仕事中や通勤中のけが・病気で後遺症が残り、労災保険から後遺障害の等級認定を受けたものの、「症状の重さに比べて等級が低いのではないか」「日常生活や仕事への支障が十分に評価されていないのではないか」と感じる方は少なくありません。
この記事では、労災で認定された後遺障害等級に納得できないときに、どのような不服申立ての方法があるのか、正式な手続の名称は何か、何を、いつまでに、どこへ申し立てるのか、弁護士に相談する意味は何かを、被災労働者ご本人とご家族の視点で整理します。
はじめに結論の方向性をお伝えすると、労災の決定に対する不服申立ては、検索では「異議」と呼ばれることがありますが、制度上は「審査請求」「再審査請求」という手続が中心になります。まずは、お手元の決定通知書の内容と、認定の前提となった医療記録を確認することが出発点です。
認定された等級に疑問があるときは、決定通知書・診断書・画像資料などをお手元にそろえたうえで、早めに方針を整理することが大切です。資料を確認することで、どの点を争えそうか、見通しを検討しやすくなります。
Contents
労災の後遺障害等級に納得できないとき、まず確認したいこと
「納得できない」という感覚だけで手続を進めるのではなく、認定の理由と、認定の前提となった資料を具体的に確認することが重要です。最初に押さえておきたい要点は次のとおりです。
- 認定基準・医療記録・症状の経過と、認定された等級との「ずれ」を具体的に整理する必要があります。
- 労災保険給付の決定に対する正式な不服申立ては、審査請求・再審査請求が中心です。自賠責保険の異議申立てとは制度が異なります。
- 不服申立てには法律で定められた期限があります。決定通知書を受け取ったら、期限と起算日を確認し、早めに動くことが大切です。
- 単に不満を述べるのではなく、原処分(最初の決定)のどの点が誤っていると考えるのかを、資料で裏づけて主張する必要があります。
| 確認する観点 | 確認のポイント |
|---|---|
| 何を受け取ったか | 決定通知書・支給決定通知の内容、認定された等級、認定理由、通知が届いた日 |
| どこが争点か | 痛み・しびれ・可動域・画像所見・検査結果などが、認定基準に照らして適切に評価されているか |
| いつまでに | 不服申立てには法律上の期限があります。具体的な期間・起算日・例外の取扱いは、決定通知書と公式情報で確認してください |
| どこへ | 労災保険給付の決定への不服申立ては、原則として都道府県労働局に置かれた労災保険審査官への審査請求などです |
| 何が必要か | 診断書・画像・検査結果・診療録などの医学的資料と、原処分のどこが誤りかを示す主張の整理 |
「異議」と「審査請求」はどう違うのか
検索でよく使われる「異議」という言葉
「労災 後遺障害 異議」などと検索されることが多いですが、労災保険給付に関する決定に対する正式な不服申立ての手続は、行政不服審査の仕組みに基づく「審査請求」と「再審査請求」です。本記事でも、制度の説明はこの正式名称を用います。日常的に「異議」と呼ばれていても、申立先や様式は審査請求の手続に沿って進めることになります。
自賠責保険の「異議申立て」とは別の制度
交通事故の後遺障害でよく使われる自賠責保険の「異議申立て」は、損害保険の仕組みに基づくもので、労災保険の審査請求とは制度が異なります。交通事故が同時に労災にあたる場合でも、労災保険給付の手続と、自賠責保険・任意保険の手続は別々に進むのが原則です。そのため、両者で後遺障害の評価が一致しないこともあります。どちらをどう進めるかは、事案により異なります。
審査請求・再審査請求・取消訴訟の関係
労災保険給付の決定に不服がある場合、一般的には次のような段階が用意されています。各手続の相手方・期限・必要書類は、必ず公式情報とお手元の通知書で確認してください。
| 手続 | だれに・何に対して | 特徴 |
|---|---|---|
| 審査請求 | 都道府県労働局の労災保険審査官に対し、労働基準監督署長が行った決定について | 不服申立ての最初の段階。原処分のどこが誤りかを、資料を添えて主張します。法律で定められた期限があります |
| 再審査請求 | 厚生労働省の労働保険審査会に対し、審査官の決定について | 審査請求の決定になお不服がある場合の段階。こちらにも期限があります |
| 取消訴訟 | 裁判所に対し、原処分の取消しを求める | 行政訴訟で、被告は国です。提起できる時期・期間にルールがあります。再審査請求を経るかどうかは状況によります |
