「招集通知が届かなかった」「総会を開いた形跡がないのに、議事録と役員変更の登記だけがある」「選任の効力が疑わしい取締役が次の総会を招集した」。株主総会の決議をめぐる争いでは、どの決議を、誰が、どの訴えで、いつまでに争うかを最初に整理します。決議の取消しを求める訴えは、決議の日から3か月以内に提起しなければなりません。この記事では、非上場の中小企業・同族会社を念頭に、取消し・無効・不存在の違い、招集通知や取締役会の不備、総会を開いていない場合、後の決議への影響、再決議・追認による是正の限界を、株主側と会社側の双方の判断材料として整理します。結論は、機関設計や定款、当時の役員構成、関係者の関与の経緯によって異なります。
この記事の要点
- 争う決議の日付と内容、相談者の立場を特定し、取消しの訴えの3か月の期限を最初に確認します。
- 招集通知の欠缺(通知が欠けていること)は原則として取消事由ですが、欠缺が著しい場合は決議の不存在が問題となります。通知されなかった株主の割合だけでは決まりません。
- 総会を開いていなくても、取締役又は株主の提案に、その事項について議決権を行使できる株主全員が書面等で同意していれば、決議があったとみなされる場合があります。そうした同意もないのに議事録や登記があるだけでは、決議の成立は裏付けられません。
- 役員を選任した決議が存在しない場合、その役員による招集を通じて後の総会の決議に影響が及ぶことがありますが、すべての後続の行為に当然に及ぶわけではありません。
- 「追認」という名称の決議をしただけでは、過去の決議や行為が遡って有効になるかは決まりません。
本記事は、決議の効力が既に争いになっている場面を扱います。経営権をめぐる争いの全体像は「会社の経営権争い全体の整理」をご覧ください。上場会社の委任状争奪戦や公開買付け、新株発行・組織再編の無効の訴え、株式会社以外の法人、役員の責任・株式の評価・税務の詳細は、別の訴えの類型や期間制限などが問題となるため扱いません。また、紹介する最高裁判所の判決は、いずれも現在の会社法の施行前の旧商法・旧有限会社法の下での事案であり、現行法との対応と判断の及ぶ範囲を区別して説明します。
株主総会決議を争うときは訴えの種類と期限を先に確認する
最初に、争う決議(いつの総会の、どの議案か)、相談者の立場(株主、取締役、監査役など)、決議の問題点が取消事由に当たるのか無効・不存在の問題になるのか、の三点を確認します。取消事由に当たる可能性があれば、決議の日から3か月の期限の確認を最優先にします。
取消し・無効・不存在は何が違うか
会社法は、決議の効力を争う訴えとして、取消しの訴え、無効確認の訴え、不存在確認の訴えを定めています(会社法(e-Gov法令検索)第830条・第831条)。
| 種類 | 主な対象 | 原告・訴えの利益 | 期間 |
|---|---|---|---|
| 取消し (第831条) |
招集の手続又は決議の方法が法令・定款に違反し、又は著しく不公正なとき(第1項第1号) 決議の内容が定款に違反するとき(同項第2号) 特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき(同項第3号) |
株主等(株主・取締役・清算人。監査役設置会社では監査役、指名委員会等設置会社では執行役を含みます)と、決議の取消しにより株主や取締役などとなる者。後の事情で訴えの利益が失われることもあります | 決議の日から3か月以内に提訴 |
| 無効確認 (第830条 第2項) |
決議の内容が法令に違反するとき | 原告を限定する規定はなく、確認の利益の有無で判断 | 出訴期間の定めはない(確認の利益は必要) |
| 不存在確認 (第830条 第1項) |
決議の事実がなく適法な決議の省略もない場合や、手続の欠缺が著しく、法律上、決議があったと評価できない場合 | 原告を限定する規定はなく、確認の利益の有無で判断 | 出訴期間の定めはない(確認の利益は必要) |
区別の要点は、手続の違反か、内容の違反か、そもそも決議と評価できるものがあるかです。招集通知を出さなかった、通知の期間が足りなかったという問題は「招集の手続」の法令違反で、原則として取消事由です。決議の「内容」の法令違反ではないため、無効確認の対象にはなりません。ただし、手続の欠缺が著しく、決議と評価できない場合は不存在の問題となります。無効・不存在の確認には出訴期間の定めはありませんが、誰でもいつでも争えるわけではなく、確認の利益が必要です。
決議について特別の利害関係を有する株主も、法律に個別の定めがある場合を除き、そのことだけで議決権の行使を禁じられるわけではありません。その議決権の行使によって著しく不当な決議がされたときに、取消事由となります。
