自賠責保険の時効更新手続|3年の起算日と承認書で確かめる期限 |神戸市(須磨・垂水・西神・北神)の弁護士|初回相談無料|

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自賠責保険の時効更新手続|3年の起算日と承認書で確かめる期限

「事故から3年が近い」「症状固定から2年以上たっている」「保険会社には連絡してあるが、書類はまだ出していない」。自賠責保険・共済への請求について、こうした状態でご相談に来られる方は少なくありません。治療が続いている、後遺障害の審査が終わらない、相手方との話がまとまらない。そのいずれの期間中も、自賠責への請求期限は進んでいます。

国土交通省は、自賠責保険・共済の請求について「何らかの理由で請求が遅れてしまう場合は、時効更新の制度があるので、各損害保険会社(共済組合)にご相談ください」と案内しています。この記事では、その時効更新の申出をいつ、どこへ、何について行うのか、承認を受けた後に何を確かめて保存するのかを、法令と公式資料に基づいて具体的に整理します。

先に押さえていただきたい三点

  • 自賠責への請求期限は、加害者本人に対する損害賠償請求権の期間とは別に進みます。片方の手続で両方が守られるわけではありません。
  • 事故の電話連絡、請求書式の取寄せ、示談交渉、事前認定、異議申立て、紛争処理の申請は、それ自体では時効更新になりません
  • 期限までに書類をそろえられない見込みであれば、期限が来る前に請求先へ時効更新の手続を確認し、承認を受けたら対象範囲と新しい期限を書面で確かめてください。

この記事で分かること

  • 自賠責への請求が加害者請求・被害者請求・仮渡金請求に分かれ、権利主体も根拠条文も異なること
  • 傷害・後遺障害・死亡・支払日という四つの起算日と、3年後の満了日の求め方
  • 時効更新の申出から承認の確認までの九つの手順と、保存する書面
  • 連絡・取寄せ・交渉・審査が、時効との関係でどう位置づけられるか
  • 承認書で確認する三点と、請求できる人が複数いるときの注意
  • 交通事故証明書の交付期限など、資料を早めに集めるべき理由

期限が近いかどうかは、事故日、症状固定日、これまでの請求記録といった資料を確認して判断します。ご相談いただければ、起算日、対象となる権利、必要な手続の順序を整理することができます。初回のご相談は無料です(事前のご予約をお願いしています)。交通事故については、お電話での無料相談にも対応しています。

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自賠責の期限は、請求の種類ごとに別々に進む

「自賠責保険金の請求」とひとまとめに語られがちですが、法律上は、誰の、どのような権利なのかによって、根拠となる条文も、期限の数え方も異なります。まず、自分がしようとしているのがどの請求なのかを確定させてください。

加害者請求・被害者請求・仮渡金請求は別の権利

区分 権利をもつ人 請求先 根拠 期間と起算点
加害者請求 被保険者(共済では被共済者) 自賠責保険会社又は共済組合 自賠法第15条。時効は保険法第95条第1項 3年。国土交通省の案内では、損害賠償金を支払った日の翌日から
被害者請求(16条請求) 被害者又はその法定代理人 自賠責保険会社又は共済組合 自賠法第16条第1項。時効は同法第19条 3年。条文上は損害及び保有者を知った時から
仮渡金請求 被害者 自賠責保険会社又は共済組合 自賠法第17条第1項。時効は同法第19条 3年。被害者請求と同じ条文で規律される

以下、「自賠法」は自動車損害賠償保障法を指します。仮渡金の金額や請求できる場面については、別の記事で整理しています。

内払いと自賠責の仮渡金請求の違いを確認する

加害者請求は支払った分しか請求できない

自賠法第15条は、被保険者は「被害者に対する損害賠償額について自己が支払をした限度においてのみ」保険金の支払を請求することができると定めています。加害者側が自賠責に請求できるのは、被害者へ現実に支払った範囲に限られます。分割で支払っている場合には、支払のたびに請求できる範囲が生じますから、支払日ごとに期限を管理する必要があります。示談書、振込記録、領収書を支払ごとに保存してください。

