株主代表訴訟の進め方|会社法の要件と提訴請求・証拠の確認点 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|弁護士法人ひょうご支所神戸みらい法律会計事務所

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株主代表訴訟の進め方|会社法の要件と提訴請求・証拠の確認点

取締役による不適切な取引や会社財産の流出、利益相反取引、疑わしい会計処理、同族会社内の対立など、「役員に会社の損害を賠償させたい」と考える場面があります。こうした場面で検討されるのが、株主代表訴訟(会社法上の「責任追及等の訴え」)です。

株主代表訴訟は、会社が本来役員等に対して有している責任追及の権利を、一定の要件を満たす株主が会社のために行使する手段です。もっとも、株主資格や対象となる役員、任務懈怠や会社の損害、証拠、提訴請求の手続を誤ると、訴訟を進められないこともあります。

この記事では、株主代表訴訟を検討している株主、中小企業や同族会社の少数株主、会社側で提訴請求を受けた担当者の方に向けて、提訴請求の前に確認しておきたい要件や流れ、集めるべき資料を、会社法の条文を確認しながら整理します。個別の事情により結論は異なりますので、最終的な見通しは資料を確認したうえで判断する必要があります。

この記事で分かること:

  • 株主代表訴訟の基本的な仕組みと、株主個人の損害賠償請求との違い
  • 役員のどのような行為が責任追及の対象になりやすいか
  • 株主代表訴訟を起こせる株主の要件(公開会社・非公開会社の違い)
  • 提訴請求から訴訟提起までの流れと、六〇日間の意味
  • 提訴前に準備しておきたい証拠・資料
  • 費用・管轄・裁判手続の考え方と、弁護士に相談するタイミング

提訴請求の前に、要件と証拠を整理しておきたい方へ

株主資格や対象となる役員、会社の損害との関係は、事案ごとに確認すべき点が異なります。ご相談いただくことで、現時点の資料で何が確認でき、次に何を準備すべきかを整理できます。

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株主代表訴訟でまず確認したい結論

株主代表訴訟を検討するとき、はじめに押さえておきたい点は次のとおりです。

  • 株主本人が賠償金を受け取る訴訟ではありません。勝訴した場合でも、賠償金は会社に支払われます。
  • 原則として、いきなり訴訟は起こせません。まず会社に対して役員等への訴え提起を求める「提訴請求」を行い、会社が一定期間に提訴しない場合に、株主が会社のために訴えを提起できます。
  • 確認すべき要素が複数あります。株主資格、対象となる役員、任務懈怠などの責任原因、会社の損害、両者の因果関係、そして証拠です。
  • 経営判断の失敗だけで当然に責任が認められるわけではありません。役員の判断の前提や過程に著しく不合理な点があったかなどが検討されます。

これらは事案により結論が変わります。具体的な見通しは、株主名簿・定款・登記事項証明書・議事録・計算書類などの資料を確認したうえで判断する必要があります。下表は、提訴を検討する際に確認しておきたい要件の全体像です。

確認項目 確認する内容 注意点
株主資格 提訴請求の時点で株主か。公開会社では原則として六か月前から引き続き株式を保有しているか 非公開会社(全株式譲渡制限)では保有期間の要件はありません(会社法八四七条二項)
対象となる役員等 取締役・監査役・会計参与・執行役・会計監査人のほか、発起人・設立時取締役・設立時監査役・清算人 退任した役員も対象となり得ます。条文上の「役員等」の範囲を確認します
責任の原因 任務懈怠、善管注意義務違反、忠実義務違反、法令・定款違反、利益相反取引、競業取引、違法配当など 行為の種類により確認すべき資料が異なります
会社の損害 役員の行為により会社に生じた損害の有無と金額 損害額の算定には会計資料の確認が必要になる場合があります
因果関係・故意過失 役員の行為と会社の損害との関係、役員の認識や落ち度 経営判断の失敗のみでは責任が認められないことがあります
提訴請求の手続 会社への提訴請求を行ったか。請求から原則六〇日が経過したか 宛先は会社の機関設計により異なります(会社法八四七条、会社法施行規則二一七条)
費用・管轄 裁判手数料は原則一律。管轄は会社の本店所在地を管轄する地方裁判所 弁護士費用は事案により異なります(会社法八四八条)