誰が誰を訴えるのか
取消しの訴えを提起できるのは、法律が定める株主等です(会社法第831条第1項、第828条第2項第1号)。ここでいう「監査役設置会社」には、定款で監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定している会社は含まれません(同法第2条第9号)。株主総会の招集請求(同法第297条)のような議決権の割合や保有期間の要件は、取消しの訴えの原告にはありません。
決議の取消しにより株主や取締役などとなる者も、取消しの訴えを提起できます。これには、任期の満了や辞任で退任したものの、取締役の員数が欠けるため後任が就任するまで取締役としての権利義務を有する者(同法第346条第1項)となる場合も含まれます。元取締役の場合は、解任の決議が取り消されれば取締役に戻る関係か、後任の選任の決議が取り消されれば権利義務を有する者となる関係か、それとも株主として訴えるのかを確認します。
無効確認・不存在確認の訴えには原告を限定する規定はありませんが、その決議の効力が原告の現在の権利や地位にどう関わるかという観点から、確認の利益が判断されます。被告は、三つの訴えのいずれも会社です(同法第834条第16号・第17号)。対立する株主個人や、問題の決議で選任された取締役個人を被告とするのではありません。請求の立て方は「東京地方裁判所の会社訴訟に関する資料(訴えの記載例)」が参考になりますが、神戸地方裁判所の書式を定めたものではありません。
決議取消訴訟の3か月と裁量棄却
取消事由があっても、期間内に提訴しなければ取消しを求めることはできません。期間内に提訴しても、主張できる取消事由の範囲と、裁判所による請求の棄却(裁量棄却)が問題になります。
知った日ではなく決議の日から3か月
取消しの訴えは、決議の日から3か月以内に提起しなければなりません(会社法第831条第1項)。決議を知った日や、役員変更の登記を見つけた日から数えるのではありません。招集通知を受け取っていない株主にとっても同じです。
交渉、内容証明郵便による異議、社内での抗議、法律相談の予約で、提訴に代えたり期間を延ばしたりすることはできません。交渉を続ける場合も、提訴の準備を並行して進めます。期間の末日の数え方は事案ごとに確認し、末日の提出を前提にした計画は避けるべきです。
期限が近い場合のご相談
決議の取消しを検討している場合は、資料がそろうのを待たずに、決議の日、次回の総会の予定日、ご相談者の立場、会社名・相手方の名称をお知らせください。議事録などの資料は、利益相反の確認が済むまでお送りにならないでください。予約の受付やお問い合わせで、3か月の期間が止まることはありません。
後から取消事由を追加できるか
最高裁判所第二小法廷昭和51年12月24日判決(昭和48年(オ)第794号)は、出訴期間の経過後に新たな取消事由を追加して主張することは許されないとしました。期間内に主張した取消事由について証拠を補充し、主張を具体化することと、期間後に別の取消事由を持ち出すことは区別されます。早めに提訴しておけば、後から自由に問題点を追加できるわけではありません。
他方、最高裁判所第二小法廷昭和54年11月16日判決(民集33巻7号709頁)は、無効確認の訴えで無効原因として主張した瑕疵が取消原因にも当たり、取消しの訴えの原告適格や出訴期間などの要件も満たしていた事案で、期間経過後の取消しの主張を、無効確認の訴えの提起時からされていたものと同様に扱いました。当初から同じ瑕疵を主張し、提訴自体も期間内だったという条件の下での判断であり、「無効・不存在の確認だけを求めておけば、後から自由に取消しに切り替えられる」という意味ではありません。取消事由か無効・不存在か判断が分かれそうな事案では、3か月以内に取消しも予備的に請求するなど、期間内に訴えの組立てを検討しておくことが考えられます。
多数決の結果が同じでも取り消される場合
招集の手続や決議の方法に法令・定款違反があっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、請求を棄却できます(会社法第831条第2項)。二つの要件は両方とも必要で、違反が重大なら、結果に影響がなくても裁量棄却はできません。「反対した株主の議決権が少なく、通知していても結果は同じだった」というだけでは足りません。また、この規定の対象は招集の手続又は決議の方法の法令・定款違反であり、著しく不公正な場合や決議の内容の定款違反などに当然に及ぶものではありません。
