交通事故で重い後遺障害が残ったご家族から、「保険会社に、公的な給付を受けている分は賠償金から全部引くと言われた」「まだ受け取っていない将来の年金や介護サービスの分まで、将来介護費から引かれている」というご相談をいただくことがあります。反対に、「賠償金を受け取ったら年金を返さなければならないのか」「申請しない方が賠償金は多くなるのか」と迷われる方もいらっしゃいます。
結論から申し上げると、差し引かれるかどうかは制度ごとに、しかも「すでに支払われた分か」「これから受ける分か」で結論が変わります。「公的給付だから引かれる」「福祉のためのお金だから引かれない」という一律の整理はできません。さらに、賠償金から差し引く(控除)という話と、給付する側が支給を止めたり返還を求めたりする話と、制度どうしの併給調整の話は、それぞれ別の問題です。
この記事では、NASVA(独立行政法人自動車事故対策機構)の介護料、障害基礎年金・障害厚生年金、労災保険の給付、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスについて、これらの区別を前提に、将来介護費との関係、申請や示談の前に確認しておきたい資料と手順を整理します。
提示された示談案の「控除」欄が、どの給付を、どの損害項目から、どの期間について差し引いたものかを読み解くには、給付側の通知と賠償側の計算書を並べて照合する必要があります。資料をご用意のうえご相談いただければ、控除の当否と今後の手続について方針を整理できます。
公的給付は賠償金から差し引かれるのか
この分野で混乱が起きやすい最大の原因は、「控除」という一語が、まったく違う二つの場面で使われていることです。加害者側が支払う損害賠償額から差し引くという意味の控除と、公的な制度の側がその分の給付を行わないという意味の控除は、判断する主体も根拠も別です。
控除と支給停止・返還、制度間調整を分ける
ご相談の内容を整理するときは、次の五つの問題を分けて考えます。どの問題についての話なのかが決まらないまま議論すると、結論を取り違えます。
- 賠償額からの控除(損益相殺的な調整) 加害者や保険会社に請求する損害賠償額から、受け取った給付の額を差し引くかどうかという問題です。最終的な判断は裁判所が行い、示談交渉では当事者の合意で決まります。
- 制度側の求償・代位 給付を先に行った国や市町村が、その価額の限度で損害賠償請求権を取得し、加害者側へ直接請求する仕組みです。被害者が保険会社から受け取る額はその分だけ減りますが、被害者が役所へ返すわけではありません。
- 賠償が先行した場合の不支給・支給停止 先に損害賠償を受け取ったときに、制度の側がその価額の限度で給付を行わない、あるいは一定期間止めるという扱いです。
- 返還・回収 すでに支給された給付について、返還を求められる場合です。根拠となる規定と対象期間は制度ごとに異なります。
- 制度どうしの併給調整 NASVA、労災保険、年金、介護保険、障害福祉サービスの相互の関係です。これは賠償の話とは関係なく、制度側だけで決まります。
この節の要点
- 「賠償金から引かれない給付」であっても、制度の側で支給の条件が付いていることがあります。逆に、制度どうしは併用できても、賠償金からは差し引かれる給付もあります。
- 保険会社の説明が「控除」という語だけで書かれているときは、賠償額から差し引く意味なのか、制度側が給付しない意味なのかを確認してください。
給付の種類と対象期間から確認する
検討は、おおむね次の順序で進めます。これは確認の手順であって、すべての制度に共通する計算式ではありません。期間の対応関係や控除の範囲は、最後に制度ごとの根拠と裁判例に戻って判断します。
- 給付の正式名称と支給主体を特定する(「労災」「障害福祉」といったまとめ方をしない)。
- 今回の事故・傷害と同一の事由による給付かどうかを確認する(事故前からの受給、別原因による給付は別問題です)。
- 誰が受給権者で、誰のどの損害を補う制度かを確認する。
- 治療費、休業損害、逸失利益、すでに要した介護費、将来介護費、慰謝料のどの項目に対応するかを確認する。
- すでに支払われた額、支給が具体的に確定した未払額、将来の未確定分、申請中・申請予定のものを分ける。
- 対応する期間、支給と賠償の先後関係、求償や返還の処理状況を確認する。
- 制度間の調整を経た後の金額と、賠償側ですでに控除された金額を照合する。
| 制度・給付の種類 | 賠償上の調整の要点 | 将来分についての注意 | 給付側の確認先 |
|---|---|---|---|
| NASVA介護料 | 介護費用の自己負担を補う実費補填型の給付です。控除の可否を直接判断した最高裁判例は確認できませんでした。他制度の判例をそのまま当てはめることはできません。 | すでに受け取った分と今後受け取る見込みの分を分けます。支給は申請した月から始まり、遡って支給されません。 | NASVAの支所 |
| 障害基礎年金・障害厚生年金 | 後遺障害による逸失利益の元本と調整すべきものとされています(最高裁平成22年9月13日第一小法廷判決)。将来介護費や慰謝料から当然に差し引かれるものではありません。 | 裁判では、支給を受けることが確定した額の限度で調整されます。受給権があることだけを理由に生涯分を差し引くことはできません。 | 年金事務所 |
| 労災保険の療養・休業に関する給付 | 治療費等の療養に要する費用、休業損害の元本と調整されます(同判決)。 | 行政上の支給調整には対象期間の定めがあります。適用は労働基準監督署に確認してください。 | 労働基準監督署 |
| 労災保険の障害に関する給付 | 身体障害により喪失又は減少して得ることができなくなった利益に対応します(厚生労働省「第三者行為災害のしおり」)。 | 年金として支給される給付は、支給が確定した分と将来分の区別が必要です。 | 労働基準監督署 |
| 労災保険の介護に関する給付 | 介護費用に対応します(同しおり)。介護費との関係で調整が問題になります。 | 請求権の時効は行使できる時から2年です(労働者災害補償保険法第42条第1項)。 | 労働基準監督署 |
| 労災保険の特別支給金 | 保険給付ではなく社会復帰促進等事業として支給されるため、行政上の支給調整の対象とされていません(同しおり)。 | 振込額の合計をそのまま控除する計算になっていないかを確認します。 | 労働基準監督署 |