株主代表訴訟とは

株主代表訴訟は、会社法では「責任追及等の訴え」と呼ばれる制度です(会社法八四七条以下)。役員等が会社に損害を与えた場合、その責任を追及するかどうかは、本来は会社(取締役や監査役など)が判断します。しかし、責任を追及する側も追及される側も同じ経営陣であることが多く、なれ合いで責任追及が行われないおそれがあります。そこで会社法は、一定の要件を満たす株主が、会社に代わって役員等の責任を追及する訴えを起こせることとしています。

株主本人ではなく会社のための訴訟

株主代表訴訟で勝訴し、役員に賠償が命じられた場合、その賠償金は会社に支払われます。株主個人が直接金銭を受け取るわけではありません(判決の効力は会社にも及びます)。株主が自分自身の損害の賠償を求める場合は、役員等の第三者に対する責任(会社法四二九条)など、別の制度を検討することになります。

ほかの手段との違い

株主代表訴訟は、株主個人の損害賠償請求、株主総会決議の取消しを求める訴え、役員の解任を求める訴え、会計帳簿の閲覧謄写請求などとは目的が異なります。役員に会社への賠償をさせたいのか、決議の効力を争いたいのか、役員を退任させたいのかによって、選ぶべき手続は変わります。どの手段が適しているかは、事案により異なります。

役員のどのような責任を追及できるか

株主代表訴訟で中心となるのは、役員等の任務懈怠責任です。役員等は、その任務を怠って会社に損害を与えたときは、会社に対して損害を賠償する責任を負います(会社法四二三条一項)。役員等と会社の関係は委任に関する規定に従い(会社法三三〇条、民法六四四条)、役員等は善良な管理者の注意をもって職務を行う義務(善管注意義務)を負います。取締役は、法令・定款・株主総会の決議を守り、会社のため忠実に職務を行う義務(忠実義務)も負います(会社法三五五条)。

責任の有無は要素ごとに検討する

責任が認められるためには、一般に、任務懈怠(義務違反)、会社の損害、両者の因果関係、役員の故意または過失などが問題になります。これらは行為ごと・事案ごとに検討する必要があり、「会社に損害が出た」というだけで当然に責任が認められるわけではありません。

経営判断の原則

取締役の経営上の判断については、判断の前提となった事実の認識に不注意な誤りがなく、判断の過程・内容に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務違反とはならないと考えられています(一般に「経営判断の原則」と呼ばれます)。そのため、結果的に事業がうまくいかなかったというだけでは、責任追及は難しい場合があります。どの程度の不合理性があれば責任が認められるかは、事案により異なります。

責任追及の対象になりやすい行為と、確認しておきたい資料の例は次のとおりです。

問題となる行為 主な確認資料 注意点
利益相反取引(役員と会社の利益が相反する取引) 取締役会議事録、稟議書、契約書、取締役会の承認の有無を示す資料 取締役会等の承認や任務懈怠の推定に関する規定があり、確認が必要です(会社法三五六条、三六五条、四二三条三項)
競業取引(会社の事業と競合する取引) 取締役会議事録、取引先との契約書、売上・利益の資料 損害額の推定に関する規定があります(会社法三五六条、三六五条、四二三条二項)
違法配当(分配可能額を超える剰余金の配当) 計算書類、株主総会・取締役会議事録、分配可能額の計算資料 分配可能額の算定と関係者の責任の確認が必要です(会社法四六一条、四六二条)
会社財産の流出・不明確な支出 会計帳簿、送金記録、請求書、領収書、決裁資料 使途や対価の有無、役員の関与を確認します
不適切な会計処理 計算書類、会計帳簿、附属明細書、監査関係資料 会計上・税務上の処理の当否の検討が必要になる場合があります
内部統制・監視義務に関する問題 取締役会議事録、社内規程、報告体制を示す資料 体制の構築・運用状況や、他の役員の認識の有無を確認します

株主代表訴訟を起こせる株主の要件

株主代表訴訟(提訴請求)を行うには、株主側にも要件があります。中心となるのは株式の保有に関する要件です。

公開会社の場合

公開会社(発行する株式の全部または一部について譲渡制限を定めていない会社)では、原則として、提訴請求の六か月前から引き続き株式を有する株主であることが必要です(会社法八四七条一項)。この「六か月」は、定款でこれより短い期間を定めることができます。保有する株式数についての制限はなく、一株でも保有していれば請求できると考えられています。

