交通事故で膝を強く打った、バイクや自転車で転倒した——治療やリハビリを終えた後も、「膝がぐらつく」「歩いていて膝がガクッと崩れる」「階段や坂道が怖い」「膝の内側が痛む」という状態が続いている方がいらっしゃいます。診断名として後十字靭帯(PCL)損傷、内側側副靭帯(MCL)損傷と説明された方も少なくありません。
この二つは、どちらも膝の不安定性が問題になり得る点で共通しますが、支えている方向も、確認する診察も、治りやすさも異なります。前十字靭帯(ACL)について書かれた解説をそのまま当てはめると、必要な検査や資料を取り違えるおそれがあります。また、膝の不安定性は等級表に項目として書かれておらず、一定の場合に関節の機能障害の等級に準ずるものとして評価が検討される仕組みになっています。
この記事で分かること
- 後十字靭帯と内側側副靭帯が、それぞれどの方向の動きを支え、どのような機序で損傷するか
- 膝の不安定性(動揺関節)が第8級・第10級・第12級に準ずる関節の機能障害として検討される仕組み
- 硬性補装具(膝装具)と市販のサポーターの違いと、装具に関する資料の役割
- 「常に硬性補装具を必要とするもの」という同じ文言が、別の障害では違う等級に結びつくこと
- 可動域制限や痛みが併存する場合、人工膝関節を入れた場合、金属が残っている場合の考え方
- 後遺障害の申請前・異議申立て前・示談前に確認しておきたい資料
結論の方向を先に申し上げます。傷病名や装具の使用、手術の有無だけで等級が決まるわけではありません。症状固定の時点でどのような不安定性・可動域制限・痛みが残り、それが診療記録や検査結果でどこまで裏づけられているかによって、評価は個別に検討されます。以下は一般的な整理であり、見込みを断定するものではありません。
膝が大きく変形している、足先の感覚がない、足の色が悪い、強い腫れや痛みが急に生じたといった場合は、資料の準備や法律相談よりも先に、速やかに医療機関で評価を受けてください。複数の靭帯が同時に損傷した場合や膝関節が脱臼した場合には、神経や血管の損傷を伴うことがあると説明されています。なお、不安定性を確認する検査は医師が行うものです。ご自身やご家族が膝を動かして確かめようとすることはお控えください。
膝の不安定性や痛みが残っている場合、後遺障害の見通しは、画像・診察所見・装具に関する資料の内容によって変わります。後遺障害診断書の作成前や示談への署名前に、資料と論点を一度整理しておくことをおすすめします。
最初に押さえたい結論
| よくある理解 | 実際の考え方 |
|---|---|
| 傷病名がつけば等級が付く | 傷病名では決まりません。症状固定時に残っている不安定性・可動域制限・痛みと、それを裏づける資料を確認したうえで検討されます。 |
| PCLもMCLも同じ膝の靭帯だから同じ扱い | 支えている方向が異なります。PCLは脛骨が後ろへずれる動き、MCLは膝が外側へ折れる方向(外反)の動きを制動するとされ、確認する診察も別のものです。 |
| 動揺関節という等級がある | 等級表に独立した項目はありません。関節の機能障害の等級に「準ずるもの」「相当するもの」として評価が検討されます。 |
| 装具を長時間つけていれば上の等級になる | 装着時間の長短だけで決まるものではありません。装具の構造、医学的な必要性、処方の経緯、使用の実態が確認されます。 |
| MRIで損傷が写っていれば足りる | MRIは損傷の存在を示す資料です。症状固定時にどの方向へどの程度動いてしまうかは、診察所見や必要に応じて実施された検査で確認されます。 |
| 症状が複数あれば等級は足し算される | 単純な加算にはなりません。評価が重複していないか、一方が他方から派生していないかを整理したうえで検討されます。 |
後十字靭帯(PCL)損傷とはどのようなけがか
後十字靭帯(PCL)は膝関節の中にある靭帯です。慶應義塾大学病院の解説では、大腿骨に対して下腿(脛骨側)が後方へ動くことを制動する作用のほか、膝を曲げるときの動きの誘導や、膝が反り返りすぎること(過伸展)を防ぐ働きが主な機能であると説明されています。膝が前へずれる動きを抑え、ひねりに対する回旋の安定性に関わる前十字靭帯(ACL)とは、担っている方向が異なります。
交通事故では、膝の前面に強い力が加わる場面が問題になりやすいとされます。医療機関の解説では、乗用車の事故で膝がダッシュボードに打ちつけられる、いわゆるダッシュボード損傷や、バイクでの転倒によって膝を打ちつけることで損傷する、と説明されています。もっとも、これは典型例であり、この形でしか生じないという意味ではありません。