最高裁判所第一小法廷昭和46年3月18日判決(昭和44年(オ)第89号)は、取締役会の有効な決議を欠いて総会が招集され、全株主への通知も法定の期間より2日不足していた事案で、瑕疵は重大であり、決議の結果に影響を及ぼさないとしても請求を棄却することは許されないとしました。旧商法の下での判断で、現在の会社法第831条第2項を適用したものではありません。また、取締役会の決議を欠くことだけで常に裁量棄却ができないと述べたものでもありません。
招集通知がない株主総会の決議はどうなるか
一部の株主に招集通知が送られなかった場合、原則として招集の手続の法令違反として取消事由となります。ただし、通知を欠いた範囲や総会の実態からみて、総会としての実体が認められないほど欠缺が著しい場合は、決議の不存在が問題となります。
最高裁判所第二小法廷昭和33年10月3日判決(昭和31年(オ)第396号)は、株主9名のうち6名(全5,000株のうち2,100株)に招集通知をせず、代表取締役とその子2名の3名だけで行った決議を不存在としました。通知されなかった株主の数と株式数、決議に加わった者の範囲、総会の開かれ方など事案全体を踏まえた判断であり、「何割以上の株主に通知がなければ不存在」という基準を示したものではありません。割合だけで取消しか不存在かを判定することはできません。
通知方法・期間・対象株主を確認する
「招集通知が届いていない」という申告があれば、機関設計と定款を前提に、次の点を照合します。
- 通知の期限:総会の日の2週間前までに発するのが原則です。公開会社でない会社では、書面又は電磁的方法による議決権の行使を定めた場合を除き1週間前まで、そのうち取締役会を置かない会社では定款で1週間より短い期間を定めることもできます(会社法第299条第1項)。電子提供措置をとる場合は2週間前までです(同法第325条の4第1項)。
- 通知の方法:取締役会設置会社や、書面又は電磁的方法による議決権の行使を定めた場合は、書面で通知します。株主の承諾を得れば電磁的方法でも通知できます(同法第299条第2項・第3項)。
- 通知の対象:議決権を行使できない株主は対象から除かれます。除かれるのは、取締役会設置会社ではその総会の目的である事項(議題)のすべてについて、取締役会を置かない会社では総会で決議できる事項のすべてについて、議決権を行使できない株主です(同法第298条第2項・第3項)。当時の株主と議決権の数は、株主名簿だけでなく、株式の取得・相続・譲渡の経緯からも確認します。
- 発信の記録:法律が求めているのは通知を「発する」ことです。株主が受け取っていないことと、会社が発していないことは同じではありません。通知の本文、宛先の一覧、発送・配信の記録、返送の有無を照合します。
「公開会社でない会社」は上場していない会社という意味ではなく、発行するすべての株式について、譲渡による取得に会社の承認を要する旨を定款で定めている会社をいいます(同法第2条第5号)。譲渡制限のない株式があれば、上場していなくても公開会社です。
全員出席総会と招集手続の省略
招集の手続を経なくても総会が適法に開かれる場合があります。一つは、株主全員の同意による招集手続の省略です(会社法第300条)。ここでいう株主の範囲は、招集通知の対象となる株主と同じです。書面又は電磁的方法による議決権の行使を定めた場合は使えません。これは招集の手続を省略する制度で、会議そのものを開かない決議の省略(同法第319条)とは別です。
もう一つは、いわゆる全員出席総会です。最高裁判所第二小法廷昭和60年12月20日判決(昭和58年(オ)第1567号)は、招集の手続を欠いても、株主全員がその開催に同意して出席し、総会の権限に属する事項について決議をしたときは、決議は有効に成立するとしました。委任状に基づく代理人の出席で全員出席となる場合は、株主が会議の目的である事項を了知して委任状を作成し、決議がその事項の範囲内であることを条件としています。全員がたまたま同じ場所にいたことと、総会の開催に同意したことは同じではありません。親族の集まりで話題にしただけの場合や、議題を知らないまま委任状を出した株主がいる場合は、これらの条件を満たすかを慎重に検討します。
招集を決定した取締役会に瑕疵がある場合
取締役会設置会社では、総会の日時・場所や目的である事項などは、株主が裁判所の許可を得て招集する場合を除き、取締役会の決議で決めなければなりません(会社法第298条第4項)。取締役会を置かない会社では決め方が異なるため、定款と取締役の構成から確認します。判断は、まず取締役会の決議自体に瑕疵があるか、次にその瑕疵が総会の決議にどう影響するか、の二段階で行います。取締役会の決議が無効・不存在でも、そのまま総会の決議も無効・不存在になるとは限りません。
招集権限・招集通知・決議の実体を調べる