非公開会社(全株式譲渡制限会社)の場合

すべての株式に譲渡制限が付された非公開会社では、この六か月の保有期間の要件は適用されません(会社法八四七条二項)。中小企業や同族会社の多くはこの非公開会社に当たるため、保有期間にかかわらず、株主であれば提訴請求を検討できる場合があります。自社が公開会社か非公開会社かは、定款や登記事項証明書で確認します。

注意したい点

  • 単元未満株主:単元株制度を採用している会社では、単元未満株主が提訴請求できないことを定款で定めている場合があります(会社法八四七条一項、一八九条二項)。
  • 目的による制限:その株主や第三者の不正な利益を図る目的、または会社に損害を加える目的がある場合は、提訴請求はできません(会社法八四七条一項ただし書)。
  • 訴訟中の株主資格:訴えを提起した後も、原則として訴訟が続く間は株主であることが必要です。途中で全株式を手放すと、原告としての資格を欠くと判断されることがあります。

株式の取得時期や保有状況は、株主名簿記載事項証明書などで確認しておくとよいでしょう。

グループ会社・組織再編がある場合

完全親会社の株主が子会社の役員の責任を追及する「多重代表訴訟」(特定責任追及の訴え)や、株式交換・合併などの後に旧株主が責任追及を行う「旧株主による責任追及等の訴え」など、通常の株主代表訴訟とは別の制度が問題になる場合があります(会社法八四七条の二、八四七条の三)。これらには固有の要件があるため、グループ会社や組織再編が関係する場合は、個別に確認する必要があります。

提訴請求から訴訟提起までの流れ

株主代表訴訟は、原則として、次の順序で進みます。いきなり訴訟を起こすのではなく、まず会社に責任追及を促す点が特徴です。

段階 行うこと 確認すべき資料・期限
①事前の調査・整理 対象となる役員、問題となる行為、会社の損害、証拠を整理する 議事録、計算書類、会計帳簿、契約書、送金記録など
②提訴請求 会社に対し、役員等への訴え提起を書面等で請求する 宛先(機関設計により異なる)、記載事項(会社法施行規則二一七条)。送付日・到達日を記録
③会社の検討期間 会社が提訴するかどうかを検討する 原則として請求の日から六〇日(会社法八四七条三項)
④(会社が提訴しない場合)不提訴理由通知の請求 会社に対し、提訴しない理由の通知を求める 通知の記載事項(会社法施行規則二一八条)
⑤株主による訴訟提起 会社が六〇日以内に提訴しない場合、株主が会社のために提訴する 訴状、証拠。管轄は本店所在地の地方裁判所(会社法八四八条)
(例外)回復困難な損害のおそれ 六〇日の経過により会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合は、直ちに提訴できる 時効の完成が迫っている場合など(会社法八四七条五項)

この「六〇日」は、会社に検討の機会を与えるための期間です。提訴請求の到達日から起算されるため、いつ会社に到達したかを記録しておくことが重要です。

提訴請求書に記載すべき内容

提訴請求は、書面または法務省令で定める電磁的方法によって行います(会社法八四七条一項)。会社法施行規則では、提訴請求の書面に次の事項を記載することとされています(会社法施行規則二一七条)。

  • 被告となるべき者(責任を追及する役員等)
  • 請求の趣旨および請求を特定するのに必要な事実

宛先は会社の機関設計によって変わる

提訴請求の宛先は、会社を代表する権限のある者とする必要があり、これは会社の機関設計によって変わります。たとえば監査役設置会社では、取締役を相手とする提訴請求は監査役に対して行う必要があります(会社法三八六条二項一号)。監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社では、それぞれ監査等委員・監査委員が窓口となるなど、扱いが異なります。宛先を誤ると、適法な提訴請求と認められないおそれがあるため、自社の機関設計を確認したうえで判断する必要があります。

送付方法と証拠化

提訴請求を行った事実と日付を後から示せるよう、配達証明付きの内容証明郵便などで送付し、到達日を記録しておくことが考えられます。請求の趣旨や特定に必要な事実の書き方によって、後の訴訟での争点にも影響し得るため、書面の内容は慎重に検討する必要があります。

提訴請求書の作成や六〇日間の対応に不安がある場合

提訴請求の宛先は会社の機関設計によって異なり、記載すべき事項にも注意が必要です。書面の内容や期間管理について、企業法務を取り扱う弁護士に相談することで、手続の見通しを整理できます。