審査請求をしてから一定期間を経過しても審査官の決定がないときは、決定を待たずに次の手続へ進める扱いがあります。進めるか、決定を待つかは選択できます。具体的な期間は公式情報で確認してください。
どの段階で、どの手続を選ぶべきかは、認定理由とお手元の資料によって変わります。期限が関わるため、迷ったときは早めに、決定通知書や診断書を持参してご相談いただくことで、対応方針を整理しやすくなります。
等級の見直しを検討するうえで重要になる資料
審査請求などで等級の見直しを求めるときは、「納得できない」という主張だけでは足りず、認定基準に照らして、症状や障害の程度を医学的・客観的に示す資料が重要になります。次の資料を確認・整理しておくと、主張を組み立てやすくなります。
- 決定通知書・支給決定通知(認定された等級と認定理由)
- 障害(補償)等給付の請求書類の控え
- 主治医が作成した診断書
- 画像資料(レントゲン、CT、MRIなど)
- 各種検査結果(神経学的所見、可動域測定など)
- 診療録(カルテ)、看護記録、リハビリ記録
- 症状固定の時期に関する資料
- 日常生活・就労上の支障を具体的に示すメモや資料
- 勤務先の資料、けがや事故の発生状況が分かる資料
- 障害等級の認定基準と、ご自身の症状との対応関係を整理したメモ
労働基準監督署が判断の根拠とした資料の取得方法や、医療記録の取り寄せには、制度上の手続が関係する場合があります。取得の方法・費用・範囲は事案により異なるため、進める前に確認してください。
よく問題になるケース
次のような場面では、認定された等級に疑問が生じやすい一方、結論は個別の事情と資料によって変わります。「等級が上がる可能性」だけでなく、資料が不足している場合や、認定基準との関係で見直しが難しい場合もあることを前提に検討する必要があります。
痛み・しびれが残っているのに等級が低い、または非該当とされた
自覚症状を裏づける神経学的所見や画像所見があるかどうかが、評価の分かれ目になりやすい点です。どのような資料で示せるかを確認する必要があります。
可動域の制限が実態より軽く評価されたと感じる
可動域の測定方法や測定時の条件によって評価が変わることがあります。測定結果や診断書の記載を確認することが出発点です。
画像所見や検査結果が十分に考慮されていないと感じる
提出済みの資料と、認定理由で言及されている内容にずれがないかを照らし合わせる必要があります。追加の検査結果を整える余地があるかも検討します。
障害の種類によって立証に必要な資料が異なる
高次脳機能障害、精神の障害、脊柱・上肢・下肢の障害、胸腹部臓器の障害など、障害の部位・種類によって、評価のポイントや必要な医学的資料が異なります。
診断書の記載が症状を十分に反映していないと感じる
診断書の記載は等級認定に大きく影響します。症状や検査結果が反映されているかを確認し、主治医への相談の余地があるかを検討します。
症状固定の時期や障害の程度に争いがある
症状固定の時期の捉え方によって、評価の前提が変わることがあります。診療経過に関する資料を確認する必要があります。
交通事故を伴う労災で、自賠責と労災の評価が一致しない
自賠責保険と労災保険は別の制度のため、認定される等級が一致しないことがあります。どちらの手続をどう進めるかは、事案により異なります。
認定後に症状が悪化した
認定後に症状が悪化した場合は、不服申立てとは別に、変更を求める手続が問題になることがあります。どの手続が適切かは状況によって異なります。
弁護士に相談するタイミング
弁護士への相談は、「依頼すれば等級が変わる」というものではありません。決定通知書・診断書・画像資料と認定基準との対応関係を整理し、原処分のどこを、どの資料で争えそうかという見通しを検討するためのものです。次のような場面では、早めの相談が役立ちます。
- 決定通知を受け取り、認定理由と実際の症状にずれを感じるとき
- 期限が迫っているとき
- 医療記録や画像資料の整理・取り寄せが必要なとき
- 労働基準監督署や労働局への説明を、どのように組み立てるか迷うとき
- 労災とは別に、勤務先や第三者への損害賠償も検討する余地があるとき
相談により、主張と証拠を整理しやすくなり、手続の前に見通しを検討できます。期限の確認も含めて、早い段階で資料をそろえておくことが重要です。
よくある質問(FAQ)
労災の後遺障害等級に不満がある場合、異議を出せますか?