| 障害福祉サービス(自立支援給付) | 障害者総合支援法には、第三者行為による損害賠償請求権の取得や賠償先行時の支給調整を定めた規定が置かれていません。将来分の控除を直接判断した裁判例は確認できませんでした。 | 現在の利用実績、支給決定の内容と有効期間、変更の可能性を資料で示す必要があります。 | 区役所保健福祉部 |
| 介護保険の介護給付 | 市町村が給付の価額の限度で損害賠償請求権を取得し、賠償が先行したときは給付の責めを免れます(介護保険法第21条)。 | 求償の処理が済んでいるかどうかで賠償側の計算が変わります。 | 市町村の介護保険担当課 |
NASVA介護料と賠償金の関係
介護料は、独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)が、自動車事故で重度の後遺障害が残った方の介護に要する費用の負担を支えるために支給するものです。根拠は独立行政法人自動車事故対策機構法第13条第4号と、これに基づく介護料支給業務実施規程(平成15年機構規程第23号。最終改正令和7年4月4日)です。自賠責の後遺障害等級が支給の入口になっている点で関係はありますが、自賠責保険から支払われる保険金とは別の制度です。
賠償上の控除とNASVA側の支給条件
介護料は、その月の介護に要した費用として自己負担した額に応じ、種別ごとの範囲内で支給されます。自己負担額が下限額に満たない場合は下限額が支給されます。支払いは3月、6月、9月、12月の年4回で、各支給月前の3か月分がまとめて支給されます。
| 種別 | 対象となる方の概要 | 月額の範囲 |
|---|---|---|
| 最重度(特Ⅰ種) | 常時要介護の方のうち、脳損傷では自力移動・自力摂食が不可能で屎尿失禁状態にあるなど、機構の定める要件を満たす方 | 9万9810円から22万6330円まで |
| 常時要介護(Ⅰ種) | 自動車損害賠償保障法施行令別表第一の第1級1号又は第1級2号に認定された方 | 8万5390円から17万7950円まで |
| 随時要介護(Ⅱ種) | 同別表第一の第2級1号又は第2級2号に認定された方 | 4万2700円から8万8980円まで |
自賠責保険等による後遺障害等級の認定を受けていない方でも、これと同程度の障害を受けたと認められ、事故後18か月以上が経過して症状が固定したと認められる場合は、機構所定の重度後遺障害診断書による審査を経て受給資格の有無が決定されます。単独事故の方も対象になり得ます。後遺障害等級そのものの考え方は、脊髄損傷の後遺障害等級の記事を読むでも整理しています。
この介護料を民事の損害賠償額から差し引けるかどうかについて、NASVA介護料を直接判断した最高裁判例は、今回の調査では確認できませんでした。他の制度についての判例を、NASVAについて判断したものとして紹介することはできません。実務上は、実費の補填を目的とする給付であることや、機構法・実施規程に第三者への求償に関する規定が見当たらないことが議論の材料になります。もっとも、求償規定がないことは「制度側が賠償請求権を取得しない」ことを意味するにとどまり、そのことだけで民事上の控除が否定されると決めつけることはできません。すでに受け取った分と今後受け取る見込みの分を分けたうえで、主張と反論を組み立てる必要があります。
賠償金を受け取ったことそれ自体は、介護料の支給停止事由としても返還事由としても定められていません。実施規程が定める支給停止事由は所得によるもので、受給資格者本人・配偶者・生計を維持する扶養義務者のうち前年の年間所得額(所得税法第22条に規定する総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額)が最も多い方の額が1000万円を超えると認められる年は、その年の9月から翌年8月までは支給されません(第9条)。返還等の根拠は、規程に違反したとき、又は偽りその他不正の手段により支給を受けていたことが判明したときです(第21条)。もっとも、受給資格の変更や届出事項に該当する事実が生じたときは、速やかに異動届を提出する必要があります(第11条)。届出を怠ったまま受給を続けると、規程違反として扱われる可能性があります。
労災・介護保険・障害福祉と併用するとき
機構の案内は、次のいずれかに該当する場合は支給できないとしています。ここで挙げられているのは「介護に関する給付」であって、労災保険の給付を受けていること全般ではありません。
- 機構が設置した療護施設に入院したとき。
- 法令に基づき重度の障害を持つ方を収容することを目的とした施設に入所したとき(特別養護老人ホームなど)。
- 病院又は診療所に入院したとき。ただし、家族による介護の事実がある場合を除きます。
- 労働者災害補償保険法など他法令の規定による介護補償給付又は介護給付を受けたとき。
- 介護保険法の規定による介護給付を受けたとき。
したがって、労災保険から障害補償年金を受けていること自体は、介護料の不支給事由として挙げられていません。不支給事由とされているのは、労災保険の介護補償給付又は介護給付を受けたときです。この二つを同じものとして扱うと、受けられるはずの給付を受けないまま時間が経ってしまうおそれがあります。
障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの利用は、機構の案内する不支給事由には挙げられていません。ただし、介護料の対象となる「介護に要した費用の額」からは、同法第6条に規定する自立支援給付に伴い自己負担した額と、同法第77条第1項第6号に規定する日常生活上の便宜を図るための用具の給付に伴い自己負担した額が除かれます(実施規程第15条第1号ただし書)。つまり、「障害福祉サービスを使うと介護料をいっさい受けられない」わけでも、「障害福祉サービスの自己負担額をそのまま介護料の対象費用に上乗せできる」わけでもありません。なお、親族によるサービス提供は介護料の支給対象とされていません。
障害年金は何の損害から控除されるのか
逸失利益と介護費・慰謝料を区別する
障害年金を「介護のためのお金」として扱い、将来介護費から差し引くという説明を受けることがありますが、これは制度の趣旨に沿った整理ではありません。
