者の関与、事業の整理など、複数の選択肢を比較して検討することになります。状況により仮処分や訴訟を検討すべき場合もあります。
Q4 相手が開いた株主総会を後から争えますか?
招集手続や決議方法に法令・定款違反がある場合などは、決議取消しの訴え(会社法831条)で争える可能性があります。ただし、この訴えには決議の日から3か月以内という出訴期間があります。決議の内容が法令に違反する場合の無効確認や、総会が実際には開かれていない場合の不存在確認には、この期間制限はありません。どの訴えにあたるかは個別の事情によって異なるため、早めに資料を確認することをおすすめします。
Q5 勝手に役員変更登記をされた場合はどうすればよいですか?
登記はあくまで対外的な公示であり、その前提となる株主総会決議や取締役会決議に瑕疵があれば、登記された内容の効力を争う余地があります。決議の不存在・無効・取消しを検討するとともに、登記の抹消・更正を求める対応が考えられます。まず登記事項証明書と、その登記の前提となった議事録などの資料を確認する必要があります。
Q6 名義株や親族名義の株式は経営権争いで問題になりますか?
問題になることがあります。株主名簿上の名義人と、実際に出資した人が異なる場合(名義株)は、真の株主が誰かが争点になります。これは、出資金の原資、株式の管理状況、配当の受領状況などの事情を踏まえて判断されるため、設立時の資料や払込みの記録、通帳などの確認が重要になります。
Q7 新株発行で持株比率を下げられそうな場合、止められますか?
新株発行が法令・定款に違反する場合や、著しく不公正な方法による場合には、発行の差止めを請求できる場合があります(会社法210条)。差止めには緊急性があり、発行の効力が生じる前に手続をとる必要があるため、第三者割当などの話が出た段階で早めに検討することをおすすめします。認められるかどうかは個別の事情によって異なります。
Q8 弁護士に相談するときは何を持って行けばよいですか?
登記事項証明書、定款、株主名簿、過去の株主総会・取締役会の議事録、株式の出資・譲渡に関する資料、決算書や会計帳簿、相手方とのやり取り(メール・通知書・内容証明郵便など)があると、状況を正確に把握しやすくなります。すべてそろっていなくても構いません。手元にある資料を持参いただければ、不足分の集め方も含めて検討できます。
まとめ
- 「経営権」は会社法上の単一の権利ではなく、議決権・役員・株式・定款・登記・資料管理の組み合わせで決まる。
- 経営権争いは、「株主総会」「役員」「株式」の三つの局面に分けて整理することが出発点になる。
- まず登記事項証明書・定款・株主名簿・議事録・株式の資料を確認する。
- 自分だけで総会や役員変更を進めると、後で決議の有効性や登記が争われることがある。
- 決議取消しの訴えには決議の日から3か月の出訴期間があるなど、期限・緊急性が問題になる手続がある。
- 解決の選択肢は交渉から仮処分・訴訟まで幅広く、いずれも事案により適否が異なる。
- 株主総会・役員変更・株式譲渡・新株発行・和解書への署名の前に、資料を整理して相談することが望ましい。
経営権争いは、株式・役員・登記・会計資料・交渉方針をまとめて整理する必要があります
神戸みらい法律会計事務所では、神戸市須磨区・垂水区・西区・北区周辺、兵庫県内、関西圏の会社経営者・株主の方を対象に、資料を確認したうえで今後の対応方針を検討します。まずは手元の資料を整理して、ご相談ください。
監修者・執筆者
弁護士・公認会計士 藤井貴之
兵庫県弁護士会所属/弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
取扱分野:企業法務、会社内部紛争、交通事故、相続、債務整理ほか
法務と会計の双方の視点から、会社内部の紛争について検討できる場合があります。

24時間365日受付