はい。労災保険給付の決定に不服がある場合は、不服申立てができます。検索では「異議」と呼ばれることがありますが、正式には審査請求などの手続になります。まずは決定通知書の認定理由と、認定の前提となった医療記録を確認することが出発点です。
労災では「異議申立て」と「審査請求」は違いますか?
労災保険給付の決定に対する正式な不服申立ては「審査請求」「再審査請求」です。交通事故の自賠責保険で使われる「異議申立て」とは制度が異なります。同じ事故が労災にもあたる場合でも、手続は別々に進むのが原則です。
審査請求はいつまでに行う必要がありますか?
審査請求には法律で定められた期限があり、決定があったことを知った日を起点に数えます。期限を過ぎると、原則として申立てができなくなります。具体的な期間・起算日・例外の取扱いは、お手元の決定通知書と厚生労働省・労働局の公式情報で確認し、早めに準備することをおすすめします。
審査請求ではどのような資料が重要ですか?
認定基準に照らして、症状や障害の程度を示す医学的・客観的な資料が重要です。診断書、画像資料、検査結果、診療録などが中心になります。原処分のどの点が誤っていると考えるのかを、これらの資料で裏づけて主張することがポイントです。
診断書の内容が症状を十分に反映していない場合はどうすればよいですか?
診断書の記載は等級認定に大きく影響します。症状や検査結果が反映されていないと感じる場合は、主治医に相談したり、追加の検査結果を整える余地があるかを検討します。必要な資料は障害の種類により異なるため、資料を確認したうえで判断する必要があります。
再審査請求や裁判はいつ検討しますか?
審査請求の決定になお不服がある場合に、再審査請求や取消訴訟を検討します。手続には期限や提起できる時期のルールがあり、再審査請求を経るかどうかは状況によります。詳細は公式情報で確認し、見通しを踏まえて検討することが大切です。
交通事故の自賠責の等級と労災の等級が違うことはありますか?
あり得ます。自賠責保険と労災保険は別の制度で、評価の枠組みも異なるため、認定される等級が一致しないことがあります。どちらの手続をどう進めるかは、事案により異なります。
弁護士に相談するときは何を持参すればよいですか?
決定通知書(支給決定通知)、診断書、画像資料、検査結果、診療録など、お手元にある資料をお持ちいただくと、認定理由と資料との対応関係を整理しやすくなります。資料がそろっていない場合でも、まずはある範囲でご相談ください。
まとめ
- 労災の決定への不服申立ては、検索では「異議」と呼ばれますが、制度上は審査請求・再審査請求が中心です。
- 自賠責保険の異議申立てとは別の制度で、交通事故を伴う場合でも手続は別々に進むのが原則です。
- 不服申立てには法律上の期限があります。決定通知書を受け取ったら、期限と起算日を確認してください。
- 「納得できない」だけでなく、原処分のどこが誤りかを、医学的資料で裏づけて主張する必要があります。
- 次の行動として、まず決定通知書・診断書・画像資料などをそろえ、早めに見通しを整理しましょう。
認定された等級に疑問があるときは、決定通知書・診断書・画像資料などをお持ちのうえでご相談ください。資料を確認することで、争点と見通しを整理しやすくなります。
監修・執筆
本コラムは、神戸みらい法律会計事務所の弁護士が内容を確認のうえ公開しています。労災の後遺障害等級や不服申立ては、個別の事情により結論が変わります。具体的なご相談は、下記からお問い合わせください。
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