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会社が提訴しない場合の対応

会社が提訴請求の日から六〇日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、提訴請求をした株主が、会社のために自ら訴えを提起できます(会社法八四七条三項)。

不提訴理由通知の請求

会社が六〇日以内に提訴しない場合、提訴請求をした株主や、被告となるべき役員等から請求があれば、会社は遅滞なく、提訴しない理由を書面等で通知しなければなりません(会社法八四七条四項)。通知には、会社が行った調査の内容、対象者の責任の有無についての判断とその理由、責任があると判断したのに提訴しない場合はその理由を記載することとされています(会社法施行規則二一八条)。この通知の内容は、会社の判断の根拠を知る手がかりになり、その後の対応を検討する材料になります。

回復することができない損害のおそれがある場合

六〇日の経過を待っていると会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合(たとえば時効の完成が迫っている場合など)には、株主は六〇日を待たずに直ちに訴えを提起できます(会社法八四七条五項)。ただし、不正な利益を図る目的などがある場合は認められません。この例外に当たるかどうかは慎重な判断が必要であり、資料を確認したうえで検討する必要があります。

会社側(提訴請求を受けた側)の対応

会社として提訴請求を受けた場合は、主張されている役員の行為や会社の損害について、社内資料の確認や関係者への聞き取りなどの調査を行い、提訴するかどうかを検討することになります。提訴しないと判断する場合でも、不提訴理由通知の請求に備える必要があります。役員側・会社側のいずれの立場でも、早い段階で資料を整理しておくことが重要です。

株主代表訴訟の費用・管轄・裁判手続

裁判手数料

株主代表訴訟(責任追及等の訴え)は、訴訟の目的の価額(訴額)の算定上、財産権上の請求でない請求に係る訴えとみなされます(会社法八四七条の四第一項)。この結果、請求する金額にかかわらず訴額は一六〇万円とみなされ、提訴時の裁判手数料は原則として一律一三、〇〇〇円となります(民事訴訟費用等に関する法律)。高額の賠償を求める場合でも、手数料が訴額に応じて増えない点が、この制度の特徴です。なお、弁護士費用は事案により異なります(弁護士費用を確認する)。

管轄裁判所

責任追及等の訴えは、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄とされています(会社法八四八条)。本店所在地は登記事項証明書で確認できます。なお、東京地方裁判所など一部の裁判所には商事事件を扱う専門部が置かれています。

民事訴訟手続のデジタル化(令和八年五月二一日〜)

令和八年(二〇二六年)五月二一日に改正民事訴訟法が全面施行され、民事訴訟手続のオンライン化が始まっています。弁護士などの訴訟代理人による申立てはオンラインで行うことが原則となり、申立手数料は電子納付(ペイジー等)が原則化されました。これまで手数料とは別に納めていた送達のための郵便費用は申立手数料に一本化され、別途の予納が不要になっています。オンライン申立てを利用する場合の手数料の取扱いなど、最新の運用は裁判所の公式情報で確認してください。

担保提供命令

株主が起こした訴えが悪意によるものであることを被告(役員等)が疎明した場合、裁判所は、被告の申立てにより、原告の株主に相当の担保を立てるよう命じることがあります(会社法八四七条の四第二項・第三項)。提訴を検討する際は、こうした申立てがあり得ることも踏まえておく必要があります。

訴訟告知・参加・和解・取下げ

株主が訴えを提起したときは、遅滞なく会社に訴訟告知をする必要があり(会社法八四九条四項)、会社や他の株主が訴訟に参加することもあります。和解や取下げにも会社法上の規律があり、会社が和解の当事者でない場合の手続などが定められています(会社法八五〇条など)。

勝訴した場合の費用・賠償金

株主が勝訴(一部勝訴を含む)した場合、訴訟に関して支出した必要な費用や、弁護士に支払うべき報酬のうち相当と認められる額を、会社に対して請求できます(会社法八五二条一項)。一方で、役員に命じられた賠償金は会社に帰属し、株主個人が受け取るものではありません。なお、敗訴した場合でも、悪意があったときを除き、株主が会社に対して損害賠償責任を負うわけではありません(会社法八五二条二項)。

提訴前に準備すべき資料

提訴請求や訴訟提起を検討する際には、株主資格を示す資料と、役員の行為・会社の損害を示す資料の両方が必要になります。次の表は、相談前に準備しておきたい資料の例です。すべてがそろっていなくても、現時点の資料をもとに何が確認できるかを整理することができます。