- 招集権者:取締役会は各取締役が招集するのが原則ですが、定款又は取締役会で招集する取締役(招集権者)を定めることができます。その場合も、ほかの取締役は目的である事項を示して招集を請求でき、請求の日から5日以内に、請求の日から2週間以内の日を会日とする招集通知が発せられないときは、自ら招集できます(会社法第366条)。5日以内に通知が出ても、会日が2週間より後であれば、これに当たり得ます。招集権者の定めに問題があっても、後の取締役会が直ちにすべて無効となるわけではなく、各取締役が招集できるという原則など、別の権限の根拠を確認します。
- 招集通知:取締役会の日の1週間前(定款で短縮可)までに、各取締役(監査役設置会社では各監査役にも)通知を発します。これらの者全員の同意があれば、招集の手続を省略できます(同法第368条)。
- 定足数・決議要件:議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数で決議します(定款で加重可)。特別の利害関係を有する取締役は議決に加われません(同法第369条第1項・第2項)。
- 決議の省略:会議を開かず議事録だけがある場合は、定款の定め、取締役の提案、議決に加わることができる取締役全員の書面又は電磁的記録による同意、監査役設置会社では監査役が異議を述べていないこと、という要件を満たすかを確認します(同法第370条)。議事録が見つからないことと、決議がなかったことも同じではありません。
一部の取締役に招集通知をしなかった場合について、最高裁判所第三小法廷昭和44年12月2日判決(昭和43年(オ)第1144号)は、決議は原則として無効であるとしつつ、その取締役が出席しても決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは有効になるとしました。名目的な取締役だから最初から通知が不要という判断ではなく、賛否の人数を数えて1票では結果が変わらないというだけで特段の事情が認められるとも限りません。
代表取締役による招集か無権限者による招集か
取締役会の瑕疵が総会の決議にどう影響するかは、誰が、どのような根拠で総会を招集したかで分かれます。
- 真正な代表取締役が取締役会の決議を経ずに招集した場合は、原則として取消事由と整理されています(「東京地方裁判所の会社訴訟に関する資料(取消事由・無効事由・不存在事由の区分)」)。前述の昭和46年3月18日判決も、取締役会の有効な決議を欠く招集を取消しの訴えの中で判断した事案です。
- 取締役会の決議もなく、代表取締役でない取締役が独断で招集した場合について、最高裁判所第一小法廷昭和45年8月20日判決(昭和44年(オ)第276号)は、決議は存在しないとしました。
- 取締役会で招集を決めたものの、招集の権限を与えられていない代表取締役以外の取締役が招集した場合は、取消事由にとどまるか不存在となるかについて見解が分かれており、一律の結論は出せません。
いずれの場面でも、株主が裁判所の許可を得て招集した場合(会社法第297条第4項)、招集の権限が別に与えられていた場合、全員出席総会に当たる場合など、別の根拠で総会が適法に成立していないかを確認します。取締役会の決議要件や招集の手続の一般的な説明は「取締役会の招集・決議要件を確認する」で整理しています。
株主総会を開いていない場合と信義則・訴権濫用
総会が開かれていないのに、議事録が作られ、役員変更の登記までされていることがあります。この場合も、開いていないことから直ちに不存在確認の請求が認められるとは限りません。決議の省略の成否、確認の利益、訴えの提起が信義に反しないか(訴権の濫用)を、別々に検討します。
議事録だけある場合と決議を省略した場合
取締役又は株主が総会の目的である事項について提案し、その事項について議決権を行使できる株主の全員が書面又は電磁的記録で同意の意思表示をしたときは、提案を可決する決議があったものとみなされます(会社法第319条第1項)。取締役会の決議の省略(同法第370条)と異なり、定款の定めは要件とされていません。そこで、総会を開いた形跡がない場合も、まず同意の書面や電子メールなどの記録を確認します。
口頭で了解を得ただけの場合や、後から議事録に押印を集めた場合に、それだけで同条の同意があったといえるとは限りません。仮に要件を満たしても、決議があったとみなされるのは全員の同意がそろった時であり、議事録に過去の日付を記載しても、その日に決議があったことにはなりません(議事録には「決議があったものとみなされた日」を記載することとされています。会社法施行規則第72条第4項第1号)。有効な決議の省略もないのに議事録や変更登記だけがある場合、それらだけで決議の成立が裏付けられるわけではなく、実際の開催や同意の有無を別に確認します。