自賠法第19条が時効を定めているのは、第16条第1項の請求権と第17条第1項の請求権です。第15条の保険金請求権は同条の対象に含まれていません。保険給付を請求する権利の時効については、保険法第95条第1項が「これらを行使することができる時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する」と定めています。国土交通省の案内も損害保険会社の請求案内も加害者請求を3年としていますが、根拠となる規定が被害者請求とは異なる点にご注意ください。

共済の場合は条文が読み替えられる

加害車両が自賠責共済に加入している場合、請求先は共済組合です。自賠法第23条の3第1項は、第15条、第16条、第17条、第19条などを責任共済の契約について準用し、「被保険者」を「被共済者」に、「保険会社」を「組合」に読み替えると定めています。条文の構造は同じですが、保険会社に直接適用される規定がそのまま共済組合に適用されるわけではありません。書式の名称、提出先、手続の運用は、加入先の共済組合の現行案内で確認してください。

政府保障事業と任意保険は自賠責と別の制度

ひき逃げで加害車両の保有者が判明しない場合や、加害車両が自賠責保険・共済に加入していない場合には、政府保障事業へのてん補請求という別の制度があります(自賠法第72条第1項第1号・第2号)。この請求権の時効を定めているのは自賠法第75条であり、「これらを行使することができる時から三年」とされています。被害者請求とは根拠条文も起算点の定め方も異なり、自賠責保険で用いられる時効更新の取扱いが同じように使えるとは限りません。請求は損害保険会社又は共済組合の支店等の窓口で受け付けられていますので、期限と手続はその窓口で個別に確認してください。

相手が無保険・任意保険未加入のときの対処法を確認する

人身傷害保険、搭乗者傷害保険その他の任意保険契約に基づく保険金請求権も、自賠責とは別の契約上の権利です。自賠責について手続をとったからといって、これらの権利まで当然に守られるわけではありません。

起算日はどの日か|傷害・後遺障害・死亡・支払日

自賠法第19条は、被害者請求と仮渡金請求について「被害者又はその法定代理人が損害及び保有者を知つた時から三年を経過したときは、時効によつて消滅する」と定めており、損害の区分ごとに書き分けてはいません。もっとも、実務では、どの損害についていつ「損害を知った」といえるかを区分ごとに整理する扱いがとられています。国土交通省と損害保険料率算出機構の案内も、次のとおり区分ごとの起算日を示しています。

請求の区分 実務案内上の起算日 日付を確定する資料
被害者請求(傷害分) 事故発生の翌日 交通事故証明書、事故発生状況報告書
被害者請求(後遺障害分) 症状固定日の翌日 後遺障害診断書、診断書、診療報酬明細書
被害者請求(死亡分) 死亡日の翌日 死亡診断書、死体検案書、戸籍謄本
加害者請求(傷害・後遺障害・死亡) 損害賠償金を支払った日の翌日 示談書、領収書、振込記録

症状固定について、国土交通省は「症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行ってもその医療効果が期待できなくなった時をいい、医師により判断されます」と説明しています。症状固定日がいつかで後遺障害分の期限が動きますので、診断書と後遺障害診断書の記載を確認してください。

症状固定と言われたときの確認点を見る

「保有者」と「運転者」が同じとは限らない

自賠法第2条第3項は、「保有者」を「自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するもの」と定義しています。運転していた人と保有者が一致しない場合、ひき逃げで保有者が判明しない場合、複数の車両が関係する事故で相手方が複数いる場合には、上の標準的な整理をそのまま当てはめられないことがあります。このような事案では、車両ごと・相手方ごとに検討する必要があります。

翌日から数える理由と、3年後の満了日の求め方

民法第140条は、日、週、月又は年によって期間を定めたときは期間の初日を算入しないと定めています。事故日や症状固定日そのものは数えず、その翌日から数えるのは、この初日不算入の原則によるものです。

さらに、民法第143条第2項により、年で定めた期間は、最後の年において起算日に応当する日の前日に満了します。たとえば事故日が令和5年4月10日であれば、起算日は翌日の令和5年4月11日、3年後の応当日は令和8年4月11日ですから、その前日である令和8年4月10日の終了時に3年の期間が満了する、という数え方になります。