急性期には痛みと腫れ、膝の動かしにくさが生じ得ます。時間が経ってから、膝の不安定感、階段の上り下りのしにくさ、長く同じ姿勢をとった後の痛みが残ることがあります。日本整形外科学会は、膝の靭帯には痛みを感じにくいものもあること、靭帯損傷があっても一〜二か月以内に日常生活に支障がない程度まで回復することが多く、歩けるようになったことが治癒を意味するとは限らないことを指摘しています。治療については、単独損傷であれば大腿四頭筋の訓練を中心とした保存療法が行われることが多いとされ、時間が経っても不安定性が残る場合や合併損傷がある場合に再建術が検討される、と説明する医療機関の資料があります。手術の適応やリハビリの内容は主治医が判断する事項です。
内側側副靭帯(MCL)損傷とはどのようなけがか
内側側副靭帯(MCL)は膝関節の外側にある靭帯(関節外靭帯)で、膝の内側で横方向の安定性を担っています。膝が外側へ折れ曲がる方向、すなわち外反の方向に加わる力に対する主要な制動構造とされ、欧州整形外科・外傷学会連合の学術誌に掲載された総説では、浅層の内側側副靭帯が外反ストレスに対する主たる安定化構造であると整理されています。交通事故では膝の外側から力を受けて外反が強制される場面が典型として想定されますが、屈曲や下腿の外旋を伴う機序も報告されています。事故態様、接触部位、打撲痕の位置は、後で因果関係が争われたときの手掛かりになりますので、事故直後の写真や記録が残っているかを確認しておくと役立ちます。
急性期には膝の内側の痛みと圧痛、腫れが生じ得ます。程度によっては、横方向のぐらつきや、膝が外に開くような不安感が残ることがあります。損傷の程度は一般に一度(部分断裂)から三度(完全断裂)に分類され、医療機関の解説では、圧痛はあるが不安定性がないもの、膝を曲げた位置でのみ不安定性がみられるもの、伸ばした位置と曲げた位置の両方で不安定性がみられるもの、という整理が示されています。
治療については、保存療法が基本で予後は比較的良好とする説明が一般的です。慶應義塾大学病院の解説では、関節外靭帯は関節内靭帯(十字靭帯)に比べて治癒能力が高く、単独損傷であれば装具療法や活動の制限によって回復することが多いとされています。日本整形外科学会も、長期のギプス固定を避け、装具やサポーターを用いて早期から運動を開始する機能的治療が主体になっていると説明しています。他方で、脛骨付着部からの引き抜き損傷など、早期の修復術が検討される場合もあります。
PCL損傷とMCL損傷はどこが違うのか
後遺障害の資料を整えるうえでは、どちらの靭帯について、どの方向の不安定性が問題になっているのかを取り違えないことが出発点になります。
| 項目 | 後十字靭帯(PCL) | 内側側副靭帯(MCL) |
|---|---|---|
| 位置 | 膝関節の中(関節内靭帯) | 膝関節の内側(関節外靭帯) |
| 主に担う方向 | 脛骨が後ろへずれる動きの制動。屈曲の誘導、過伸展の防止にも関わる | 膝が外側へ折れる方向(外反)の制動。横方向の安定性 |
| 想定される受傷機序 | 膝を曲げた状態で前面に強い力を受ける場面(ダッシュボード損傷など)、膝を打ちつける転倒 | 膝の外側から力を受け、外反が強制される場面。屈曲・外旋を伴う機序 |
| 主に用いられる診察 | 後方引き出しテスト、後方落ち込み徴候など、後方への不安定性をみるもの | 外反ストレステスト。曲げた位置と伸ばした位置での所見の違いをみる |
| 治癒能力の一般的説明 | 関節内靭帯であり、治癒能力は低いとされる | 関節外靭帯であり、関節内靭帯に比べて治癒能力は高いとされる |
| 残りやすい訴え | 膝の不安定感、階段昇降のしにくさ、同じ姿勢の後の痛み | 膝の内側の痛み、横方向のぐらつき、膝が外に開く不安感 |
前十字靭帯(ACL)の診察で用いられるラックマンテストや前方引き出しテストは、脛骨が前へずれる動きをみるもので、PCLの評価に用いるものではありません。内反ストレステストも、膝が内側へ折れる方向をみるもので、MCLの評価に用いるものではありません。診断書や診療録の検査名と、争点になっている不安定性の方向が対応しているかを確認してください。前十字靭帯損傷そのものの受傷・治療・将来のリスクは、前十字靭帯損傷と膝の後遺障害・将来リスクの解説を確認するで扱っています。
なお、交通事故では複数の靭帯が同時に損傷することがあります。聖路加国際病院の解説では、膝の複合靭帯損傷は交通事故や転落などの高エネルギー外傷で生じやすく、保存療法での回復は困難で手術治療を要することが多いとされ、診断は不安定性を確認する診察、MRI、ストレスX線撮影を組み合わせて行うと説明されています。半月板損傷、関節軟骨損傷、脛骨高原骨折などの合併もあり、その場合は症状の原因がどの組織にあるかが分かりにくくなるため、どの枠組みで検討すべきかの整理が必要になります。
膝の不安定性(動揺関節)が後遺障害として評価される仕組み
等級表に項目がないのに評価されるのはなぜか