過去の関与や経営承継が問題になる場合
不存在確認の訴えに対し、会社側から、原告自身の過去の関与を理由に、信義則違反や訴権の濫用を主張されることがあります。
最高裁判所第一小法廷昭和53年7月10日判決(昭和52年(オ)第1321号)は、旧有限会社の社員総会の決議に関する事案です。経営を支配していた者が、相当の対価を得て持分の全部を譲渡して経営を委ね、譲渡を承認する社員総会を容易に開くことができた立場にありながら、約3年後に承認の決議などの不存在確認を求めたという事情の下で、著しく信義に反するなどとして、訴えを訴権の濫用として却下しました。
存在しない決議が有効になったという判断ではなく、その事情の下で訴えによって争うことを許さなかったものです。旧有限会社の持分譲渡の事案であり、株式会社の株式譲渡や役員選任の争いに当てはめる際は事案の違いを踏まえます。「総会を開いていない以上、訴権の濫用とされることはない」という見方も、「長年黙認していれば常に争えなくなる」という見方も正確ではありません。当時の地位と関与、対価の受領、経営の引継ぎの経緯、争うまでの期間などを個別に検討します。
決議が存在しなくても訴えの利益が必要
不存在確認の訴えに出訴期間はありませんが、過去の決議であれば何でも争えるわけではありません。最高裁判所第一小法廷平成11年3月25日判決(平成10年(オ)第1183号)は、実際には行われなかった決議の一部について、後の決議の存否の前提問題とならず、当時の登記用紙も閉鎖され、ほかに確認の利益を基礎づける特段の事情の主張・立証もないとして、確認の利益を否定しました。決議が実体として存在しないことと、その確認を求める利益があることは別の問題であり、確認の利益があっても訴権の濫用が問題になることもあります。現在の役員の地位や株主の権利をめぐる紛争の解決に必要な決議を選んで、請求を組み立てます。
先行決議の瑕疵は後の株主総会にも及ぶか
役員の改選が重なっている会社では、「その後に改選されているので争えない」という主張と、「最初の決議に問題があれば、その後の決議はすべて効力がない」という主張が対立することがあります。どちらも、それだけで結論は決まりません。
役員選任から次の総会招集までをたどる
最高裁判所第三小法廷平成2年4月17日判決(昭和60年(オ)第1529号)は、取締役を選任する総会の決議が存在しない場合、その決議で選任されたとされる者を構成員に含む取締役会で選定された代表取締役が、その取締役会の招集決定に基づいて次の総会を招集し、取締役を選任する決議をしても、全員出席総会でされたなどの特段の事情がない限り、その決議も存在しないとしました。
この判決が問題にしているのは、招集の権限が順に欠けていく連鎖です。先に行われた決議(先行決議)の瑕疵が、あらゆる取消事由や、会社と第三者とのすべての取引に当然に及ぶと述べたものではありません。次の点を時系列で確認します。
- 最後に適法に取締役が選任されたのはいつか、任期はいつまでか
- 代表取締役は、適法な取締役で構成される取締役会で選定されたか
- 問題の総会は、適法な取締役会の決議に基づき、正当な代表者が招集したか
- 後の総会が、全員出席総会や決議の省略など、別の根拠で成立していないか
- 後の各決議に独自の瑕疵がないか。取消事由なら3か月の期間内か
例えば(説明のための仮定の例です)、ある年の総会でA・B・Cが取締役に選任されたとされているものの、実際には総会も決議の省略もなかったとします。A・B・Cで構成する取締役会がAを代表取締役に選定し、その取締役会の決定に基づいてAが翌年の総会を招集し、その総会でA・B・Dが選任された場合、翌年の総会が全員出席総会などに当たらなければ、翌年の選任の決議も存在しないと判断される可能性があります。もっとも、A・Bがそれ以前に適法に選任され、なお取締役としての権利義務を有している場合(会社法第346条第1項)などは、結論が変わることがあります。
先行決議と後行決議を併せて争う場合
役員の任期が満了し、後の総会で新しい役員が選任されると、先行決議を争う利益が問題になります。前述の平成11年3月25日判決は、後に行われた決議(後行決議)で適法に新しい役員が選任された場合は、特別の事情がない限り、先行する選任決議の不存在確認を求める利益は失われるとしました。他方で、先行決議の不存在を後行決議が存在しない理由として主張し、両方の決議の不存在確認の請求を併せて提起している場合は、先行決議についても確認の利益があるとしています。任期の満了によって当然に争えなくなるわけでも、過去の決議であればすべて確認の利益があるわけでもなく、後行決議の適法性と、先行決議の存否がその前提問題になっているかで結論が変わります。