最高裁判所は、通勤途上の交通事故で後遺障害が残った事案について、社会保険給付は制度の趣旨目的に従って特定の損害の必要額を補填するために支給されるものであるから、その補填の対象となる特定の損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する損害の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきであるとしました。そのうえで、労災保険法に基づく療養給付は治療費等の療養に要する費用の元本と、休業給付は休業損害の元本と、労災保険法に基づく障害年金・国民年金法に基づく障害基礎年金・厚生年金保険法に基づく障害厚生年金は「後遺障害による逸失利益の元本」との間で調整すべきであると判断しています(最高裁平成20年(受)第494号・第495号、平成22年9月13日第一小法廷判決)。
この判決では、損害項目として付添看護関係費や家屋改造費も認定されていますが、年金給付が調整されたのは逸失利益です。障害年金が将来介護費や慰謝料から当然に差し引かれるものではないことは、この枠組みからも読み取れます。示談案で障害年金が将来介護費の欄から控除されているときは、どの損害項目に対応するものとして計算されているかを確認してください。損害項目ごとの考え方は、後遺障害逸失利益の計算方法の記事を読むと後遺障害慰謝料の考え方の記事を読むもあわせてご覧ください。
この節の要点
- 事故前から受けている年金や、今回の事故とは別の原因による障害年金は、「同一の事由」による給付ではありませんから、そもそも今回の事故の賠償額との調整の対象になりません。
- 老齢年金など、事故によって生じたものではない給付を今回の事故の損害と調整することはできません。
既払分、将来分、示談後の申請を分ける
将来の年金についてまとめて差し引けるかどうかは、別の判例が枠組みを示しています。最高裁判所大法廷は、不法行為と同一の原因によって被害者又はその相続人が第三者に対する債権を取得した場合に、債権を取得したというだけで損益相殺的な調整をすることは原則として許されず、調整が許されるのは「当該債権が現実に履行された場合又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるということができる場合」に限られるとしました。そのうえで、支給を受けることが確定した年金については現実に履行された場合と同視し得るが、支給を受けることがいまだ確定していない年金についてはそうはいえないとして、支給を受けることが確定した額の限度で控除すべきものとしています(最高裁昭和63年(オ)第1749号、平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁)。
この大法廷判決の事案は、地方公務員等共済組合法に基づく退職年金・遺族年金に関するものですから、すべての公的給付について同じ結論を導くと決めつけることはできません。もっとも、前記の平成22年判決も、原審の口頭弁論終結の日までに支給がされ、又は支給を受けることが確定していた年金を調整の対象としています。「受給権があるのだから生涯分の年金額を引く」という計算は、これらの判例の枠組みとは異なります。
賠償金と障害年金の先後関係については、次の点を分けて確認します。
- 年金が先に支給された場合 国民年金法第22条第1項及び厚生年金保険法第40条第1項により、政府等は給付の価額の限度で、受給権者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得します。加害者側が政府等に支払う分だけ被害者への支払額は減りますが、被害者が年金事務所へ返すわけではありません。
- 損害賠償を先に受けた場合 国民年金法第22条第2項は「その価額の限度で、給付を行う責を免かれる」と定め、厚生年金保険法第40条第2項は「その価額の限度で、保険給付をしないことができる」と定めています。
- 止められる期間と対象 厚生労働省の通知「厚生年金保険法及び国民年金法に基づく給付と損害賠償額との調整の取扱いについて」(平成27年9月30日年管管発0930第6号)は、調整の対象を生活補償費相当額とし、損害賠償額から慰謝料並びに葬祭料、医療費、緊急経費及び雑損失の実支出額の合計額を控除した額によることとしています。また、給付を行わない期間の月数の上限を36月としています。「示談をすると年金が何年も止まる」と一般化するのではなく、対象となる給付と、算定の基礎、起算点を通知に沿って確認してください。
- 届出 第三者行為による事故で障害厚生年金・障害基礎年金を請求するときは、第三者行為事故状況届のほか、交通事故証明又は事故が確認できる書類、確認書、損害保険会社等への照会に係る同意書などの提出が求められます。
示談を済ませてから障害年金を請求すること自体はできます。年金給付を受ける権利は、支給すべき事由が生じた日から5年を経過したときに時効によって消滅し、支払期月ごとに支払われる年金の支給を受ける権利にも別に5年の時効の定めがあります(国民年金法第102条第1項、厚生年金保険法第92条第1項)。ただし、示談の内容によっては、その後の調整や届出の扱いに影響します。示談前に請求の予定を年金事務所へ伝えておいてください。
20歳前に初診日がある傷病による障害基礎年金には、別の支給停止の仕組みがあります。前年の所得額が479万4000円を超える場合は全額、376万1000円を超える場合は2分の1が支給停止となり、扶養親族1人につき所得制限額が38万円加算されます。対象期間は10月から翌年9月までです。恩給や労災保険の年金等を受給しているときは、その受給額について障害基礎年金の年金額から調整されます。通常の障害年金と同じ扱いにはなりませんので、初診日がいつかを確認してください。
労災は給付の種類ごとに調整を確認する
業務中・通勤中の交通事故では労災保険の給付が問題になります。「労災から振り込まれた総額」をひとまとめにして賠償額から差し引く計算は、給付の種類ごとに対応する損害項目が違うため、正確ではありません。労災保険と自賠責保険のどちらを先に請求するかといった手続の全体像は別の記事で扱っていますので、ここでは調整の枠組みだけを整理します。