関節の支えが失われ、正常な範囲を超えて動いてしまう状態は、後遺障害の実務で「動揺関節」(関節の不安定性)と呼ばれています。自賠責保険の後遺障害等級は自動車損害賠償保障法施行令の別表第一・別表第二に定められていますが、そこに「動揺関節」という項目はありません。それでも評価が検討されるのは、次の三つの定めが段階的につながっているためです。
| 段階 | 定め | 内容 |
|---|---|---|
| 第一 | 施行令別表第二 備考第六号 | 「各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であつて、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする」。表にない障害でも、掲げられた障害に相当する程度であれば、その等級として扱う仕組みです。 |
| 第二 | 自賠責保険の支払基準(国土交通省・金融庁告示) | 後遺障害による損害の項で、「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」と定めています。 |
| 第三 | 労災保険の障害等級認定基準(厚生労働省) | 下肢の障害の章に「準用」の定めを置き、下肢の動揺関節について、硬性補装具の必要性の程度に応じ、関節の機能障害の等級に「準ずる」扱いを示しています。 |
労災保険の認定基準は、それ自体が自賠責保険を直接規律する法令ではなく、施行令の「相当」の枠組みと支払基準による準拠を通じて参照される関係にあります。また、この「準用」は、複数の障害を組み合わせて等級を繰り上げる「併合」や、事故前から障害があった場合の「加重」とは別の考え方です。四つの用語の根拠の違いと使い分けは、後遺障害の併合・加重・準用・相当の違いと確認手順を見るで整理しています。
下肢は第8級・第10級・第12級に準ずる三つの区分
労災保険の障害等級認定基準は、下肢の動揺関節について、それが他動的なものであるか自動的なものであるかにかかわらず、次の基準によって等級を認定するとしています。準ずる先は、別表第二に定める下肢の三大関節(股・膝・足首)の機能障害の等級です。
| 認定基準の区分 | 準ずるとされる関節の機能障害 | 読み方の目安 |
|---|---|---|
| 常に硬性補装具を必要とするもの | 第8級に準ずる(別表第二 第8級7号「一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの」) | 日常の動作全般で、硬性補装具による支えが必要とされる状態 |
| 時々硬性補装具を必要とするもの | 第10級に準ずる(同 第10級11号「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」) | 場面によっては硬性補装具による支えが必要とされる状態 |
| 重激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としないもの | 第12級に準ずる(同 第12級7号「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」) | 重い作業など膝に強い負荷がかかる場面に限って、硬性補装具が必要とされる状態 |
第12級の文言は二重否定で読みにくいのですが、重い作業などのときに限って硬性補装具を必要とする程度、という趣旨です。なお同じ認定基準は、動揺関節とは別の項目として、習慣性脱臼および弾発ひざを第12級に準ずる関節の機能障害として取り扱うとしています。動揺関節の区分の一つではありません。
括弧内の第8級7号・第10級11号・第12級7号は、準ずる先となる可動域による機能障害の号です。動揺関節そのものにこの号数が付くわけではありません。認定書面上の表記は事案ごとの認定票でご確認ください。この定めは「下肢の動揺関節」についてのものですので、膝だけでなく股関節・足関節にも及びます。上肢(肩・肘・手首)は区分が異なり、常に必要とするものが第10級に準ずる、時々必要とするものが第12級に準ずるという二区分で、「重激な労働等の際以外には…」の区分はありません。肘や肩の解説をそのまま膝に当てはめないようご注意ください。
この柱書は実務上見落とされやすい点です。後述するとおり可動域の測定は原則として他人が動かしたときの値によりますが、動揺性については、検査者が動かしたときに現れるものか、ご本人が動かしたときに現れるものかを問わないという趣旨の定めになっています。
硬性補装具(膝装具)と市販のサポーターの違い
「硬性補装具」について、労災の認定基準自体は詳細な定義を置いていません。構造を整理する公的な手掛かりとしては補装具の種目等に関する厚生労働省の基準があり、膝装具を「大腿部から下腿部に及ぶ構造を持つもので、膝関節の運動を制御するもの」としたうえで、硬性(陽性モデルを用いて成形されたもの。補強用の支柱等が使用されているものを含む)、両側支柱付(下肢の長軸に沿って内外の両側に支柱をもつもの)、片側支柱付、軟性(軟性材料を主材料としたもの)に区分しています。