起算日が2月29日となる場合など、最後の年に応当する日が存在しないときは、その月の末日に満了するという例外があります(民法第143条第2項ただし書)。また、平成22年3月31日以前に発生した事故については、請求できる期間が2年以内とされています。

自己流の計算だけに頼らず、請求先の保険会社又は共済組合の請求案内や、承認を受けた場合の書面に記載された期限と必ず照合してください。国土交通省の請求期限の表も、「いつから」と「いつ(時効完成日)までに」を分けて示しています。

期限に間に合わないときの「時効更新」の申出

治療が長引いている、後遺障害の見通しが立たない、相手方との話合いがつかない。こうした理由で期限までに自賠責の支払請求書類を提出できない見込みのときは、時効更新の申出を検討します。国土交通省の案内も、請求が遅れる場合は各損害保険会社(共済組合)に相談するよう求めています。損害保険会社の請求案内でも、期限内に請求できない場合は事前に窓口へ相談するよう案内されています。ある損害保険会社のよくある質問では、「前もって保険会社に対し時効中断の申し出をして承認を受けてください」と説明されています。

手続の名称や書式は、請求先によって異なります。古い書式や案内では「時効中断」「時効中断申請」「時効中断承認」と表記されていることがありますが、平成29年改正民法(令和2年4月1日施行)の下では、効果に応じて「時効の完成猶予」と「時効の更新」という用語が用いられ、国土交通省の現行案内も「時効更新の制度」と表記しています。検索の手がかりとしては「時効中断」という語も有用ですが、実際に手続を進めるときは、請求先が現在用いている名称で確認してください。

申出から承認の確認までの九つの手順

  1. 加害車両の自賠責保険会社又は共済組合、自賠責保険証明書番号、事故の受付情報を特定します。交通事故証明書に自賠責保険関係の記載欄があります。
  2. 誰の、どの権利について期限を管理するのかを特定します。被害者本人か、法定代理人か、相続人か。被害者請求か、加害者請求か、仮渡金か。
  3. 傷害分、後遺障害分、死亡分、加害者請求の各区分について、起算日と期限の一覧を作ります。
  4. これまでに行った請求の種類、提出日、受付の記録、支払又は不払の通知、異議申立ての経過を、資料で確認します。
  5. 時効が完成する前に、請求先の担当窓口へ、時効更新の所定手続、書式の名称、必要な情報、提出方法を確認します。
  6. 請求者ごと、対象となる権利・損害区分ごとに必要な申出を行い、申請書の控え、発送記録、配達記録、受付の記録を保存します。
  7. 承認されたかどうかを確認します。承認された場合は、承認書その他の書面により、対象となる請求者、対象事故、対象となる権利と損害区分、承認日、新たな期限を確認します。書面に新たな期限の記載がないときは、請求先へ書面で確認してください。
  8. 承認内容を確認できる書面の原本又は確実な写しを保存し、確認した次の期限を期限管理表とリマインダーに登録します。
  9. 加害者又は保有者に対する民事上の請求、任意保険その他の権利について、別に期限を管理し、必要な措置を検討します。

保険会社の手続と民法の「承認」は同じではない

民法第152条第1項は「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める」と定めています。もっとも、請求先の保険会社又は共済組合が所定の様式で行う時効更新の取扱いが、この「権利の承認」に当たるかどうか、当たるとしてどの範囲の権利に効力が及ぶかは、書面の内容と個別の事情によって決まります。両者を無条件に同じものとして扱うことはできません。承認を得られたという事実だけで、関係する請求権のすべてについて期限が守られたと考えないでください。

次の七つは、いずれも誤りです

  • 申請書を出せば自動的に3年延長される
  • 電話を一本入れておけば時効は止まる
  • 申請した日から必ず新たな3年が始まる
  • 時効が完成した後でも、申請すれば承認される
  • 何度でも必ず承認される
  • 一人が申請すれば、すべての請求権者・すべての損害区分・すべての車両について期限が守られる
  • 一度でも部分的に請求しておけば、将来生じる損害の期限まで一括して更新される

連絡・取寄せ・交渉・審査は「請求」ではない

ご相談でよくうかがうのが、「保険会社には連絡しました」「請求書は取り寄せました」「相手の保険会社とやり取りが続いています」という状況です。これらは事実として重要ですが、自賠責の支払請求として受け付けられたことや、時効更新が成立したことを当然に意味するものではありません。行為ごとに、何をしたことになるのかを整理してください。