保険給付と特別支給金の違い
厚生労働省「第三者行為災害のしおり」は、労災保険給付と同一の事由に当たる損害賠償の項目を次のように整理しています。同一の事由によるものに限って支給調整が行われるため、この対応関係が出発点です。
| 給付の種類 | 対応を検討する損害項目 | 控除に関する留意点 |
|---|---|---|
| 療養補償給付・複数事業労働者療養給付・療養給付 | 治療費 | 治療費等の療養に要する費用の元本と調整されます。遅延損害金に充当するものではありません。 |
| 休業補償給付・複数事業労働者休業給付・休業給付 | 休業により喪失したため得ることができなくなった利益 | 休業損害の元本と調整されます。給付基礎日額の全額が補填されるわけではありません。 |
| 傷病補償年金・複数事業労働者傷病年金・傷病年金 | 同上 | 年金として支給されるため、支給が確定した分と将来分の区別が必要です。 |
| 障害補償給付・複数事業労働者障害給付・障害給付 | 身体障害により喪失又は減少して得ることができなくなった利益 | 後遺障害による逸失利益に対応します。介護費に対応するものではありません。 |
| 介護補償給付・複数事業労働者介護給付・介護給付 | 介護費用 | 介護費に対応します。請求権の時効は行使できる時から2年です。 |
| 障害基礎年金・障害厚生年金 | 後遺障害による逸失利益 | 将来介護費や慰謝料から当然に控除されるものではありません。 |
| 労災保険の特別支給金 | 対応する損害項目はありません | 保険給付ではなく社会復帰促進等事業として支給されるため、行政上の支給調整の対象とされていません。 |
同しおりは、損害賠償のうち被災者等の精神的苦痛に対する慰謝料及び労災保険給付の対象外のもの(自動車の修理費用、遺体捜索費、義肢、補聴器等)は、同一の事由によるものではないため支給調整の対象とはならないとしています。慰謝料から労災給付を差し引く計算になっていないかは、示談案で確認すべき点の一つです。
特別支給金については、同しおりが「特別支給金は保険給付ではなく社会復帰促進等事業として支給されるものですから、支給調整の対象とはなりません」と明記しています。民事の損害賠償においても、特別支給金は被災労働者の損害を補填する性質を有するということはできず、受領した特別支給金を損害額から控除することはできない旨を判示した最高裁判所の判決があり、判決原文は裁判所ウェブサイトで確認できます。振込額の合計から機械的に控除している計算書は、内訳の確認が必要です。
給付先行と賠償先行、第三者行為災害の届出
労災保険法第12条の4第1項は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によって生じた場合に保険給付をしたときは、政府がその給付の価額の限度で損害賠償請求権を取得すると定めています(求償)。同条第2項は、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府はその価額の限度で保険給付をしないことができると定めています(控除)。どちらの場面かによって、被害者が受け取る金額の流れが変わります。
示談については、同しおりが具体的な注意を示しています。被災者等が受け取るすべての損害賠償についての示談(全部示談)が真正に成立し、示談内容以外の損害賠償の請求権を放棄した場合、政府は原則として示談成立以後の労災保険給付を行わないこととされています。すでに労災保険給付が行われている期間より前の日を示談の効力発生日とする示談を結んだ場合には、当該給付分が回収されることがあり得るとも記載されています。そのうえで、示談を行う前に必ず労働局又は労働基準監督署に連絡すること、示談を行ったときは速やかに示談書の写しを提出すること、示談内容とは別に労災保険に請求する予定がある場合はその内容を示談書に明示することを勧めています。
示談書に「給付は別途受ける」と書いておけば支給機関が必ずそれに従う、という理解は正確ではありません。示談は当事者の合意ですが、給付を行うかどうかは支給機関が法令に基づいて判断します。しおりが求めているのは、支給機関が示談の範囲を判断できるように、示談の対象と留保を明確にしておくことです。汎用の条項を書き写すのではなく、対象となる損害項目と期間を具体的に特定してください。
労災保険の手続と自賠責保険の関係、第三者行為災害届の記載方法については、労災と自賠責の給付調整と第三者行為災害届の記事を読むもご参照ください。
障害福祉サービスと将来介護費の関係
既に受けたサービスと将来のサービス
「障害福祉」は一つの現金給付ではありません。障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)第6条は、自立支援給付として、介護給付費、訓練等給付費、自立支援医療費、補装具費、高額障害福祉サービス等給付費などを挙げています。重度の後遺障害が残った方の介護に関係するのは、主に居宅介護、重度訪問介護、生活介護、短期入所といったサービスと、これに対応する介護給付費です。
この仕組みでは、事業者がサービスを提供し、その費用の大部分を公費が負担し、利用者は自己負担分を支払います。本人の口座に給付金が振り込まれるわけではありません。もっとも、本人の口座に入金されないことだけを理由に、賠償との調整がないと結論付けることはできません。検討の出発点は、その給付に代位・求償・支給調整の根拠があるかどうかです。
この点について、障害者総合支援法には、介護保険法第21条、国民年金法第22条、厚生年金保険法第40条、労災保険法第12条の4に相当する規定、すなわち第三者の行為によって生じた場合の損害賠償請求権の取得や、賠償が先行した場合の支給調整を定めた規定が置かれていません。法律の全文を検索した範囲では、「損害賠償」「第三者」の語が用いられていませんでした。同法第7条の「他の法令による給付等との調整」は、施行令第2条の表に掲げる給付(健康保険法の療養の給付、労災保険法の療養補償給付など、医療に関する給付が中心です)との調整を定めるものであり、損害賠償との調整の規定ではありません。同法第8条の返還は、偽りその他不正の手段により自立支援給付を受けた場合の不正利得の徴収です。介護保険法の第三者行為に関する規定を、障害者総合支援法のサービスにそのまま当てはめることはできません。