この補装具の基準は障害者福祉の制度に基づくもので、後遺障害の認定制度とは別の制度です。硬性・軟性という構造の違いを理解する手掛かりとして紹介しています。実際にどの区分に当たるかは、「サポーター」「支柱入り」「ヒンジ付き」といった呼び方や商品名ではなく、構造、処方や製作の経緯、医師の指示内容を資料で確認する必要があります。
「常に」「時々」を装着時間や回数で区切る公的な数値基準は示されていません。装着時間の長短だけで等級が決まるものではなく、症状固定時の膝の状態を前提に、医学的な必要性、処方や指示の経緯、実際の使用状況を資料で総合的に確認することになります。「認定を受けるために装具をつくる」という発想ではなく、実際の症状と診療経過、装具の必要性が正確に記録されているかを確認するという視点が大切です。市販の軟性サポーターしか使っていない場合も、装具の構造と処方の経緯、硬性補装具の必要性についての主治医の判断を確認するほか、動揺関節としての評価が難しいときでも可動域制限や神経症状など別の観点からの評価が残ることがあります。
「常に硬性補装具を必要とするもの」には二つの意味があります
解説記事を読んでいると、「常に硬性補装具を必要とするもの」という同じ文言が、第8級に準ずるものと説明されていたり、第7級10号の要件として説明されていたりします。どちらかが誤りというわけではなく、労災保険の認定基準が、下肢について、別の二つの障害に同じ文言を用いているためです。
| どの障害についてか | 対象となる状態 | 結びつく等級 |
|---|---|---|
| 動揺関節(関節のぐらつき) | 下肢の三大関節の支えが利かず、正常な範囲を超えて動いてしまう状態 | 第8級に準ずる関節の機能障害 |
| 偽関節(骨のゆ合不全) | 大腿骨や脛骨などの骨幹部等で、骨折した骨がつかないまま異常な動きが残っている状態 | 別表第二 第7級10号「一下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの」の要件の一つ |
関節そのものの支えが利かずにぐらつくのが動揺関節、骨折した骨がつかずに骨の途中で動いてしまうのが偽関節で、別の障害です。なお、下肢の偽関節には「時々硬性補装具を必要とするもの」に相当する区分が置かれていません(動揺関節には前掲のとおり「時々」の区分があります)。骨がつかない状態が続いている場合の考え方は、大腿骨骨幹部骨折の偽関節と第7級・第8級の分かれ目を確認するで解説しています。
可動域制限・痛みなどの神経症状が併存する場合
膝の可動域は屈曲と伸展を合計して健側と比べます
膝の曲げ伸ばしが制限されている場合には、関節の機能障害として可動域による評価が検討されます。認定基準は、関節可動域について「他動運動でも自動運動でも測定できるが、原則として他動運動による測定値を表記する」としたうえで、他動運動による測定値が適切でないものは自動運動による測定値を参考とするとしています。また、屈曲と伸展のように同一面にある運動は、両者の可動域角度を合計した値で制限の程度を評価するとされ、測定は通常五度刻みで行うとされています。屈曲だけ、伸展だけを取り出して健側と比べるのではない点にご注意ください。
可動域による機能障害の区分は、「関節の用を廃したもの」が強直、完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態、及び人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち可動域が健側の二分の一以下のもの、「関節の機能に著しい障害を残すもの」が可動域が健側の二分の一以下のもの及び人工関節等のうちそれ以外のもの、「関節の機能に障害を残すもの」が可動域が健側の四分の三以下のものとされています。人工膝関節を入れた事実だけで等級が決まるわけではなく、置換後の可動域が確認されます。また、骨折の治療で用いた金属が残っている場合について、認定基準は、それが機能障害の原因となる場合には除去を待って認定を行うとしています。金属が入っていれば常に認定ができないという意味ではなく、抜去の要否と時期は主治医が判断する事項です。
後遺障害の解説では、「主要運動の可動域制限が基準にわずかに達しない場合には、参考運動の制限を考慮する」という取扱いが紹介されることがあります。もっとも、膝関節の主要運動は屈曲・伸展であり、参考運動は定められていません。股関節には参考運動として外旋・内旋が定められていますが、膝関節と足関節には、この救済の枠組みがそのままは当てはまりません。
痛み・しびれなどの神経症状
不安定性や可動域制限として評価できる程度に至らない場合でも、痛みやしびれが残っているときは、神経症状として評価が検討されることがあります。別表第二は、第12級13号に「局部に頑固な神経症状を残すもの」、第14級9号に「局部に神経症状を残すもの」を掲げています。この枠組みでは、症状の一貫性・連続性、他覚的所見の有無、治療経過の記録が確認されます。