行った行為 位置づけ 残す証拠 追加で確認すること
事故の電話連絡・受付番号の取得 事故の受付。支払請求書類の提出とは別 受付番号、日時、担当部署、担当者名、通話内容のメモ 支払請求として受け付けられているか
請求書式の取寄せ 準備行為 取寄せの日付、送付状 提出期限、必要書類の範囲
任意保険会社との示談交渉 加害者側との交渉。自賠責への請求とは別 提示書面、メール、交渉経過のメモ 自賠責の期限が別に進行していないか
任意一括対応 任意保険会社が自賠責分を含めて支払う運用 支払明細、対応開始・終了の通知 自賠責への請求がいつ行われるか
事前認定 一括対応中の任意保険会社を通じた後遺障害等級の確認手続 提出資料の記録、認定結果の通知 被害者請求の期限が別に進行していないか
支払請求書類の提出 自賠責への請求。書類の不備の有無が重要 提出書類の控え、添付書類一覧、配達記録、受付の記録 不備の指摘の有無、追完の期限
添付資料に不備がある提出 受付の扱いが個別に異なり得る 不備の指摘文書、追完した書類の控え いつの時点で請求として扱われるか
治療中の部分的な請求 限度額の範囲内での請求。国土交通省は、総損害額の確定前でも何度でも請求できると案内している 請求書の控え、支払決定通知 残る損害の期限まで更新されるとは限らない
支払決定通知・不払通知 審査の結果。効果は通知の内容による 通知書の原本 通知の記載内容と対象範囲
時効更新の申出 期限を延ばすための手続の申出 申請書の控え、発送・到達・受付の記録 承認されたかどうか
書面による承認 承認された範囲で効力が生じる 承認書その他の書面の原本又は確実な写し 対象者、対象権利、損害区分、新たな期限
後遺障害の異議申立て 認定内容の再審査の申立て。申立先は損害保険会社(共済組合) 異議申立書の控え、再認定の通知 被害者請求の期限が別に進行していないか
紛争処理機構への申請 自賠責の支払に関する紛争の処理手続 申請書の控え、受理・不受理の通知 機構は、申請により時効は更新されないと案内している
訴訟その他の裁判上の手続 民法第147条第1項第1号の裁判上の請求等 訴状、受領書、事件番号 誰を相手方とし、どの請求権を対象としたか

もっとも、個別のやり取りの内容によって法的な評価が変わることはあります。宛先、相手方の権限、発言や記載の内容、到達の有無、支払の趣旨などによって結論は異なりますので、絶対に効果がないと決めつけることもできません。判断が難しい場合は、資料を確認したうえで検討する必要があります。

事前認定・異議申立て・紛争処理では期限は止まらない

後遺障害の等級について事前認定を受けている、異議申立てをしている、紛争処理機構へ申請している。これらの手続が進行していることによって、自賠責への請求権や加害者本人への損害賠償請求権が当然に守られるわけではありません。

この点について、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構は、そのよくある質問において、紛争処理申請を行っても時効は更新されないとしたうえで、時効の期限が迫っている場合には自賠責保険会社(共済組合)に対して時効の更新の手続をとることを勧めています。また、事故発生から3年を経過してからの治療費の請求や、症状固定から3年を経過してからの後遺障害の請求については、時効のおそれがあるため自賠責保険会社(共済組合)に相談するよう案内しています。

他方、自賠法第23条の14第1項は、紛争処理による解決の見込みがないことを理由に紛争処理が打ち切られた場合において、申請をした当事者がその旨の通知を受けた日から1か月以内に、当該紛争処理の目的となった請求について訴えを提起したときは、時効の完成猶予に関して紛争処理の申請の時に訴えの提起があったものとみなす、と定めています。これは要件を満たす場合の「完成猶予」の規定であり、申請によって時効が「更新」されるという趣旨のものではありません。申請中だから期限を気にしなくてよい、という理解は誤りです。