将来提供される予定の障害福祉サービスに対応する費用を、将来介護費から控除すべきかどうかを直接判断した最高裁判例は、今回の調査では確認できませんでした。下級審の裁判例も、裁判所ウェブサイトの裁判例検索からは特定できませんでした。したがって、「将来分は必ず控除されない」とも「控除される」とも断定できません。実務では、次の資料をそろえて、受給の確実性と範囲を具体的に主張・反論することになります。
- 障害福祉サービス受給者証と支給決定通知(サービスの種類、支給量、有効期間)。
- サービス等利用計画とサービス利用実績(実際に利用した時間数、時間帯)。
- 障害支援区分の認定結果と、その有効期間。神戸市の案内では、障害支援区分の有効期間は最長3年とされています。
- 支給量の変更申請・変更決定の履歴。
- 今後の見込みについての医師の意見や、相談支援専門員の見解。
市町村への届出実務は自治体ごとに運用が異なります。対象となるサービスと根拠を特定せずに「全国共通で第三者行為の届出が必要」と扱うことはできません。神戸市の場合、障害福祉サービスの申請窓口は区役所保健福祉部であり、障害者相談支援センターも相談先とされています。
介護保険との関係については、介護保険が優先するという原則があります。もっとも、厚生労働省の通知は、障害福祉サービスの種類や利用者の状況に応じて相当する介護保険サービスを特定し、「一律に当該介護保険サービスを優先的に利用するものとはしない」としています。同行援護、行動援護などの障害福祉サービス固有のものについては介護給付費等を支給するとされ、介護保険の区分支給限度基準額の制約から介護保険サービスのみでは支給量を確保できないと認められる場合にも介護給付費等の支給があり得ます。年齢だけを理由に、すべてのサービスが介護保険に切り替わると説明することはできません。
家族介護や自費介護が残る場合
公的なサービスを利用していても、家族が担う介護がなくなるわけではありません。夜間の体位変換や吸引、見守り、通院の付添い、サービスが入らない時間帯の対応、制度で不足する時間を補う自費サービスの必要性は、サービスの支給量とは別に検討します。サービスの時間数をそのまま差し引いて家族の介護費を機械的に減額する計算は、介護の実態に合っていないことがあります。
あわせて、損害の発生と必要性の認定と、認められた損害からの給付控除は別の段階の問題です。「将来の給付は控除されない」という結論が得られても、それだけで請求する介護費の必要性や単価、期間が当然に認められるわけではありません。将来介護費そのものの立証は、次の資料で組み立てます。
- 介護記録(日々の介護内容、所要時間、時間帯を記載したもの)。
- 主治医の意見書・診断書(必要な介護の内容と程度、見通し)。
- サービス等利用計画、訪問看護指示書、リハビリテーション実施計画。
- 自費で利用したサービスの契約書・領収書。
- 主たる介護者の年齢、健康状態、就労状況が分かる資料。
- 住環境(自宅の構造、改造の有無)と、居住地でのサービス供給の状況。
現在ご家族が担っている介護が、将来も同じ条件で続くとは限りません。介護者の加齢や健康状態、事業者の確保のしやすさは、将来介護費の内容を左右します。示談の段階で、これらを見込んだ整理ができているかを確認してください。将来介護費の考え方そのものは、植物状態と交通事故(将来介護費・成年後見)の記事を読むもあわせてご覧ください。
将来受ける給付をまとめて差し引いてよいのか
判例の判断と、その事案に限られる部分
「将来受け取る予定の給付があるのだから、その分は今の賠償額から引く」という説明は、判例の枠組みとは異なります。もっとも、判例は制度ごとの事案について判断していますので、射程には注意が必要です。
- 最高裁昭和63年(オ)第1749号、平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁 地方公務員等共済組合法に基づく退職年金・遺族年金の事案です。損益相殺的な調整が許されるのは、債権が現実に履行された場合又はこれと同視し得る程度に存続及び履行が確実である場合に限られるとし、支給を受けることが確定した年金の額の限度で控除すべきものとしました。将来の未確定分をまとめて差し引く計算を否定した点に、実務上の意味があります。
- 最高裁平成20年(受)第494号・第495号、平成22年9月13日第一小法廷判決 交通事故で後遺障害が残った事案です。労災保険法に基づく療養給付・休業給付、労災保険法に基づく障害年金、障害基礎年金、障害厚生年金について、それぞれ対応する損害の元本との間で調整すべきものとし、遅延損害金との間で調整することは相当でないとしました。調整の対象とされたのは、原審の口頭弁論終結の日までに支給がされ、又は支給を受けることが確定していた給付です。
- 最高裁平成24年(受)第1478号、平成27年3月4日大法廷判決 長時間労働による精神障害の発症を経て死亡した事案です。遺族補償年金は被扶養利益の喪失を補填するものであり、逸失利益等の消極損害の元本との間で調整すべきであるとし、制度の予定するところと異なって支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、補填の対象となる損害は不法行為の時に補填されたものと法的に評価して調整するのが相当であるとしました。
平成27年の大法廷判決は、死亡事案における遺族補償年金と、損害元本・遅延損害金との充当関係を扱ったものです。NASVA介護料や障害福祉サービスの将来分を将来介護費から控除してよいかを直接判断したものではありません。同様に、平成22年判決も後遺障害による逸失利益との調整を判断したものであり、将来介護費との関係を判断したものではありません。保険会社の説明にこれらの判例が引用されているときは、判示の対象となった制度と損害項目が、今回問題になっている制度と損害項目と一致しているかを確認してください。
保険会社の提示書で確認する箇所
示談案や損害額計算書に「既払金」「控除」と書かれた欄があるときは、次の五点について、口頭ではなく書面で内訳を出してもらってください。
- 控除の対象とされた給付の正式名称と支給主体。