追認決議や再決議でどこまで是正できるか
決議の効力に疑いが生じた後、会社側が改めて総会を開き、「過去の決議を追認する」と決議することがあります。しかし、「追認」という名称だけで、過去の決議や行為が遡って有効になるかは決まりません。次の四つは別の問題です。
- 問題の総会が、当初から全員出席総会や決議の省略として有効に成立していたか
- 適法な手続で新しい決議をするか(招集の権限、通知、議決権、決議の内容を独立して点検します)
- 過去の行為(報酬の支払など)を、後の決議で事後に承認できるか
- 先行決議を争う訴えの利益が、後の決議によって失われるか
再決議と過去の行為の事後承認を区別する
最高裁判所第一小法廷平成4年10月29日判決(平成元年(オ)第605号)は、退職慰労金を贈呈する決議の取消しの訴えの係属中に、先行決議の取消しが確定した場合に遡って効力を生ずるものとして同じ内容の決議がされ、その決議が取消しの訴えなどを提起されないまま確定していた事案で、特別の事情がない限り、先行決議の取消しを求める訴えの利益は失われるとしました。代わりの決議によって取消しの実益がなくなったという判断であり、先行決議の瑕疵が消えたという判断ではありません。役員の選任・解任や定款の変更など、性質の異なる決議にまで同じように遡って効力を生じさせることができると述べたものでもありません。
最高裁判所第三小法廷平成17年2月15日判決(平成15年(受)第995号)は、総会の決議を経ずに支払われた役員報酬について、後に総会の決議を経た場合は、決議の内容などに照らして報酬の規制の趣旨目的を没却するような特段の事情がない限り、支払は適法有効なものになるとしました。係属中の訴訟で役員側を勝訴させる意図があったというだけで、その決議を訴訟で主張することが訴訟上の信義則に反するともいえないとしています。過去の報酬の支払を事後に承認することについての判断であり、開かれていない総会を開かれたことにするものではありません。税務上の取扱いは別に確認が必要です。
現在の適法な役員と招集権者から立て直す
是正の総会も、誰が招集できるかが問題です。まず、最後に適法に選任された役員と任期を確認します。役員が欠けた場合や法律・定款で定めた員数が欠けた場合は、任期の満了又は辞任により退任した役員が、新たな役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有します(会社法第346条第1項)。前述の平成2年4月17日判決も、当時の商法の同じ趣旨の規定を前提に、旧取締役による取締役会が有効かどうかをさらに審理させています。必要があれば、利害関係人の申立てにより、裁判所が一時役員の職務を行うべき者を選任することもできます(同条第2項)。
株主の側からは、取締役への招集の請求と、裁判所の許可による招集があります(同法第297条)。請求できるのは、原則として総株主の議決権の3%以上を6か月前から引き続き有する株主です(割合と期間は定款で緩和でき、公開会社でない会社では保有期間の要件はありません)。請求後遅滞なく招集の手続が行われない場合や、請求の日から8週間(定款でこれより短い期間を定めた場合はその期間)以内の日を総会の日とする招集の通知が発せられない場合に、裁判所の許可を得て招集できます。これらは招集の請求の要件であり、取消しの訴えの原告の要件ではありません。
議決権が半数ずつに分かれている会社では、是正の総会を開いても議案が可決されないことがあります(「株主50対50のトラブルと解消方法」)。適法な招集・通知・議事録の作成など総会の準備は「株主総会の準備と運営」をご覧ください。
証拠の確保と訴訟・仮処分の進め方
争う側も、会社として立て直す側も、次の事項を並行して進めます。
- 争う決議を特定し、取消事由があれば決議の日から3か月の期限を確認する
- 議事録、株主名簿、招集通知などの原本と電子データを、そのまま保存する
- 適法に選任された最後の役員までさかのぼり、選任・選定・招集の時系列表を作る
- 役員の職務の執行を止める必要があるか(仮処分の要否)を検討する
- 交渉や是正の総会で解決できるかを、期限の管理と並行して検討する
争点ごとに集める資料
資料は、何を証明するためのものかを対応させて集めます。株主名簿、登記、税務資料のどれか一つだけで、誰が株主か、決議があったかを断定することはできません。
| 確認したいこと | 主な資料 | 読み取る点 |
|---|---|---|
| 株主の資格・ 議決権 |
株主名簿、定款、株式の取得・相続・譲渡・払込みに関する資料 | 決議の当時、誰が株主で、何個の議決権を持っていたか。名簿の記載と取得の経緯が一致しているか |
| 招集通知の 欠缺 |