なお、同機構は、相手方の任意保険会社が自賠責分を含めて交渉している一括払の場合は交渉期間中であればいつでも申請できるが、示談等で解決した後の申請はできないとも案内しています。手続の選択と期限の管理は、あわせて検討してください。

後遺障害が非該当だったときの異議申立ての判断材料を確認する

承認を受けたら、対象・新しい期限・書面の三点を確かめる

時効更新の申出をして承認を得られた場合でも、そこで終わりではありません。承認の効力がどこまで及ぶのかは、書面の記載によって決まります。次の三点を必ず確認してください。

確認する項目 確認の観点 記載がないときの対応
対象の範囲 どの事故か。どの請求権者についてか。被害者請求か加害者請求か。傷害分か、後遺障害分か、死亡分か。加害車両が複数ある場合はどの車両の自賠責か 請求先へ書面で対象範囲を確認する
新たな期限 いつまで請求できることになったか。承認日はいつか 請求先へ書面で新たな期限を確認する
書面の保存 承認書その他、承認内容を確認できる書面の原本又は確実な写しが手元にあるか 再交付又は書面での回答を求める

請求できる人が複数いるときの注意

死亡事故では、相続人のほか、被害者の配偶者、子及び父母が固有の慰謝料請求権者となり得ます。国土交通省の必要書類の案内でも、死亡事故等で請求権者が複数いる場合には、原則として一名を代理者とし、他の請求権者全員の委任状及び印鑑証明が必要とされています。これは請求手続についての取扱いですが、時効更新の効力がどの請求権者に及ぶのかは、承認の対象範囲によって決まります。代表者一名の手続で全員分が守られていると思い込まず、対象となる請求権者を書面で確認してください。

承認書を受け取ったものの、対象となる権利や新しい期限がはっきりしないという場合、書面の記載を確認したうえで、何を追加で確かめるべきかを整理することができます。事故日、症状固定日、これまでの請求記録、承認を受けた書面などをお手元にご用意のうえ、ご相談ください。

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交通事故の取扱業務を見る

自賠責を更新しても、加害者本人への請求は別に管理する

自賠責保険会社又は共済組合に対して時効更新の申出をし、承認を得たとしても、それは自賠責に対する請求権についての取扱いです。加害者本人又は保有者に対する民法上の損害賠償請求権が、当然に守られるわけではありません。人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から5年、不法行為の時から20年で時効によって消滅するとされています(民法第724条、第724条の2)。

逆もまた同じです。加害者本人との示談交渉が続いている、加害者が責任を認める書面を出した、任意保険会社から治療費が支払われている。こうした事情があっても、自賠責への被害者請求の期限が当然に更新されるとは限りません。

したがって、期限管理は二本立てで行ってください。一方に自賠責保険・共済に対する請求(区分ごと・請求権者ごと)、他方に加害者本人・保有者に対する損害賠償請求(人身損害と物的損害を分けて)を記載し、それぞれの期限と、期限を延ばすためにとった措置を記録します。加害者本人に対する請求権の期間や、催告・協議合意・調停・訴訟による完成猶予と更新については、別の記事で詳しく整理しています。

加害者本人への損害賠償請求権の時効を確認する

場面別|こんなときどう考えるか

治療が3年を超えて続いている

傷害分の起算日は事故発生の翌日とされていますので、治療中であっても期限は進みます。国土交通省は、総損害額の確定前であっても、限度額の範囲内で何度でも請求できると案内していますので、確認できた損害について先に請求しておくことも選択肢です。ただし、部分的に請求したからといって、その後に生じる損害の期限まで当然に更新されるわけではありませんので、時効更新の申出とあわせて検討してください。

症状固定から時間が経ち、後遺障害の審査中である

後遺障害分の起算日は症状固定日の翌日とされています。事前認定であれ被害者請求であれ、審査に時間がかかっている間も期限は進みます。審査中であることを理由に期限が止まるわけではありませんので、症状固定日から3年が近づいている場合は、審査の進行とは別に期限の確認が必要です。事前認定と被害者請求のどちらで進めるかについては、別の記事で整理しています。

事前認定と被害者請求の違いと選び方を確認する

異議申立てをしている

異議申立ては、認定内容の再審査を求める手続であり、申立先は自賠責保険会社(共済組合)です。申立て中であることによって、被害者請求の期限が当然に更新されるとはいえません。異議の理由を整理する作業と並行して、期限の確認を行ってください。