資料 確認する内容 入手方法・注意点
株主名簿記載事項証明書・株式取得を示す資料 株主であること、取得時期、保有株式数 会社に交付を請求します。保有期間の要件の確認に使います
定款 公開会社か非公開会社か、単元株の定めなど 会社で保管。要件の判断に必要です
登記事項証明書 役員構成、本店所在地(管轄)、機関設計 法務局で取得できます
株主総会・取締役会・監査役会の議事録 問題となる取引の決議や承認の有無、役員の関与 会社で保管。閲覧謄写を請求できる場合があります
計算書類・事業報告・附属明細書 会社の財務状況、配当、損害の有無 会計上の数値の確認に使います
会計帳簿 個別の取引、送金、支出の内容 一定の要件を満たす株主は会計帳簿の閲覧謄写を請求できます(会社法四三三条)
契約書・稟議書・決裁資料 取引の内容、対価、社内手続 役員の関与や任務懈怠の有無の検討に使います
送金記録・請求書・領収書・会計データ 資金の流れ、対価の有無 会社財産の流出の有無の確認に使います
提訴請求書(案)・送付記録・不提訴理由通知 提訴請求の内容、到達日、会社の判断 手続の経過を示す資料として保管します

会計帳簿や計算書類の分析が必要な事案では、会計の視点も踏まえて損害や取引内容を整理することが、争点の見通しを立てるうえで役立つ場合があります。

よく問題になるケース

同族会社・非公開会社での対立

中小企業や同族会社では、一部の親族が経営を握り、少数株主が経営から事実上排除されている、という対立が背景にあることがあります。この場合、まず会計帳簿の閲覧謄写請求などで資料を集め、役員の行為と会社の損害を確認したうえで、提訴請求を検討する流れになることが多いといえます。資料が会社側にあるため、どの資料をどの順序で求めるかが重要になります。

役員の行為と会社の損害の関係が整理できていない

「役員のやり方に問題がある」と感じていても、具体的にどの行為が、どのような損害を会社に与えたのかが整理できていないことがあります。任務懈怠、損害、因果関係を切り分けて検討しないと、提訴請求や訴訟で主張を特定できません。

会社側として提訴請求を受けた

会社や役員の立場で提訴請求を受けた場合は、主張されている行為や損害について調査を行い、提訴するか、不提訴とするかを検討する必要があります。不提訴とする場合の理由通知の内容も、後の訴訟を見据えて検討することになります。

いずれのケースでも、結論は資料の内容により異なります。早めに資料を整理し、見通しを確認しておくことが大切です。

弁護士に相談するタイミング

株主代表訴訟は、要件・手続・証拠の検討が必要な手続です。次のような場面では、企業法務を取り扱う弁護士に相談することで、手続の見通しや対応の方針を整理しやすくなります。相談は、結果を保証するものではなく、現状で何が確認でき、次に何をすべきかを整理するためのものです。

  • 提訴請求書を送る前に、宛先や記載事項、証拠を確認したいとき
  • 役員の行為と会社の損害の関係を整理したいとき
  • 株主資格や保有期間に不安があるとき
  • 証拠が不足しており、どの資料をどう集めるか検討したいとき
  • 会社から不提訴理由通知を受け、その後の対応を考えたいとき
  • 訴訟提起、和解、取下げ、担保提供命令などのリスクを確認したいとき
  • 同族会社・非公開会社で少数株主間の対立があるとき
  • 役員側・会社側として提訴請求を受けたとき

継続的な助言が必要な場合は法律顧問(顧問契約)を、関連する企業法務についてはその他の企業法務の取扱いをご覧ください。会計帳簿や計算書類の分析、損害額の検討が必要な事案では、会計の視点も踏まえて整理することが役立つ場合があります。

よくある質問

株主代表訴訟とは何ですか?

会社が役員等に対して有する責任追及の権利を、一定の要件を満たす株主が会社のために行使する制度です(会社法上の「責任追及等の訴え」)。勝訴した場合の賠償金は会社に支払われ、株主個人が受け取るものではありません。

株主なら誰でも株主代表訴訟を起こせますか?

いいえ。公開会社では原則として提訴請求の六か月前から引き続き株式を保有していることが必要です(会社法八四七条一項)。非公開会社ではこの保有期間の要件はありません(同条二項)。また、不正な利益を図る目的などがある場合は請求できません。

会社に提訴請求をせずに、いきなり訴訟を起こせますか?