招集通知の本文、送付先の一覧、発送・配信・返送の記録、委任状、出欠の記録 | 誰に、いつ、どの方法で通知が発せられたか。期間と方法が機関設計・定款に合っているか |
| 取締役会の 権限 |
当時の役員の選任、代表取締役の選定、招集権者の定めに関する記録、任期の資料、招集の請求と通知 | 総会の招集を決めた取締役会が、適法な取締役で構成され、適法に招集・決議されたか |
| 実際の開催・ 決議の省略 |
日程の連絡、出席・議事進行の記録、提案書、同意の書面・電子メール、議事録の元データ | 会議が実際に開かれたか。開かれていない場合、全員の書面等による同意があるか |
| 瑕疵の連鎖 | 歴代の株主総会・取締役会の議事録、登記事項証明書(過去の変更の履歴を含むもの) | 適法に選任された最後の役員から、問題の総会の招集までのつながり |
| 信義則・追認 | 株式の譲渡契約、対価の授受の記録、経営の引継ぎの資料、当時の関与を示す資料、後の決議の議案と効力発生の条件 | 原告が当時どのように関与していたか。後の決議が何を対象とし、いつから効力を生じるとしているか |
株主総会の議事録や、決議の省略に関する同意の書面等は、株主が会社の営業時間内にいつでも閲覧・謄写を請求できます(会社法第318条第4項、第319条第3項)。取締役会の議事録は、権利を行使するため必要があるときに請求でき(同法第371条第2項)、監査役設置会社などでは裁判所の許可が必要です(同条第3項)。株主の権利と資料の入手方法の全体は「少数株主の権利と資料の確認」で整理しています。手元の資料は、原本と電子データ(作成日時などの情報を含むファイル)を加工せずに保存し、入手の日時と経路を記録します。過去の日付で議事録を作り直すことや、相手方の端末・アカウントへの無断のアクセスは、証拠の価値を損なうだけでなく別の法的な問題を生じさせるおそれがあり、避けてください。
提訴だけで役員の職務は止まらない
取消しや不存在確認の訴えを起こしても、それだけで、その決議で選任された役員の職務の執行や、決議の実行が止まるわけではありません。判決を待つ間に著しい損害や急迫の危険が生じるおそれがある場合は、取締役の職務執行停止や職務代行者選任の仮処分を別に検討します。
申立てでは、保全すべき権利関係と保全の必要性を明らかにし、疎明します(民事保全法(e-Gov法令検索)第13条)。仮の地位を定める仮処分は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるため必要があるときに発せられ(同法第23条第2項)、経営から外されたという不満だけで当然に認められるものではありません。原則として口頭弁論又は相手方が立ち会うことができる審尋の期日を経る必要があり(同条第4項)、担保(同法第14条)や職務代行者の報酬に充てる費用の予納を求められることもあります。役員の職務執行停止や職務代行者選任の仮処分命令が出された場合は、裁判所書記官の嘱託によりその旨が登記されます(同法第56条)。「職務執行停止等の仮処分に関する裁判所資料」(東京地方裁判所の記載例)も参考になりますが、担保の額、予納金、決定までの期間は事案や裁判所によって異なります。
神戸で相談・提訴する際の確認事項
取消し・無効確認・不存在確認の訴えは、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属します(会社法第835条第1項)。相談者の住所や法律事務所の所在地で決まるものではありません。管轄区域表では、例えば神戸市須磨区・垂水区は神戸地方裁判所(本庁)、神戸市西区と明石市は同裁判所明石支部の区域とされていますが、事件の種類や合議事件の取扱いによって提出先が異なる場合があるため、「兵庫県内の裁判所の管轄区域」とあわせて個別に確認します。神戸市内の会社の事件がすべて本庁に提起されるわけではありません。
請求を認容する判決が確定すると、第三者にも効力が及びます(同法第838条)。新株発行の無効の判決などには将来に向かってのみ効力を失う旨の規定(同法第839条)がありますが、総会の決議の取消し・無効確認・不存在確認の訴えは同条の対象とされていません。もっとも、それまでの役員の行為や第三者との取引がすべて当然に覆るわけではなく、行為ごとに検討が必要です。
よくある質問
3か月過ぎたら一切争えませんか。
招集通知の不備など取消事由だけを理由とする場合は、決議の日から3か月を過ぎると取消しは求められません。決議が存在しない場合や決議の内容が法令に違反する場合は、出訴期間の定めがないため確認の訴えを検討できますが、確認の利益が必要で、事情によっては訴権の濫用も問題となります。取消事由にとどまる瑕疵を「無効」「不存在」と言い換えても、期間の制限は免れません。