任意一括対応が続いている

任意保険会社が自賠責分を含めて支払う一括対応が続いている場合、被害者ご本人が自賠責へ直接請求する場面がないまま時間が経過することがあります。一括対応は加害者側の任意保険会社の運用であり、自賠責への請求とは別のものです。対応が打ち切られた場合や、示談がまとまらない場合に備えて、自賠責の期限を把握しておいてください。

死亡事故で請求できる人が複数いる

誰について時効更新の手続が必要かは、承認の対象範囲によって決まります。相続関係を戸籍で確認し、請求権者を確定させたうえで、請求先へ、誰についてどのような手続が必要かを確認してください。

加害者が分割で支払っている

加害者請求は、被害者へ現実に支払った限度でしかできません。分割払の場合、支払のたびに請求できる範囲が生じますので、支払日ごとに期限を管理する必要があります。

被害者が未成年である

自賠法第19条は、起算点を「被害者又はその法定代理人が損害及び保有者を知つた時」としています。未成年の被害者について親権者が請求する場合、国土交通省の必要書類の案内では、印鑑証明書に加えて当該未成年者の住民票又は戸籍抄本が必要とされています。また、民法第158条第1項は、時効の期間の満了前6か月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から6か月を経過するまでの間は時効は完成しない、と定めています。法定代理人の有無や、親権者自身が相手方となる関係にある場合の取扱いは、個別に確認する必要があります。

加害車両の自賠責が分からない

加害車両の自賠責保険会社又は共済組合が分からないままでは、請求も時効更新の申出もできません。交通事故証明書には自賠責保険関係の記載欄がありますので、まず交通事故証明書を取り寄せて確認してください。保有者が判明しない場合や、加害車両が自賠責に加入していない場合は、政府保障事業へのてん補請求という別の制度を検討することになります。

資料は早めに集める|交通事故証明書には交付期限がある

期限を確認するには、日付を特定できる資料が必要です。ここで見落とされやすいのが、資料そのものにも取得の期限や日数があるという点です。

交通事故証明書は自動車安全運転センターが交付しており、交付手数料は1通につき1,000円、申請から手元に届くまで通常10日程度かかるとされています。そして、人身事故については事故発生から5年、物件事故については事故発生から3年を経過したものは、原則として交付されないとされています。時効更新の承認を受けて期限が先に延びても、交通事故証明書の交付期限まで延びるわけではありません。資料は、期限が近づいてからではなく、早い段階で集めておいてください。

次の資料のうち、お手元にあるものを整理してください。

  • 交通事故証明書
  • 自賠責保険証明書、又は証明書番号が分かる資料
  • 事故日、症状固定日、死亡日が分かる資料(診断書、後遺障害診断書、死亡診断書など)
  • 被害者、法定代理人、相続人など請求権者が分かる資料(戸籍謄本、住民票など)
  • 加害者請求の場合の支払日、支払額、受領を示す資料(示談書、領収書、振込記録)
  • これまでに提出した自賠責の支払請求書の控え
  • 添付書類の一覧、発送記録、配達記録、受付印、受付の通知、請求番号
  • 支払決定通知、不払の通知、後遺障害等級の認定通知
  • 異議申立書、紛争処理の申請書その他の手続書類
  • 時効更新申請書(時効中断申請書)の控え
  • 保険会社又は共済組合の時効更新の承認書
  • 承認の対象事故、請求者、損害区分、承認日、新たな期限が分かる資料
  • 担当部署、担当者、電話の日時、説明内容を記録したメモ
  • 加害者又は任意保険会社との交渉、支払、責任の承認に関する書面

期限管理表に書き込む十項目

次の項目を一覧にして、書面又は表計算ソフトで管理してください。個別の事情によって記載すべき内容は変わりますので、資料を確認しながら埋めていくことをおすすめします。