労災保険の障害等級表と自賠責保険の後遺障害等級表では、同じ内容でも号数の表記が異なることがあります。局部の頑固な神経症状は、労災では第12級の12、自賠責では第12級13号です。診断書や認定結果を読むときは、どちらの制度の表記かをご確認ください。
同じ膝に複数の症状が残った場合
同じ膝に不安定性・可動域制限・痛みが同時に残ることはよくあります。もっとも、これらを機械的に足し合わせて等級を繰り上げられるとは限りません。同一の部位・機能に関する評価が重複していないか、ある障害が他の障害から通常派生する関係にないか、上位の評価に含めて考えるべきではないかといった整理が必要です。複数の症状があれば当然に併合され、慰謝料が単純に加算される、というものではありません。
動揺性を裏づける医学資料と証拠
PCL・MCLそれぞれの診察と検査
PCLについては、脛骨が後方へずれる動きを確認する診察が行われます。代表的なものが後方引き出しテストで、膝を曲げた状態で脛骨を後方へ押し、後方へのずれを健側と比較します。また、仰向けで両膝を立てたときに患側の脛骨が重力によって後方へ落ち込む所見(後方落ち込み徴候)が確認されることがあります。このほか、大腿四頭筋を収縮させたときに後方へずれた脛骨が戻るかどうかをみる検査が用いられることもあります。
MCLについては、外反ストレステストが用いられます。膝に外反方向の力を加え、内側がどの程度開くか、動きの終わりに硬い抵抗(終末感)があるかを健側と比較します。この検査は膝を約三〇度曲げた位置と伸ばした位置の両方で行われることがあり、それぞれ意味が異なるとされています。前掲の総説では、膝を約三〇度曲げた位置での外反不安定性は浅層の内側側副靭帯の損傷を示唆し、完全に伸ばした位置でも不安定性がみられる場合には、浅層の内側側副靭帯に加えて後内側の関節包など他の構造も損傷している可能性がある、と整理されています。
徒手検査は医師が診察として行うものです。ご自身で試す方法は説明していませんし、おすすめもしません。検査の要否・方法・時期は主治医が判断する事項です。患者側でできることは、どのような場面でぐらつくのか、いつ膝が崩れるのか、どの動作で痛むのかを診察時に具体的に伝えることです。特定の等級を得ることを目的として、医師に所見や文言を求めることは適切ではありません。
資料ごとの役割と限界
後遺障害の申請では、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所が提出書類に基づいて調査を行い、判断が困難な事案は地区本部や本部、さらに外部の弁護士や医師が参加する審査会で審査されるとされています。書面による判断が中心になるため、資料に何が記録されているかが重要になります。
| 資料 | 主に示すこと | 限界 |
|---|---|---|
| 事故直後の診断書・救急記録・初診時所見 | 受傷の内容と事故との結びつき | その後の経過は別途確認が必要です |
| 単純X線 | 骨折、剥離骨片、関節の変化 | 靭帯そのものは写りません |
| MRI | 靭帯の損傷の有無・部位、半月板・軟骨・骨の合併損傷 | 損傷の存在と、症状固定時に残る動揺性の程度とは別の問題です |
| 診察で確認された不安定性の所見・左右差 | 症状固定時にどの方向へどの程度動いてしまうか | PCLとMCLで用いる診察が異なります。記録がなければ後から再現できません |
| ストレスX線撮影 | 力を加えた状態での健側との差を画像で示すこと | 撮影条件や計測方法は資料により異なります。実施の要否は主治医の判断です |
| 可動域の測定 | 屈曲・伸展の角度と健側との比較 | 原則として他動運動による測定値。痛みの影響があればその旨の記載を確認します |
| 手術記録・関節鏡所見・リハビリテーション記録 | 損傷の程度、修復の内容、症状の経時的な変化 | 手術を受けたこと自体で等級が決まるものではありません |
| 装具の処方箋・製作指示書・適合の記録・使用状況 | 装具の種類、処方の経緯、どの場面でどの程度使用しているか | 処方や購入の事実、装着時間の長短だけで区分は決まりません |
膝靭帯損傷の診断におけるストレスX線撮影の精度と信頼性については、国際的にも一致した基準が確立していないとする系統的レビューがあります。このため本記事では数値基準を掲げていません。「何ミリメートル以上なら何級」といった換算はできないとお考えください。
後遺障害診断書で確認したいこと
後遺障害診断書は、症状固定時の状態を伝える中心的な資料です。膝の不安定性が問題になる事案では、可動域の数値だけでなく、診察で確認された不安定性の方向と程度、左右差、硬性補装具の医学的な必要性と使用状況が正確に記録されているかを確認しておくことが大切です。記載が不足している場合には、主治医への医療照会という方法で補うことも検討されます。