- その給付を、どの損害項目から差し引いているか。
- 対象となる期間(いつからいつまでの給付か)。
- すでに支払われた額なのか、支給が確定した未払額なのか、将来の見込額なのか。
- 計算根拠(単価、月数、中間利息控除の有無、過失相殺との適用順序)。
| 給付の時点区分 | 賠償側で問題になること | 給付側で問題になること | 確認する資料 |
|---|---|---|---|
| すでに支払われた分 | 対応する損害項目からの控除。求償が済んでいる分を重ねて控除していないか。 | 求償の処理状況。返還済みの有無。 | 支給決定通知、振込通知、年金証書、給付別の明細 |
| 支給が具体的に確定した未払分 | 判例上、調整の対象となり得る範囲です。確定の事実を資料で示す必要があります。 | 支給決定の有無と支給予定日。 | 支給決定通知、決定額の内訳が分かる書面 |
| 将来の未確定分 | 存続及び履行の確実性が争点になります。制度ごとに結論が異なり得ます。 | 有効期間、更新・変更の可能性、支給停止事由の有無。 | 受給者証、支給決定の有効期間、障害支援区分の認定結果 |
| 申請中・申請予定 | 受給していない給付を控除する根拠はありません。申請予定があるときは示談の内容に反映させます。 | 申請の時効・期間制限。示談の内容が支給判断に与える影響。 | 申請書控え、受付印のある書類、相談記録 |
申請・示談・返還通知で迷いやすい場面
ご相談で繰り返し出てくる誤解と、確認できた根拠に基づく回答を整理します。いずれも、最終的には資料を確認したうえで個別に判断します。
- 「公的給付は、賠償金からすべて差し引かれる」 制度と損害項目が対応する範囲で調整されるのが原則です。慰謝料や労災保険給付の対象外のものは同一の事由によるものではないとされています。特別支給金は行政上の支給調整の対象とされていません。
- 「賠償額から差し引かれない給付は、他制度とも自由に併用できる」 別の問題です。NASVA介護料は、労災保険の介護補償給付・介護給付や介護保険の介護給付を受けたときは支給できないとされています。賠償上の扱いと制度間の併給可否は連動しません。
- 「申請しなければ、その分だけ賠償金が増える」 申請しないことによって将来介護費の必要性が高く認められるとは限らず、必要な支援を受けられない不利益の方が大きくなり得ます。NASVA介護料の支給対象期間は認定申請があった日の属する月からとされており、申請が遅れた期間は遡って支給されません。労災の介護に関する給付の時効は行使できる時から2年です。
- 「慰謝料という名目で示談すれば、給付調整を避けられる」 支給機関は、示談の名目ではなく実質を踏まえて判断します。年金の調整では、損害賠償額から慰謝料等の実支出額を控除した生活補償費相当額が基礎とされます。名目の付け替えは、後で不正確な届出と評価される危険があります。
- 「示談書に給付を別途受けると書けば、支給機関も必ず従う」 示談は当事者の合意であり、支給機関の法的判断を拘束するものではありません。厚生労働省の資料は、示談内容とは別に労災保険へ請求する予定がある場合はその内容を示談書に明示することを勧めていますが、これは判断材料を明確にするための実務上の助言です。
- 「保険会社が差し引いた金額は、そのまま本人が役所へ返す金額になる」 別の問題です。制度側が求償で回収する場合、被害者が返すわけではありません。返還が問題になるのは、返還の根拠規定に当たる場合に限られます。
- 「受給権がある以上、生涯分の年金や介護サービスの価額を引ける」 判例は、支給を受けることが確定した額の限度で控除すべきものとしています。受給権の存在だけで将来の全支給額が確定するわけではありません。
この節の要点
- 公的給付と賠償金の両方を受けること自体が、直ちに不正受給になるわけではありません。制度上適法な併給と、調整・返還の対象となる受給は区別して考えます。
- 必要な支援の利用を控えたり、受給の事実を伝えなかったりする対応はおすすめできません。支援は受けたうえで、届出と確認を並行して進めるのが基本です。
- 後日、遡及支給の決定や返還の通知が届いた場合でも、対応の余地があります。通知に記載された根拠規定と対象期間、不服申立ての期間を確認してください。
示談前にそろえる資料と確認の手順
示談の前に、次の順序で確認しておくと、控除の当否を検討しやすくなります。後遺障害の申請方法の選び方は、事前認定と被害者請求の違いの記事を読むもご参照ください。
- 利用中・申請中・申請予定の制度を、正式名称と支給主体ごとに一覧にする。
- 給付ごとに、対象期間、支給決定額、実際の入金額、未払額、返還済額を区別して書き出す。
- 保険会社に対し、控除の対象給付、対応する損害項目、対象期間、計算根拠の説明を書面で求める。
- 年金事務所、労働基準監督署、NASVAの支所、区役所の障害福祉の窓口に、制度に応じた届出・調整の状況を確認する。
- 給付側の計算と賠償側の計算を照合し、同じ給付を二度差し引いていないか、すでに返還した給付を残したまま計算していないかを確認する。
- 示談の対象となる損害項目と期間、将来分の扱い、請求権放棄の範囲、清算条項、給付に関する留保を確認する。
- 示談後の届出、遡及支給、追加の支給決定、返還通知に対応できるよう、資料と連絡記録を保存する。
| 資料 | 見る箇所 | 確認できること | 不足時の照会先 |
|---|---|---|---|
| 保険会社の損害額計算書・示談案 | 既払金欄、控除欄、損害項目ごとの内訳 | どの給付を、どの損害項目から、どの期間について差し引いているか | 担当の損害保険会社 |
| 既払金明細 | 支払日、支払名目、金額 | 自賠責保険金、任意保険金、内払の区別 | 担当の損害保険会社、損害保険料率算出機構の調査事務所 |
| 年金証書・年金振込通知書 | 年金の種類、支給開始年月、支給額、支給停止の有無 | 障害基礎年金・障害厚生年金の別、既払分と支給予定分 | 年金事務所 |
| 第三者行為事故状況届の控え | 提出日、事故の内容、損害賠償の受領状況の記載 | 年金側で調整の前提とされている事実 | 年金事務所 |
| 労災の給付別支給決定通知・振込通知 | 給付の名称、対象期間、金額、特別支給金の別 | 保険給付と特別支給金の区別、対応する損害項目 | 労働基準監督署 |