役員変更登記が済んでいたら決議は有効ですか。
登記がされていることと、決議が有効に存在することは別の問題です。基になった決議が実際にされたか、決議の省略の要件を満たすか、招集の権限がある者が招集したかを確認します。先行する選任決議が存在しない場合は、後の総会の決議に影響することもあります。
後から議事録に全員が押印すれば解決しますか。
押印を集めるだけで、総会が開かれなかったこと、開催への同意がなかったこと、招集の権限がなかったことを一括して解消できるわけではありません。決議の省略として扱えるかは、提案と、その事項について議決権を行使できる株主全員の書面又は電磁的記録による同意の有無で判断され、その場合も決議があったとみなされるのは全員の同意がそろった時です。過去の日付で議事録を作り直さず、適法な手続で改めて決議するかを検討します。
株主総会の紛争について相談する
決議をめぐる紛争では、期限の確認、争う決議の特定、仮処分の要否、是正の総会の可否を早い段階で整理することが重要です。予約の際は次の事項をお知らせください。資料が全部そろうのを待つ必要はありません。
- ご相談者の立場(株主、取締役・元取締役、会社など)と、会社名・相手方の名称
- 争いになっている決議の日と内容、次回の総会の予定日
- 役員変更の登記や資産の処分など、急いで対応すべき予定の有無
- ご相談の概要と、把握している期限
ご相談の前に利益相反の確認を行います。確認が済むまでは、議事録、株主名簿、決算書、メールのデータなどの資料をお送りにならないでください。同じ紛争で利害が対立する当事者の双方からご相談・ご依頼をお受けすることはできません。会社としてのご相談では、代表権そのものが争われていることがあるため、ご依頼の権限も確認します。予約の受付は法律相談の実施や事件の受任を意味せず、お問い合わせや予約によって訴えの期限が止まったり延びたりすることもありません。
ご相談の予約
顧問契約のない会社・株主・役員の方からの、株主総会の決議の効力をめぐるご相談にも対応しています。相談の方法と費用は、事前にご確認ください。
事務所・弁護士のご案内
弁護士法人ひょうご支所神戸みらい法律会計事務所
所属弁護士会:兵庫県弁護士会
株主総会の決議の効力をめぐる紛争を含め、企業法務のご相談をお受けしています。所属弁護士の氏名・資格・所属弁護士会は、所属弁護士の紹介でご確認いただけます。
参考資料・情報基準日
- 会社法(e-Gov法令検索)
- 会社法施行規則(e-Gov法令検索)
- 民事保全法(e-Gov法令検索)
- 最高裁判所第二小法廷昭和33年10月3日判決(昭和31年(オ)第396号)全文(PDF)
- 最高裁判所第三小法廷昭和44年12月2日判決(昭和43年(オ)第1144号)全文(PDF)
- 最高裁判所第一小法廷昭和45年8月20日判決(昭和44年(オ)第276号)全文(PDF)
- 最高裁判所第一小法廷昭和46年3月18日判決(昭和44年(オ)第89号)全文(PDF)
- 最高裁判所第二小法廷昭和51年12月24日判決(昭和48年(オ)第794号)全文(PDF)
- 最高裁判所第一小法廷昭和53年7月10日判決(昭和52年(オ)第1321号)全文(PDF)
- 最高裁判所第二小法廷昭和54年11月16日判決(民集33巻7号709頁)全文(PDF)
- 最高裁判所第二小法廷昭和60年12月20日判決(昭和58年(オ)第1567号)全文(PDF)
- 最高裁判所第三小法廷平成2年4月17日判決(昭和60年(オ)第1529号)全文(PDF)
- 最高裁判所第一小法廷平成4年10月29日判決(平成元年(オ)第605号)全文(PDF)
- 最高裁判所第一小法廷平成11年3月25日判決(平成10年(オ)第1183号)全文(PDF)
- 最高裁判所第三小法廷平成17年2月15日判決(平成15年(受)第995号)全文(PDF)
- 東京地方裁判所民事第8部「決議取消事由、決議無効事由、決議不存在事由の区分等一覧」(PDF)
- 東京地方裁判所民事第8部「記載例 総会決議取消し、不存在確認、無効確認の訴え」(PDF)
- 東京地方裁判所「取締役等の職務執行停止等の仮処分(記載例)」(PDF)
- 裁判所「兵庫県内の管轄区域表」
情報基準日:2026年10月14日
本記事は、情報基準日時点の法令と公表資料に基づく一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。具体的な結論は、会社の定款や機関設計、当時の事実関係によって異なります。

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