項目 記載する内容
請求権者 氏名。本人・法定代理人・相続人の別
請求先 自賠責保険会社又は共済組合の名称、証明書番号、担当部署
請求の区分 被害者請求(傷害・後遺障害・死亡)、加害者請求、仮渡金の別
起算日 事故日、症状固定日、死亡日、支払日のいずれか。その翌日が起算日
当初の期限 起算日から3年(平成22年3月31日以前の事故は2年)
これまでの請求 提出日、内容、受付の記録、支払・不払の通知
時効更新の申出 申出日、提出方法、到達の記録
承認の有無と内容 承認日、対象範囲、新たな期限、書面の保管場所
加害者側への請求 相手方、請求内容、期間、とった措置
次の確認予定日 期限の相当前に設定したリマインダーの日付

相談を検討したい場面と、当日お持ちいただく資料

次のような場合は、資料を確認したうえで、期限、対象となる権利、手続の順序を整理しておくことが有用です。弁護士に相談することで結果が保証されるわけではありませんが、何がいつまでにできるのか、どの資料が足りないのかを明確にすることができます。

なお、計算上は期間が経過しているように見える場合でも、これまでの請求や支払の経過、既に受けた承認の有無によって結論が変わることがあります。自己判断で断念する前に、資料を確認することをおすすめします。

  • 事故日、症状固定日、死亡日から3年が近づいている、又は既に経過している可能性がある
  • 時効更新の承認書を受け取ったが、対象となる権利や新たな期限がはっきりしない
  • 請求権者が複数いる、加害車両が複数ある、加害者と保有者が異なるなど、関係者が複雑である
  • 事前認定、異議申立て、紛争処理の手続と、時効との関係が分からない
  • 任意一括対応や示談交渉が長引き、自賠責への請求をしないまま時間が経過している
  • 平成22年3月31日以前の事故で、請求できる期間が2年であった可能性がある
  • 加害者が分割で賠償金を支払っており、加害者請求の期限管理が必要である
  • 被害者が未成年である、又は成年後見が問題になっている

ご相談の際は、お手元にある範囲で、交通事故証明書、診断書、後遺障害診断書、これまでの請求書の控えと受付の記録、支払又は不払の通知、時効更新の申請書と承認書、保険会社からの書面をお持ちいただくと、状況を確認しやすくなります。すべてそろっていなくてもご相談いただけます。

よくあるご質問

自賠責の時効は、必ず事故から3年ですか。

請求の区分によって起算日が異なります。国土交通省の案内では、被害者請求の傷害分は事故発生の翌日、後遺障害分は症状固定日の翌日、死亡分は死亡日の翌日、加害者請求は損害賠償金を支払った日の翌日が起算日とされています。また、平成22年3月31日以前に発生した事故については、請求できる期間が2年以内とされています。個別事情により結論は異なりますので、資料を確認して判断する必要があります。

後遺障害分の3年は、いつから数えるのですか。

実務案内では、症状固定日の翌日から3年以内とされています。症状固定は、症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行ってもその医療効果が期待できなくなった時をいい、医師が判断するものとされています。症状固定日がいつかは、診断書や後遺障害診断書の記載を確認する必要があります。

保険会社へ電話をしていれば、時効は止まっていますか。

事故の連絡や請求書式の取寄せは、それ自体が自賠責の支払請求として受け付けられたことや、時効更新が成立したことを当然に意味するものではありません。もっとも、宛先、相手方の権限、やり取りの内容、書面の有無によって法的な評価は変わり得ます。通話の日時や内容の記録を残したうえで、請求として受け付けられているかを請求先に確認してください。

事前認定・異議申立て・紛争処理の申請をしていれば、期限は止まりますか。

審査や申立てが進行していることによって、自賠責への請求権の期限が当然に更新されるわけではありません。自賠責保険・共済紛争処理機構も、そのよくある質問において、紛争処理申請を行っても時効は更新されないとしたうえで、期限が迫っている場合には自賠責保険会社(共済組合)に対して時効の更新の手続をとることを勧めています。なお、自賠法第23条の14第1項は、紛争処理が打ち切られた旨の通知を受けた日から1か月以内に訴えを提起した場合の完成猶予を定めていますが、これは要件を満たす場合の規定であり、申請によって時効が更新されるという趣旨のものではありません。期限が近い場合は、審査の結果を待たずに、請求先へ時効更新の手続を確認することを検討してください。