ここでいう確認は、認定を得るために特定の文言を医師に記載してもらうという意味ではありません。実際に診察・検査で確認された事実、医師が判断した装具の必要性、実際の使用状況が資料に正確に反映されているかを見るという趣旨です。後遺障害診断書の作成前に整えておきたい資料や画像検査については、後遺障害診断書の作成前に確認したい資料と画像検査の注意点を見るで解説しています。事前認定と被害者請求という申請方法の違いも、同じ記事で整理しています。
どの所見や装具の資料がそろっているか、何が不足しているかは、事案ごとに異なります。当事務所では、診断書、画像、装具に関する資料を確認したうえで、後遺障害の申請前に確認しておきたい事項を整理するお手伝いをしています。
事故との因果関係と、仕事・生活への影響
事故と靭帯損傷、そして残存している障害との因果関係が争われることがあります。確認しておきたい資料は、交通事故証明書や事故状況が分かる資料、車両や膝周辺の打撲痕の写真、救急搬送記録、初診時の診療録と初期の腫脹・疼痛・歩行障害の記録、MRIの撮影時期と所見、診察や検査の実施時期と方法、手術記録などです。診断が遅れた事案について、遅れたことだけで直ちに因果関係が否定されるわけでも、認められるわけでもありません。事故前から膝の疾患やスポーツ歴、手術歴がある場合も、既往があることだけで因果関係が否定されたり一律に減額されたりするわけではなく、事故前の診療録や画像で受傷前の状態を確認することになります。
膝の安定性は、立つ・歩く・支えるという動作の基礎になります。立ち仕事、階段の昇降、しゃがみ込み、膝をつく作業、重量物の運搬、長時間の歩行、運転、農作業や介護など、影響が生じ得る場面は職種によって異なります。大切なのは、「どの作業が、どの方向の不安定性によって、あるいは装具による制限によって、事故前と比べてどの程度行いにくくなったか」を具体的に整理することです。職務記述書、勤務先からの説明、配置転換や職務軽減の記録、欠勤・早退の記録、給与明細、源泉徴収票、確定申告書などが手掛かりになります。
なお、自賠責保険の支払基準による額と、示談交渉や裁判で問題となる民事上の損害額とは、制度も適用の場面も異なります。等級が認定されれば、等級表に対応する労働能力の喪失率と喪失期間がそのまま認められる、という関係にはありません。硬性補装具を継続して使用する見込みがある場合には将来の装具費が問題になることがありますが、当然に全額が認められるものではなく、医学的必要性が将来にわたって続く見込みか、どの程度の期間ごとに作り替えが必要とされているかが検討されます。将来の変形性膝関節症のリスクをどう考えるかは、前十字靭帯損傷と膝の後遺障害・将来リスクの解説で扱っています。
よく問題になるケース
| 場面 | 確認したい視点 |
|---|---|
| MRIで靭帯損傷は確認されているが、不安定性の検査記録がない | 診察所見の有無、実施日と実施肢位、左右差の記載。PCLとMCLのどちらについての所見か。追加の検査の要否は主治医にご相談ください |
| 保存療法で治療し、手術を受けていない/手術後も膝崩れが残る | 手術の有無で結論が決まるわけではありません。手術記録、術後の経過、症状固定時の所見と装具の必要性に関する資料が中心になります |
| 市販のサポーターしか使っていない/装具の処方が症状固定の直前だった | 装具の構造と処方の経緯。硬性補装具の必要性についての主治医の判断。処方以前の診療録に不安定性の訴え・所見があるか。可動域制限や神経症状など別の評価の可能性 |
| 可動域は戻ったが、不安定性や痛みが残っている | 可動域の枠組みで評価が難しくても、動揺関節や神経症状の枠組みでの検討余地。所見の記録の有無 |
| 複数の靭帯、半月板、軟骨の損傷を合併している | それぞれの等級が自動的に加算されるわけではありません。評価の重複と派生関係の整理が必要です |
| 膝に金属が入ったままである | 金属が機能障害の原因になっているか。抜去の要否と時期についての主治医の見通し。申請の時期をどう置くか |
| 非該当・想定より低い等級だった | 認定理由の確認。不安定性の所見、装具の必要性と使用状況、事故との因果関係について、提出資料に不足がなかったか |
申請前・示談前に確認したいこと
症状固定の前・後遺障害診断書の作成前
- ぐらつく場面(動作・頻度・程度)を診察時に具体的に伝え、所見が通院のたびに記録されているか
- 不安定性の内容(方向・程度・左右差)が後遺障害診断書に記載される見込みか
- 硬性補装具の必要性と使用状況についての記載があるか
- 可動域の測定値(屈曲・伸展)が健側とあわせて記載されているか
- 痛み・しびれなどの神経症状が別項目として記載されているか