| 第三者行為災害届の控え | 提出日、第三者の情報、示談の有無 | 求償・控除の前提とされている事実 | 労働基準監督署 |
| NASVAの受給資格認定通知・支給額決定通知 | 種別、認定日、対象期間、支給額 | 介護料の受給状況と、対象費用として認められた範囲 | NASVAの支所 |
| 障害福祉サービス受給者証・支給決定通知 | サービスの種類、支給量、有効期間 | 現に決定されている支給量と期間 | 区役所保健福祉部 |
| サービス等利用計画・サービス利用実績 | 計画上の内容と、実際の利用時間・時間帯 | 公的サービスで賄われている範囲と、残る介護の範囲 | 相談支援事業所、区役所保健福祉部 |
| 介護記録・領収書 | 介護の内容、所要時間、自費で負担した費用 | 家族介護と自費サービスの実態 | ご家族の記録、利用事業者 |
| 医師の意見・後遺障害診断書 | 必要な介護の内容と程度、今後の見通し | 将来介護費の必要性と期間 | 主治医 |
| 支給停止・変更・返還に関する通知 | 根拠規定、対象期間、金額、不服申立ての教示 | 返還等の理由と、対応できる期間 | 通知を発した機関 |
照会したときは、確認日、担当部署、担当者、質問内容、回答内容、根拠資料、次の手続を記録に残してください。保険会社に聞く事項(控除の内訳、計算根拠、示談の範囲)と、給付機関に聞く事項(届出の要否、調整の状況、支給決定の内容と期間)を分けて整理すると、後から照合しやすくなります。
期限は、性質の異なるものを混同しないよう注意してください。人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から5年、不法行為の時から20年で消滅します(民法第724条、第724条の2)。自賠責保険への後遺障害に関する請求には別の期限があります。給付の請求権にはそれぞれの法律が定める時効があり、労災保険では介護に関する給付が2年、障害に関する給付が5年、年金給付は原則として5年です。行政の処分に対する不服申立てには、通知に記載された期間の制限があります。示談を済ませた後や返還の通知が届いた後でも、検討できる事項は残っています。「示談したのだから何もできない」と考えて放置しないでください。
弁護士に相談するタイミング
次のような場面では、資料を確認したうえで対応方針を整理する余地があります。ご本人が意思表示をすることが難しい場合でも、ご家族からのご相談として事実関係の確認と資料の整理は進められます。ただし、ご本人に代わって示談や請求を行うためには、委任の方法や成年後見の要否を含めて、法的な権限の整理が必要です。
- 示談案が届き、控除欄の内訳や根拠が示されていない。
- 将来介護費から、まだ受け取っていない給付の分が差し引かれている。
- 障害年金が、逸失利益ではなく将来介護費や慰謝料から差し引かれている。
- NASVA介護料や障害福祉サービスの利用を、賠償との関係でどう扱うべきか分からない。
- 賠償金を受け取った後に、年金の支給停止や給付の返還に関する通知が届いた。
- 公的な給付を申請すると賠償で不利になるのではないかと迷い、申請を先送りしている。
- 労災の給付と自賠責保険の関係が整理できていない。
給付の通知、保険会社の提示書、示談案を照合すると、控除の対象と範囲、必要な届出、今後の手続の順序を整理できます。神戸みらい法律会計事務所では、交通事故について初回の法律相談を無料としています(ご予約制です)。無料相談の対象・条件は、あらかじめご確認ください。
よくある質問
NASVA介護料は、賠償金から差し引かれますか。
NASVA介護料について賠償額からの控除の可否を直接判断した最高裁判例は、今回の調査では確認できませんでした。他の制度についての判例を、そのまま当てはめて結論を出すことはできません。すでに受け取った分と今後受け取る見込みの分を分け、支給決定通知や請求の記録をそろえたうえで、給付の趣旨と対応する損害項目に即して検討する必要があります。
障害年金は、将来介護費や慰謝料から差し引かれますか。
最高裁判所は、障害基礎年金・障害厚生年金及び労災保険法に基づく障害年金について、後遺障害による逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきものとしています(平成22年9月13日第一小法廷判決)。将来介護費や慰謝料から当然に差し引かれるものではありません。示談案で介護費や慰謝料の欄から控除されている場合は、対応する損害項目の説明を求めてください。
まだ受け取っていない将来の年金まで差し引かれるのですか。
最高裁判所大法廷は、損益相殺的な調整が許されるのは、債権が現実に履行された場合又はこれと同視し得る程度に存続及び履行が確実である場合に限られるとし、支給を受けることが確定した年金の額の限度で控除すべきものとしました(平成5年3月24日大法廷判決)。受給権があることだけを理由に生涯分を差し引く計算は、この枠組みとは異なります。もっとも、事案ごとに争点は異なりますので、確定の有無を資料で示すことが重要です。
労災の特別支給金も差し引かれますか。
特別支給金は保険給付ではなく社会復帰促進等事業として支給されるものであり、厚生労働省「第三者行為災害のしおり」は支給調整の対象とはならないとしています。民事の損害賠償においても、特別支給金は損害を補填する性質を有するとはいえず、損害額から控除することはできない旨を判示した最高裁判所の判決があります。振込額の合計から一括して控除している計算になっていないか、給付別の内訳をご確認ください。
NASVA介護料と障害福祉サービスは併用できますか。
機構が案内する不支給の場合に、障害福祉サービスの利用は挙げられていません。ただし、介護料の対象となる「介護に要した費用の額」からは、障害者総合支援法第6条の自立支援給付に伴い自己負担した額と、同法第77条第1項第6号の日常生活上の便宜を図るための用具の給付に伴い自己負担した額が除かれます。一方、労災保険の介護補償給付・介護給付や介護保険の介護給付を受けたときは支給できないとされています。ご自身が受けている給付の正式名称を確認したうえで、NASVAの支所にお問い合わせください。
示談を済ませた後でも、年金や介護料の申請はできますか。