原則としてできません。まず会社に対して役員等への訴え提起を請求し、会社が原則六〇日以内に提訴しない場合に、株主が会社のために提訴できます(会社法八四七条三項)。ただし、回復することができない損害が生ずるおそれがある場合は、直ちに提訴できる例外があります(同条五項)。

株主代表訴訟で勝訴した場合、株主が賠償金を受け取れますか?

いいえ。役員に命じられた賠償金は会社に支払われます。株主は、勝訴した場合に支出した必要な費用や弁護士報酬のうち相当額を会社に請求できますが(会社法八五二条一項)、賠償金そのものを受け取るわけではありません。

取締役の経営判断が失敗しただけで責任追及できますか?

結果として事業がうまくいかなかったというだけでは、責任追及は難しい場合があります。判断の前提や過程に著しく不合理な点があったかなどが検討されます(経営判断の原則)。責任の有無は事案により異なり、資料を確認したうえで判断する必要があります。

提訴請求書には何を書けばよいですか?

被告となるべき者(責任を追及する役員等)と、請求の趣旨および請求を特定するのに必要な事実を記載します(会社法施行規則二一七条)。宛先は会社の機関設計により異なるため、注意が必要です。

株主代表訴訟の費用はどの程度ですか?

提訴時の裁判手数料は、請求金額にかかわらず原則として一律一三、〇〇〇円です(会社法八四七条の四第一項ほか)。弁護士費用は事案により異なります。なお、令和八年五月二一日以降は、申立手数料の電子納付が原則化され、郵便費用は手数料に一本化されています。

会社側として提訴請求を受けた場合はどうすべきですか?

主張されている役員の行為や会社の損害について調査を行い、提訴するかどうかを検討します。提訴しない場合でも、不提訴理由通知の請求に備える必要があります(会社法八四七条四項、会社法施行規則二一八条)。早めに資料を整理し、対応方針を検討することが重要です。

まとめ

  • 株主代表訴訟は、会社が役員等に対して有する責任追及の権利を、一定の要件を満たす株主が会社のために行使する制度です。勝訴しても賠償金は会社に帰属します。
  • 公開会社では原則六か月の保有期間が必要ですが、非公開会社(多くの中小企業・同族会社)では保有期間の要件はありません。
  • 原則として、まず会社に提訴請求を行い、原則六〇日以内に会社が提訴しない場合に株主が提訴できます。回復困難な損害のおそれがある場合の例外もあります。
  • 提訴請求書の宛先は機関設計により異なり、記載事項にも注意が必要です。
  • 裁判手数料は原則一律で、管轄は本店所在地の地方裁判所です。令和八年五月二一日以降の手続のデジタル化にも留意します。
  • 株主資格、役員の行為、会社の損害、因果関係、証拠を整理したうえで、提訴請求前に弁護士に相談することで見通しを整理できます。

次の行動としては、まず株主名簿・定款・登記事項証明書・議事録・計算書類などの資料を確認し、役員の行為と会社の損害の関係を整理することをおすすめします。企業法務に関する他の解説は企業法務コラムの一覧もご覧ください。

株主代表訴訟をご検討の方、提訴請求を受けた会社の方へ

役員の行為、会社の損害、因果関係、証拠の有無を具体的に確認したうえで、提訴請求や訴訟提起、和解、取下げなどの方針を整理することが重要です。会計帳簿や計算書類の分析が必要な事案にも対応しています。まずはお手元の資料をご確認のうえ、ご相談ください。

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監修者・執筆者

藤井 貴之(ふじい たかゆき)
弁護士・公認会計士/兵庫県弁護士会所属
神戸みらい法律会計事務所 代表

会社法に関する紛争や企業法務、相続、会計・税務が関係する案件などに対応しています。株主代表訴訟のように、会計帳簿や計算書類の分析、損害額の検討が必要となる事案では、法律と会計の双方の視点から整理することを心がけています。

ご相談・お問い合わせは、神戸みらい法律会計事務所(兵庫県神戸市須磨区中落合二丁目二-五 名谷センタービル七階/電話 078-797-5227/受付時間 九:〇〇〜二〇:〇〇)まで。弁護士紹介ページを見る

参考資料

本記事は一般的な情報を提供するものであり、個別の事案についての法的助言ではありません。法令・手続の最新の内容は、上記の公的機関の情報で確認してください。具体的な対応は、事案により異なります。


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