申請の前
- 画像資料(X線・MRI等)と読影報告書、手術記録・関節鏡所見・リハビリテーション記録を取り寄せたか
- 装具の処方箋・製作指示書・適合の記録・領収書がそろっているか
- 膝に金属が残っている場合、抜去の見通しを主治医に確認したか
- 仕事の内容と支障が分かる資料を用意したか
認定結果を受け取った後・示談の前
- 認定理由を読み、何がどう判断されたかを確認したか
- 不足していた資料が何かを特定したか(同じ資料の再提出では判断が変わるとは限りません)
- 損害項目(後遺障害慰謝料、逸失利益、将来の装具費など)に漏れがないか
- 提示額の前提となっている等級・労働能力喪失率・期間を確認したか
- 清算条項の内容を確認したか(示談が成立すると原則としてやり直しは困難です)
非該当や想定より低い等級となった場合には、異議申立てのほか、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構への紛争処理申請や訴訟といった選択肢もあります。手続の選び方と、期間制限(自賠責保険への被害者請求権と、加害者側に対する損害賠償請求権とでは、期間も起算点も異なります)については、後遺障害が非該当となった場合の異議申立ての判断材料を確認するで整理しています。症状固定を打診されたときの考え方と示談前の確認事項は、症状固定と言われたときに示談前に確認したいことを見るをご覧ください。
弁護士に相談するタイミング
弁護士に相談しても、後遺障害の認定結果や賠償額を保証できるものではありません。もっとも、資料を早めに整理することで、申請の要否、争点、損害項目、示談方針を検討する材料を整えることができます。次のような場面が目安になります。
- 膝の不安定感が残り、症状固定や後遺障害申請の要否を検討したいとき
- 後遺障害診断書の作成前に、記載内容を確認しておきたいとき
- 装具の資料や診察所見の過不足を整理したいとき、膝に金属が残っており申請の時期を検討したいとき
- 非該当・低位認定となり、認定理由と追加資料を検討したいとき
- 保険会社から示談案が届き、前提を確認したいとき
なお、治療方針、検査の要否、装具の必要性、金属抜去の要否は、いずれも主治医が医学的に判断する事項です。弁護士は診断や治療に関与せず、診療記録、画像、後遺障害診断書、認定理由、示談提示書を確認して、法的な評価と資料の過不足を整理する役割を担います。
よくあるご質問
PCL損傷やMCL損傷と診断されたら、必ず後遺障害が認定されますか。
傷病名だけで等級が決まるものではありません。症状固定の時点でどのような不安定性、可動域制限、痛みが残り、それを裏づける診察所見や検査結果があるかによって検討されます。個別事情により結論は異なります。
PCL損傷とMCL損傷では、何が違うのですか。
支えている方向が異なります。PCLは脛骨が後ろへずれる動き、MCLは膝が外側へ折れる方向(外反)の動きを制動するとされ、診察も、PCLは後方引き出しテストや後方落ち込み徴候、MCLは外反ストレステストというように別のものです。治癒能力も、関節外靭帯である側副靭帯のほうが高いとされています。
装具を使っていれば、動揺関節として認定されますか。
装具を使用しているという事実だけで決まるものではありません。労災保険の認定基準は硬性補装具の必要性の程度による区分を示していますが、装具の構造、医学的な必要性、処方の経緯、使用状況、症状固定時の所見をあわせて確認する必要があります。伸縮素材だけの市販サポーターは、支柱等で膝の動きを制御する装具とは構造が異なります。
手術を受けていなくても、後遺障害の対象になりますか。
手術の有無で対象かどうかが決まるものではありません。MCLの単独損傷では保存療法が中心とされ、PCLの単独損傷でも保存療法が行われることが多いとされています。検討されるのは、症状固定の時点で残っている障害の内容と、その裏づけとなる資料です。
MRIで損傷があるのに、ストレス撮影をしていない場合はどうなりますか。
ストレスX線撮影を受けていないことだけで直ちに非該当になるものではありません。他方で、MRIは損傷の存在を示す資料であり、症状固定時の不安定性の程度を直接示すものではありません。診察所見が診療録に残っているかを確認し、追加の検査の要否は主治医にご相談ください。
可動域が戻っても、膝のぐらつきや痛みが残る場合はどう評価されますか。
可動域の枠組みで評価が難しい場合でも、動揺関節としての評価や神経症状としての評価を検討する余地があります。どの枠組みで検討するかによって必要な資料が変わりますので、残っている症状の内容を整理することが先になります。
複数の靭帯を損傷している場合、等級は加算されますか。
自動的に加算されるものではありません。同じ膝の障害については、評価が重複していないか、ある障害が他の障害から派生したものといえないかを整理したうえで、併合や準用の可否が検討されます。