申請そのものはできます。年金給付を受ける権利には、支給すべき事由が生じた日から5年などの時効の定めがあります。もっとも、示談の内容によっては、その後の調整の扱いに影響します。労災については、真正な全部示談が成立し請求権を放棄した場合、原則として示談成立以後の給付は行われないとされています。示談の前に、請求の予定がある給付を支給機関に伝えておくことをおすすめします。
給付の返還を求める通知が届きました。どうすればよいですか。
まず、通知に記載された根拠規定、対象期間、金額、不服申立てに関する教示を確認してください。返還の理由は制度ごとに異なります。賠償金を受け取ったこと自体が返還事由とされているとは限らず、届出の内容や資格の変更、支給決定の取消しが理由になっていることもあります。賠償側で同じ給付がすでに控除されている場合は、二重に負担していないかの確認も必要です。不服申立てには期間の制限がありますので、早めにご相談ください。
賠償で有利になるように、公的な給付の申請を控えた方がよいでしょうか。
おすすめできません。申請を控えても将来介護費の必要性が当然に高く認められるわけではなく、受けられるはずの支援を受けられない不利益が生じます。NASVA介護料は認定申請があった日の属する月からの支給とされており、遡って支給されるものではありません。労災の介護に関する給付には2年の時効があります。支援は受けたうえで、届出と賠償側の計算の照合を並行して進める方針をおすすめします。
まとめ
- 「賠償金から差し引かれるか」と「制度の側が支給しないか」「返還を求められるか」「制度どうしで調整されるか」は、それぞれ別の問題です。示談案の「控除」がどの意味かを最初に確認してください。
- 障害年金は、後遺障害による逸失利益の元本と調整されるものとされています。将来介護費や慰謝料から当然に差し引かれるものではありません。
- 将来の未確定の給付をまとめて差し引く計算は、判例が示す枠組みとは異なります。支給を受けることが確定した額かどうかを資料で確認してください。
- 労災は給付の種類ごとに対応する損害項目が異なり、特別支給金は行政上の支給調整の対象とされていません。
- NASVA介護料は、労災の介護に関する給付や介護保険の介護給付を受けたときは支給できないとされる一方、障害福祉サービスの利用は不支給事由に挙げられていません。ただし自立支援給付に伴う自己負担額は対象費用から除かれます。障害者総合支援法には、第三者行為による損害賠償請求権の取得や賠償先行時の支給調整の規定が置かれておらず、将来分の控除についての直接の裁判例も確認できませんでしたので、受給の確実性を示す資料をそろえて主張・反論することになります。
- 申請を控えることは賠償上の有利につながりにくく、支援を受けられない不利益が残ります。示談後や返還通知の後でも検討できる事項はありますので、通知の根拠規定と期間を確認してください。
公的給付が関係する重度後遺障害の賠償では、給付側の通知と賠償側の計算書を突き合わせないと、控除の当否を判断できません。示談書に署名する前に、資料をご用意のうえご相談いただければ、控除の範囲、必要な届出、今後の手続の順序について法律上の見通しを検討できます。
お電話でのご予約は078-797-5227(受付時間9時から20時まで)へお願いいたします。交通事故の取扱業務を見る/弁護士費用を確認する
事務所・弁護士のご紹介
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
- 代表弁護士 藤井貴之(弁護士・公認会計士)
- 所属団体 兵庫県弁護士会/日本公認会計士協会兵庫会
- 所在地 〒654-0154 兵庫県神戸市須磨区中落合2丁目2-5 名谷センタービル7階
- 電話 078-797-5227(営業時間9時から20時まで)
参考資料
- 独立行政法人自動車事故対策機構「介護料 受取り対象となる方」
- 独立行政法人自動車事故対策機構「介護料 受取り金額」
- 独立行政法人自動車事故対策機構「介護料支給業務実施規程」(PDF)
- 独立行政法人自動車事故対策機構「介護料支給業務実施要領」(PDF)
- 日本年金機構「障害厚生年金を受けられるとき」(第三者行為に関する提出書類)
- 日本年金機構「20歳前の傷病による障害基礎年金にかかる支給制限等」
- 厚生労働省「厚生年金保険法及び国民年金法に基づく給付と損害賠償額との調整の取扱いについて」(平成27年9月30日年管管発0930第6号)
- 厚生労働省「第三者行為災害のしおり」
- 厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく自立支援給付と介護保険制度との適用関係等について」(平成19年3月28日障企発第0328002号ほか)
- 厚生労働省「障害福祉サービスの内容」
- e-Gov法令検索「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」
- e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法」
- e-Gov法令検索「国民年金法」
- e-Gov法令検索「厚生年金保険法」
- e-Gov法令検索「介護保険法」
- 最高裁判所大法廷判決(損益相殺的な調整と支給が確定した年金)判決原文(PDF)
- 最高裁判所第一小法廷判決(労災保険給付・障害年金と損害元本の調整)判決原文(PDF)
- 最高裁判所大法廷判決(遺族補償年金の損益相殺的な調整)判決原文(PDF)
- 最高裁判所第二小法廷判決(労災保険の特別支給金と損害額からの控除)判決原文(PDF)
- 裁判所「裁判例検索」
- 神戸市「障害福祉サービスの利用手続(サービス利用までの流れ)」
- 兵庫労働局
- 国土交通省「自賠責保険(共済)の限度額と保障内容」
本記事は、記載した公的資料及び判決原文を確認したうえで一般的な情報を整理したものであり、個別の事案についての法律上の助言ではありません。制度、金額、取扱いは改定されることがあります。結論は資料と個別事情により異なりますので、実際のご判断の前に資料を確認したうえでご相談ください。

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