時効更新申請書を出せば、必ず延長されますか。

申出をしたことと、承認されることは別です。承認されるかどうか、どの範囲で効力が生じるかは、請求先の判断と書面の記載によります。時効が完成した後の申出が受け入れられるとも限りません。期限が近い場合は、余裕をもって請求先へ手続を確認してください。

承認書を受け取った後は、何を確認すればよいですか。

対象となる事故、請求権者、請求の区分と損害区分、承認日、新たな期限の五点を確認してください。書面に新たな期限の記載がない場合は、請求先へ書面で確認することをおすすめします。書面は原本又は確実な写しを保存し、次の期限をリマインダーに登録してください。

自賠責について承認を得れば、加害者本人への請求も守られますか。

自賠責保険会社又は共済組合に対する請求権と、加害者本人又は保有者に対する損害賠償請求権は、根拠も期間も別のものです。自賠責側の手続によって、加害者本人に対する請求権が当然に守られるとは限りません。二つを別に管理し、それぞれについて必要な措置を検討してください。

請求できる人が複数いる場合は、どうすればよいですか。

死亡事故では、相続人や遺族固有の慰謝料請求権者が複数となることがあります。請求手続については、国土交通省の案内でも、原則として一名を代理者とし、他の請求権者全員の委任状及び印鑑証明が必要とされています。時効更新の効力がどの請求権者に及ぶかは承認の対象範囲によりますので、誰について手続が必要かを請求先へ確認し、承認書の記載で対象者を確かめてください。

まとめ

  • 自賠責への請求は、加害者請求(自賠法第15条)、被害者請求(同法第16条第1項)、仮渡金請求(同法第17条第1項)に分かれ、根拠も起算日も異なります。
  • 被害者請求と仮渡金請求の時効は自賠法第19条が定めており、条文上の起算点は「被害者又はその法定代理人が損害及び保有者を知つた時」です。実務案内では、傷害は事故発生、後遺障害は症状固定、死亡は死亡の各翌日から3年、加害者請求は支払った日の翌日から3年とされています。
  • 期間は初日不算入で数えます(民法第140条、第143条第2項)。平成22年3月31日以前の事故は2年です。
  • 期限までに請求できない見込みであれば、期限が来る前に請求先へ時効更新の手続を確認してください。電話連絡、書類の取寄せ、示談交渉、事前認定、異議申立て、紛争処理の申請は、それ自体では時効更新になりません。
  • 承認を得た場合は、対象範囲、新たな期限、書面の保存の三点を確認してください。記載がなければ書面で確認します。
  • 自賠責への請求と、加害者本人・保有者への損害賠償請求は、別々に期限を管理してください。
  • 交通事故証明書には交付の期限と日数がありますので、資料は早めに集めてください。
  • 次の行動は、交通事故証明書と診断書で起算日を確定させること、これまでの請求記録を集めること、請求先へ時効更新の手続を確認することです。

自賠責の期限は、請求の区分ごと、請求権者ごとに確認する必要があります。ご相談いただければ、事故日、症状固定日、これまでの請求記録、承認を受けた書面などを確認したうえで、期限、対象となる権利、必要な手続の順序を整理することができます。示談や申請の前に、一度確認しておくことをおすすめします。

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監修者・執筆者

藤井 貴之(ふじい たかゆき)

弁護士・公認会計士/兵庫県弁護士会所属・日本公認会計士協会兵庫会所属
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士

交通事故、相続、離婚、債務整理、企業法務等に対応しています。交通事故については、法律の観点に加えて、損害の算定や保険実務の観点も踏まえて対応しています。公益財団法人日弁連交通事故相談センターの理事を務めた経験があります(平成30年6月から令和3年3月まで)。

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参考資料

本記事は、令和8年8月時点で確認できた法令及び公表資料に基づく一般的な整理です。請求できる範囲、起算日、期限を延ばすための手続の可否は、事故態様、受傷内容、治療経過、請求権者の範囲、これまでの請求内容、請求先の運用その他の個別事情により異なります。手続の名称、書式、提出方法は請求先によって異なりますので、必ず請求先の現行案内で確認してください。症状固定の時期や検査の要否といった医学的な判断は主治医に、期限の管理と手続の選択は資料を確認した弁護士にご相談ください。

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