非該当だった場合や、想定より低い等級だった場合はどうすればよいですか。
異議申立てのほか、紛争処理申請や訴訟といった選択肢があります。進める前に、まず認定理由を確認し、不安定性に関する所見、装具の必要性や使用状況、事故との因果関係について提出資料に不足がなかったかを検討することが重要です。同じ資料をそのまま再提出しても判断が変わるとは限りません。
まとめ|次に確認したいこと
- PCLは脛骨が後ろへずれる動きを、MCLは膝が外反する方向の動きを制動するとされ、受傷機序も診察も別のものです。前十字靭帯(ACL)の検査とも異なります。
- 膝の不安定性(動揺関節)は等級表に項目がなく、備考第六号と支払基準を通じて参照される労災保険の認定基準により、第8級・第10級・第12級に準ずる関節の機能障害として評価が検討されます。上肢とは区分が異なります。
- 動揺性の評価は、他動的なものであるか自動的なものであるかを問わないとされています。可動域が原則として他動値によることとは異なります。
- 「常に硬性補装具を必要とするもの」は、動揺関節では第8級に準ずるものとされる一方、下肢の偽関節では第7級10号の要件の一つとされています。別の障害についての同じ文言です。装具は名称や外観ではなく、構造・処方の経緯・使用状況で確認され、装着時間だけで等級が決まるものではありません。
- 膝の可動域は屈曲と伸展を合計して健側と比べ、膝関節には参考運動が定められていません。人工膝関節を入れた場合は可動域による枠組みで評価され、金属が機能障害の原因となっている場合は除去を待って認定するとされています。
- 次の行動は、不安定性の方向と診察所見が記録されているかの確認、装具に関する資料の収集、後遺障害診断書の記載事項の整理、認定理由の確認、示談への署名前の損害項目の点検です。
膝の後十字靭帯損傷・内側側副靭帯損傷では、不安定性の方向、用いられる診察、装具の資料など、確認すべき点が多岐にわたります。当事務所では、交通事故の初回のご相談を無料でお受けしています(事前予約制)。後遺障害診断書の作成前、申請方法の選択、認定結果を受け取った後、示談書への署名前のいずれの段階でも、資料と争点、手続の選択肢を整理したうえで見通しを検討できます。
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本記事は、交通事故における後遺障害と損害賠償に関する一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別の事件についての法的助言ではありません。また、診断、治療方針、検査や装具の要否について医師の判断を代替するものでもありません。記載した等級、認定基準、制度の内容は、2026年9月時点で確認した法令及び公的機関の公表情報に基づいています。法令や基準は改正されることがあり、事故時に適用される内容と現在の内容が異なる場合があります。結論は、残存症状、検査結果、事故態様その他の個別事情により異なります。
監修者・執筆者
弁護士・公認会計士 藤井 貴之(ふじい たかゆき) 弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所 代表弁護士
兵庫県弁護士会所属。日本公認会計士協会兵庫会所属。取扱分野は、遺産相続、交通事故、労働、債務整理、企業法務、M&A、事業承継、契約書作成・レビュー、商事法務。
参考資料
- e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法施行令」(別表第二 後遺障害等級表・備考)
- 国土交通省「自賠責保険・共済の限度額と補償内容」(後遺障害等級表)
- 国土交通省・金融庁告示「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」
- 国土交通省「支払に疑問、不服がある場合には」
- 厚生労働省「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準」(下肢の障害・準用)
- 厚生労働省「関節機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」
- 厚生労働省「補装具の種目、購入等に要する費用の額の算定等に関する基準」(膝装具の構造区分)
- 損害保険料率算出機構「自賠責損害調査の仕組み」
- 日本整形外科学会「膝関節捻挫」
- 日本整形外科学会「膝靱帯損傷」
- 日本整形外科学会「半月(板)損傷」
- 慶應義塾大学病院KOMPAS「膝靱帯・半月板損傷」
- 聖路加国際病院「膝複合靭帯損傷の診断と治療」
- 日本リハビリテーション医学会「関節可動域表示ならびに測定法」

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